混沌とした世界
千尋は地面に丸いレンズが落ちているのを拾い上げた。
レンズの周りは金色の枠で覆われており、レンズは割れていない。
千尋がレンズを空に向けると、光がレンズに反射して光った。
これってメガネ用のレンズ?それとも・・・・・・。
千尋が考えていると、後ろから声をかけられた。
「見つけてくれてありがとう。お嬢さん」
千尋が後ろを振り向くと、さっきまで探し回っていた男性がいた。
全身を黒い服でまとい、細身で毛先が肩にかかりそうな長さの白髪の中年の男性だった。
千尋は少し戸惑いながらも、男性にレンズを手渡した。
「ど、どうぞ・・・・・このレンズを探していたんですか?」
「ああ、確かにこのレンズだ」
男性はレンズを手に取ると、空高く上に上げた。
「よかった。割れていない・・・・・・これがないと細かい字が見えなくてね。見つかってよかった」
男性がレンズを下に降ろすと、千尋の隣で見ていた蒼太が聞いた。
「ところで、こんなところで何をしているんですか?」
蒼太の言葉に男性は蒼太を見た。
「何をって・・・・・なくしたレンズを探していたんだ」
「いいえ、そんなことを聞いているのではありません。ここに何をしに来たんですか?」
蒼太は首を振りながら再び同じことを聞いた。
実は昨日、蒼太は事前調査のために同じ場所に来ていた。
同じ時刻に同じ場所に来ていたが、その時は男性の姿はなかった。
ここの住人なら、昨日来た時に会っているはず。
昨日来た時には誰もいなかったから、この男はどこかから来ているはずだ。
男性は黙っていたがしばらくすると小さな笑みを浮かべながら口を開いた。
「これは参ったな。こんなにすぐに見破られるとは・・・・そうだ。私はここの住人ではない。
ある調査でタイムスリップしてここに来てるんだ」
「やっぱり・・・・・・・」と蒼太
「おじさん、ここにはタイムスリップして来たの?ある調査ってどんな・・・・・・」
「それは言えないよ、お嬢さん」
千尋が途中まで言いかけると、男性は微笑みながら千尋に言った。
「ここには遊びで来てるんじゃないからね。守秘義務があるから」
男性は左腕にはめている時計を見た。
「話しているうちにそろそろ時間だ・・・・・」
「え・・・・・時間・・・・・・?」
蒼太が男性に聞こうとした途端、突然何かを思い出したように時計を見た。
この時間は・・・・・もうそろそろ地震が来る!
「千尋さん、今すぐここから離れましょう、ここにいると危険です」
蒼太は慌てて千尋に移動するよう促した。
「え、どうして?ここにいると危険って何が起きるの?」
「この後、地震が来るんです。千尋さん覚えてませんか?大きな地震があったのを」
「そんな・・・・・この時間外にいたと思うから分からなかったと思うわ」
「大きな地震と言っても震度5弱だ」
男性が話に割り込んできた。「ここでじっとしておいた方がいい。もうすぐ地震が来るぞ」
3人は道の真ん中に集まると、じっと身構えた。
蒼太と男性は時計を見ながら、いつ揺れが来るかと様子を見ていたが
時間が過ぎても揺れは起こらず、地震は発生しなかった。
「・・・・・おかしい。今頃は揺れが治まっている時間だ。地震は来なかった」
時計を見ながら男性が話すと、蒼太も辺りを見ながら
「そうですね。どうなってるんだ・・・・・?今頃ならみんな外に出て避難しているはずなのに」
「何か異変が起こったのかもしれないな」
「異変?でも地震は天災ですよ。地震を誰かが止めたって言うんですか?」
「もしかしたらどこかで何かが起こっているかもしれない。地震を止めるほどの何かが・・・・・」
2人が沈黙していると、千尋が蒼太に話しかけてきた。
「蒼太さん、そろそろ海岸に行きたいんだけど・・・・・・」
「え、もうそんな時間ですか?」
蒼太が戸惑いながら時計を見ていると、千尋は首を振りながら
「まだ早いけど・・・・・雅也が海岸に着く前に先に行きたいの」
「そういうことですか」
「お二人さん、旅行で来たんじゃないのか?何か調査で来てるの?」
男性が再び割り込むと、千尋はうなづきながら
「そうなんです。じゃおじさん、またどこかで会えたら会いましょう」
「ああ、またいつか会いましょう・・・・・気を付けて」
男性が千尋に手を振ると2人はその場を後にした。
2人は海岸に着いて、雅也の指定した待ち合わせ場所に向かって歩いていると
少し先に1人の女性の姿が見えた。
背中まで伸びているストレートな黒髪に白のフレアワンピースを着ている女性の姿に
見覚えがあった千尋は、女性が誰なのか分かった途端驚いた。
あれは・・・・・・美樹だわ。どうしてこんなところに?
千尋が立ち止まると、隣を歩いていた蒼太は千尋に話しかけた。
「どうしたんですか?」
「どうして・・・・・どうして美樹がこんなところにいるの?」
蒼太は前を歩いている女性の姿をちらっと見て
「あれが美樹さんなんですね。千尋さんの友達の」
千尋は深くうなづきながら困惑した表情で
「美樹、この時間は確かバイトだって言ってたのに。どうしてここに・・・・・?」
「どうやら雅也さんの待ち合わせ場所に行くみたいですね。どうしますか?このまま後を着いて行きますか?」
美樹の姿を追いながら蒼太が心配そうに千尋に聞くと、千尋は美樹の姿を見ながら歩き出した。
「・・・行くわ。どういうことなのかこの際見ておきたいの」
しばらくして待ち合わせ場所まであと少しという時、美樹が小走りに走り始めた。
2人が美樹の後を歩いて行くと、他に誰かがいるのか楽しそうな声が聞こえている。
男の人の声が聞こえる。
美樹と会っているのは、まさか・・・・・・・。
千尋は嫌な予感を感じながら待ち合わせ場所へ行こうとすると、蒼太がそれを止めるように千尋の右手を取った。
千尋が思わず立ち止まり蒼太の方を向くと、蒼太が後ろにある岩の崖下の方を向きながら言った。
「すぐそこに崖があります。そこで様子を見ましょう」
2人は崖下まで移動すると、千尋は美樹に見つからないようにそっと岩壁から顔を出した。
すると目の前には雅也のところに近づいて行く美樹の姿があった。
「美樹、どうしてここに?」
雅也が美樹の姿を見つけると、少し驚いた表情で美樹に聞いた。
「千尋、まだ来てないのね」
美樹は千尋がいないと分かると、嬉しそうに雅也に抱きついた。
「ああ、あいつはまだ授業だと思う。今頃は終わってこっちに来てると思うけど・・・・・」
「千尋、真面目だから。私達がこうしているのも知らないで」
美樹がようやく雅也から離れると続けてこう言った。
「今日、千尋に話をするんでしょう?私と付き合うことになったから別れるって」
「あ、ああ・・・・・・」
歯切れの悪い返事に美樹は不満そうに
「何よその言い方。まだ千尋のことが好きなの?」
「い、いや・・・・・今日ちゃんと話すよ。千尋とは別れるから」
「嬉しい。やっぱり雅也は私の事が好きなのね」
美樹は再び雅也に抱きついた。
岩壁からそれを見ていた千尋はショックを受けた。
そんな・・・・・・。
雅也と美樹が付き合ってたなんて。それも二股かけられてたなんて。
それに美樹があんな女だったなんて。
千尋が前へ出て行こうと一歩踏み出した時、後ろから蒼太が右手で千尋の右腕を掴んだ。
「今行っちゃダメだ!」
右腕を掴まれた千尋は後ろを振り返ると、途端に何かが崩れたように涙が溢れてきた。
そして蒼太に抱きつくと、声を押し殺すように小さめの声で泣き始めた。
抱きつかれた瞬間、蒼太は心臓の鼓動が一気に速くなったのを感じた。
どうしたらいいのか戸惑っていたが、蒼太の腕の中で泣いている千尋をいつの間にか抱きしめていた。
「・・・じゃ、そろそろ千尋が来るだろうから、私そろそろ行くね」
しばらくして美樹が雅也から離れると、雅也は美樹を見ながらうなづいた。
「分かった。美樹はこの後バイト行くんだろう?」
「うん。また後で電話するね」
美樹は雅也に手を振ると、雅也に背を向けて歩き始めた。
美樹の姿がなくなると、雅也はズボンのポケットからスマホを取り出した。
時折右手でスマホをいじりながらスマホの画面を見ている。
一方、ようやく泣き止んだ千尋は岩壁から雅也を見ていた。
「千尋さん、大丈夫ですか?」
後ろから蒼太が心配そうに声をかけると、千尋は蒼太の方を向いた。
「蒼太さん・・・・・さっきはごめんなさい。服を濡らしてしまって・・・・」
「い、いや・・・・・」蒼太はさっき起こったことを思い出すと照れくさくなった。
「気にしなくていいですよ。それに日射しですぐ乾きますから。それより雅也さんのことを見ていてください」
千尋が再び前を向くと、蒼太は時計を見た。
もうそろそろ、千尋さん本人が来る時間だ。
でも雅也さんはどうして千尋さんを・・・・・・・。
蒼太はそう思いながら雅也を見た。
その時、雅也の背後から大きな波が襲ってきた。
雅也が波の方を振り向いた途端、大きな波が雅也を飲み込んだ。
「あっ・・・・・・・」
千尋の声が聞こえたと同時に波が引いていく音が聞こえてきた。
雅也はその場にずぶ濡れの姿で立っていたが、右手に持っていたスマホがないと分かると
体を前に屈め、海に落ちたスマホを探し始めた。
しばらくして自分の周りにないと分かると、体を起こしながら辺りを見回している。
「くそ、どこに行ったんだ・・・・・・」
雅也は海面を見ながら、岩場を歩き始めた。
岩場を2,3歩左へと歩いている時だった。
濡れている岩に足を取られ、ツルっと足を滑らせたのだ。
「うわっ・・・・・・・」
雅也の体が後ろへと倒れ、水しぶきが上がった。
その直後、雅也の苦しそうな声が聞こえてきた。
「うっ・・・・・・・」
雅也の後ろには大きな岩があり、尖った部分が雅也の後頭部を直撃したのだ。
後ろに転倒し、岩に頭をぶつけた雅也はそのまま倒れ込んでしまった。
その一部始終を見ていた千尋はその場を動けなかった。
起きてこない・・・・雅也、もしかして死んだの?
千尋の後ろで見ていた蒼太は千尋が雅也のところに行ってしまわないかと心配していた。
千尋の体を押さえようと右手を千尋の右肩に置こうとした時、後ろから誰かが近づいてくる気配を感じた。
誰かが来てる・・・・きっと千尋さん本人だ。
本人同士を会わせるのはまずい。
蒼太は右手で軽く千尋の右肩を叩いた。
千尋が蒼太の方を向いた途端、蒼太は千尋の姿を隠すように千尋を自分の方に寄せると、再び千尋を抱きしめた。
突然の事に千尋が驚いていると、誰かが近づいて来る気配を感じた。
「そ、蒼太さん・・・・・・?」
「静かに」千尋が何かを言いかけると、それを蒼太は遮った。「千尋さん本人が来ます」
するとほどなくして、千尋本人がやってきた。
崖下で抱き合っている2人の目の前を通り過ぎると、千尋は岩場で倒れている雅也の姿を見つけた。
千尋は変わり果てた雅也の姿に戸惑い、しばらくその場を立ち尽くしている。
そしてスマホをカバンから取り出し、電話をかけながらその場を後にした。
千尋本人がいなくなると、蒼太は千尋をゆっくりと離した。
蒼太は千尋を見つめながらも、何て声をかけたらいいのか分からなかった。
千尋は何も言わず、蒼太から離れると雅也が倒れている海の方を向いた。
千尋はなぜかもう雅也のところに行こうとは思わなかった。
千尋が雅也のところに行かず、その場で海を見ているとようやく蒼太が声をかけてきた。
「・・・・・雅也さんのところには行かないんですか?」
千尋は黙ったまま、ゆっくりとうなづくと、蒼太は時計を見ながら
「そろそろ警察が来る頃です・・・・・ここから離れましょう」
千尋はうなづくと、2人はその場をゆっくりと歩き始めた。
海岸を出た2人は、来た道を歩いて戻っていた。
海岸で雅也が亡くなった事実を知った千尋は、まだ半ば信じられないという気持ちだった。
雅也があんな形で死んでいたなんて。
それに美樹と一緒に私を裏切っていたなんて、信じられない・・・・・・。
うつむいて歩いている千尋の姿を蒼太は心配そうに見ていた。
声をかけようと思っているが、何て声をかけたらいいのか分からない。
2人の間には沈黙が続いた。
2人が丘のふもとに着いて、しばらく坂を上がっていると、後ろから男性の声が聞こえてきた。
「そこの2人、ちょっといいかな?」
蒼太が声のする方を振り向くと、そこには紺色の制服を着た男性2人の姿があった。
蒼太は制服を見た途端、見覚えがあるのかふてくされたような表情を見せた。
「何か用ですか?オレ達はただここを歩いていただけですけど」
「蒼太さん、この人達を知ってるの?」
「ええ」千尋の言葉に蒼太は軽くうなづいた「時間警察の警官です」
千尋が2人の警官を見ていると、そのうちの1人が蒼太に近づいてきた。
「お前達はここの住人じゃないな。タイムトラベルで来たのか?」
蒼太は時計を見ながら
「そうですが、まだ制限時間は超えてない。これから戻るところですが?」
「そんな事を聞きに来たんじゃない」
もう1人の警官も2人に近づくと、ジャケットの中から1枚の紙を取り出した。
「お前達、さっきこの男と会っていただろう」
警官が2人にその紙を差し出すと、2人はそれを見て驚いた。
それは海岸に行く前に街で会った男の写真だった。
「確かにこの人とはさっき街で会いましたけど、どうかしました?」
写真を見ながら蒼太が答えると、警官は2人を見ながら
「この男は世界中で指名手配しているテロリストだ。お前達、この男とはどういう関係なんだ?」
「どういう関係って、ただ街で偶然会っただけですよ。知り合いでも何でもないです」
「蒼太さんの言う通りです」千尋も警官に向かって答えた。「なくしたメガネを探していて一緒に探していただけなんです」
「3人で親しげに話をしていたところを見たという話もあるが、お前達この男の仲間なんじゃないのか?」
「そんな・・・・・違います。本当に何も知らないんです」
千尋が首を横に振ると、警官は憮然とした態度で
「お前達、嘘をつくと後で後悔することになるぞ。素直に認めたらどうなんだ」
「嘘じゃない、本当に何も知らないんだ」蒼太は千尋の右手を取ると、ゆっくりと後ろに下がり始めた。
「とにかく・・・本当なのかどうか詳しいことは署に行って聞こうじゃないか」
「とんでもない言いがかりだ、そんな事を言ってオレ達を拘束するつもりだな?そうはさせない!」
蒼太は警官に背を向けて千尋を連れて逃げ出した。
「あ、ま、待て!」
警官は2人の後を追って走り出した。
蒼太に腕を掴まれたまま走っている千尋は何が起こっているのか分からなかった。
「蒼太さん、一体どうして・・・・どうして警察から逃げなきゃいけないの?」
息を荒く吐きながら千尋が聞くと、蒼太は前を向いたまま
「それは後だ。とにかくバイクがある場所まで走ろう・・・・もう少しだ」
「・・・・分かったわ」
しばらくしてバイクを停めている場所に着くと、2人は急いでバイクに乗り込んだ。
蒼太がハンドルを握り、バイクが空高く上がると、地上ではちょうど追いかけて来た警官が来たところだった。
「ギリギリ助かった・・・・・このまま逃げるぞ」
地上でこちらを見上げている警官の姿を見た蒼太は前を向くと、バイクを前へと発進させた。
しばらくバイクを走らせていると、後ろで千尋があっという声を上げた。
蒼太がその声を聞いて振り返ると、数メートル後ろにシルバー色のバイクが数台見えている。
「もう他の警官に連絡してあるのか・・・・・」
警察が追いかけて来ていることが分かると、蒼太は前を向いた。
すると千尋が再び同じことを聞いた。
「どうして警察から逃げようとするの?」
「あいつらにいくら説明しても無駄だ。こっちの話を全く聞かない・・・それに拘束されるくらいなら逃げた方がいい」
「どうしてそんな事・・・・」
「前に拘束された事があるんだ。ほんの少しの違反だったけど、長い間拘束された事がある。その時もこっちの話を
全く聞いてくれなかった」
「なら、早く戻りましょう。元の世界に戻れば追ってこないでしょう?」
「いいや」蒼太は首を横に振った。「時間警察は元の世界に戻っても追ってくる。だからここは逃げ切った方がいいいんだ」
蒼太は運転席にあるボタンを押し、ハンドルを握った。
バイクのスピードが上がったのか、千尋は一瞬後ろへ引っ張られるような感覚になった。
千尋は慌てて前の運転席に両手を伸ばして捕まると、再び蒼太に話しかけた。
「そんな事言っても、こうして逃げていればますます怪しまれるわ。警察だって話をすれば分かってくれるはずよ」
「オレだって最初はそう思った・・・!」
蒼太が千尋にそう言いかけた時、目の前にバイクに乗った警官が現れた。
蒼太は慌ててハンドルを右に動かし、警官のバイクをなんとか避けて通り過ぎて行った。
「でも、あいつらのやってる事はめちゃくちゃなんだ。時間警察っていうのは名前ばかりで好き放題やっている連中なんだ。
住民の事なんて全く考えてない奴等なんだ」
「え・・・・?それってどういう事?」
「警官によって言ってる事が違うんだ。ある警官はそれは合法だと言うけど、別の警官は違法だと言ってる。
時間警察は普通の警察より権力が強いんだ。それに今の時間旅行に関する法律が曖昧になってる」
「法律が曖昧って・・・・・・」
「今の法律はあってないようなものになってるんだ。人によって合法とも違法ともとれる解釈になってる。
そんな法律の下に動いている時間警察なんてロクな奴等じゃない。そんな奴等に捕まったらどうなるか・・・・・」
蒼太が途中まで話していると、再び目の前に数台のバイクが現れた。
蒼太は今度は左に行こうとしてハンドルを握り、左側を見た。
左側を見た途端、同じバイクが数台目の前に現れた。
千尋が両手を離して辺りを見回すと、周りには同じバイクが2人を囲むように並んでいる。
周りを取り囲まれ、身動きが出来なくなった蒼太が警官達を睨みつけていると、さらに2台のバイクが目の前に現れた。
バイクには地上で2人に話しかけてきた警官が乗っている。
「さあ、おとなしく署まで来てもらおうか」
「くっ・・・・・・・」
蒼太は苦虫を嚙み潰したような表情をしながら、運転席のあるボタンを押した。
バイクと蒼太の姿は消えたが、なぜか千尋だけが取り残された形でその場にいた。
え、蒼太さんがいない。それにバイクも・・・・・・!
千尋が何が起こったのか分からなかったが、さっきバイクが止まった時に両手を離したことを思い出した。
もしかして置いて行かれたの?両手を離さなければよかった。
私、どうなっちゃうの・・・・・・?
宙に浮いていた千尋の体は地上に向かって落ちて行った。
このまま雅也のところに行くことになるのかしら。
そうだとしたら・・・・・・・。
千尋は途中で気を失った。
千尋の体がもう少しで地面に叩きつけられそうになった時、警察のバイクが現れた。
乗っている警官が千尋の体を受け止めると、地上で2人に話しかけてきた警官が乗ったバイクが現れた。
警官は千尋が息をしているのを確認すると、千尋を抱えている警官にこう言った。
「まずは1人確保だ。連れて行け」
警官のバイクが一斉に同じ方向へ動き出し、しばらくすると一斉に姿を消した。