雪の日の訪問者
雪がちらつく森の中、止まっている列車の側にレンニとアレクシの姿があった。
アレクシが取引を済ませ、町に帰るのでレンニは見送りに来ていたのだ。
アレクシは列車に乗り込み、すぐ近くの座席に荷物を置くと、窓を上に上げて外にいるレンニの姿を見た。
「兄さん、今度はいつセントアルベスクに来るの?」
レンニがアレクシに聞くと、アレクシは少し考えながら
「そうだな・・・・・年が明けて、しばらくしたら戻ってくるよ」
「分かった。でも最後の列車に間に合ってよかったね」
「ああ、ぎりぎりだったな・・・・もう少し来るのが遅かったら乗り遅れるところだった」
「この列車が今年最後の列車だからね。この後はもう年明けじゃないと・・・・」
「ああ。これであとは町に着いて、例の物を渡せば取引完了だ」
アレクシはやれやれという感じで横にあるカバンを見た。
「今年最後の大きな取引も無事に終わりそうだな」
すると後ろで笛の音がして、列車の扉が閉まる音が聞こえてきた。
「そろそろ出発だ・・・・・レンニ、元気でな」
アレクシがレンニに言った後、ゆっくりと列車が動き始めた。
「兄さんも元気で。気を付けて」
レンニは手を振りながらその場で列車を見送った。
列車の姿が見えなくなると、レンニは空を見上げた。
雪の粒がだんだんと大きくなり、風も出てきてヒュウヒュウという音を立てている。
雪がだんだんひどくなってる・・・・・兄さん、大丈夫かな。
レンニは不安そうな顔で列車が行った方向を見つめていた。
セントアルベスクを出発した列車は、山の中を走っていた。
しばらく車窓を眺めていたアレクシは開けていた窓を下に下げ、窓を閉じた。
雪がひどくなってきたな。町までうまく辿り着ければいいが・・・・・・。
アレクシがそう思っていると、前から車掌が姿を現した。
車掌がアレクシの側まで来ると、アレクシが声をかけた。
「これが今年最後の列車だな・・・・雪がひどくなってきてるが大丈夫なのか?」
「はい・・・・・出る前まではそんなに雪は降ってなかったんですけど、降ってきましたね」
車掌が窓の外の雪を見ていると、アレクシも外を見ながら
「今までこんなひどい天気の中、列車に乗ったことがないからな・・・・・」
「何もなければこのまま行くとは思います。以前も悪天候の中、列車を運行したことがありますから」
「悪天候って、大雪の時も列車が走ってたのか?」
「大雪の時は私は乗ったことがないですから分かりませんが、このまま行くしかないでしょう。
それに私も年明けは町で過ごしたいですから」
「それはこの列車に乗ってるみんな一緒だ」
アレクシは大きくうなづいた。「オレも早く戻って、大きな取引を終わらせてゆっくりしたい」
「大きな取引って・・・・戻ってからもまだ仕事があるんですか?」
「ああ、それも少し面倒な仕事だ。ここじゃ言えないが・・・・・」
アレクシが途中まで言いかけたとたん、列車が突然キキーっという大きなブレーキ音を立てながら大きく前に揺れ出した。
「うわっ・・・・・・!」
大きな揺れで、アレクシは向かいの席まで飛ばされた。
アレクシは向かいの席に体をぶつけながらも、そのままうつ伏せになり、列車が止まるのを待った。
今度は後ろに大きく揺れるとようやく列車が止まった。
しばらくしてアレクシがようやく立ち上がると、一緒にいた車掌の姿がない。
通路に出てみると、前の扉の前で倒れている車掌の姿が目に入った。
アレクシは車掌の側まで行くと、車掌の肩を軽く叩いた。
「おい。おい、大丈夫か?」
すると車掌は気が付いたのか、ゆっくりと体が動いて
「だ、大丈夫です・・・・・」とアレクシの方を向いた。
「ケガはないか?」
車掌はゆっくりと立ち上がって、手足を動かしながら
「後ろの扉にぶつかりましたが、大丈夫みたいです・・・・・・」
「よかった。気がついたらいないから、外に飛ばされたのかと思った」
「お客様は大丈夫ですか?ケガはありませんか」
「オレは大丈夫だ」アレクシは辺りを見回しながら答えた。「でも何があったんだ?いきなり急停止するなんて」
「分かりません・・・・・一番前の運転席まで行ってみますか?」
「ああ、行ってみよう」
車掌が扉を開けると、2人は一番前の車両へと歩き始めた。
一番前の車両の運転席の扉を車掌が開けると、そこには運転手の男が席に座っていた。
車掌が運転手に声をかけた。
「どうしたんですか?何かあったんですか?」
「あ、ああ・・・・・・」運転手は気が付いたように車掌の方を向いた。
アレクシは運転手の気力のない、がっかりしたような顔を見ながら聞いた。
「どうしたんだ?またモンスターが出たのか?」
「違います・・・・・あれを見てください」
運転手が右手で前を指さすと、2人はつられるように前の運転席の窓を見た。
窓の外には、大きな木が何本も横に倒れていて、線路を塞いでいる。
それだけではなく、大きな石や大量の土砂、雪が混じりあって目の前に山積みになっている。
「これは・・・・・・雪崩だ。すぐ側の山が崩れたんだ」
目の前を塞いでいる土砂の山を見て、車掌は左側を見た。
列車のすぐ左側は山になっていて、そこから雪崩が発生したのか、上の方の山肌が少し見えている。
「ここを通る寸前、大きな音が聞こえたんだ。それで左を見たら突然崩れてきて・・・・・
あと少し止まるのが遅かったら巻き込まれていたかもしれない」
「それで急ブレーキをかけたのか・・・・・・・」
運転手の言葉にアレクシは納得しながら土砂の山を見ていた。
「それで・・・・これから一体どうするんですか?」
車掌が運転手に聞くと、運転手は車掌の方を向いて
「どうするって?このままだと列車の運転はできない。あの障害物を退けない限りはな」
「なら、この列車に乗っているみんなで退けるしかない」
アレクシが列車の前にある障害物を退けようと、運転席から出ようとした。
「待ってください」
アレクシの後ろで車掌が声をかけた。「今からあの障害物を退けるっていうんですか?」
「ああそうだ」アレクシは後ろを振り返って言った。
「でないといつまで経ってもこのままだ。町で年を越したいんだろう?」
「あの大量の障害物を退けるなんて無理だ」
話を聞いた運転手がアレクシに向かって首を振りながら言った。
アレクシはそれを聞いて戸惑いながら
「どうしてそんなことを言うんだ?みんなでやれば数時間で終わるかもしれないじゃないか」
「今は雪がだんだんひどくなってる。それに吹雪にでもなったら・・・・・危険すぎる。
それに今ここにいることも危険なんだ。また雪崩でも起こったら・・・・・・・」
「それにさっき、この列車に乗っているみんなでと言われましたが」
運転手に続いて車掌も険しい顔で話し始めた。
「この列車にはここにいる3人で全員です。我々以外は誰も乗っていないんですよ」
「え・・・・・?」
アレクシがそれを聞いて驚いていると、辺りは静かな空気に包まれた。
しばらくするとアレクシはあきらめずに話し出した。
「で、でも・・・・・ここに停まってたら、誰かが乗ってきたりするんじゃないか?
この辺りで仕事をしていた連中とか」
「いいえ、もう誰も乗ってきません」
車掌はきっぱりと首を振って答えた。
そして続けて
「このあたりで作業をしていた人達はみんな、この列車の前の列車に乗っていったようです。
それに、もうセントアルベスクに来る列車はありません」
「そんな・・・・・じゃあとは年明けまで待たないと列車が来ないってことか?」
「そういうことです」
運転手はうなづいて、溜息をつくと続けてこう言った。
「我々にできることは、このままセントアルベスクに戻ることしかできません」
「せっかく町に帰れると思ったら出戻りか・・・・・せっかくの取引もこれでなくなった。なんてこった」
アレクシは肩を落とし、列車の前の障害物をうらめしそうに見つめていた。
雪が降り続ける中、港に一隻の船が泊まった。
船から多くの人々が降りる中、黒い服に身を包んだオリヴィアが船から降りたった。
セントアルベスクに着いた・・・・・トイヴォと早く会わなければ。
オリヴィアは辺りを見回しながら、まずはセントアルベスクの中心街へと歩き始めた。
しばらく歩いて、ようやく中心街に着くと、オリヴィアはトイヴォがいると思われる城へと向かった。
周りの人達に城への道を聞きながら、ようやく城の前まで辿り着くと、城の入口がないか探し始めた。
黒くて高い柵が城の周りを囲うように建っていて、オリヴィアは柵に沿って歩いて行く。
しばらくすると大きな黒い門のところに出た。
黒い門の両側には、黒い制服を着た門番が2人立っている。
門の向こう側には大きな庭があり、その先に大きな城が建っている。
オリヴィアはここが城の正面入口だと分かると、右側にいる門番に近づき話しかけた。
「こんにちは。この城の中にトイヴォという少年がいると思うのだが、トイヴォはいますか?」
すると門番はオリヴィアの顔をじっと見て
「トイヴォ?そんな名前の子供は見たことがないな・・・お前は知ってるか?」ともう1人の門番に聞いた。
「この城には子供はいないぞ。いるのは大人だけだ」
左側にいる門番がそう答えると、オリヴィアは左側の門番の方を向いて
「本当にいないのか?本当に姿を見たことがないのか?」
「ああ、元から子供はいないよ。いるのは王様と女王様、それに・・・・・・・・」
「おい、それ以上は・・・・・」
左側の門番が言いかけると、右側にいる門番がそれを遮ろうと声をかけた。
すると左側の門番は慌ててうなづき
「あ、ああ。とにかく子供はいない。今日はこのままお引き取りを」とオリヴィアに言った。
オリヴィアは門番のいるところから離れると、柵の内側の城を眺めながら考えていた。
何かおかしい・・・・・あの門番、何か隠している。
もしかしたら城内で何か起こっているのかもしれない。
城の中にトイヴォがいるのかどうか確かめなければ。
オリヴィアは城の中に入れないか、歩きながら考え始めた。
城に沿って歩いていると、城の裏口に出たのか、大きな黒い門が見えてきた。
そして門の前に着くと、今度は1人の黒い制服を着た門番が中央に立っている。
ここは裏口か・・・・・・裏口は門番が1人しかいない。
どうして1人しかいないのか?
オリヴィアはそう思いながら、裏口をいったん通り過ぎた。
裏口を過ぎてしばらくすると、オリヴィアは立ち止まった。
後ろを振り返って、裏口の方を見ると門番の姿は柵に隠れて見えなくなっている。
裏口の方が監視が手薄になってる。
裏口からなら入れるかもしれない。
でも、どうやって入れば・・・・・・。
オリヴィアはふと黒いジャケットに目をやった。
黒い服・・・・・・。
そういえば門番はみんな黒の制服だった。
このジャケットを脱げば、仲間だと思って怪しまれないかもしれない。
オリヴィアはその場でジャケットを脱ぐと、再び裏口へと歩き始めた。
黒い門の前に戻ると、オリヴィアは中央に立っている門番に声をかけた。
「お疲れ様」
「あ、ああ・・・・・お疲れ様・・・・・・!?」
オリヴィアが門番に声をかけ、素早く門番の後ろに回り込むと
すかさず門番の脇腹を叩いた。
門番が静かにその場に倒れると、オリヴィアは後ろにある黒い門の扉に手をかけた。
押してみると扉がゆっくりと開いた。
鍵がかかっていない・・・・今のうちに中に入ろう。
オリヴィアはそのまま中に入ろうとしたが、倒れている門番の姿を見て、いったん門番の前まで戻ってきた。
そして気を失っている門番から制服の上着を剥ぐと、そのまま上着を着た。
これなら城の中にいても怪しまれない。しばらくの間使わせてもらおう。
オリヴィアは上着のボタンを閉めると、再び門を開けて中に入った。
城内に入ると、中は広々としていて、天井も高く、天井からは豪華な装飾のシャンデリアが下がっていた。
オリヴィアが辺りを見回しながら歩いていると、大勢の人達が行き来しているのが見える。
しばらくその人達を見ていると、オリヴィアはある疑問が浮かんで来た。
兵士なのか、家来なのかは分からないけど、白い制服と黒い制服を着た人達がほとんどだ。
黒い制服を着た人達が多いけれど・・・・・・・どう区別しているのか分からない。
それより、トイヴォを探すのが先だ。
オリヴィアはトイヴォがいないか、辺りを見回しながら探し始めた。
一方、城の屋上に一羽の白鳥が降り立った。
地上に降りたとたん、白鳥から人間の姿に変わり、ソフィアは元の姿に戻ったとたん驚いた。
おかしいわ。いつもならお父様がいないと元に戻れないのに。
それに今日お父様には城に来ることを話していないわ。
どうなっているのかしら・・・・・・・。
ソフィアは戸惑いながらも、屋上から城の中へ入っていった。
広い廊下に出て、ソフィアがゆっくり歩いていくと、不意に後ろから声をかけられた。
「ソフィア王女様」
ソフィアは聴き慣れない声に振り向くと、そこには全身黒い服をまとったヴィルホの姿があった。
ソフィアは驚いて目を大きく見開き、思わず下を向いた。
ソフィアが戸惑っているとヴィルホはソフィアに近づいて来た。
そして目の前まで来ると、ソフィアの様子を伺いながら話し始めた。
「最近なかなかお城でお会いしていないものですから、心配しておりました。お元気そうですね。
ところで、セントアルベスク王から何か話を伺っておりますでしょうか?」
ヴィルホの話を聞いて、ソフィアは以前、城に来た時にセントアルベスク王から聞いた話を思い出した。
きっと、あの話だわ・・・・・・。
ソフィアは戸惑いながら、覚えていないというようにこう答えた。
「は、話?・・・・・・何の事かしら。よく覚えてないわ」
「セントアルベスク王からまだ何も聞いていないのですか?とても大切なお話です。
私の方からそのお話をしてもよろしいでしょうか?」
「あなたとは話をすることは何もないわ。それに用事があるの」
ヴィルホの言葉にソフィアが首を振って断ると、ヴィルホはそれでもあきらめず
「少しの時間でもいいですから、お話していただけないでしょうか?5分だけでもいいのですが」
「本当に少しの時間だけでいいのなら、今ここで話をして下さらないかしら」
するとヴィルホは辺りを見回しながら
「いいえ、とても大切な話ですので、ここでは人が多すぎて騒がしいですからどこか静かな部屋で話を
したいのですが」
ソフィアは戸惑いながらどうしようと考えていた。
どうしよう。静かな部屋で話だなんて・・・・・。
すると2人の白い制服を着た男性達とすれ違った。
ソフィアは男性達と挨拶を交わしたとたん、何かを思いついた。
そうだわ、自分の部屋なら、必ず衛兵がいる・・・・何かあってもすぐ助けを呼べるはずだわ。
ソフィアはヴィルホに向かってこう言った。
「でしたら、私の部屋で話をしましょう。案内します」
後ろにヴィルホを連れてソフィアはゆっくりと自分の部屋へと歩いていた。
しばらくして、自分の部屋の手前まで来ると、ソフィアはますます戸惑った。
自分の部屋の前にいるはずの衛兵の姿が1人もいなかったのである。
おかしいわ・・・・・いつもならいるはずなのに。どうしてこんな時に。
ソフィアがそう思っているうちに、自分の部屋の前まで着いてしまった。
一方、廊下を歩いていたオリヴィアは、少し先に白いドレスを着た女性と、そのすぐ後ろにいる黒い服の男性の姿を見た。
そして、部屋があるのか、先に女性が入り、続いて男性が中に入って行くのが見えた。
あの2人は一体、何者なんだろう。
他の人達とは違う身分のようだけど・・・・・・・。
オリヴィアはそう思いながら、歩いてソフィアの部屋にだんだんと近づいていた。
最初は何も気にしていなかったが、白いドレスを着た女性が何となく気になっていた。
全身白いドレスに、金髪の女性・・・・・・。
それにもう1人の男性も気になる。
あの2人は一体・・・・・・・。
そう考えているうちに、オリヴィアはソフィアの部屋の前まで来ていた。
オリヴィアは部屋の前で立ち止まると、部屋の入口をじっと見た。
あの2人だったら、トイヴォがどこにいるのか知っているかもしれない。
オリヴィアは辺りを見回し、誰もいないことを確認すると、部屋の中に入っていった。
ソフィアは大きなテーブルと椅子のある広間に入ると、後ろを振り返った。
「ここなら、さっきの廊下より静かにお話ができますわ。大事なお話というのは何です」
ソフィアはテーブルの側にある椅子に座ると、ヴィルホはテーブルを挟んで向かい側の椅子に座った。
そして改まったように
「大事なお話というのは・・・・・・本当にセントアルベスク王からお聞きではありませんか?」
「いいえ、聞いていないわ」ソフィアは首を振り嘘をついた。「お話は何ですの?」
「でしたら、短めに話をします。私は近いうちにこのセントアルベスクの新しい王になります。
新しい王にはそれに相応しい女王が必要です。私と結婚していただけますでしょうか?」
それを聞いたソフィアは首を振った。
「いいえ、あなたとは結婚できないわ。それにまだセントアルベスクはあなたのものではありません。
セントアルベスク王は私のお父様です。お父様の承諾はいただいているのですか?」
「セントアルベスク王の承諾を得ても得なくても、いずれはセントアルベスクは私のものになる」
ヴィルホはゆっくりと椅子から立ち上がると、ソフィアは嫌な予感がして椅子から立ち上がった。
そしてゆっくりと後ろに下がりながら
「私にはエリアスという婚約者がいるのです。私が結婚するのはエリアスです。
それはあなたもお分かりのはずです」
するとヴィルホはソフィアに近づきながら
「まだあの男のことを想っているのですか?あの男はもう・・・・・」
「エリアスの記憶は戻ったわ。それに今あなたを倒そうとしている・・・・セントアルベスクは今までも
これからも私たちのものだわ」
「あなたはまだあの男のことが好きなのですね・・・・・」
ヴィルホはソフィアにゆっくりと近づきながら笑い始めた。
気味の悪い笑い声にソフィアは部屋から逃れようとすると、ヴィルホはソフィアに向かってこう言った。
「ならば、無理にでもあなたには女王になってもらいます」
ソフィアは部屋から逃げようと、部屋の出口に向かおうとするが
ヴィルホが前におり、だんだんとソフィアに近づいてきていた。
ソフィアが右に動くと、ヴィルホも右に動き、左に移動しようとすると、ヴィルホが先に左に動いてしまう。
ソフィアは左右に動いているうちに、どうすればいいのか焦りが出てきた。
そうしているうちにヴィルホはソフィアを後ろから捕えた。
「いや・・・・・・放して、私をどうするつもりなの?」
後ろから抱きしめられ、ソフィアはヴィルホの手をほどこうとするが全く動かない。
「今からあなたは私のものだ・・・・・・後ろに寝室があるのは分かっています。行きましょう」
ヴィルホは後ろからソフィアに囁くように答えると、そのまま後ろを向いて、前にあるドアに向かって歩き始めた。
「いや・・・・・・誰か、誰か助けて!」
「叫んでも部屋には誰も来ませんよ。衛兵もいないんですから・・・・・」
ドアを開けると、ヴィルホはソフィアを無理やり部屋に入れて、ドアを閉めた。
誰もいなくなった広間にオリヴィアが入ると、オリヴィアは辺りを見回した。
早くしないと、王女様が危ない。
でも、手に持っている銃だと音が大きすぎて後で大事になるかもしれない。
何か他にないか・・・・・・。
オリヴィアはテーブルを見ると、そこには大きくて丸い花瓶が置いてあった。
花瓶には花は入ってなく、中は空になったままになっていた。
部屋に入ると、ヴィルホはソフィアをベッドの手前まで連れていった。
そして抱きしめていた両手を離した瞬間、ソフィアは振り向いてヴィルホの顔を右手で平手打ちをした。
そして部屋から出ようとすると、ヴィルホは右手でソフィアの右腕を強くつかんだ。
そして力ずくでソフィアを自分のところに戻すと、ソフィアの顔を平手打ちした。
ソフィアが後ろのベッドに倒れると、ヴィルホはソフィアの顔を見ながらこう言った。
「大人しくしていてください・・・・・いずれにしろもう私のものになるんですから」
ヴィルホがソフィアに近づこうと歩き出したとたん、後ろでゆっくりとドアが開いた。
オリヴィアは部屋に入ったとたん、両手で大きな花瓶をヴィルホの頭を目掛けてぶつけた。
ヴィルホの頭に花瓶がぶつかったとたん、大きく割れる音が聴こえてきた。
「うっ・・・・・・・・・」
ヴィルホは突然の頭の衝撃に、思わず声を上げながらその場に倒れた。
ソフィアは何が起こったのか分からず、茫然とした顔で倒れたヴィルホを見ていると
オリヴィアが声をかけた。
「大丈夫ですか?」
ソフィアは割れた花瓶を持っているオリヴィアを見て
「え・・・・・ええ、大丈夫。あなたがヴィルホを・・・・・・?」
「はい、偶然廊下であなた方を見たものですから。それで気になって中に」
オリヴィアは割れた花瓶を床にそっと置いた。
「ありがとう。助けてくれて・・・・本当にありがとう」
ようやく事態を飲み込めたソフィアはオリヴィアにお礼を言った。
ソフィアはオリヴィアの姿を見たとたん、黒い制服が目に入った。
ソフィアはオリヴィアの黒い制服を見て
「あなた・・・・・・その制服、ヴィルホの味方ではないのですか?」
「え・・・・・・この制服ですか?」
ソフィアの問いにオリヴィアは自分が着ている黒の上着を見て戸惑った。
そして続けて
「ここには今日・・・・いやついさっき来たばかりだ。だからここのことは何も・・・・・・」
「何ですって。じゃあなたは何も分からないままここに来たの?」
「これにはちょっとした事情があるんだ。・・・・それより、ここにトイヴォっていう男の子はいるのか?」
「トイヴォ・・・・・?トイヴォですって!?あなたトイヴォのことを知っているの?」
トイヴォの名前を聞いてソフィアがさらに戸惑っていると、オリヴィアはうなづいて
「そうだ・・・・・もしかしたらこのお城にいるのか?トイヴォに会いに来たんだ」
「トイヴォはここにはいないわ」ソフィアは首を振った。「あなたはトイヴォの知り合いなの?」
「ああ、トイヴォから手紙が来たんだ。セントアルベスクの城にいるって書いてあった・・・・・」
オリヴィアが話している途中、部屋に2人の白い制服を着た男達が入ってきた。
「ソフィア王女様、さきほどこの部屋から叫び声が聞こえたと報告がありましたが」
制服の男の1人がソフィアに話し始めると、ソフィアはうなづいて
「ええ、そうよ。衛兵。あなた達が部屋の前にいなかったから、危ない目に遭ったわ」
するともう1人の制服の男がオリヴィアを見て
「お前は誰だ!お前がソフィア王女様を・・・・・・」
「その人は違うわ」ソフィアは首を振って、続けて答えた「この人は私を助けてくれたの。命の恩人よ」
「で、でも黒い制服を着ているではありませんか」
「その人は今日、この城に来たばかりなの。制服を間違えて着たのかもしれないわ・・・・本当の悪人は下で
寝ているその男よ」
「こ、これは・・・・・・ヴィルホ様ではありませんか!」
衛兵達が床を見ると、そこには倒れているヴィルホの姿があった。
衛兵達が顔を上げ、ソフィアを見ると、ソフィアは衛兵達にこう命じた。
「ヴィルホの姿は二度と見たくないわ。早くこの部屋から運んでいってちょうだい」
「は、はい。かしこまりました」
衛兵達はそれぞれヴィルホの頭と両足を持つと、ヴィルホを運びながら足早に部屋を出て行ってしまった。
衛兵が去ってしまうと、ソフィアはベッドから立ち上がり、オリヴィアに近づいた。
「これから私のお城に行きましょう。トイヴォはここにはいないわ」
「え・・・・・・?もうひとつお城があるのですか?」
それを聞いてオリヴィアが戸惑っていると、ソフィアはうなづいて
「私とエリアスが住んでいるお城よ。でも、ヴィルホに壊されてめちゃくちゃになっているけど・・・・・」
「そこに行けば、トイヴォがいるんですね。案内していただけるのですか?」
「案内はできるけど、ひとつ問題があるわ」
ソフィアは窓の外を見ると、降っていた雪は止み、薄暗い雲に覆われた空が広がっていた。
「私は今は人間の姿だけれど、城の外に出たら白鳥になってしまうの。夜にならないと人間に戻れないわ。
だから一緒に行けないの。夜までここにいられるのであればいいのだけれど」
「では、王女様の他に、どなたかその城を知っている者はいないのですか?その方に案内してもらえれば
私はついていきます」
「私の他に知っている者・・・・・・そうだわ」
オリヴィアの言葉にソフィアはある事を思いついた。
しばらくして衛兵が戻ってくると、ソフィアは衛兵に頼み事をした。
さらに時間が経ち、衛兵が数人の男女を連れて部屋に戻ってきた。
衛兵が部屋を出て行ってしまうと、白髪で太めの白いコックコートを着た男が声をかけた。
「ソフィア王女様、しばらくお城でお見かけしませんでしたね。お元気でしたか」
「マッティ。ええ、元気よ。お久しぶりね・・・・・・マティルダさんも元気そうね」
ソフィアがマッティの隣にいる茶髪で同じく太めの女性に声をかけると、マティルダは
「ソフィア様も元気そうでよかった・・・・・あれからどうしているかと心配していたんです」
「私は大丈夫よ。それよりこの城にいるあなた達のことが心配だったわ。ヴィルホに何かされていないかと思って」
「今のところは何もありません。大丈夫です」とマッティ
オリヴィアがそれを見ていると、ソフィアはオリヴィアの方を向いて
「この方達は、私が小さい頃からお世話になっている料理長夫妻なの・・・・今、頼れるのはお父様とお母様以外は
この方達だけなのよ」
「そうなのか・・・・・・それで、この後どうするつもりなのですか?」
「それより、まだあなたの名前を聞いていなかったわ・・・・私はソフィア」
「私はオリバー」
オリヴィアは自分が女性である事を隠し、そう名乗った。
挨拶を済ませると、ソフィアはマッティに
「これから私の城に戻るのだけど、オリバーを連れて行きたいの。でも私は今の時間だと外に出たら
白鳥になってしまうわ・・・・・だから私の代わりに道案内をして欲しいの」
「でしたら、息子のニイロと一緒に城へ行って下さい。ニイロならソフィア王女様の城への道は分かっていますから」
マッティがそう答えると、マティルダの隣にいる細身で茶髪の若い男性を見た。
ソフィアはニイロを見て
「そういえば・・・・・あなたなら城に時々、食事を持ってきてもらっているわね。オリバーを城に案内して
もらえるかしら」
「はい。かしこまりました」
ニイロがうなづくと、ソフィアはオリヴィアの服を見て次にこう言った。
「それから、シェフの制服を1枚ここに持ってきてもらえないかしら。オリバーが今着ている服だと、一緒にいると
まずいから」
「分かりました。今すぐお持ちします」
ニイロが答えると、服を取りにすぐに部屋を出て行った。
しばらくしてオリヴィアがシェフの制服に着替え終わると、ソフィアは部屋を出て行った。
急いで屋上へと走り、屋上に辿り着くと、空高く飛び上がった。
飛び上がったとたん、ソフィアは白い白鳥の姿に変わり空高く羽ばたいて行った。
城の屋上から一羽の白鳥が飛び立って行くのを、城の外でオリヴィアが見ていた。
あの白鳥がソフィア王女様だなんて信じられない・・・・・・。
オリヴィアがずっと空を見上げていると、隣でニイロが声をかけた。
「そろそろ行きましょう。早くしないと見失いますよ」
「あ、ああ・・・・・」
オリヴィアがニイロを見ると、ニイロは大きな袋を片手に持っている。
「その袋は?」
「これは買い出し用の袋です。外に出る時、黒い制服を着た門番にどこに行くのか聞かれるので」
オリヴィアの問いにニイロが答えると、オリヴィアはうなづきながら
「外に出る時はいつも聞かれるのか?帰りも聞かれるのか?」
「帰りは時間によっては誰もいないこともあります。帰りは門番がいなくなった時を見計らって戻ります」
「そうか・・・・・」
オリヴィアがそう言い終わるか終わらないうちに、2人は黒い門の前に来た。
2人が門の外に出ようとすると、右側にいる門番が聞いて来た。
「どこに行く?」
「市場に買い出しです」ニイロが大きい袋を門番に見せた。「足りない材料があるので買い出しに」
「分かった」
門番が扉を開けると、2人はゆっくりと城の外に出た。
しばらくして、2人は森の中を歩いていた。
夜が近づいてきているのか、空はだんだんと暗くなってきている。
オリヴィアはニイロの後を歩いていると、前からバサバサという音が聞こえてきた。
何かが羽根を広げた音だ・・・・・この先に何かがいる。
オリヴィアが前を向いたまま歩いていくと、大きな湖が見えてきた。
湖を見ると、湖面のあちこちに数羽の白鳥がいる。
この湖、白鳥がたくさんいる・・・・・ざっと見ただけでも20羽はいる。
どうしてこんなに白鳥が・・・・・。
オリヴィアがそう思ったとたん、トイヴォにもらった手紙のことを思い出した。
そうだ・・・・・この湖にいる白鳥はみんな、ヴィルホに姿を変えられた人達なんだ。
オリヴィアははっと気が付いて立ち止まり、湖にいる白鳥をじっと見つめた。
白鳥を1羽ずつ見ていると、そのうちの1羽がオリヴィアの方を向いている。
オリヴィアはそれに気が付いて、その1羽を見ると、他の白鳥よりひと回り小さく見えた。
あの白鳥、他のとはひと回り小さいような・・・・・・・。
すると後ろからニイロの声が聞こえてきた。
「オリバーさん、もう少しで城に着きます。行きましょう」
「あ・・・・・ああ。分かった」
オリヴィアは後ろを振り返り、ニイロがいるところへ歩き出した。
オリヴィアが湖から姿を消したとたん、白鳥の体が白く光りだした。
白鳥が光に包まれたかと思うと、白鳥の姿から人間の姿に変わった。
ヴィルホの魔法が解け始めたのだ。
白鳥から人間の姿に戻った人達は、次々と泳いで湖から岸へと上がって行く。
岸に上がった人達はどこかへと姿を消した。
そして湖には、白鳥がいなくなった。
ニイロとオリヴィアが城の前に着くと、ソフィアが玄関のドアを開けて出てきた。
「待っていたわ。中に入って」
オリヴィアが先に入ると、ニイロは中には入らず
「では、ソフィア王女様。私はこれで失礼します」と頭を下げた。
ソフィアはドアを少し大きく開けながら
「ニイロ。いつもありがとう・・・・面倒なことばかりお願いして。少し中で休んでから帰って」
「いいえ、結構です。それに材料の買い出しもありますので」
「そう・・・・・また何かあった時はお願いするわ。気を付けて帰って」
「はい。では失礼します・・・・」
ニイロがその場を離れると、ソフィアはドアをそっと閉めた。
ソフィアが部屋に戻ると、オリヴィアは辺りを見回しながらトイヴォを探していた。
オリヴィアはソフィアの姿を見るなり
「ここがもうひとつのお城ですか・・・ところで、トイヴォはどこにいるんですか?」
「トイヴォは今はここにはいないわ」
ソフィアは首を振って、オリヴィアに近づいた。
そしてオリヴィアの前まで来て立ち止まると、オリヴィアは少し戸惑いながら
「今はいない・・・・?じゃ今はどこにいるんですか?」
「そのことを話せば長くなるわ。とても長い時間がいるの・・・・」
「構いません」ソフィアが話をしている途中で、オリヴィアは優しく、きっぱりと答えた。
「どうしてトイヴォがここを出ることになったのか、どうしてそうなったのか、理由を知りたいんです。
トイヴォがどうしてソフィア王女様と会ったのかも含めて」
「分かったわ」ソフィアはうなづいて、後ろの台所に行こうと歩き始めた。
「最初から話をしましょう・・・・・オリバー、あなたの話も聞かせて。温かいお茶を持ってくるわ」
「・・・・・それで、トイヴォ達はここを出ることになったんですね」
ソフィアからひと通り話を聞くと、オリヴィアはうなづいた。
「ええ、でもここを出てからもう随分経つの」
ソフィアはコップを口元に近づけると、お茶を一口すすった。
そして口元からコップを放すと続けて
「まだ、エリアスからも、トイヴォからも誰からも連絡が来ないわ・・・」
「随分経つって、どのくらいなのですか?」
「そうね・・・・・エリアス達がここを出て、しばらくしてニイロにここに来るようにお願いしたから
もう3週間ぐらいは経っていると思うわ」
「3週間・・・・・・!?」
オリヴィアが驚いていると、玄関のドアが外から叩かれる音が聞こえてきた。
2人がいっせいにドアの方を向くと、ソフィアがドアを開けようと動き出した。
ソフィアがドアを開けると、そこにはアレクシが立っていた。
ソフィアはアレクシの姿を見たとたん驚いた。
「アレクシ・・・・どうしてここに?町に帰ったんじゃなかったの?」
アレクシはカバンを右手に持ったまま中に入るとソフィアの顔を見ながら
「ああ、今朝の列車で帰ろうとしたんだが、ちょっとしたトラブルがあって帰れなくなった」
「トラブルですって?何が起こったの?」
「目の前で雪崩が起こって、列車の前に大量の大木や雪が落ちてきたんだ。おかげで列車が動けなくなって
セントアルベスクに戻るしかなかったんだよ」
「雪崩が・・・・・・・そうだったの」
「ところでトイヴォ達は戻ってきたのか?」
アレクシが辺りを見回すと、ソフィアは黙って首を振った。
ソフィアがうつむいていると、アレクシはやれやれと言うようにため息をついた。
「まだ戻ってきてないのか・・・・・もうあれからだいぶ経つというのに。何をやっているんだか」
すると話を聞いていたオリヴィアが2人のところに近づいてきた。
アレクシがオリヴィアに気が付いて
「あれ、中にもう1人いたのか・・・・・初めて見る顔だな」
「今日、私も初めて会ったばかりなの。昼間、お父様の城で助けてくれたの・・・・オリバーよ」
ソフィアがアレクシにオリヴィアを紹介すると、アレクシは右手をオリヴィアに差し出した。
「オレはアレクシ。よろしくな」
「私はオリバーです。初めまして」
オリヴィアとアレクシが握手をすると、アレクシはソフィアに聞いた。
「ところで昼間、そのお父様の城に行って何かあったのか?助けてもらったって・・・・」
「え、ええ、それは・・・・・」
「ソフィア王女がヴィルホに襲われそうになっていたんです」
ソフィアが言いにくそうに戸惑っていると、オリヴィアが代わりに答えた。
「な、何だって・・・・・」アレクシは驚いてソフィアの方を向いた。「一体、それはどうしてだ?」
「ヴィルホが私に結婚を申し込んで来たの。断ったら急に態度を変えてきて・・・・・・危ないところを
この人が助けてくれたの」
ソフィアがオリヴィアを見ると、アレクシもつられてオリヴィアを見た。
「セントアルベスクだけじゃなく、ソフィア王女まで狙ってくるとは。なんとも無礼な奴だ」
話を聞いたアレクシがそう言うと、オリヴィアが話を変えてアレクシに聞いた。
「ところでトイヴォが今、どこにいるのか知っているんですか?」
「トイヴォ・・・・・・トイヴォを知ってるのか?」
「オリバーはトイヴォの知り合いなの。遠いところからわざわざここまでトイヴォに会いに来たのよ」
ソフィアが代わりに答えると、アレクシはそうかとうなづいて
「トイヴォはここから少し遠いところにいる。タハティリンナにいるんだ・・・・・オレは入ろうとしたら
追い出されて入れなかったから、その後はどうなっているのかは知らないが」
「タハティリンナ・・・・・」
オリヴィアはそれを聞いて、ポツリとそう言うと黙り込んだ。
タハティリンナ・・・・・・・。
どこかで聞いたような名前だ。
でも、どこにあるのか思い出せない。
そう思いながらオリヴィアが黙っていると、アレクシが声をかけた。
「タハティリンナがどんなところか知ってるのか?」
「い、いいや知らない・・・・・・どんなところなんだ?」
オリヴィアが首を振ると、アレクシが話を始めた。
「オレも中に入れなかったから、詳しくは知らないが・・・・世界中の優秀な人物を集めて、それぞれの技を
鍛えるところだ。今そこにトイヴォ達はいる。そこに伝説の剣があるのかどうかは分からないが」
「伝説の剣?それを探しにタハティリンナに行ったのか?」
「本来の目的はな」アレクシは深くうなづいた。「でもそこの代表者に伝説の剣があるかどうか聞く前に
オレは追い出されて、あとの3人は中に入ったままだ」
「伝説の剣を手に入れたら、後はどうするつもりなんだ?」
「剣があれば、ヴィルホを倒すための武器が全て揃うことになるわ。後はヴィルホを倒すだけよ」とソフィア
「ヴィルホを・・・・・その武器はもうある程度揃っているのか?」
「トイヴォが持っている青い石、お父様の城にある赤い石、あとは伝説の剣さえあれば全て揃うわ」
「あとひとつで全てが揃うって言うのに、エリアス達は何をやってるんだ?長い間ソフィア王女を1人にさせるなんて」
アレクシがそう嘆いていると、オリヴィアは頭の中で考えていた。
トイヴォ達はタハティリンナにいるのは間違いない。
問題はそこに伝説の剣があるかどうかだ。
そこでトイヴォが何をしているのかさえ分かれば・・・・・。
「ところでソフィア王女は今までここに1人でいたのか?」
アレクシがソフィアに聞くと、ソフィアはうなづいた。
「エリアス達がいなくなって、最初は寂しかったわ。でも日が経つうちに慣れてきたけど」
「そんな・・・・こんなところに女性1人でいるのは危ないぞ。何かあったら・・・・・」
「でも、お父様のお城よりはマシな方よ。誰にも邪魔されないし、静かでいられるし、でも・・・・・」
「でも?」
「これからは何が起こるか分からないわ」ソフィアは不安そうな顔で続けてこう言った。
「またここに、ヴィルホが来るかもしれない・・・・・今度は何をしてくるのか分からないわ」
それを見ていたオリヴィアは、城で起こった出来事を思い出した。
あのヴィルホという男、あの程度であきらめることはないだろう。
きっとまたソフィア王女のことを襲ってくる。
トイヴォ達が戻ってくるまでの間、なんとか守らなければ。
「ソフィア王女様」
オリヴィアがソフィアに声をかけると、ソフィアとアレクシがオリヴィアの方を向いた。
「トイヴォ達が戻ってくるまでの間、私はここでソフィア王女様を守ります。しばらくの間ここにいても
よろしいでしょうか?」
「オリバー・・・・・・」とソフィア
「オレも一緒にここで王女様を守るぜ」アレクシもうなづきながら、続けてオリヴィアに言った。
「あまり大したことはできないかもしれないが、人は多い方がいいだろう?」
「ああ、そうだな」
アレクシの言葉にオリヴィアはうなづくと、続けてこんなことを言った。
「でも、もっと人が多い方がいい・・・・誰か、他にヴィルホに不満を持っている人達はいないのか?」
オリヴィアの言葉に、アレクシとソフィアはしばらく黙っていたが、ソフィアが口を開いた。
「このお城で婚約披露パーティーに参加してた人達は、ヴィルホに魔法をかけられたわ。湖にいる白鳥の
ほとんどは魔法で白鳥に変えられた人達よ」
「そういえばこの辺りに住んでいる奴らも被害者だ」
アレクシも続いて口を開いた。「宿屋のおばさんがあまり人が来なくなったって嘆いていた」
「それなら、ヴィルホに不満を持ってる人たちをここに集めるんだ」とオリヴィア
「ここに集めてどうするんだ?ヴィルホに不満を持ってる人ばかり集めて・・・・・お前、まさか革命でも
起こすつもりか?」
アレクシが戸惑いながらオリヴィアに聞いた。
「ここでトイヴォ達を待っているだけじゃ、何も進まない。自分達でやれることをやってみるんだ」
オリヴィアは2人にそう言うと、壊れた窓ガラスから空を見上げた。
空は雲がすっかりなくなって、無数の星が広がっていた。