光と闇の真実

 



目の前が明るくなり、外に出るとオリヴィアとヴァロは辺りを見回した。
オリヴィアが後ろを振り返ると、目の前にはレンガ造りの壁が広がっている。
さらに壁の向こう側を見ると、少し先に城のような建物が見えた。



「あれがタンデリュートの城なの?」
オリヴィアの前でフワフワ浮きながら、ヴァロが城を見ている。
「どうやらそうらしい。他にそれらしい建物がないから」
オリヴィアは辺りを見回すが、他に目立つ建物はなかった。
するとヴァロはオリヴィアの方を向いて
「じゃ、城に行って兵士達にセントアルベスクに行くように頼まないと」
「その事なんだけど、ヴァロ。頼みたい事があるんだ」
オリヴィアはヴァロに近くまで来るように、手を振って手招きすると
ヴァロはオリヴィアの側まで近づいた。



オリヴィアがヴァロに話を終えると、ヴァロは驚いた顔をしながら声を上げた。
「ええっ、そ、そんな・・・・・!いくらなんでもそんなことできないよ」
慌ててヴァロが首を横に振ると、オリヴィアは平然と聞いた。
「どうして?ドラゴンに変身できるんだから、人にも変身できるだろう?」
「でも、エリアスさんに変身するなんて・・・・いくらなんでもできないよ。それに本物じゃないってバレたらどうなるか」
「大丈夫だよ。ヴァロの変身は誰にもバレない。それに長い間、エリアスと一緒に行動してきたんだろう?」
「それはそうだけど、自信がないよ・・・・僕今まで知ってる人に変身したことがないもの」
「前はそうだったかもしれないけど、今は違う。うまく変身できるようになったんだろう?さっきそう言ってたじゃないか」
「それはそうだけど・・・・・」
戸惑っているヴァロに、オリヴィアはヴァロをじっと見つめながら
「大丈夫、ヴァロならできるよ。それに何かあったら私がなんとかする。後ろについているから、やってくれないか?」
「本当?何かあったら助けてくれる?」
オリヴィアがうなづくと、ヴァロは戸惑いながらも小さくうなづいた。



ヴァロは革の袋を出して、木の実を口に入れた。
そしてエリアスに変身すると、オリヴィアが後ろから一頭の白い馬を連れてきていた。
「ヴァロ、エリアスに変身したのか・・・・やればできるじゃないか」
オリヴィアがヴァロの姿を見ていると、ヴァロは白い馬を見ながら
「オリヴィアさん、エリアスさんに会ったことあるの?」
「いいや、会ったことはない」とオリヴィアは首を振った。「でも王子らしさは出てると思う」
「それで、その馬はどうしたの?」
「近くに馬小屋があって、偶然この馬がいたから借りてきた。これに乗っていけばセントアルベスクから来たって思うだろう?
 これに乗って行くんだ」
「分かった。馬には乗ったことないけど・・・・魔法でなんとかするよ」
ヴァロは白馬にまたがると、白馬はゆっくりと城に向かって歩き出した。



しばらくして城の入口の門の前に着くと、ヴァロは白馬から降りた。
そして門の中に入ろうとすると、門の内側にいた白い制服を着た門番と出くわした。
門番はヴァロの姿を見たとたん
「エ、エリアス様!戻っていらっしゃったのですか」と驚いた顔をしている。
ヴァロは少し戸惑いながら
「あ、ああ・・・・戻ってきた。久しぶりだな」と適当な言葉をかけた。
「しばらくお見掛けしなかったものですから、エリアス様を見たら王様もきっとお喜びになられるでしょう」
ヴァロは黙ってうなづき、なんとかその場をやり過ごすと、城内へ入っていった。



城内へ入ったのはいいが、ヴァロはどこに行ったらいいのか分からなかった。



どうしよう、兵士達がいるところがどこなのか全く分からない。
キョロキョロしてると怪しまれるし、どうすればいいんだろう。



ヴァロが前を見ると、大きな塔が目の前にある。
ヴァロはその建物に入ろうと歩き出した時、その建物から1人の白髪の男が出てきた。



「エリアス様!」



ヴァロの姿を見たとたん、その男が驚きながら近づいてきた。



「エリアス様、戻っていらっしゃったのですか!今までどちらにいらっしゃったのですか?」
ヴァロは戸惑いながら適当に
「あ、ああ・・・・今まで記憶がなくて、セントアルベスクにいた。ソフィアと一緒にいたんだ」
「ソフィア王女様とですか。記憶を無くされていたとは・・・・・こちらに戻ってきたということは、記憶が戻ったということですか」
「ああ、まだ完全に記憶は戻っていないが・・・・」
ヴァロは男を見ながらこう切り出した。
「それにここへは用があって来たのだ。すぐにセントアルベスクに戻らなければならない」
「すぐにセントアルベスクへ・・・・それは一体どういうことですか?」
「今、セントアルベスクが大変な事態になっている。もしかしたら国が滅ぶことになるかもしれない」



それを聞いた男は驚きながら
「な、なんと・・・・・セントアルベスクが滅亡の危機とは。同盟国としてはなんとかしなければ」
「だからこうして戻ってきたのだ。今すぐ兵士達を集めてセントアルベスクに向かわせるようにしなければならない。
 今いる兵士達を集められるか?」
「は、はい。すぐ王様にも知らせなければ。今から一緒に王様のところへ・・・・・」
「いや、私はすぐにセントアルベスクに戻る」
ヴァロは首を振ると、続けて男に頼んだ。
「こうしている間にも何かがあったら困る。だから王様にはすぐに兵士達をセントアルベスクに向かわせるように伝えてくれ」
「かしこまりました」
男が頭を下げると、ヴァロはうなづいてその場を後にした。



ヴァロは急ぎ足で城の外に出て、白馬にまたがると、そそくさと門を後にした。



ヴァロが城を去った後、男が塔の中に入ろうとすると、塔から1人の男が出てきた。
「これは・・・・・王様、話をお聞きになっておられたのですか」
男が深々と頭を下げると、王様は男を見ながら
「外に出ようとしたら、声が聞こえてきた・・・・・エリアスが戻ってきていたのか」
「はい、無事で何よりです」
「ずっと行方不明だったから、もう戻ってこないかと半ばあきらめていたのだが・・・・姿を見られてよかった。
 それよりセントアルベスクが危ないと聞いたが」
「はい、滅亡するかもしれないと。エリアス様が援軍を頼んできました」
「セントアルベスクは我が国にとって重要な同盟国だ。その国が滅ぶほど大変な状況とは・・・・今すぐに兵士達を集めて
 セントアルベスクに向かわせるのだ」
「かしこまりました。今いる兵士達を集め、向かわせます」



元の場所に戻り、ヴァロは元の姿に戻ると、オリヴィアと一緒に城の方を見ていた。
「本当に来るのかな?」
ヴァロが不安そうにオリヴィアに話しかけると、オリヴィアは城の方を見ながら
「大丈夫だと思う。城の外から見てたけど、ヴァロの演技は完璧だったよ」
「城にいる間、すごく緊張したよ。頭が真っ白で何をしてたか覚えてない」
「でも、もっと時間がかかると思っていた。意外とすぐ出てきたじゃないか」
「あれは偶然、人が出てきたから。手あたり次第に話しかけるしかなかったんだよ」
「話しかけた相手がどんな人かにもよるな・・・・・・、誰か出てきた」
オリヴィアがそう言うと、ヴァロはオリヴィアの後ろからそっと城の方を見た。



城からは何十人もの兵士達が、馬に乗って出てきた。
そして2列に並ぶと、馬が次々と城を出発して駆け出してきた。



兵士達を乗せた馬達がオリヴィアとヴァロの前を通り過ぎた。
最後の馬が通り過ぎていなくなると、オリヴィアはヴァロにこう言った。
「セントアルベスクの城に戻ろう」



セントアルベスクの城では、エリアスとヴィルホが塔の前で戦っていた。
ヴィルホの体から黒い霧が立ち込め、ヴィルホがその霧をエリアスに向けて放つと
エリアスはその霧を避けて、右へと動いた。



また黒い霧か。あの黒い霧さえなければ・・・・・・。



エリアスはどうすればいいのか迷っていると、再び黒い霧がエリアスに向かってきた。
霧を避けようと今度は左に動いたが、今度は霧がエリアスを追いかけるように近づいてきている。



何だって・・・・・!



エリアスは驚きながら、思わず持っている伝説の剣を霧に向けた。



すると伝説の剣にはまっている赤い石と青い石から強い光が放たれた。
剣は強い光を発しながら、エリアスに近づいていた黒い霧を消し去ってしまった。



黒い霧が消えた・・・・・・。



エリアスは茫然として見ていたが、黒い霧がなくなったと分かるとヴィルホの方を向いた。



この剣があればもう何も恐れることはない。



エリアスは伝説の剣をヴィルホに向けながら近づき始めると、ヴィルホはゆっくりと後ずさりを始めた。
しばらくするとヴィルホはエリアスに背中を向け、屋上のある建物の裏側へと走り始めた。
エリアスもヴィルホの後を追い走り始めた。



一方、城の礼拝堂では王様と女王様、ソフィアが司教と共に儀式を行っていた。
司教が3人の方を振り返ると、3人に話しかけた。
「どなたか、音の鳴るものは持っておられませんか。楽器の方がよいのですが」
王様と女王様がお互い顔を見合わせていると、ソフィアが服のポケットから笛を取り出した。
その笛は、エリアスからもらったものだった。
「司教様、この笛でもよろしいでしょうか」
ソフィアが女王様の隣で司教に笛を差し出すと、司教はソフィアのところに移動し
「ソフィア王女様。笛をお持ちでしたか。こちらで構いません。しばらくの間お預かりします」
とソフィアから笛を受け取った。



一方、塔の前では大勢の黒い制服の男達との戦いが続いていた。
オリヴィアが外に出ると、目の前で赤髪の女性が矢を放っていた。
「今の状況はどうなってる?」
オリヴィアが赤髪の女性に近づくと、赤髪の女性はオリヴィアを見て
「オリバーさん、どちらに行っていたんですか?こっちは怪我人が多くなって、だんだん人が少なくなってきています」
「やはりそうか。その怪我をした人達はどこにいる?」
「城の中に入っていると思います。屋上にいるかどうかまでは分かりませんが」
赤髪の女性が再び矢を放とうと弓を構えると、オリヴィアは腰に着けている剣を取りながら
「そうか・・・・城の中にまで黒い制服の男達が入らなければいいが」
「オリバーさんは今までどちらに?」
「それは・・・・・」
オリヴィアがそう話しかけたとたん、裏側で突然大きな音が聞こえてきた。
その音に少し遅れて、地面が小刻みに揺れ始めた。
「地震・・・・・?」
赤髪の女性が戸惑いながら辺りを見回すと、オリヴィアも戸惑いながら城を見ていた。



音が聞こえてきたのは城の裏側、一体何が起きているんだ?



城の裏側の庭園で、エリアスが大きな穴のすぐ後ろで息を荒くしながら立っていた。
エリアスがヴィルホの後を追っていたところ、ヴィルホがいきなり後ろを振り向き
エリアスに向かって何かを放ったのだ。
エリアスが攻撃を避けた時、大きな音とともに地面が揺れ、手前に大きな穴が開いたのだった。



穴の向こう側にヴィルホの姿を見つけると、エリアスは大声で叫んだ。
「ヴィルホ!逃げられると思っているのか!いい加減に正々堂々と勝負をつけろ」
するとヴィルホは再びエリアスに向かって何かを放った。
黒い光のようなものが向かってくるのが分かると、エリアスは素早く左側へと走り、地面に体を伏せた。
黒い光がエリアスの右側を通過したと思うと、再び大きな音とともに地面が揺れた。



このままでは庭園どころか城が破壊されてしまう。
なんとかしなければ・・・・・・・。



エリアスはゆっくり立ち上がると、ヴィルホの姿を見ながら左側へと歩き出した。
するとヴィルホもエリアスの様子を見ているのか、エリアスと平行に動き出した。



ヴィルホも動き出した。
また同じ攻撃をしてくるつもりか・・・・・?



エリアスはヴィルホの様子を見ながら、ゆっくりと走り始めた。



しばらくすると、ヴィルホの手からまた黒い光のようなものが出ているのが見えた。
そして黒い光がエリアスに向かってくると、エリアスは素早く地面に伏せた。
黒い光はエリアスの真上を通過し、しばらくすると何かにぶつかったのか大きな音をたてた。
少し遅れて再び地面が小刻みに揺れた。



エリアスは音が聞こえた方を向くと、庭園の奥の城壁が大きく崩れていた。
城壁の向こう側に山々が広がっているのが見える。



あの黒い光の力・・・・・とても恐ろしい力だ。
城壁は壊れてしまったが、地面に穴が開くよりはマシかもしれない。
このまま攻撃を避けて、ヴィルホの体力が落ちていくのを待つしかないのか?



エリアスは立ち上がり、ヴィルホを見ると、ヴィルホの手には次の黒い光が放たれようとしていた。



しばらく様子を見るしかない・・・・・。ヴィルホが疲れてくるのを待つんだ。



エリアスは再び攻撃を避けようと走り始めた。



しばらくの間、エリアスはヴィルホの攻撃を避け続けた。
ヴィルホから放たれる黒い光の攻撃は衰えるどころか、ヴィルホが疲れている様子もない。
庭園の城壁は黒い光がぶつかり、至る所が大きく崩れていった。



攻撃を避け続けているエリアスは、次第に疲れてきていた。



このままだといずれはやられてしまう、どうすればヴィルホを攻撃できるんだ?
あの黒い光をどうすれば・・・・・・。



エリアスがヴィルホの方を見ていると、腰に着けている伝説の剣が光り始めた。
その光にエリアスが気が付くと、剣についている青い石と赤い石が光を放っている。



この光・・・・・・・。
さっき黒い霧を消したこの光を、あの黒い光にぶつけたらどうなるだろうか?



剣を手に取りながら考えていると、横から何かが来ている気配を感じた。



エリアスが右側を向くと、黒い光がエリアスに向かって来ていた。
その光はだんだんと大きくなり、エリアスを飲み込もうとしている。



こうなったらやるしかない、いちかばちかだ。



エリアスは白く光っている剣を黒い光に向けた。
剣を包み込んでいる白い光はだんだんと大きくなり、エリアスの体を包んでいく。



そこに黒い光がエリアスを包み込もうと向かってきた。
何かがぶつかったような大きな衝撃音が聞こえ、黒い光がエリアスに近づこうとするが
伝説の剣から発している白い光がそうはさせまいと黒い光の動きを押さえている。



しばらく黒と白の互いの光がぶつかり、拮抗していたが
伝説の剣から発している光がさらに強くなり、黒い光を跳ね返した。



黒い光がなくなり、白い光も消えたかと思うと、どこかから誰かの叫び声が聞こえてきた。
エリアスが右横を向くと、少し先の方にヴィルホが倒れていた。



黒い光が戻ってきて、そのまま受けたのか・・・・・・。



伝説の剣を右手に持ったまま、エリアスはヴィルホの方へと歩き始めた。



ドアを開けて外に出ると、ソフィアは屋上に通じる階段を上がって行った。
王様から外に出てもいいとの許しが出たのだ。
屋上に着くと、そこにはニイロが1人で庭園の方を見ている。
「ニイロ、ずっとそこにいたの?」
ソフィアがニイロに声をかけると、ニイロは気が付いてソフィアの方を向いた。



ソフィアがニイロに近づくと、ニイロはうなづいて答えた。
「はい、ソフィア王女様。ご無事でよかったです」
「ここで何を見ているの?」
「庭園を見ています。エリアス様とヴィルホが戦っているのです」
「何ですって・・・・・・塔にいたんじゃなかったの?」
ソフィアが戸惑いながら庭園を見ると、庭園の奥の方にエリアスとヴィルホの姿が見えた。
庭園の奥の城壁は破壊され、庭園の向こう側の山々の景色が見えている。



「一体、何があったの?私がいない間に・・・・・・」
ソフィアがさらに戸惑いながらつぶやくと、後ろから声が聞こえてきた。
「これは・・・・・なんということだ」
ソフィアが後ろを振り向くと、王様がソフィアの隣に来て庭園を見ていた。
「お父様・・・・・・」
「ヴィルホが塔から庭園へ移動してきたのです」ニイロが王様の姿を見ると、説明を始めた。
「エリアス様が追いかけてきましたので、ヴィルホがエリアス様を攻撃して、あのようなことに・・・」
「そうか」
ニイロの説明に王様は深くうなづいた。
「ヴィルホ・・・・やはり闇の魔王が宿っているようだ。早くなんとかしなければならん」
「お父様、もう儀式は終わったの?」とソフィア
「あ、ああ・・・・もう大方は終わった。あともう少しで終わるだろう」
「それでお母様は?」
「まだ礼拝堂にいる。儀式が終わるまで中に残ると言っていた・・・・もう少しで出てくるだろう」
王様がそう言い終わると、3人は庭園を見つめていた。



しばらくするとヴァロが屋上に通じる階段に姿を現した。
オリヴィアと一緒にタンデリュートから戻った後、城の中で休憩をしていたのである。
「トイヴォ・・・・・あれ、ここは城の屋上か」
ヴァロがフワフワ浮きながら屋上に上がると、そこにはソフィアと王様、ニイロの後ろ姿が見えた。



ソフィアさんが屋上にいるということは・・・・。
トイヴォはまだ塔の中にいるかもしれない。
トイヴォを屋上に連れてこよう。



ヴァロはトイヴォを連れてこようと、姿を消した。



一方、塔の中でソフィアを待っていたトイヴォは、2階の階段の踊り場にいた。
いつ黒い制服の男達が入ってきてもいいように、塔の入口が見える場所にいたのだ。
今のところ、塔の中はトイヴォ以外誰もいない。



少し前までは塔の窓から、エリアスがヴィルホと戦っている姿が見えたのだが
移動してしまったのか、今は全く人の姿が見えなくなった。



誰もいない・・・・・・。みんなどこに行ったんだろう。



時々入口を気にしながら静まり返った部屋の中を歩いていると、前からヴァロが姿を現した。



「ヴァロ!」
「トイヴォ、やっと見つけた」
トイヴォがヴァロの姿を見て声をあげると、ヴァロはフワフワ浮きながらトイヴォに近づいた。
「今までどこにいたの?しばらく休むって言ってたけど長かったから気になってたんだ」
「ごめんね」ヴァロは素直に謝ると続けてこう言った。
「僕も色々とあったんだ。大変だったんだよ・・・トイヴォはずっとここにいたの?」
トイヴォはうなづいて
「僕はここでソフィアさんを待ってるんだ。礼拝堂での儀式が終わったら戻ってくるって」
「そのことなんだけど。ソフィアさんは隣の建物の屋上にいるよ」
「何だって。それじゃ儀式は終わったのかな?」
「終わったみたい。王様ともう1人と一緒にいた。屋上からどこかを見てるみたいだったよ」
「屋上からどこかを・・・・・?」
ヴァロの話にトイヴォがそう言いかけると、ヴァロはうなづきながら
「ソフィアさんのところに行こうよ。ここで待ってても来ないかもしれないよ」
「うん、そうだね。でも一回外に出なくちゃ。もしかしたら外に黒い制服の男達がいるかもしれない」
「外に出なくても行けるよ。僕の魔法で行こう」
ヴァロがそう言い終わると、すぐ後ろの壁に向かって両手から光を放った。
壁に大きな穴が開くと、トイヴォとヴァロは穴の中へと入っていった。



庭園ではエリアスとヴィルホの戦いが続いていた。
ヴィルホがエリアスに剣を向けると、エリアスもヴィルホに剣を向け、お互い様子を見ているのか
なかなかその場を動かない。



エリアスはヴィルホの顔を睨みつけた。
ヴィルホの両目は真っ赤になり、体からは黒い霧が出ている。
何かに憑りつかれているような異様な雰囲気を漂わせていた。
「ヴィルホ・・・・・お前はなぜ、このセントアルベスクを滅ぼそうとしているんだ?」
エリアスはヴィルホに話しかけた。



ヴィルホはしばらく黙っていたが、エリアスに剣を向け直した。
「なぜかって?・・・・・お前のせいだ、エリアス。そもそもの原因はお前だ!」
そう言い終わったとたん、ヴィルホはエリアスに襲い掛かってきた。
ヴィルホの言葉に、エリアスは戸惑いながらも剣で、ヴィルホの剣を押さえた。
「なぜだ・・・・・今までお前は私の友人ではなかったのか?」
エリアスが聞き返すと、ヴィルホはエリアスの顔をじっと睨みながら
「それはお前が勝手にそう思っていただけだ。私は昔からずっとお前のことが嫌いだったんだ!」
といったん剣を離したかと思うと、再びエリアスに向かって剣を向け攻撃してきた。



エリアスはヴィルホの攻撃を剣で押さえながら、内心ショックを受けた。



なぜだ・・・・・・。
小さい頃から今まで、ずっと城内で一緒に過ごしてきたのに。
今まで一緒にいろんなことをやってきたじゃないか。
何でも話ができる親友だと思っていたのに。



「なぜだ・・・・なぜお前は私のことが嫌いなのだ?今までそんなこと一言も言わなかったじゃないか」
ヴィルホの攻撃が収まると、エリアスはヴィルホからいったん離れた。
ヴィルホはエリアスに剣を向けながら
「そうだな・・・・今までこんなこと言わなかった。いや、言えなかった。あの城から追い出されるかも
 しれなかったからな」
「城から追い出される?お前はわが軍の最高司令官の子供だと聞いたが・・・・」
「表向きはそうだ。でもそれは違う・・・・私の父は最高指令官ではない。本当の父は農夫だったのだ」
「何だって・・・・・・」



エリアスが驚いていると、ヴィルホは剣を向けたままゆっくりとエリアスに近づきながら話を続けた。
「父は農夫だったが、戦争で兵に狩りだされて戦死した。しばらくの間母親と2人で暮らしていたが貧乏だった。
 それで遠い親戚で軍の司令官の今の叔父に引き取られたのだ。母親はその後すぐに亡くなった・・・・・・。
 叔父に引き取られてからの生活は地獄だった。叔母やその子供にいじめられ、叔父はそれを見ても助けてはくれなかった。
 見て見ぬふりをしていたんだ」
エリアスが黙っていると、ヴィルホはさらにエリアスに近づいた。
「そんな中、あの城に叔父と一緒に行くことになった。そこでお前と初めて会った。あの時のお前は周りにちやほやされ
 欲しいものはなんでも与えられ、王様や女王様からも、誰からも愛されていた・・・・・」
「・・・・・・・」
「叔父は私をお前の近くに置こうと、王様やまわりの機嫌取りを始めた。その時叔父はまだ指令官ではなかったから
 自分が昇格するために私を使ったんだ。叔父は私にお前と仲良くするよう、いつも言われていた。そうすれば
 欲しいものは何でも手に入ると言いくるめられた。初めから私はお前のことが嫌いだったのに。
 叔父のために私は都合よく使われたんだ」
「そんな・・・・・」
「エリアス、お前に私の気持ちが分かるか?小さい頃両親を失い、叔父や親戚にひどい扱いをされ、自分の利権のために
 叔父に利用された私の気持ちが・・・・・・・」
「ヴィルホ・・・・・・」
「いいや、お前には分からない・・・・・王族の息子で欲しいものは何でも手に入り、愛する者まで手に入れようとする
 お前には私のこの気持ちなど、分かる訳がない!」
ヴィルホがそう言い放つと、剣を向けエリアスに再び襲いかかった。



エリアスは素早く左に避けると、ヴィルホに再び剣を向けた。
ヴィルホはエリアスの方を向くと
「だが今は昔と違って、闇の力がある・・・・・この力があればお前などすぐに倒せる。セントアルベスクだけではない。
 この世界を私のものにするのだ」と不気味な微笑みを見せた。
ヴィルホの体からはさらに黒くて濃い霧が出てきていた。



「・・・・お前の話はよく分かった」
ヴィルホに剣を向けたまま、エリアスが話し始めた。
「今までお前のことを知っているようで、全く知らなかった・・・・・私のことは嫌いでも、憎んでも構わない。
 ただお前は大きな間違いをしている」
エリアスの言葉にヴィルホが何かを言おうとすると、エリアスは続けてこう言った。
「お前の今までの人生は理不尽なことばかりだっただろう。復讐をするのなら私やお前の叔父にすればいい。
 でも、お前は関係のない周りの人達をも巻き込んでいるんだ。
 セントアルベスクだけではない。全く関係のない人達までも巻き込もうとしている・・・・・・」
エリアスは剣を構えなおし、再びヴィルホに剣を向けた。
「お前の自分勝手な振る舞いが周りまでも巻き込んでいる。それだけはどうしても許すことはできない!」
エリアスはヴィルホに向かって走り出した。



一方、塔の前ではオリヴィアと数人の女性達が固まって動いていた。
黒い制服の男達に周りを取り囲まれ、身動きが取れなくなっていた。
白い制服の王様側の兵士達の数も減り、他の女性達も怪我をして戦える人数が少なくなってきたのだ。



まだこんなに黒い制服の男達の数が多いとは・・・・・・。



オリヴィアは剣を黒い制服の男達に向けながら、どうすればいいか模索していた。



ここで銃を出して撃つのもいいが、その後この男達がどう出てくるか分からない。
一発の銃で殺し合いにつながるかもしれない。それだけは避けたい・・・・・。
一体、どうすればいいんだ?



オリヴィアが考え込んでいると、突然向かい側にいた黒い制服の男が声を上げながら倒れた。
倒れた男を見ると、背中には矢が刺さっている。
それを見た他の男達からどよめきの声が聞こえると、城の入口の門から、大勢の馬に乗った兵士達が入ってきた。
先頭にいる数人の兵士達は矢を黒い制服の男達に向け、射ろうとしている。
それを見た他の男達は慌てながらその場を離れた。



「これは・・・・タンデリュートの兵士達だ!」
偶然その場にいた白い制服の男が、馬に乗っている兵士達を見て思わず声を上げた。
「エリアス様からの依頼を受けここに来た」
一番先頭にいる、隊長らしき男が馬から降りてきた。「エリアス様はどこにおられるのだ」
するとオリヴィアがその男に近づいた。
「エリアス様は城の裏側で、敵と戦っている最中です。応援に来られたのですね」
「敵は黒い服を着た者達か?」
「はい」白い制服の男はうなづき続けて「しかし、元は同じセントアルベスクの兵士達です。王様からは殺さないようにと」
「分かった」
隊長らしき男はうなづくと、後ろを振り向き、馬に乗っている兵士達に向かって命令した。
「敵は黒い服を着た者達だ。ただし殺してはならん、生け捕りにして捕らえろ!」
すると馬に乗っていた兵士達がいっせいに大声を上げた。
そして次々と馬から降り、黒い制服の男達に向かって行った。



屋上では、庭園で戦っているエリアスの姿をソフィアは心配そうに見ていた。
その隣でトイヴォとヴァロも庭園を見ている。
しばらくすると誰かが階段から屋上へと上がってきた。



「ソフィア」
その声にソフィアが後ろを振り向くと、女王様が笛を持って立っていた。
「お母様・・・・・・」
「この笛を」
ソフィアが近づくと、女王様は笛をソフィアに渡した。



ソフィアが笛を受け取り、見ていると女王様が話を始めた。
「その笛は儀式を受けて、ある力を授かった笛よ。愛する者に力を与える笛なの。
 ソフィア・・・・今から笛を吹いて、あなたの愛する人に力を与えて。エリアスの力になれるはずよ」
「この笛を吹いて・・・・・力を与える・・・・?」
「この笛と伝説の剣は対になっているの。伝説の剣の真の力を出すには、この笛の音が必要になるわ。
 今戦っているエリアスのために、あなたの力が必要になるはずよ」



ソフィアはうなづくと、エリアスの姿が見える場所に移動した。
そして笛を横に持って構え、口元に持っていくと、静かに笛を吹き始めた。



かすかな笛の音が聴こえてくると、エリアスは気が付いて城の方を向いた。
屋上にはソフィアらしき女性が横笛を吹いているのが見える。



この曲は・・・・タハティリンナに行く前に聴いたセントアルベスク国歌だ。
聴いているとだんだん力がみなぎってくる。



エリアスは再びヴィルホの方を向くと、剣を構えなおし、ヴィルホに向けた。
すると伝説の剣は強い光を発し、剣を包み込んでいる。



伝説の剣が今までよりも強い光を出し始めた。
ソフィアの笛の音を聴いて力が増しているようだ・・・・・。
これならヴィルホを倒せるかもしれない。



エリアスは再び剣を構えなおすと、ヴィルホに向かって走り出した。



エリアスが近づいてくると、ヴィルホはエリアスに向かって黒い霧を放った。
黒い霧はエリアスを追いかけるように向かってくるが、伝説の剣から放つ光が黒い霧を消し去っていく。
「私にはもう同じ攻撃は効かない。覚悟しろヴィルホ!」
エリアスがヴィルホに向かって攻撃しようと、剣を高く振り上げ、ヴィルホの左脇腹を斬ろうと左へと移動した。
するとヴィルホはエリアスの攻撃を避け右側へと移動した。



ヴィルホとすれ違った時、エリアスの心の中で何かの声が聞こえた。
(・・・・助けて・・・・助けてくれ)



何・・・・・・?



それを聞いたエリアスは思わず立ち止まった。
そしてすぐ後ろを振り返るが、ヴィルホ以外誰もいない。



今の声は一体・・・・・・・。



エリアスは戸惑いながらヴィルホを見ると、再び心の中から声が聞こえてきた。



(エリアス・・・・・助けてくれ。今お前が見ている私は、本当の私じゃない)



この声は・・・・・・!?



エリアスは声が誰なのか分かると、驚きながらヴィルホを見つめていた。
今まで赤かったヴィルホの目は、昔エリアスが見ていた茶色の目に戻っていた。



エリアスは戸惑いながらヴィルホに話しかけた。
「ヴィルホ・・・・・・どういうことだ?一体、何があったんだ?」
ヴィルホは何も言わず黙っている。
「どうしてこんなことになったんだ?話さないと分からないだろう」
「・・・・・・」



しばらく2人の間に沈黙が続いたが、再びエリアスの心の中から声が聞こえてきた。
(エリアス・・・・・助けてくれ)
するとエリアスは心の中でヴィルホに話しかけた。
(ヴィルホ、聞こえるか?)
(エリアス・・・・・・お願いだ、助けてくれ。こんなことになるとは思わなかったんだ)
(一体、何があったんだ?どうしてこんなことになったんだ?)
(それは・・・・・・)
ヴィルホの声が途中で途絶えた。
(ヴィルホ、どうしたんだ?返事をしてくれ、ヴィルホ!)
エリアスがヴィルホを見ると、ヴィルホの目は再び赤くなっていた。



ヴィルホの目を見たとたん、エリアスは何かが体に刺さった感覚を覚えた。
エリアスが右側を見ると、脇腹の辺りに剣が刺さっている。
ヴィルホが剣でエリアスを刺したと分かると、エリアスは再びヴィルホの顔を見た。
ヴィルホは不気味な笑みを浮かべながら、エリアスの体から剣を力任せに思いきり抜いた。



「うっ・・・・・・」
剣を抜かれた途端、エリアスの右脇腹に激痛が走った。
エリアスはヴィルホからゆっくりと離れると、崩れるようにその場に倒れた。



「エリアス!」
エリアスが倒れたのを見て、ソフィアは思わず悲鳴を上げ、笛を床に落とした。
そしてエリアスのところに行こうと階段へ行こうとすると、王様が階段の前に移動しそれを止めた。
「ソフィア、今行ってはいけない!」
「でもお父様、エリアスが・・・・・・エリアスの側にいたいの。お願い!行かせてお父様」
「だめだ!今行ったらお前が一番危ない・・・ヴィルホの思うつぼだ」



するとトイヴォが2人に近づいた。
「なら、僕が行きます・・・・・エリアスさんの代わりに僕がヴィルホと戦います」
「だめだ」王様は首を横に振り、続けてこう言った。
「それに今のヴィルホは完全に闇の魔王に憑りつかれている。どうすることもできない」
「それは一体、どういうことですか?」
「ヴィルホの体と心は闇の魔王に奪われ、自分自身を失っている。こうなっては自分ではどうすることもできない」
「お父様、それはどういうことなの?どうしてそんなことが分かったの?」
それを聞いたソフィアが戸惑いながら王様に聞くと、ニイロがいつの間にか側にいて答えた。
「それは私も感じておりました。ヴィルホと闇の魔王らしき黒いものが並んでいるのを見たことがあるのです」
「ニイロも見たのか。私も同じものを何度も見た・・・・もしかしたらその時はまだ完全ではなかったのかもしれん」
王様がニイロを見て答えると、後ろでヴァロがこう言った。
「体が動いた!エリアスさんはまだ生きてるよ」
「何ですって・・・・・・・!」



ソフィアが屋上からエリアスを見ると、エリアスの体が少しずつ動いている。
「エリアス・・・・・・」
ソフィアがエリアスの姿を見つめていると、女王様が近づいてきた。



ソフィアが女王様を見ると、女王様は笛をソフィアに渡した。
「ソフィア。今こそあなたの力が必要な時だわ・・・・笛の力を信じて。もう一度吹くのよ」
「お母様・・・・・・・」
ソフィアがうなづくと、女王様もうなづいてゆっくりとその場を離れた。



「ううっ・・・・・・」
苦しそうな声を上げながらもエリアスが起き上がった。
刺された右脇腹からは出血し、服は赤い色で染まっている。



今ここで倒れるわけにはいかない・・・・・。



エリアスが傷口を右手で押さえながら、ゆっくりと立ち上がろうとした。



するとエリアスの側に落ちていた伝説の剣の赤い石が強く光り出した。
赤い石の赤い光が、エリアスの右脇腹に当たり、傷口を癒しているかのように赤く照らしている。



傷が・・・・・痛みが少しづつなくなっていくようだ。



エリアスが赤い石を見ていると、再び笛の音が聴こえてきた。
エリアスが城の方を向くと、ソフィアが再び笛を吹いている。
音を聴いていると、さっきの曲とは違い、ゆっくりとした曲だった。



ソフィア・・・・・・・。



エリアスが聴いているとだんだんと笛の音のリズムが変わった。
ゆっくとした曲調から、リズミカルな、力が湧いてくるような音に変わったのだ。
ソフィアが演奏している曲に気が付くと、エリアスは驚いた。



この曲は・・・・・・!?
ソフィアが、わが国の国歌を、タンデリュート国歌を演奏するなんて・・・・・。



タンデリュート国歌を聞きながら、エリアスはだんだん力が湧いて来るのを感じた。



ソフィアの笛の音は、塔にも聴こえていた。
「この笛の音は・・・・・・この曲は、タンデリュート国歌だ!」
タンデリュートの兵士達が口々に話しながら、黒い制服の男達を捕らえようと向かっていく。
オリヴィアは笛の音を聴きながら
「これは・・・・・誰が吹いているんだ?ソフィア王女なのか・・・・?」と屋上を見上げた。



屋上には、姿は見えないがソフィアらしき白い服に、笛が少しだけ見えている。



オリヴィアが屋上を見ていると、誰かが声をかけてきた。
「オリバーさん、黒い制服の男達の数がだんだん減ってきています」
オリヴィアが声のする方を見ると、そこには赤髪の女性がいた。
「黒い制服の男達はあとどれぐらいいるんだ?」
「分かりません、でもタンデリュートの兵士達が来てからは一気に減っています」
「分かった。あと少しだ・・・・・・我々も最後までやろう。ところでタンデリュートの兵士達が捕らえた
 黒い制服の男達はどこにいるんだ?」
すると赤髪の女性は後ろを向いた。
「確か、後ろの入口から捕らえられた黒い制服の男達が入って行っているような・・・・・」



一方、その城の中の廊下では、大勢の黒い制服の男達がロープに縛られて拘束されていた。
さらにその奥の部屋では、怪我をした女性達や白い制服の男達が手当てを受けている。
「他に怪我をしている者はいるか?」
アレクシが部屋から出て、廊下にいる人たちに向かって聞いた。
アレクシは連れて来た他の男達と一緒に、いつの間にか怪我人の世話をしていた。



エリアスは伝説の剣を手に取ると、ゆっくりと立ち上がった。
ソフィアの笛の音を聴きながら、再び力が体の底からみなぎって行くのを感じた。
右脇腹の傷は完全に治っていないが、赤い石の光を浴びて痛みは感じなくなっていた。



エリアスが剣を構えると、再び青い石と赤い石が強く光り始めた。
そして再び強い光が剣を包み込むと、エリアスはその剣を見た。



さっきより光を強く感じる・・・・・・。
それにだんだん光が大きくなっているようだ。



エリアスは剣をヴィルホに向けた。
そして背を向けているヴィルホに向かって大声で叫んだ。
「ヴィルホ!」



「エリアス・・・・生きていたのか。さっきまで死んでいたと思っていたのに」
エリアスの姿を見ると、ヴィルホはエリアスを睨みながら再び体から黒い霧を出し始めた。
「今度こそ、決着をつけてやる・・・・・・次で最後だ」
「ああ、次で終わりだ。お前を倒し、この世界を私のものにしてみせる」



ヴィルホの体は黒い霧を出し続け、ヴィルホの周りを包むように黒く染めていく。
エリアスはヴィルホに向けている剣を構えなおすと、剣はいっそうまばゆい光に包まれた。



ヴィルホ・・・・・・。
お前に何があったのか分からないが
ソフィアのために、セントアルベスクのために、そしてこの世界のために
私がここで倒れるわけにはいかない。
お前とやりあうのはこれが最後だ。



ヴィルホを睨みつけながら、エリアスは剣を大きく振り上げると、大声を上げながらヴィルホに向かって突進して行った。



伝説の剣から放つ光は、ヴィルホに近づくにつれてさらに大きく広がっていった。
その光はエリアスさえも包み込み、光は増幅しながらヴィルホを包んでいる闇へと突き進んで行った。



エリアスは突進したまま、ヴィルホの目の前まで近づくと、エリアスは剣を軽く降り落とした。
ヴィルホとすれ違ったかと思うと、エリアスはヴィルホから少し離れたところで止まった。



ヴィルホの体はたちまちまばゆい光に包まれた。
ヴィルホを取り囲んでいた闇は消え、眩しいくらいの光に包まれている。



しばらくして光が消え、ヴィルホの姿が見えた。
ヴィルホは静かに、ゆっくりとその場に倒れた。



エリアスが後ろを振り返ると、地面にヴィルホが倒れているのが見えた。



終わったんだ・・・・・・。



そう思った途端、気が緩んだのか突然、右脇腹に激痛が走った。
「うっ・・・・・・」
エリアスはその場に崩れるように座り込んだ。



「エリアス!」
それを見たソフィアは笛を口元から離すと、右手に笛を持ったまま、思わず階段を降り始めた。
トイヴォとヴァロも後を追うように、階段を降り始めた。



「ううっ・・・・・・」
エリアスは地面に座ったまま、右脇腹の傷を右手で押さえていた。
痛みに耐えながらふと前に倒れているヴィルホを見ると、ヴィルホの体から黒い霧が出てきている。
黒い霧はヴィルホの頭から足のつま先まで、至る所から少しづつ空へと上がっていく。



あの黒い霧は一体・・・・・。



エリアスが黒い霧を追って空を見上げると、ヴィルホの真上に向かって集まっていた。
しばらくして大きな黒い雲のような固まりができたかと思うと、形はどんどん変わり
大きな黒いドラゴンに変わった。



黒いドラゴンはヴィルホを見下ろしたかと思うと、方向を変えた。
そしてゆっくりとその場を離れて行く。



あのドラゴンがまさかヴィルホを・・・・・・・!



エリアスが黒いドラゴンの後を追おうと立ち上がろうとするが、動いたとたん体中に痛みが走った。



「エリアス!」
エリアスが苦しそうにうつぶせになっていると、ソフィアがやってきて心配そうな顔で声をかけた。
エリアスはソフィアの顔を見ていると、トイヴォとヴァロも続いてやってきた。
「ソフィア・・・・・よかった。無事だったのか」
「私は大丈夫よ」ソフィアはエリアスの側に行き、出血している右脇腹を見た。
「大丈夫?エリアス・・・・すぐに手当てをしないと、ひどい傷だわ・・・・・」
「それより、さっき黒いドラゴンを見ただろう?トイヴォ」
エリアスが前にいるトイヴォに聞くと、トイヴォはうなづいて
「はい、さっき向こうへ行くのを見ました。あのドラゴンは・・・・」
「ヴィルホの体から出てきた」
エリアスは空を見上げた。「そのドラゴンがヴィルホを操っていたんだと思う」
するとそれを聞いたソフィアも
「そういえば、さっきお父様も同じようなことを言っていたわ。黒いものがヴィルホに憑りついていたって。
 きっとその黒いドラゴンが闇の魔王だとも言っていたわ」
「トイヴォ、黒いドラゴンを追ってくれないか?私はこの傷ではこれ以上は動けない・・・・」
エリアスがそう頼むと、トイヴォは黙ってうなづいた。



するとソフィアが地面に落ちている赤い石と青い石を見つけた。
2つとも拾い、持っていたハンカチで軽く拭くと
「トイヴォ、これを返すわ・・・・・きっと力になるはずよ」と青い石を渡した。
トイヴォが青い石を受け取ると、ソフィアは今度はトイヴォの隣にいるヴァロに
「ヴァロ、ヴァロはこの赤い石を持って行って・・・・この石が2人を守ってくれるはずよ」と赤い石を渡した。
トイヴォが青い石を首にかけると、エリアスは地面に置いてある伝説の剣を見た。
「トイヴォ、伝説の剣も持っていった方がいいんじゃないか?」



するとトイヴォは首を振った。
「伝説の剣は、エリアスさんが持っていてください・・・・僕には大きすぎます」
「で、でも・・・・・いいのか?本当に持っていかなくて」
エリアスが戸惑っていると、トイヴォはうなづいて
「大丈夫です。伝説の剣がなくても。僕にはこれがありますから」と小さなナイフを出した。



なぜ伝説の剣は必要ないと言ったのか、トイヴォには分からなかったが
青い石と赤い石さえあればいいような気がした。



トイヴォはヴァロにこう言った。
「黒いドラゴンを追おう。ヴァロ、金色のドラゴンに変身して」
「うん分かった」
ヴァロはうなづくと、変身しようと魔法で革の袋を出した。



木の実を出そうと革の袋に右手を入れるが、中は何も入っていなかった。
ヴァロは革の袋を逆さにして何度も振ってみるが、木の実は落ちてこなかった。



どうしよう、もう4つ全部使っちゃったんだ・・・・・。



木の実がなくなってしまったと分かると、ヴァロはショックで落ち込んでしまった。
そしてうつむきながらトイヴォに言った。
「どうしよう。僕、木の実全部使っちゃった・・・・・変身できないよ」



するとトイヴォはこんなことを言った。
「ヴァロ。ヴァロなら木の実がなくても変身できるよ」
「でも、今まで僕は木の実を食べたからうまく変身できたんだ・・・・もう自信がないよ」
うつむいているヴァロにトイヴォは首を振って
「そんなことはないよ。じゃ何のためにヴァロは今までタハティリンナで修行してきたの?」
「それは・・・・・・」
「なら、変身できるよ。大丈夫。ヴァロならできるよ」
トイヴォが優しく微笑みながら励ますと、ヴァロはトイヴォの顔を見て
「・・・・うん、僕やってみるよ」とうなづいた。



ヴァロは落ち着きながら深く息を吸い込んだ。
そしてゆっくり息を吐いたかと思うと、一瞬にして金色のドラゴンに変身した。



トイヴォがドラゴンの背中に乗り込むと、ドラゴンはゆっくりと動き始めた。
そして空高く舞い上がり、黒いドラゴンを追いかけ始めた。