希望と絶望の狭間で

 



バイクから離れてしまったサラは地上へ向かって急降下していた。
サラの目には森の木々がだんだんと大きく広がっていく。



このままだと地面に落ちるわ、なんとかしないと・・・・・!



サラは体を前にかがめて、右足に手を伸ばすと、靴のかかとにある丸いボタンを押した。
しかし何も起こらない。



サラはもう一度ボタンを強く押したが、何の反応もない。



おかしいわ。いつもなら浮力エンジンが作動するはずなのに。
もしかして故障してしまったの・・・・・?



サラは焦りながら何度もボタンを押し続けるが、靴からは何の反応もない。
すると突然どこからか銃声が聞こえてきたかと思うと、左足に突然痛みが走った。



痛い・・・・・!



サラが左足を見ると、足首にわずかながら血が出ている。



そうしているうちにサラの体は森の中へ入って行った。
木々の枝に引っかかるかもしれないと思ったが、サラの体はだんだんと地面へと近づいていく。



もうダメだわ・・・・・・!



サラはあきらめて両目を閉じた。



サラの体があと少しで地面に叩きつけられるところで、ルーカス達の乗ったバイクが現れた。
ルーカスが落ちて来たサラの体をなんとか受け止めると、運転手の男はほっと胸を撫で下ろした。
「よかった。ギリギリで間に合った・・・・・・」
「ああ・・・・・」ルーカスはサラを見ながら、右手でサラの右頬に触れた。
そしてサラの体を揺らしながら、サラが生きているかどうか声をかけた。
「サラ、サラ!大丈夫か?」



サラの両目がゆっくりと開いた。
「・・・・・お兄ちゃん、ここは・・・・?」
「よかった、気が付いた」気が付いたサラを見て、ルーカスは安堵の表情を見せた。「ケガはないか?」
「足を・・・・・左足首をやられたみたいなの。まだちゃんと見てないからケガがどうなっているか分からないけど」
「何だって・・・・」
ルーカスがサラのケガの様子を見ようと、サラの左足首に視線を向けようとした。



すると運転手の男の声が聞こえてきた。
「それよりここに長くいるのは危険だ」
運転手の男は周りに兵士がいないか辺りを見回している。
ルーカスは運転手の男の方を向いて
「ああ、早くここから離れた方がいい。どこか行くあてはあるか?」
「いいや、ない」運転手の男は首を振った。「この辺りは全く分からない。どこか隠れるところがあればいいが」
「オレも分からないが、とにかくここから離れよう。サラがケガをしているから手当をしたい」
「何だって?分かった。とにかく遠くに行こう」
運転手の男は前を向くと、再びあるボタンを押した。



バイクが再び姿を現すと、相変わらず暗い森の中だった。
しばらく走って行くと、大きな小屋が見えてきた。
「小屋がある。中に誰かいるみたいだ。灯りがついてる」
運転手の男が小屋を見ながら2人に声をかけた。



バイクが小屋の側まで来ると、ルーカスは兵士達がいないか辺りを見回した。
すると小屋の玄関の側に、見覚えのあるバイクが2台停まっている。



あれは・・・・・確かエリックとケビンを乗せたバイクじゃないか?
どうしてこんなところにあるんだ?



ルーカスは運転手の男に聞いた。
「おい、エリック達が乗っていたバイクがある。集合場所はここなのか?」
すると運転手の男は少し戸惑いながら
「え・・・・いいや、行く場所はここじゃない」
「なら、どうしてここにバイクがあるんだ?」
「分からない」運転手の男は首を振った。「もしそうなら、仲間達がこの中にいるかもしれない」
「なら確かめよう。バイクを停めるんだ」



運転手の男が玄関の前でバイクを停めると、3人はバイクを降りた。
ルーカスとサラがその場を離れようとすると、運転手の男がこう言った。
「オレはバイクの調子を見てから行く。先に行ってくれ」
「分かった」
ルーカスが答えると、ルーカスとサラは小屋へと歩き始めた。



「何?今すぐ全額をここで渡せだって?」
エリックの声が部屋中に響き渡った。
小屋の中のある部屋で、エリックと運び屋の男が大きなテーブルを挟み、向かい合わせで座って話をしていた。
ドアの側ではケビンが立ったまま、2人の話を聞いている。



エリックの言葉に運び屋の男は大きくうなづいた。
「ああ、今すぐ依頼金の残りをここで出してもらおうか。と言っても現物は持ってなさそうだけどな」
運び屋の男がエリックの姿をじっとにらみつけるように見つめると、エリックも運び屋の男を見ながら
「ああ、現物は持ってきてない。契約した時に言ったはずだ。電子決済で渡すって」
「電子決済なら、今ここでできるじゃないか。我々の口座に振り込むだけだ」
「それは分かってる。ただ今はできない。指定した場所にオレ達を送り届けてからだ」
「本来であれば、もうその場所に行っているはずだ。なのに戦闘に巻き込まれるなんて・・・・話が違う」
「それは・・・・・」
エリックがそう言いかけた時、ドアの外側からコンコンと叩く音が聞こえてきた。



ドアが開き、部屋にルーカスとサラが入ってきた。
「お前達、どうしてここに・・・・・・・?」
エリックが2人の姿を見て驚いていると、ルーカスはエリックを見て
「それはこっちのセリフだ、エリック。どうしてこんなところにいるんだ?集合場所はここなのか?」
「い、いいや違う。場所はここじゃない・・・・ちょっとした事情があるんだ」
エリックの言い訳じみた言葉に、ルーカスは何も言わずサラの左足を見ながら
「それよりサラが足をケガしてるんだ。手当をしたいんだが他に部屋はあるか?」
「え、サラが?ケガは大丈夫なのか?」
エリックが驚いてサラを見ていると、運び屋の男がゆっくりとした口調でこう言った。
「さっき奥にもうひとつ部屋があるのを見た・・・・そこで手当をするといい」
「分かった。行こう、サラ」
ルーカスがサラに声をかけると、2人は部屋を出て行った。



一方、小屋の外では運転手の男がバイクの調子を見ていた。
メーターで残りの燃料を確認していると、遠くに小さな灯りが見えてきた。
その灯りは2つに増えて、だんだんとこちらに近づいてきている。



あの光は兵士達が乗ってるバイクか?
さっき移動したところからここまではかなり離れているはず。
なのにどうしてここが分かったんだ?森はかなり広いのに・・・・・・。



運転手の男がそう考えていると、後ろから誰かが近づいて来る気配を感じた。
後ろを振り返ると、1人の男が声をかけてきた。
「アルマス、ここに来てたのか」
「ああ。ロビンか・・・・・ここで何をしてるんだ?中に入らないのか」
「ああ、少し気になる事があって。ここでしばらく様子を見てたんだが、やっぱりという感じだ」
ロビンが遠くから近づいて来る灯りを見ていると、アルマスはロビンの言葉が気になった。
「おい、それはどういうことだ?」



一方、小屋の中ではエリックと運び屋の男の話は続いていた。
「だから何度も言っているだろう。今ここでは残りのお金は渡せない。向こうに着いてからだ」
エリックが大きな声で運び屋の男に言うが、運び屋の男は納得がいかない様子で
「いいや、今ここで全額を渡してもらおうか。我々は危険がないと聞いたからこの話を引き受けたんだ。
 それが今は危険にさらされている。契約違反だ」
「それについてはこっちも予想外だった。それは謝る。でもここまで来たからには最後まで・・・・」
「最後まで?目的地に着くまで全額は渡せないと言うのか」
「その通りだ。目的地に着いたら、電子決済で全額を渡す。そういう契約じゃないか」
すると運び屋の男はエリックの顔をにらみつけてこう言った。
「・・・・・そう言って、本当はお金がないんじゃないのか?」



運び屋の男の言葉にエリックは首を大きく振った。
「そんなことはない、金ならある・・・・ただ今は渡せない」
「さっきから同じことを言っているが、なら証拠を見せてもらおうじゃないか」
「証拠を見せたら、目的地で金を渡すことに納得してくれるのか?」
「それとこれとは別だ。まずお金があるっていう証拠を見せろ。なら考えてもいい」
「ああ分かった」
エリックは携帯を取り出すと、携帯をいじり始めた。



エリックはあるサイトの画面でIDとパスワードを入れ、画面が変わるのを待った。
ところがエラーメッセージが表示され、画面が切り替わらない。
エリックは再度IDとパスワードを入れるが、再び同じエラーメッセージが表示された。
「おかしい・・・・・どうしてつながらないんだ?これで合ってるはずなのに」
エリックは焦って再びIDとパスワードを入れた。



すると今度は別のエラーメッセージが表示された。
「ログインできなくなった・・・・・おかしい、どういうことだ?今までログインできていたのに」
エリックが戸惑っていると、右横に何かが近づいて来た気配を感じた。
エリックが右横を見ると、そこにはエリックに銃を向けたケビンの姿があった。



「ケビン・・・・何をしてるんだ?一体どういうことなんだ?」
銃を向けられ、エリックは何が起こっているのか分からずさらに戸惑っていた。
ケビンはエリックの顔に銃を向けたまま
「そういうお前こそ、何をしてるんだ?どこにアクセスしようとしている」
「どこって?オレの銀行のサイトにログインしようとしてるんだ。でもつながらなくなった」
エリックはケビンに携帯の画面を見せると、ケビンはエリックの携帯を奪った。
「おい、何をする!」
エリックの言葉を無視し、ケビンが右手で銃を向けたまま、左手で携帯をいじり始めた。



そしてしばらくするとケビンはエリックに携帯の画面を見せた。
エリックは残高金額が表示されている画面を見てさらに戸惑った。
「お前・・・・・どうしてオレの銀行サイトにログインできるんだ?」
「どうしてかって?」ケビンは携帯を自分の方に向けると、画面を見ながら続けてこう言った。
「なら聞くが、どうしてお前の口座にこんな大金が入ってるんだ?あの施設から一歩も外には出ずに」
「そ、それは・・・・・・」
「それはお前が施設の資金を不正に調達したからだ。証拠はここにある」
ケビンが画面を操作し、取引明細画面をエリックに見せると、エリックはそれを見て顔が青ざめていくのを感じた。



「ど、どうしてお前がそんな事を・・・・・・・」
「オレはあの施設のスパイだ。お前の行動をずっと監視してた。お前が施設の口座から自分の口座に移しているのも分かっている」
驚いているエリックにケビンは携帯をエリックに投げ返した。
「お前の口座は凍結されている。IDとパスワードはこっちで変更した。お前はお金を使うことはできない」
「な、何だって・・・・・!」
「そろそろ兵士達がここに来る」ケビンは再びエリックに銃を突きつけた。「もう逃げられない。お前は終わりだ」



一方、別の部屋ではルーカスがサラの左足の手当てをしていた。
「これで大丈夫だ・・・・・痛くないか?サラ」
椅子に座りルーカスがサラの足首に包帯を巻き終えると、向かい側のベッドの上に座っているサラがうなづいた。
「大丈夫。痛くないわ・・・・ありがとう」
「あまり大したケガじゃなくてよかった。銃がかすった程度のケガで済んで」
するとどこからが銃を発砲したような大きな音が聞こえてきた。



「一体どうしたんだ・・・・・・?」
ルーカスが戸惑いながらその場を立ち上がると、部屋の外で男の声が聞こえてきた。
「終わりだ・・・・・何もかも、もう終わりだ・・・・・・・」
「もう終わり・・・・・?一体、何が起こってるんだ・・・・・?」
ルーカスがそう言った途端、再び銃声が聞こえてきた。



エリックが椅子にもたれたまま、ケビンの銃によって倒された。
運び屋の男は逃げたのか、部屋に姿はない。
ケビンがエリックの姿を見ていると、後ろから兵士達が数人入ってきた。
ケビンは兵士達の姿を見るなりこう言った。
「死体が見つかると面倒だ・・・・・この小屋ごと始末しろ」



すると兵士達の1人がケビンに向かって銃を向けて撃った。
ケビンの胸に当たると、ケビンは苦しそうな声を上げた。
ケビンは一瞬の出来事に何が起こったのか分からず、驚きの表情のままその場に倒れた。



兵士達は2つの死体を確認すると、いったん部屋を出て行った。
そして再び部屋に入ると、爆弾のようなものを部屋に置き始めた。



「一体、何が起こってるんだ・・・・・」
別の部屋でルーカスが壁に耳を当て、部屋の外の様子を伺っていると
突然後ろのドアが開いた。
サラとルーカスが後ろを振り返ると、アルマスが2人にこう言った。
「早くここから逃げるんだ。小屋に爆弾が仕掛けられている」



「何だって・・・・!それはどういうことだ?」
それを聞いたルーカスが戸惑っていると、アルマスは外を見回しながら
「それは後だ。いいから早くここから出るんだ!早くしないと爆発するぞ」
サラが立ち上がって、ドアの外へ移動しようとすると、ルーカスはエリックの事が気になった。
「エリック達はどうしたんだ?」
「それも後だ!いいから早くしろ、死にたいのか、早く逃げるんだ!」
ルーカスはエリックの事を気にしながらも、その場を離れた。



ルーカスとサラが外に出てくると、アルマスは辺りを見回した。
小屋の入口から兵士達が出て来るのが見えると、アルマスは2人に向かって声を上げた。
「爆発するかもしれない、急いで!走るんだ!」
3人は全速力で小屋から離れようと走り出した。



しばらくしてアルマスがこう叫んだ。
「伏せろ!」
3人が地面に伏せた途端、数メートル後ろで大きな爆発音が聞こえてきた。
煙と熱風が後ろからやって来て、あっという間に3人を包み込んだ。



しばらくしてようやく煙が消えると、後ろの方からエンジン音らしき音が聞こえてきた。
そのエンジン音はだんだんと遠ざかるように小さくなっていく。
音が聞こえなくなるとアルマスはゆっくりと立ち上がった。



アルマスは爆破された小屋の方を向くと、遠ざかって行く兵士達のバイクの姿が見えた。
「奴等はいなくなった・・・・・もう大丈夫だ」
アルマスが地面に伏せている2人に言うと、2人はゆっくりと立ち上がった。
ルーカスは爆破され、跡形もなくなった小屋を見ながら茫然としていた。
「一体これは・・・・・何が起こったんだ?」
「どうやら小屋の中で交渉をしていたらしい。そこに奴等が入って攻撃してきた」
「交渉?エリックとあの運び屋の男と・・・・・・」
「ああ、運び屋の男と言うか、うちのボスとだ。依頼金の事で揉めていたらしい」
アルマスの依頼金という言葉にルーカスは思いだした。



そういえば、中に入った時に何か揉めているような感じだったな・・・・・。



「依頼金って、今回の私達の依頼の事?」
ルーカスの隣でサラがアルマスに聞いた。
「そうだ」アルマスはうなづいた「小屋の外にいた仲間から聞いた話だが、我々は1部のお金をもらっている。手付金だ。
残りの全額をどうするかで揉めていたらしい」
「どうするって・・・・エリックが決めていたんじゃないのか?」とルーカス
「その辺りはオレもよく分からないが、揉めていたって事は確かだ。それと・・・・・・」
「それと?」
「どうやら裏切者が1人いたらしい。そこからこんなことになった」
「裏切者だって・・・・・!どういうことだ?」
「これも外で仲間から聞いた話なんだが、あの施設を出てしばらくしてから怪しい動きがあったというんだ」
アルマスは小屋の外で聞いた話を話し始めた。



「それはどういうことだ?」
アルマスに聞かれたロビンは近づいて来る灯りを見ながら話し出した。
「あの施設からここまで来る途中、乗っていた男の動きが怪しかったんだ。携帯をいじり出して・・・・」
「携帯を?仲間からのメッセージを確認してたんじゃないのか」
「それだけならそんなに気にならないが、ここまで来る間ずっとだ。それに誰かとやり取りしていた様子だった。
 ここに来てバイクから降りた時、不気味なほどにやけた顔をしてた・・・・追われている身としてはなんだかおかしい」
「それで、外で様子を見てたのか」
「なんだか嫌な予感がしたが、その通りになった・・・・・乗せた男はあの施設の関係者だ。でなければこんなに早く
 奴等がここを見つけられるはずはないだろう?」
「そういう事か・・・・・・」
アルマスとロビンはだんだんと近づいてくる灯りを見つめていた。



アルマスがひと通り話終えると、ルーカスは頭の中で考えていた。



首謀者のエリックが裏切ったとは思えない、そうなると裏切者はケビンだ。
ケビンがどうして・・・・・・。



「ケビンが裏切者だったなんて・・・・・・」
サラも同じことを考えていたのか、信じられないという表情でうつむいていた。
「理由は分からないが、もう本人に聞くことはできない。奴等に殺されてしまったからな」とアルマス
「あの爆破でか・・・・・?」
ルーカスが小屋の方を見ていると、アルマスは首を振りながら
「いいや、その前に奴等に銃で殺された。もう1人の男も殺されている」
「もう1人の男・・・エリックもか・・・・・!」
アルマスの言葉にルーカスは小屋に入った時の事を思い出した。「そういえばお前のボスもあの部屋にいたはずだが」
「ボスはどうなったかは分からない」
アルマスがそう言った途端、どこからか着信音が鳴り始めた。
アルマスが携帯を取り出し、画面を見た後、2人に向かってこう言った。
「ここにずっといるのは危険だ。バイクが置いてあるところまで移動しよう」



3人が小屋から少し離れた場所に着くと、そこにはバイク2台とロビンがいた。
「よかった・・・みんな無事だったか」
3人の姿を見たロビンが安堵の表情を見せると、アルマスが聞いた。
「ところでボスはどうなったか知ってるか?」
「ああ、ボスなら少し前にバイクで戻って行った」ロビンはそう言いながら、すぐ側にあるバイクの椅子の上にある細長いものを取った。
「よかった・・・ボスなら、その場で瞬間移動できるからな」
「ああ、移動できる装置をいつでも身に着けてるからね。でも危なかった、もう少しで殺されるところだったって言っていたよ」
「他には何か言っていたか?」
「依頼人が殺された。全員殺されたらもう終わりかもしれないって」
「でも、なんとか2人は生き残った。ボスはこれからどうするって?」
「戻ってから考えるって言ってた。それとこれ・・・・・」
ロビンが細長いものをアルマスに渡すと、アルマスは戸惑いながら透明の細長い筒状のものの中を見た。
中は水のような液体が入っている。



「これは・・・・?バイクの予備の燃料じゃないか」
「アルマスなら最後までやるだろうから渡してくれって、ボスから頼まれた」
ロビンはそう言いながら、バイクに乗り込んだ。
「おい、ロビン。お前は行かないのか?」
「オレはボスのところに戻る。頼まれてることがあるんだ」
バイクのハンドルを握り、バイクが浮き上がるとロビンは3人を見ながらこう言った。
「奴等がまたここに戻ってくるかもしれない。ここから早く離れた方がいい。成功を祈っているよ」



ロビンの姿がバイクと一緒に消えると、ルーカスとサラは何が起こったのかよく分からず茫然としていた。
「また人の姿が消えた・・・・一体さっきから何が起こってるのかよく分からない」
ルーカスがつぶやいていると、アルマスが辺りを見回しながら2人に言った。
「いったんここから離れよう。詳しいことはその後だ」
3人はバイクに乗ると、その場で姿を消した。



バイクが再び姿を現した場所は森の中だった。
暗闇の中、ルーカスが辺りを見回すが、辺りは何の音もせずひっそりとしている。
「今のところ、誰もいないみたいだ」
アルマスが辺りを見回しながら、照明の灯りをつけた。
「ああ・・・・ところでここがエリックが言ってた場所か?」とルーカス
「いや、別の場所に移動しただけだ。さっきの場所よりかなり離れたところに」
「ところでエリックが言ってた場所は遠いのか?どうしてそこに行かないんだ」
「本来なら、今頃はその場所に着いてるはずだった。まさか戦闘に巻き込まれるなんて思わなかったんだ」
「今頃は着いてるって・・・・本当は近いところだったの?」とサラ
「いや、近いというか・・・・遠い近いっていう問題じゃない。目的地はこの年代じゃないからだ」
「この年代じゃない・・・・・?」
アルマスの言葉にサラが理解できず戸惑っていると、アルマスは2人にこう言った。
「聞いてないようだから、今ここで話す・・・・これから行こうとしてるのは数十年前のある場所だ」



それを聞いた2人はますます理解ができなかった。
しばらく黙っていたが、ルーカスがようやく口を開いた。
「・・・・数十年前のある場所?過去の世界に行くことができるのか?」
「そうだ」アルマスがうなづいた。「信じられないかもしれないが、我々はエリックの依頼でこの年代にタイムスリップしてきた」
「タイムスリップ・・・・?エリックからの依頼でこの時代に未来から来たって言うのか?」
ルーカスが信じられないという様子で聞き返すと、サラは平然とした様子で
「でも、そうだとするとさっきバイクが消えたのも分かる気がするわ。私達や兵士達だってそんなことできないもの」
「それはそうだが・・・・エリックはどうしてお前達に依頼ができたんだ?まさかエリックが未来から来たって言うのか?」
「それは違う」アルマスは否定した。
「我々はあらゆる年代からの依頼を受けている。今回たまたま依頼を受けただけだ。まさかこんなことになるとは思わなかったが」



「その目的地にはどうやって行くの?」とサラ
「このバイクでタイムスリップして行く・・・ただこうなったからには問題がある」
「問題?ここからすぐに行けるんじゃないのか?」とルーカス
「タイムスリップするにはある程度の距離がいるんだ。時間の壁を超える準備がいる。タイムスリップしようとする間に
 奴等が割り込んできたら失敗するかもしれない。それにバイクにかなりの負荷がかかるから、それなりの燃料が必要だ」
「だから、逃げようとした時にスピードを出せなかったんだな。それでバイクの燃料はあるのか?」
「さっき予備をもらったが、これからここで補給する・・・失敗はできない」
「そうなると1回だけか・・・・・」
ルーカスは溜息をついて、空を見上げた。



森の木々の間に見える空はまだ暗いが、だんだんと明るくなりかけていた。
夜が明けて明るくなれば、兵士達に見つかりやすくなってしまう。
行くのは今しかないと思ったルーカスはアルマスの方を向いた。



「もうそろそろ夜が明ける。その1回に賭けるしかない・・・・今から行こう」
アルマスがうなづくと、ルーカスは続けてこう言った。
「そういえば名前を聞いてなかったな。オレはルーカス、後ろにいるのはサラ。お前は?」
「アルマスだ」
ルーカスが右手を差し出すと、アルマスと握手を交わした。



しばらくしてアルマスがバイクに燃料を補給し終わると、2人に声をかけた。
「燃料の補給が終わった・・・・・そろそろ行こう」
ルーカスとサラがうなづくと、2人はバイクへと近づいて行った。
そして3人はバイクに乗り込むと、アルマスは前にあるメーターを見た。



燃料は充分だ。あとは無事に2人を送り届けるだけだ。
奴等に見つからなければいいが・・・・・。



アルマスは一抹の不安を感じながらも、ハンドルに両手を置いた。
エンジン音が聞こえてくると、アルマスはハンドルをゆっくりと引いた。