闇の中の光
エリアス達3人はタハティリンナを出て、伝説の剣がある場所に向かっていた。
空は雲ひとつなく晴れていたが、山脈にはまだ雪が至る所に残っていた。
「うわあ。まだ風が冷たいよ・・・・・」
トイヴォの側でフワフワ浮きながら、ヴァロは吹いてきた風を受けて思わず声をあげた。
トイヴォはヴァロの方を向いて
「そうだね。冬ほど冷たくはないけど、山脈だからまだ風が吹くと寒いよ」
「それにまだ雪が残ってるね」
ヴァロがトイヴォを見ると、トイヴォが着ている服に目が入った。
「トイヴォ、そんな服持ってたっけ?」
するとトイヴォは着ている茶色のローブを見ながら
「この服?さっきユリウスさんにもらったんだ・・・・まだ寒いから着て行ってくださいって」
「そうなんだ、暖かそうな服だね」
「僕だけじゃないよ。エリアスさんも同じ服をもらったんだ・・・・」
するとそこに同じ茶色のローブを着たエリアスが前から声をかけてきた。
「そろそろ道を曲がる。雪が残ってるから滑らないように気を付けるんだ」
しばらく3人は森の中を歩き続けた。
数時間後、3人は大きな岩山の前まで辿り着くと、目の前に大きな穴がぽっかりと開いている。
「ここがユリウスが言っていた場所か・・・・・・」
エリアスが暗い穴を眺めていると、その隣でヴァロがつぶやいた。
「中は真っ暗で、何も見えなさそうだね・・・・・なんだか怖いよ」
「伝説の剣は、この洞窟の奥の方ですか?」とトイヴォ
「ユリウスの話だと、洞窟に入ってしばらく歩くと開けた場所に出るらしい。そこに伝説の剣がある」
エリアスは腰に着けていたランプを右手に持ち、灯りを点けると、洞窟に向けた。
そして先に洞窟に入っていくと、あとの2人も続いて中へと入って行くのだった。
一方、ソフィアは王様の城へと向かっていた。
お父様とお母様、まだ無事だといいのだけれど・・・・・。
不安な気持ちを抑えながら、ソフィアは城の中へと入っていった。
屋上へ降りようと向かっていると、左側の塔の前で何か人が動いているのを見かけた。
あれは何かしら・・・・大勢の黒い制服の人達がいるわ。
それに何かが置かれている。
黒い、大きな刃物のようなもの・・・・・。
刃物・・・・!
ソフィアははっと気が付くと、急いで屋上へと向かった。
そして屋上に降り立ったとたん、白鳥だったソフィアは元の姿に戻った。
早く行かないとお父様とお母様が処刑されてしまう、急がないと。
ソフィアは外へ行こうと、急いで屋上を後にした。
城の中を通り、ようやく外に出ると、ソフィアは塔へと走り出した。
塔に近づいてくると、大勢の黒い制服の男達が塔の前にある高い台を見ている。
ソフィアは前にある高い台を見てみると、そこには黒い服を着たヴィルホの姿があった。
台の右端には椅子に座った王様と女王が、ロープに縛られた格好で座っている。
その後ろには黒い制服の男が数人立っていた。
「お父様、お母様!」
ソフィアが2人に向かって呼びかけると、下を向いていた王様は気が付いて顔を上げた。
「ソフィア!」
するとヴィルホがそれを見て、ソフィアに声をかけた。
「ソフィア王女様・・・・・もうお目にかかることはないと思っておりました」
「ヴィルホ・・・・・」
ソフィアは台に上がると、ヴィルホに向かって歩いていった。
そして目の前で立ち止まり
「どういうことなの?私の返事を待たずにお父様とお母様を処刑するなんて・・・・・」
「そんなつもりはありません」
ヴィルホはまずこう言って、深々を頭を下げた。
そして顔を上げると
「それでは、手紙の返事をいただけるのですね。私と結婚していただけるのでしょうか?」
「あなたとは結婚しないわ」
ソフィアはきっぱりと答えると、続けてこう言った。
「お父様とお母様と同じように、私も処刑してちょうだい」
それを聞いたヴィルホは目を大きく見開き、戸惑いを隠し切れず、黙りこんだ。
同じくそれを聞いていた黒い制服の男達の間からは驚きの声が上がった。
黒い制服の男達の中に、ニイロの姿があった。
白鳥が城の屋上に入って行くのを偶然外で見て、気になって様子を見ていたのである。
ニイロはソフィアの言葉に驚きながら、オリヴィアに知らせようと黒い制服の男達の群衆に紛れながら
城から出ていくのだった。
すると塔の上から、一羽の白鳥がニイロの後を追うように飛び立って行った。
ソフィアの言葉に王様は後ろから叫んだ。
「ソフィア!何てことを・・・・・・ここには来てはいけないとあれほど言ったのに」
「お父様、もう決めたことなの」
ソフィアは後ろを振り返って王様に答えると、ヴィルホはようやく口を開いた。
「ソフィア王女様。もう一度考え直していただけないでしょうか。あなたが命を落とすことはありません。
私と結婚してくだされば、王様と女王様は処刑しません。全て穏便に片付くことができるのです」
「いいえ、私の考えは変わりません」
ソフィアは前を向いてきっぱりと否定した。
「あなたと結婚するくらいなら、死んだほうがマシだわ。それにいずれはお父様とお母様を処刑するに
決まっているもの」
それを聞いたヴィルホは込み上げてくる怒りの気持ちを抑えながらこう言った。
「分かりました。そこまで言うのでしたら、あなたの望みを叶えてあげましょう・・・・・」
そして王様と女王の後ろにいる黒い制服の男達にこう命じた。
「ソフィア王女を捕らえろ」
ソフィアはたちまち黒い制服の男2人に囲まれると、王様と女王のいる場所へと連れられて行った。
一方、オリヴィアは王様の城に行こうと出かける準備をしていた。
黒いジャケットを羽織った途端、玄関のドアが開く音が聞こえてきた。
オリヴィアが玄関の方を向くと、そこにアレクシが嬉しそうな顔で入ってきた。
「アレクシ、いつもより来るのが早いな・・・・・こんな時間にどうしたんだ?」
「こんな時間にどうしたんだって?」
オリヴィアの言葉に、アレクシは上機嫌で話し始めた。
「それは決まってるだろ、トイヴォ達が帰ってくるのを待つんだ。帰ってきたのに誰もいなかったら
寂しいだろう?」
「でも今はまだ朝だ。それに伝説の剣を取ってきてからだから夜遅くになるかもしれない。
そんなに早くは戻らないだろう」
「意外にも早く戻ってくることもあるだろう?とにかくオレはここでトイヴォ達が戻ってくるのを待つ。
お前は王様の城に行くのか?」
「ああ・・・・最近ヴィルホの動きが気になるんだ。また何かを起こすかもしれない」
「今日ぐらい行くのを止めて、トイヴォ達が戻ってくるのを待たないか?色々聞きたいことがあるだろう?」
「それはそうだが・・・・・・・」
オリヴィアがそう言った途端、何やらコツコツと音が聞こえてきた。
2人は音が聞こえる方を向くと、壊れたガラス窓の外から、くちばしでガラスをたたいている一羽の白鳥がいた。
「これは珍しい・・・・・白鳥がここに来るなんて。何か用があるのか?」
アレクシはそう言いながら窓ガラスに近づくと、オリヴィアも一緒に行きながら
「たぶん、湖の白鳥だ。必死になって叩いている・・・・只事ではなさそうだ」と外の白鳥を見ている。
「この窓ガラスを開けるか?」
「開くかどうかは分からないが、とにかく中に入れよう」
オリヴィアがそう言い終わった途端、後ろから玄関のドアが開かれる音が聞こえてきた。
オリヴィアが後ろを振り返ると、ニイロが息を荒くしながら入ってきた。
「ニイロ・・・・・どうしたんだ?」
普段とは違うニイロの様子に、オリヴィアはその場を離れ、玄関へ移動した。
そしてニイロの側まで来ると、ニイロは慌てた様子で息を荒くしたまま
「オ、オリバーさん・・・・・大変です。大変なことが起こっているんです・・・・・」
「ここまで走ってきたのか?王様の城で何か起こったのか?」
ニイロがうなづき、下を向いて息を整えていると、オリヴィアはニイロを見ながら声をかけた。
「分かった。少し落ち着いてから話を聞こう・・・・部屋に入るんだ」
アレクシが白鳥を部屋の中に入れ、ニイロが落ち着いてくると、オリヴィアはニイロに聞いた。
「そろそろ落ち着いて話ができる状態になってきただろう・・・・一体、城で何があったんだ?」
「はい」ニイロはうなづくと、話を始めた。
「城の外を歩いていたら、偶然一羽の白鳥が城の屋上へ降りて行くのを見たんです。それはソフィア王女様でした。
しばらくすると走って外に出てこられたので、気になって後をついて行ったんです。
するといつの間にか塔の前に大きな台ができていて・・・・・そこにはヴィルホと王様、女王様がいました」
「何だって・・・・・ソフィア王女様が?」
「はい。それで黒い制服の男達も大勢、その場に集まっていました。それでソフィア王女様はヴィルホと話をしていて
王様と女王様を処刑するのなら、私も一緒に処刑して欲しいと・・・・・」
「な、何だって!」
ニイロの言葉にアレクシが思わず声をあげると、オリヴィアも驚き戸惑っていた。
オリヴィアは昨夜のことを思い出していた。
昨日戻ってきた時、うつむいていたのはそういうことだったのか・・・・・。
でもどうして王様と女王様が処刑されることをソフィア王女様は知っていたんだろう。
誰かから聞いたのか、どこからか知らせでもない限り知ることはないはず。
するとアレクシがニイロに聞いた。
「でも、どうしてそんなことになったんだ?処刑だなんて・・・・他にも何か聞いてないのか?」
「他には・・・・・そういえば、ヴィルホは手紙の返事とか、結婚するとか・・・・」
「え、結婚?どういうことだ」
「周りが騒がしくて、あまり聞こえなかったんですが・・・・話から想像するとヴィルホはソフィア王女様に
手紙を送ったのではないでしょうか」
「手紙・・・・・それだ!」
オリヴィアは思いついたようにその場を離れると、奥の階段を上がり始めた。
しばらくしてオリヴィアが戻ってくると、右手に手紙のようなものを持っていた。
オリヴィアはアレクシとニイロに近づき
「ソフィア王女様宛てに、ヴィルホから手紙が来ていた・・・・・・原因はこれだ」と手紙を2人に見せた。
するとニイロは手紙を見ながらありえないと言うように
「そんな・・・・ヴィルホからソフィア王女様宛てに手紙だなんて考えられません。それに手紙は私を通じてやり取りして・・・」
「封筒にはSという赤い封蝋があった。王様からの手紙だと偽って出したのだろう」とオリヴィア
「ソフィア王女様がこれを読んで決断したとしたら、これはまずいぞ」
手紙を読んだアレクシはこう言った。「もしかしたら今日にも処刑されるかもしれない」
「だから急いでここに来たんです」とニイロ「こうしている間にも何かあったら・・・・・・一体どうすれば」
「こうなったら、トイヴォ達がここに戻ってくる前に、城に行くしかない」
手紙をジャケットの内ポケットに入れると、オリヴィアはそう決断した。
「ちょっと待て・・・・・城に行くって、お前1人で行くつもりか?」
それを聞いたアレクシが戸惑いながらオリヴィアに聞いた。
「1人で行くか、ここにいるみんなでとりあえず行くしかない。トイヴォ達を待っている時間はない」とオリヴィア
「ここにいるみんなって・・・今いるのはお前の他に、ニイロとオレの2人しかいないぞ。3人だけで王様の城に乗り込んだって
大勢の兵士達とどうやってやりあうんだ?どう考えても不利だ」
すると今まで話を聞いていた白鳥が声を上げながら騒ぎ始めた。
「な、何だ?いきなり騒ぎ始めたぞ」
アレクシが戸惑っていると、少し遅れて部屋の外でも同じような騒ぎ声が聞こえてきた。
オリヴィアが壊れた窓ガラスから外を見ると、すぐ側には大勢の白鳥の群れが大声を上げて騒いでいた。
その騒ぎ声は、オリヴィアには頼もしく聴こえた。
しばらくしてオリヴィアは窓から離れると、2人にこう提案した。
「部屋にいる1羽と外にいる大勢の白鳥達は、夜になると元の人間に戻る。ソフィア王女様と同じ、ヴィルホに魔法をかけられたんだ。
ニイロの話だと、ソフィア王女様は王様の城では元の姿に戻っている。そうであれば、この白鳥達を城に連れていけば元の姿に
戻れるのでは?」
「それはそうだが・・・・・・お前、何が言いたいんだ?」とアレクシ
「この白鳥達は毎晩、私が何かあった時のために訓練してきた者ばかりだ。実際、兵士達とやりあえるのかどうかは分からないが
連れて行けないだろうか?」
「え・・・・・で、でもそれはあくまでも、王様の城で元の姿に戻れたらの話だろう?戻れなかったらどうするんだ?
それに戻れたとしても、全員女性だ・・・・・兵士とやりあえるとは思えない」
「女性だと思って甘く見過ぎだ、アレクシ。今は白鳥の姿だが、私と同レベルの者も中にはいる。それに女性なら相手の兵士も
本気でかかってこないだろう」
「で、・・・・・でも」
アレクシがそう言いかけると、部屋にいる白鳥がアレクシに向かって騒ぎ出した。
今にもくちばしでアレクシをつつこうとしている白鳥に、アレクシは根負けしたようにこう言った。
「わ、分かった・・・・・あまり気が進まないが、とにかくやってみよう」
するとニイロが話を変えた。
「そろそろ私はここを出ます。あまり城から離れていると怪しまれますので」
「分かった。知らせてくれてありがとう、ニイロ・・・・・気を付けて戻るんだ」
オリヴィアがうなづくと、ニイロはその場を離れ、外へ出て行った。
ニイロがいなくなると、オリヴィアはさっそく動き出した。
「王様の城に行く準備をしよう。まず外にいる白鳥達をここに集める」
「でかける前にいったん宿屋に戻って準備させてくれ」
アレクシは大きく背伸びをしながら、オリヴィアにこう言った。
「準備?そのままでも構わないと思うが・・・・・」
「白鳥達を連れて行くのなら、色々と準備しなちゃいけないものがあるだろう?とりあえず宿屋に戻る」
「・・・・分かった」
アレクシが部屋を出て行くと、オリヴィアは再び窓の側へと近づいた。
再び窓を開けると、外にいる白鳥達にこう言った。
「今から王様の城に出かける。その前に作戦を立てる・・・・一緒に行く者は中に入るんだ」
一方、トイヴォ達は洞窟の中を歩いていた。
暗闇の中、ランプの灯りを照らしながら、数時間も彷徨い続けている。
「ここで行き止まりだ」
先頭を歩いているエリアスがランプで前にある岩壁を照らした。
そして後ろを振り返り、辺りをランプの灯りで照らしているとヴァロがフワフワ浮きながら
「じゃ、また他に道がないか探してくるよ」とその場から離れて行った。
「暗いから気を付けるんだよ」とトイヴォ
「うん、大丈夫だよ」
ヴァロが行ってしまうと、エリアスとトイヴォは何も言わず、辺りは静かな空気に包まれた。
エリアスは辺りをランプの灯りで照らしながら、行ける道がないか探している。
トイヴォもランプの灯りを頼りに道がないか探していた。
しばらくするとどこかからかヴァロが2人のところに戻ってきた。
「奥の方に上り坂があるよ。行ける道はそれしかないみたい」
「分かった。じゃその道を行こう。案内してくれ」
エリアスの言葉にヴァロがうなづくと、ヴァロを先頭に3人は再び歩き始めた。
3人が上り坂をしばらく上がっていくと、道の先の方から弱い風が吹いてきた。
風が吹いてきた・・・・このまま洞窟の外に出るのか?
エリアスがそう思っていると、先頭にいるヴァロがこう言った。
「なんだか明るくなってきた。外に出るのかな?まだ上り切ってないけど」
「何だって。そこから何か見えるか?」とエリアス
「まだ何も見えないけど、先の方は明るいよ」
「とにかくこのまま前へ行ってみよう」
しばらくして、3人が坂を上り切ると、広い場所に出た。
左側は崖になっており、太陽の陽射しがわずかながら射し込んできている。
右側や上側は岩に囲まれており、日差しが届かないところは暗くなっている。
ここがユリウスさんが言っていた場所なのかな・・・・・?
トイヴォが辺りを見回していると、すぐ近くでヴァロがあっという声をあげた。
「先の方に何か細長いものが刺さってるよ」
トイヴォはヴァロが見ている方を向くと、先の方に1本の細長い棒のようなものが地上に刺さっていた。
トイヴォは何なのか確かめようと、その場所に向かって走り出した。
トイヴォが近づいてみてみると、それは銀色に輝く1本の剣だった。
これが伝説の剣・・・・・・?
トイヴォが剣をじっと見つめていると、前からエリアスの大きな声が聞こえてきた。
「トイヴォ!今すぐそこから離れるんだ!」
え・・・・・・?
エリアスの声が聞こえたと同時に、背後に何かがいる気配を感じた。
トイヴォは後ろを振り返った・・・・・・・。
囚われの身となったソフィアは、視線の先にある黒い大きな刃物を見ていた。
刃物の下には木製の型のようなものがあり、中央が丸く凹んでいる。
いつ処刑されるのかという不安に駆られながら見ていると、ヴィルホが前から近づいてきた。
ソフィアの目の前で立ち止まると、頭を深く下げながらこう言った。
「ソフィア王女様。もう一度考え直していただけないでしょうか」
「な、何をです?」ソフィアは戸惑いながら聞き返した。
「私との結婚をです。このまま命を落とすことはありません。あなたが決断して下されば全てが収まるのです。
王様と女王様の命も奪うことはしません」
「さっき言った通り、もう決めたことなの。処刑するなら早くすればいいではありませんか。このまま先延ばしして
私の気持ちが変わるとでも思っているの?」
「それは・・・・・・・」
ヴィルホが戸惑っていると、ソフィアはきっぱりとこう言った。
「あなたが戸惑っているうちにエリアス達がここに来るわ。伝説の剣を持ってここに来る・・・・そうなったら
もうあなたは終わりよ」
「何だって・・・・・・?」
それを聞いたヴィルホは、うつむきながら突然気味の悪い笑い声を上げ始めた。
ソフィアが戸惑っていると、ヴィルホは顔を上げ
「それなら、先にエリアスを探し出し、あなたに会わせてあげましょう・・・・・エリアスの変わり果てた姿をね」
「何ですって・・・・・・」
「エリアスの死体をここに持ってくれば、あなたの気持ちも変わるでしょう」
するとヴィルホの後ろから黒い霧が立ち込めてきた。
そして霧の中から大きくて細長い、蛇のような黒いドラゴンが現れると、周囲は一気にざわつき始めた。
ヴィルホはドラゴンの背中に乗り込むと、ソフィアにこう言った。
「必ずエリアスの死体を持って戻ってきますよ・・・・・処刑はその後どうするか決めましょう」
エリアス・・・・お願い。ヴィルホが戻ってくる前に、早くここに戻って来て・・・・・。
ドラゴンの姿が消えてしまうと、ソフィアはうつむいて両手を合わせた。
トイヴォが後ろを振り返ると、暗闇の中に、赤くて大きな目が2つ、トイヴォを見つめていた。
トイヴォは驚いて声をあげようとしたが、あまりにもの不気味さに叫び声さえも出ない。
エリアスがランプの灯りを赤い目に向けると、その赤い目を持ったものの姿が灯りの元に晒された。
エリアスよりも体が遥かに大きく、頭は洞窟の天井につくかつかないかの高さで
体が大きく、細くて長い蛇のような体つきをしていた。
体の色は真っ黒で、灯りを照らさなければいるかいないか分からない。
「こいつがユリウスの言っていた化け物か・・・・・・」
エリアスがモンスターにランプを向けていると、モンスターの大きな目が今度はエリアスの方を向いた。
そして大きな口を開けたかと思うと、低い叫び声を上げながらエリアスに向かって突進してきた。
エリアスは素早く左側に避けると、持っていたランプを地面に置いた。
「エリアスさん、あのモンスターが・・・・・」
「ああ、あれがユリウスの言っていたモンスターだろう」
トイヴォがようやくエリアスの側に移動すると、エリアスはモンスターを見ながら腰に着けている剣を抜いた。
そして両手で剣を構えると、後ろにいるトイヴォに声をかけた。
「おそらく今までより強敵だ。気をつけろ・・・・・まず私からあいつの相手をしてくる」
エリアスが剣を右手に持ち、モンスターに近づいた。
すると気配を感じたのか、モンスターは振り向き、大きな目でじっとエリアスを見つめている。
エリアスはいったん動くのを止めたが、攻撃をしようとモンスターに向かって走り出した。
モンスターの目の前まで近づき、目の前の黒い体に向けて剣を向けようとしたが
突然右側から何かに体をつかまれた感覚に襲われた。
な、何だ・・・・・・この何かにつかまれたような感覚は。
エリアスが自分の体を見ると、体が黒い手でつかまれていた。
何だ、この黒い手は・・・・・・。
エリアスが何が起きているのか分からないまま、前を向くと、モンスターの体の左側から長い手が伸び
その手がエリアスの体をつかんでいる。
エリアスがその事にようやく気が付くか気が付かないかのうちに、モンスターの手はエリアスの体を力任せに投げ飛ばした。
エリアスの体は地面に強く叩きつけられた。
「エリアスさん!」
後ろに倒れているエリアスを見てトイヴォが叫ぶと、しばらくしてエリアスの体が動いた。
「大丈夫だ・・・・・・」
エリアスはゆっくり立ち上がると、トイヴォに近づいた。
そしてモンスターを見ながら、トイヴォに注意をした。
「気をつけろ・・・・・あのモンスターには両手がある。蛇だと思ったら大間違いだ」
「何だって・・・・・・」
それを聞いたトイヴォが戸惑っていると、モンスターがじっと睨むように2人を見ていた。
そして蛇のようにゆっくりと近づいてきている。
エリアスは再び剣を構えながら
「それに動きが速い、まともに行ったらやられる・・・・・ここは2人同時に攻撃するしかない」
「分かりました」
トイヴォがうなづくと、2人は同時にモンスターに向かって攻撃しようと走り出した。
しかし、2人で攻撃をするがモンスターの素早い攻撃に苦戦していた。
別の方向からそれぞれ攻撃するが、モンスターの両手に阻まれ、何度も地面に叩きつけられてしまう。
倒れては再び起き上がり、モンスターに立ち向かう2人を、ヴァロは後ろでただ見ていることしかできずにいた。
ヴァロはモンスターのあまりにもの強さに圧倒され、すっかり自信を無くしてしまっていた。
何もできずにおろおろしていると、目の前にトイヴォが倒れこんできた。
「トイヴォ!」
ヴァロがトイヴォの側に近づくと、トイヴォはゆっくりと立ち上がった。
トイヴォの服は何度もモンスターに倒され、すっかり土まみれになって汚れている。
髪の毛もすっかり乱れ、ぼさぼさの土まみれになりながらも、トイヴォの目はモンスターに向いていた。
そして息を整えると、再びモンスターに向かって立ち向かって行った。
トイヴォ・・・・・。
何度も倒されてひどい目に遭っているのに、それでもあきらめずに倒そうとしているなんて。
それに比べて僕は・・・・・・・。
ヴァロはモンスターに向かっていくトイヴォを見ながら、ふとカレヴィにもらった木の実のことを思い出した。
左手に木の実が入った革の袋を出すと、右手で木の実をひとつ取り出した。
「自信がない時に、自分の力を思う存分に出したい時に1つ食べてみるといいですよ。とても効果があります」
カレヴィの言葉を思い出すと、ヴァロは木の実を口に入れた。
一方、オリヴィアは白鳥達と一緒に王様の城へ向かおうとしていた。
オリヴィアが玄関の外に出ると、その後を追って白鳥達が次々と出てきている。
アレクシ、一体何をしている・・・・・。
もう待っているのも限界だ。
一刻も早く、王様の城に向かわないと・・・・・。
「オリバー、待たせたな」
オリヴィアが声のする方を向くと、少し離れたところからアレクシがリヤカーで何かを運びながら歩いてきていた。
アレクシの後ろには数人の体格のいい男達が歩いてきている。
アレクシ達がようやくオリヴィアの目の前に来ると、オリヴィアはアレクシに声をかけた。
「アレクシ、遅かったじゃないか・・・・・・これは?」
オリヴィアがリヤカーの中を見ていると、アレクシはうなづきながら答えた。
「中に入ってるのは全部武器だ。あの白鳥達の人数分以上はあるぞ」
「これはすごい・・・・・どうやってこんな数を集めたんだ?」
「宿屋のおばさんにありったけの武器がないか聞いたら、こいつらが偶然近くにいてな・・・
こいつらからほとんど借りたやつだ」
アレクシが後ろにいる男達を見ると、オリヴィアは男達を見ながら
「それで・・・・・この人たちはどうして一緒に来ているんだ?」
「こいつらは現役の兵士だ。この周辺国でついこないだまで内戦があったらしいんだが・・・・それが終わってたまたま
宿屋にいたんで、話をしたら一緒に行くって言ってくれてな」
「・・・・・本当か?それはありがたい」
オリヴィアは男達に近づくと頭を下げた。
「人数の足りない我々にとって、手伝っていただけるとは・・・・・それに他国の事なのに手助けいただけるとは。
ありがとうございます」
オリヴィアが頭を上げると、すぐ側にいた男が手を差し出した。
オリヴィアも手を差し出し、握手を交わすと、後の男達とも次々と握手を交わした。
全ての男達と握手を交わした後、オリヴィアは前にいる白鳥達のいる場所に戻った。
「これから、セントアルベスク王の城に向かう・・・・・お前達はさっき話した通り、城の屋上まで飛んで向かうんだ。
後で屋上で会おう」
オリヴィアが白鳥達に話し終えると、白鳥達はいっせいに空へと飛び始め、セントアルベスク王の城へと飛び立って行った。
洞窟では、モンスターとトイヴォ達との戦いが続いていた。
何度もモンスターに倒されては立ち上がり、攻撃をしているうちにだんだんと2人の体力は消耗し切っていった。
「うっ・・・・・・・・」
エリアスが苦しそうな声を上げながら、トイヴォの側に倒れこんできた。
「エリアスさん!大丈夫ですか」
トイヴォがエリアスに近づいて右手を差し伸べると、エリアスはうなづきながらトイヴォの手を取った。
そしてゆっくり立ち上がり、息を整えながら
「このままこうして攻撃しているのも限界だ・・・・・・なんとかしないとこのままだとやられる」とモンスターを見ている。
トイヴォもモンスターを見ながら
「そうですね・・・・・でも一体どうすれば」
「あのモンスター、我々がだんだん体力がなくなっていくのを待っているみたいだ。きっと今まで戦ってきた奴等もこうして
倒れていったかもしれない・・・・・」
「あのモンスター、どこか弱点があれば・・・・・・・」
「そうだな・・・・・それにあのモンスターの両手さえなければ。攻撃のほとんどがあの両手で塞がれてしまう。
それに動きをなんとか止められれば倒せるかもしれない」
モンスターの手をじっと睨んでいるエリアスに、トイヴォはふと顔を上げた。
顔を上げると、モンスターの大きな目がじっと2人を見つめている。
いつ襲うか機会を待っているようにトイヴォは思えた。
あのモンスターの動きを止められれば・・・・・・・。
動きを止める・・・・・・?
「エリアスさん、もしかしたら動きを止められるかもしれません」
トイヴォが何かを思いついたのか、突然エリアスに話しかけた。
「動きを止められる?一体どうやるんだ?」
エリアスがトイヴォの方を向くと、トイヴォはエリアスを見ながら
「モンスターのあの大きな目を見えなくすればいいんです。目が見えなければ動けなくなるかもしれません」
「でも一体どうやってあの目を見えなくするんだ?」
トイヴォはエリアスに近づくと、エリアスの耳元で小さな声で話し出した。
話を聞き終わると、エリアスはトイヴォを見ながらうなづいた。
「・・・・分かった。難しい方法だが、ダメ元でやってみるしかない。行くぞ」
トイヴォもうなづくと、エリアスは先にモンスターに向かって走り出した。
モンスターの少し手前でエリアスは立ち止まった。
両手で剣を構えると、モンスターをじっと見つめて動かない。
今までは自分から動いていたから、もしかしたら相手に動きを読まれていたのかもしれない。
なら、逆だったら・・・・・・。
向こうから動いてくるのを待つんだ。
タハティリンナでやったあの最終テストのように。
エリアスがモンスターの様子を見ながら、じっとその場を動かずにいると
右側に何かが来る気配を感じた。
エリアスは素早く後ろに移動すると、黒い手がもう少しでエリアスをつかもうとしていた。
さらに今度は左側に気配を感じたエリアスは、今度は右へと移動した。
モンスターのもうひとつの黒い手が今度は左側からエリアスをつかもうとしていた。
エリアスはさらに後ろへと移動し、今度は高く飛び上がると、今度はモンスターが両手でエリアスを捕まえようと前に移動してきた。
こうしている間に、なんとか片手だけでもこの剣で斬れれば・・・・・。
モンスターの攻撃を避けながら、いつ攻撃をするかエリアスは機会を狙っていた。
エリアスがモンスターの前でなんとか攻撃を避けていると、トイヴォはモンスターの後ろに回り込んだ。
そして目の前にあるモンスターの黒い背中に向かって飛びつくと、トイヴォはモンスターの体の皮膚をつかんだ。
そんなにつるつるしてない・・・・これなら登れそうだ。
トイヴォは両手で皮膚をつかむと、ゆっくりと上に登り始めた。
モンスターの両手での攻撃を避け続けているエリアスは、トイヴォの動きを気にしていた。
トイヴォがそろそろ上に上がってくる頃か・・・・・?
エリアスはモンスターの頭を見ようと顔を上げるが、まだトイヴォの姿は見えない。
まだか・・・・・・・。
するとまた右側に何かが来る気配を感じた。
エリアスは今度は後ろには下がらず、その場で高く飛び上がった。
モンスターの黒い手が、またエリアスをつかもうと襲ってきていた。
エリアスは剣を両手で構え、下に降りながら剣をモンスターの黒い手に向けた。
エリアスは地面に着地したと同時に、剣をそのまま下に降ろした。
一瞬、辺りが静かになったかと思うと、突然低い叫び声が洞窟中に響き渡った。
エリアスの剣がモンスターの左腕を斬り落とし、その腕が地面に落ちたと同時にモンスターが声を上げたのだ。
なんとか片方を斬り落とした、あとはもう片方だ。
エリアスはモンスターの方を向いて、上を見上げた。
するとトイヴォがモンスターの頭の上から顔を出した。
「エリアスさん・・・・・」
「トイヴォ!」
トイヴォに気が付くとエリアスは思わず声を上げた。
「あまり無理をするな、気をつけろ・・・・・行けるところまででいい」
トイヴォはナイフを取り出し、右手に持つと、モンスターの左目に向けてナイフを突き立てようとした。
するとその時、モンスターが気づいたのか、頭を大きく前に振った。
トイヴォの体が前へと滑り、モンスターから離れていく。
トイヴォの体はたちまち地面に向かって落ちはじめた。
「トイヴォ!」
トイヴォの体がもう少しで地面に落ちそうになった時、突然フワリと下から何かがトイヴォの体を受け止めた。
トイヴォが下を見ると、金色の鱗が何層にも重なって見え、辺り一面が金色に輝いている。
体は細長く、金色の蛇のようなものに乗っているような感じがした。
僕は一体、どうしたんだろう・・・・・・何が起こっているんだろう。
トイヴォが戸惑っていると、突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「トイヴォ、大丈夫?怪我はない?」
「え・・・・・・」
トイヴォが声のする方を向くと、金色のドラゴンが心配そうな顔つきでトイヴォを見ていた。
「君は誰・・・・・? もしかしてヴァロなの・・・・?」
「うん、僕、ヴァロだよ」ドラゴンは深くうなづいた。「ドラゴンに変身したんだ。よかった。間に合って・・・・」
するとトイヴォは驚きながら
「ヴァロ・・・・・ありがとう」とドラゴンに抱きつき、顔を右手でそっと撫でた。
金色のドラゴンがトイヴォを乗せたままエリアスの近くまで移動すると、エリアスはドラゴンの姿を驚きの目で見ていた。
「このドラゴンは・・・・・・?トイヴォ、大丈夫か?」
「大丈夫です」トイヴォはうなづいて、両足を外に出し、ドラゴンから降りようとしていた。
「それにこのドラゴンはヴァロなんです」
「何だって・・・・・・!」
トイヴォの言葉にエリアスが驚いていると、突然辺りが暗闇に包まれた。
トイヴォとエリアスが戸惑っていると、崖の方から黒くて大きなものが現れた。
2人が崖の方を振り返ると、大きな黒いドラゴンが洞窟に入ってきた。
ドラゴンが入って来たかと思うと、その後ろからヴィルホが現れた。
ヴィルホの姿が見えたかと思えば、ドラゴンの姿が黒い霧へと変わっていき、霧はヴィルホの体へと入っていった。
ヴィルホはエリアスの姿を見た途端、甲高い声を上げて笑い出した。
「見つけたぞエリアス・・・・・・ここがお前の墓場だ」
「ヴィルホ・・・・・・!」
エリアスが剣をヴィルホに向けようとすると、後ろにいるモンスターが声を上げた。
モンスターの声に、エリアスとトイヴォが振り返ると、モンスターが2人に向かって突進してきた。
「危ない!」
ヴァロは降りようとしていたトイヴォの体を後ろに倒し、背中に乗せたままモンスターを避けようと左に移動した。
エリアスも素早く左に移動し、モンスターの攻撃を避けた。
するとそれを見ていたヴィルホは
「後ろにモンスターがいたのか・・・・・それなら私が手を下さなくても、ここでお前たちが倒れるのを待っていればいい」
そして辺りを見回し、伝説の剣を見つけると
「お前たちが戦っている間に、私はこの剣をもらおうか」と剣が刺さっている場所へと歩き始めた。
それを見た途端、エリアスは動揺した。
「待て・・・・・お前にその剣を渡すわけにはいかない」
「ならばここまで来て、私と勝負すればいい」
ヴィルホは剣が刺さっている場所に着くと、剣に手をかけた。
エリアスはヴィルホのところに行こうとするが、前にはモンスターが立ちはだかっていた。
モンスターはエリアスをじっと睨み、いつ攻撃するか機会を狙っている。
このままだと伝説の剣がヴィルホに奪われてしまう、どうすれば・・・・・・。
剣を抜こうとしているヴィルホの姿を見ながら、エリアスはどうすればいいのか分からず戸惑っていた。
ヴィルホが両手で剣を抜こうとしていると、突然横から何かがヴィルホを襲った。
衝撃を受けたヴィルホの体は吹っ飛んで、洞窟の岩壁に叩きつけられた。
エリアスが何が起こったのか分からず戸惑っていると、後ろからヴァロの声が聞こえてきた。
「ヴィルホは僕の尻尾で追い払ったよ」
「何だって・・・・・・」
エリアスが後ろを見て、ドラゴンの細長い体を追うように見ていくと、尻尾は伝説の剣の近くにあった。
岩壁の近くで倒れていたヴィルホはゆっくりと起き上がった。
「一体、何が起こったというんだ・・・・それでも私が有利なのは変わりない」
そして再び伝説の剣を取ろうと歩き始めた。
伝説の剣の前まで戻り、ヴィルホは再び剣をつかもうとすると、手前で何かに阻まれた。
手前に何か見えないものが壁のようにヴィルホを阻んでいる。
エリアスがヴィルホの戸惑っている様子を見ていると、ヴァロの声がさらに聞こえてきた。
「伝説の剣の外側にバリアを張ったんだ。これならヴィルホが伝説の剣を奪えない。それに内側には入ってこられない」
それを聞いたエリアスは
「それなら、モンスターに集中できる。まずは目の前にいるこいつを倒してからだ」とモンスターに目を移した。
すると今度はトイヴォの声が聞こえてきた。
「エリアスさん、僕もう一度さっきの方法をやってみます」
「大丈夫か?」
「今度はヴァロが一緒です。これなら直接目を狙えるかもしれません」
「分かった・・・・・・私はこいつのもう片方の腕を斬る。行くぞ!」
エリアスはモンスターに向かって走って行くと、モンスターは下を向いてエリアスをじっと見た。
モンスターの黒い手が左側からエリアスを目掛けて襲ってくるが、エリアスはひたすら攻撃を避け続けている。
さっきよりも動きが楽になった・・・・左側だけの攻撃だけだからな。
エリアスは黒い手を避け、モンスターの目の前まで移動すると、一気にモンスターの腕の付け根のところまで
走りだした。
そして高く飛び上がり、両手で剣を高く上げた。
エリアスの剣がモンスターの右腕を斬り落とすと、モンスターは低い叫び声を上げた。
モンスターの目が下から上に移動した途端、金色のドラゴンに乗っていたトイヴォがちょうど右目に向かって
ナイフを向けて飛び掛かってきた。
大きな右目の赤い部分にナイフが刺さったかと思うと、モンスターはさらに悲鳴のような声を上げ始めた。
トイヴォがナイフを抜き、体が背中から下に落ち始めた時、ドラゴンの背中がトイヴォの体を受け止めた。
「やった・・・・・・!」
トイヴォの攻撃を下から見ていたエリアスは思わず声を上げた。
ドラゴンが下にいるエリアスのところに降りようと体を動かした時、モンスターの体の中が一瞬だけ透けて見えた。
ドラゴンから放つ金色の光がモンスターの体に当たり、中が透けて見えたのだ。
あの体の中央にあった大きなものは・・・・・・!
あれを剣でつき刺せば、モンスターを倒せるかもしれない。
エリアスがそう思いながらモンスターを見ていると、ドラゴンがエリアスの側に降りてきた。
「エリアスさん・・・・・」
トイヴォがドラゴンから降りてくると、エリアスはトイヴォに近寄った。
「トイヴォ、よくやったな・・・・・・これでモンスターはまともに攻撃できないだろう」
エリアスは微笑みながらトイヴォの左肩に右手を置くと、再びモンスターの方を向いてこう言った。
「でもまだだ。今度こそモンスターを倒さなくてはいけない」
「僕、もう一度もう片方の目を潰してきます」
「もう一度やるのか?それよりモンスターの心臓を狙った方がいい。心臓の場所が分かった」
「本当ですか?どうやって分かったんですか?」
「さっきドラゴンがここまで降りてくる途中、ドラゴンの金色の光がモンスターの体に当たった・・・・・。
その時に一瞬だけ、大きな心臓が見えたんだ」
トイヴォはどうするか一瞬考えたが、考えを変えることはなかった。
「僕はやっぱりもう片方の目を潰します・・・・モンスターの視界を完全に潰します」
「分かった」
それを聞いたエリアスはうなづいて、右手にある剣を見ながら続けてこう言った。
「なら私が心臓をこの剣で突き刺す・・・・・・次で終わりにしよう」
モンスターは両手と片目を失い、あまり動かなくなっていたが低い叫び声を上げ続けていた。
トイヴォとエリアスはドラゴンに乗ると、ドラゴンは再びモンスターのところへと動き出した。
「ヴァロ、2人乗ってるけど大丈夫?」
トイヴォが話しかけると、ドラゴンはトイヴォの方を向いた。
「大丈夫だよ、しっかりつかまってて。モンスターがまた攻撃してきたら大変だから」
ドラゴンが再びモンスターの目の前に現れると、モンスターはそれに気が付いてさらに声を上げ始めた。
トイヴォはドラゴンの頭の上に移動すると、エリアスは逆にドラゴンの尻尾の方に移動を始めた。
エリアスはドラゴンにつかまりながら、尻尾の方に降りて行くと、目の前にモンスターの体があった。
体の中がドラゴンの金色の光に当たり、体内の大きな心臓が大きく上下に動いているのが透けて見えた。
エリアスは右手で腰に着けている剣を取った。
そしてドラゴンとモンスターの間を見た後、エリアスがヴァロに話しかけた。
「ヴァロ、もう少し体をモンスターの方に寄せてくれ」
「無理だよ。これ以上寄せたら、モンスターが襲い掛かってきたら避けられないかもしれない」
ヴァロの言葉にエリアスは少し考えながら
「・・・・なら、体をモンスターの方に振るんだ。振ったと同時にモンスターを刺す」
「分かった」
「トイヴォ、準備はできてるか?」
「いつでも大丈夫です」
トイヴォの声が聞こえると、エリアスは大声で叫んだ。
「・・・・・今だ、ヴァロ。体を振るんだ!」
エリアスの声が聞こえたと同時に、トイヴォは再びモンスターの左目に向かって飛び掛かった。
ヴァロはエリアスのいる体の部分をモンスターの方に振ると、エリアスもモンスターの体に向かって飛び掛かった。
エリアスは飛び掛かったと同時に両手で剣を構えると、モンスターの体を目掛けて剣を下に振った。
トイヴォはうまくモンスターの左目中央に着地すると、ナイフで思いきり赤い目を突き刺した。
エリアスの剣はモンスターの体の中を深く突き刺した。
エリアスはさらに奥まで剣を突き刺すと、一気に剣を抜いた。
すると剣を刺したところから、一気に大量の血が流れてきた。
左目と心臓を同時に刺されたモンスターが、今までよりも大きな声を上げ始めた。
何度も低い声を上げ、苦しそうに体を揺らしもがき続けている。
そしてしばらくすると力が抜けたように、地面にうつぶせに倒れた。
「やった・・・・・・」
ドラゴンの背中に乗っているトイヴォは倒れたモンスターを見て、小さな声で言った。
「モンスターを倒したんだ・・・・・やったんだ。よくやったなトイヴォ」
トイヴォの後ろでエリアスが声をかけると、トイヴォはヴァロに
「ヴァロのおかげだよ。ヴァロがドラゴンに変身してなかったら、もうダメだったかもしれない」
「ううん、みんなで戦ったからできたんだよ」
ドラゴンは首を振りながら、ゆっくりと地上へと降りて行った。
2人が地上に降りたとたん、何かが割れる音が聞こえてきた。
音がした方を向くと、バリアを破ったヴィルホが伝説の剣に手をかけようとしていた。
「ヴィルホ!」
エリアスが大声を上げると、ヴィルホはエリアスを見ながら剣に両手を置いた。
「ようやく気が付いたようだな、エリアス・・・・・だがもう遅い。この剣は私のものだ」
と笑みを浮かべながら両手で剣を抜こうとした。
すると突然、左横からまた何者かがヴィルホの体を突き飛ばした。
ヴィルホの体は宙に飛んだかと思うと、奥の岩壁へと叩きつけられた。
エリアスが左側を見ると、そこにはドラゴンが尻尾を前に突き出していた。
「その剣はお前なんかに触れさせない・・・・・・・」
そして地上にゆっくり降りたかと思うと、ドラゴンの姿が消えた。
トイヴォは伝説の剣の前まで駆け込むと、剣を抜こうと両手を置いた。
そして力を入れて上に引き抜こうとするが、剣は少しも動かない。
トイヴォが必死になり剣を抜こうとしていると、後ろから両手が伸びてきた。
「トイヴォ」
トイヴォが後ろを振り向くと、側にはエリアスがいた。
エリアスが両手を剣に置くと、トイヴォに声をかけた。
「抜くぞ、一緒に!」
「はい!」
4本の手が伝説の剣に触れた時、トイヴォの胸にかかっている青い石が光り出した。
何だろう、青い石が光り始めた・・・・・・。
トイヴォが気が付いて視線を剣から青い石に移した途端、伝説の剣が突然光り出した。
「うわっ・・・・・・・!」
目の前が強い光で真っ白になると、トイヴォが思わず声をあげ、両手を放した。
後ろにいたエリアスも強い光に一瞬ひるみながらも
「剣を引き抜くんだ、今なら一気に抜けるかもしれない」と再び両手で剣をつかんだ。
トイヴォも再び両手で剣をつかむと、2人は一気に上へと剣を引き抜こうとした。
するとだんだんと剣の刃の部分が上に上がるようになり、剣がもう少しで抜けるところまできた。
そして刃の先が見えると、トイヴォは両手を放した。
エリアスがそのまま両手で伝説の剣を引き抜くと、トイヴォは隣で伝説の剣を見ていた。
エリアスが伝説の剣を見ていると、後ろで不気味な笑い声が聞こえてきた。
「伝説の剣を手に入れて、勝ったと思っているつもりなのか?」
「何だと・・・・・・」
エリアスが後ろを振り向くと、ヴィルホが不気味な笑みを浮かべていた。
そしてエリアスに近づきながら
「私には切り札がある。セントアルベスクは私の手の中にあるのだ」
「何だって・・・・・・それはどういうことだ?」
ヴィルホの言っていることが良く分からず、エリアスが戸惑っていると
ヴィルホは立ち止まってこう言った。
「お前の一番大事にしているソフィア王女をセントアルベスク王の城で預かっている」
それを聞いたエリアスは驚き、大きく目を見開いた。
「な、何だって・・・・・!」
「ソフィア王女だけではない。セントアルベスク王と女王も一緒だ」
ヴィルホは驚いているエリアスを見ると、さらに微笑みながら笑い出した。
するとヴィルホの体から黒い霧が出てきた。
霧はやがて大きくなり、再び黒いドラゴンが現れると、ヴィルホはドラゴンに乗りながらこう言い放った。
「私は城に戻り次第、ソフィア王女を処刑する・・・・・お前の大事なものを失いたくなかったら
私の後を追いかけてみるんだな」
「ヴィルホ・・・・・貴様という奴は!」
「どうやらさっきまでいた金のドラゴンはいなくなったようだ・・・・お前が城に着く頃には
ソフィア王女の亡骸を抱くことになるだろう」
ヴィルホがエリアスにそう言い放つと、笑いながらドラゴンと共に空へと消えていった。
それを聞いたトイヴォはさっきまでドラゴンがいた場所へと戻ると、地面にはヴァロが元の姿で倒れていた。
「ヴァロ、起きて!」
トイヴォがヴァロの体を両手で揺さぶると、ヴァロがようやく気が付いた。
「・・・・・トイヴォ?僕・・・・・元の姿に戻ったの?」
「うん。それより早くまたドラゴンに変身して!セントアルベスクに急いで戻らないといけないんだ」
「え、どうしたの?また何かあったの?」
するとエリアスが後ろからヴァロに近づいてきた。
「ヴァロ、セントアルベスク王の城に戻らないと、今度はソフィアが危ない・・・・ヴィルホが城に戻ったら
ソフィアを殺すかもしれない」
「だから早くヴィルホの後を追わないといけないんだ、だからお願い、ドラゴンに変身して!」
2人の話を聞いたヴァロは驚いて戸惑いながらも
「ソフィアさんが・・・!分かった、ちょっと待って・・・・・今から変身するから」と革の袋を出した。
ヴァロが木の実を食べ、再び金色のドラゴンに変身するとトイヴォとエリアスが背中に乗った。
「今から行くよ。しっかりつかまってて」
ドラゴンは洞窟を出ると、ヴィルホの乗る黒いドラゴンの後を追い始めるのだった。