ヴェストの森



部屋でティードとトールヴァルドは目の前の画面を見つめていた。
「時間を戻したわ。炎が2人の間を通る手前からでいいのね」
ティードが隣にいるトールヴァルドを見ると、トールヴァルドは画面を見たまま答えた。
「ああ、それでいいが・・・・・途中から矢が入って行っただろう?できればその手前からがいい」
「分かったわ」
ティードが画面を見て時を戻そうとすると、さらにトールヴァルドがこんな事を言った。
「それと、今度はあの青年じゃなくて、弟の方からのアングルでお願いしたい」
「シーグヴァルド側からね。分かったわ・・・・・これで大丈夫」
ティードが画面を見ながらうなづくと、トールヴァルドもうなづいて画面を見ながら静かにこう言った。
「よし、じゃ・・・・・もう一度見てみようじゃないか」



2人が画面を見ている中、画面が動き出した。
アルマスの放った炎が2人に向かって伸び、途中で炎の後ろからフーゴの放った矢が入ってきた。
その矢は炎に燃え尽きることなく、炎の先頭に移動し、炎の矢となって向かって行く。
そして2人の間を炎が通り過ぎる直前で、画面がシーグヴァルド側に切り替わった。
「ここからだ」
トールヴァルドがそう言いながら画面を見続けている。



炎はシーグヴァルドの前を通り過ぎて行った。
その炎は赤いままだった。
「・・・・・!?」
赤い炎を見たトールヴァルドは目を大きく開いたまま、画面に釘付けになり動かなかった。
ティードも何も言えず、ただ黙って画面を見つめている。



しばらくしてティードがようやく口を開いた。
「・・・・どういうこと?炎の片側だけ青に変わったっていうことなの?」
「そういうことになるな」
トールヴァルドはため息をついた後、ティードの方を向いた。
「もう一度念のために確認しよう。今度は2人の間を通る炎を画面の中心に映せるか?」
「できるわ。ちょっと待ってて」
ティードが再び画面を見て、しばらくすると再びトールヴァルドを見た。
「戻したわ。今度は2人の間からのアングルよ」



画面が今度は右側がシーグヴァルド、左側にシーグフリードが映っているアングルに変わった。
シーグヴァルドが何かに驚いて後ろに下がって行く。
シーグフリードも後ろに下がった時、2人の間に炎が通り過ぎて行く。
左側のシーグフリード側だけ、炎が青に変わり、通り過ぎた時に再び赤に戻っていくのが見えた。



画面を見終わったトールヴァルドは静かにつぶやいた。
「・・・・・やはりそうか」
「やはりそうかって、どういうことなの?」とティード
「なぜ青い炎に変わったのか・・・・・炎から守ろうと、あの青年からオーラのようなものが出たんだ」
「え・・・・・・?」
「本人はそれに気がついてはいないようだが、オーラが炎に当たって青くなったようだ」
「それって・・・・・・!もしかしたら」
途中で何かに気がついたのか驚くティードに、トールヴァルドはうなづいた。
「そのもしかしたらだ」
トールヴァルドは足早に部屋を出て行った。



ティードが部屋を出ると、少し離れたところにトールヴァルドが立ったまま分厚い1冊の本を見ていた。
何かを探すようにページをめくりながら、テーブルへと歩いていく。
そしてテーブルがある場所に着き、側にある椅子に座ると、テーブルにその本を置いた。
そしてまた探すようにページを次々とめくっている。



ティードがトールヴァルドの隣に座ると、トールヴァルドはようやくページをめくっていた手を止めた。
トールヴァルドが開かれたページを見ていると、ティードもそのページを見ている。
「・・・・・それって、あの国の預言書・・・・・・?」
「そうだ」
ティードの問いにトールヴァルドがページを見ながらうなづいた。
そして本を読み始めた。
「この本にはこう書かれている。「国が長い間戦いで混沌としている時、真の王が現れ、その国を救うだろう」。
 さらにこんなことが書かれている。「王は圧倒的な力を持っている。青いオーラを持ち、攻撃しようとする者を
 瞬時に撥ね退け、寄せつけることなく敵を倒す」と」
「・・・・・・・」
「他にもいろいろと書かれているが、あの青年があの国・・・・ヨーデンの王だ」



トールヴァルドがティードを見ると、ティードがこんなことを言った。
「あの国の王って・・・・・エストにいる王じゃないってこと?」
「あれは表向きの王だ」
「え、表向きの王?」
「いわゆる見せかけの王だ。真の王じゃない。エストの王が本当の王であれば、戦争など起こらないはずだ」
「・・・・・そうね。そうだけど・・・・・・」
戸惑っているティードをよそにトールヴァルドは再び本を見ながら
「まだあの青年がヨーデンの王かは分からないが、さっき見た青いオーラは間違いない」
「その事をシーグフリードは知っているのかしら・・・・・」
「たぶん知らないだろう。問題なのはそこだ。あの青年本人がヨーデンの王だという自覚がない。セントラルに来れば
 直接私が王かどうか確かめられるのに・・・・・・・」
トールヴァルドが途中まで言いかけた時、部屋から突然低いブザー音が部屋中に響き渡った。
トールヴァルドは椅子から立ち上がると、部屋へと移動して行った。



シーグフリードがヨーデンの王だなんて・・・・・。
この預言書、他にどんなことが書かれているのかしら。



ティードがそう思いながら、テーブルに置いてある本に目を移した。



ティードが本を見ていると、部屋から突然トールヴァルドの大声が聞こえてきた。
「・・・・・どうしたの?」
ティードが部屋に入ると、トールヴァルドが奥の方で耳にイヤホンをしながら誰かと話をしている。
その話声は大きく、明らかに動揺しているかのように見えた。



「・・・・上にはもう連絡が行ってるんだな?分かった。ありがとう」
しばらくしてトールヴァルドが話を終え、イヤホンを外した。
「どうしたの?いきなり大声が聞こえたから来たのよ」
ティードがトールヴァルドの前まで近づくと、トールヴァルドはティードを見るなり
「アルフォンソから連絡が入った。破滅の闇がこっちに近づいてきている」
「なんですって?」
ティードが思わず声を上げると、トールヴァルドはさらに
「このまま行くと、近いうちにヨーデンの真上に着く・・・・・・・」
「どうして?予想していたよりも早いわ。一体どういうことなの?」
ティードは驚きながらトールヴァルドを見ている。
「このまま破滅の闇に取り込まれたら、ヨーデンは一瞬にして滅んでしまう」
「早くなんとかしないと・・・・・・!」
「破滅の闇が来る前に、あの青年達をセントラルに向かわせないとならない」
トールヴァルドはティードの前を通り過ぎ、画面の前に移動すると画面に向かって聞いた。
「ところで、あの青年達はどこにいる?」



数日後。
シーグフリード達はヴェストに入っていた。
森の開けた場所で、4人は座って休憩を取っている。
「ここから仲間のところまでどのくらいなんだ?」
シーグフリードが隣に座っているフーゴに聞いた。
「もう少し先に行ったところにある。馬で行けばすぐ着くが・・・・・敵に見つかったらまずいからな」
フーゴがすぐ側にいる2頭の馬を見ている。
「フーゴがいてくれて助かった。いなかったらヴェストのアジトの場所なんて分からなかった」
「でも、フーゴさんいいの?向こうにいなくて」
ホーパスがアルマスの真上からフーゴを見ている。
フーゴはホーパスを見ると
「そろそろこっちのアジトに行こうと思ってたところだ。それに交代する時期だし」
「え?ずっと向こうにいるわけじゃないの?」
「ある程度の期間になったら交代するんだ。お互いの最新の情報が分かるようにね」
「でも、いきなり交代ってできるの?」
「向こうを発つ前に村長には伝えておいた。大丈夫だ」
「いいのか?交代時期が決まってたんだろう?いきなり交代だなんて」とシーグフリード
「大丈夫だ。村長から了承をもらっている」
フーゴは立ち上がると、再び馬の方を向きながら言った。
「そろそろ行こう。敵に見つかる前にアジトに着きたい」



休憩を終えた4人は馬を連れて再び森の中を歩き出した。
フーゴを先頭にして、その後ろをシーグフリードとアルマスが馬を連れながら歩いて行く。
ホーパスはアルマスと馬の周りをふわふわと飛び回っている。



しばらく歩いていると、先頭のフーゴが辺りを見回しはじめた。
「そろそろ着く頃だ・・・・・・この辺りだったとは思うが」
「そろそろって?何か建物があるの?」
後ろでホーパスの声が聞こえてくると、フーゴは辺りを見回しながら
「それは・・・・・あまり大声じゃ言えないな」
「だって、何か探してるみたいだったから」
「それは・・・・・・あっ」
前を向いた途端、フーゴは何かに気がついたような声を上げて止まった。
「どうした?」
シーグフリードが後ろから声をかけ、前を見ると数メートル先に数人の人影が見える。
その人影はだんだんとこちらに近づいてきていた。



間もなく、数人の男達が目の前に現れた。
「アルマス、馬を頼むぞ」
シーグフリードが持っていた馬の手綱を放し、前にいるフーゴのところへ歩いて行った。



フーゴが黙ったまま男達を見ていると、シーグフリードが隣にやって来た。
「あの男達は仲間か?」
「いいや、ヴェストの者だ」
首を振りながらフーゴが答えると、シーグフリードはゆっくりと腰から剣を抜いた。
そして男達に剣を向けると、フーゴも腰から剣を抜き、男達に向けた。



2人が男達に向かって走り出した途端、男達は急に後ろを振り返ったかと思うとそのまま逃げて行ってしまった。
「・・・・・・・」
しばらく2人は男達の後を追っていたが、男達に戦う気がないと思い、立ち止まった。
男達は2人の方を振り返ることなく走り去り、だんだんと姿が見えなくなった。



フーゴは剣をしまいながらシーグフリードに話しかけた。
「・・・・・あの男達、戦うつもりはなかったかもしれないな」
「なら、なぜ目の前に現れたんだ?」
シーグフリードは剣をしまいながら、男達が逃げて行った方向を見ている。
「ただの偵察か、様子を見に来ただけかもしれない。こちらに剣や武器を向けてこなかった」
「・・・・そういえば、剣を抜こうともしなかったな」
「敵なのか味方なのか分からなかったかもしれないが・・・・・・」
「それか、もしかしたら死ぬつもりで目の前にきたのかもしれない。でも剣を見た途端、怖くなって逃げた・・・・」
「ここにいる皆が敵とは限らないからな」
「ああ、向こうだって戦うつもりはないだろうが、上からの指示には逆らえないだろう」
「そろそろ行こう」
フーゴは辺りを見回し、誰もいないと分かるとシーグフリードに声をかけた。



しばらくして4人は仲間のアジトに辿り着いた。
馬を小屋らしき建物に入れ、近くの地下に通じる階段を下りて行くと、数人の男達の姿が見える部屋に入った。
フーゴは辺りを見回すと、目の前に1人の男がやってきた。
「ケント!」
「フーゴじゃないか!」ケントはフーゴを見ると驚いたような表情を見せた「どうしたんだ?まだ向こうじゃ・・・・」
「状況が変わった。村長に言って変更してもらったんだ。今度はお前が向こうに行く番だ」
「さっき村長から連絡が入って聞いたところだ。まさかすぐ来るなんて・・・・」
「馬を走らせてきたからな」
フーゴは後ろにいるシーグフリードを見ると、ケントに続けてこう言った。
「後ろにいるのはシーグフリードだ。その隣にいるのはアルマス。それとアルマスの上にいるのが・・・・」
「僕はホーパス」
ホーパスがケントの前まで移動すると、ケントはホーパスをじっと見つめている。
「・・・・言葉が話せるネコか。それに体が透けてる」
「うん、僕幽霊だから」
「幽霊だって?姿が見える幽霊なんて珍しいな・・・・・」
ケントが興味深々な顔でホーパスを見ていると、シーグフリードがフーゴに聞いた。
「それで、この男は・・・・・・?」
「ああ、ケントだ。オレと交代でノールに戻る」
フーゴはケントを紹介すると、ケントにこう言った。
「交代する前に、最近の状況を聞きたい。場所を移動しよう」



5人は別の部屋に移動すると、それぞれ椅子に座った。
「いきなり来て大丈夫だったか?今の状況はどうなんだ」
フーゴがケントに話を切り出すと、隣にいるケントは少し間を置いてから
「・・・・今のところはなんとも言えない。向こうからの攻撃はない。落ち着いている方だ」
「そうか。さっきここに着く前にヴェストの者と鉢合わせたが、攻撃する前に逃げてしまった」
「何だって・・・・向こうからは何もして来なかったのか?」
それを聞いたケントが少し戸惑っていると、フーゴの向かいに座っているシーグフリードがうなづきながら
「ああ。こっちが先に剣を抜いたが、後ろを向いて走り去って行ってしまった」
「戦うつもりはなかったのか、たまたま鉢合わせてしまっただけなのか・・・・・」
「おそらく戦う気はなかったんだろう」
シーグフリードはそう言った後、さらにケントに向かって聞いた。
「そもそもどうしてヴェストとノールが戦うことになったんだ?理由が知りたい」



するとケントは首を横に振った。
「理由は分からない・・・・でも」
「でも?何か知ってるのか?」とフーゴ
「ヴェストの王室が絡んでいることは確かだ。でなければ今の状況にはならないと思う」
「王室?それはどういうことだ?」とシーグフリード
「これは周辺の人達から聞いた話だ」
ケントはそう前置きすると、話を始めた。
「ヴェストの中心部に小さい城があるんだが・・・・ヴェストの王室はエストの王族が継いでいるんだ。
 今はエスト王の息子が王になっているんだが、最近その王の様子がおかしいらしい」



それを聞いたフーゴとシーグフリードは顔を見合わせた。
「ヴェスト王の様子がおかしいって、どういうことだ?」とフーゴ
「今まではいつも城の外に出て、姿を見せていたんだが、最近になって急に城に籠って姿を見せていないらしい。
 体調を崩しているのか、病気にかかったのか誰も知らないようだ。それに・・・・・・」
「それに?」
「ヴェストの情報を異常に管理し始めた。都合の悪いことは外に出さなくなった。最近の王室がどうなっているのか
 状況が全く分かっていない」
「それはエスト王は知ってるのか?」とシーグフリード
「エスト王も心配して、様子を見ようと使者をこっちに出したようだが、城の前で門前払いされたようだ。
 その後、急にノールを攻撃し始めた。それで今の状況になっている」



辺りが静寂な空気に包まれると、ホーパスがそれを破った。
「じゃ、向こう・・・・・ノールから攻撃を始めたんじゃないんだね」
「その通りだ、ノールからじゃない。ヴェストから仕掛けたことだ」
ケントはアルマスの側の床に座っているホーパスを見ながらうなづいた。
「でも、話を聞いて思ったんだけど、王様がどうして2人もいるの?」
「正式には王じゃない。エスト王の王子だ。いずれはエスト王になるんだが・・・・後を継がせるために
 今のうちから王としての経験をさせるつもりでヴェストに行かせたんだろう。そう思っている」
「エストだけでも広いからな。この国を1人で統治するのは難しいと考えたんだろう」とフーゴ
「他のところに王がいないのはどうしてなの?」
ホーパスがさらに聞くと、シーグフリードが代わりに答えた。
「エストの次に広いのがヴェストだ。あとの場所は山に囲まれたところだからあまり人がいない・・・・。
 我々が住むところもそうだが、人が少ないところは王族はあまり関わっていないんだ」
「そうなんだ」
「でも、ヴェストの王が絡んでいるとなると・・・・・一体これからどうするつもりなんだ?」
「それが分からない。王に会って聞いてみない限りは」
ケントがため息をつくと、再び辺りは静寂に包まれた。



しばらく静寂が続いたが、ケントがフーゴを見ると口を開いた。
「そういえば、ノールの状況は?」
「今のところ向こうも何とも言えないが、ヴェストの兵があまり来ていないのか落ち着いている」とフーゴ
「そうか・・・・向こうは防戦一方だからな。ヴェストから攻撃してこない限り攻撃はしない」
「ああ、防戦するだけだ。ノールの他のところは知らないが、自分がいたところは防戦のみだ」
「ところで今さらだが、どうしてこの人達を連れてきたんだ?」
ケントがシーグフリード達を見ると、シーグフリードが答えた。
「ここに来たのは、塔を探しに来たんだ。塔を見なかったか?」
「塔?塔だって?」
思わずケントが聞き返すが、しばらくしてあっという声を上げた。
「何か知ってるのか?」とフーゴ
「思い出した・・・・・今朝、仲間から聞いた話だが、近くに住む住民がいきなり城の近くに見覚えのない塔があるって」
「何だって?」
「それはどこにある?城の近くと言っていたが」とシーグフリード
「城の先に森があるんだが、その森の中にいきなり塔が現れたらしい。空から森に降りて行くのを見たって・・・・」
ケントが話している途中、シーグフリードが立ち上がった。
「その城はどこにある?ここから近いのか?」
「シーグフリード」フーゴが落ち着けというように声をかけた「すぐに行きたい気持ちは分かるが・・・・・・」
「どうした?すぐに行けないのか」
シーグフリードがフーゴを見ると、ケントが静かにこう言った。
「城の周辺はヴェストの兵がうろついている。それに厳重警戒だ。行ったら戦闘に巻き込まれる」



それを聞いたシーグフリードはゆっくりと腰を下ろした。
「・・・・・そうだった。じゃ一体どうすれば・・・・・・」
「ここから直接、塔がある森には行けないんですか」
アルマスがケントに聞くと、ケントは首を振りながら
「そうなら一番いいんだが、この森はもう少し行くと城がある町に出る。城の先にまた別の森があるんだ」
「そうか。城の周りを行かないと行けないんだね」とホーパス
「城の周辺を通らない道はない。それにヴェスト兵のアジトも至るところにあるだろう。うまく通り抜けできればいいが・・・
 ・・・・・いや、ちょっと待てよ」
ケントは何かを思いついたのか、フーゴの方を向いた。



フーゴもケントを見ると、ケントはシーグフリードをちらっと見た。
「そういえば、この人達はそもそもどこから来たんだ?」
「ああ。シーグフリードはセーデーから来たんだ。あとの2人は知らないが・・・・・・シーグフリードと一緒だから
 たぶん同じだろう」
「セーデーからだって?じゃどうしてノールから一緒に・・・・・」
「塔を追ってきた」そこにシーグフリードが割り込んで来た「最初はセーデーに現れてずっと後を追ってきたんだ」
「自分もノールでその塔を見たが、何か理由があるようだ。詳しい事は聞いていないが」とフーゴ
「そうか・・・・・・・そうだったらいけるかもしれない」
ケントは再びシーグフリードを見ると、こんな事を言った。
「戦っているのはノールとヴェストだけだ。セーデーから来たと言えば、もしかしたら城の周辺を通してくれるかもしれない」



「え・・・・・・」
シーグフリードが戸惑っていると、向かいのフーゴがケントを見て戸惑いながら
「確かにそうだが、問題はヴェスト側がそれを信じてくれるかどうかだ・・・・それはどうする?」
「セーデーから来たっていう証拠というか、何か持ってないのか?」
ケントがシーグフリードに聞くと、シーグフリードはしばらく考えて
「・・・・・これと言ったものはない」
「そうか。それは厳しいな」
「セーデーの方から城へと行く道はあるんですか?あればそこから行けば」
アルマスが別の提案を出すと、ケントは考えながら
「セーデーからの道・・・・・それはシーグフリードの方が詳しいだろう。どうなんだ?」
「どうだったか・・・・セーデーからヴェストへはそんなに来たことがない。それに城には行ったことがない」とシーグフリード
「どっちにしても同じだと思う。城への入口は確かひとつしかなかった」とフーゴ
「そうか・・・・・じゃどうすれば」
シーグフリードがため息をつくと、ケントは仕方がないという様子で
「なら、ヴェストの兵に見つからないように動くしかないな・・・・・・それもかなり厳しいが」



するとホーパスがこんなことを言った。
「この近くに住んでる人が城に行っても追い返されるの?」
「いいや、それはない」ケントは首を振った「城に食料や必需品を持って行ってる商人は別だ」
「なら、この近くに住んでる人に頼んで、城まで着いていってもらおうよ」
「そうか!この辺りにいる住民なら・・・・・城の先の森には畑もあるから、畑に行く時に森を通るな」
「でも、それで住民を危険にさらす訳にはいかないだろう」
フーゴが反対するかのようにケントに言うと、ホーパスはフーゴを見た。
「じゃ、どうするの?」
「住民を連れて来なくても、住民を装って行けばいい」
「そうか、ヴェストの住民のフリをするんだね」
「シーグフリードとアルマスはそのままでいいと思うが・・・・・・・」
フーゴがシーグフリードとアルマスの服を見ていると、ケントが待ったをかけた。
「2人はそのままでいいが、フーゴも一緒に行くつもりなのか?」



フーゴはケントを見るとあっさりとうなづいた。
「ああ・・・・一緒に行かないと、この2人だけだと道が分からないだろう?」
「それはそうだが、お前の顔をヴェストの兵が覚えているかもしれないだろう?見つかったらどうするんだ」
ケントが止めておけと言わんばかりに反対している。
「ヴェスト兵がオレの顔を覚えてる?こっちだって多くの兵がいるのに?」
「しばらくここにはいなかったが、戻ってきたからには覚えている兵もいるだろう?」
「ああ・・・・それなら、顔をうまく隠していく。それに服を普通の服に変えれば大丈夫だろう」
「まあ、それはそうだが・・・・・」
「それなら、オレ達だけで行く」
2人の言い合いを見てシーグフリードが割り込むが、フーゴは首を振った。
「いや、お前達だけで行くのは危険だ。それに城の先の森は広い。迷ったら大変だ」
「・・・・・・」
「とりあえずオレは普通の服に着替えて行く。それでいいだろう?」
「・・・・分かった」
ケントは何か言いたげな表情だったが、うなづきながら立ち上がり、続けてこう言った。
「それなら、服とか道具とか準備してこないとな・・・・・馬小屋に道具があるか見て来る」



一方、森を抜けた町の中央にある小さな城。
城内のある部屋に1人の男が入ってきた。
「失礼致します」
その声に反応し、中央から1人の中年の男が近づいてきた。
「どうした?何かあったのか」
「ニコラウス様、お話が・・・・・・王様に直接お話は」
「まず私が聞こう。王様に伝えていいかどうかはそれから決める」
男はうなづくと、ニコラウスに近寄り、小声で話し始めた。



しばらくして話を終えた男が離れると、ニコラウスはしばらくしてうなづいた。
「・・・・分かった。この話は私の方から伝えておく。もう行っていい」
男は深々と頭を下げると、早々に部屋を後にした。
ニコラウスは男の姿がなくなると、中央にある大きな椅子へと移動した。
そして椅子に座っている男の側に来ると、ゆっくりと話を始めた。
「王様。明日の準備が整ったそうです」
「分かった」
「それでは、私も明日の準備がありますので失礼致します」
ニコラウスは深々と頭を下げると、ゆっくりとその場を離れて行った。



「普段着を着るのは久しぶりだ」
一方、フーゴが軍服から白い襟つきのシャツに着替えている。
「戦争が始まってから、ずっと家に帰ってないのか?」とシーグフリード
「いいや、たまには帰ってはいるが・・・・すぐまたアジトに戻るからずっと軍服のままだった」
「着替えるのが面倒だからか」
「しばらく休みもないからな。いつ戦いが起こるか分からない。こうしている間にもどこかで・・・・・」
「何だ、今からさっそく着替えてるのか?」
後ろからの声にみんながいっせいに振り向くと、そこにはケントと1人の中年の女性の姿があった。
フーゴは女性の姿を見て
「どうしたんだ?住民を連れてきたのか」
「馬小屋から戻ろうとしたら、この女性が来たんだ。この近くに住んでる住民で協力者だ。相談したいことがあるって」
「協力者って?」
シーグフリードがケントを見ると、フーゴが代わりに答えた。
「ああ、この戦争に反対している住民だ。我々を敵だと知っているが、食べ物や情報をくれる」
「それで・・・・相談したいことは?」
ケントが女性を見ると、女性は戸惑いながらも話を始めた。
「・・・・さっき、いきなり家にヴェスト兵が来て、明日安全な場所に連れて行くから準備をするようにって言われた。
 それも全員じゃなくて、女子供だけだって」



それを聞いたシーグフリードはすぐに塔の事を思わずにはいられなかった。
「ノールの時と同じだ。きっとあの塔に連れて行くはず」
「安全な場所はどこか聞いてないのか?」
ケントが女性に聞くが、女性は首を振りながら
「どこかは聞いてない。明日城に来いとだけ言われて・・・・・・」
「城にだって?」
思わずケントはフーゴと顔を見合わせた。



「明日行くのは女子供だけって言ってたのか?」
ケントが再度女性に聞くと、女性はうなづいて
「だから、何をされるのかとても不安で。詳しい話を聞こうとしたらすぐに出て行ってしまうし・・・・」
「そうか。でも安心しろ。我々も明日城に行こうと思っていたところだ」
「え・・・・・でも行くのは女子供だけなんでしょう?どういうこと?」
ケントの言葉がよく分からずホーパスが戸惑っていると、フーゴがあっと声を上げてケントを見た。
「おい、もしかして・・・・女装して行けってことか?」



ケントは深くうなづいた。
「そこまで言ってないが、女性の服を着て女性と偽って行けばなんとかなるかもしれない」
「おいおい・・・・急にそんなこと言われても。女物の服なんてここにはないぞ」
フーゴが呆れた顔で戸惑っていると、シーグフリードも戸惑いながら
「まさかオレもか?」
「そうだな・・・・女性の服じゃなくても、顔を隠せばいいから大きいスカーフでもいいんじゃないか?
 とりあえずスカーフか顔を隠せるものがないか探してくる」
ケントは中年の女性と一緒に再び部屋を後にするのだった。