星の鏡の向こう側
星の鏡の中に取り込まれた少年は、目をつぶったままじっとしていた。
自分で覚悟を決めて、星の鏡を覗き込んだものの、少年は不安になっていた。
もし願いが受け入れられなくて、このまま息ができなくなったらどうしよう。
目を開けたとたん、息が苦しくなって、死んでしまったら・・・・。
そう思うと、少年は怖くなりなかなか目を開けられなかった。
しばらくして、少年は目を閉じたまま、周りの様子が気になり始めた。
辺りは静かで、物音ひとつしていない。
風も吹いておらず、暑くもなく寒くもない。
一体、僕はどこにいるんだろう?もう水の中じゃないのかな・・・・。
シンと静まり返っている環境に、少年は自分がどこにいるのか気になり始めた。
少年は軽い深呼吸をしてみた。
鼻で息を吸い、口から息を吐くと、息苦しくなく、普通に呼吸ができている。
水の中じゃない・・・もうどこかに着いたのかな?
少年はゆっくりと目を開けた。
少年の目に飛び込んできたのは、何もなく、透明な水の色が広がっていた。
白く濁っているところや、丸い水玉ができているところもある。
少年は辺りを見回すと、動くたびにゴボゴボ・・・という鈍い音が聴こえている。
ここは・・・・やっぱり水の中なんだ。
でも息苦しくない・・・・どうしてなんだろう?
すると少年の後ろで突然、大きな音が聴こえてきた。
少年が反応して後ろを振り返ったとたん、突然大きな水流が少年に向かって流れこんできた。
少年は逃げる間もなく、すぐに水流に巻き込まれてしまった。
水流はものすごいスピードで水の中を駆けぬけていく。
巻き込まれた少年は何が起きているのかわからなかったが
しばらくするとスピードに慣れてきたのか、水流の流れにのり、先端に移動しどこに行くのか様子を見ていた。
一体、どこに行こうとしているんだろう・・・・?
しばらくすると、水流のスピードがだんだんと落ち、ゆっくりと止まった。
少年の目の前には、遠くうっすらとしか見えていないが、下の方に何かがあるのが見える。
この下に何かがある。何があるんだろう・・・・・。
下の方をじっと見ていると、後ろから水流がだんだんと少年の体を押し出してきた。
い、いきなり何だ?何をしようとしているんだろう?
少年が戸惑っていると、いきなり押されていた感じがなくなった。
え・・・・・・・!?
水の外に出された少年は、自分の状況を見て戸惑った。
そこは大粒の雨が降る、暗い夜空の空中の真っ只中だった。
「う、うわああああああ!!!」
空中に放り出された少年の体は、ものすごいスピードで地上に向かって落下し始めた。
このままだと死んでしまう!! なんとかしないと・・・・・!!
少年は焦りながらも、なんとかできないか辺りを見回した。
下の方に目を向けると、だんだんと森の木々が視界に入ってきた。
大きな木々が少年を迎えているように広がっている。
このままだと森の中に突っ込む!!
とっさに少年は体を丸め、頭を守るように両腕を頭の上に置いた。
しばらくして少年の体は、森の中に突っ込んでいった。
大木の中に突っ込んでいった少年は、がさがさと大きな音を立てながら落ちていった。
落ちていく途中で、大木の大きな枝や葉が少年の体を受け入れ、ゆっくりと木の下の方に
滑り込むように落としていく。
木の枝に引っかかることもなく、少年の体はゆっくりと下の方へと落ちていった。
大木の周りはぽっかりと穴が開いており、大木は穴の中から生えているのだ。
穴の中に入り、柔らかい砂のような地上に出ると、少年の体の動きがようやく止まった。
や、やっと止まった・・・・・よかった・・・・・・。
少年は無事に地上に着いたと分かると、そのまま気を失った。
穴の外では大粒の雨が降っていたが、少年が落ちてきた後、しばらくするとすっと消えていくかのように
静かに止んだ。
空には真っ黒な雨雲が広がっていたが、時間が経つにつれてだんだんと消えるようになくなっていく。
それと同時に雲の隙間からは、柔らかい陽の光が差し込み始めた。
その光はきれいで、どこか神々しい光。
空はだんだんと明るくなり、朝を迎えようとしていた。
その神々しい光は、少年が落ちた大木にも差し込んできた。
大木の枝の間から、木漏れ日が穴の大木の幹の根本にも差し込んでくる。
その光は少年が眠っているすぐそばにも当てられた。
時間が経つに連れて、大木の木の枝に鳥たちが止まり、歌うようにさえずり始めた。
空がすっかり明るくなった頃、少年はようやく目を覚ました。
ここは・・・・・どこだろう・・・・・?
少年は起き上がると、すぐそばに光が差し込んでいるのが見えた。
光が大木の木の枝の隙間から来ているのを確認すると、少年はゆっくりと立ち上がった。
そういえば・・・・空からここに落ちてきたんだっけ?
自分の身に起こったことを思い出しながら、少年はケガしているところがないか、
ゆっくりと手足を動かしながら痛いところがないか確認した。
大木が少年の体を受けたおかげで、少年の体は傷ひとつなく、かすり傷さえも見当たらなかった。
空から落ちたのに、傷がひとつもない・・・・・。この木のおかげだ。
少年は大木の幹の側まで近づくと、両腕を大きく広げて、感謝するように幹にしがみついた。
しばらくして幹から離れると、少年は穴から出ようと辺りを見回した。
大木の周りを歩き始めて、半周した頃、穴の外へ続いている上り坂を見つけた。
その坂を上がり、穴から出ると、はるか遠い下の方には多くの木々が一面に広がっていた。
少年のいるところは山の頂上だったのだ。
森の中なんだ・・・・・どこか町の方に出なくちゃ。
少年は何かないかと辺りを見回していると、陽の光が一段と差し込んでいる場所が目に入った。
空から一筋の光がくっきりと差し込んでいて、何か特別な場所なのではないかと少年には思えた。
その場所は、山々に囲まれ、窪地のようなところのようだった。
少年の視界からわずかにしか見えないが、窪地の中に建物の屋根らしきものが見えた。
あそこに行けば、何かあるかもしれない。ここからそれほど遠くないはずだ。
少年は山を下りようとそのまま歩きだそうとしたが、山は道がなく急な崖になっていた。
無理にでも降りようとすれば、足を滑らせれば下まで落ちてしまう。
仕方なく少年は再び穴の中に入り、他に道がないか大木の周りを再び歩き始めた。
少年が落ちた場所まで戻ってくると、その先にゆるやかな下り坂が続いていた。
その先は全く光が届いていないのか、暗くなっており、道が続いているのかわからない。
行ってみよう。道が続いているのか分からないけど、どうにかなるはずだ。
少年は暗闇の中へと歩き始めた。