別れと再会

 




ポルトを後にしてから数日後の朝。
トイヴォは目覚めると、起き上がって辺りを見回した。
クジラ雲は止まっているのか、景色が動いておらず止まっているように見える。



どこかに着いたのかな・・・・・。



トイヴォは左側に移動し、雲の外を見た。
するとすぐ側には崖があり、一本道が正面に見える。
左側は土の壁になっており、一本道の奥には緑の植物で覆われている壁のようなものがあった。



トイヴォが右側を見ると、そこには見覚えのある大きな岩があった。



ここは、星の鏡のある場所だ・・・・・・!



トイヴォが気がついて驚いていると、後ろからヴァロがやってきた。



「おはよう、トイヴォ・・・・・ここは、星の鏡に着いたんだね!」
ヴァロが前を向いて、大きな岩を見たとたん気がついて声をあげた。
トイヴォはヴァロを見ながらうなづいて
「うん、着いたんだ。星の鏡のところに・・・・・本当に戻ってきたんだ」とつぶやいた。
そしてその場から離れ、奥の方に移動すると、置いてあった荷物を持って戻ってきた。



トイヴォが荷物を背中に背負っている姿に、ヴァロが声をかけた。
「ここで降りるの?トイヴォの家まで乗って行かないの?」
「うん、ここで降りるよ」
トイヴォはそう答えると、降りようと右足を雲の外へ出した。
そしてクジラ雲を降り、崖の上に移動すると、ヴァロも続いて崖へと移動した。



2人がクジラ雲から降りると、クジラ雲はゆっくりと動き始めた。
「今までありがとう・・・・・・さようなら」
トイヴォがクジラ雲に声をかけると、クジラ雲は表情を変えず、そのままゆっくりとその場から離れて行った。
そして他の雲に紛れるように、静かに姿を消した。



クジラ雲が消えてしまうと、ヴァロがトイヴォに聞いた。
「ここからどうやって帰るの?」
「歩いて帰るよ。ここから少し遠いところだけど・・・ヴァロの家はここでしょ?」
「うん、大きい岩のあるところだよ」
「じゃ、僕達もここでお別れだね」
「・・・・うん」
ヴァロがうなづくと、2人は何も言わなくなってしまった。



トイヴォとヴァロは何も言わず、お互いを見つめあっていた。
先に口を開いたのはトイヴォだった。
「じゃ、じゃあ・・・・・僕はそろそろ行くよ」
「う、うん・・・・・」ヴァロは寂しそうな顔でうなづいた。
「後ろにある緑の壁は、通ろうとしたら動くかな?」
「うん、動くと思うよ・・・・・来た時もそうだったんなら、動くと思う」
「そ、そう・・・・・」
トイヴォが答えると、2人は再び黙ってしまった。



トイヴォとヴァロはしばらくの間、その場を動こうとしなかった。
突然の別れに、2人は戸惑っていた。
トイヴォはいずれはこの時が来るのは分かってはいたが、これから別れると思うととても辛くなっていた。
もしかしたらまた会えるかもしれない。けれどここを離れたら二度と会えなくなるかもしれない。
今いるこの場所も、もう二度と見つけられなくなるかもしれないと思うと辛くなっていた。



でも、この場所に長くはいられないこともトイヴォは分かっていた。
このままだと今日中には家に帰れなくなるからだ。



トイヴォはヴァロを見つめながら、意を決してこう言った。
「・・・・じゃ、もう僕は行くよ」
そしてヴァロに背を向けると、ヴァロはその場を動かず、トイヴォに言った。
「うん・・・・・元気でね、トイヴォ」
「ヴァロも元気で・・・・・」
トイヴォが途中まで言いかけると、ヴァロがそれを遮るようにこう言った。
「トイヴォ、僕達また会えるよね?」



トイヴォが後ろを振り向くと、ヴァロの目には大粒の涙が溢れていた。
「嫌だ・・・・・さよならなんてしたくないよ。トイヴォに会えなくなるなんて、僕は嫌だよ」
「ヴァロ・・・・・」
ヴァロが大きな声で泣き始めると、トイヴォはヴァロに近づき、ヴァロの体を抱きしめた。



しばらくしてヴァロが泣き止むと、トイヴォはヴァロに声をかけた。
「ヴァロ、さよならは言わない。僕達はずっと友達だよ」
「ずっと・・・・?」ヴァロは顔を上げて、トイヴォの顔を見た。「本当に?また会ってくれる?」
「うん」トイヴォはうなづいた。「またここに来れば、ヴァロに会える?」
「うん」ヴァロがうなづくと、トイヴォはヴァロから離れた。



しばらくしてトイヴォはヴァロに背を向けると、緑の壁の前へと歩き始めた。
壁の前まで来た途端、緑の植物がガサガサと音を立てて、両端へと移動した。
トイヴォの前には下り坂が見えた。



下り坂を降りて行くトイヴォの姿を、ヴァロはフワフワ浮きながらじっと見送っていたが
トイヴォがもう少しで坂を降り切るところで、突然トイヴォのところへと移動を始めた。



「トイヴォ!」
ヴァロの声にトイヴォが後ろを振り向くと、ヴァロがフワフワ浮きながらやって来た。
ヴァロを見ていると、ヴァロはトイヴォの前まで来てこう言った。
「最後にある事を教えてあげる」
「何?ある事って・・・・・・」
トイヴォが戸惑っていると、ヴァロはトイヴォの右側に移動した。
そしてトイヴォの耳元まで近づくと、何かを話し始めたのだった。



しばらくしてヴァロがその場を離れると、トイヴォは坂を降り切った。
すると今度は目の前に、大きなトゲを持った茨の枝と大木が道を塞いでいるが
トイヴォが近づいてくると、ギギギ・・・という音をたてながら動き出した。
そして茨の枝が大木をほどくと、今度は大木が大きな音を立てながら右側へと移動して行った。
茨と大木の間が大きく開いて道ができると、トイヴォは出口へと歩き始めた。



星の鏡の場所から出ると、再び大きな音が聞こえてきた。
大木が元の場所へと戻り、動かなくなると茨の枝がたちまち大木を包み込むように絡みついていった。
そして何もなかったかのように動かなくなってしまった。



トイヴォは一部始終を見送ると左側を向いた。
左側には少し先に岩のような黒い壁が見えている。



あれが、ヴァロが言っていた壁か・・・・・・・。



トイヴォはヴァロに教えてもらったことを確かめようと、黒い壁へと歩き始めた。



黒い壁の前に着くと、トイヴォは黒い壁を見上げた。
その壁は高く、上の方を見ると多くの木々の姿が見える。
黒い壁に近づいてよく見ると、黒土の粒やら小石が見えている。
黒い壁というより、黒土の大きな山だとトイヴォは思った。



黒い壁じゃなくて、黒土の山だ。
ここのどこかに秘密の入口があるって言ってたけど、どこにあるんだろう。



ヴァロが言っていた事を思い出しながら、トイヴォは黒い山肌を右手でそっと触れた。



するといきなりゴゴゴゴゴと何かが動き出す音が聞こえてきた。
トイヴォがその音に驚いて、思わず右手を引っ込めると、黒い山肌だったものがいつの間にか
山肌と同じ、黒い扉に変わっていた。



これが、ヴァロが言ってた秘密の入口・・・・・?



トイヴォは扉を見ると、右側にドアノブがあるのに気がついた。
ドアノブに右手をかけて、手前に引くと、扉が開いた。



トイヴォは扉に吸い込まれるように中へと入って行った。



中に入ると、緑の壁が一面に広がっていた。
植物のつるが長く伸びて、他の植物のつると絡み合って、緑の壁を作っている。
トイヴォが空を見上げると、さっきまでいた外の世界と変わらず、青空と白い雲が浮かんでいた。



ここはどこなんだろう。
どこに行けばいいんだろう。



トイヴォが辺りを見回すと、緑の壁が両側にあり、その壁は左側に長く続いていた。
右側を見てみたが、同じ緑の壁があり、行き止まりになっている。



行けるのは左側だけなんだ。一本道になってる。行ってみよう。



トイヴォは左側を歩き始めた。



緑の壁は延々と続いていた。
トイヴォが歩いても歩いても、両側には緑の壁が続いている。
途中分かれ道もなく、一本道がずっと続いているようだった。
それはトイヴォをどこかへ導いているようだった。



しばらくして、ようやく緑の壁が途切れ、開けた場所に出た。
森に出たのか、辺りは大きな木々や花、植物の緑に囲まれている。



トイヴォが辺りを見回しながら歩いていくと、先の方に大きな洞窟が見えてきた。



あの洞窟、どこかで見たような気が・・・・・・。
もしかしたら、あの洞窟は・・・・!



トイヴォははっと気がつくと、洞窟へと走り出した。



洞窟の前に着くと、トイヴォははっきりと思い出した。



ここは、初めてヴァロと会った場所だ。
ここからヴァロが魔法を使って、ポルトに行ったんだ。



洞窟の岩壁に触れながら、トイヴォはヴァロに会った時のことを思い出した。



ということは、この先に和尚様がいる寺院がある。
ここからあまり遠くはないはずだ。



トイヴォは洞窟の中へと入って行った。



洞窟の中を歩きながら、トイヴォは考えていた。



僕は星の鏡の中に入って、別の世界に行ったはずだった。
さっきまで星の鏡のところにいたのに、またこの場所に戻っている。
ここは別の世界じゃないのか・・・・・?
さっき通った緑の壁の道は、この世界と通じる道になっているのかもしれない。



しばらくして、トイヴォが洞窟から出ると、そこは見覚えのある場所だった。
周りは高い岩の壁に囲まれ、中央には高い木々があり、その間に青い屋根の建物が見える。



やっぱり・・・・和尚様がいる寺院だ。



トイヴォがそう思いながら、寺院に向かっていると、ふとある事を思い出した。



そういえば、今アウロラがこの寺院にいるんだった。
アウロラ・・・・・!



「あっ・・・・・・・・」



アウロラの事を思い出した途端、トイヴォは思わず声をあげた。



そういえば、ポルトで分かれた時、アウロラと約束したんだ。
アウロラの母親を連れて帰るって。
すっかり忘れてた・・・・・・どうしよう。



トイヴォは思わず足を止めた。



アウロラに会った途端、お母さんは?って聞かれるかもしれない。
忘れてたって言ったら、きっと泣き出すだろうな・・・・・・。
どうやって話をすればいいんだろう。



でも、ポルトで別れた時から時間が経ってるから
もしかしたら覚えていないかもしれない。
僕のことも忘れているかも。



でも、もし僕が母親を連れて来るのをずっと待ってたとしたら・・・・。



思えば思うほど、トイヴォはどうすればいいのか分からず、戸惑っていた。



しばらくするとトイヴォは何かを決意したように寺院へと歩きだした。



アウロラに会ったら、とにかく謝ろう。
母親を連れて帰れなかったって、正直に謝ろう。



トイヴォは寺院の扉の前に着くと、覚悟を決めて扉を開けた。
するとすぐ前に、人の姿があった。



その人達がトイヴォの方を振り返ると、トイヴォはその中にオリヴィアがいるのに気がついた。



「オリヴィアさん・・・・!」
「トイヴォ・・・!どうしてここに?」



驚いているオリヴィアの隣には、アマンダに抱かれているアウロラの姿があった。



トイヴォがアウロラを見ると、アウロラはアマンダに抱きついたまま泣いていた。
「お母さん・・・・・」
「アウロラ、よかった・・・・・ごめんね、寂しい思いをさせて・・・・・」
「よかった・・・・・お母さん帰ってきてくれて・・・・アウロラとても寂しかったの。寂しかったんだから」
「ごめんね・・・・ごめんねアウロラ」
アマンダもアウロラを抱きしめながら泣いている。
トイヴォはその姿に、アマンダがアウロラの母親だと分かった。



トイヴォが2人を見ていると、後ろからオリヴィアが声をかけた。
「アウロラと母親のアマンダよ。やっと会えてよかったわ」
トイヴォがオリヴィアの方を向いて聞いた。
「アウロラのお母さんはどこにいたんですか?」
「セントアルベスクにいたわ・・・・・ポルトで誘拐されてから、ずっとセントアルベスク城の
 地下室に閉じ込められていたの」
「城の地下室に・・・・・・!」
「城内の親切な人達が見つけてずっとお世話をしていたみたい。見つかってよかったわ。これでアウロラも元気になるはずよ」 
オリヴィアとトイヴォは2人の親子を見つめていた。



しばらくしてアウロラが泣き止むと、アウロラがトイヴォに気がついた。
アマンダから離れて、トイヴォに近づくと、アウロラはトイヴォに話しかけてきた。
「お兄ちゃん・・・・・・・」
「な、何?アウロラ」
トイヴォが戸惑っていると、アウロラは頭を下げて
「お兄ちゃん、ありがとう。お母さんを連れて来てくれて」
「え・・・・・?」
アウロラの言葉に、トイヴォがさらに戸惑っていると、後ろから誰かが来る気配を感じた。
後ろを振り返ると、そこには全身白い服を着た和尚の姿があった。



「おお・・・・トイヴォ、帰ってきたのか」
トイヴォの姿を見た途端、和尚が声をかけてきた。
「は、はい」
「セントアルベスクから帰ってきたところなのか?それとも・・・・・・」
「セントアルベスクから帰ってきたところです」
「おお、そうか・・・・・・無事に帰ってきてよかった。セントアルベスクでは色々な事があって
 大変だっただろう」
「はい・・・・・・」
「しばらくゆっくりしていきなさい。それに色々と話を聞きたい。今、奥の部屋でお茶の用意をしている。
 奥の部屋で話を聞こう」



「お、和尚様・・・・・・」
それを聞いたオリヴィアが和尚に言いかけると、そこにリンネアがやってきて和尚に声をかけた。
「和尚様、お茶の用意ができました」
「分かった。ありがとうリンネア」
和尚がうなづくと、リンネアはトイヴォとオリヴィアに気がついた。
「あら、オリヴィアさん、トイヴォ・・・・・今日帰ってきたんですか?」
「はい、今帰ってきたところです」
トイヴォが答えると、和尚がトイヴォに声をかけた。
「お茶の用意ができたようだから、奥の部屋に行こう」



トイヴォがうなづいて、和尚の後を追おうと歩き始めた時、どこからか声が聞こえてきた。
「わあい、お茶の時間だ!」
聞き覚えのある声に、トイヴォが辺りを見回していると、目の前にヴァロが現れた。



「ヴァロ!どうしてここにいるの?」
トイヴォが驚いていると、ヴァロはトイヴォを見ながら嬉しそうに
「トイヴォ!ここに着いたんだね!よかった・・・・・また会えたね!」
「教えてくれたあの道は、ここに着く道だったの?」
「そうだよ。トイヴォにまた会いたかったから」
「ここには時々来てるの?」
「うん。毎日じゃないけど、たまに来てるよ」
「たまに?たまにじゃないわ・・・・いつもお茶の時間に来てるでしょう?」
オリヴィアが話に割り込んで、ヴァロの姿を見るとヴァロもオリヴィアを見た。
「あれ、オリヴィアさんも来てたんだ・・・・」



トイヴォはそれを見て
「オリヴィアさん、ヴァロの事知ってるんですか?」
「ヴァロは昔から知ってるわ。私がここにお世話になっている時からずっと来てるの」とオリヴィア
「まさかオリヴィアさんがいるなんて思わなかったよ」
ヴァロが2人の間をフワフワ浮いていると、後ろから和尚の声が聞こえてきた。
「トイヴォ。そろそろ来ないとお茶が冷めてしまうぞ」
「あ、はい・・・・・今行きます」
トイヴォは奥の部屋へ行こうと歩き始めた。



数時間後。
オリヴィアが外から玄関に入り、部屋を見るとアウロラとアマンダが楽しそうに話をしていた。
「アウロラはすっかり元気になったようね。今日は家に帰るの?」
オリヴィアがアマンダに声をかけると、アマンダはオリヴィアの方を向いて
「まだ明るいようだったら、帰ろうとは思っているけど・・・」
「さっきまで外にいたけれど、あと少ししたら夕方になるわ。今から帰ろうとしてもポルトに着くのは遅くなるわ。
 今日はここに泊まった方がいいと思うの」
するとアマンダは少し考えながら
「・・・・そうね、来た時はここまで車で送ってもらったんですもの。帰りはどうするか何も考えてなかったわ」
「私も今日はここに泊まるわ。和尚様に話しておくから、今日はここでゆっくり休んで」
「ありがとう。そうするわ」
アマンダが答えると、オリヴィアはうなづいてその場を離れた。



奥の部屋では、トイヴォと和尚が話をしていた。
すると部屋の外から、オリヴィアの声が聞こえてきた。
「和尚様、入ってもよろしいでしょうか?」
「オリヴィアか?入ってもいいぞ」
和尚が答えると、オリヴィアが部屋に入ってきた。
そしてトイヴォの姿を見るなり、トイヴォにこう聞いた。
「トイヴォ、今日はこの後家に帰るの?」



聞かれたトイヴォは少し戸惑いながら答えた。
「は、はい。この後、すぐ家に帰ります。ここから遠いので」
「なら、今すぐ帰った方がいいわ。あと少し・・・あと数時間で夕方になるから。日が暮れないうちに帰った方がいいわ」
「そうか、もうそんな時間か・・・・・トイヴォ、話の続きはまた今度にしよう」
オリヴィアの言葉を受けて、和尚がうなづいた。
そして続けてトイヴォに聞いた
「トイヴォ、また来てくれるか?」
「はい。また来ます」
トイヴォが椅子から立ち上がると、和尚にうなづきながら答えた。



トイヴォが部屋を出た途端、ヴァロが姿を現した。
「トイヴォ、家に帰るの?」
トイヴォはフワフワ浮いているヴァロにうなづきながら
「うん、もう出ないと。家に着くのが夜になるかもしれない」
「なら、さっきのところまで送るよ。外で待ってる」
ヴァロの姿が消えると、トイヴォは玄関へと歩き始めた。



ヴァロの魔法で2人は黒い壁の前まで戻ってきた。
トイヴォが場所を確認するように辺りを見回していると、ヴァロがこう言った。
「僕が教えた秘密の入口まで戻ってきたんだ。ここから家に帰れる?」
それを聞いたトイヴォはヴァロを見ながらうなづいた。
「うん。ここからなら大丈夫だよ。ありがとうヴァロ」
「それからこれ、忘れ物だよ」
ヴァロが魔法でランプを出して右手に持つと、トイヴォに差し出した。



トイヴォはランプを左手で受け取ると、思いだしたようにはっとして気がついた。
「・・・そうか、星の鏡に来た時、これを持って来たんだったっけ」
「うん。もうこれで忘れ物はないよね・・・・トイヴォ、また来てくれる?」
ヴァロが寂しそうな顔でトイヴォを見ていると、トイヴォはうなづいた。
「うん、また来るよ」
「うん。約束だよ」
「うん。約束する。また会おう、ヴァロ」
2人は近づいて握手を交わした。



ヴァロと別れたトイヴォは急ぎ足で家へと向かっていた。
森を出て、しばらくすると一軒の小屋が見えた。



あれは、ランプを貸してくれた人がいる家だ。ランプを返さなくちゃ。



トイヴォは小屋に着くと、入口のドアの前まで行った。
そしてドアを叩こうとしたが、トイヴォは叩こうとした右手を止めた。



まだ夕方じゃないけど、もしあのおじいさんが出て来たらどうしよう。
ランプを返して、すぐ終わればいいんだけど、おじいさんが話を始めたら・・・。
もしかしたら星の鏡について色々聞かれるかもしれない。
長い話になったら、なかなか家に帰れないかもしれない。



トイヴォはそう思うと急に不安になった。



ここから家までもうしばらくかかるから、このままドアの前にランプを置かせてもらおう。



トイヴォはランプをドアの前に置くと、足早に小屋から離れて行った。



数時間後。
空が赤くなり、遠くに大きな夕陽がだんだん沈んでいくのを1人の老人が見つめていた。
そろそろ家に入ろうと、後ろにある家の方を向いた時、何かの気配を感じたのか
ゆっくりと右側を向いた。



すると少し離れたところから、1人の子供が歩いて来るのが見えた。
老人がその子供をじっと見つめている。
その子供がだんだんと近づき、誰なのかが分かると、老人は大きな声をあげた。
「トイヴォ!」



その声を聞いたトイヴォは、先にいるのがおじいさんだと分かった。
「おじいちゃん!」
トイヴォは思わず走り出した。



トイヴォがおじいさんに駆け寄ってくると、トイヴォは思わずおじいさんに抱きついた。
「おじいちゃん・・・・・・」
「トイヴォ、帰ってきたのか」
おじいさんはトイヴォの体を抱きしめると、トイヴォは何度もうなづいた。
「うん、帰ってきたよ。家に帰ってきたんだ」
「トイヴォ。元気で帰ってきてよかった。もっと顔を見せておくれ」
トイヴォはゆっくりとおじいさんから離れると、おじいさんの顔を見た。



おじいさんはトイヴォの顔と姿をしばらく見つめていた。
「しばらく見ないうちに大きくなった・・・・・外に出て成長したようじゃな」
それを聞いたトイヴォは黙っていると、おじいさんは続けて
「外の世界はどうだったか?楽しかったか?」
「色々な事があったよ。大変だったけど・・・・・でも行ってよかったと思う」
「そうか・・・・そろそろ暗くなるから、話は家に入ってからにしよう」
おじいさんがそう言うと、トイヴォは家へと歩き始めた。
おじいさんも家に入ろうとすると、何かに気がついたように再び右側を見た。
「あれは・・・・・エンマさんじゃないか?」



それを聞いたトイヴォは足を止めた。
「え・・・・・」
トイヴォは思わず後ろを振り向いて、おじいさんのいる場所に戻った。



すると右側から、1人の女性が歩いて来るのが見えた。
長い髪で、細身の体で紺色の服を着ている。
それは、トイヴォが何度も夢の中で見た母親と同じ姿だった。



トイヴォがその女性を見ていると、後ろでおじいさんがトイヴォに言った。
「間違いない、エンマさんだ・・・・・・トイヴォ、お前のお母さんだよ」



それを聞いたトイヴォは、女性に向かって大声で叫んだ。
「お母さん!」



トイヴォの声を聞いた女性は思わず立ち止まった。
そして走ってくるトイヴォの姿を見ると、女性は思わず大声を上げた。
「トイヴォ!」



トイヴォがその女性、エンマに駆け寄ると、泣きながらエンマに抱きついた。
「お母さん・・・・・・」
「トイヴォ・・・・やっと、やっと会えたわ。無事でよかった・・・・」
トイヴォを抱きしめながら、エンマも泣きながらトイヴォに声をかけた。
「お母さん・・・・・・」
トイヴォはエンマに抱かれながら、母親の温かいぬくもりを感じていた。



しばらくして、エンマがトイヴォから離れると、トイヴォの姿を見つめながら微笑んだ。
「しばらく見ないうちに、こんなに大きくなって・・・・・」
「お母さん・・・・・」
トイヴォがエンマを見ていると、後ろからおじいさんが近づいてきた。
するとエンマはこんなことを言った。
「セントアルベスクで見た時はとても立派だったわ。王様から勲章をもらったの?」
「え・・・・!お母さん、セントアルベスクにいたの?」
トイヴォが驚いていると、後ろからおじいさんが声をかけた。
「2人とも、そろそろ家に入ろう。話はそれからゆっくり聞こうじゃないか」
トイヴォとエンマがうなづくと、3人は家へと向かって歩き始めたのだった。