青い光
薄暗いグレー色の雲が広がっている空。
朝になり、城の外ではシーグフリードが1人、ひたすら剣を振り回していた。
辺りは薄い霧が立ち込めており、その霧を払うように剣を振り回している。
その姿を城の一室の窓からアルマスとホーパスが見ていた。
「朝早くから剣の練習をしてるんだね」
ホーパスがシーグフリードの姿を見ていると、その下でアルマスもシーグフリードを見ながら
「今日塔に行くから、また戦いになるかもしれない。だから鍛えているんだと思う」
「そうか、でも天気が気になるね。曇ってるし」
ホーパスが視線を空に移すと、アルマスも空を見上げた。
一方、廊下ではヴェスト王とニコラウスが歩いていた。
話をすることなく、黙ったまま歩いていると、ヴェスト王が足を止めた。
右にある窓から外を見ると、シーグフリードの姿が見える。
「・・・・どうかなさいましたか?」
ニコラウスも足を止め、ヴェスト王に声をかけながら窓の外を見た。
ヴェスト王はシーグフリードの姿を目で追いながらニコラウスに聞いた。
「今日、この後あの者は塔に行くんだったな?」
「はい。塔の場所を知っているヴェスト兵を数人、連れて行かせます」
「そうか・・・・・・」
ヴェスト王はシーグフリードの動きを目を追い続けた。
シーグフリードは一心不乱に剣を振り続けた。
辺りに広がっている霧を払うように、左右に剣を振り続けている。
シーグヴァルド・・・・・・・。
今度こそ、決着をつける。
そう思いながらシーグフリードは両腕を高く上げた。
その時、一瞬シーグフリードの体を青い光が包み込んだ。
シーグフリードは大声を上げながら、大きく剣を振り下ろすのだった。
「・・・・・・・!?」
その姿を見たヴェスト王は目を大きく見開いた。
「王様、どうかなさいましたか?」
ヴェスト王の様子にニコラウスが戸惑っていると、ヴェスト王はニコラウスを見た。
「お前は・・・・・見ていないのか?あの者の姿を・・・・・」
「え・・・・・?」
「一瞬だけだったが、青い光が見えた。見てなかったのか?」
「青い光・・・・ですか?いいえ・・・・・・・」
ニコラウスが首を横に振ると、ヴェスト王は驚いた表情でつぶやいた。
「まさか・・・・・・あの者が・・・・・・・」
数時間後。
シーグフリードとアルマス、ホーパスは城の廊下を歩いていた。
シーグフリードは誰かを探しているのか、辺りを見回している。
「ねえ、誰を探してるの?」
ホーパスが2人の真上をふわふわと飛びながらシーグフリードに声をかけた。
シーグフリードは振り返るとホーパスを見て
「ここを出る前に、ヴェスト王に挨拶をしようと思って。世話になったからな」
「そうか。昨日ニコラウスさんが言ってたけど、兵を連れて行くんじゃなかったっけ?」
「ヴェスト兵か。たぶん外にいるんじゃないか?今朝も数人城の前に立っていたが・・・・・・」
すると後ろから声が聞こえてきた。
「ここで何をしているんですか」
シーグフリードが前を向くと、ニコラウスの姿があった。
「・・・・・ヴェスト王を探している。どこにいるか知らないか?」
「王様ですか」ニコラウスはシーグフリードとアルマスを見た「そろそろ塔に行かれるのですか?」
「ああ。ここを出る前に挨拶をしたい」
「おそらくこの時間は教会にいるでしょう。一緒に行きましょう」
ニコラウスが後ろを振り返り、歩き始めると、3人も後を着いて歩き始めた。
4人は教会に着いたが、中には誰もいなかった。
4人は十字架の前まで来ると足を止めた。
十字架は上部が黒くこげたまま残されている。
ニコラウスは辺りを見回しながら
「いつもでしたらここで祈りを捧げているのですが・・・・・」と王様を探している。
「いないのなら、無理に探さなくてもいい」とシーグフリード
「でも、もう塔へ行かれるのでしょう?」
「ああ。でもそれほど急いではいないが、できれば早めにここを出たい」
「でしたら・・・・・とりあえず塔の場所を知っている者を連れてきます。ここで待っていてください」
ニコラウスはその場を離れると、ドアの方へ歩いて行った。
しばらく待っていると、シーグフリードはある事を思い出した。
「そういえば・・・・・馬をアジトに置いたままになっていたな」
「馬?」とホーパス
「昨日、フーゴ達とアジトに戻ろうと思ったんだが・・・・・ここに留まることになったから、すっかり忘れていた」
「荷物と剣を積んでるんでしょう?塔に行った後、戻るならそのままでもいいんじゃないかな」
「戻ると分かっているなら、そのままでもいいが・・・・・場合によっては戻れないかもしれない」
「戻れないって・・・・・」
「なら、今からアジトに行って馬を連れてくれば・・・・・・」
アルマスが途中まで言いかけた途端、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「その必要はないぞ」
3人は声が聞こえた方を向いた。
そこには教会の入口のドアを開けたフーゴの姿があった。
「フーゴ!」
フーゴを見た途端、シーグフリードが声をあげた。
フーゴが3人のところに近づくと、アルマスが聞いた。
「ノールに戻ったんじゃなかったんですか?」
「戻ろうと思っていたが、忘れ物を届けに来た」
フーゴはシーグフリードを見ると、続けてこう言った。
「お前の馬を連れてきた。昨日気がついてな・・・・・気がつかなかったらそのままノールに連れて行くところだった」
「馬を取りに行くかどうするか考えていたところだ。ありがとうフーゴ」
シーグフリードが礼を言うと、フーゴは首を振りながら
「いやいや・・・・・ところでこれからあの塔に行くのか?」
「それは・・・・・・・」
シーグフリードが答えを濁そうとすると、フーゴはそれを見抜いていたのかきっぱりとこう言った。
「お前達だけで塔に行くなんて水臭いぞ。オレも一緒に行く」
それを聞いたシーグフリードは戸惑った。
「一緒に行くって・・・・・もう戦争は終わった。もうお前はあの塔とは・・・・」
「確かに、戦争は終わった。でもまだ関係はあるぞ。ノールの住民やあの山賊の家族が塔の中にいる。連れ戻さないと」
フーゴの言葉を聞いた途端、シーグフリードははっと気がついた。
そうだ・・・・・・あの塔に残ったままの家族がいる。
「それだけではないぞ」
みんなが声がした方を向くと、ヴェスト王がゆっくりと近づいてきた。
ヴェスト王は腰に長い剣を数本つけ、まるでこれからどこかに戦いに行くような恰好だった。
「ヴェストの住民達も何人かは塔に行っていると兵から聞いた。塔から連れ戻さなくてはならん」
「ヴェスト王・・・・・・」
ヴェスト王がシーグフリードの前で止まると、意を決したようにこう言った。
「私も一緒に行く」
それを聞いたシーグフリード達は驚いた。
「・・・・厚意はとてもありがたいが、塔にはヴェスト兵を数人連れて行く。数人いれば充分だ」
「こんな事になったのは私の責任だ。だから一緒に行かせて欲しい」
戸惑っているシーグフリードにヴェスト王が頭を下げていると、その後ろからニコラウスがやって来た。
「王様、兵の準備ができました。いつでも出発できます」
「ニコラウス・・・・・・!」
ニコラウスの言葉を聞いてシーグフリードがさらに戸惑っていると、ニコラウスはシーグフリードを見た。
「王様は一度決めたら退きません。それにとても力のあるお方です。私からもぜひお願いします」
「・・・・・・・」
シーグフリードがどうするか考えていると、フーゴが近づいてきた。
「どうするんだ?王様が直々に頼んでいるんだぞ」
「・・・・・・・」
「人数は多い方がいい。それにあの塔に敵が何人いるのか分かってるのか?大勢で向かってきたらどうする」
「それはそうだが、王様にもし何かあったらどうする」
「一緒に行くのは王様だけじゃない。ヴェスト兵も行くんだ。ヴェスト兵が王様を守るだろう」
「しかし、塔の事でこれ以上犠牲を出したくはない・・・・・・」
「塔についてはもうお前だけの問題じゃない。ノールやヴェストの問題にもなっている。住民達が塔にいるんだ」
「その通りだ、もうお前だけの問題ではない。この国全体の問題だ」
ヴェスト王が話に割り込んできた「私はヴェストの住民達を連れ戻しに行く。後には退かない」
シーグフリードは黙っていたが、しばらくして2人を見た。
「・・・・・分かった。一緒に行く」
「ありがとう」ヴェスト王は頭を下げ、顔を上げると、ニコラウスを見た。
「兵の準備は既にできているのか?」
「はい。城の外で待っています」とニコラウス
「なら、今すぐに出発しよう。この者達の準備が整い次第出発だ」
一方、城の外では5,6人のヴェスト兵が集まっていた。
その近くに数頭の馬が留められている。
馬達のすぐ後ろにある大きな木の根元から、小さくて黒い人型のものが動き出した。
すぐ近くにいる馬の後ろ姿を見た途端、その馬の黒い尻尾に向かって走り出し、飛びついた。
そしてだんだんと上へと昇り、馬のお尻の上までたどり着くと、動きが止まった。
それはユースによって、すっかり力を失ったモルケだった。
顔の頬にはホーパスに引っ掻かれた傷が大きく残っている。
ヴェスト兵の話を聞き、塔に行くと分かり着いて行こうとしているのだ。
「これで後は塔に着くのを待つだけだ・・・・・・」
モルケがそう言った途端、ヴェスト兵の動きが急に慌ただしくなった。
「あいつらが出てきたか。この仕返し、近いうちに必ずやってやる・・・・力が戻ればな」
モルケは遠くに見える城を見上げた。
その城からはヴェスト兵を先頭に、シーグフリード達が出てきたのだった。
しばらくして城を出発したシーグフリード達は森へと入っていた。
2人のヴェスト兵を先頭に、その後をシーグフリード達4人、その後ろをヴェスト王と数人のヴェスト兵が馬をひいて行く。
シーグフリードが連れている馬の後ろをアルマスとホーパスが歩いている。
するとぼわっという音とともにエルドとユースが現れた。
「どうしたの?」
2人の姿に気がついたホーパスが真っ先に聞いた。
「塔に着いたらどうするの?敵と戦うの?」
エルドがアルマスの前に移動しながら、アルマスに聞いた。
アルマスはしばらく考えて
「・・・・もし敵が向かってきたら戦うことになるとは思う」
「今度は戦うのは嫌だと言わないのね。前は怖がっていたのに」
「・・・・・」
「分かったわ、協力する。私も一緒に戦うわ」
「ありがとう、エルド」
「でも、気をつけた方がいいわ」エルドの隣でユースが割り込んできた「またあのモルケが塔にいるかもしれない」
「大丈夫だよ、その時はまたこの爪で引っ搔いてやるんだ!」
ホーパスは両前足を出すと、爪を出して引っ掻く素振りを見せた。
しばらくしてシーグフリード達は塔の近くの開けた場所に着いた。
数メートル離れた塔の周辺には誰の姿も見えない。
馬を近くの木々に留め、塔を見ているシーグフリードにフーゴが話しかけてきた。
「どうするんだ?今は誰もいないぞ」
シーグフリードは塔のドアを見つめながら
「なら、中に入って行くしかないだろう」
「ドアから行くのか?ドアを叩いて素直に開けてくれるのか?」
「なら無理やりこじ開けるしかない。行くぞ」
シーグフリードが塔に向かって歩き出すと、フーゴもそれに続いた。
アルマスも続いて行こうとすると、シーグフリードが後ろを振り返った。
「アルマス、お前はしばらくここにいるんだ。オレ達が再び外に出るまで待ってろ」
アルマスが黙ってうなづくと、その右側でヴェスト王の声が聞こえてきた。
「今からあのドアを開け、住民達を連れ戻してくるのだ!私はここで戻るのを待つ。早く行くのだ!」
命令を受けたヴェスト兵達が走り出した。
一方、木々に留められている馬の1頭に乗っていたモルケも、塔に行こうと動き出した。
馬の尻尾から滑るように降りて行き、地面に着地すると、塔に向かって走り出すのだった。
兵達とシーグフリード、フーゴが走ってドアの前まで来た時、突然バンという大きな音とともにドアが開いた。
「いきなり大勢で来て何の用だ?」
中から大柄の男が出てくると、フーゴは前に出てきて言った。
「その中にいる住民達を返してもらいに来た。中にいる全員を返してもらおう」
「何だって?中にいる全員を返せだと?そんな奴等はこの中にはいない」
すると今度はヴェスト兵の1人がフーゴの右隣に来て
「先日ここに連れてきただろう。いないのならどこにいるんだ?」
「さあ・・・・・・オレは知らないな。他の者が知ってるんじゃないか?」
「そんなはずないだろう、先日連れてきた時にお前が対応したのを覚えてるんだ」
ヴェスト兵は男の言葉にいらつきながらさらにこう言った。
「ここにいないのならどこにいる?嘘をついているんじゃないのか?」
「オレが嘘をついているというのか?」
大柄の男がイラつき始めると、シーグフリードがフーゴの左隣に出てきた。
「嘘をついていないのなら、オレ達が確かめる。中に入れるんだ」
「中には入れさせん、さっさとここから出て行け!」
大柄の男が声を上げると、シーグフリードは男を見ながら声を上げた。
「それなら、無理にでも中に入るぞ!」
すると部屋の奥から次々と武器を持った男達が出てきた。
大柄の男は男達の方を振り返ることなく、こう命じた。
「オレの目の前にいるこいつらを追い出せ!」
男達がシーグフリード達に向かってくると、シーグフリード達は後ろの開けた場所へと戻って行った。
シーグフリードは腰から剣を抜くと、襲い掛かってきた1人の男をひと振りで倒した。
その近くではフーゴも剣で応戦し、ヴェスト兵達もそれぞれ向かってきた男達と戦っている。
塔から出てきた男達はあっという間にシーグフリード達によって倒されてしまった。
馬を留めてある場所で、アルマスとホーパスがその戦いを見ていた。
「なんか、あっという間に終わっちゃったね」とホーパス
「うん。あとは塔に入って、中にいる人を連れてくれば・・・・・・」
アルマスがうなづいた後、塔の入口を見た途端戸惑った。
ドアから次々と男達が出て来ているのだ。
「え、また敵が出てきた!」それを見たホーパスが声を上げた「さっきよりも数が多いよ!」
ドアから出てきた男達は次々とシーグフリード達に向かってきた。
シーグフリード達が次々と倒して行くが、ドアからは次々と男達が絶え間なく出てきている。
今までにない男達の多さに、シーグフリード達は戸惑いを見せた。
「おい、どうなってるんだ?敵の数が多すぎるぞ!」
「ドアから敵が絶え間なく出てきている、どうなってるんだ?」
「応援を呼んだ方がいいんじゃないか?」
ヴェスト兵からこんな声が聞こえ始めた。
シーグフリードが戦っていると、フーゴが右隣に近づいてきた。
「おい、どうなってるんだ?今までよりも敵の数が多い」
「ああ、そうだな」
シーグフリードが剣を構えながら前にいる数人の男達を見ている。
「だから言っただろう、ヴェスト兵をもう少し連れてくれば・・・・・・」
「想定外だな。でも仕方がない。このまま乗り切るしかないだろう」
シーグフリードは男達に向かって行くと、フーゴも男達に向かって行くのだった。
「今まであんなに敵が多かったっけ?倒したと思ったら出てきてるけど」
ホーパスも男達の数の多さに疑問に思い始めてきた。
「塔の中にあれだけの数がいるなんて・・・・・・」
アルマスは塔の入口を見ると、以前よりも数は少ないが男達が出てきている。
「そうだね、そんなに大きくない塔なのに。中にそんな大勢の人達がいるなんて」
「・・・・・・」
一方、ヴェスト王も同じ疑問を持ち始めていた。
見た目はあまり大きくはない塔だが、思っていた以上の人がいるようだ。
どうしたらあれだけの人がいる?
それともここからでは見えない、奥まった場所があるのか?
もしかしたら兵の数を増やさなくてはならないかもしれない・・・・・・・。
それからもシーグフリード達は次々と向かってくる男達を倒し続けた。
しかし塔からは次々と男達が出てきて襲い掛かってきている。
絶え間ない攻撃にシーグフリード達は次第に疲れが出てきた。
「くっ・・・・・・・」
フーゴが剣で向かってきた男のわき腹を切り、男が倒れた途端、辛そうな声がもれた。
「大丈夫か?フーゴ」
その後ろでその声を聞いたシーグフリードが一瞬、フーゴの方を向いた。
「まだ大丈夫だ。しかし・・・・・いつまでこれが続くんだ?これ以上続くと体力がもたない」
「たぶんそれが奴等の狙いだろう」
シーグフリードがそう言った途端、襲ってきた男の腹を剣で串刺しにした。
男の背中をシーグフリードの剣が貫通し、シーグフリードが一気に剣を抜くと、男はゆっくりとその場に倒れた。
「オレ達の体力を徐々に奪って、倒れるのを待ってるつもりか・・・・・」
「ああ、でも奴等の思い通りにはならない。まだまだだ!」
シーグフリードが男達に向かって行くと、フーゴもその後に続いた。
そんな戦いを遠くで見ながら、モルケはようやく塔の前に辿り着いた。
モルケは息が荒くなりながらも
「やっと着いた・・・・・・力を使えれば一瞬で着けるものを。でもこれでようやく塔の中に入れる」とドアの前に行き、ドアを叩いた。
しかし、ドアは開かない。
「おい、聞こえないのか?このドアを開けろ!」
モルケがドアに向かって叫んだ途端、突然ドアが大きく開かれた。
「うわっ!」
中から武器を持った男達が次々と出てきた途端、モルケの小さな体は男達によって遠くへ飛ばされて行った。
戦いが続く中、1人のヴェスト兵がヴェスト王のところに走ってきた。
ヴェスト王の前で止まると、かなり疲れているのか息が荒く、ゼエゼエという声が聞こえている。
「王様・・・・・・・・」
「かなり疲れているようだな。それにまだ戦いは続きそうだ」
ヴェスト王の前でひざまづいている兵に、ヴェスト王はゆっくりと立ち上がった。
そして兵を見ながら静かにこう言った。
「私の力が必要のようだな。そのままそこにいるのだ。すぐに良くなる」
ヴェスト王はゆっくりと両手を合わせた。
そして小声で呪文のようなものを唱えると、ヴェスト王から光が出てきた。
ヴェスト王を中心に丸い魔法陣のようなものが現れ、それは前にいる兵もその中に入っている。
ヴェスト王から光が消えると、魔法陣から光が出てきて兵の体を包み込んだ。
しばらくしてその光が消えると、兵は体力が回復したのか体を確かめるように動かしている。
「回復したようだな。戦いに行けるか?」とヴェスト王
「はい、ありがとうございます。王様!」
兵はヴェスト王に頭を下げると、再び戦いの場へ走り去って行った。
「す、すごい・・・・・・・・」
一部始終を見ていたホーパスが驚いていると、ヴェスト王が気がついて2人を見た。
「どうやらずっと見ていたようだな」
「え、あ、いや・・・・・・・・」
アルマスが慌てていると、ヴェスト王は微笑みながら
「この力が気になるのか?こちらに来てこの中に入ってみてもいいぞ」
「い、いや・・・・・・・」
アルマスが遠慮していると、ホーパスがヴェスト王のところに移動して行った。
そして魔法陣の中に入ると
「すごい、文字みたいなものが書いてあるよ!僕読めないけど」と下にある文字を見ている。
「言葉が話せるネコか。これは面白い。この魔法陣が気に入ったようだな」
ヴェスト王がホーパスが見えるのか、微笑みながらホーパスを見ている。
「え、僕が見えるの?嬉しいな」
ホーパスがヴェスト王の方を向くと、アルマスがヴェスト王に近づいてきた。
「これは一体・・・・・・・・」
「これは回復の魔法陣だ」
アルマスが途中まで言いかけると、それに応えるようにヴェスト王が言った。
「この魔法陣の中に入れば、消耗した体力やケガが回復する。私が生まれながらに持っている力だ」
「回復の魔法陣・・・・・・・」
「死んだ者を生き返らせることまではできないが、重いケガでも時間をかければ回復できる」
「そうなんだ、ちょっと残念だな」
それを聞いたホーパスはがっかりした「もし生き返られるなら、今ここで頼んだのに」
一方、絶え間なく襲ってくる男達にシーグフリードは違和感を覚え始めた。
倒したかと思っていた男が、しばらくすると塔から出てきているのだ。
さっき倒した男、確か少し前にも倒したはずだ。
気のせいかもしれないが、戦った相手は覚えているし、見覚えもある。
もしかしたら・・・・・・・・。
シーグフリードは辺りにいる男達を見た。
男達の影がないか見るが、空が曇っており光がないせいで影が見えない。
その一方でシーグフリード達が倒した男達の死体も至る所に転がっている。
死体はあるが、似たような顔つきの男達がいるのか?
それに天気が悪いせいで、影が見えない。
どうすれば確かめられる・・・・・・・。
すると目の前にフーゴが現れ、目の前にいる男を剣で斬りつけた。
男が倒れると、フーゴはシーグフリードを見た。
「こいつ、さっき倒したと思っていたんだが・・・・・・・こいつらは不死身なのか?」
「分からんが、さっきから同じ奴等か、似たような顔の者が来ているとしか思えない」
「塔からさっきの男が奴等を操っているのか?」
「そうかもしれないが・・・・・」
「このままだとまずいぞ。なんとかしないとみんな体力が持たなくなる・・・・来たぞ!」
フーゴが剣を構え前に出て行くと、シーグフリードもそれに続いて行った。
ヴェスト王のところに、さっきとは別のヴェスト兵が走ってきた。
「お、王様・・・・・ご相談がございます」
「お前も疲れているようだな」
魔法陣の外でひざまづいているヴェスト兵に、ヴェスト王は声をかけた「魔法陣の中に入るのだ」
「は、はい。ありがとうございます」
ヴェスト兵が魔法陣の中に入ると、魔法陣から光が出てヴェスト兵の体を包み込んだ。
光に包まれているヴェスト兵を見ながら、ヴェスト王が聞いた。
「相談というのは何だ?」
「はい、敵ですが、何度倒してもすぐに復活して戻ってきているような気がするのです。何かあるのではないかと」
「・・・・・そうか。どうりで敵が絶え間なくあの塔から出てきていると思っていた」
「はい。他の者も同じことを思い始めているようです」
「ならば確かめなければならぬな」
ヴェスト王はなぜかアルマスの方を向いた。
ヴェスト王に見られたアルマスは戸惑った。
「え・・・・あ、あの・・・・・」
「お前は炎の力を持っているのだろう?」
「え・・・・・!どうしてそれを・・・・・?何も話していないはずなのに」
ヴェスト王に言い当てられ、アルマスがさらに戸惑っていると、ヴェスト王は微笑みながらさらにこう言った。
「それだけではない。私には見える。お前の側に炎の妖精と光の妖精がいるのを」
するとぼわっという音とともにエルドとユースが出てきた。
「どうして私達が見えるの?」とエルド
「あの司祭もそうだったけど、何かありそうね・・・・・よく分からないけれど」
ユースがヴェスト王を見ていると、ヴェスト王は再びアルマスを見た。
「込み入った話は後だ。今は目の前の戦いに集中しよう。まずは敵を倒さなければならぬ。私の力とお前達の力を合わせるのだ。
そうすれば敵を倒せるだろう」
「一体、どうやって?」とホーパス
「私にはさっき言った通り、この魔法陣がある。回復の力の他に少しだが別の力がある」
するとユースが気がついたのか、下の魔法陣の文字を見ながら言った。
「もしかしたら・・・・・光の魔法も使えるってことかしら」
ヴェスト王はユースが見ている場所の文字を見た。
「光の魔法ではないが、それぞれ持っている力を増幅させることができる」
「なるほど、力を増やせるのね。それならうまくいくかもしれないわ」
ユースが何度もうなずいていると、それを見ていたエルドが聞いた。
「何か考えがあるの?」
「力を増幅できるなら、光の力で敵を倒せるかもしれない」
「そうね。炎の力も増やせるのなら、合わせて敵に向ければ・・・・・・」
「そうね」
2人はうなづくと、同時にアルマスを見た。
「何か思いついたの?」
アルマスの真上でホーパスが2人に聞いた。
エルドがアルマスの前に移動すると、戸惑っているアルマスに言った。
「ヴェスト王の増幅の力を借りて、炎を敵に向けて出すのよ」
「それはいいけど、シーグフリードさん達がいるから、うまく出せるかどうか・・・・・」
「それなら先に光を出して、敵を動けなくすればいいわ」
ユースがヴェスト王の前まで移動すると、ヴェスト王に聞いた。
「力を増幅するにはどうすればいいの?」
「魔法の指示は私が出す。そのまま魔法陣の中にいればいい。力が増えていると感じるようになったら力を放つのだ」
ヴェスト王は回復を終え、光が消えたヴェスト兵を見ると、こう命令した。
「今からある作戦を実行する。他の者にこう伝えるのだ。できるだけ敵から離れるようにと」
ヴェスト兵が魔法陣から離れ、走り去ってしまうとヴェスト王はアルマスを見た。
「これから作戦を実行する。私の言う通りに動いてもらいたい」
「作戦・・・・・・?作戦ってさっきみんなで話していたことですか?」
アルマスは話がよく分からず戸惑っている。
「ほぼ合っているが、それとは別に確かめたいことがある」
「確かめたいこと・・・・・・?」
「それは最後に話そう。まずは敵を倒すことに集中しよう・・・・まず先に光を増やすことからだ」
ヴェスト王はアルマスの側にいるユースを見た。
「まずは光の妖精からだ。光を増幅させる。そのまま今いるところにいるだけでいい」
「ここにずっといればいいの?」とユース
「その通りだ。持っている光の力を最大限まで近づけるようにする」
「力を増やすって、ユースがまた大きくなっちゃうの?教会の時みたいに」
それを聞いたホーパスがユースを見ていると、ユースは平然と答えた。
「教会の時は強力な力が降りかかってくるなんて思わなかったのよ。今度は大丈夫。そのまま力を蓄えるようにするわ」
ヴェスト王は右手を見ると、ある呪文を唱えた。
右手からは光が出て、たちまちその光に包まれると、その光をユースに向けた。
ユースの小さな体がたちまち光に包まれていく。
一方、シーグフリードとフーゴが男達と戦っていると、近くでヴェスト兵が何か声を上げているのが聞こえた。
「あのヴェスト兵、さっきから何と言ってるんだ?」
シーグフリードが剣を目の前の男に向けながら、左隣にいるフーゴに聞いた。
フーゴも目の前にいる別の男を見ながら、しばらくして答えた。
「・・・・敵から離れろと聞こえるが、今のこの状況じゃ無理だ」
シーグフリードとフーゴはそれぞれ別の男と戦っているからだった。
「敵から離れろって?どういうことだ」
「オレにも分からん」
「とにかく目の前にいるこいつらを倒してからだ」
シーグフリードがそう言った途端、一瞬にして辺りが真っ白になった。
「・・・・・!?」
光はだんだんと明るくなり、あまりにもの眩しさに2人は思わず目をつぶった。
しばらくして光が消えると、2人はゆっくりと目を開けた。
「・・・・・・・!?」
さっきまで目の前にいた男達の姿はすっかり消えている。
シーグフリードが辺りを見回すと、数人のヴェスト兵以外、敵である男達の姿が見えない。
ヴェスト兵達も辺りを見回し、戸惑っているようだ。
「・・・・・敵が消えた。一体、どうなっているんだ?」とシーグフリード
「・・・・やはり、そういうことか」
敵が1人残らず消え去っているのを見たヴェスト王がつぶやいた。
「え、敵がいなくなってる。どういうこと?」
ホーパスが戸惑いながら見ていると、ユースがホーパスの方を見た。
「さっきまで戦っていた相手は幻だったってことよ」
「え、幻って・・・・・・どういうこと?」
それを聞いてさらに分からなくなっているホーパス
「つまりホーパス、あなたと同じで実体がない敵がさっきまでいたってこと」とエルド
「そういうことだ。塔の中にいるさっきの男なのかどうかは分からないが、幻の敵を作り出し、兵達を欺いていたのだ」
ヴェスト王はホーパスにそう言うと、小さく見えるヴェスト兵に向かってこう呼びかけた。
「今のうちに体力を回復させるのだ。いったんこちらに戻ってこい!」
それを聞いたヴェスト兵達がヴェスト王のところへと戻り始めた。
「ヴェスト兵が動き出したぞ、どういうことだ?」
それを見たシーグフリードが戸惑っていると、フーゴはヴェスト王がいる場所を見ながら
「たぶんヴェスト王が呼んでいるんだろう。何を言っているのかまでは分からないがこっちに来いと手招きしている」
「戻ってこいと言ってるのか?」
シーグフリードがヴェスト王を見ると、ヴェスト王が来いとばかりに大きく右手を縦に振っている。
「どうやらそのようだな。何か考えがあるんじゃないか?」
「・・・・・話だけでも聞いた方がよさそうだな」
2人がヴェスト王のところに戻ろうと歩き出した途端、後ろから大声が聞こえてきた。
「シーグフリード!」
2人が振り返ると、塔のドアからシーグヴァルドが出てきたところだった。
右手に剣を持ち、だんだんと2人に近づいてきている。
「シーグヴァルド・・・・・・!」
シーグヴァルドを見た途端、シーグフリードは立ち止まり腰から剣を抜いた。
シーグヴァルドがシーグフリードの手前で止まると、剣をシーグフリードに向けた。
「今度こそお前を倒す」
「望むところだ。今度こそ決着をつける」
2人はにらみ合い、いつ攻撃をするかお互い様子を伺っている。
フーゴが右手を腰に当て、剣を抜こうとすると、シーグフリードがこう言った。
「手助けは不要だ。ここはオレ達だけで決着をつけたい」
「・・・・・・分かった」
フーゴは戸惑いながらも、それに応じ、2人から離れるように移動を始めた。
アルマス達はその様子を見ていた。
「フーゴさん、こっちに戻ってくるみたい」
だんだん近づいてきているフーゴを見ているホーパス
ヴェスト王はシーグフリードを見つめながら
「なぜ戻ってこない。さっきまでの戦いでかなり体力が消耗しているはずだ」
「まずいタイミングで出てきたからね。シーグヴァルドさん」
「そのシーグヴァルドという者は何者なのだ」
「シーグフリードさんの弟だよ。敵だけど」
「弟だと?どうして兄弟で戦っているのだ?」
ヴェスト王がそう言った途端、空から雨のしずくがヴェスト王の鼻の上に落ちてきた。
「雨が降ってきたわね」
すっかり暗くなっている空を見上げるエルド。
空から雨が降ってきた途端、本降りになってきた。
ザーという大きな雨の音が聞こえる中、シーグフリードとシーグヴァルドはお互い動かず、じっとお互いの動きを伺っている。
「・・・・・なぜそこから動かない?さっきの戦いで疲れているのか?」
相手が動かないことに苛立っているのか、シーグヴァルドが話し出してきた。
「そうかもしれないが、関係ない。お前こそどうして攻撃してこないんだ?」
剣を構えながら、シーグフリードが挑発するようにシーグヴァルドを見た。
するとシーグヴァルドはイラっときたのか
「そうやって余裕ぶっているのも今のうちだ。すぐ終わりにしてやる!」と剣を高々と上に上げた。
その時、背後でピカッと稲妻が走り、雷が落ちてきた。
それにも構わずシーグヴァルドは大声を上げ、シーグフリードに襲い掛かってきた。
シーグフリードは剣を振ると、2人の剣がぶつかり合う金属音が聞こえてきた。
2人はお互い力と力のせめぎあいで剣を押し合う形になるが、しばらくするとお互いが離れるように後ろへと移動する。
そしてしばらくするとシーグヴァルドが再びシーグフリードに襲い掛かり、剣と剣がぶつかり合う。
それが数回繰り返された。
「天気が荒れてきたわね」
すっかり真っ黒になっている空を見上げるユース。
「しかし、なかなか決着がつかなさそうだな。早くなんとか決着がつくといいが」
戦っている2人を見ながら、複雑な表情をしているヴェスト王。
「あの2人、会うといつもそうだけど・・・・・いつも決着がつかないんだ」
ホーパスがそう言った後、ずっと空を見ているユースの方を見た。
「どうしたの?ユース」
エルドもユースの様子に気がつき、話しかけるとユースがエルドを見た。
「この空、なんだか嫌な感じがするの」
「嫌な感じ?」
「なんだか大きな力が渦巻いているような気がするわ。大きな闇の力と言うか・・・・・・」
「闇の力だと?」
それを聞いたヴェスト王が思わず反応して聞き返した途端、近くで雷が大きな音を立てて落ちた。
「うわっ!びっくりした・・・・・・怖いよ」
身震いしているホーパス。
「大丈夫だ。この魔法陣の中にいる限り雷は落ちてこない」とヴェスト王
辺りはすっかり嵐のように荒れているが、2人の戦いは続いていた。
雨が強くなり、2人はすっかりずぶ濡れになっている。
さらに風が出てきて、時折強い風が2人に吹きつけてきている。
すっかり嵐になっている。風に体が持っていかれそうだ。
このままだとまずい。そろそろ決着をつけないと・・・・・。
シーグフリードがそう考えていると、シーグヴァルドが大声を上げながら再び襲い掛かってきた。
シーグフリードが動こうとした時、不意に濡れた地面に右足を取られ、前に転びそうになった。
「くっ・・・・・・・」
シーグフリードはすぐに左足を前に出し、辛うじてその場に留まると、シーグヴァルドの剣をなんとか自分の剣で止めた。
「シーグフリード!」
それを見たフーゴが声を出し、2人のところへ行こうと魔法陣の外に行こうとした。
「待て、早まるな!」
それを見たヴェスト王が大声を出すと、フーゴがヴェスト王を見た。
「このままだとシーグフリードが危ない。このままここで見ていろと言うのか?」
「ならば、こちらから手助けをするしかない」
ヴェスト王は両手を前に出し、手を合わせると、両手から光が出てきた。
そしてアルマスと、その側にいるユース、エルドを見ながら
「お前達の力をこれから増幅させる。力が増えたと思ったタイミングで、向こうにいるあの2人に力を放つのだ」
「分かりました」
アルマスがうなづくと、隣にいるエルドとユースも黙ってうなづいた。
魔法陣から光が出ると、アルマス、エルド、ユースの体を包み込んで行く。
それを見たヴェスト王は両手から出ている光を自分に向けた。
ヴェスト王の体が自分の光によってだんだんと強く光り出して行く。
「どういうことだ・・・・・自分で自分の力を増やしているのか?」
フーゴが戸惑いながらもヴェスト王を見ている。
しばらくしてヴェスト王の体全体がまばゆい光に覆われると、ヴェスト王は自分に向けていた両手を下に降ろした。
そして戦っているシーグフリードを見ると、軽くため息をついた。
「全く。いったん回復のためにここに戻ってくればいいものを。世話の焼ける王だ・・・・・・」
ヴェスト王は右手を前に伸ばすと、指先をシーグフリードに向けた。
ヴェスト王の体から強い光がその指先に向かうと、シーグフリードに向かって放出して行った。
一方、2人の戦いは続いていた。
2人ともすっかり雨で体が濡れ、お互い疲れが溜まっているのか息が上がってしまっている。
そんな中、シーグヴァルドの剣先がシーグフリードの右わき腹をかすった。
「うっ・・・・・・・」
わき腹に痛みが走り、シーグフリードが苦しい表情を浮かべている。
しかし倒れることなく、辛うじてその場に立っている。
それを見たシーグヴァルドは不気味な笑みを浮かべた。
「お前もこれで終わりだ!」
高々と剣を突き上げながら、シーグヴァルドがシーグフリードに向かってきた。
「危ない!」
それを見た途端、アルマスとエルドは炎を2人に向けて放出した。
2人の放った炎の柱が次第にひとつになり、太く大きな炎の柱になって向かっていく。
「シーグヴァルド・・・・・・!」
わき腹に激痛が走りながらも、シーグフリードは向かって来ているシーグヴァルドの動きを見ていた。
そしてもう少しでシーグヴァルドがシーグフリードの目の前に行こうとした時、ヴェスト王が放った光がシーグフリードの体を包み込んだ。
それに少し遅れて、アルマスとエルドが放った炎がシーグヴァルドとシーグフリードの間を横切るように通り抜けた。
「な、何・・・・・・・!」
炎の勢いに思わず立ち止まるシーグヴァルド。
その時だった。
空から稲妻が光ったかと思った途端、その稲妻がシーグフリードの体に直撃したのだ。
「うわああああああーーーーーーーーーー!」
大きな稲妻の音と共に、シーグフリードの叫び声が聞こえてきた。
「雷が!」
それを見たホーパスは思わず声を上げた。
「そ、そんな・・・・・・嘘だろ」
フーゴも信じられないという表情でショックを隠し切れない。
「大丈夫だ。私の光が先にあの者を守っている。大丈夫だ」
ヴェスト王はそう言いつつも、内心不安に襲われた。
私の光が先に到達している。
しかし、あの稲妻の力・・・・・・あの者がどうなっているのかは計り知れない。
お願いだ、なんとか持ちこたえてくれ・・・・・・・!
ヴェスト王は両手を合わせ、シーグフリードの無事を祈っている。
エルドとユースは何も言わず、ただ光に包まれているシーグフリードを見ている。
アルマスも黙って見ているしかなかった。
一方、雷に打たれたシーグフリードは気がつくと、明るい光の中にいた。
雷の衝撃で気を失っていたのだ。
ここは一体、どこだ・・・・・。
シーグフリードが体を動かしてみると、右わき腹に激痛が走るはずが何も感じない。
見てみると右わき腹のケガがすっかり治っている。
ケガが治っている。それにすっかり疲れも取れているみたいだ。
一体これは・・・・・・。
シーグフリードは何が起きているのか分からなかった。
それになんだか力が沸き上がってくる感じだ。
体の底から力がみなぎってくるような・・・・・・。
これは一体・・・・・・・。
シーグフリードが両手を前に出し、見た途端、体が青い光に包まれた。
一方、外ではシーグヴァルドがその光を見ていた。
「雷に打たれたのだ。さすがにもう生きてはいないだろう」
不気味な笑みを浮かべながら、シーグヴァルドは後ろにいるヴェスト王達の方を振り返った。
「もう邪魔者はいない。あとは向こうにいるあの連中を倒すだけだ」
シーグヴァルドがヴェスト王達の方に行こうと、光に背を向けて歩き出そうとした。
その時、光が突然強く光り出したではないか。
「な、何・・・・・・!?」
後ろを振り向いた途端、シーグヴァルドは驚きの表情を見せた。
そこには青い光に包まれたシーグフリードの姿があった。
右わき腹の傷はすっかりきれいになくなっている。
雷に打たれる前とは違い、シーグフリードの姿からはものすごい覇気が感じられる。
「シーグフリードさん!生きてたんだ!」
シーグフリードの姿を見た途端、明るい表情に変わったホーパス
「あの雷の中、どうやって・・・・・?でも無事でよかった」
フーゴも驚きながらも安堵の表情でシーグフリードを見ている。
「よかった・・・・・・」
ヴェスト王も胸を撫で下ろすと、シーグフリードから出ている青い光を見ながら、心の中で思うのだった。
青い光があの者を守っている。
さきほどとは違い、威厳さえ感じられる。
やはりあの者がヨーデンの王・・・・・・。
青い光に包まれたシーグフリードに、シーグヴァルドはすっかり動揺していた。
「なぜ・・・・・なぜだ?雷に打たれたのになぜ生きている?」
「今度はこっちの番だ」
シーグフリードが静かに答え、右手に剣を構えると、シーグヴァルドに向かって行った。
動揺しているシーグヴァルドの前に現れると、シーグフリードは次々と剣でシーグヴァルドに襲い掛かった。
以前とは明らかに動きが速く、シーグヴァルドは自分の身を守ろうと防戦一方になってしまっている。
「な・・・・なぜだ?明らかに以前とは違う。一体何が起こっているんだ・・・・?」
シーグヴァルドはさらに動揺しながらも、攻撃する機会を狙っていた。
戦い続けているうちに、シーグフリードが一瞬後ろの塔の方を向いた。
それをシーグヴァルドは見逃さず、後ろから剣を高く振り上げ、背中を斬ろうとしたが
剣を降ろそうとした時、シーグフリードが振り返り、素早く持っている剣でシーグヴァルドの剣を止めた。
シーグヴァルドの剣は撥ね返され、シーグヴァルドの手から離れると、左横に落ちて行った。
「そこまでだ」
「うっ・・・・・・・・」
シーグフリードに剣を向けられたシーグヴァルドは動けず、どうするか戸惑っている。
すると後ろからゴゴゴゴゴ・・・・と低い音が聞こえてきた。
2人が後ろを見ると、塔がゆっくりと動き出している。
「シーグヴァルド!」
塔のドアから大柄の男が顔を出し、シーグヴァルドを呼びながら来るようにと手を振っている。
シーグフリードが前を向き、シーグヴァルドを見ると、シーグヴァルドは塔に向かって走っていた。
シーグフリードがその後を追いかけようとするが、目の前が光り、雷が落ちてきて、シーグフリードの動きを止めた。
シーグヴァルドが塔に追いつくと、高く飛び上がり、大柄の男がシーグヴァルドの手を取ると、そのままシーグヴァルドを塔の中に
引き込んで行った。
ドアが閉まると、塔はゆっくりと空へ向かって上がって行く。
「待て!」
空高く上がって行く塔に向かってモルケが叫んでいる。
「待て!オレも一緒に連れて行け!」
しかし、そんな声もむなしく、塔は空へと上がって行く。
シーグフリードが塔を見上げていると、フーゴ達がやってきた。
「シーグフリード、大丈夫か?」
フーゴがシーグフリードの体のケガを確かめながら声をかけると、シーグフリードはフーゴの方を向いた。
「フーゴ・・・・ああ、大丈夫だ。お前こそケガはないか?」
「オレは大丈夫だ」フーゴはうなづくと、空に浮かんでいる塔を見上げた「しかし、また逃げられるなんて・・・・」
「ああ・・・・」シーグフリードは再度、空を見上げた「でも、もう逃げられるところはないはずだ」
「どういうことだ?」
「ヴェスト以外の他の場所は儀式が済んでいる。儀式が済んだところには塔は行けないはずだ」
「じゃ、それなら・・・・・一体どこに行くつもりなんだ?」
「まさか・・・・・・!」
2人の後ろで、塔が向かっている方向を見たヴェスト王が声を上げた。
シーグフリードはヴェスト王を見た。
「まさかって・・・・・まだ塔が行ける場所があるのか?」
ヴェスト王は塔を見上げながら
「すぐ近くにセントラルがあるが・・・・・そこには行けないはずだ」
「セントラルだって?」とフーゴ
「セントラルには入れないはずだ。あの場所はたやすく入れないように結界が張ってあると聞いている」とシーグフリード
「その通りだ。あの場所は誰もが入れるところではない。強い結界を空まで張っているのだ」
ヴェスト王はそう言いながらも、塔を見上げながら不安そうな表情を隠せない。
「結界を張ってるって・・・・もしかしたら王様が張ってるの?」とホーパス
「セントラルの結界は私と父で張っている。ここヴェストとエストの2カ所からセントラルの周りを覆うようにしているのだ」
空は相変わらず真っ暗で、雨が降り続き、時折雷が落ちている。
しばらく塔の行方を下から追っていると、塔の動きが止まった。
「動きが止まった・・・・・」
シーグフリードが止まっている塔を見ながらその場に立ち止まった。
「この後どうするんだ?そのまま降りてくるつもりなのか?」
シーグフリードの隣で塔を見ているフーゴ
「少し先の壁の向こうがセントラルだ!」
ヴェスト王が少し先にある壁を見て声を上げた「やはりセントラルに入ろうとしている」
「何だって・・・・・結界は?どこにあるんだ?」
シーグフリードが壁がある場所の上を見るが、結界らしきものは見えない。
「結界に少しでも触れると分かるはずだ。火花のような赤い光が出る。結界にぶつかったものは何らかのダメージを受けるはずだ」
一方、シーグフリード達から少し後ろでは、アルマス達が塔を見ている。
「結界を張ってるんだったら、セントラルには入れないんじゃないの?だから止まってるのかな」
ホーパスが壁の上で止まっている塔を見ている。
「さあ・・・・・・これからどうなるんだろう」
アルマスも塔を見ていると、その隣ではエルドとユースも塔を見上げている。
「一体、どうするつもりなのかしら」とエルド
「結界が張られているのなら、この先は入れないはず・・・・・」
ユースがそう言い終えた途端、止まっていた塔が動き出した。
空には雷が鳴り、稲妻の光が一瞬塔を明るく照らした。
塔は少し前に動いては止まり、すぐまた少し前に動いては止まりを繰り返している。
まるで何かを確かめているかのように、ゆっくりと壁の向こう側へ行こうとしている。
塔が半分近く、壁の向こう側に移動すると、ヴェスト王が動揺しながら声を上げた。
「な、何と・・・・・・!これはどういうことだ?塔が結界を超えているとは・・・・・・」
「何だって?」
シーグフリードがヴェスト王を見ると、ヴェスト王は塔を見ながら戸惑っている。
「いつの間に塔の半分がセントラルに入ってしまっている!どういうことだ?結界が易々と破られるなんて・・・・・・」
「結界を張っているんじゃないのか?」
「この場所は確か強い結界を・・・・・・なぜだ?どうして入れるんだ・・・・・・」
ヴェスト王がわめいているうちに、塔はゆっくりと壁の向こう側へ入って行ってしまった。
塔がセントラルの中に入って行ってしまうと、塔の姿がゆっくりと降りしきる雨の中に消えて行った。
「塔が消えた・・・・・・・」
ホーパスが塔が消えた場所を見ていると、ヴェスト王の嘆く声が聞こえてきた。
「なぜだ・・・・・一体どうして?強い結界を張ったはずなのになぜ入れたのだ・・・・・?」
すると後ろから馬の蹄の音が聞こえてきた。
その音はだんだん大きくなり、馬の姿がだんだん大きく近づいてくると、声が聞こえてきた。
「王様!こちらにいらっしゃったのですか?」
「ニコラウス・・・・・・!」
馬にはニコラウスと1人の兵が乗っていた。
馬はヴェスト王の前で止まると、兵が先に降り、その後ニコラウスがゆっくりと降りてきた。
そしてヴェスト王に近づくと、後ろを振り返り、塔が消えたセントラルの方向を見上げながら言った。
「塔がセントラルへ入っていくのを、馬に乗りながら見ておりました」
「なぜだ?どうしてあの塔がセントラルに入れるのだ?」
ヴェスト王がニコラウスに聞くと、ニコラウスはヴェスト王の方を向いた。
「ヴェスト側に張られている結界がいつの間にかなくなっていたのです」
「何だと?それはどういうことだ?」
「兵の1人から聞きましたが、どうやらあの悪魔が私に変装している間に、結界を消させたようです」
「何と・・・・・!なんということだ・・・・・・」
ヴェスト王がショックを受け、肩を落としていると、その隣でシーグフリードが聞いた。
「結界がヴェスト側で破られたとしても、エスト側では結界は残っているんじゃないのか?」
「エスト側でも結界を張っていますが、どちらかの結界が破られると結界がなくなってしまいます」とニコラウス
「何だって?じゃ今は誰でもセントラルに入れるようになっているのか?」
ニコラウスは黙ってうなづくと、ヴェスト王はさらにショックを受けた。
「なんてことだ・・・・・・父にも迷惑をかけることになるとは」
ヴェスト王が肩を落としていると、シーグフリードが聞いた。
「どうするんだ?結界を張りなおすのか、それともこのままにしておくのか?」
「あの塔がセントラルから出られないように、今から結界を張りなおすのです」
ニコラウスはヴェスト王を見ると、さらにこう続けた。
「結界を張れば、あの塔はセントラルから出られません。中に留まるしかなくなります」
「そうなったら・・・・・・・」とシーグフリード
「結界を張ってから、セントラルに入れば、今度は逃げられることはありません」
それを聞いたヴェスト王は空を見上げた。
「分かった。今から結界を張ろう」
今まで暗かった空はいつの間にか嵐が止み、雲の隙間からは光が出てきた。
それから数日後。
シーグフリード達はセントラルに行くことになった。
ヴェスト王が城の裏側にある、セントラルへ通じる城壁まで案内することになった。
城壁の中にセントラルに通じる黒いドアがある。
「このドアを開ければ、すぐ向こう側がセントラルだ」
ドアの前でヴェスト王がそう言うと、近くにいる1人の兵を見て合図を送るようにうなづいた。
すると兵はドアに近づき、ゆっくりとそのドアを開けた。
ドアが開かれたのを見ると、ヴェスト王はシーグフリードを見た。
「私も一緒に行きたいが、戦争の後片付けがある。この後ノールに行くつもりだ」
「ここまでしていただいて、とても感謝している。ありがとうございます」
シーグフリードは深々と頭を下げた。
すると隣にいるフーゴが声をかけてきた。
「オレも一緒に行こうか?」
「いいや、大丈夫だ」シーグフリードは首を振った「今までありがとう。ノールに帰ってゆっくりしてくれ」
断られたフーゴは一瞬戸惑ったが、しばらくしてうなづいた。
「・・・・・分かった。塔の件、うまくいくといいな」
「フーゴ」そこにヴェスト王が割り込んで来た「この後ノールに帰るのなら、一緒に行かないか?ノールを案内してもらいたい」
「分かりました」
フーゴがヴェスト王に対し、深々と頭を下げた。
シーグフリードとアルマス、ホーパスはドアの前に立った。
「ドアの向こう側、暗いけど大丈夫なの?」
ホーパスがドアの向こう側を覗き込んでいる。
ドアの反対側は薄暗く、両側は岩壁がびっしりと奥まで続いているように見える。
それを聞いたヴェスト王は
「しばらくトンネルになっている。まっすぐ行けば外に出られる。安心しろ」
「それじゃ、そろそろ行くか」
シーグフリードは兵から灯りがついているランプを受け取ると、2人に声をかけた。
「お世話になりました」
アルマスがヴェスト王やフーゴ達がいる方を振り返ると、そう言って頭を下げた。
シーグフリードも馬を連れ、後ろを振り返り、黙って頭を下げると、3人は次々とドアの中へと入って行った。
最後にシーグフリードが馬を連れてドアの中に入り、しばらくして姿が薄暗い闇の中に消えると、兵によってドアがゆっくりと閉められた。
「・・・・・行っちゃったな」
ドアを見ながら寂しそうにフーゴがぽつりともらすと、その後ろでこんな声が聞こえてきた。
「・・・・・また会おう。ヨーデンの王よ」
「え?」
フーゴが後ろを振り返ると、その反応に少し戸惑ったヴェスト王がいた。
「い、いや・・・・・・我々もノールに行くぞ。行く準備をするのだ」
ヴェスト王が塔の中に入ろうと歩き始めると、周りの兵達もいっせいに動き出すのだった。