仕組まれた夢

 


城を出発し、4人は森の中を歩いていた。
降っていた小雨は森に入ってからしばらくすると止んでいたが
空はまだ灰色の厚い雲に覆われていた。



しばらく歩いていくと、エリアスがゆっくりと足を止めた。
エリアスが止まったので、あとの3人も足を止めると
目の前には大きな道が左右2つに分かれている。



「どっちが集落に行く道か分かるか?」
2つの道を見ながら、エリアスが聞くと、エリアスの右隣にいるアレクシが答えた。
「いつも街に行く道は右の道だから、集落は左の道だ」
「左か・・・・右の道は中心地の街に出る道か」
エリアスが左の道を見ていると、アレクシは左の道に行こうと歩き出しながらエリアスに聞いた。
「その通りだ。ところで集落には行ったことはあるのか?」
「いいや、行ったことはない」と首を振るエリアス
「じゃ、ここから先は後をついて来てくれ。オレはかなり前だけど行ったことがあるから
 ある程度は道は知っているつもりだ」
「分かった・・・・後をついて行くよ。ありがとう」
アレクシが先頭に立って先に歩き始めると、あとの3人はその後に続いて行った。



アレクシが歩いていると、後ろからヴァロがフワフワと浮きながら近づいてきた。
「アレクシさん、集落には行ったことあるんだ・・・・どんなところなの?」
「ああ、ヴァロか」
アレクシは後ろを振り返って、ヴァロの姿を見た。
そして前を向いて歩き始めると
「行ったのはかなり前だから、もしかしたら今は変わっているかもしれないな・・・・
 その集落はとても小さい家の集まりで、なかにはいろんなお店もあるんだが、この先にある
 石の採掘場で働いていた住民が大勢住んでいたんだ」
「石の採掘場って・・・・もしかしてセントアルベスクで採れる青い石のこと?」
「そうだ。石を採るために作った集落と言ってもいい。今はその採掘場はなくなってしまったが」
「え・・・・・どうしてなくなったの?」
「その採掘場で青い石が採れなくなってしまったんだ。もう全部採りつくしてなくなったんだよ」
するとエリアスが話に割り込んできた
「それじゃ、今集落に住んでいる人はどうしているんだ?」
「それは分からないが・・・・・昔よりは住んでいる人はいないと思うが。行ってみないと分からない」
「それよりアレクシさん・・・・この先は洞窟になってるみたいですが、そこを通るんですか?」
エリアスの後ろでトイヴォが前を見ながらアレクシに聞くと、アレクシは前を見た。



4人の少し先に大きな岩山があり、下の方には穴が開いている。
岩山が道を塞ぐように立ちはだかっており、岩の穴を通るしか先に進めないようだった。



アレクシは岩山の前まで来ると、足を止めた。
「そこが話していた採掘場だ・・・・集落はこの洞窟を抜けた先にある」
「この洞窟の先にあるんだ・・・・こんな暗い穴の中を通るの?」
ヴァロが岩山の洞窟を見ていると、アレクシは腰につけているランプをはずして
右手に持った。
それを見たトイヴォはランプを見ながらアレクシに聞いた。
「それは城にあったランプですか?」
「いや、あれはもっと大きい。これは宿屋から持って来たんだ。持ち歩くのにちょうどいい
 大きさだったから」
アレクシはランプの灯りをつけると、ランプを洞窟の入口に向けた。
入口がランプの灯りで照らされると、奥まで道が続いているのが見えた。
「中に入ろう。この灯りを見ながら1人ずつゆっくりと入るんだ。でないと道に迷うぞ」
アレクシはそう言って中に入ると、あとの3人は1人ずつ後を追って洞窟の中に入っていった。



洞窟の中に入ると、左右両側は岩の壁に囲まれていた。
道はそれほど狭くなく、大人が2人横に並んで歩いても大丈夫なほどの道幅だった。
先頭を歩いているアレクシがランプで道を照らしながら、ゆっくりと歩いて行く。
トイヴォはランプの灯りを見ながら、一番後ろを歩いていた。



「この洞窟、道幅がとても広い・・・・採掘場を作った時に広くしたのか?」
エリアスが辺りを見回しながら道の広さに驚いていると、前を歩いているアレクシが言った。
「ああ、やっぱり石の採掘場だったからな。石を運んだりするのにも道幅が狭いと大変だろうから
 穴を掘った時に広くしたんだろう」
「それに道も歩きやすい。地面もきれいにしているんだろうか?」
「そこまでは分からないな。でもこの洞窟の全部まではきれいにはしてないと思う」
「この採掘場って、いつまで石が採れてたんだろう?」とヴァロ
「さあ・・・・・分からないが、噂では数年前までは採れてたっていう話を聞いたことがある」



最近までは石が採れていたのか。
僕が持っているこの石は、この採掘場で採れた石なのかな。



トイヴォが前で話をしている3人の話を聞きながら思っていると
突然どこからか声が聞こえてきた。



・・・・トイヴォ、トイヴォ!



トイヴォはそれを聞いて思わず立ち止まった。
辺りを見回して誰かいないか確認してみるが、前にいる3人以外、誰もいない。



・・・・誰かが僕の名前を呼んでいる気がしたけど、気のせいかな。



トイヴォは気のせいだと思い、再び3人の後をついて行こうと歩き出した。



歩き出してしばらくすると、またどこからか声が聞こえてきた。



・・・・トイヴォ、トイヴォ!



トイヴォははっとして、またその場で立ち止まった。
前を歩いている3人はトイヴォの方を向いていないので、3人がトイヴォを呼んでいないことは
トイヴォも分かっていた。
トイヴォは再び辺りを見回した。
しかし、辺りには誰の姿も見当たらない。



トイヴォは戸惑っていた。
一体、さっきの声はどこから聞こえているんだろう?
それと同時にトイヴォは疑問を感じていた。
声は他の3人にも聞こえているはずなのに、3人は声が聞こえていないのか反応がないのだ。
あの声、あの3人にも聞こえているはずなのに・・・・・・。
一体、どうなっているんだろう。



トイヴォがそう考えながら前を見ると、他の3人の姿がだんだんと離れて小さくなっていた。
後をついて行かないと、暗闇の中で迷子になってしまう。
トイヴォははっとして、慌てて急ぎ足で歩き始めた。



急ぎ足で歩きながら、トイヴォは聞こえてきた声のことを考えていた。
あの声、どこかで聞いたことのあるような声だ・・・・・。
女の人の声、女の人の声・・・・・?
そう思ったとたん、トイヴォは思い出したかのようにはっとして気がついた。
それは、時々トイヴォの夢に出てきた母親の声だった。



まさか、お母さんがここに・・・・・?



トイヴォは一瞬そう思ったが、すぐに否定した。



こんな洞窟の中に、お母さんがいるはずがない。



そう思いながら歩いていると、3人の姿が大きくなって近づいてきた。
よかった・・・・なんとか追いついた。
トイヴォは3人の姿を見て、ほっとしていると、またどこからか声が聞こえてきた。



トイヴォ、トイヴォ!



トイヴォは声に気がついて、声が聞こえてきた左側を向いた。
すると左側に小さな道があり、その奥に人影のような黒い影が動いているように見えた。



トイヴォはその場で立ち止まって、その影をよく見ていると
片手には丸いランプのような灯りを持ち
長い髪で、細身の体で暗い赤のようなワンピースを着ている。
それは夢に出てきた母親の姿に似ていた。



あれは・・・・・夢に出てきたお母さんとそっくりだ。
もしかしたらお母さんかもしれない。



トイヴォがそう思っていると、その影はゆっくりと動き始めた。
別の道を歩いているのか、さらに奥の方へと姿が消えていく。



待って・・・・・行かないで!



トイヴォは影の後を追おうと、左側の小さな道を走り始めた。
その時、ズボンの右ポケットから銀色の細長いものが飛び出し、地面に落ちた。



トイヴォは小さく細い道を、ただひたすら走っていた。
あの影は何なのか。
トイヴォは気になって仕方がなかった。



もしかしたら母親じゃないかという思いと、こんな場所に母親がいるはずがないという
否定的な思いがトイヴォの心を交錯していた。



たとえ母親じゃなかったとしても、今はあの影が何なのか知りたい。



そんな思いがトイヴォの心を支配していた。



しばらくして道の突きあたりに出ると、トイヴォは立ち止まり左右を見回した。
すると右側の奥の方にかすかな灯りがついているのが見えた。



確かあの影は右のほうに行ったはずだ。
灯りがついてるのは何だろう。何かあるのかな。



トイヴォは灯りのある方へゆっくりと歩き始めた。
灯りのある場所に近づくにつれて、その光はだんだんとはっきり、大きくなっていく。
そしてしばらくすると、トイヴォは目の前が岩壁になっているところまで来た。



この先は進めないと分かると、トイヴォは光が漏れている左側を向いた。
左側は木製の扉になっていて、その中から灯りが漏れているようだった。



この先は部屋になってるんだ。
ということは中に誰かがいる・・・・・・。
もしかしたらさっきの影は誰なのか分かるかもしれない。



トイヴォはゆっくりと扉のドアノブに手をかけた。
そしてゆっくりと扉を押し開けると、ゆっくりと中に入って行った。



部屋の中は天井に灯りがついていたが、誰もいなかった。
トイヴォは部屋の周りを見回してみると、大きな木製の木箱が上下2つ積まれていたり
大きめの椅子が無造作にいくつか置かれているだけのシンプルな部屋になっていた。



おかしいな、誰もいない・・・・・・・。



トイヴォはさらに部屋を見回した。



すると、入ってきた扉から少し奥に行ったところに、もうひとつ部屋があった。
トイヴォがその部屋の前まで行ってみると、部屋の奥で椅子に座っている1人の女性の後ろ姿が見えた。
髪が腰の長さまであり、細身の、トイヴォがさっき見た影の姿と同じ姿をしていた。
その姿は、トイヴォが夢の中で何度も見た、母親の姿だった。



トイヴォは目の前にいる女性を見て、しばらくその場を動けなかった。
今、目の前にいる女性は母親かもしれない。
そう思うと、どう話しかけたらいいのか。
どうすればいいのか分からなかった。



トイヴォが何て声をかけたらいいのか分からないまま、その場を立ち尽くしていると
目の前にいる女性がトイヴォに気がついたのか、ゆっくりとその場から立ち上がった。



トイヴォは思わず、女性に向かって声をかけた。



「あ、あの・・・・・・」



すると女性はゆっくりとトイヴォの方を振り返った。
優しそうな顔つきで清楚な感じの女性だった。
女性はトイヴォの姿を見ると、何も言わず、ゆっくりとトイヴォに近づいてきた。



女性はトイヴォの目の前まで来ると、トイヴォの顔をじっと見つめた。
そしてゆっくりと口を開いた。



「トイヴォ・・・・・トイヴォなのね?」



名前を呼ばれたトイヴォは、うなづいて女性の顔を見ながら小さな声でこう聞いた。



「うん、僕、トイヴォだよ・・・・・お母さん、お母さんなの?」



「やっぱり、トイヴォなのね」



女性はそう言いながらしゃがんで、右手をトイヴォの顔にやり、優しくトイヴォの顔を撫でた。
そしてトイヴォの顔を見つめながらこう言った。



「そうよ、あなたのお母さんよ。トイヴォ。会いたかったわ。とても会いたかったわ」



「お母さん!」



トイヴォが思わず女性に抱きつくと、女性は優しくトイヴォを包み込むように抱きしめた。
トイヴォの目からは自然と涙が溢れ出て、いつの間にか大声で泣いていた。



しばらくして、トイヴォがようやく泣き止むと、女性は立ち上がってトイヴォからゆっくりと離れた。
その時、トイヴォはなぜか違和感を感じた。
抱きしめられた時から感じていたが、女性の体温はとても冷たく、肌のぬくもりを感じなかったのである。



何だろう、この変な感じ・・・・・。
せっかくお母さんに会えたのに。お母さんじゃないような気がする。



トイヴォが黙っていると、女性はトイヴォに声をかけてきた。
「トイヴォ、あなたに会えてとても嬉しいわ。こんなに大きくなって・・・」
「お母さん」トイヴォは女性を見ながら続けてこう切り出した。
「お母さんはどうしてここにいるの?どうして家に帰ってこなかったの?」



するとその女性はしばらくしてから、口を開いた。
「・・・家に帰ろうと思っていたわ。でも家に帰る余裕がなかったの。
 しばらくは街で働きながら、ここで暮らしていこうって考えたのよ」
「僕のことは考えなかったの?僕が家で待っているって思わなかったの?」
「もちろん考えていたわ、トイヴォ。あなたのことを忘れたことなんて一度もなかった。
 でもここから家まではすごく遠いの。トイヴォもここまで来るのに遠かったでしょう?」
トイヴォがうなづくと、女性は微笑みながらこう言った。
「疲れたでしょう。向こうの部屋に椅子があるから座って。何かお菓子を持っていくわ」



トイヴォが部屋を見回して、小さい木箱の手前にある椅子に座ると
女性が水が入っているコップと、お菓子がのっている丸いお皿を持って部屋に入ってきた。
そして木箱の上にコップとお皿を置くと
「ごめんなさい、飲み物が水しかなかったわ。トイヴォはジュースの方がよかったでしょう?」
それを聞いたトイヴォは首を振った
「いいよお母さん、僕が急にここに来たんだから・・・・気にしないで」
「疲れたでしょう。トイヴォ。お腹も空いているだろうから、お菓子も食べなさい」
「ありがとう」



トイヴォは女性と話をしていたが、頭の中の違和感がなかなか消えなかった。



せっかくお母さんと話をしているのに、なんだか違う人と話をしているみたいだ。
しばらく会っていなかったからかもしれないけど、でもなんだか違う。
お母さんなのに、僕の知っているお母さんじゃないみたいだ・・・・。



トイヴォは女性が出した、お皿の上にあるお菓子を見た。
白くて丸い、小さなクッキーが何個もお皿に乗っている。
トイヴォはますます違和感を感じた。



おかしい・・・・いつもお母さんは冷蔵庫にクッキーの生地を入れていて
食べる時はいつもオーブンに入れて焼いてから出してくれてた。
それに、こんなに白いクッキーなんて出してもらったことがない。
レーズンやナッツも何も入ってないクッキーを出すなんて、お母さんらしくない。



トイヴォはそう思ったが、自信がなかった。



もしかしたら、急に僕が来たから、準備できなかったからかもしれない。
でも、白いクッキーなんて見たことがないし、今まで出してもらったことがない。



トイヴォが目の前にあるお菓子や飲み物に手をつけないでいると
女性が気になったのかトイヴォに話しかけてきた。



「トイヴォ、食べないの?お腹が空いてないの?」



トイヴォはその声に気が付いて
「あ・・・・ここに来る前に食べてきたばかりだから。水も飲んだばかりだし」とごまかした。
「そう・・・・・」
「と、ところでお母さん、どうしてこの洞窟に住んでるの?他にも住むところがあるのに」



すると女性はえっというような顔で戸惑いを見せた。
そしてしばらくしてからこう答えた。



「住むところを探していて、たまたまこの洞窟に入ってみたら、ここを見つけたのよ。
 洞窟だから夏は涼しいし、冬はそれほど寒くはないから、そのままここに住むことにしたの」
「そうなんだ・・・・・・」
「トイヴォ、せっかく会えたんだから、一緒にここでお母さんと暮らさない?
 お母さんはもうトイヴォと離れたくないの」
「お母さん・・・・・・」



しばらく2人は何も言わず、辺りは静かな雰囲気に包まれた。



先に口を開いたのは女性の方だった。
「せっかくトイヴォに会えたんだから、今夜は頑張って料理を作らないとね」
「ありがとう、お母さん」
トイヴォは女性にお礼を言ってから続けてこう言った。
「せっかくだから、ホワイトミルクシチューが食べたいな」
「トイヴォが大好きなミルクシチューね」女性はそう言って微笑んだ。
「分かったわ、今から作るからここで待っていてね」
女性がその場を離れてしまうと、トイヴォは女性の後ろ姿をじっと見つめていた。



違う・・・・・・。



女性がいなくなると、トイヴォはがっかりしたような顔つきで、首を小さく振りながら思った。



僕の嫌いなものを覚えていないなんて。
あの女の人は、僕のお母さんじゃない。



トイヴォはそう確信すると、その場をゆっくりと立ち上がった。



女性が奥の部屋で夕食の材料を出していると、後ろの部屋の入口から
トイヴォがゆっくりと入ってきた。
女性はトイヴォが部屋に入ってきたことに気づかず、夕食の準備をしている。



トイヴォは女性の後ろ姿を見つめながら、ゆっくりと女性に近づいていく。
そして、女性のすぐ後ろまで近づくと、トイヴォは足を止めた。



トイヴォはゆっくりと女性に向かって話しかけた。
「お母さん」
「何?」
女性がそう言って振り返った時、トイヴォは女性に向かって突進して行った。
トイヴォの体が女性に触れたかと思うと、女性は驚いて大きく目を見開いた。



しばらくしてトイヴォが女性から離れると、その女性は苦しそうな声を上げ始めた。
トイヴォの手には小さなナイフがあり、ナイフの刃は真っ赤な血で染まっていた。



女性は苦しそうな声を上げながら、刺された右の脇腹を両手で押さえている。
脇腹からはだんだんと血が出ていて、押さえている両手がだんだんと血で染まっていく。
女性は苦しみながら、その場に立っていられなくなり、落ちていくように床に倒れこんだ。



トイヴォはそれを見て、急に不安になった。
どうしよう。もしかしたら、僕は本当のお母さんを刺したかもしれない・・・・・。
そうだとしたら、このままずっと見ていられない。



トイヴォがどうするか戸惑っていると、倒れている女性の体に変化が起こった。
細身の体はだんだんと大きくなり、女性が着ていた赤いワンピースが破けると
体はだんだんと大きく、丸くなっていった。



女性の白い肌は、体が大きくなるにつれ、ピンク色に変わっていった。
長い髪も消えてなくなり、ピンク色の頭に変わっていった。
頭は中が透けており、中央には大きな脳みそが見えている。
最後に穏やかな顔つきだったのが、大きくて高く突き出た鼻に、釣りあがった目、大きな口の醜い顔に変わった。
女性の正体は、得体の知れないモンスターだったのだ。



「あれ・・・・・?」
エリアスが後ろを振り向くと、トイヴォの姿がないことに気がついた。
「どうしたの?エリアスさん」
エリアスがその場で立ち止まり、後ろを見ているのに気がついたヴァロが声をかけた。
エリアスはヴァロの方を向いて
「トイヴォがいないんだ・・・・・」
「え、トイヴォがいない?」
ヴァロが驚いて、フワフワ浮きながらエリアスのところに移動した。
それを聞いたアレクシも驚いて
「何?トイヴォがいないだって?」とエリアスの方を向いて、ランプの灯りをエリアスに向けた。
ランプの灯りを向けられ、眩しそうに目の前に手をやりながらエリアスはこう言った。
「ああ・・・・さっきからいる気配がないと思って、振り返ったらいないんだ」
「さっきって、どのくらい前からだ?この洞窟は暗いから、道に迷ったら探すの大変だぞ」
「もしかしたら、まだ後ろの方にいるかもしれないよ」
ヴァロはトイヴォを探そうと、歩いてきた道を戻り始めた。
「とりあえず探そう。まだ近くにいるはずだ」
アレクシがヴァロの後に続くと、3人はトイヴォを探し始めた。



3人で歩いてきた道を戻っていると、少し先を移動していたヴァロが2人を呼んだ。
「2人とも来てよ、ここに何か光るものが落ちてる」
「何だって?」
2人が急ぎ足でヴァロのいるところに行くと、ヴァロは小さな手で下を指さした。
アレクシがヴァロにランプを向けて、エリアスがヴァロが指をさしている場所を見ると、
何やら銀色に光るものが落ちている。
エリアスは腰を下ろして、銀色に光るものを右手で拾った。



アレクシがランプを向けると、それは細長く、銀色に光っていたペンだった。
「これは・・・・・トイヴォに貸していたペンだ」
エリアスは城にいた時にトイヴォに貸した自分のペンだということを思い出した。
「この間、手紙を書いたときに借りたペンだね。まだエリアスさんに返してなかったんだ」
ヴァロがペンを見ていると、エリアスは首を振って
「いいや、一度返してもらったけど・・・・また手紙を書くことがあるだろうと思って、トイヴォにあげたんだ」
続けてエリアスはペンを見ながらヴァロに聞いた。
「このペンが落ちていたのを見つけた時、ペン先はどの方向に向いてた?」
「暗かったからよく見えなかったけど、確か右を向いてたと思うよ」
エリアスが右を向くと、そこには小さな道が先の方まで続いていた。



エリアスはペンをジャケットの内側にしまうと、小さな道に行こうと立ち上がり、歩きだそうとした。
するとアレクシがエリアスの左腕をつかんだ。
「どこに行くんだ?」
「トイヴォはあの道を行ったに違いない。後を追って行くんだ」とエリアス
するとアレクシはやめろと言うように
「大丈夫か?この洞窟は小さい迷路のような道がたくさんある、むやみに行くと道に迷うぞ」
「そんなこと言って、トイヴォを見捨てるのか?いなくなってまだそんなに時間は経っていない・・・
 今ならまだ見つかるかもしれない」
「いや、そういうことを言ってるんじゃない」
アレクシは首を強く横に振ると、真剣な顔をして続けてこう言った。
「噂だが、この洞窟はモンスターが出るんだ。小さな子供を食べるっていう・・・・・」



それを聞いたヴァロは驚いた
「そ、それじゃ・・・・・トイヴォはもしかしたら」
「もしかしたら、モンスターに捕まったかもしれない・・・・そう思いたくはないが」
アレクシがそう言うと、エリアスはそれを聞いて
「それなら、早く見つけないとトイヴォが危ない」と腰にある剣に手をかけた。
そして剣を抜くと
「大丈夫だ、この剣でモンスターを倒す。早くトイヴォを探そう」と小さな道を走り始めた。
「あ、おい!待ってくれ。オレ達も一緒に行くぞ!」
アレクシが慌ててランプを小さな道に向け走り出すと、ヴァロもフワフワ浮きながら後を追った。



「お前は一体何者だ!どうしてお母さんに化けたんだ」
ナイフを向けながら、トイヴォは目の前にいるモンスターに聞いた。
モンスターはトイヴォを見ながらくやしそうに
「あともう少しでせっかくのご馳走にありつけるところだったのに、どうして違うって分かったんだ?」
「会った時からなんだか違うと思ってたんだ」
トイヴォは少しづつ後ろに下がりながら、最初の部屋に戻ってきた。
「どうして僕のお母さんを知ってるんだ。どうして僕を狙ったんだ?」
モンスターはトイヴォに少しづつ近づきながら
「それはここにはめったにいない、貴重な子供だからだ・・・・それに母親に化ければ何の疑いもなく
 子供が寄ってくる。それを狙って子供を食べるのさ」
「子供を食べる・・・・?」
それを聞いてトイヴォが戸惑っていると、モンスターは深くうなづいた。
「そうだ。少し前まではここにたくさんの子供を連れてくる連中がいたのに、最近さっぱり来なくなってしまった。
 だからこうして襲ってるのさ」
「たくさんの子供がここに・・・・・・?」
トイヴォが途中までそう言いかけると、何かを思い出したのかはっとした。



ポルトでたくさんの子供と女性が誘拐されたっていうのは・・・・・・。
もしかしたらみんな、このモンスターが食べるために誘拐されたのかもしれない。



「その子供達は誰が連れてきたんだ?」
「黒い服を着た兵士達だ。セントアルベスクを支配している闇の魔王様の手下達・・・・・」
「子供のお母さんや、女の人達もここに連れて来たのか?」
「いいや、興味があるのは子供だけさ・・・・・母親や女性には興味はない。それにここには来ていない」



ここには最初から来てないんだ。
そうするとアウロラのお母さんはどこに連れていかれたんだろう。



「本当に、女の人達はここには来てないんだな?どこにいるのかも分からないのか?」
トイヴォがもう一度聞くと、モンスターはうなづいて
「ここには来ていないし、姿も見ていない・・・ここに来たのは子供達だけだ」
「どうして僕のお母さんのことを知ってるんだ?」
するとモンスターはトイヴォの頭を見ながら
「それはお前の頭の中にある母親の記憶を見れば分かることだ。母親そっくりに化ければ
 子供は何の疑いもなく近づいてくる・・・・さっきのお前のようにね」
「僕の頭の中だって・・・・?どうしてそんなことができるんだ?」
トイヴォが戸惑っていると、モンスターはトイヴォを見ながら
「それは闇の魔王様がお前をここに連れてくるために、お前の頭の中に入り込んで、そこから
 お前の母親の記憶を持って、ここに来たんだ。おかげで子供を探す手間が省けたよ。
 私はただお前の母親に化けて、お前の名前を呼んでいればいいんだから・・・・・・・」



な、何だって・・・・・・。
それを聞いたトイヴォは、ショックを受けた。



いつ、闇の魔王に僕の頭の中を見られたのだろう。
僕の母親の記憶を盗んでいくなんて・・・・・・。
どうして闇の魔王は僕の頭の中を・・・・・・。



トイヴォがナイフを向けたまま黙っていると、モンスターはトイヴォにゆっくりと近づいた。
「それに、私は他人の夢を操作することができるんだ。ここに来るまで何度も母親の夢を見ただろう?」
「な、何だって・・・・・・?どういうことだ?」
するとモンスターはいやらしい笑みを浮かべながらこう言った。
「何度も母親の夢を見させて、お前が洞窟に来たところを私がお前の母親に化けて呼べば、
 お前は何の疑いもなく、この部屋に来る・・・・・全ては私のもくろみ通りになった訳だ」
「何だって・・・・!」



それじゃ、今まで見たあの夢は、全てこのモンスターが作った偽物の夢・・・・・。
それを知ったトイヴォはショックを受けた。
それを同時に、何とも言えない怒りがトイヴォの心の底から湧き上がってきた。



許せない・・・・・お母さんとの思い出を利用するなんて、絶対に許せない!



「ここで行き止まりだ」
一方、トイヴォを探している3人は突きあたりの岩の壁の前に辿り着いた。
ヴァロは左右を見回しながら
「道が左右にあるよ。トイヴォはどっちに行ったんだろう?」と迷っている。
「二手に別れるか?」
エリアスの提案にアレクシは首を振って否定した。
「いいや、ランプがひとつしかない。それに何かあったら大変だ・・・・」
「アレクシ、この辺りに何かないのか?何か思い出せないのか」
「ええと・・・・・・」
アレクシが辺りを見回しながら困っている。
ヴァロはだんだん焦ってきたのか
「早く何とか見つけないと、トイヴォがモンスターに食べられちゃうよ」
「分かってる。ちょっと考えさせてくれ」
アレクシはランプを来た道に向けながら考えている。
「ここは採掘場だったんだろう?休憩する場所とかはこの中にないのか?」とエリアス
「休憩場?・・・・・・あ、そうだ!休憩場だ!」
エリアスの言葉を聞いて、何かを思い出したのかアレクシは声をあげた。
そしてランプを左から右に動かしながら言った。
「確かこの近くに、労働者の休憩場があったはずだ」
「休憩場?ここから近いのか?」
「ああ、右か左かは思い出せないが・・・・ここからそう遠くはないはずだ」
「じゃ、まず左に行って、ダメだったら右に行けばいいね」
ヴァロがフワフワと浮きながら左の道へと移動を始めた。
アレクシはヴァロの行動に慌てながら
「あ、おい、勝手に行くんじゃない!行く時は一緒に行くんだ」と後に続いて歩き始めた。
エリアスは黙ったまま、2人の後に続いた。



「じゃ、そろそろ観念してもらおうか・・・・久しぶりのご馳走にありつける」
モンスターがトイヴォを見て、食べたそうに舌をペロリと出して唇をなめまわした。



トイヴォはうつむいたまま、怒りに体を震わせていた。
そして顔を上げたかと思うと、モンスターをにらみつけ
「許せない・・・・・お前だけは絶対に許さない!」とナイフをモンスターに向けて突進した。
そしてモンスターの頭の中央にある脳に向けて、ナイフを刺そうと右手を振り上げたが
あと少しのところでモンスターが体を避けたため、空振りに終わった。



攻撃をかわされたトイヴォはすかさずモンスターから離れた。
そして距離を取ると、モンスターと向かい合わせになりナイフをモンスターに再び向けた。
モンスターはやれやれと言うように
「もう少しで大事な脳をやられるところだった・・・・今度はそうはいかない」と右手で頭を撫でた。
そして両手を前に出したかと思うと、そのままトイヴォに襲いかかってきた。



トイヴォはその場を動かずに、モンスターにナイフを向けていたが
もう少しでモンスターと体が触れるところで左に動き、モンスターの攻撃を避けた。



左に動いた時に、トイヴォは最初に刺したところを確認したが
刺した時にできた脇腹の傷は見当たらなかった。



さっきまで血が出ていたのに、もう傷がないなんて。
もしかしたら体を刺しても、またしばらくしたら傷が治るってこと?
そうだとしたらどこを刺せばいいんだろう・・・・・?



そう思うと、トイヴォはどう攻撃すればモンスターを倒せるのか分からなくなった。
しかし不意にモンスターがさっき言っていたことを思い出した。



そういえば、さっき頭を狙った時に、もう少しでやられるところだって言ってた。
もしかしたらあの脳を狙えば・・・・・・。



トイヴォはモンスターの頭の脳を見たが、どうやって攻撃していけばいいのか分からない。
モンスターと再び距離を取り、向き合いながらどうすればいいのか戸惑っていた。



するとモンスターが再び、トイヴォに向かって突進してきた。
もう少しで捕まるというところで、トイヴォはモンスターから避けた。
そしてモンスターから離れ、ナイフを向けながら、トイヴォはどうすればいいのか戸惑い続けていた。



このままだと、そのうちモンスターに捕まってしまう。どうすればいいんだ・・・・・。



トイヴォがそう思っていると、再びモンスターが襲ってきた。
トイヴォは今度は後ろに避けようと、モンスターの方を向いたまま後ろに下がった。
その時、後ろにあった木箱の角が体に当たり、トイヴォは驚いて後ろを振り返った。
木箱に当たった時、右手に持っていたナイフが手から離れ、床に落ちた。



しまった、ナイフが・・・・・・!



トイヴォは慌てて床に落ちたナイフを拾おうとすると、そのナイフをモンスターが足で踏みつけた。



モンスターはいやらしい微笑みを見せながらトイヴォを見た。
「お前の運がつきたみたいだな・・・・・これでやっとご馳走にありつける」
唯一の武器を無くしたトイヴォは近づいてくるモンスターに、もはや逃げるしかなかった。



トイヴォは辺りを見回しながら、モンスターに体を向けたまま逃げる場所を探していた。
すると左側に積まれている木箱が目に入った。
木箱の手前には、さっきまで座っていた椅子もある。



トイヴォは左側へと走り出した。
モンスターもトイヴォを食べようと追いかけてきた。



トイヴォは椅子の置いてある場所に着くと、その椅子を両手で持った。
モンスターがトイヴォに向かって突進してくると、トイヴォは持っていた椅子をモンスターに向かって投げた。
投げた椅子はモンスターの体に当たり、モンスターは後ろに倒れながら叫び声をあげた。



モンスターの動きが止まると、トイヴォは部屋の入口を見た。
入口はモンスターのかなり後ろにある。



このまま走ってあそこまで行ければいいけど、すれ違った時に襲われるかもしれない。
別の入口はないのか・・・・・・?



トイヴォが辺りを見回していると、モンスターがゆっくりと動き始めた。
それを見たトイヴォは慌てて側にある木箱に隠れようと移動した。



モンスターはゆっくりと起き上がった。
「どこにいるんだ?隠れても無駄だ・・・・・いつまでも子供の遊びには付き合っていられない」
モンスターは辺りを見回すと、すぐ近くにある木箱の方を向いた。
木箱を見ていると、くんくんと匂いを嗅ぐようなしぐさをしながら
「どうやら今度はかくれんぼをしているつもりか・・・・隠れているつもりでもどこにいるかは
 分かるんだ」と目の前にある木箱を右足で蹴った。
そして両手で木箱に向かって攻撃すると、木箱がだんだんと壊れていく。
そして木箱の後ろに隠れていたトイヴォの姿が見えると、トイヴォは慌てて隣にある木箱に移動した。



その木箱は2つ重ねて置いてあり、壊れた木箱より大きかったが
モンスターがそこにトイヴォが逃げるのを見逃さなかった。
すぐ隣の木箱に移動すると、下にある木箱をだんだんと破壊していく。



その木箱をモンスターが壊している間、後ろに隠れているトイヴォは右を向いた。
すると薄暗くて分かりにくかったが、右端にドアがあるのに気がついた。
木箱からドアまでは少し距離はあるが、走ってドアを開ければ逃げれる可能性はある。



モンスターが箱を壊しているうちに、あそこから逃げよう。



トイヴォはモンスターに気づかれないようにゆっくりと木箱から離れた。
そして全速力でドアの前まで走った。



ドアの前に辿り着くと、トイヴォはドアノブに手をかけた。
そして何度も押したり引いたりするが、ドアがカギがかかっているのか開かない。
ドアのガチャガチャという音が空しく響いた。



どうして開かないんだ、もう少しで逃げられるのに!



トイヴォが焦りながらドアを押していると、後ろに得体のしれない気配を感じた。
後ろを振り返ると、そこにはモンスターが立ちはだかっていた。



トイヴォがモンスターを見たとたん、辺りを見回した。
ドアは部屋の四隅にあり、両側は壁になっている。
左右どちらに動いても、すぐモンスターに捕まることはすぐ分かった。



も、もうダメだ・・・・・。



トイヴォは絶望のあまり、体の力が抜けていくのを感じた。
もはや逃げるにも逃げられない状況に、トイヴォはゆっくりとその場に座り込んでしまった。



モンスターは勝ち誇ったように、嬉しそうな顔つきを見せた。
「やっと食べられる覚悟を決めたようだ・・・・・」
そして舌をペロリと出し、唇を大きくなめまわしながら、いつ食べようかとトイヴォを見ていた。



「こ、ここだ・・・・やっと着いた」
アレクシが息を荒くしながら、壁をランプで照らした。
エリアスはその壁を見ながら
「ここが休憩場か?入口はどこだ」
「入口?この先か・・・・それとももう少し手前か、確か入口は2つあったはずだ」
「だからどこにあるの?早くしないとトイヴォが食べ・・・・・・」
焦りながらヴァロがアレクシにそう言いかけた時、中から大きな悲鳴が聞こえてきた。



トイヴォが覚悟を決め、思いきり目をつぶっていると、モンスターが大きな悲鳴を上げた。
モンスターの様子の変化にトイヴォはゆっくりと目を開けた。



すると目の前にいるモンスターが両手で目を塞いでいる。
トイヴォの胸に下がっている青い石がまばゆいばかりの強い光を放ち、モンスターの目を眩ませている。
トイヴォは目の前の信じられない光景に、しばらくその場を動けずにいた。



「あの叫び声は何だ・・・・・?」
エリアスが戸惑っていると、後ろでアレクシが声をあげた。
「ここだ!見つけた。ここが入口だ!」
エリアスがアレクシのところへ駆けつけると、目の前には木のドアがあった。
そしてドアノブに右手をかけて押してみるが、ドアは開かない。
「ドアが開かない・・・・・こうなったら無理やり力ずくで開けるんだ」
ドアノブから手を放し、エリアスは後ろに下がると、腰に手をやり剣を抜いた。



トイヴォが苦しんでいるモンスターを見ていると、突然後ろから大きな音が聞こえてきた。
音が聞こえた方を向くと、ドアが壊され、エリアスが剣を持って入ってきた。
エリアスは部屋の奥にモンスターの姿を見つけると、剣を向けてモンスターに突進して行った。
そしてモンスターの後ろから剣で背中を斬りつけると、その奥にトイヴォの姿を見つけた。
モンスターは後ろからの攻撃を受けて、さらに大きな悲鳴を上げた。



「トイヴォ!大丈夫か!」
「エリアスさん!」
トイヴォはモンスターの後ろにいるエリアスの姿が見えると、モンスターから離れようと右へと移動した。
移動したと同時に、トイヴォの青い石から強い光が消えた。



強い光が消えると、モンスターが苦しみながらも両手を放した。
そしてエリアスの方を向くと、トイヴォは思わずエリアスに向かって叫んだ。
「そいつは体への攻撃は効かない、頭が弱点だ!頭の真ん中の脳みそを狙うんだ!」



「よけいなことを・・・・・・せっかくご馳走を食べるところだったのに」
モンスターがくやしそうに言いながらエリアスを見ると、エリアスは剣をモンスターに向けた。
モンスターが大きな声をあげながらエリアスに向かって突進してくると、エリアスは動きを読んで
左に移動した。
そしてモンスターの後ろに回り込むと、後ろから頭の中央を狙って、剣を突き刺した。



エリアスが刺した剣は、モンスターの頭の脳みそのほぼ真ん中を貫通した。
モンスターの動きが止まると、エリアスは刺していた剣を一気に抜いた。



剣が抜かれた途端、モンスターは断末魔の大声を上げた。
そしてその場でゆっくりと倒れると、二度と動くことはなかった。



モンスターが動かなくなったのを確認すると、エリアスは壁にもたれているトイヴォに近づいた。
「大丈夫か?トイヴォ・・・・・もう大丈夫だ」
エリアスが目の前でしゃがみこむと、トイヴォは思わずエリアスに抱きついた。
エリアスの体は温かく、肌のぬくもりを感じた。
すると安心したのか、トイヴォの目からは自然と涙がこぼれていた。



トイヴォが大声で泣き始めると、エリアスはトイヴォを包み込むように抱きしめた。
「恐かったな・・・・・・もう大丈夫だ」
エリアスはトイヴォに優しく声をかけながら、トイヴォの背中をゆっくりとさするのだった。