とある年末の日

 



年末が差し迫ってきた週末のある日。
何も予定がなかったユミは部屋の大掃除をしていた。
床にはいろんなものが所々に散らばっている。
大きなゴミ袋にはいらなくなったものが半分ほど入っていた。



時間のあるうちにきれいにしておかないと、すぐに大晦日になっちゃう。
できれば今日のうちに全部きれいにしたいな・・・・・・。



そう思いながらユミは目の前にある本棚に目を向けた。
本棚にはぎっしりと本や雑誌が入っている。



いつもこの本棚が時間かかるんだよね。
捨てるかどうか決めるのに、本読んじゃうから。
去年もどうするかで時間かかったんだっけ・・・・・・。
今度は読まないようにしよう。



ユミはそう決めると、本棚の掃除に取り掛かった。



しばらくして、ユミは本棚の奥の棚から1冊のアルバムを取り出した。
中を開いて見ると、制服姿の写真が何枚も貼ってある。



これ、高校の時の写真だ・・・・・・・。
去年も見たような気がするけど、こうして見ると懐かしい。
いつも大掃除の時にしか見てないけど、これは捨てられない。
大切な思い出が詰まっているんだもの。



ユミが写真を見ながらページをめくると、数人写っている写真に目を留めた。
側に満開の桜の木があり、卒業証書を持っている人もいる。



これって、卒業式の後に撮った写真だ。
高校の時が一番楽しかったな。
この後、地元を離れて東京の大学に出てきたんだっけ。
みんな、どうしているんだろう。



ユミは写真の右端を見ると、制服姿で笑っている男性の姿が写っている。
すぐ隣にはユミ本人が写っていた。



そういえば、ケンジともこの時別れたんだったっけ。
ケンジは地元の専門学校に行くって言って。
あれからもうずっと連絡取ってないけど、今も地元にいるのかな・・・・・。



するとどこからか着信音らしき音が聞こえてきた。



アルバムを持ったまま、ユミが後ろを向くと、テーブルの上にあるスマホを見た。
ユミはテーブルに近づいて、アルバムをテーブルに置くと、スマホを右手で取った。
画面を見るとメッセージが入っていた。



ユカリからラインが来てる。何だろう。



ユミはラインを開くと、ユカリからメッセージが入っていた。



ユミ、久しぶりだね、元気?
ところで今年は地元に帰るの?



メッセージを見たユミはどうしようかと考えていた。



今年は地元に帰るかどうかなんて、まだ決めてなかった。
去年は年末ぎりぎりまで仕事で、帰るの止めたんだっけ。
帰るって言っても、今から新幹線とか予約取れるのかな・・・・。
ユカリはどうするんだろう、帰るのかな?



ユミはユカリに返信した。



ユカリ、久しぶり。
まだ帰るかどうするかは決めてないけど
ユカリは帰るの?



するとすぐにユカリから返事が返ってきた。



うん、去年は帰れなかったし、今年は帰るよ。
親からも帰って来いって電話あったし。
明日、帰るよ。



ユカリ、地元に帰るんだ・・・・・・。
どうしようかな、まだ親にも連絡してないし。
向こうからも何も連絡来ないし。



ユミはどうしようと迷いながら、ユカリへの返事を書いて返信した。



そうなんだ。
うちの親からはまだ何の連絡も来てないよ。
地元に帰っても、あまりやる事がないし・・・・・。



するとすぐに既読がつき、ユカリから返信が来た。



ユミ、仕事が忙しそうだもんね。
今年はそうでもないの?
もしそうだったら久しぶりに地元で会わない?
高校の同窓会もやるみたいだし。



ユミは同窓会という文字に困惑した。
え・・・・同窓会?
こっちには何も連絡来てないけど・・・・どういうことなの?



ユミはユカリに同窓会の事を聞こうと、すぐ返信した。



高校の同窓会?こっちには何も連絡来てないけど
誰かから連絡があったの?



するとすぐ既読がついた。
既読がついたと同時に、スマホから着信音が鳴り始めた。



電話に出ると、相手はユカリだった。
「もしもし、ユミ? ユカリだけど。同窓会なんだけど、お知らせの手紙届いてないの?」
「うん、届いてないよ。いつあるの?」
「来年の3日だったかな?」
ユカリの声が聞こえた後、何かを開いているのかカサカサという音が聞こえてきた。
ユミが待っていると、再びユカリの声が聞こえてきた。
「そう、1月3日。場所は高校の体育館・・・・・お昼にやるみたい」
「そうなんだ」
「でも、どうしてユミのところに届いてないの?最近引越しでもした?」
「引っ越し?してないけど」
「私は親から送ってもらったから、分かったんだけど・・・・」
「もしかしたら親の家には届いてて、こっちに送ってないだけかもしれない」
「そっか・・・・・で、ユミは同窓会行くの?」
「え・・・・・?」



ユミはどうしようかと迷っていた。
どうしよう。そもそも地元に帰るなんてまだ決めてないし。
会社は5日からだから、同窓会は行けなくもないけど・・・・・。



するとユカリの声が聞こえてきた。
「どうしたの?同窓会に行くんだったら、代わりに私から連絡しておくけど」
「え、ユカリは同窓会行くの?」
「うん、会社は5日からだし。4日に帰れば大丈夫だから」
「ユカリの会社も5日からなんだ」
「何も予定がないんだったら、地元に帰ったら?一緒に同窓会出ようよ。それに・・・・」
「それに?」
「今回の同窓会の幹事、ケンジがやってるみたいだし」
「え・・・・・・?」



ケンジという名前を聞いて、ユミは思わずドキっとした。



ケンジ、地元にいるんだ・・・・・・。



すると何か思い出したようにユカリが話し出した。
「あ、そういえば・・・・・高校の時、ケンジと付き合ってたんだっけ?」
「え?・・・・・う、うん。そうだったけど」
「なら、ケンジのライン、教えてあげようか?同窓会の出欠連絡はラインでって書いてあったし」
「え、い、いいよ」ユミは慌てて断った。「それに、どうするかまだ決めてないし」
「えー?予定がないんだったら地元で会おうよ。同窓会は出ても出なくてもいいからさ」
「う、うん、分かった・・・・・地元に帰るかどうかは考えとく。後でラインで連絡するから」
ユミはそう言うと、電話を切った。



スマホをテーブルに置くと、ユミはやれやれという感じでため息をついた。



同窓会か・・・・・どうしようかな。
まさか、ケンジが幹事だなんて。
ケンジ、地元で何やってるんだろう。



すると再びスマホの着信音が鳴った。



ユミがスマホを取って画面を見ると、ユカリからラインでメッセージが来ていた。



よけいなお節介かもしれないけど、同窓会のお知らせを送っておくね。
もし出るんだったら連絡して。
こっちからケンジに連絡しておくから。
じゃ、またね。



ユミはメッセージと一緒に送られてきた同窓会のお知らせを見た。
同窓会の詳細をひと通り見ると、ユミはラインを閉じて、スマホをテーブルに置いた。
すると、側に置いてあったアルバムが目についた。



同窓会か・・・・・もうクラスのみんなとずっと会ってないな。
ユカリとは一緒に東京に出てきたから、たまに会ってるけど。
みんな、地元に帰るのかな・・・・・。



ユミは椅子に座り、アルバムの写真を見ながら、地元に帰るかどうかを考えていた。



しばらくして、アルバムの写真を全部見終わると、ユミは、はっと気が付いた。



そういえば、掃除の途中だったんだ・・・・・!



ユミは窓の外を見ると、外はすっかり日が暮れて、空が暗くなりかけていた。



数日後。
ユミは東京駅のあるホームに立っていた。
あれからユミは考えた末に、地元に帰ることにしたのだ。
ユカリに連絡して、同窓会も出ることに決めた。



ユカリと会うのも久しぶりだけど、どのくらいの人が同窓会に来るんだろう。
どんな同窓会になるんだろう。



ユミは同窓会に出ることが楽しみでもあったが、同時に不安でもあった。



高校時代に私の方からケンジと別れたのに、同窓会で会うことになるなんて。
ケンジが今どうしているのか知りたいけど、知らない方がいいような気もする。
ケンジに会いたいような、会いたくないような・・・・・・。
何だろう、この複雑な気持ち。



するとユミの真上にあるスピーカーから、駅員のアナウンスがホーム中に響き渡った。
「間もなく電車が入ります。危ないですから黄色い線までお下がりください」



楽しみと不安が入り混じる中、ユミはホームに入ってくる新幹線を見つめていた。