秘めたる思い

 


「ただいま、今帰ったよ」
ヘンリックは家の中に入ると、家の中の誰かに声をかけるように言った。
そして後ろを振り返り、トイヴォに
「ここがオレの家だ。遠慮しないで入ってくれ」とトイヴォに家に入るよう言った。
「こんにちは。おじゃまします」
家の中に入ったトイヴォは家の中の人に聞こえるように少し大きな声で言った。



しかし、家の中には誰もいないのか、誰も出てこなかった。
「まだ帰ってきていないみたいだな」
ヘンリックは玄関からすぐ側の部屋に入り、辺りを見回しながら誰かを探している。
トイヴォはヘンリックに続いて部屋に入ると、部屋の中央に大きなテーブルとイスが
置いてあるだけの広い部屋だった。
部屋の奥は台所になっていて、大きなフライパンや鍋が置いてある。
「他に誰か住んでいるんですか?」と部屋を見回しているトイヴォ
「ああ、いろいろと手伝ってもらっている女性がいるんだが・・・・まだ帰ってきて
ないみたいだな」
「そういえば、身寄りのない子供を預かっているって聞いてましたけど」
「ああ、最近までは大勢の子供がいた」
ヘンリックは部屋の奥に行き、台所にある冷蔵庫の扉を開いた。
冷蔵庫からオレンジジュースが入っている瓶を取り出すと、テーブルの上に置いた。
そしてグラスをひとつ台所から持ってくると、テーブルの上に置き、グラスにジュースを入れた。
「疲れただろう、こっちに来て椅子に座ってくれ」
トイヴォに椅子に座るように言うと、トイヴォはテーブルのところに来て、椅子に座った。
ヘンリックはジュースの入ったグラスをトイヴォの前に置き
「少し前までは10人くらい・・・多いときは15人くらいいたかな。
騒がしくて何かと面倒で大変だったけど、今思えば懐かしくていい思い出だ」
「どうして今は誰もいないんですか?」
トイヴォはヘンリックに頭を下げて、グラスを持ってジュースを飲むと、ヘンリックに聞いた。
「それは・・・・・」
ヘンリックが言いかけると、玄関のドアが開く音が聞こえてきた。



「ただいま・・・・」
玄関から1人の男性らしき人が部屋に入ってきた。
髪は金髪で短く、黒いジャケットに黒いズボンを履いている。
「おかえり、今日は遅かったじゃないか。オリヴィア」とヘンリックが声をかけた。
オリヴィア・・・・!
トイヴォが名前を聞いてはっと気が付くと、オリヴィアはトイヴォの姿に気が付いた。
「あら、お客さんがいたのね」
「ああ、今日マーケットでアウロラと一緒だったんだ」
ヘンリックはオリヴィアに説明すると、オリヴィアはトイヴォに挨拶をした
「私はオリヴィア。もしかして・・・・森の和尚様のところからポルトに来たの?」
「はい」トイヴォはうなづいてこう言った。
「あなたがオリヴィアさんですね、和尚様からアウロラを探すように頼まれました」
「やっぱり。今日和尚様から手紙が来たの。まさかすぐに会えるなんて思わなかったわ」
「僕も、すぐに会えるとは思ってませんでした。アウロラもすぐに見つかるとは・・・・」
「和尚様はアウロラのことを気にかけているのね。すぐ連れていけたらいいんだけど」
「ところで、どこに行ってたんだ?」
2人の会話に割り込むように、ヘンリックはオリヴィアに聞いた。
「さっきまで、アウロラの家に行っていたのよ。食事を持ってね」
「何だって。じゃアウロラはこっちに来なかったのか?」
「ええ・・・・それで、アウロラに森の和尚様のところへ行かないかしばらく話をしていたの。
でも、話を聞いてくれなかったわ」
「そうか・・・・」
ヘンリックが少し落胆した様子でため息をつくと、トイヴォは2人に聞いた。
「どうしてアウロラを和尚様のところに連れていくんですか?」



「和尚様から話は聞いてなかったの?」
オリヴィアがトイヴォに聞き返すと、トイヴォは少し考えてから
「・・・確か、両親がいないので寺院で引き取ると言っていました。
それ以外の話は何も聞いていません」
「そうなの・・・・詳しい話は私の方から和尚様にはしてなかったから無理もないわ」
「それにこの町で何が起こっているんですか? 昼間ずっと町を歩いていましたが
アウロラ以外の子供の姿がなくて、女の人もほとんどいませんでした」
「今、子供や女性がさらわれていなくなってしまってるんだ」
ヘンリックがオリヴィアの代わりに答えた。
「最近、この町も物騒になってきた・・・・最近までは事件といえばスリくらいで
人をさらう事件なんてほとんど起こらなかったのに」
「そうね。私がここに来た頃は子供の楽しそうな声が聞こえてきて、平和な町だったのに。
今は気持ち悪いくらい静かになってしまって」とオリヴィア
「人さらい・・・・誘拐ですか?犯人は・・・・犯人を見た人はいないんですか?」
「そう思って毎日パトロールをしているんだが」
トイヴォの質問にヘンリックは冷蔵庫からビールの瓶を持ってきて、テーブルにあった栓抜きでフタを開けた。
「怪しい影ひとつ見つからない。昼間は警察に任せているんだが・・・・頼りにならない。
夜は周りの住民の男達が町じゅうを見回ってるんだ。怪しいやつが一人くらい見つかればいいんだが」
「そうなんですか・・・・」



もしかしたら、アウロラの母親もその人さらいに遭ったのかもしれない。
トイヴォがそう思っていると、オリヴィアが口を開いた。
「アウロラもいつさらわれるか分からない。だから引き取り先を探していたの。
ここにいた身寄りのない子供たちも、引き取り先を探してみんな引き取ってもらったわ。
あとはアウロラだけなのよ」
「アウロラは和尚様のところに行くのを嫌がっているんですか?」とトイヴォ
「そうなの・・・さっきも話をしてみたけど、家にいるって嫌がっていたわ」
「アウロラは家から離れたくないのもあるけど、母親が帰ってくるのを待っているんじゃないでしょうか?
母親は買い物に行くって言ったまま、帰ってこないって言っていたから・・・・」
「でも、このままあの家にいるのは危険だわ。なんとか和尚様のところに行ってもらいたいの」



どうすればアウロラは和尚様のところに行ってくれるのか・・・。
トイヴォが考えていると、オリヴィアの恰好が目がついた。
「オリヴィアさん・・・・オリヴィアさんもさらわれないように、男の恰好をしているんですか?」
オリヴィアは自分の服をちらっと見て
「昔はワンピースを着ていたけど、今は何が起こるか分からないから。それに見た目が男性なら
すぐにはわからないでしょう?」
「ああ、黙っていれば女性だとは思われない」
ヘンリックはビールを飲みほしてしまうと、瓶をテーブルの上に置いた。
「そろそろパトロールの時間だ。仲間がここにやってくる」



しばらくすると、玄関のドアがノックされた。
ヘンリックは椅子から立ち上がり
「パトロールの時間だ・・・・オリヴィアはどうする? 
トイヴォを1人にするわけにはいかないだろう?」
「そうね」オリヴィアはトイヴォを見て、ヘンリックにこう言った。
「今日は私はここで留守番した方がいいかもしれないわ」
「ああ、そうした方がいい」
ヘンリックはオリヴィアの言葉にうなづいて、玄関へと歩きだした。
すると突然立ち止まり、トイヴォの方を向いて
「夜の方がさらわれる危険が多い・・・トイヴォも今夜はここに泊まるんだ」
「行かせてください」トイヴォは椅子から立ち上がり、玄関へと歩き出した。
「それにアウロラのことがとても気になるんです。もし何かあったら・・・・」
「アウロラのことより、自分のことを気にした方がいい」
トイヴォの要望をヘンリックはきっぱりと断った。
「それに夜はこの辺りは真っ暗だ。どこから襲ってくるのか分からない。危険だぞ」
「夜道は慣れています。アウロラの家に行ければそれでいいんです。
アウロラに会って話がしたいんです」
トイヴォがあきらめきれずヘンリックに再度お願いすると、後ろからオリヴィアが声をかけた。
「なら、私も行く・・・・・その子をアウロラの家に連れていくわ。それならいいでしょう?」
ヘンリックはトイヴォの顔を見てしばらく黙っていたが、オリヴィアの顔を見て仕方なさそうにうなづいた。
「分かった・・・・アウロラの家まで一緒に行こう。何かあったら困るからな」



トイヴォはヘンリック達と一緒に、アウロラの家に向かっていた。
ヘンリックと数人の男たちは、灯りを持って暗い夜道を照らしながら先頭を歩いている。
トイヴォと男装しているオリヴィアがその後ろを歩き、その後ろには数人の男たちが
灯りを持って歩いている。
トイヴォとオリヴィアを男達が守るように、夜道の中を歩いていく。
「もう少しで着くぞ」
前を歩いているヘンリックがトイヴォに声をかけると、トイヴォは黙ってうなづいた。
すると隣にいるオリヴィアが低い声で
「ところで、アウロラに会ったら、どんな話をするんだ?」と男の口調で聞いてきた。
「オリヴィアさん・・・・・」
「しっ!・・・・・」トイヴォがオリヴィアの名前を言いかけたとたん、オリヴィアが
あわててその言葉を遮った。
「外ではオリバーと呼ぶように言ったはずだ。周りの人たちに聞こえたらどうする」
「ご、ごめんなさい」トイヴォは謝って次にこう言った。
「アウロラと会ったら、和尚様のところに行かないかお願いするつもりです」
「さっきアウロラに断られたばかりだからな・・・・聞いてくれるのは難しいと思う」
「断られたなら、どうして断るのか。理由も聞きたいんです」
「そうか・・・・・」
「ところで、親と一緒に住んでいる子供はどうしてるんですか?」
トイヴォが話を変えると、今度は前を歩いているヘンリックが答えた。
「親がいる子供は、親が窓のない部屋に子供を隠してるんだ・・・地下室とかに。
でも子供の声が外に漏れて、それが犯人の耳に入って、子供がさらわれたところもある」
「そうなんだ・・・・だから昼間は子供は誰も外にいなかったんですね」
「ああ、だからみんな神経を尖らせてるんだ。犯人が捕まらない限りは安心して子供を外に出せない」
ヘンリックは灯を前方にやると、少し先に玄関の扉が見えてきた。
「ここだ・・・・着いたぞ。アウロラの家だ。」



オリヴィアが玄関前に行き、ドアを2,3度叩いた。
「オリバーだ・・・・・・いたらここを開けてくれ」
低い声でオリヴィアは、家の中にいるかもしれないアウロラに話しかけた。
しばらくすると、ゆっくりとドアが開き、アウロラが姿を見せた。
オリヴィアはアウロラを見て
「トイヴォが少しだけ話をしたいそうだ。中に入っていいかな?」
「トイヴォ・・・・?」
アウロラがキョトンとしていると、オリヴィアの後ろからトイヴォが前に出てきた。
「アウロラ、昼間海岸で会っただろう?話がしたいんだ。いいかな?」
「ああ!お兄ちゃん・・・・・いいよ。中に入って」
アウロラはトイヴォの姿を見ると、思い出したように声が裏返って、トイヴォを中に入れた。
続いてオリヴィアが中に入ると、ヘンリックはそれを見届けてオリヴィアに言った。
「オレ達はこの辺りにいる・・・何かあったら知らせるんだ」
オリヴィアは黙ってうなずき、玄関のドアをゆっくりと閉めた。



アウロラは自分の部屋に入ると、あとの2人も続いて中に入った。
アウロラの部屋は薄暗く、小さい灯りがひとつだけついている。
部屋の奥には窓があるのか、カーテンがついていた。
「もしかしてアウロラ、さっきまで寝ていたのか?」
オリヴィアは部屋に入っても、低い声でアウロラに声をかけた。
「ううん、まだ寝てなかったけど・・・・ベッドに入るところだったの」
アウロラはベッドに座ると、2人はベッドと向かい合わせになっているソファに座った。
「そうか。夜遅く来てすまない・・・・トイヴォがアウロラに話があるんだ」
アウロラはトイヴォの方を見ると、トイヴォはアウロラを見て
「さっきオリ・・・オリバーから話を聞いたと思うけど、森に住んでいる和尚様のところに
しばらくの間行ってみないか?」
アウロラはそれを聞いて、首を横に振った。
「どうして行きたくないの?」
「アウロラはここにいたいの」トイヴォの質問にアウロラはすぐに答えた。
「お母さんが帰ってくるのを待ってるの。だから行きたくないの」
「ほんの少しの間だけでも、森に行ってみないか?2、3日・・・いや1日だけでもいいんだ」
今度はオリヴィアがアウロラを説得しようとするが、アウロラは首を振るばかり。
オリヴィアが困っていると、トイヴォがオリヴィアに声をかけた。
「オリバーさん、僕とアウロラの2人だけにしてもらえませんか?」
「え、で、でも・・・・・もし何かあったら」
「そんなに時間はかかりません。話が終わったら声をかけますから・・・お願いします」
「・・・・分かった。もし何かあったら、すぐ呼ぶんだ」
オリヴィアがソファから立ち上がり、部屋を出て行ってしまうと、アウロラはベッドから
立ち上がり、部屋のドアを閉めてしまった。



アウロラがベッドに座ると、トイヴォはもう一度、同じことを聞いた。
「アウロラ、どうして森に行きたくないの?森が怖いの?」
「怖くないよ」アウロラは首を横に振った。「森にはお母さんと行ったことがあるから」
「お母さんが帰るまで、ずっとここで待ってるの?」
「うん、だって・・・・この家にはアウロラしかいないんだもん。お母さんが帰ってきて
誰もいなかったら寂しいでしょ?だから待ってるの・・・・・」
「アウロラは本当にお母さんが大好きなんだね」
「うん」
アウロラがうなづくと、辺りは静かな空気に包まれた。



静かになり、トイヴォが次はどうしようかと考えていると、アウロラが小さな声で言った。
「でも・・・・・」
「でも?・・・どうしたの?アウロラ」
「まだお母さんが帰ってこないの・・・・・」
アウロラは急にうつむいて、ポツリとさみしそうにつぶやいた。
アウロラの様子の変化に、トイヴォがベッドに移動してアウロラの隣に座ると、アウロラは
「すぐ帰ってくるから待っててって言ったのに、まだ帰ってこないの・・・どうして?
どうしてお母さん帰ってこないの?」
トイヴォはアウロラの顔を覗き込むように見ると、アウロラの目から涙が溢れだしていた。
「アウロラ・・・・・」
「どうして?どうしてお母さん帰ってこないの?アウロラのこと嫌いになったの?
アウロラ、ずっといい子にして待ってるのに・・・・・早く、早く帰ってきて、お母さん」
アウロラが泣きながらトイヴォに抱きついてくると、トイヴォは何も言えないまま
黙ってアウロラを優しく抱きしめるのだった。



しばらくしてアウロラが泣き止むと、トイヴォはアウロラを抱きしめたまま声をかけた。
「ずっと1人で寂しかったんだね、アウロラ・・・・・」
アウロラは黙っていると、トイヴォは続けてこう言った。
「今までずっと、泣かずに頑張ってたんだね」
アウロラは黙ったままうなづくと、トイヴォはアウロラから離れた。
「僕も母親がいなくなって、今どこにいるのか探してるんだ」
「え・・・・お兄ちゃんのお母さんもいなくなったの?」
トイヴォの話にアウロラが驚いていると、トイヴォはうなづいて
「うん、だからこの町に母親を探しに来たんだ。オリバーさんも探してくれてる」
「お兄ちゃんのお家はこの近くじゃないの?」
「うん、とても遠いところだよ」
「お母さん、どこに行ったか分からないの?」
「大きい町にいるってことは分かってるけど、それがどんな町なのか分からないんだ
だから、ずっと探してるんだよ。見つかるまであきらめないつもりだ」
「じゃ、アウロラもお母さんを探す」
トイヴォの話を聞いて、アウロラがいきなりそう言いだした。
「お兄ちゃんがお母さんを探してるんだから、私もお母さんを探す」
「アウロラ・・・・」それを聞いたトイヴォは戸惑った。
「アウロラは探しに行っちゃダメだ。誰かに襲われるかもしれない。危ないよ」
「でも、お兄ちゃんだって子供なのに、1人で探してるんでしょう?アウロラも探す」
「それは・・・・・・」
トイヴォが困っていると、突然何かを思いついた。



「アウロラ、君がお母さんを探すのは危ないよ。この町にいる限り危険だ。
いつ人さらいがここに来て、アウロラをさらって行くか分からない。
だから僕に任せてくれないか?」
トイヴォはアウロラにこう言うと、アウロラはしばらくしてからぽつりと言った。
「・・・・お兄ちゃんに任せるって、どうすればいいの?」
「アウロラは森の和尚様のところに行くんだ。僕がアウロラのお母さんを探す。
見つかったらお母さんを森へ連れていくよ。アウロラは森で待っていて欲しいんだ」
「でも・・・アウロラはここでお母さんが帰ってくるのを待ちたいの」
「ここにいたら危ないよ。いつ人さらいがここに入ってくるか分からない。
さらわれたら、お母さんに会えなくなるよ」
トイヴォの言葉に、アウロラは黙ってしまった。
「お母さんが見つかるまでの間、森で待っててくれないか?和尚様もアウロラのことを待ってる
見つかったら、お母さんを森へ連れていく・・・・・約束するよ」
アウロラは黙って考えていたが、しばらくして静かに口を開いた。
「お兄ちゃん・・・・・本当に約束してくれる?」
「うん、約束する」
トイヴォが深くうなづくと、アウロラはそれを聞いてうなづいた。
「分かった・・・お兄ちゃんが約束してくれるんだったら、森に行ってもいいよ」



アウロラがようやく森へ行くことが決まると、トイヴォは部屋のドアを静かに開けた。
「あ、いた・・・・・オリバーさん、中に入ってください。話は終わりました」
オリヴィアがドアのすぐ横にいるのが見えると、トイヴォはオリヴィアに話しかけた。
オリヴィアは黙ってうなづいて、部屋の中に入ってドアを閉めた。



トイヴォとオリヴィアがソファに座ると、トイヴォはオリヴィアに話し始めた。
「アウロラが森に行くことになりました」
「ああ」オリヴィアはうなづいた。「部屋の外で話を聞いていた」
「オリバーさん、話を聞いてたんですか・・・・・それでいつ森へ行けばいいでしょうか」
「まずは和尚様に連絡をしないと。後はここから森へどうやって行くかだ」
オリヴィアはジャケットの内ポケットから手帳を取り出した。
手帳を開き、あるところでページをめくっていた手を止めると、手帳には時刻が書いてあった。
「港から森の近くまで、貨物船が出ている・・・・毎日2回出ているから、朝か昼間の便の
どちらかに乗ればいい」
「貨物船が港から出てるんですか?」とトイヴォ
「ああ、普段は荷物しか乗せないが、貨物船の船長と知り合いでね。連絡すればなんとか
乗せてもらえるだろう」
「よかった・・・・ここからずっと歩いて行ったら、危ないと思っていたんです」
「私も一緒に船に乗る。森の和尚様のところまでアウロラを送って行く。
これで大丈夫だと思う。なるべく早い方がいいだろう」
「ありがとうございます。オリバーさん」
アウロラを森へ連れていくことが決まり、トイヴォはようやく安心してほっとした。



「話が決まったところで、そろそろ帰るとするか」
オリヴィアがソファから立ち上がると、右手につけている時計を見た。
時計の針を見ると、オリヴィアは少し驚いたような表情を見せて
「もうこんな時間だ・・・・これから帰るとなるとかえって危険すぎる。
今夜はこのままここに泊まっていいかな?アウロラ」
「え・・・・もうそんな時間なんですか?ここに来てまだあまり時間が経っていないと思ってたのに」
オリヴィアの言葉にトイヴォが驚いていると、アウロラはあっさりとうなづいて
「いいよ・・・・もう眠いからそろそろ眠りたい」
とベッドに横になった。
オリヴィアはそれを見て
「ありがとう。夜遅くに来てすまなかった・・・・ヘンリックに伝えなくては」と部屋を出て行った。
トイヴォはベッドの側に行き
「ちゃんと布団をかけて寝ないとダメだよ」と布団をアウロラにかけた。
アウロラは布団を両手でつかむと、さらに深く布団をかぶって
「ありがとう、お兄ちゃん・・・・おやすみなさい」と目を閉じた。
「おやすみ。アウロラ」
トイヴォはアウロラが眠ってしまうと、しばらくしてからソファに座った。



「今日は大変な1日だったね」
ヴァロがトイヴォの前にフワフワと宙を浮きながら姿を現すと、トイヴォは深くうなづいた。
「今日は疲れたよ・・・・・いろんなことがあり過ぎた。そろそろ僕も寝るよ」
「でも、いいの?アウロラにあんな約束をして・・・自分の母親も探さなきゃいけないのに」
「うん・・・・・」
トイヴォは少し気難しい顔をしながら、ソファに横になった。
「もしかしたら、僕のお母さんも、その人さらいにさらわれたかもしれない・・・・
そうだとしたら、お母さんが見つかれば、アウロラのお母さんも見つかるかもしれない」
「でも、そうだとは限らないでしょう?もし違ってたら・・・・」
「そう思いたくはない」
ヴァロの言葉を否定するかのように、トイヴォはきっぱりと言い切った。
「とにかく、今はアウロラを和尚様のところに連れていく・・・それが今、僕ができることなんだ」
「そうだね。それからのことはその後で考えよう」
ヴァロはトイヴォの言葉に深くうなづいて、ソファの上に降りた。
「もう寝よう・・・おやすみ、ヴァロ」
「おやすみ、トイヴォ」
ヴァロが姿を消してしまうと、トイヴォはゆっくりと目を閉じた。