セントラルの呪術師



「ようやくセントラルに入ったようだな」
セントラルに通じる城壁の中に入って行ったシーグフリード達を、画面で見ていたトールヴァルドがつぶやいた。
「そうね」トールヴァルドの右隣で画面を見ていたティードがうなづいた。
そしてトールヴァルドを見ると
「この後はどうするの?セントラルに降りて行くの?」
「そうだな・・・・・・」
トールヴァルドは画面を見つめたまま、何かを考えているのか黙ってしまった。
そしてしばらく間が空くと、静かにこう切り出した。
「・・・・・まだ会うのは早いだろう。しばらく様子を見てから、降りるタイミングを決める」
「それなら、もう降りる準備はしないといけないわ。すぐ下に降りれるわけじゃないから」
「そうだな。まだ早いがあの男に連絡を入れておくか」
トールヴァルドは画面を見つめたままつぶやくのだった。



一方、セントラルに通じるトンネルを歩いているシーグフリード達。
しばらくすると先が明るくなり、3人はトンネルから外に出た。
辺りは何もなく、草木が一面に広がっている草原のような場所に出た。
空は青く晴れ渡り、遠くから鳥のさえずりが聞こえている。



「ここがセントラルなの?何もなさそうだけど」
ホーパスが辺りを見回している。
するとシーグフリードはホーパスを見て
「セントラルは聖なる場所だ。目立つ高い建物はない。あるのはこの草原と森ぐらいだ」
「セントラルには来たことはあるの?」
ホーパスがシーグフリードの方を向いて聞くと、シーグフリードは首を振った。
「来たことはないが、そう聞いている」



「高い建物がないんだったら、塔は目立つからすぐ見つかるんじゃないの?」
ホーパスは塔を探そうと、その場からさらに空へ向かって上がって行く。
そしてある程度の高さまで上がると、止まって辺りを見回している。
「ホーパス、塔は見える?」
アルマスがホーパスの姿を見上げながら聞くと、しばらくしてホーパスが下を向いた。
「高い建物は見えないよ。この辺りに塔はないみたい」



ホーパスが下に降りて来ると、シーグフリードはどうするか考えていた。
「塔が見えないんじゃ・・・・・一体どこに行けばいいんだ?」
「この辺りみんな同じ景色だから、どっちに行けばいいのか分からないよ」とホーパス
「せめて塔が少しでも見えれば・・・・・・・」
アルマスがそう言った時、突然身に着けているペンダントが光り出した。



「え・・・・・・・?」
光っているペンダントを見ながら、アルマスが戸惑っている。
「ペンダントがまた光ってる!」とホーパス
シーグフリードがその光を見た時、何かを思い出したのかはっと大きく目を見開いた。
「そういえば・・・・・・・!」
シーグフリードはすぐ側にいる馬に積んである剣を見た。
「塔に行く前に、この剣の呪いを解かねばならない」



シーグフリードは剣を取り出した。
「先に呪術師のところに行こう。場所は確か・・・・・・・・」
「場所は分かるの?」とホーパス
「セントラルに入って、近くの集落にいるってヒルダさんが言ってた。このペンダントが導いてくれるって言ってたけど・・・」
アルマスが途中まで言いかけた途端、ペンダントがいきなりアルマスを引っ張るかのように、前へと強く動き出した。
まるで生きているかのように、前へ前へとアルマスを引っ張って行く。



「ペンダントが動いた!生きてるみたい」
驚いているホーパスに、アルマスも戸惑いながら前へと動き出した。
「ペンダントが案内してくれるみたい・・・・・・・・前へって言ってるみたいだ」
「なら、そのペンダントが動く方へ行こう」
シーグフリードは剣を馬の背中に戻すと、3人はペンダントが動く方向へ歩き出した。



しばらくすると、前へと動いていたペンダントの動きが止まった。
宙に浮いたまま、その場に留まっている。
「止まった・・・・・・・・」
アルマスが立ち止まると、その後ろにいるシーグフリードは辺りを見回した。
「ここなのか?何もなさそうだが」
「周りは何もなさそうだけど」
ホーパスも辺りをキョロキョロ見回してみるが、辺りは草原が広がっているだけだった。



すると止まっていたペンダントがアルマスの周りをぐるぐると回り始めた。
何かを探しているように、ゆっくりとアルマスの周りを回っている。
「・・・・・ここじゃないみたい。何かを探してるみたいだ」
ペンダントの動きを見ているアルマス
ホーパスも動いているペンダントを見ながら
「本当だ。何を探してるんだろう?」
「集落の場所を探しているのか?」とシーグフリード
「たぶん、そうかもしれない」



しばらく3人がペンダントの動きを見ていると、突然ペンダントが何かを見つけたように、左横でピタッと動きを止めた。
そして再びアルマスを引っ張るように、左へ左へと動き出した。
「今度は左だ」
3人はペンダントに導かれるように、左側へと歩き出した。



3人はしばらく歩いていたが、集落が近づいているのか、だんだんとペンダントの動きに変化が見られた。
アルマスを引っ張って行く力がだんだんと強く、激しくなっていく。
歩いていたアルマスも、ペンダントに合わせて走らざるを得なくなった。
ホーパスとシーグフリードもそれに合わせて走って行く。



しばらくすると、目的地に着いたのか、突然ペンダントの動きが止まった。
ペンダントが下に落ち、アルマスの首に下がると、アルマスは足を止めた。
アルマスが息を整えていると、シーグフリードも足を止め、辺りを見回した。
「ここなのか?」
「まだ途中なのかな?周りは何もなさそうだけど」
ホーパスも辺りを見回すが、辺りは深い茂みがあるだけだ。



アルマスはペンダントを見るが、ペンダントは動かず、光もなくなっている。
「ペンダントが何も反応しないから、この辺りなのかも」
「じゃ、この近くなのかな?」
ホーパスがそう言った途端、右側の茂みからガサガサという音が聞こえてきた。
「誰だ!」
シーグフリードは腰の剣に右手をやりながら、右側の茂みに向かって声を上げた。



すると1人の男性が茂みから姿を現した。
茶色の短髪の髪に細身で背が高く、すらっとした中年の男性だった。
その男性は3人を見た途端、こう切り出した。
「あなた達はどこから・・・・・ヴェストから来たんですか?」
「そうだ」シーグフリードはうなづくと、男性に聞いた「この辺りに集落はないか?」
するとまた右側の茂みからガサガサという音が聞こえてきた。



今度は1人の老婆が姿を現した。
白髪で背が低く、黒のワンピースらしき服を着ており、細長い杖をついて歩いている。
老婆はシーグフリード達を見渡すと、アルマスに近づいて行った。



アルマスの前に老婆が来ると、ペンダントを見つけたのか、右手をペンダントにのばしてきた。
「そのペンダントは・・・・・・お前達がヒルダが言っていた者達だな」
「どうしてそれを・・・・・?」
アルマスが驚いていると、老婆はペンダントに触れながら
「ヒルダから連絡があった。ここに呪いがかかった剣を持ってくる青年が来るから、呪いを解いて欲しいとな」
「え、じゃあなたが・・・・・・」
それを聞いたシーグフリードが老婆を見ると、老婆はうなづきながら
「詳しい話は集落に戻ってから聞こうか。集落に案内しよう」



しばらくしてシーグフリード達は集落らしき場所に着いた。
深い茂みと茂みの間に開かれた場所があり、そこに小さなテントらしき建物がある。
「ここが集落なのか?」
シーグフリードが辺りを見回していると、その右隣で中年の男がうなづいた。
「ここに住んでいるのは私と師匠の他にはほんの数人だけです」
「師匠というのは・・・・・・」
「挨拶が遅れました。私は弟子のフェリクス。前にいるのが師匠のヴェロニカさんです」
シーグフリードが前にいる老婆、ヴェロニカを見ていると、ホーパスがフェリクスに聞いた。
「どうしてここは人があまりいないの?」
するとフェリクスはホーパスが見えるのか、少し驚いた表情を見せた。
「こ、この猫、言葉が話せるんですか?」
「え、僕が見えるんだ!嬉しいな」
ホーパスがフェリクスを見て嬉しそうに微笑んでいる。
それを見たアルマスは
「猫の幽霊なんですけど、ホーパスが見えるんですか?」とフェリクスを見ている。
フェリクスは視線をホーパスからアルマスに移すとうなづきながら
「はい、自分は普段見えないものが見えるんです。師匠も見えているとは思いますが・・・・・」
「ねえ、どうして人が少ないの?」とホーパス
「ここは聖なる場所なので、同じところには留まることはせず、セントラルの中を移動しながら暮らしているのです。
 自然が多い場所なので、同じところに留まっていると季節によって寒かったり暑かったりします。なので季節によって
 過ごしやすい場所に移動しているのです」



フェリクスの説明が終わると、前にいるヴェロニカが後ろを振り返った。
そしてシーグフリードを見ると、右手で先にあるテントを指しながらこう言った。
「あのテントの中で話を聞こうか。呪いがかかっている剣も持ってくるように」
「・・・・分かった。今剣を持ってくる」



シーグフリードは後ろに連れている馬の背中に積んである荷物から剣を取り出した。
それを見ていたヴェロニカはシーグフリードに聞いた。
「それが呪われている剣か?」
シーグフリードは黙ったままうなづくと、ヴェロニカはなぜか馬をじっと見つめている。
馬の体全体をゆっくりと見つめ、しばらくするとフェリクスにこう切り出した。
「フェリクス、この馬を外側に連れて行ってくれないか?」
「集落の外にですか?分かりました」
フェリクスはすぐ側にいる馬の手綱を取ると、ゆっくりと馬をその場から連れ出して行った。



その馬の尻尾には、モルケが見つからないように潜んでいた。
ヴェストで塔に行こうとしたが、置き去りにされたモルケはセントラルに入ろうと、シーグフリードの馬に乗っていたのだ。
下がっている馬の毛と毛の間に紛れ、捕まりながら様子を見ている。



しばらくしてフェリクスが深い茂みの前に馬を置くと、ゆっくりとテントがある方へ戻って行った。



だんだん遠くなるフェリクスの後ろ姿を見ながら、モルケは尻尾から地面へと滑り降りた。
「あいつら、何をしようとしているんだ?中に入って様子を見てやろう」
モルケが集落に入ろうと歩き出した時だった。
前に進もうとするが、どういうわけか前に進めない。
見えない何かがモルケの侵入を阻んでいるようだ。
「何だ?なぜ入れない?」
モルケは戸惑いながら右へと移動し、再び集落へ入ろうとするが、やはり先へ進めない。
「なぜだ?どうしてオレだけ中に入れないんだ!」
モルケが右足で前へと蹴とばした途端、見えない壁にぶつかったような痛みが足先に広がった。
「い、痛い!なんだ?目の前に見えない壁があるような・・・・・・」
モルケは痛みで顔をゆがめながら、目の前を見つめている。
しかし、見えるのは小さく見えるテントや、その向こう側にある深い茂みだった。



しばらくするとモルケはあきらめたのか、馬の尻尾に飛びつくと、尻尾から馬の背中へと昇って行った。
そして馬の頭まで移動すると、その場に座り、遠くに見えるテントを見つめるのだった。



フェリクスがテントに入ると、シーグフリード達が椅子に座り、ヴェロニカが剣を見ているところだった。
「馬を置いてきたか?」
ヴェロニカが顔を上げ、フェリクスを見ると、フェリクスはヴェロニカを見てうなづいた。
「はい。集落の外の茂みの前に。どうしてそこに置くように言ったのですか?」
「ああ・・・・・変な虫があの馬に紛れ込んでいるかもしれないからな」
「え?」
「・・・・我々がここにいるのを外に知られたくはない。だから茂みで馬が隠れるように移動させたんじゃ」
「・・・・そういうことですか」
「それより、この剣について詳しく話を聞こうか」
ヴェロニカがフェリクスからシーグフリードに視線を移すと、シーグフリードはヴェロニカを見た。



しばらくしてシーグフリードの話を聞いたヴェロニカは深くうなづいた。
「話は分かった。それでこの剣の呪いを解きたいのだな・・・・・・・」
ヴェロニカは地面に置いてある剣を見つめている。
そして何かを考えているのか気難しい表情でつぶやいた。
「ヒルダが呪いを解けなかったとは、かなり呪いが強いのだな・・・・・・・」
「どうすれば呪いが解けるの?」とホーパス
「この剣からかなりの邪気を感じる。呪いを引き離すのは難しいかもしれぬな」
「なら、諦めて、この剣を手放すしかないのか・・・・・・・」
シーグフリードが剣を見ながらつぶやくと、ヴェロニカは首を振った。
「諦めるのはまだ早い。お前もこれと同じような剣を持っているだろう?見せてみなさい」



シーグフリードが腰につけている剣を取り、ヴェロニカにその剣を見せた。
ヴェロニカは剣を取り、剣の柄の部分を見ると、文様のようなものがあるのが見える。
ヴェロニカは地面にあるもう1本の剣の柄を見ると、同じ文様があるのが見えた。



「2本とも同じ文様があるが、これは・・・・・・・」
「家の文様だ」
ヴェロニカがシーグフリードを見ると、シーグフリードはすぐに答えた。
「文様って?」とホーパス
「自分の家系の印のようなものだ。セーデーでは名の知れた文様らしい」
ヴェロニカから自分の剣が戻されると、シーグフリードは剣の柄を見ながら
「オレのは金の文様だが、弟は銀の文様になっている。どちらも父から譲り受けたものだ」
「つまりこれは代々受け継がれてきた剣なのだな」
ヴェロニカは再びシーグフリードの剣を取ると、それを地面に置いた。



2本の剣を見つめていたヴェロニカは、しばらくするとこんなことを言った。
「この2本の剣を1本にすれば、もしかしたら呪いが消えるかもしれない」



それを聞いたみんなは驚いた。
「何だって・・・・・・!?」
シーグフリードが2本の剣を見ながらつぶやくと、ホーパスも驚きながらヴェロニカに聞いた。
「2本を1本にできるの?どうやって?」
「2本の剣を分解して、剣の刃の部分を溶かして1本の刃にすればできる」とヴェロニカ
「でも、それは剣の職人がいないとできないだろう。職人はいるのか?」
シーグフリードがヴェロニカを見ると、ヴェロニカはうなづきながら
「剣の刃職人は呼べば来る。それに刃を作るにはかなりの火が必要だ。2本の刃を溶かし、再び1本の刃を作るのだからな」
「それはそうだが・・・・・それに剣を作る場所はここにはあるのか?」
「テントの外であれば、場所を決めて作ろうと思えば作れます」とフェリクス
「それなら、場所はお前に任せよう」
ヴェロニカがフェリクスに場所を決めるよう依頼すると、フェリクスは黙ったままうなづいた。
「あとは火か。火を言えば・・・・・・・」
ヴェロニカはそう言うと、なぜかアルマスの方を向いた。



「えっ・・・・・・・」
みんなの視線がいっせいに向けられると、アルマスは戸惑った。
ヴェロニカはアルマスを見つめながら
「お前は炎の力を持っている。剣を作るのに協力してくれるな?」
「え、ど、どうして分かるんですか?僕が炎の力を持っているって・・・・・・」
「私には見えるんじゃよ。お前を初めて見た時から、炎の力があるのが見えるんじゃ」
ヴェロニカは微笑みながら、再びアルマスに聞いた。
「刃を作るのにはお前の力が必要だ。協力してくれるな?」
「は・・・・・はい」
アルマスはうなづくしかなかった。



「そうとなれば・・・・・あとは剣を作るタイミングを見計らなければならぬな」とヴェロニカ
「え、職人が来たらすぐ作れるんじゃないの?」とホーパス
「剣を作り直すだけじゃない。呪いも同時に解かねばならない。それには晴れた月灯りの夜に行う必要がある」
ヴェロニカは視線を再び地面に置いてある2本の剣に向けた。
「満月の月灯りの下でまず呪いを解き、その後大量の炎で剣を溶かし、3日3晩かけて1本の剣を作る」
「え、剣を作り直すのにそんなにかかるの?」
ヴェロニカの言葉を聞いて驚くホーパス
「2本の剣の刃を溶かし、1本の刃にするには相当の時間がかかるんじゃ」
「天気ですが、しばらくは安定すると思います」
フェリクスが話を変えると、ヴェロニカはフェリクスに視線を移した。
「それならすぐに職人を呼べるな。天気が荒れないうちに、この件を片付けたい」
「職人を今から呼びますか?」
「・・・・・その前に、本当にそれでいいのか確認せねばならぬな」
ヴェロニカはシーグフリードを見るが、すぐにフェリクスに視線を戻した。
「しばらく私とシーグフリードの2人にしてくれないか?本当にそれでいいのか確認をしたい」
「分かりました」フェリクスはうなづくと、アルマスとホーパスを見てこう言った。
「しばらく私達は席を外しましょう。外に行きましょうか」



フェリクスがアルマスとホーパスを連れて外に出た。
ホーパスは後ろのテントの方を振り返って
「一体、何の話をするんだろう?気になるな」
「2本の剣を1本にするから、それでいいかの確認だと思うよ」
アルマスの頭の上の高さにいるホーパスを見上げながら、アルマスが答えると、ホーパスはアルマスを見た。
「でも、それだけだったらシーグフリードさんが返事すればすぐ終わるじゃない」
「他にも何か話があるんじゃないですかね」
フェリクスが話に割り込むと、ホーパスはフェリクスに聞いた。
「外に出たのはいいけど、待っている間どうすればいいの?」
「そうですね・・・・」
フェリクスは辺りを見回すと、再びホーパスを見てこう提案した。
「なら、この辺りを案内しましょうか。ここから少し歩いたところにもテントがありますから、行きましょう」
「え、ここだけじゃないんだ。他にもあるの?」
フェリクスが歩き始めると、ホーパスとアルマスもその後を着いて行くのだった。



一方、シーグフリードが地面に置かれた2本の剣を見ていると、ヴェロニカが話を始めた。
「今から剣の職人を呼ぶ。着いたらすぐにこの2本の剣の刃を溶かし、1本の剣に作り直す。それでよいか?」
シーグフリードは黙って考えていたが、しばらくして顔を上げた。
「・・・・・それしか方法がないのであれば仕方がない。それでいい」
「先祖代々、受け継がれてきたものだと思う。その剣にまつわる思い出もあるじゃろう。それを作り直すことになるのは
 辛いと思うが・・・・・・・」
「でも、それしかないというのであれば、それでいい」
「分かった」
ヴェロニカはうなづくと、さらにこんな事を言った。
「それから、もうひとつ話がある・・・・・呪いを解き、剣を1本にするのはいいが、その剣を使う覚悟はあるのか?」



それを聞いたシーグフリードは戸惑った。
「・・・・・どういうことだ?」
「お前はその剣を持つのに相応しい者だと思っている。しかしその剣を持った途端、ある犠牲を伴うことになるだろう」
「・・・・・・」
何を言っているのか理解できないシーグフリードに、ヴェロニカはシーグフリードを見てさらにこう言った。
「お前の身体に青い光が見える。お前はヨーデンの王になる資格があるのだ」



それを聞いたシーグフリードはさらに戸惑った。
「オレが・・・・・ヨーデンの王だと?」
「そうじゃ」ヴェロニカは深くうなづいた「それらしき兆候は既に出ているはずじゃ。気がついていないのか?」
「兆候・・・・・?兆候って・・・・・・」
「青い光のことじゃ。気がついていないのか?」
「青い光?・・・・・そういえば・・・・・・!」
シーグフリードはシーグヴァルドとの戦いを思い出していた。



雷が落ちて、気がついた時、体力が急に回復していた。
その時身体が青く光ったような気が・・・・・・・。



「あの時、青い光が・・・・・・・!あの光がそうなのか?」
「今頃になって気付いたのか」
シーグフリードがヴェロニカを見ると、ヴェロニカはやれやれと言うようにため息をついた後、こう続けた。
「その青い光こそ、ヨーデンの王にしか存在しない光であり、力なのだ」



ヨーデンの王・・・・・・・。
まだ父が生きていた頃、かなり昔に聞いたことがある。
かつてこのヨーデン全体を支配していた王だ。
青い光を纏い、全ての敵を撥ね返す無敵の王。
その王がオレだと言うのか?



「オレがヨーデンの王だとすれば・・・・・シーグヴァルドはどうなんだ?」
「シーグヴァルド。お前の弟か?」
ヴェロニカが動揺しているシーグフリードに聞くと、シーグフリードはうなづいた。
ヴェロニカは再び2本の剣に視線を移した。
そして銀の文様が入っている剣を取った。
「その弟の剣が呪われているのを見ると、弟は悪いものに憑りつかれているか、すっかり悪者になっているかのどちらかだろう」
「ああ。シーグヴァルドはこの世界の支配者になると言って、今はあの塔にいる」
「あの塔・・・・・先日、セントラルに入ってきた塔のことだな?」
シーグフリードがうなづくと、ヴェロニカは剣を地面に置いた。
「あの塔はすっかり悪に染まってしまった。塔の中にいる悪者を全て倒し、塔を壊す必要がある。
 それにはお前の王としての力が必要なんじゃ」
「あの塔を壊す・・・・・・!?」
シーグフリードがそう言いかけた途端、何かに気がついたのかはっとして言葉を詰まらせた。



犠牲というのは、まさか・・・・・・・・!



動揺しているシーグフリードに、ヴェロニカは追い打ちをかけるように静かにこう言った。
「今から作ろうとしている剣を取り、ヨーデンの王として塔に向かい、シーグヴァルドを倒すか、
 それとも剣を作るのを止めて、ヨーデンが悪によって滅びるのを待つか、どちらかじゃ」
「・・・・・・・・」
突きつけられた選択に、シーグフリードは2本の剣を見つめたまま、何も言えずにいた。



その姿を画面からトールヴァルドとティードが見ていた。
「そんな・・・・・!弟を、シーグヴァルドを殺すなんて・・・・・・・・・・」
戸惑っているティードに、トールヴァルドは平然と答えた。
「ヨーデンを救うには多少の犠牲は仕方がない」
「でも、兄弟で殺し合いだなんて辛すぎるわ」
ティードがトールヴァルドの方を向くと、トールヴァルドは画面を見つめたまま
「あの青年にとっては辛いだろうが、弟はすっかり洗脳されている。悪に染まっている以上、存在を消す以外に方法はない」
「本当にそれ以外の方法はないの?シーグヴァルドの洗脳はもう解けないの?」
トールヴァルドはティードの方を向いた。
「あの青年が弟を救おうとしても、弟は何度もあの青年を殺そうとした。もう救いようがない」
「そんな・・・・・・」
「それにこれは上が決めたことでもある。我々もこればかりはどうしようもない」
「・・・・・・・・・」
「それにまだあの青年がヨーデンの王だとは分からない。近いうちに直接会って、確かめないとならない」
トールヴァルドがその場から離れようと動き出した。
「どこに行くの?」
「あの男に連絡を入れる。そろそろ下に降りるから、準備するように言う」



「はい、分かりました」
フェリクスがそう答えると、会話を終えたのか、両耳につけている黒いイヤホンを外した。
イヤホンをズボンのポケットに入れた途端、後ろからホーパスの声が聞こえてきた。
「ねえ、さっき誰かと話してたの?」
フェリクスが後ろを振り返ると、横長のテーブルの向こう側にアルマスが椅子に座っている。
ホーパスはテーブルの上に乗り、前にある皿の上のお菓子を食べている。
「はい、連絡があったので、少し話をしてました」
フェリクスがそう答えると、アルマスがいる方へと歩き出した。
そしてアルマスの左隣の椅子に座ると、ホーパスがさらに話しかけてきた。
「でも、離れたところにもうひとつテントがあるとは思わなかったよ。ここは食べるところなの?」
「ここは師匠と私以外の住民が住んでいるテントです。食堂はここしかないので、食事はみんなここに集まっています」
「じゃ、ヴェロニカさんとフェリクスさんは普段は向こうなの?」
「食事以外はそうですね」
「ここにいたのか」
その声に3人がいっせいに声が聞こえてきた方を向くと、ヴェロニカの姿があった。



ヴェロニカの姿を見たフェリクスはその場から立ち上がった。
「どうしたんですか?」
「シーグフリードと話をした。悪いがお茶を淹れてくれないか」
「分かりました。ここに座って待っていてください」
ヴェロニカがフェリクスが座っていた椅子に座ると、フェリクスはお茶を淹れようとその場から離れて行った。



しばらくしてフェリクスが戻り、お茶が入っているコップをヴェロニカの前に置いた。
「ああ、ありがとう」
ヴェロニカはそのコップを手に取り、口に持って行くと、フェリクスはヴェロニカに聞いた。
「それでどうなんですか?」
ヴェロニカはお茶を飲み、コップをテーブルに置くと、ゆっくりと答えた。
「・・・・あの男に全てを任せた。あの男の返事を待つことにしよう」
「え?どういうこと?」
それを聞いたホーパスは内容が分からず、戸惑っている。
フェリクスも同様なのか戸惑いながら
「それは・・・・一体どういうことですか?」とヴェロニカを見ている。
「まあ、そう焦るな」
ヴェロニカは2人を制すると、続けて平然とこう答えた。
「返事は明日の朝まで待つとシーグフリードに伝えた。明日の朝になれば、シーグフリードがどんな決断をするか分かるじゃろう」
「明日の朝・・・・・・」
フェリクスはそれ以上、何も言えず黙ってしまった。
アルマスとホーパスも何も言えず、お互いの顔を見合わせるだけだった。



その夜。
無数の星が広がる夜空に、遠くに見える半月をテントの外からアルマスとホーパスが見ていた。
「今日はシーグフリードさん、剣の練習はしてないんだね」
ホーパスが辺りを見回して、シーグフリードの姿を探している。
アルマスは夜空を見上げながら
「たぶん、剣はヴェロニカさんのところにあるんじゃないかな」
「そうか」
ホーパスはアルマスの隣に来ると、夜空を見上げながらこう言った。
「でも明日、シーグフリードさんどうするんだろうね」
「・・・・・・・」
「剣の呪いは解いて欲しいけど、剣は2本のまま1本にはしないなんて言わないよね?」
「それは分からないよ」アルマスはホーパスを見ると、こう続けた。
「もしかしたらそうなるかもしれないけど、僕らは何も言えないよ。あの剣はシーグフリードさんのものなんだから。
 それに父親から譲り受けたものだから、大切なものだから・・・・・それを1本にするなんて言われたら・・・・・・
 決めるのは難しいと思う」
「そうか、シーグフリードさんが大事にしているものだもんね。どうするんだろう?」
ホーパスが空を見上げると、アルマスは何も言えず、再び空を見上げるのだった。



数時間後。
テントの一室ではシーグフリードが眠りについていた。
仰向けに眠っていたが、しばらくすると小声で何かをつぶやきながら右側へと寝返りを打った。



しばらくしてシーグフリードが気がつくと、家の裏側の庭に立っていた。



ここは・・・・・・いつの間に帰ってきたんだ?



庭に広がる緑の芝生、茶色い地面、そこから上へと伸びている植物や花々。
それを見ているとシーグフリードは懐かしさを感じていた。



すると遠くから子供のはしゃぎ声が聞こえてきた。
だんだんとその声は大きくなり、こちらに近づいてきている。
そして庭の向かい側から2人の子供の姿が見えると。シーグフリードは驚いた。



あれは・・・・・・!子供の頃のオレとシーグヴァルドだ。



子供のシーグフリードとシーグヴァルドがはしゃぎながら走り回っている。
先頭を走り回るシーグフリードに、シーグヴァルドが後を追って追いかけている。
同じところをぐるぐると走り回っているのだった。



あの時はまだ仲良く遊んでいたな。
いつの間にか、一緒に遊ばなくなってしまったが・・・・・・・。



シーグフリードがそう思いながら見ていると、どこかから1人の見慣れない男の子が庭に入ってきた。
2人と同じ背丈で、同じくらいの男の子だった。



あれは誰だ?
忘れているかもしれないが、見たことがない子供だ。



シーグフリードがその男の子を見ていると、遊んでいる2人の兄弟の間に割って入ってきた。
その男の子は2人を見た後、シーグヴァルドを見てこう言った。
「一緒に遊ぼうよ」
するとシーグフリードがその男の子を見た。
「それなら、3人で一緒に遊ぼうよ」
「嫌だ。この子を遊ぶんだ」
男の子は首を振ると、いきなり前にいるシーグフリードを突き飛ばした。



地面に尻もちをつく形で倒れたシーグフリード。
「い、痛い・・・・・・・」
それをシーグヴァルドが見ていると、隣で男の子がシーグヴァルドの手を取った。
「あっちに行こう」
シーグヴァルドはシーグフリードを見ていたが、男の子に手を取られると、戸惑いながらも一緒に庭から走って行ってしまった。



「・・・・・・・・」
それを見ていたシーグフリードが庭に入ろうとすると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「シーグフリード」
「・・・・・・!? 父さん・・・・・・!」
シーグフリードが振り向くと、そこには父親の姿があった。



シーグフリードが驚いていると、父親が近づいてきた。
そしてシーグフリードの前に来ると、庭にいる子供のシーグフリードを見た。
「シーグヴァルドは小さい頃から、あの悪魔と一緒にいたんだ」
「あの悪魔・・・・・?もしかしたらモルケの事なのか?」
シーグフリードが戸惑っていると、父親はシーグフリードの方を向いてうなづいた。
「あの悪魔は小さい頃から、シーグヴァルドに目をつけていた。もっと早く気がついていれば・・・・・・」
「父さん・・・・・・・」
「私がもっとシーグヴァルドに目を向けていれば、あの悪魔が寄ってくることはなかった。こんな事にはならなかったのに・・・・すまない」
「父さんのせいじゃない」
シーグフリードが首を振ると、父親は首を振りながら
「お前にももっと手をかけてやればよかった。とても後悔している。もっと2人に手をかけてやれば、今の状況にはならなかったんだ」
「・・・・どうすれば、シーグヴァルドを救えるんだ?父さん」
「おそらく小さい頃から、あの悪魔に少しづつ洗脳されていただろう。シーグヴァルドを救うのは難しいかもしれない」
「・・・・・・・」



シーグフリードが愕然としていると、父親は右手をシーグフリードの左肩にそっと触れた。
「お前ができることは、シーグヴァルドの魂を天に還すことだ」
「魂を天に還すだって・・・・・・?」
シーグフリードが驚いていると、父親は右手を放し、一歩後ろに下がった。
「もしかしたら、それさえも難しいかもしれないが・・・・・・・」
そう言った途端、父親の姿がだんだんと霧のように見えなくなっていった。



父親の姿がだんだんと消えていくのを見て、シーグフリードは声を上げた。
「父さん!」
父親の姿がすっかり消えた後、父親の声だけが聞こえてきた。
「・・・・・今、大きな危機に瀕しているヨーデンを救うのはお前しかいない。覚悟を決め、大きな闇に立ち向かうのだ」
「父さん・・・・・・・・」
「お前には強力な力と味方がついている。光の導きのままに従うのだ」



「父さん!」
大声を上げながら、シーグフリードが起き上がった。
辺りを見回し、テントの部屋の中だと分かると、シーグフリードは深いため息をついた。
「夢か・・・・・・・・」
シーグフリードはそう言いながらも、父親の言葉が頭にしっかりと残っていた。



覚悟を決め、大きな闇に立ち向かうのだ。
光の導きのままに・・・・・・・・。



シーグフリードは立ち上がると、そのまま部屋を出て行った。



しばらくして、ヴェロニカとフェリクスがいる部屋にシーグフリードが入ってきた。
「シーグフリード・・・・・・どうするか決まったようじゃな」
シーグフリードの姿を見たヴェロニカがつぶやくと、フェリクスがシーグフリードに聞いた。
「決まったんですか・・・・・それで、どうするんですか?」
シーグフリードは2人の前まで来ると、ヴェロニカを見てこう言った。
「その前に、そこにある剣を2本とも見せてくれ」
ヴェロニカは黙ったままうなづいた。



シーグフリードは椅子に座ると、前に置いてあるシーグヴァルドの剣を手に取った。
刃先から柄の先までゆっくりと名残惜しそうに見ていると、ゆっくりと置いてあった場所に戻した。
そして自分の剣を取ると、同じようにゆっくりと見つめている。



しばらくして自分の剣を置いてあった場所に戻すと、シーグフリードは再びヴェロニカを見た。
「・・・・シーグヴァルドの剣の呪いを解いてくれ。それからこの2本を1本に作り直す」
ヴェロニカはシーグフリードの決意に深くうなづいた。
「覚悟を決めたんじゃな。今から職人を呼ぶ。今夜さっそく決行じゃ」
ヴェロニカがフェリクスの方を見ると、フェリクスはその場から立ち上がった。
「分かりました。職人を呼んできます」
ヴェロニカがうなづくと、フェリクスはその場を離れるのだった。