森に包まれた村

 


トイヴォとヴァロは森の中を歩いていた。
ポルトから離れ、森に入りしばらくの間は大きな道があったが
その道は途中でなくなり、今は道なき道を歩いていた。



トイヴォは自分がどこを歩いているのか不安になってきた。
最初は道があったので、道の先を目指していたが
道が途中でなくなってしまったので、自分がどこへ行けばいいのか
分からなくなっていた。



トイヴォはフワフワと飛んでいるヴァロに声をかけた。
「ヴァロ、次の町へ瞬間移動というか・・・ワープできないの?」
ヴァロはトイヴォの方を向いて
「町の名前が分からないと、目的地に行けないよ」
「町の名前が分からなくても、移動は出来るの?この近くの町とか」
「できなくもないけど・・・・・」
ヴァロは困った顔をしながらこう言った。
「町の名前が分からないと、どこに行くのか分からないんだ。
この近くの町といって移動しても、実際はかなり遠いところへ行ったりとかするんだ。
それだと困るでしょう?」
それを聞いたトイヴォが困っていると、ポルトでヘンリックから手紙を受け取ったことを
思い出した。
「そうだ、オリヴィアさんの手紙に、何か書いてないかな・・・・」
トイヴォは立ち止まり、ポケットから手紙を取り出した。



手紙を開けると、オリヴィアのきれいな文字でこう書かれていた。



トイヴォへ

この手紙を読んでいる頃、別の町へ向かっていると思います。
ポルトであなたの母親を探しましたが、それらしい女性は見つかりませんでした。
今も探していますが、次の町で母親が見つかるといいですね。

ポルトからすぐ近くに森がありますが、もしかしたら誘拐犯が潜んでいるかも
しれないので、森の中の移動は十分気を付けてください。
知らない人に声をかけられても、むやみについて行かないように。

また、私と連絡が取れるように、小さな笛を入れました。
その笛を吹けば、私が飼っている鳥がすぐにトイヴォのところへやってくるように
なっています。
何か困ったことや聞きたいことがあったら、笛を吹いてその鳥を呼んでください。
その鳥を通して連絡が取れるようにしておきます。

まずは笛を吹いてみてください。
手紙の続きはその鳥が持っています。

                     オリヴィア



トイヴォが手紙を読み終えると、手紙が入っている封筒を開けた。
中身を覗くと、小さな笛が入っていた。



トイヴォが封筒から笛を出すと、ヴァロはそれを見て
「小さい笛だね、それで鳥を呼べるの?」
「そうみたい・・・・空に向かって吹けばいいのかな?吹いてみるよ」
トイヴォは笛先を口につけると、息を軽く吸って、少し強めに笛を吹いた。
ピイーという高い音が森の中に響き渡った。



トイヴォが空を見ていると、しばらくして大きな鳥がこちらに向かっているのが見えた。
大きく旋回しながら、笛を吹いたトイヴォの姿を見つけると、羽根を大きく広げながら
トイヴォの方へだんだんと降りていく。



トイヴォはその鳥を下の方から見ていた。



あの大きな鳥・・・・・あれがオリヴィアさんが言っている鳥なのかな



そう思いながら、トイヴォは降りてくる鳥を見守るように見ていた。



そして鳥の姿がはっきりと分かるような近さまで降りてくると
トイヴォは鳥の大きさに驚いた。



なんて大きな羽根なんだろう、鷲か鷹なのかな・・・・・。
頭は白く、大きく広げた羽は茶色、白い尾羽に黄色いくちばしと両足・・・。



トイヴォの目の前に降りてくると、トイヴォはその鳥をじっと見ていた。
両足を見ると、片方には何か紙が巻き付いている。



あれが、オリヴィアさんの手紙・・・・・。
あれを取ればいいのかな。



トイヴォは手紙を取ろうと、その鳥に恐る恐る近づいた。
鳥はおとなしく、トイヴォが来るのを待っている。
そして片足についている手紙をゆっくりと取ると、トイヴォはほっとしたように溜息をついた。



トイヴォは手紙を開けて広げると、こう書かれていた。



トイヴォへ

この手紙を見ているということは、うまく鳥と出会えたということですね。
その鳥は鷲の仲間で、和尚様のいる森に棲んでいる鳥です。
大きくて最初は驚いたと思いますが、おとなしい性格なので怖がらないでください。


笛を吹けばいつでもこの鳥が来るようになっているので
何かあったらすぐ笛を吹いてください。
私に何か伝えたいことがあれば、この鳥を呼んで、鳥の足に手紙を巻き付けて
飛ばしてください。
笛を吹けば、私のところに飛ぶようになっています。


母親についてまた何か分かったら連絡します。
道中気を付けて。

                      オリヴィア



手紙を読んだトイヴォは、手紙をポケットにしまった。
トイヴォは笛をピイーと鳴らすと、その鳥は空へ向かって飛んで行った。
「オリヴィアさんに何も書かなくていいの?」
飛んで行く鳥を見上げながら、ヴァロはトイヴォに聞いた。
「うん、今は何もないから・・・・それに紙も書くものもないし」
「オリヴィアさんに次の町はどこなのか聞けばよかったのに」
「でも、時間がかかるよ・・・・それまでここで待ってるのも嫌だし」
「それもそうだね」
2人は飛んで行く鳥をみながら、しばらく空を眺めていた。



鳥の姿がなくなってしまうと、トイヴォはこの後どうしようかと考えていた。



次の町までどのくらいかかるのだろう。
このままだと夜をこの森で過ごさないといけなくなる・・・・・。



すると、後ろから誰かが声をかけてきた。
「こんな森の中で何をしているの?」
トイヴォとヴァロが後ろを振り返ると、そこにはトイヴォより背が小さく
茶色のとんがり帽子をかぶった男の子がいた。
「君は誰?どこから来たの?」とトイヴォ
「僕はこの近くの村から来たんだ。森の中を散歩してたら大きな鳥が降りてくるのを見たから
何かあったのかなと思ってここに来たんだ」
「え・・・・この近くに村があるの?」
「うん、よかったら僕の村に来る?案内するよ」



トイヴォは男の子の言葉に、少し戸惑っていた。
オリヴィアの手紙に、森の中は何があるか分からないから気を付けるようにと
書いてあったので、それを気にしていたのだ。



このままついて行って、何かあったらどうしよう・・・・。



トイヴォは後ろにいるヴァロの方を振り返って、男の子から少し離れると、相談しようとヴァロを呼んだ。
「どうしたの?」とヴァロ
「どうする?村に案内してもらったほうがいいのかな。何かあるような気がして」
トイヴォにそう言われて、ヴァロは男の子の方をちらっと見た。
男の子は何も言わず、黙って待っている。
「うーん、でもあの子、何か悪いようなことをするような感じでもなさそうだよ」
「そうかなあ・・・・・」
「近くに村があるんだったら、とにかく行ってみようよ。ここでじっとしてると
夜になっちゃうよ。夜の方がここにいると危ない気がする」
「そうだね・・・・ここにいたほうが危ないよね。行ってみようか」



トイヴォは男の子のところに戻るとこう言った。
「この近くの村って、歩いてどのくらいなの?」
「そんなにかからないよ。村に行ってみる?そろそろ戻らないと夜になるから」
「うん、そんなに時間かからないんだったら行ってみるよ」
「それなら・・・・・・」
男の子はズボンのポケットから、男の子がかぶっている帽子と同じ帽子を出した。
帽子をトイヴォとヴァロに渡すと、2人はその帽子を戸惑いながら見ている。
「村に入る時に、この帽子をかぶって欲しいんだ」
「この帽子を?どうして?」
トイヴォは帽子を見ながら男の子に聞いた。
「僕の村では全員この帽子をかぶっているんだ。かぶっていないとよそ者だと思われて
追い出されてしまうんだよ。だから村に来るお客さんもこの帽子をかぶってもらってるんだ」
男の子の言葉にトイヴォとヴァロが戸惑っていると、男の子は続けて言った。
「村に来ないんだったら、その帽子をすぐに返して。来るの、来ないの?」
「い、行くよ」トイヴォは不審に思いながらもあわてて答えた。
「帽子を被ればいいんだね」



トイヴォが帽子を被ると、帽子は最初大きめだったのか、トイヴォの目が隠れていたが
しばらくすると、帽子が勝手にトイヴォの頭の大きさに合うように縮まっていった。
ヴァロも最初は帽子が大きすぎて顔が隠れるくらいだったが、すぐに縮まってうまく頭がすっぽり
入るようになった。
「2人とも、うまく帽子が合うようになったね」と男の子
「・・・・この帽子、何かあるの?最初は大きかったのに」とヴァロ
「誰でもうまく帽子が合うようになってるんだ。魔法の帽子だよ」
男の子はそう言うと、トイヴォの前に来て、手をつないできた。
「これから村に行くけど、村までの道をあまり知られたくないんだ・・・・・
悪いけどしばらくの間、目をつぶっててくれないかな。僕が連れて行くから」
「どうして?」とトイヴォ
「村に着けばわかるよ。後で説明するから。さあ、目をつぶって」



トイヴォはますます不審に思いながらも目を閉じた。
それを見たヴァロはトイヴォの近くをフワフワと浮きながら
「ねえ、僕も目をつぶった方がいいの?」と男の子に聞いた。
男の子はヴァロを見上げて
「そうだね、なるべく僕の側にいて欲しいんだ。途中迷子になるかもしれないから」
「じゃ、どうすればいいの?」
「僕と手をつなぐか、その子と手をつなげば大丈夫だよ」
「体が触れていればいいんだね」
ヴァロはトイヴォの頭に乗っかると、トイヴォは思わず目を開けて
「どうして頭に乗っかってくるの?」と上にいるヴァロに聞いた。
「僕、手が短いから、頭の方がいいかなと思って・・・・そんなに重くないでしょ?」
「・・・まあいいけど。着いたらすぐ降りるんだよ」
トイヴォが少しふてくされていると、男の子はそれを見てこう言った。
「じゃ、そろそろ行くよ・・・・・2人とも目を閉じて。ゆっくり歩くから安心して」



男の子がトイヴォの手をつないだまま歩き始めた。
トイヴォは目を閉じたまま、男の子に引っ張られるように歩き始めた。



まだ、村に着かないのかな・・・・・。



しばらくしてトイヴォは心の中でつぶやいた。
トイヴォは目を閉じたまま、どこに行くのか不安だった。
目を閉じているので視界は真っ暗で何も見えない。



今のところ、まっすぐ行ってるみたいだ・・・・どこに行くんだろう。



自分がまっすぐ歩いているのを感じながら、トイヴォは不安を募らせていた。



どこか知らないところに連れて行かれて、そこから出られなかったら・・・・・。



トイヴォはそう思うと、目を開けたいという気持ちになった。



するとそんなトイヴォの気持ちを読んでいるかのように、男の子の声が聞こえてきた。
「まだ目を開けちゃだめだよ。もう少しで村に着くから」
「本当?少しだけ目を開けてもダメ?」
目を閉じたまま、ヴァロがトイヴォの頭の上で聞いた。
「うん、もう少しだから、もうちょっと我慢してて・・・・着いたら声をかけるから」



しばらくすると、村に着いたのか男の子の声が聞こえてきた。
「着いた・・・・・止まって」
トイヴォは言われた通り、足を止めた。



なんだかずっとまっすぐ歩いていたような気がするけど・・・・・着いたのかな。



トイヴォがそう思っていると、男の子はトイヴォの手を離した。
「もう目を開けてもいいよ」
男の子の声を聞いて、トイヴォはゆっくりと目を開けた。



目を開けたとたん、トイヴォは周りの景色に驚いた。
ヴァロも目を開けたとたん、景色の違いに驚いて
「うわあ!すごいきれいな村だね!こんなに素敵な村は見たことがないよ」と
トイヴォの頭から離れて、フワフワと飛びながら村のあたりを見回している。



トイヴォの目の前には、木でできた小さな小屋がいくつか並んでいて
小屋の前には、きれいな花々が植えられている庭があり
木でできた小さな丸いテーブルや椅子があった。
小屋の周りには大きな木々や花々が無数に広がっていた。



さっきまでいた森の中に、こんなきれいな村があるなんて・・・・。



トイヴォが驚いていると、男の子は2人に声をかけた。
「村の中を案内するよ。着いてきて」



男の子に連れられて、まず2人が入ったのは近くの小屋だった。
「ここは僕が住んでいる家だよ。他の人達と一緒に住んでるんだ」
男の子が2人に説明しながら、玄関のドアノブに手を置いた。
そして黄色く丸い玄関のドアを開けると、目の前に赤い帽子をかぶった男がいた。
背丈はトイヴォと同じぐらいの背丈だった。
「ノエルじゃないか・・・・・今帰ってきたところか?」
「あ、オラヴィさん。ただいま」と挨拶するノエル
「外の様子はどうだった?・・・・・この2人はお客さん?」
オラヴィがさっそくトイヴォとヴァロの姿を見かけると、ノエルはうなづいて
「うん、外で会って話をしてるうちに村に来たいって言ったから、連れてきたんだ」
「そうか・・・・外からのお客さんは久しぶりだな、こんにちは」
「こ・・・・・こんにちは」
オラヴィが2人に挨拶すると、トイヴォは戸惑いながらも頭を下げた。
ノエルはそれを見て
「オラヴィさん、ところで仕事は終わったの?」
「おっと・・・・そういえば道具を取りに来たんだった。また後でな」
オラヴィは思い出したようにはっとして、あわててその場を立ち去った。



トイヴォはオラヴィの後ろ姿をみながら
「君の名前・・・・ノエルっていうの?」とノエルに聞いた。
「あ、そういえば・・・まだ僕の名前を言ってなかったね。僕はノエル」
ノエルがそう言うと、トイヴォはノエルの方を向いて自己紹介をした
「僕の名前はトイヴォ。上でフワフワしているのがヴァロっていうんだ」
するとノエルは上でフワフワ浮いているヴァロを見ながら
「トイヴォと・・・・そのたぬきみたいな動物がヴァロっていうんだ。よろしくね」
「たぬきじゃないよ」とすかさずヴァロが反応した「それに動物じゃないし」
トイヴォは笑って
「今はクジラに変装してるけど、本当の姿じゃないんだ・・・なんて言ったらいいのかな」
「クジラなんだ!」それを聞いたノエルは驚いた。
「僕はクジラを見たことがないから分からないけど、たぬきかと思ったよ」
「君もクジラを見たことがないんだ!」トイヴォはそれを聞いて驚いた
「実際はこれよりずっと大きいんだ。海に行かないと見られないんだよ」
「そうなんだ・・・・・海には行ったことがないから分からないよ」
トイヴォとノエルの話が盛り上がっていると、そこに今度は2人の男が通りかかった。



「あ、ノエルじゃないか」
その声に反応して、ノエルが声のする方へ顔を向けると
青の帽子をかぶっている細身の男と、黄色の帽子をかぶった体格のいい男がいた。
「ただいま。もう仕事は終わったの?」
ノエルは2人に聞くと、黄色い帽子をかぶった男は
「まだ終わってないよ。それにまだ終わる時間じゃない。木材を取りに来たんだ」
「でも、もう少しで終わりそうだけど・・・・その2人は見かけない顔だけど、お客さん?」
青い帽子をかぶった男がトイヴォとヴァロを見ていると、ノエルはうなづいて
「うん、さっき村に着いたばかりなんだ・・・・こちらがトイヴォとヴァロ」と2人を紹介した。
そして続けてトイヴォとヴァロに
「青い帽子をかぶってるのがイルマリ、黄色の帽子をかぶってるのがアンテロさん」と紹介した。



ノエルに紹介された4人は互いに挨拶を交わすと、アンテロがこう言った。
「ノエル。ところでもう村長のところには連れて行ったのか?」
「あ、まだだった・・・・村長さんは家にいるの?」
「この時間だと家にいるか、まだ集会所にいるかもしれないな」
「分かった、行ってみるよ・・・・ありがとう」
イルマリとアンテロが去ってしまうと、ノエルはトイヴォとヴァロにこう言った。
「村長さんのところに挨拶しに行こう」



3人は小屋を出て、村長のいる小屋へ行くことになった。
歩きながらトイヴォはノエルに話しかけた
「ここは本当に全員帽子をかぶってるんだね、背丈もみんな同じぐらいだし・・・・」
「うん、みんな同じような恰好をしてるから。帽子と顔で見分けがつくようにしてるんだ」
「でも、みんな仕事をしてるんだね。ノエルはいつもどうしてるの?」
「・・・・この村で子供は僕だけなんだ」ノエルは少し間を空けて答えた。
「他の子供はみんな町へ行ってる。僕はこの村が好きだからここにいるんだ」
それを聞いたトイヴォは少し戸惑って
「この村で子供はノエルだけなんて・・・・1人で寂しくないの?」
「寂しくはないよ。みんながいるし・・・・みんな僕の相手をしてくれるんだ。だから寂しくないよ」
ノエルはそう言うと、目の前にある小屋で立ち止まった。
「着いた・・・・ここが村長の家だよ」



ノエルが青く丸い玄関のドアを開けると、今度は白い帽子をかぶり、白くて長いヒゲを生やした
老人の姿が見えた。
「あ、村長さん・・・・・」
ノエルが村長に声をかけると、村長はノエルの姿を見て
「ああ、ノエルじゃないか・・・・その2人はお客さんかい?」
「はい。今日外で会ったばかりです」
村長はトイヴォに近づいて
「この村にようこそ。この村の村長のオンニです・・・ノエルがここに連れてきたのかな?」
「こんにちは村長さん。トイヴォです。よろしくお願いします」
村長と握手をした後、トイヴォは挨拶をした。
ヴァロも村長と握手して挨拶をすると、村長は2人にこう言った。
「この村にお客さんが来るのは久しぶりでな・・・・もうしばらく外からのお客さんを見たことが
なかった。今夜は村の人達を集めて食事会をしよう」
「あ、ありがとうございます・・・・」とトイヴォ
「しばらくお客さんが来なかったから、外の世界がどうなっているのか知りたいんじゃ。
奥の部屋でしばらくの間、外の世界の話を聞きたいんじゃが、よろしいかな?」
「は、はい・・・・時間があるので大丈夫です」
「村長、僕が村のみんなに食事会のことを知らせに行きましょうか?」
ノエルが村長に声をかけると、村長はゆっくりとうなづいて
「ああ、そうしてくれないか・・・・・急で申し訳ないが、楽しい席ならみんな集まるだろう。
場所はいつもの集会所でな」
「はい、分かりました。今すぐ伝えてきます」
ノエルが小屋を出て行ってしまうと、村長はトイヴォに声をかけた。
「では、奥の部屋に案内しよう・・・・」



トイヴォが村長の後について歩き始めようとした途端、玄関のドアが突然大きく開いた。
トイヴォが玄関の方を振り返ると、そこにはノエルではなく、クリーム色の帽子をかぶった
別の男がいた。
「村長!大変です・・・・・・」
その声に村長はゆっくりと振り返って
「どうした?何かあったのか?」
「集会所に大きな猫が・・・・女神像を持っていってしまったんです!」
「何?あの女神像を!」
それを聞いた村長は驚いて、慌てるようにその男に近づいた。
「女神像は我々が昔から大事にしていた大切な像じゃ・・・・それをさらっていったとは。
それでその猫はどこに行ったんじゃ?」
「その猫は集会所の近くの・・・・作業所の裏階段にいます」
「作業所の裏の階段だと!」村長はとんでもないというように声を荒げた。
「あの女神像は木でできてるんじゃぞ。少しでも傷がついたらとんでもないことだ」
「は、はい。だからこうして急いでここに来たんです」
「傷がつく前になんとかしなければ・・・・」
村長が後ろで話を聞いているトイヴォのことを思い出し、後ろを振り返ると
「急で申し訳ないが、大事な女神像が大変なことになってるんじゃ・・・・なんとか取り返さないと
いけない、一緒に行ってくれるか?」とトイヴォに声をかけた。
「は、はい・・・・・分かりました。」
トイヴォは少し話の内容が分からなかったが、ただ事ではない様子だったので、一緒に行くことにした。



トイヴォ達が集会所の隣にある作業所という小屋の裏側に着くと
そこには茶色に黒の縞模様の大きな猫が一匹、小屋の2階へ続いている階段の前で体を丸めて寝そべっていた。
階段の幅は狭く、人が1人通れる幅なので、猫が階段の入口を塞いでいる形になっている。
その猫は体が大きく、まるまると太っていて、茶色の尻尾も太く下に下がっていた。



え、こ、これが猫だって・・・・!



自分の背丈と同じぐらいの猫に、トイヴォは驚いた。



気のせいかな・・・・自分の村でも猫はいたけど、こんなに大きい猫は見たことがない。
それとも被っている帽子のせいで、自分の体が小さくなってるのかな?



猫の大きさに少し驚きながら、トイヴォは猫の大きな体をじっと見ていた。



「女神像はどこだ?」
村長はクリーム色の帽子を被った男に聞いた。
「あ、あそこです」男は女神像のあるところを指さした。
トイヴォは男が指をさしている方に目を向けると、猫がいる階段から3段上のところに、人形のような
木の塊が置いてあるのが見えた。
その塊をよく見ると、薄い肌色で色付けされている女性の顔、長い金色の髪、そして白い服が見えた。



あれが女神像・・・・・。古い木に絵を描いたようにしか見えないけど。



トイヴォがそう思っていると、村長は猫を見ながらこう言った。
「とんでもないことをする猫じゃ・・・・・傷はまだないようじゃが。
今から私が女神像を取り返してこよう」
「爪でひっかかれないよう気を付けてください」
クリーム色の帽子の男は村長に注意をした「その猫、とても動きが早いんです」



村長が階段にゆっくりと近づくと、猫は起きて立ち上がった。
後足2本で立ち上がった猫は、村長の背丈より背が高く、村長を少し見下ろすように見ている。
村長は猫の動きを見ながら、まずは左に動いた。
すると猫はその動きに合わせて、村長の行く手を阻むかのように左に動いた。
村長は今度は右に動くと、猫も合わせて右に動いた。
今度はまた左に動き始め、猫が左に動いたとたん、急いで右へ動こうとするが
猫はその動きを察知し、素早く右へ動いた。
「この猫・・・・・言っていた通り、とても素早い動きをするな」
女神像のところになかなか行けないので、村長は困った顔をしている。
その後、しばらく猫の様子をみながら、村長は右へ左へと動いてみたが
猫の素早さに女神像のところに辿り着けず、村長は疲れてしまった。



「大丈夫ですか?」
村長が疲れてその場に座ってしまうと、それを見ていたトイヴォが声をかけた。
「大丈夫じゃ・・・・しかしあの猫、なかなかすばしっこい猫じゃな」
「村長さんは少し休んでください。今度は私が行きますから」とクリーム色の帽子の男
「女神像はこの村でとても大事なものじゃ」
村長はゆっくりと立ち上がり、続けてトイヴォにこう言った。
「昔から集会所に置いて、村のみんなが毎日お祈りをしている像じゃ。
傷がついたらとても困る・・・・猫が怒って女神像に傷をつけたら大変なことじゃ
猫の機嫌が悪くならないように、なんとか女神像を取り返してくれないか?」
トイヴォはうなづいて
「分かりました・・・・なんとかやってみます」



トイヴォは猫の様子を見ながら、だんだんと猫に近づいた。
猫は見慣れないトイヴォの姿をじっと見ながら、動かず様子を見ているようだった。



階段の幅が狭いから、遠回りして横から回りこんでも、猫に追いつかれる。
それにあの前足の爪で引っかかれたら、大けがをするかもしれない。
なんとか隙を見て、階段のところまで行くしかないのかな・・・・・。



そう考えていると、後ろからヴァロがトイヴォの後ろでフワフワ浮きながらトイヴォに声をかけた。
「トイヴォ、いい考えがあるよ」



トイヴォは後ろを振り向いて、ヴァロに近づいた。
「何?いい考えって」
「1人じゃ無理だと思うよ。2人で行かないと」
ヴァロは猫を見ながら、続けてこう言った。
「トイヴォが猫の相手をしているうちに、僕が姿を消して、女神像を取ってくるんだ
これならうまくいくと思うよ」
「そうか、猫が僕に気を取られているうちに、ヴァロが女神像を取ってくればいいんだね」
トイヴォはヴァロの作戦を聞いてそうかというように納得した。



「じゃ、さっそくやる?」
ヴァロがすっかりやる気でトイヴォに声をかけると
トイヴォはなぜかしばらく黙っている。
「・・・・・どうしたの?さっきまでやろうって感じだったのに」
「ヴァロ、考えたんだけど」トイヴォは浮かない顔をして言った。
「今、その作戦をやってうまく女神像を取り返したとしても、また猫が女神像をさらっていって
しまったら、その頃は僕たちはこの村にいないかもしれない・・・・そうしたら村長さん達はどうする?
僕たちと同じ作戦はできないと思うんだ」
「でも、今は僕たちがやるしかないんじゃない?」
「そうだけど・・・・ヴァロには悪いけど、別の方法を考えよう」
トイヴォはヴァロに謝るようにそう提案した。
そして猫を見ながら続けてこう言った。
「それにあの猫がどうしてあの女神像をさらうのか知りたいんだ。何か理由があるのかもしれない」



トイヴォとヴァロが村長のところに戻ってきた。
村長は2人が戻ってきたのでおろおろしながらトイヴォに聞いた
「どうしたのじゃ・・・・・女神像はどうなったのじゃ」
「村長さん、僕に少し時間をくれませんか」
トイヴォがそう言うと、村長は少し戸惑いながら
「時間を・・・・それはどういうことじゃ」
トイヴォは後ろにいる猫の姿を見ながら
「あの大きな猫の隙を見て女神像を取りに行くのは難しいので、作戦を考えたいんです」
「作戦を・・・・分かった。少し考える時間をやろう」
トイヴォの言葉に村長はうなづいた。
「ただし、なるべく早くなんとかするんじゃ・・・女神像に傷がつかないうちに」
「分かりました。ありがとうございます」
トイヴォは村長にお礼を言うと、ゆっくりとその場を後にした。



夜になり、集会所ではトイヴォとヴァロの歓迎会が開かれた。
ノエルがトイヴォとヴァロを連れて集会所に入ると
そこには既に大勢の人達が食事を囲んで、すっかり盛り上がっていた。
村長に紹介され、トイヴォとヴァロは軽く挨拶を済ませると、ノエルに連れられて
空いている場所に座った。



トイヴォが座ったとたん、右隣の赤い帽子をかぶったオラヴィが声をかけてきた。
「この村へようこそ。ビールでも飲む?」
トイヴォが戸惑っていると、ノエルがオラヴィに
「ビールじゃなくて、僕と同じジュースをください」
「そうか、まだノエルと同じ子供だったな・・・おい誰か、ジュースを持ってきてくれ」
「オラヴィさん、もう酔ってるんですか?」
ノエルがオラヴィの顔を見ていると、オラヴィはとんでもないというように首を横に振って
「いいや、まだまだ・・・・今飲み始めたばかりだぞ」
「おい、ジュースを2つ、持ってきたぞ」
2人の後ろから両手でコップを持って、黄色の帽子をかぶったアンテロが声をかけてきた。
「あ、ありがとうございます」
トイヴォがアンテロからコップを受け取り、ひとつをトイヴォの上でふわふわ浮いている
ヴァロに渡すと、アンテロはトイヴォに話しかけてきた。
「ところで、トイヴォ・・・・お前さんはどこからこの村へ来たんだ?」
「この村に来る前は・・・・この近くのポルトっていう港町にいました」
「ポルト?この近くに港町なんてあるのか」
「はい・・・・ポルトを知らないんですか?」
「ああ、この村から外に出たことがないからな」
アンテロは近くにいた紫色の帽子をかぶった男に声をかけた
「おい、サムエル。ポルトって町に行ったことあるか?」



サムエルはアンテロの方を向いて
「ポルト?ポルトっていう町に行ったことがあるかって?」
「ああ、そうだ」アンテロはうなづいた「音楽家のお前なら、あちこち行ってるだろう?」
「ポルトっていう町は知らないですね・・・・いつも行く町なら知ってますけど」
「ああ、ここから列車で少し行ったところだろう?そこならオレも行ったことがある」
「え、ここから列車が出てるんですか?」
2人の話を聞いてトイヴォが割り込むと、サムエルはうなづいて
「ええ、ここから少し行ったところに駅があって、そこから町へ列車が行ってるんです」
「その町は人がたくさんいてな。若者や子供はみんな町に住んでる。町にいると
なんでもあるから便利なんだと・・・・・オレは町はあまり好きじゃないけどな」
アンテロがつぶやくと、それを聞いたオラヴィが
「そうだよな。この村の方が住みやすい。確かに町に行けばなんでもあるし、生活には
困らない・・・・だけど木が少ないし、森がない。水もこの村の水と比べたらまずいし
それに空気がうまくない」
「ああ、そうだ。なのにどうしてみんなこの村から出ていくんだか」



「ノエル、そういえばお前の親も町にいるんだったな・・・今度いつこっちに帰ってくるんだ?」
オラヴィがノエルに聞くと、トイヴォはノエルの顔を見て
「え・・・・ノエルの両親はここには住んでないの?」と驚いている
ノエルはうなづいて
「うん、僕の両親は町で働いているんだ・・・・この町だとあまり稼げないって。
1か月に一度はこっちに帰ってくるけど、仕事が忙しいと戻ってこない時もあるんだ」
「そうだったんだ・・・・どうしてノエルは町で一緒に暮らさないの?」
「最初は一緒に町に住んでいたけど、僕はあの町にはなじめなかったんだ・・・・
自然に囲まれたこの村にいたほうが僕は落ち着くし、この村が好きなんだ。
だから無理を言って、この村に残ることにしたんだ」



しばらく辺りが静まりかえっていると、オラヴィが声をあげた
「おいおい・・・せっかくの歓迎会なのに、こんなに暗くなっちゃいけないや・・・
おい、サムエル。お前音楽家なんだから、何か歌でも歌ってくれよ」
サムエルはオラヴィの言葉を受けてあわてて
「え、そ、そんな・・・・急に振られても。楽器も何も用意してませんよ」
「楽器を用意してない?ギターくらい持ってきてないのか?太鼓でもいいんだぜ」
「まあまあ2人とも」
今度は黒い帽子をかぶった男が2人の間に割って入ってきた。
「なんだ。オスカリじゃないか・・・遅かったな。今頃帰ってきたのか?」とオラヴィ
「ああ、森の奥まで行ってたから、帰りが遅くなってね・・・・」
オスカリがトイヴォの方を見ると、トイヴォに話しかけてきた
「あなたがトイヴォさんですね。オスカリです・・・この村へようこそ」
「あ、はい・・・・ありがとうございます」
トイヴォが頭を下げると、後ろからオラヴィの声が聞こえてきた。
「じゃ、楽器なしでもいいから、何か歌おう」



「歌と言っても、何を歌います?」
サムエルがオラヴィに聞くと、ノエルがこう提案した
「なら、みんなが歌える、この村の歌にしたら?」
「それはいいですね」オスカリはそれを聞いて賛成した。
「村の素晴らしいところを歌った歌なら、みんな歌えるし。みんなどうかな?」とノエル
「村の歌だったら、オレも歌えるし賛成だ」とアンテロ
オラヴィもうなづいて
「じゃ、みんなで歌おう。この村のいいところをこの2人に教えてやるんだ」



そしてサムエルが指揮者となって合図をすると、ノエル達は歌い始めた。



森に太陽の光が射し込む時
霧が晴れて小鳥のさえずりが聞こえる
空気は冷たく澄んだ青空
いつもの朝がやってきた

外はやわらかな太陽の光
さわやかな風と色とりどりの花々
果てしなく続く緑
小さな動物たちが迎えてくれる

夕闇の中に陽が落ちるころ
空には満天の星が輝く
満月が優しい光を照らし
私たちを見守っている

グリーン・ホーム・ヴィレッジ
それは森に包まれた村
グリーン・ホーム・ヴィレッジ
自然に包まれた素敵な村



しばらくしてトイヴォとヴァロは、集会所を出て行った。
ずっと騒がしいところにいたので、静かなところで少し休みたかったのである。
「この辺りに湖があるって言ってたよね」
ヴァロがトイヴォの上をフワフワ浮きながら、辺りを見回している
「うん。確か大きな木があるって・・・・そのすぐ側に湖があるってノエルが言ってた」
トイヴォは大きな木がないか、片手にランプを持って辺りを見回しながら探している。



集会所からまっすぐ歩いて、しばらくすると目の前に大きな木が現れた。
大きな木のところに辿り着くと、トイヴォはランプを前に向けた。
木のすぐ前は湖なのか、ランプの灯りが水面に映って、水面がゆらゆらと揺れている。



ノエルからランプを借りてよかった・・・・・でないと湖に落ちて濡れるところだった。



トイヴォはほっとしながら、木によりかかって座った。



「そこにいるのは誰じゃ?」
急に声が聞こえてきたので、トイヴォは驚いた。
声のした方へ身を乗り出してみると、同じ大きな木の幹に、帽子を被った1人の男の姿があった。
トイヴォは立ち上がってその男のところに近づくと、緑の帽子をかぶり、白くて長いヒゲを
持った男が、湖に釣り糸を垂らして、釣りをしていた。
「あなたはここで何をしているんですか?」
トイヴォは男に声をかけると、男はトイヴォの方を向いて
「見れば分かるじゃろう・・・・釣りをしているんじゃ」
「釣り・・・・夜に釣りをして魚が釣れるんですか?」
「釣れる時もあれば、釣れない時もある・・・・・ところでお前さんは見かけない顔じゃな」
「トイヴォです。ここへは今日来たばかりなんです」
「僕はヴァロだよ」
トイヴォの後ろでヴァロが男に自己紹介すると、その男はうなづいて答えた。
「そうか。お客さんか・・・・私はレオ。見ての通りの老人じゃ」



「座っていいですか?」
トイヴォがレオに聞いて、レオがうなづくと、トイヴォはレオの右隣に座った。
そして木によりかかって、ふと夜空を見上げると、空には無数の星が広がっている。
中央には大きな満月も見える。
「星がきれいなところじゃろう?今夜は満月もよく見える」とレオ
「とてもきれいな星と満月ですね・・・・いつもここで釣りをしているんですか?」
「ああ、今日みたいないい天気の日はいつもここで釣りをしているよ」
トイヴォがレオに向かって聞くと、レオはうなづいて答えた。
そして夜空を見上げながら
「ここでこうして魚が釣れるのを待つ間、いろんな星を探すんじゃ」
「星を・・・・?どんな星を探すんですか?」
「そうじゃな・・・・・」レオは見上げたまま、しばらく星を探すように夜空を見渡した。
「例えば、右側に今出ている、あの星は何かわかるかな?」



トイヴォはレオが指さす方を見上げると、そこには4つの星が四辺形を形作っているかのように
並んでいた。
「四角に並んでいますね・・・・何かの星座ですか?」
「ああ、秋の四辺形と言われている星でな。星座で言うとペガスス座の胴体に当たるところじゃ」
「すみません、僕は星座はあまり分からなくて」
「いいんじゃよ」レオは笑って答えた。「そのうち分かるようになる」
「レオさんは星には詳しいんですか?」
「いいや。最初は全く詳しくはなかった」レオは首を振った。
「ただ、毎日星を見ているうちに興味が出てきてな・・・調べているうちにわかるように
なったんじゃ。好きなものにはとことん調べないと気が済まない性格でな」
「そうなんですか・・・・・レオさんの好きな星座は何ですか?」
「今はまだ出てきてないが、見つけやすいオリオン座じゃな・・・・赤い星のペテルギウスを
見つければ、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、それにオリオン座の腰にあたる
リゲルも見つけることができる。まあこれは冬の星座だからまだまだ見れるのは先の話じゃがな」



トイヴォが夜空を見上げていると、今度はレオがトイヴォに聞いてきた。
「ところでトイヴォはどうしてここに来たのじゃ?集会所で歓迎会をやっているはずじゃが」
「はい、さっきまで集会所にいました」トイヴォはレオの方を向いて答えた。
「少し考えたいことがあって来たんです」
「考えたいこと?それはどんなことじゃ・・・・よければ話を聞くぞ」
「村長さんから、集会所からなくなった女神像を取り返して欲しいと頼まれました。
大きな猫で、どうやって取り返したらいいか考えているんです」
「何と、あの女神像を猫が・・・・・・!」
レオが驚いていると、ヴァロがレオのところに来て
「1人じゃ無理だから、2人で取り返そうって言ったんだけど、また猫が女神像を持って
行ったら、村長さんじゃできないだろうから、別の方法を考えようって」
「どうして猫が女神像を持って行ったのか、理由を知りたいんです・・・それが分かれば
女神像を傷つけずに取り返せるはずです」とトイヴォ
レオはしばらく考えて、2人にこう言った。
「・・・なら、どうして女神像を持って行ったのか、その猫に理由を聞いてみたらどうじゃろう」



「え・・・・・・」
レオの提案に、トイヴォは思わず声をもらした。
「猫に理由を聞くの?猫は何を言っているのか分からないのに」とヴァロ
「なら、猫の気持ちになって考えてみるんじゃ」
レオはトイヴォの顔を見ながら続けた。
「もしトイヴォがその猫だったら、どうするか考えてみるんじゃ。どうしたら村の大事な
女神像を持っていくようなことをするのか・・・・・・」



そうか、どうして女神像を持って行ったのか、猫の立場になって考えればいいのか。



トイヴォがそう考えていると、レオは湖を見てこう言った。
「おやおや・・・・魚は釣れないが、どうやら満月を釣ったようじゃ」
トイヴォは湖に目を移すと、レオの釣竿が湖面に写っている満月を釣っているように見えた。