祈りの力
「モルケ・・・・・・!」
モルケを見た途端、ホーパスは驚くと同時に怒りが込み上がってきた。
「モルケ!あの時はよくもアルマスを騙したな!許さないぞ!」
ホーパスが怒り心頭で大声を上げていると、エルドが聞いた。
「あの男に会ったことがあるの?」
「うん、あいつがアルマスを騙して地獄の世界にアルマスを突き落としたんだ!時の女神に助けてもらったけど
許せないよ!」
それを聞いたアルマスは驚きながら、前にいるモルケを見ていた。
「あれがモルケの・・・・・・・本当の姿・・・・・?」
「うん、そうだよ!」
アルマスの言葉を聞いたホーパスは深くうなづいた。
「アルマスは地獄に落ちた後だったから知らないかもしれないけど、僕の目の前であの姿になったのを見たんだ。
アルマスを酷い目に遭わせて・・・・・絶対に許せない!」
あれがモルケの本当の姿なんだ。
でも、あの時どうして僕に近づいたんだろう。
何か理由が・・・・・目的があったはず。
前にいるモルケとシーグフリードを見ているアルマス達の周りでは、モルケを見た女子供達が悲鳴を上げながら
後ろにある大広間のドアへと走って逃げだして行く。
「みんな外へ行こうとしている。この男も外へ連れて行った方がいい」
逃げて行く女子供達を見ながら、ケントがニコラウスを両端から支えている男達に声をかけた。
言われた男達がニコラウスを連れて行こうとすると、ニコラウスが戸惑っている。
「ま、待ってくれ・・・・・・」
「どうしたんだ?このままここにいると危険だ。あの悪魔みたいな化け物が何をするか分からん」とケント
「私はこの教会の司祭だ。ここで起こった事は私が責任を負わねばならぬ」
「何だって・・・・・でも相手は化け物だ。ここにいたら危険だぞ。それに今、体が思うように動かないんじゃないのか?」
「確かに体力はないが・・・・・すぐ右側に通路があるだろう。通路を少し行ったところに部屋がある。そこまで連れて行って
もらえないか」
ニコラウスを支えている男達とケントはどうするかお互いの顔を見合わせたが、すぐにケントが答えた。
「・・・・・分かった。外に行く距離を考えるとそっちの方がいい。とりあえず部屋まで連れて行く」
ケントが男達を見てうなづくと、男達はニコラウスを連れて右側の通路へと歩き出した。
一方、モルケと対峙しているシーグフリードは椅子に座ったまま動かないヴェスト王を見た。
さっきから全く動かない。表情も暗いままだ。
まさか・・・・・・・。
「おい、この男に何をした?」
シーグフリードは再びモルケを見るなり聞いた。
「何をしたか、だって?」
モルケはそう言ってほくそ笑んだ。
そしてヴェスト王に目を移すと、不気味な笑い声を上げた。
シーグフリードはモルケを睨みつけながら、黙ってモルケの動きを見ている。
モルケはしばらくすると笑うのを止め、シーグフリードを再び見た。
「この王はオレの言う事しか聞かない。オレの思い通りに動くんだ」
「何だって・・・・・」
シーグフリードが戸惑いを見せると、モルケは余裕の表情でヴェスト王に向かってこう言った。
「おい、目の前にいるこの男を倒すんだ!」
それを聞いたシーグフリードがヴェスト王の方を向いた。
椅子からヴェスト王がいつ立ち上がるか様子を見るが、ヴェスト王が動く気配はなかった。
「おい、聞いているのか?目の前にいるこの男を倒せ!」
モルケが再びヴェスト王に向かって命令した。
すると今度はゆっくりと腰を上げ、椅子から立ち上がろうとしたが
途中で何かに抵抗するかのように動きが止まった。
そして抵抗に屈したかのように、再び椅子に引き戻されるように座って動かない。
何だ・・・・・・?
あの男、何かの力に抵抗しているように見えるが・・・・・。
一体、何が起こってるんだ。
ヴェスト王の動きに、モルケは戸惑い始めた。
「なぜだ、どうして動かない?」
「ヴェスト王の潜在的な意思までは奪えなかったようね」
アルマスの側で見ているユースがモルケを見ながら言った。
「潜在的な意思?どういうこと?」とホーパス
「体はすっかりモルケの催眠に侵されているようだけど、それ以上にヴェスト王の潜在的な意識がしっかりしているのよ。
たとえ心がモルケの催眠にかかっているとしても、体の奥底にある潜在的な意思まで侵されていなければ、抵抗できるわ。
心までは完全に失っていない。だから椅子から動かないのよ」
思うように動かないヴェスト王に、モルケは痺れを切らしたように悔しがった。
「くそ・・・・・・どうして思い通りにならないんだ!」
「あいにくだったな」
シーグフリードは再びモルケを見ると、腰にかけている剣を抜いた。
モルケはシーグフリードの方を向き、シーグフリードが手にしている剣を見た。
「そんなものでオレを倒そうと言うのか?」
「・・・・・・・」
シーグフリードが黙ったまま、攻撃の機会を伺っていると後ろから声が聞こえてきた。
「シーグフリード」
シーグフリードの隣に元の姿のフーゴがやってきた。
フーゴもモルケに剣を向け、いつ攻撃しようかモルケの動きを見ている。
そんな2人の姿を見たアルマスは前に行こうとした。
すると目の前にエルドとユースが揃って前を塞いだ。
「行ってはダメよ。今はあの2人のところに行っては危ないわ」
「どうして・・・・・?」
アルマスが戸惑いながら2人に聞くと、ホーパスもアルマスの隣で首を振りながら
「モルケのところに行ったら、また何をされるか分からないよ」
「それにここは建物の中よ。うかつに炎を出したら火事になるかもしれない」とエルド
「それは分かってるよ。でもシーグフリードさん達を見てるだけじゃ・・・・・・」
アルマスがそう言いかけた途端、右側からケントの声が聞こえてきた。
「アルマスじゃないか!そこにいたら危ない。こっちに来るんだ!」
アルマスが右側を見ると、通路にいるケントがアルマスを右手で手招きしているのが見える。
「あの通路・・・・・」
ユースも右側にある通路を見ていると、エルドとホーパスも右側を見ている。
「どうするの?ユース。今あっちに行っても問題なさそうじゃない?」
エルドがユースの方を向くと、ユースはしばらく考えた末
「・・・・・そうね。それに本物のニコラウスや他の人達もあの奥に行っているし。見たところ何もなさそうだわ」
「じゃ、あの通路に移動しましょう。行きましょう、アルマス」
「で、でも・・・・・・・」
アルマスが前にいるシーグフリード達を見ていると、再びケントの声が聞こえてきた。
「アルマス、早くこっちに来てくれ!」
アルマスはシーグフリード達を気にしながらも、ケントのいる通路側へと走り出した。
アルマスがケントの前まで来て止まると、ケントは奥の部屋から出てきた2人の男をちらっと見ながら言った。
「アルマス、奥の部屋にニコラウスという男がいる。その男が出てこないように見ていてくれないか」
「いいですけど、ケントさん達はどこへ・・・・・?」とアルマス
「オレ達は外に出た住民達の様子を見に行く。すぐ戻るとは思うが・・・・・」
「分かりました。ここで見ています」
アルマスがうなづくと、ケントは2人の男と一緒にその場を離れた。
一方、シーグフリードとフーゴはモルケと対峙しながら、攻撃の機会を伺っていた。
「どうしてあの男を知ってるんだ?」
フーゴが剣をモルケに向けながらシーグフリードに聞いた。
シーグフリードはモルケを睨みつけながら
「あいつは弟のシーグヴァルドを塔に行くようにそそのかしたんだ」
「なんだって・・・・・・?」
すると話が聞こえたのかモルケが反応して笑いだした。
「そそのかしただって?人聞きの悪いことを」
「お前がシーグヴァルドに近づいて、あの塔に行くように勧めたんだろう。そうじゃないのか?」とシーグフリード
「お前だって知っているだろう?あの男は元々野心が高い男だ。この世界の支配者になりたいと言っていた・・・
だからその願いを叶えてやろうとあの塔に行くことを勧めただけだ」
「そう言って、お前は弟を利用しようとしていたんだろう?」
するとモルケは首を振りながら
「いいや、利用しようなんて思っていない。あの男と一緒にこの世界を支配しようと思っている」
「嘘だ、お前の本音は違う。お前がこの世界を支配したいんじゃないのか?」
するとモルケは声高々に笑い出した。
「な、何がおかしい」
不気味な笑い声にフーゴが剣をモルケに向けると、モルケは笑うのを止めた。
「・・・・まずはこのヴェストから支配しようと思ったが、とんだ邪魔が入ったものだ」
「・・・・・・・」
シーグフリードは剣を構えなおすと、モルケの様子を見ながらじっと攻撃の機会を伺っている。
「やっぱりあの男が全ての原因なのね」
隠れるように通路の端に身を寄せ、話を聞いていたアルマス達。
エルドがアルマスの真上でモルケの後ろ姿を見ている。
「どうするの?シーグフリードさん達ずっとあそこから動かないけど」
ホーパスもエルドの隣でシーグフリード達を見ている。
「あの男に剣だけで立ち向かうのは無理があるわ。危険かもしれない」とユース
「じゃ、どうすればいいの?あの男だけはどうしても許せないよ」
再び怒りを露わにするホーパスに、ユースはヴェスト王が座っている椅子の後ろにある十字架を見た。
「ここは城でもあり、教会でもあるのね・・・・・・・・」
一方、城の外では逃げてきた女子供達とヴェスト兵が集まっていた。
モルケの姿に怖くなり逃げ出してきたが、誰も家には帰ろうとせず、城の前に留まっている。
最初はモルケを怖がっていたが、次第に人込みのあちこちでこんな声が聞こえ始めた。
「なぜこの城に悪魔がいるんだ?」
「教会でもある城に悪魔がいるのはおかしい」
「あの悪魔がノールとの戦争を仕掛けたんだ」
「教会にいるあの悪魔を倒せ!」
ケントと数人の男達が外に出ると、残っている大勢の人達を見て驚いた。
「お前達、ここで何をしている?家に帰らないのか?」
「中にいるあの悪魔は?王様は無事なのですか?」
ケントのすぐ側にいる女性がケントに聞くと、他の人達からも声が上がった。
「そうだ。王様は無事なのか?」
「あの悪魔、王様を殺そうとしてるのか?」
人々がケントに向かって次々と質問を浴びせると、ケントは思わず大声を上げた。
「静かにしろ!王様を心配しているのは分かるが、いっぺんに聞かれても答えられない」
すると辺りはいっせいに静まり返った。
辺りがシンと静かになると、ケントはそのギャップに戸惑った。
「・・・・・王様は無事だ。今シーグフリードとフーゴがその悪魔と戦っている」
するとあちこちから安堵のため息が聞こえてきた。
ケントは人々を見ながら
「そうと分かったらもう帰った方がいい。ここにいるのは危険だぞ」
「いいえ、帰りません」
ケントの側にいる女性が首を振った「王様の無事を確認するまで、ここで待っています」
「そうよ、帰らないわ。王様が無事なのを見るまでは」
「王様が元の王様に戻るまで、ここで待ってる」
あちこちから声が上がる中、1人の老婆が前に出てきた。
そして城を見ながら両手を合わせ
「私が今できることは、王様が無事であることを祈るだけです」とその場に座り祈り始めた。
するとそれを見た人々も、次々と城に向かって祈り始めた。
「王様と悪魔と戦っている者達に、神のご加護を・・・・・・・・」
再び辺りが静かになり、ひたすら祈り続ける人々にケントは圧倒された。
「ケントさん、どうするんですか?」
ケントの隣で男が小声で聞くと、ケントは前で祈り続ける人々を見ながら
「ヴェスト王がこんなに慕われているとは・・・・・・・無理に帰らせる訳にもいかない」
「そうですね・・・・・・」
「我々も王様の無事を祈ろう。何かが起きるかもしれない」
一方、大広間ではシーグフリードとフーゴがモルケの様子を伺っていた。
ずっと動かない状態に痺れを切らしたのか、突然フーゴがモルケに向かって走り出した。
「フーゴ!」
シーグフリードが止めろと言うように声をかけるが、フーゴの動きは止まらない。
フーゴは大きな声を上げ、剣を高くつき上げながら、モルケに向かって突進していく。
しかしもう少しでモルケの前に到達する直前で、モルケはあっさりと姿を消した。
「消えた・・・・・!どこに行ったんだ?」
フーゴは立ち止まり、辺りを見回すと、その数メートル後ろにモルケが姿を現した。
「フーゴ、後ろだ!気をつけろ!」
シーグフリードの声に、フーゴが後ろを振り返った途端、モルケの体から黒い光のようなものが出てきた。
「うわっ!」
その光がフーゴに向かって来ると、フーゴは声を上げながら辛くもぎりぎりで避けた。
それを見たモルケは悔しそうな表情を見せたが、すぐに余裕の表情に変わった。
「避けたか・・・・・でも2人くらい片付けるのはすぐだ」
「フーゴ、気をつけろ!いったん戻るんだ!」
シーグフリードがフーゴに声をかけた途端、モルケは再び2人に向かって黒い光を放ち出した。
フーゴはモルケの攻撃をなんとか避けながら、シーグフリードのところに戻って行く。
それを見ながらシーグフリードは素早くヴェスト王の座る椅子の裏側へ移り、フーゴも椅子の後ろにある十字架の裏側へと移動した。
黒い光が次々と2人の周りを襲う中、シーグフリードはヴェスト王が無事なのか気になった。
こんな中でもあの王は動く気配がない。
いや、動けないのかもしれない・・・・・・。
しかしこのままの状態ではまずい。
一体どうすればいいんだ・・・・・・・。
椅子の裏側に身を隠しながら、シーグフリードはどうすればいいか考えを巡らせていた。
そんな状況に通路にいるアルマスはもどかしさを感じていた。
今、出て行って炎を出せばモルケを倒せるかもしれない。
でも、失敗してこの建物に火がついたら・・・・・・。
僕は見てるだけで何もできないのか・・・・・。
すると後ろに誰かが近づいてくる気配を感じた。
後ろを振り返ると、体を支えるように床に手をつけ、ゆっくりと歩いているニコラウスの姿があった。
「・・・・!?」
アルマスが声をかけようとすると、ニコラウスはアルマスに聞いた。
「今、どうなっているか気になってな・・・・・一体どんな状況なんだ?」
「それは・・・・・・」
アルマスは途中まで言いかけ、言葉に詰まると、ニコラウスは大広間の方を見た。
大広間にはモルケの姿と、モルケの攻撃によって損傷した床や壁が見える。
「・・・・・なかなか厳しいようだな」
ニコラウスが再びアルマスを見ると、アルマスは何も言えず黙っている。
「でも、望みはある。それにここは教会の中だ。神は我々に力を与えてくれるだろう」
「え・・・・・・?」
ニコラウスの言葉が分からず、アルマスは戸惑っている。
「それってどういうこと?」
ホーパスも戸惑っていると、ニコラウスはアルマスの側にいるユースを指さしながら微笑んだ。
「すぐ側にいるじゃないか。光をまとった妖精・・・・・勝利の女神が」
それを聞いたエルドは驚いた。
「え・・・・・・?私達が見えるの?」
「ああ、見えてるとも」ニコラウスはうなづいた「光の妖精の隣に火の妖精もいるのが見える」
「じゃ、私達があの地下に行った時、ドアを叩いたのは私達が来たのを知っていたからなのね」
ユースがニコラウスを見ると、ニコラウスはうなづいた。
「今は小さな光だが、祈りを捧げればその光は大きくなっていくだろう」
「祈り・・・・・・?」とアルマス
「祈りの力は大きければ大きいほど、奇跡の力となる。さっきまで部屋にいたが、外で住民や兵士達が祈りを捧げているのが見えた。
その祈りはあの十字架を通して強くなるだろう」
ニコラウスの言葉に、アルマスは何を言っているのか分からなかった。
アルマスが黙っていると、ニコラウスは再びこう言った。
「今できることは祈るだけだ・・・・・・祈りの力を信じて、祈り続けるしかない」
ニコラウスがその場に座り込み、両手を合わせて祈り始めた。
城の外では女子供達とヴェスト兵が城に向かって祈り続けていた。
ケント達もその場に座って城に向かって祈り続けている。
しばらくして、モルケは黒い光を出すのを止めると、辺りを見回していた。
「どこにいる?恐れをなして逃げたか?出てこい!」
シーグフリード達を探すモルケの姿を、2人は十字架の裏側に身を隠しながら見ていた。
「これからどうする?」
フーゴが後ろにいるシーグフリードに小声で声をかけた。
「・・・・さっきまで出ていたあの光さえなければ」
モルケの姿を見つめながら、どうするか考えを巡らせるシーグフリード。
「それだけじゃないだろう?あいつの動きが速すぎる。まともに攻撃できる相手じゃない」
「だからさっき攻撃するのを止めようとしたんだ。なのに・・・・!」
シーグフリードが途中まで言いかけた途端、突然前にある十字架が白く光り出した。
一瞬2人は驚いたように体がビクッと動いたが、光り続けている十字架を見ている。
「急に光り出した・・・・・一体何が起きてるんだ・・・・・」とシーグフリード
「・・・・・」
フーゴは何も言えず十字架を見ていると、だんだんその光が強くなっていく。
十字架から放つ光がだんだん強くなっていくのにモルケも気がついた。
「何だ・・・・・?一体何だこれは・・・・・・・」
それは通路にいるアルマス達も気がついた。
「十字架が光ってる!どういうこと?」
ホーパスが驚きながら十字架を見ている。
ニコラウスはそれに動じず、ひたすら祈りを続けている。
アルマスは光っている十字架を見ながら思った。
祈りの力が大きいほど、奇跡の力になる。
その祈りは十字架を通して強くなる。
十字架が光っているのは、祈りの力が十字架に集まっているから・・・・・。
アルマスの近くで、エルドの声が聞こえてきた。
「ユース、どうしたの?」
「なんだか強い力を感じるわ。とてつもなく強い力・・・・・・」
ユースはそう言いながら、十字架のある場所へと近づいて行く。
「ユース、どこに行くの?ユース!」
エルドが何度もユースを呼ぶが、ユースは反応しない。
ユースが大広間に出ると、十字架にだんだんと近づいて行った。
そして十字架の前に出た途端、十字架の光がたちまちユースの体を包み込んだ。
十字架の光がさらに強く、大きくなっていく。
「うわっ・・・・・・・・!?」
十字架の裏側に隠れているシーグフリード達は眩しさに床に身を伏せた。
「眩しい・・・・・!」
通路から見ているホーパスも思わず後ろを向いて目をつぶっている。
アルマスも目を開けていられず、両手で目を覆った。
しばらくすると光が消えたのか、エルドの叫びにも似たような大きな声が聞こえてきた。
アルマスが目を開けて、目を覆っていた両手を放すと、十字架を見て驚いた。
「え・・・・・・?」
するとホーパスも気がついたのか、アルマスの隣で声を上げた。
「え?あれって・・・・・・もしかして・・・・!」
十字架の前には、1人の髪の長い女性がいた。
白い長髪に、白いワンピースを着て、光に包まれている女性。
それは明らかにユースの姿だった。
「ゆ、ユースだ・・・・・ユースが大きくなってる!」
ホーパスが驚いていると、その後ろでニコラウスがユースを見ている。
「女神様・・・・・女神様が降臨した・・・・・・・」
ニコラウスは両手を合わせ、祈りを再開するのだった。
一方、十字架の後ろにいるシーグフリード達がようやく起き上がった。
「一体、何が起こったんだ・・・・・?光は消えたようだが」とシーグフリード
「分からない」
フーゴはモルケに見つからないよう、十字架からそっと大広間を見た。
シーグフリードも大広間を見るが、2人ともユースの姿が見えず、見えるのは辺りを見回しているモルケの姿だけだった。
「いるのはあいつだけだ・・・・・一体何が起きてる?」
「ユース!」
エルドが大きくなったユースに近づくと、ユースはエルドの姿を見た。
「エルド・・・・・どうしたの?どうして小さくなっているの?」
「・・・・・違うのよ。あなたが大きくなったのよ」
エルドが呆れていると、ユースは自分の身の周りを確かめるように辺りを見回した。
「確かに、私が大きくなったのね。祈りの力が十字架を通して私に集まったんだわ」
「あの司祭の言った通りになったのね」
2人はうなづくと、シーグフリード達を探しているモルケのいる方を向いた。
ユースとエルドはモルケに近づいて行った。
モルケはユースの姿を見た途端、戸惑っている様子を見せた。
「な、何だお前は・・・・・一体お前は何者だ?」
ユースは平然とした様子でこう言い放った。
「さんざんこの世で悪事を働いたあなたに裁判を下す時が来たわ」
「何だって?」
モルケはそう言い返したが、ユースから出ている強い光を見た途端、真っ青になった。
「まさか・・・・・もしかしてお前は・・・・・・・」
「気がついたようね」
ユースはそう言い終えると同時に、モルケに向かって強い光を放った。
「う、うわあああああ、ま、眩しい、や、止めろ、止めてくれ!」
光を浴びた途端、モルケの悲痛の声が上がった。
苦しそうな表情で体をジタバタさせている。
苦しそうな声を上げ、暴れているモルケに、十字架の後ろから見ていたシーグフリード達は何が起きているのか分からなかった。
「いきなり苦しみだしたぞ、一体何が起こってるんだ?」とフーゴ
シーグフリードがモルケを見ると、どこからか強い光がモルケに向かって出ているのが見える。
「あの光、一体どこから出てるんだ・・・・・・・?」
「十字架からじゃなさそうだが」
フーゴが十字架をくまなく見るが、十字架のどこからも光は出ていない。
「じゃ、一体どこから・・・・・・」
シーグフリードが光の出処を突き止めようと、視界をモルケから光を辿るように移していく。
すると光の中に、一瞬だがうっすらと髪の長い女性の姿が見えた。
「・・・・・・!?」
「・・・・どうしたんだ?シーグフリード」
シーグフリードの様子を察したフーゴが声をかけた。
シーグフリードは何度も目を凝らすように女性が見えたところを見るが、再び女性の姿を見ることはなかった。
「さっきのは・・・・・・さっき見たのはもしかしたら・・・・」
「え?」
「い、いや・・・・・・なんでもない」
さっき見えたのは、女神なのか・・・・・・?
あのモルケが苦しんでいるのを見ると、本物の女神なのかもしれない。
フーゴの前では否定しながらも、シーグフリードは心の中ではそう思い始めていた。
「ユース凄いね、モルケが苦しんでるよ」
通路からモルケを見ているホーパス
「ユースの光の力があんなに強いなんて・・・・・・」
アルマスがそう言いかけると、目の前にエルドが現れた。
「アルマス、ユースに力を貸して」
「え?どういうこと?」
アルマスが戸惑っていると、エルドは光を放っているユースの方を向いた。
「ユースの力がだんだん弱まってきているのよ。大きくなったせいもあるけど・・・・・」
「え?でも今でも充分強い光だけど」
エルドの言葉にホーパスが反応すると、エルドはホーパスを見た。
「でもまだモルケを倒すには力がいるのよ。だからアルマスの力を借りたいの」
「僕の力って・・・・炎をここで出すの?火事にでもなったら・・・・・」
アルマスがどうすればいいのか戸惑っていると、エルドは再びアルマスを見ながら
「それは大丈夫よ。炎をユースに向けて放つの。そうすればユースが炎を光に変えるわ」
「炎をユースに?」
「ノールでやった時と同じよ。ノールの時は空だったけど、ユースが炎を光に変えてたからやることは一緒よ」
「・・・・分かった。ユースに直接向けるのは怖いけど、大丈夫ならやってみるよ」
アルマスは右腕をユースに向けた。
そして深呼吸をして、軽く息を吐くと、炎をユースに向けて放った。
太い炎の柱がユースに向かって行く。
炎がユースの体に当たった途端、ユースの体から更なる強い光が放たれた。
その光はモルケに向かって行く。
アルマスの炎がユースの作り出す光の手助けをしているようだった。
「く、苦しい・・・・・!」
光に包まれ続け、苦しんでいるモルケはだんだん姿が小さくなっていた。
「このままだと消えてしまう・・・・その前になんとかここから逃れなければ・・・・・!」
モルケがなんとかしようと考えを巡らせていると、通路に見覚えのある姿が目に入ってきた。
「あいつは・・・・・・」
モルケは何かを思いついたのか、小さな笑みを浮かべた。
そしてしばらくするとモルケはその場から姿を消した。
モルケの姿が消えたのをユースは見逃さなかった。
「消えた・・・・・」
ユースから光が消えると、ユースは辺りを見回しモルケを探している。
「どうしたの?ユース」
エルドがユースの目の前に移動すると、ユースは辺りを見回しながら
「モルケが消えたのよ。この辺りにいるはず・・・・・・」
「え、まだ消し去ってないの?」
「まだよ。あいつはしぶといの。それでも力は弱まっているはずだけど」
「うわっ!」
通路側から聞こえてきた声に、2人はいっせいに通路側を向いた。
アルマスの目の前に、同じ背丈くらいに小さくなったモルケの姿があった。
「お前、地下の世界からどうやって戻ってきたんだ?」
「・・・・・・!?」
「お前は強力な炎の力がある。一緒に来るんだ」
戸惑っているアルマスに、モルケはアルマスの右腕を掴もうと右手を出した時だった。
目の前にホーパスが立ちはだかるように現れたのだ。
「そうはさせないぞ、モルケ!」
ホーパスは前両足をモルケの顔に向けたかと思うと、爪を立て思いきりモルケの顔を上から下へと引っ掻いた。
「うわっ、い、痛い!止めろ!」
モルケの顔はホーパスの引っ掻いた爪痕がところどころにくっきりとついている。
すると今度はエルドが戻ってきた。
「アルマスを地下の世界になんて行かせないわ」
「何だと・・・・・?」
モルケがエルドを見ると、エルドはアルマスに声をかけた。
「アルマス、逃げるのよ!すぐにここから離れて!」
アルマスが大広間の方へ走り出すと、モルケもその後を追おうとした。
「逃がさないわよ!」
エルドはモルケに向かって炎を放ったが、モルケには炎の攻撃は効かず、モルケの背中に当たったと同時に消えてしまった。
「オレには炎の攻撃は効かない。むしろ好都合だ」
「なんですって・・・・・?」
エルドが戸惑っていると、モルケの姿が再び消えた。
大広間に出たアルマスはそのまま外に出ようと出口へと向かおうとした。
しかし目の前に突然モルケが姿を現したのだ。
「モルケ・・・・・・・!」
アルマスがその場から逃げようと左右に動こうとするが、モルケに動きを読まれているのかモルケが前を塞いでしまう。
「そのまま逃げられると思ったのか?さあ、一緒に来るんだ」
モルケはアルマスを捕まえようと右手を伸ばした。
その時だった。
「う・・・・・うわああああー!」
突然アルマスの首元から白く強い光が放たれ、それを浴びたモルケが悲鳴を上げたのだ。
アルマスが下を見ると、ペンダントが白く光っている。
「え・・・・・?」
何が起こっているのか分からずアルマスが黙ってペンダントを見ていると、元の大きさに戻ったユースが現れた。
「間に合ったわ・・・・・・そのペンダントがアルマスを助けたのね」
「え、それってどういうこと・・・・・?」
「話は後よ。まずあいつを片付けないと」
ユースは苦しんでいるモルケの方を見ると、ユースの体から白く強い光がモルケに向かって放たれた。
ユースの光を受けたモルケはさらに悲鳴を上げ苦しみだした。
アルマスが光に包まれながら苦しんでいるモルケの姿を見ていると、左側からドアが開かれる音が聞こえてきた。
「アルマス!」
その声にアルマスが左側を向くと、ケントを先頭に大勢の人達が大広間に入って来た。
「ケントさん!」
「一体これはどういう状況なんだ?」
ケントはアルマスの側で白く光っているものを見ながらアルマスに近づいて来る。
「それにシーグフリードとフーゴはどこだ?ヴェスト王はどこにいる?」
大勢の人達の気配を感じたモルケは光に包まれ苦しみながらも、逃げる方法を考えていた。
「このままだとまずい・・・・・・こうなったら」
モルケはゆっくり十字架の方を振り返った。
そして右手を見つめ、赤黒い炎が現れると、その炎を思いきり十字架に向けて放り投げた。
「危ない!」
白い光の中から何かがこちらに向かって来るのを見たシーグフリードはフーゴと共に床に伏せた。
炎が十字架に触れた途端、十字架の先端が一瞬にして炎に包まれた。
「十字架が燃えてる!火事だ!」
大勢の人達の中から大声が聞こえると、ケントも十字架を見ながら叫んだ。
「これはまずい・・・・みんな、手分けして水を持って来るんだ!火を消さなければ!」
大勢の人達がいっせいに外へ向かって移動する中、通路にいたニコラウスが大広間に出てきた。
「これは・・・・・・!急いで火を消さなければ」
「ニコラウス!」ケントはニコラウスの姿を見た途端声を上げた「水は?水はどこにあるんだ?」
「水ならこの裏手に井戸がある。そこから水を汲めばいい」
「よし、急いで行こう」ケントはうなづくと側にいるアルマスを見た「アルマス、一緒に来るんだ。水を汲むのを手伝ってくれ」
アルマスはうなづくと、ケント達と一緒に外へと向かうのだった。
十字架の炎はだんだんと下へと近づいてきていた。
その裏側でシーグフリードとフーゴが口を手で塞ぎながら起き上がった。
「大丈夫か?」
シーグフリードがその場からゆっくりと立ち上がり、フーゴに声をかけた。
フーゴは口を塞いだままうなづくと、ドサっという何かが落ちたような音が聞こえてきた。
2人が十字架の前に来ると、ヴェスト王が床に倒れている。
それを見た2人はヴェスト王の前に駆け寄った。
「椅子から落ちたのか・・・・?」
フーゴが後ろにある椅子を見ると、十字架から火の手が迫ってきているのが見える。
「それより早くここから離れないと、火よりも先に煙でやられてしまう」とシーグフリード
「ああ、早くここから離れよう。王様をどこへ避難させるんだ?」
「そうだな・・・・・・」
シーグフリードが辺りを見回すと、通路が目に入った。
「とにかくあの通路に行こう」
シーグフリードがヴェスト王を運ぼうと、ヴェスト王の肩に触れた時だった。
今まで反応がなかったヴェスト王の体が動き始めたのだ。
「うっ・・・・・・・」
「体が動いた・・・・!おい、大丈夫か?」
シーグフリードがヴェスト王に声をかけると、ヴェスト王は突然はっと気がついたように大きく目を見開いた。
「気がついたのか?」とフーゴもヴェスト王を見ている。
「私は・・・・・一体何を・・・・・・・」
ヴェスト王が呆然としていると、シーグフリードが聞いた。
「何も覚えていないのか?」
「分からない・・・・・私は・・・・・一体どうなっているんだ・・・・・」
ヴェスト王が後ろを振り返ると、燃えている十字架が目に入った。
それを見た途端、ヴェスト王は信じられないという表情で十字架を見つめていた。
「十字架が・・・・・・!一体、何が起こったというのだ・・・・・?」
「何も覚えてないんだな」
ヴェスト王の様子に、シーグフリードはヴェスト王は記憶がないと悟った。
「とにかくここから離れるんだ。ここにいると危ない」とフーゴ
「お前達は一体・・・・・・?どうしてこんな事に」
ヴェスト王が2人を見ていると、シーグフリードはヴェスト王に急かした。
「その話は後だ。とにかくここから離れよう、あの通路まで早く行くんだ!」
2人がヴェスト王を連れて、通路まで避難してくるとニコラウスに出くわした。
「おお・・・・王様、無事でしたか!」
ニコラウスがヴェスト王の姿を見た途端、深々と頭を下げた。
「ニコラウス」ヴェスト王はニコラウスが顔を上げると続けてこう聞いた。
「一体、何が起こっているのだ?私の記憶がない間、何があったんだ?」
「悪魔のような者が私になりすまし、王様を欺いていたのです」
「何だと・・・・・偽者のニコラウスが?その間お前は何をしていたのだ」
「地下の倉庫に閉じ込められておりました。この方々のおかげでようやくここに出られたのです」
ニコラウスはシーグフリードとフーゴを見ると、再びヴェスト王の方を向いた。
「こうなったのは私の責任です・・・・・私の落ち度がこんな大変な事態を・・・・・・」
「自分を責めるのではない」ヴェスト王は辺りを見回しながらさらに聞いた
「ところでその悪魔のような者はどこにいる?」
その言葉にシーグフリードはモルケの事を思い出した。
はっとして大広間を見るが、今までモルケを包み込んでいた光はすでに消えていた。
「・・・・・・逃げてしまったようだな」
シーグフリードが言った途端、再び大広間に大勢の人々が入ってきた。
人々は十字架の火を消そうと動き出した。
十字架の前から外まで人々が列を作ると、外から水の入った桶を次々とバケツリレーで運び、十字架に水をかけ始めた。
それだけではなく、次々と水の入った桶を持った人々が十字架の前まで走り、水をかけて行く。
女子供、ヴェスト兵、ノール兵が入り交じり、みんなが十字架の火を消そうと動いている。
「・・・・・・・」
それを見ているヴェスト王に、シーグフリードが声をかけた。
「みんな王のために協力して火を消そうとしている。敵対しているノールの兵士達も、今は一緒になって火を消そうと動いているんだ」
「何だって・・・・・・!」
それを聞いたヴェスト王は驚きの表情を見せた「ノールと戦争をしているのか?このヴェストが?」
「それも覚えてないのか?」
フーゴが思わず反応すると、ヴェスト王は呆然とした様子を見せた。
シーグフリードはヴェスト王の様子に静かにこう言った。
「戦争はあの悪魔・・・・モルケが仕掛けたことだ。本当ならばモルケに責任を負わせるべきだが・・・・・・」
「そんな事態になっていたとは・・・・・・・」
ヴェスト王は途中まで言いかけ、言葉を失ったように黙り込んだ。
そしてまだ燃えている十字架を見つめるのだった。
人々が十字架に水をかけ続けているが、火はなかなか消えそうになかった。
火はほぼ十字架の半分を燃やし、火の手が下の方まで伸びつつある。
「なかなか火が消えないな」
「水の量が足りないんじゃ・・・・・・」
「すっかり上の方は燃えてしまっている」
「早く火を消さないと、王様の椅子に火が燃え移りそうだわ」
水を十字架にかけながらも、人々の間からそんな声が聞こえ出した。
「なかなか火が鎮火しない・・・・・一体どうすれば」
ケントが大広間の入口で十字架を見ていると、通路側からヴェスト王が出て来る姿が見えた。
「王様だ!王様がこっちに来たぞ!」
ヴェスト王が大広間に現れた途端、王様を見た人々がざわつき始めた。
ヴェスト王は十字架の近くまで来て止まると、人々の方を向いた。
「いろいろと言うべきことがあるが、今はこの火を消すのが最優先だ。今よりもっと多くの水を集めなければならない。
ヴェスト兵!城にある全ての水源から水を運んで来るんだ」
ヴェスト王の言葉を受けたヴェスト兵はすぐに外へと動き出した。
数時間後、ようやく火は消し止められた。
十字架は全焼を免れたが、半分以上焼かれて黒い煤になっている。
王様が座る椅子も上の部分が黒く焼かれていた。
十字架の火を消していた人達は疲れ果て、大広間で座って休んでいるとヴェスト王が再び十字架の前に歩いてきた。
そして多くの人達の方を向くと、ゆっくりと話を始めた。
「・・・・・皆のおかげでこの城が焼けずに済んだ。十字架はほぼ焼けてしまったが、それ以外は被害は出なくて済んだ。
みんなが素早く対応してくれたおかげだ。とても感謝している」
「・・・・・・・」
「こんなことになってしまったのは全て私の責任だ。こんな大変な事態になるまで気づかず、申し訳なかった・・・・・・」
ヴェスト王は頭を深々と下げ、顔を上げた後、腰につけている剣を抜いた。
「王様!」
それを見たニコラウスが大きな声を上げると、ヴェスト王は剣の矛先を自分に向けようとした。
「止めろ!」
ヴェスト王の動きにシーグフリードとフーゴが真っ先にヴェスト王のところに駆けつけると、シーグフリードがヴェスト王の右腕を抑え、
剣を下へと落とした。
フーゴはヴェスト王の背後にまわり、ヴェスト王の左腕をつかんでいる。
2人に抑えられたヴェスト王は何もできないと分かると、その場に座り込み、下を向いてうつむいてしまった。
「どうしてこんなことを・・・・・今回の事は王様の責任じゃない」
シーグフリードがヴェスト王に聞くと、ヴェスト王はうつむいたまま自分を責めた。
「でも私は今回の戦争を引き起こしてしまった・・・・・その責任は重い」
「戦争は今から止めればいい。今からでもやり直しはできる」
「そうですよ」フーゴもうなづきながらヴェスト王を見た「戦争を止めましょう。今すぐに」
ヴェスト王が顔を上げ、フーゴを見ると、フーゴはさらにこう言った。
「私はノール兵です。今から戦争を止めるとここで宣言していただけますか」
それを聞いたヴェスト王は戸惑った。
「な・・・・何だって?ノールの兵がここにいるとは・・・・・・」
「戦争を止めると宣言してくれれば、私がノールに戻って、ノールの人達に知らせます」
「オレもノール兵だ。オレも一緒に行って知らせるよ」
通路でケントの声が聞こえてくると、フーゴはケントの姿を見た。
すると人々の中から次々とこんな声が聞こえてきた。
「王様、今すぐに戦争を止めると宣言してください」
「元々ノールとは仲が良かったじゃないか。こんな戦争、早く止めた方がいい」
「今回の事はあの悪魔のせいだ。王様は何も関係ない」
「早く戦争を終わらせて、穏やかな生活に戻りたい」
人々の声を聞いたヴェスト王は何度も深くうなづいた。
そしてゆっくりと立ち上がると、人々を見渡しながらこう言った。
「・・・・お前達の話はよく分かった。ここに宣言する。ノールとの戦いは終わりだ。戦争は終わりにする」
それを聞いた途端、人々から歓喜の声が上がった。
それから数時間後。
夜になり、シーグフリードとアルマスとホーパスはヴェスト城内に留まっていた。
戦争が終わり、ケントとフーゴは終戦を知らせるためにアジトに戻って行った。
シーグフリードもアジトに戻ろうとしたが、塔の事もあり、城内に留まることにした。
城の一室で、シーグフリードとアルマス、ヴェスト王とニコラウスが椅子に座って話をしていた。
「・・・・話の内容はよく分かった。明日にもその塔に行きたいということだな?」
シーグフリードの話を聞いたヴェスト王はうなづいた。
「その通りです」シーグフリードはヴェスト王とニコラウスを見ながらさらに聞いた。
「森の中にあると聞いていますが、塔がどこにあるのか知っている者がいれば案内してもらいたい」
するとヴェスト王とニコラウスはお互いの顔を見合わせると、ニコラウスがシーグフリードの方を向いた。
「それなら、塔の場所を知っているヴェスト兵を数人連れて行かせましょう。私達は塔の場所はおろか、塔があるのを知らないのです」
「ありがとうございます」
シーグフリードが頭を下げると、ヴェスト王はシーグフリードを見ながら
「ヴェストの危機を救っていただき、とても感謝している。今夜はゆっくりと休んでください」
「ありがとうございます」
シーグフリードが再び頭を下げると、隣にいるアルマスも頭を下げた。
部屋の外の廊下ではエルドとユースが窓から外の夜空を見ていた。
「明日、塔に行くことになるのかしら」
エルドが隣で外を見ているユースの方を向いた。
「おそらく、そうなると思うわ。次でうまくいけばいいけれど・・・・・」
ユースは窓の方を向いたまま答えると、エルドはユースの答えが気になった。
「何かはっきりしないような言い方ね」
「・・・・・・」
「まあいいわ。ところであのモルケ、結局どこかに逃げて行ったのかしら?」
「十字架に火を投げて、私達がそっちに気を取られているスキに逃げたわ・・・・でも、もう以前のような力は戻らないはず」
「地下の世界に戻って力を取り戻すことはないの?」
「もう地下の世界に戻る力さえないと思うわ。モルケが火を十字架に投げるまでは、完全に消し去る手前までいっていたから・・・・・・」
一方、ヴェスト城の近くの森ではシンとした静けさが漂っていた。
ある木の根元の側で、小さく動いている黒い人影のようなものが、遠くに見えるヴェスト城を見上げていたのだった。