闇への反撃
オリヴィア達はセントアルベスク王の城に向かっていた。
城の手前の街に入り、城に近づくに連れて、周りの人達の動きが慌ただしくなっている。
「一体、どうしたんだ?みんな城に向かっているようだが」
オリヴィアが辺りを見ていると、その隣でアレクシが答えた。
「ああ、さっき城に向かう人に声をかけたんだが・・・・・城内の塔の前で王様と女王様が拘束されている
らしいっていう噂が街中に流れているらしい。それでみんな確かめようと城に向かっている」
「それでみんな城に向かっているのか・・・・・・・」
「ああ、早くなんとかしないと、状況によってはもしかしたら暴動が起こるかもしれない」
もう城の周りの人達にも知れ渡っているのか。
早くなんとかこの状況を終息させなければ。
城の屋上が見えてくるとオリヴィアが足を止めた。
「どうしたんだ?急に立ち止まって」
オリヴィアを見てアレクシも立ち止まると、その後ろを歩いていた男達も足を止めた。
オリヴィアは城の上の方を見ながら
「先に行った白鳥達が着いているのかどうか確かめたいんだ。ちょっと待っててくれ」
とジャケットの左ポケットから、小さな笛を取り出した。
アレクシはオリヴィアが持っている笛を見ながら聞いた。
「その笛で、どうやって白鳥達が着いているかどうかが分かるんだ?」
「出発する前に白鳥達と話をしてあるんだ。城の屋上に着いたらそのまま待機するように言ってある。
私が城の近くまで来たら笛を吹くから、聞こえたら反応するように言ってある」
「でも、その小さい笛であの城の屋上まで音が届くのか?」
「大丈夫だ。この笛は遠くにいる鳥も呼び寄せることができる。あの城までの距離なら十分音が聞こえるはずだ。
それに・・・・・・」
「それに?」
「屋上に着いた白鳥達が元の姿に戻っているかどうかだ」
オリヴィアはアレクシの方を向いた。
「もし元の姿に戻っていたら手を上げるように、もし白鳥のままだったらそのまま飛ぶように言ってある」
「なるほど」オリヴィアの話を聞いてアレクシはうなづいた。「それで、それによって戦い方を考えてあるのか?」
「元の姿に戻っていてもいなくても、とにかく戦うしかない」
オリヴィアは再び城の屋上の方を向くと、右手に持っている笛を口にくわえた。
オリヴィアは笛を吹くと、ピイーという高い音が周りに広がっていった。
しばらくしてオリヴィアが笛を放し、そのまま城の屋上を見ていると、屋上から白い手のようなものが
いくつか上がっているように見えた。
「手が見える!元の姿に戻ったんだ」
屋上の手が見えたのか、オリヴィアの隣でアレクシが声を上げた。
「やはり思った通りだ・・・・・・」
オリヴィアは笛をジャケットの左ポケットにしまいながらぽつりとつぶやいた。
「それで、どうするんだ?このまま城へ突っ込んで行くのか?」
アレクシが興奮気味でオリヴィアの方を向くと、オリヴィアは首を振りながらリヤカーに乗っている武器を見て
「城へは突っ込まない。まず屋上にいる女性達にその武器を渡さないと・・・・・正面からは入らない」
「正面からは入らない?ということは別の入口があるのか?」
「ああ、決まった入口がある。裏口から入ろう」
オリヴィア達が裏口に向かい、先にオリヴィアが1人で裏口の門の近くまで行くと
黒い制服を着た門番の男が1人、門の中央に立っていた。
やっぱり、この時間は裏の門番は1人か・・・・・。
ずっと城に潜入してきた甲斐があった。
オリヴィアは後ろで待機しているアレクシの方を向いて軽くうなづくと
アレクシは分かったというようにうなづき返した。
オリヴィアは再び門の方を向くと、そのまま門へと歩き出した。
そして門番の横を通り過ぎようとした時、オリヴィアが門番に声をかけた。
「ご苦労様」
「あ?ああ・・・・・・ご苦労様・・・・・!?」
その声に門番は気が付いて、オリヴィアの顔を見たとたん、オリヴィアは門番の右脇腹を殴りかかった。
門番は目を大きく見開いたまま、苦しそうにその場に倒れた。
アレクシと男達がすぐにやってきた。
「さすが手慣れてるな・・・・・・・この男はこのままにしておくのか?」とアレクシ
「いいや、しばらくしたらすぐに気がつくだろう。そうしたらすぐ通報するに違いない」
オリヴィアは倒れている門番の男を見下ろしていると、男達のうちの1人がこう言った。
「それなら、ロープで縛りつけておきましょうか・・・・・・その門の柱にでも」
「ああ、それがいい」オリヴィアはうなづいてアレクシに聞いた「ロープは持ってきているのか?」
アレクシは前にあるリヤカーの中身をあさりながら
「確か、奥の方にあったような・・・・・・あ、これだ」とロープを取り出した。
すると別の男がそのロープを取りながら
「なら、我々がこの男を縛っておきます。あなた達は早く城の中へ入って下さい」
「分かった。ここは任せる。ありがとう」アレクシがロープを渡すとオリヴィアに聞いた
「あとはこの武器を屋上にいる女性達に持って行けばいいんだな?」
「ああ、早く行こう。黒い制服の男達が来ないうちに急ぐんだ」
オリヴィアはそう言い終わると足早に城の中へと入って行った。
「あ、おい待ってくれ・・・・・置いて行かないで、リヤカー運ぶの手伝ってくれ!」
アレクシは慌ててリヤカーを押しながら城の中へと入って行った。
城の中で再びニイロと合流し、リヤカーに積まれた武器を持って屋上に上がると
そこには数十人の女性達の姿があった。
「オリバーさん!」
オリヴィアの姿を見かけると、女性達からはオリヴィアの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
女性達は塔の前にいる黒い制服の男達に見つからないよう、屋上の壁に隠れるように全員しゃがんでいる。
オリヴィアはそんな女性達を見ながら
「しっ・・・静かに。下に聞こえて気付かれるとまずい。
お前達・・・・・全員ここに来ているのか?元の姿に戻れたようでよかった」と安堵の表情を浮かべた。
すると後から武器を抱えて持って来たアレクシが
「おお・・・・・元の姿に戻ってる」と女性達を見渡している。
「それより早く武器を渡すんだ」
オリヴィアが目の前にいる女性に剣を渡すと、アレクシが抱えている武器の上側を取った。
女性達全員に武器を手渡すと、オリヴィアは次にこう聞いた。
「ところでソフィア王女達はどこにいるのか分かるか?」
すると一番遠くにいる赤髪の女性が手を上げた。
「ソフィア王女様はこっちにいます」
「何だって・・・・・・どこにいるんだ?」
オリヴィアが赤髪の女性のいる場所へ近づくと、その女性は屋上の壁の方を向いた。
そしてオリヴィアが隣に来ると、説明を始めた。
「少し先に塔が見えます。その下に大きな台があって、その右端にいます」
オリヴィアは壁に身を隠しながら、赤髪の女性の言った塔を見た。
屋上から少し離れたところに塔が見え、オリヴィアがその下を見ると中央に大きな刃物が見える。
刃物の真下には真ん中が凹んでいる台がある。
あれでソフィア王女を処刑するつもりなのか・・・・・・。
オリヴィアは刃物の上を見ると、刃物の両端にはロープが見え、そのロープはさらに上の方を見ると
一本になっているのが見えた。
そのロープの先は右端の木製の柱にぐるぐると巻き付けられている。
ロープを放すと刃物が下に落ち、台に乗っているものを斬るという仕掛けになっていた。
オリヴィアは右端を見ると、そこには椅子に縛られた王様と女王様、ソフィアの姿があった。
3人のすぐ後ろには黒い制服の男達が3人立っているのが見える。
台の下には大勢の黒い制服の男達の姿が見える。
「ところで、今のところあの台の上にいるのは6人だけか?」
オリヴィアが隣にいる赤髪の女性に聞くと、赤髪の女性はうなづいて
「はい。私達が来た時からずっと変わりません」
ということはヴィルホらしい男は見ていないということか。
ヴィルホがいない今なら、ソフィア王女達を救えるのでは?
オリヴィアがどうするか考えていると、別の女性が空を見上げながらこう言った。
「遠くから何か・・・・・黒くて長いものが近づいてきてるわ」
ソフィアが空を見上げると、だんだんと黒いものが近づいてきていた。
しばらく見ていると、それは黒いドラゴンだった。
背中にはヴィルホが乗っているのが見える。
そんな・・・・・。
ヴィルホが先に戻ってくるなんて。
エリアスは一体・・・・・・?
まさか・・・・・・・!
黒いドラゴンの姿がはっきりと見えてくると、ソフィアは絶望感に襲われた。
しばらくしてソフィア達の前に黒いドラゴンが降りてきた。
ドラゴンの背中からヴィルホが降りてくると、ドラゴンの姿はたちまち黒い霧に包まれ
ヴィルホの体の中に戻っていった。
ヴィルホはソフィアの姿を見ると、ゆっくりと近づいてきた。
「ソフィア王女様、私との結婚を考え直していただけましたか?」
「何度も言っているように、あなたとは結婚しないわ」
ヴィルホを睨むようにじっと見ながら、ソフィアは再び否定した。
「あなたも頑固な方ですね。私と結婚していただければセントアルベスクは滅亡しないと言うのに」
「それよりエリアスはどこなの?エリアスを連れて帰ると言っていたわよね」
ソフィアとヴィルホの会話を、屋上からオリヴィアは見つからないように壁に隠れながら聞いていた。
先にヴィルホが来てしまった。一体どうすればソフィア王女を助けられるのか・・・・。
するとまた後ろにいる女性が声を上げた。
「また何かが来てるわ・・・・・・今度は金色に光ったものが」
ソフィアの問いにヴィルホは冷ややかな顔つきで話し始めた。
「エリアスですか・・・・・探しましたけど見つかりませんでした。どこかでモンスターと戦って
死んでいるか、それとも怖くなってどこかへ逃げ出したのか・・・・」
「そんな・・・・・・エリアスはそんな人じゃないわ」
ソフィアがそれを聞いて首を強く降ると、ヴィルホは薄ら笑いを浮かべながら
「あなたが考えているほど、エリアスはソフィア王女様のことを想っていないということです。
まだこのお城に姿を見せていないではありませんか。きっと面倒になって逃げだしたのでしょう」
「そんな・・・・・・そんなことは絶対にないわ」
「なら、もう一度エリアスを探しに行ってきましょうか?もし見つかったら・・・・・」
「探さなくても、ここにいるぞ」
「え・・・・・・・」
聞き慣れた声にヴィルホは後ろを振り返った。
ソフィアも前を向くと、台の下の大勢の黒い制服の男達から少し離れたところに
大きな金のドラゴンの姿が見える。
そのドラゴンの背中にはトイヴォとエリアスの姿があった。
「エリアス!」
エリアスの姿を見たとたん、ソフィアは嬉しそうにエリアスの名前を叫んだ。
「ソフィア!大丈夫か」
ソフィアの姿を見たとたん、エリアスはドラゴンの背中から降りて行った。
ドラゴンの体が地上に着くと、トイヴォはドラゴンから降りた。
ドラゴンは台の椅子に拘束されているソフィア達をちらっと見た後、トイヴォを見ながら
「トイヴォ、僕少し疲れたから少し休ませて」と元のヴァロの姿に戻った。
トイヴォはヴァロを見てうなづいた。
「うん、分かったよ。ゆっくり休んで・・・・ありがとうヴァロ」
「ありがとう、トイヴォ」
ヴァロはうなづくと、その場で姿を消した。
エリアスがソフィアのところに行こうと台に上がろうとすると、目の前にヴィルホが立ちはだかった。
「エリアス・・・・・思っていたよりも早くここに着くとは。でもお前の運もそこまでだ」
ヴィルホがエリアスにそう言い放つと、後ろを振り向いた。
すると後ろで拘束されているソフィア達の後ろにいる黒い服の男達が、ソフィア達にナイフを向けた。
それを見たエリアスはヴィルホに聞いた。
「止めろ、ヴィルホ・・・・・どういうつもりだ?」
するとヴィルホはエリアスの方を振り返り
「ソフィア王女や王様、女王様を助けてもらいたければ、それなりの対価が必要だ」
「お前の望みは何だ?」
「お前が持っている伝説の剣と、一緒にいるその小僧の青い石をここに出せ」
「エリアス!ダメよ・・・・絶対にヴィルホに渡してはいけないわ」
それを後ろで聞いていたソフィアが大声でエリアスに向かって叫んだ。
「ソフィア王女様は何も言わず、黙っていてください。これはエリアスが決めることです」
ヴィルホがソフィアにそう言うと、エリアスはヴィルホを睨みつけながら
「ヴィルホ・・・・・お前はどこまで卑怯な人間なんだ。昔はそんな人間じゃなかったはずだ」
「昔は昔、今は今だ」ヴィルホはエリアスを冷たい目で見て言い放った。
「エリアス、どうする?伝説の剣を出してソフィア王女を救うか、それとも見殺しにするのか・・・」
エリアスはヴィルホを睨んだまま、どうすればいいのか戸惑っていた。
一方、屋上で話を聞いていたオリヴィアはどうすればいいのか考えていた。
エリアス達が戻ってきても、ソフィア王女を人質に取られている以上は何もできない。
すぐ近くにいるというのに、ここじゃ何もできないのか?
一体どうすれば・・・・・・・。
すると隣にいる赤髪の女性が小声で話しかけてきた。
「オリバーさん、いい考えがあります」
「な、何だ?・・・・・何でもいい。話してみろ」
「はい、台の真ん中に大きな刃物がありますよね?あの刃物はどうやって下に落ちるんでしょうか」
「あれは・・・・刃物の先にロープがついてる。そのロープを引くか、放せば下に落ちる」
オリヴィアは台にある刃物を見ながら説明すると、その女性はうなづいて
「そうですよね。それならそのロープを切って、ソフィア王女様が処刑される前にあの刃物を下に落とせば
一瞬のスキができて、ソフィア王女様を助けられるかもしれません」
女性の話を聞いて、オリヴィアは考えていた。
あの大きな刃物を先に下に落としてしまえば、そう簡単に元の位置には戻せない。
それに刃物は大きな音をたてながら落ちていくだろう。
それに気を取られているうちに誰かがソフィア王女を助けられれば・・・・・。
「分かった、それでやってみよう・・・でも誰がその刃物のロープを切るんだ?」
オリヴィアが赤髪の女性に聞くと、その女性は弓矢を手に持ちながら
「私がここからあのロープを狙って、この矢を放ちます」
オリヴィアは女性の手に持っている矢を見ながら
「でも、ここからあの塔まではかなり離れている。その矢で届くのか?」
「分かりません」首を振りながらも女性は続けてこう言った。
「でも長年、この矢でセントアルベスクの森で獲物を仕留めてきました。大丈夫だと思います」
オリヴィアは不安に思いながらも、その方法をやってみることにした。
「・・・・分かった。やってみるしかないだろう。準備ができたら声をかけてくれ。
矢を放つタイミングを見て合図をする」
ソフィアが不安な表情を浮かべながら、エリアスの様子を見ていると
どこからか小さな声が聞こえてきた。
「ソフィアさん、ソフィアさん」
ソフィアはその声に気が付いて、辺りを見回した。
しかし辺りには誰の姿も見当たらない。
すると今度はソフィアの膝の上に何かが乗ったような感覚を覚えた。
「ソフィアさん、ソフィアさん!」
ソフィアは膝の方を見てみると、驚いて声を上げそうになった。
そこにはティースプーンくらいの大きさで、黄色のとんがり帽子と黄色の服を着た小人が立っていたのだ。
ソフィアは小人に向かって、恐る恐る小声で話しかけた。
「あなたは誰?ずっとそこにいたの・・・・・?」
「うん、少し前からここにいたよ」その小人はうなづいた。
「ずっと呼んでたけど、なかなか気が付いてもらえなかったから、膝に乗っちゃったんだ」
「ごめんなさい、あなたは一体・・・・・」
「僕、ヴァロだよ。今は小人に変身してるけど」
「ヴァロですって・・・・・!」
小人がヴァロだと分かると、ソフィアは再び小さな声を上げて驚いた。
ソフィアが驚いていると、ヴァロはそのまま話を続けた。
「ソフィアさんを助けに来たんだ。体を少し動かしてみて」
「体を・・・?でも私、ロープで縛られているのよ。両手も後ろで縛られていて動けないわ」
「じゃ、まず両手を動かしてみて」
ソフィアはヴァロに言われた通りに、両手を動かしてみた。
すると今まできつく縛られていたロープが緩み、両手が動かせるようになった。
「ロープがほどけたわ・・・・・」
「さっき僕が魔法でロープを切ったんだ。王様と女王様のロープも切ってあるよ」
ソフィアは体を動かしてみると、体を縛っていたロープも解けた。
ソフィアは王様と女王様に小声で声をかけた。
「お父様、お母様。体を動かして・・・・ヴァロがロープを切ってくれたわ」
すると王様がロープが解けたのか小声で声を上げた。
「おお、本当だ・・・・・ロープが解けた」
女王様もロープが解けたのか、黙ってうなづいた。
ソフィアはヴァロに言った。
「ありがとう。でもすぐには動けないわ」
「どうして?」とヴァロ
ソフィアはちらっと後ろにいる黒い制服の男を見た。
「この後ろにいる人達がいる限り、逃げられないもの・・・・」
するとヴァロはフワフワ浮きながら、ソフィアの顔の高さまで上がって答えた。
「大丈夫だよ。後ろにいる男達にも魔法をかけたんだ。石像のように動けなくしてある。動いてごらんよ」
「え・・・・・?本当に大丈夫なの?」
ソフィアは後ろを振り向いて、黒い制服の男が持っているナイフを持った。
そしてナイフを奪ってみたが、黒い制服の男は表情を変えず、体も動かない。
ソフィアは持っているナイフをそっと下に置いた。
「本当だわ・・・・」
ソフィアが動かない男達を見ると、王様に声をかけた。
「お父様、今のうちなら逃げられるかもしれないわ。逃げましょう」
「いや、まだだ」王様は静かに首を振った。「もしヴィルホが気がついたら何をするか分からん」
「でも早くしないと、エリアスもどうしたらいいのか困っているわ」
「分かっている、タイミングを待つんだ。逃げられるタイミングを見て判断する」
するとヴァロが声をかけてきた。
「そういえば、赤い石はこのセントアルベスクの城にあるって、前言ってたよね。どこにあるの?」
ソフィアはヴァロの方を向いて
「赤い石はお母様が持っているわ。そうでしょう?お母様」
すると女王様はソフィアの方を向いて答えた。
「赤い石は今、ここにあるわ」
「本当?どこにあるの?」
ヴァロがフワフワ浮きながら、女王様の前に移動すると、女王様はヴァロを見ながら答えた。
「あなたがヴァロね・・・・・私が今つけているネックレスの一番下の赤い宝石がそれよ」
ヴァロが女王様のネックレスから赤い石を外すと、両手で抱えながら女王様から離れた。
ソフィアはヴァロを見ながら
「それをトイヴォに渡すのね。落とさないように気を付けて」
「うん、ありがとう」
フワフワ浮きながらヴァロはお礼を言ったが、続けてソフィアに聞いた。
「でも、すぐ逃げなくて大丈夫なの?」
「お父様がタイミングを見ているみたいなの。早く逃げた方がいいと思うのだけれど・・・・」
「分かった。逃げられるようにもうひとつ何かを仕掛けておくよ」
ヴァロは後ろにある大きな刃物をちらっと見ると、姿を消した。
エリアスはどうするか迷っていたが、腰に手をかけると伝説の剣を抜いた。
そしてゆっくりと台の上に置くと、後ろにいたトイヴォが驚いた。
「エリアスさん!どうして・・・・・」
「トイヴォ、お前も早く青い石を置くんだ」エリアスは仕方がなさそうにトイヴォに言った。
ヴィルホが笑みを浮かべながらそれを見ていると、トイヴォはその後ろにいるソフィアを見た。
エリアスさん、ソフィアさんを守るために・・・・・・。
でも、このままだとヴィルホの思い通りになってしまう。
僕はどうすれば・・・・・・。
トイヴォが戸惑っていると、エリアスは再びトイヴォに言った。
「早く青い石を前の台に置くんだ、トイヴォ」
トイヴォは仕方がなさそうに、ゆっくりと台の前へと歩き始めた。
そして台の前で立ち止まると、青い石を外そうと両手をひもにかけた。
そして、青い石がついたひもを台の上に置こうとした。
その時だった。
後ろで何かが放たれる音が聞こえてきた。
音が聞こえてきたかと思うと、前に置いてある刃物に向かって何かが飛んで来た。
飛んで来たそれは、刃物を支えている細いロープに刺さった。
すると程なくして、ロープが切れた。
刃物はゆっくりと、大きな音を立てながら下の台の上へ落ちて行った。
その場にいるほとんどの人達が落ちた刃物を見ていると、それに気づいた王様が声を上げた。
「今のうちに塔の中へ逃げるんだ!」
王様が椅子から立ち上がってその場を立ち去ると、後に続くように王女様とソフィアも足早に去って行った。
それを見たヴィルホは慌てて、後ろにいる黒い制服の男達に大声で命じた。
「何をしている!セントアルベスク王達を捕らえろ!私の声が聞こえないのか」
しかし、ヴィルホに命令された黒い制服の男達はヴァロの魔法にかけられて動けない。
ヴィルホが黒い制服の男達のところへ歩いていくと、それを見たエリアスは台にある伝説の剣を取った。
それを見たトイヴォも再び青い石を首にかけた。
するとそこに、小人から元の姿に戻ったヴァロが姿を現した。
「トイヴォ、エリアスさん」
「ヴァロ!その赤い石は・・・・・」
ヴァロが両手で赤い石を抱えているのを見て、エリアスは驚いた。
「さっき女王様から受け取ったんだ。ソフィアさん達を助けたついでにね」
「何だって、じゃさっき逃げていったのは・・・・・・」
「それよりヴィルホが向こうに気を取られているうちに、この赤い石を取ってよ」
「分かった」
エリアスはヴァロから赤い石を受け取った。
赤い石を取ったのはいいが、それからどうすればいいのかが分からなかった。
「これで全部揃ったのはいいが、これをどうすれば・・・・・・・」
するとヴァロはフワフワ浮きながらエリアスに近づいた。
そしてエリアスが持っている伝説の剣の手で握る部分を見た。
「なんか手で握っているところ・・・凹んでいる部分があるよ。そこに石をはめられるんじゃないかな」
「まさか・・・・・・・・」
エリアスはヴァロの言っていることが信じられなかったが、試しにと凹んでいるところに赤い石をはめてみた。
すると赤い石がぴったりとはまった。
それを見たトイヴォは
「エリアスさん、もう1つ凹んでいるところがあるかもしれません。もう1つにはこれを・・・・」
と青い石をエリアスに差し出した。
エリアスはトイヴォから青い石を受け取ると、伝説の剣を裏返しにした。
そして握る部分を見ると、凹んでいる部分を見つけ、青い石をはめた。
一方、動けない黒い制服の男達の魔法をようやく解いたヴィルホは苛立っていた。
「一体、何をしている!誰があの処刑台のロープを切れと言ったんだ」
ヴィルホが大声で黒い制服の男達にわめき散らすと、台の下にいる大勢の黒い制服の男達のうちの1人が
あっという声を上げた。
「そこにいるのは誰だ!」
ヴィルホがその男の声を聞いて上を見上げると、屋上には矢を放った赤髪の女性の姿があった。
赤髪の女性は気が付くと、すぐ壁に姿を隠した。
大勢の黒い制服の男達が屋上の方を向いていると、それを見たアレクシがつぶやいた。
「しまった、気づかれたか・・・・・・・」
「どちらにしても、こうなることは分かっていた」
オリヴィアは右手に剣を持つと、立ち上がり女性達にこう言った。
「これから一斉に下へ降りる。今までやってきたことを無駄にするな・・・・でも無理はするな。
戦いたくなければここに残れ。ニイロ、ここを頼むぞ」
「分かりました」
ニイロがうなづくと、オリヴィアは屋上の出口へと歩き出した。
オリヴィアの姿がなくなると、後の女性達もオリヴィアの後に続いて屋上を後にした。
ヴィルホは屋上から台の下にいる大勢の黒い制服の男達に視線を移すと、大声で叫んだ。
「ここにいる裏切り者を全員片付けろ、虫けら一匹でも生きてこの城から出すんじゃない!」
それを聞いた黒い制服の男達は大声を上げながら、屋上のある建物へと向かって行った。
するとヴィルホの後ろからエリアスが声をかけた。
「ヴィルホ!」
ヴィルホは声のする方へゆっくりと振り向いた。
そこには、青い光を放つ伝説の剣を持ったエリアスがいた。
「エリアス・・・・・・よくも私の邪魔をしてくれたな。あと一歩のところを・・・・・」
ヴィルホがエリアスを睨みつけながら剣を抜くと、エリアスは伝説の剣をヴィルホに向けた。
「今度こそ決着をつけてやる。かかって来い、ヴィルホ!」
エリアスの後ろでトイヴォもナイフを抜くと、エリアスはヴィルホを睨みつけながら言った。
「トイヴォ、お前はソフィアを守ってくれ・・・・塔に向かうんだ」
「エリアスさん、でも・・・・・」
「私は大丈夫だ、だから早くソフィアのところへ行ってくれ」
「・・・・・分かりました」
トイヴォはエリアスの後ろ姿を見ながらゆっくりと離れると、ソフィア達がいる塔へと走り出した。
トイヴォが塔の中に入ると、どこからか話声が聞こえてきた。
トイヴォが辺りを見回すと、すぐ横にある階段の方からその声が聞こえてくる。
「ソフィアさん!」
トイヴォが顔を上げて、階段に向かって声を上げると、しばらくして階段の踊り場から
ソフィアが顔を出した。
「トイヴォ!」
「ソフィアさん、大丈夫ですか?そっちに行ってもいいですか?」
「大丈夫よ。気をつけて上がってきて」
トイヴォが階段を上がると、そこにはソフィアと王様、女王様がいた。
ソフィアはトイヴォの姿を見ると
「トイヴォ、無事だったのね・・・・・よかった」と安堵の表情を見せた。
「ソフィアさんこそ、大丈夫ですか?ずっとあの場所で・・・・・・」
「私達は大丈夫よ」
すると王様が2人の間に入ってきた。
「ソフィア、ずっとここにいるわけにはいかない。すぐに黒い制服の男達がやってくるだろう。
その前にどこかに移動しなければならない」
「そうだったわ・・・・・でもどこへ行くの?どこへ行くにもここからはいったん外に出なくては
ならないわ」
ソフィアが王様に向かって不安そうに言うと、王様はうなづきながら
「ああ。塔からはどこへ行くにもまずは外に出なくてはならん。でも例外がひとつだけある」
「例外・・・?」
「礼拝堂へはここから外に出なくても行けるようになっている。私しか知らない通路があるんだ。
その通路は下の階の奥の隠し扉にある」
「それならすぐにお母様と一緒に行って」
ソフィアは後ろにいる女王様を見た。「私はトイヴォと一緒にここに残るわ」
するとそれを聞いた王様は首を振った。
「それはダメだ、ソフィア・・・・・・もし何かがあったらどうする」
「エリアスが気になるの。できるだけエリアスの側にいたいのよ」
ソフィアはそう言うが、王様はそれでも首を横に振って
「ダメだ。それにいずれにしろ、礼拝堂には用がある・・・・伝説の剣の持つ力を最大化するには
礼拝堂でのある儀式が必要だ。それにはお前も一緒にいてもらいたいのだよ」
「何ですって・・・・・伝説の剣を持っているだけではまだいけないと言うの?」
驚いているソフィアに、話を聞いていた女王様が声をかけた。
「伝説の剣の力を引き出すためには、礼拝堂に行く必要があるわ。それにあなたにはそこで行われる
儀式を覚えてもらいたいの。あなたが将来、セントアルベスク女王になるために・・・・・」
「この国の非常事態時のための大切な儀式だ。私も先代の王からこの儀式を引き継いだ・・・・。
途中で抜けても構わない。だから最初だけは一緒にいてくれないか」と王様
「・・・・分かったわ」
2人の話にソフィアはうなづくと、王様はうなづきながら
「ありがとう、ソフィア・・・・すぐに礼拝堂に行こう。下の階に降りるんだ」
と辺りを見回しながら、階段を降り始めた。
全員が1階に降りると、トイヴォはソフィアに声をかけた。
「ソフィアさん、またここに戻ってくるんですか?」
ソフィアはトイヴォを見てうなづきながら
「儀式の途中でお父様がいいって言ったら、ここに戻ってくるわ」
「なら、僕はここにいます。黒い制服の男達が入ってこないように見張っています」
「ありがとう。トイヴォ・・・・・トイヴォも気を付けて。終わったらすぐに戻るわ」
ソフィアはそう言い残すと、王様と女王様の後を追うようにその場を後にした。
一方、城の外に出たオリヴィア達は黒い制服の男達と戦っていた。
オリヴィアは相手の右太ももに向かって剣を振りかざすと、相手は声を上げながらその場に倒れた。
「さすがだな。まずは1人軽くやっつけたか」
オリヴィアが後ろを振り返ると、城からアレクシがこん棒を持って出てきた。
「気をつけろアレクシ。周りをよく見ないとどこから襲ってくるか分からない」
「それは十分分かってるつもりだ」
アレクシはこん棒を両手で持ったまま辺りを見回している。
オリヴィアはアレクシを見て
「アレクシは今まで戦ったことはあるのか?」
するとアレクシは首を大きく横に振った。
「いいや、ない。オレは普通の一般市民だからな・・・・・」
そして右側を向いたかと思うと
「向こうから数人こっちに来る。オレは城の中に引っ込むぞ」と城の中へと入ってしまった。
オリヴィアは辺りを見回した。
辺りは黒い制服の男達が、女性達を相手に戦っている。
途中、王様側についている白い制服の兵士達が加わっているが、その数は黒い制服の男達と比べ
少ないため、負傷者が出てくると数が足りなくなるのではとオリヴィアは考えていた。
今のところは大丈夫のようだが、ケガ人が多くなってくると不利になる。
武器の扱いについてはこっちは素人ばかりだ。
いずれは頭数が厳しくなる、その時どうすれば・・・・・・。
すると目の前にヴァロが姿を現した。
オリヴィアはヴァロの姿を見ると思わず声を上げた。
「ヴァロ・・・・・・ヴァロじゃないか!どうしてこんなところにいるんだ?」
「え?あ・・・・・オリヴィアさんだ!」
ヴァロはオリヴィアの顔を見て、驚きながら声を上げた。
オリヴィアは名前を呼ばれて辺りを見回しながら
「しっ・・・・・今はオリバーと呼んでくれ。ところでどうしてここにいるんだ?」
「僕、今までトイヴォ達と一緒にいたんだ」
「何だって・・・・・じゃさっきトイヴォとエリアスと一緒にいた金のドラゴンは・・・・」
「あれは僕が変身してたんだ。変身が上手くできるようになったんだよ」
「変身・・・・・・」
それを聞いたオリヴィアはある事を思いついた。
「ヴァロ、話がある。とりあえず城の中に入ろう」
「え?う、うん。分かった」
ヴァロは戸惑いながらうなづくと、2人は城の中に入って行った。
城に入り、誰もいない場所まで来ると、オリヴィアはヴァロに話し始めた。
「今からタンデリュートに一緒に行って欲しいんだ。ヴァロの魔法ですぐ行けるようにしたい」
「うん、いいよ」あっさりとヴァロはうなづいた。「でもどうして?」
「黒い制服の男達の数が圧倒的に多い。このままケガ人や負傷者が出たら我々がやられてしまう。
だからエリアスの故郷であるタンデリュートの兵士達に援軍を頼みたい」
「分かった」
ヴァロはうなづくと、すぐ後ろの壁に近づいた。
ヴァロは両手を壁に向かって差し出すと、両手から光を放った。
壁に大きな穴が開くと、オリヴィアは穴の中に入った。
ヴァロも続いて穴の中に入ると、穴はだんだん小さくなり、壁からは跡形もなく消え去った。