流れ星

 



夏休みが終わり、二学期が始まってしばらくしたある日の放課後。
ミサキが友達と別れ、1人で歩いていると、スマホの着信音が鳴った。
カバンからスマホを取り出し、画面を見ると、LINEのメッセージが表示されていた。
相手はハヤトからだった。



ハヤトからだ。
さっき部活に行くって教室出て行ったのを見たけど、何だろう。



ミサキはドキドキしながら、LINEを開きメッセージを見た。



さっきミサキに声をかけようとしたんだけど、部活の奴等に先に話しかけられてできなかった。
今度の週末、部活の合宿があるんだけど、マネージャーの1人が昨日から体調不良で学校休んでてさ
合宿に来れなくなったんだ。
もし予定が空いてるんだったら、代わりに手伝いに来てくれるかな?
嫌だったら無理しなくてもいいよ。
よかったら来てくれるかな・・・・。



メッセージを見たミサキはその場で立ち止まった。



え、部活の合宿、夏休みにやったんじゃなかったんだ。
そういえば顧問の先生が都合が悪くて、日程が合わなかったって言ってたっけ。
今度の週末、何もないし空いてるけど・・・・・。
マネージャーの手伝いってやったことないし、どうしよう。



ミサキはどうするか戸惑っていたが、しばらくするとメッセージを打ち込んでいた。





そして、部活の合宿当日。
待ち合わせ場所にミサキが歩いて行くと、そこには既に数十人が集まっていた。
「ミサキ!」
ハヤトがミサキの姿を見た途端声をかけると、ミサキはハヤトの姿を見つけた。
そしてハヤトのところに近づくと、ハヤトが再び声をかけてきた。
「ありがとうミサキ。来てくれて・・・・・」
「う、ううん。予定が空いてたから」
ミサキが首を振りながら答えていると、ハヤトの側にいた男子が割り込んできた。
「あれ?代わりに来る人って・・・・もしかして、ハヤトの彼女?」
「ち、違うよ」ハヤトは戸惑いながら否定した。「クラスメイトだって昨日言っただろ」
「えー?でもクラスメイトって言っても他にも女子いるだろ?」
「いいからお前、ちょっと向こうに行ってろよ」
「あ、照れてるところを見ると、やっぱり彼女なんだろう?」
すると後ろから大きな声が聞こえてきた。
「じゃ、全員揃ったので、そろそろ合宿場に移動します。バスに乗りましょう」



バスに乗り込むハヤトの姿を見ながら、ミサキはさっきのことを考えていた。



ハヤトにとって、私は何なんだろう。
ただのクラスメイトの1人なのかな?
でも、それならどうして私とLINEでやりとりしてるんだろう・・・・・。



そう思うと、ハヤトが何を考えているのか分からなくなった。



ミサキがバスに乗り込もうとすると、後ろから声をかけられた。
「西野さん?」
ミサキが後ろを振り返ると、そこには背が高く、細身で長髪の女子がいた。



あ、この人、LINEでハヤトが言ってたマネージャーかもしれない。
私が行くこと、ハヤトからマネージャーにも話しておくって書いてあったし。



ミサキは目の前にいる女子がマネージャーだと思い、挨拶をした。
「は、はい。西野ミサキです。今日は代わりに手伝いに来ました。よろしくお願いします」
「あなたがミサキさんね。色々とお願いするかもしれないけどよろしくお願いします。バスに乗りましょう」
ミサキはうなづくと、再び前を向いてバスに乗り込んだ。



そして数時間後、バスは合宿所に到着した。
静かな山の中に合宿場はあり、周りにはキャンプ場もある。
合宿所に着き、しばらくするとハヤト達はすぐ隣にあるサッカー場に出て、練習を始めた。
ミサキは他のマネージャー達に教えられながら、手伝いをこなしていった。



夜になり、ミサキは廊下を歩いていた。
手伝いが全て終わり、すっかり落ち着いたミサキは、1人になりたいと思い部屋を出たのだ。



マネージャーって、いろいろやる事があって大変なんだ。
なんだか疲れた・・・・・。



ミサキがふと窓の外を見ると、外は雲がひとつもなく、無数の星が広がっていた。
明るい星や暗い星、大きい星や小さな星まで、いろんな星が夜空に散らばっている。



きれい・・・・・・・。
家からだと、建物や街灯の灯りでこんなにきれいに見えない。
山の中だから、見えない星まで見えてるのかな。



ミサキが窓に近づいて星を見ていると、廊下にハヤトがやってきた。
ハヤトは窓の側にいるミサキの姿を見かけると、ミサキに近づいた。



「ミサキ」
その声にミサキが右側を向くと、そこにハヤトの姿があった。
「は、ハヤト・・・・・」
「こんなところで何してるんだ?」
「外の星がきれいだから、星を見てたの」
するとハヤトはミサキの右隣に近づき、窓の外を見た。



ハヤトは外の星空を見ながら、ミサキに聞いた。
「ミサキって、星を見るのが好きなの?」
「えっ・・・・・?」
唐突なハヤトの質問に、ミサキは思わず戸惑った。
「もしかして、あの星が何座とかさ。星の名前とか知ってるわけ?」
「う、ううん。そこまでは詳しくないけど、星を見るのは好き。見てると何だか癒されるし」
「そうか・・・・・・」
ハヤトがミサキの方を向くと、続けてこんなことを言った。
「なら、星がよく見える場所があるから、明日の夜そこに一緒に行かないか?」
「え・・・・・・?」



ハヤトの言葉にミサキはさらに戸惑った。



え、これって・・・・・明日2人で一緒に行こうってこと?



そう思うと、ミサキは急にドキドキしてきた。



ミサキが黙っていると、ハヤトはミサキの顔を見ながら
「な、何黙ってるんだよ・・・・オレと一緒に行くのが嫌なのか?」
「う、ううん、嫌じゃないよ」ミサキは慌てて首を振った。「ただ、ここから遠いのかなと思って」
「そんなに遠くないよ。じゃ明日、今と同じ時間にここで会おう」
「う、うん」
ミサキがうなづくと、ハヤトはゆっくりとその場を後にした。





そして次の日の夜。
待ち合わせの時間になり、ミサキが廊下に行くと、ハヤトの姿があった。



ハヤト、もう来てたんだ。
いつもだと少し遅れて来るのに。



ミサキがハヤトに近づくと、ハヤトはミサキに気が付いた。
「もう来てたんだ」
「あ、ああ・・・・・」ミサキの言葉にハヤトは何気にそう答えた。「じゃ行こうか」
「どこに行くの?」
「行けば分かるよ。行こう」
ハヤトが歩き始めると、ミサキはそのままハヤトの後を追った。



廊下を出て、階段を上がっていくと、上ったところにクリーム色のドアがあった。
ハヤトがドアノブに手をかけて、ドアを開けると、向こう側は屋上になっていた。
屋上は何もなく、誰もいない。
空には無数の星が広がっている。



2人は屋上に出ると、ミサキは屋上の中央の方へ歩いて行き、顔を上げた。
無数の星が空一面に広がっており、それを邪魔する建物の灯りや、雑音もない。



きれい・・・・・・。
こんなにきれいな星が見れるなんて。



ミサキがじっと星空を眺めていると、ハヤトがミサキの右隣に近づいてきた。
「星がきれいに見えるだろう?オレも最初ここに来た時は驚いたんだ」
「ハヤト・・・・・」
ミサキがハヤトの方を向くと、ハヤトは空を見上げながら
「オレも試合でうまくいかなかった時は、こうやって空を見上げるんだ。星を見ながら反省したり
 次はどうすればうまくいくんだろうとか・・・・・いろいろ考えてるうちに落ち着くんだ」
「ハヤトって、サッカーの事しか考えてないのね」
「そ、そんな事ないよ。ここには合宿で来てるからそう考えるだけで」
ハヤトが否定していると、ミサキは再び空を見上げた。



見上げた途端、目の前に流れ星が左から右へと流れて行った。
「あ、流れ星・・・・・・」
ミサキが声を上げ、つられるようにハヤトが空を見上げるが、流れ星はすでに消えていた。



ハヤトが空を見上げていると、今度はミサキが話しかけてきた。
「流れ星に願い事をすると叶うって言うけど、ハヤトは願い事したことあるの?」
「えっ・・・・・そうだな。小さい頃、親に言われてお願いした事はあるかもしれないけど。
 今はしてない」
「そうなんだ」
「ミサキは?」
「私も同じかな・・・・小さい頃誰かに聞いて、やろうとしたけど、すぐ消えちゃってできなかった。
 今は流れ星なんて見たいと思っても見れないし。今みたいにゆっくり星を見れる場所じゃないもの」
「・・・・・そうだな」
ハヤトがそう言った後、2人の間に会話がなくなった。



辺りが静かになると、ミサキは空を見上げながらどうしようか考えていた。



やばい、何か話さなきゃ・・・・・・。
練習試合の話でもする?それとも星の話・・・・でも星の事なんて詳しくないし。
どうしよう、またドキドキしてきた。
せっかく2人きりで星を見てるのに・・・・・。



ミサキはどうすればいいのか分からず、だんだん焦ってきた。



するとまた目の前に流れ星が左から右へと流れてきた。
「あっ・・・・・・」
2人同時に声が出ると、2人はお互い顔を見合わせた。
「大きい流れ星・・・・・・」とミサキ
「今度はしっかり見えた。まだ向こうに見えてるよ」
ハヤトが空を指差すと、ミサキはハヤトが指さした方向を眺めていた。



流れ星が消えると、ハヤトはミサキに声をかけた。
「寒くなってきた。そろそろ中に入ろうか?」
「う・・・・・うん」
それを聞いたミサキは内心戸惑いながらもうなづいた。



え・・・・もう中に入るの?
でも、ハヤトが寒いのかもしれないし、ハヤトが具合が悪くなったら困るし。
でも、もう少しだけ2人でいたかったな。



ミサキが仕方なさそうに建物の方へと歩きだすと、再びハヤトが声をかけた。
「ミ・・・・ミサキ」
ミサキが立ち止まり、ハヤトの方を振り返った。



ハヤトはミサキの顔を見ながら
「さっき、流れ星に願い事をしてないって言ったけど、思い出したんだ」
「え・・・・・?」
「3ヶ月前、お前が引っ越すかもしれないって言った時、星がきれいに見えた日があって・・・・。
 その時に偶然流れ星が見えたんだ。それでお願いしたんだ。ミサキが引っ越ししても、別の学校にならない
 ようにって」
「ハヤト・・・・・・・・」
「願い事をしたからかは分からないけど、ミサキはそのまま同じクラスにいてくれた」
「うん。引っ越しはしたけど学区内ぎりぎりだったの。だから別の学校に行かなくて済んだの」



ハヤトはミサキを見つめながら、照れくさそうな顔でこう言った。
「ミサキ、オ、オレ・・・・・お前の事・・・・・・」
「え?」
ハヤトの声が小さく、ミサキが聞き返すと、ハヤトは大きな声できっぱりと言った。
「オレ、お前が好きだ!」



ハヤトの告白に、ミサキは一瞬何が起こったのか分からなかった。



え・・・・・・?
ハヤトが今、私の事を・・・・・・。
そ、そんな・・・・・そんなことって・・・・・・・。



ミサキはどうすればいいのか分からず、その場で固まっていると、ハヤトはミサキに近づいた。
「ミサキ、好きだ・・・・・」
「・・・・・・・」
ミサキが動揺したまま黙っていると、ハヤトが聞いた。
「ミサキはオレじゃダメなのか?」
「う、ううん」ミサキは首を振った。「とても驚いてるの。私もハヤトの事、好きだったから・・・・・」
「ミサキ・・・・・・・」
ハヤトがミサキを抱きしめると、ミサキはさらに胸の鼓動が早くなるのを感じた。



しばらくしてハヤトがミサキの体を放すと、2人はお互いの顔を見つめていた。
2人の顔が自然と近づき、ひとつになった時、空には流れ星が流れて行った。