救出
誰もいない海岸に1台のバイクが現れた。
元の時代に戻った蒼太はほっとしたのか、大きなため息をついた。
そして後ろに乗っている千尋に話しかけた。
「千尋さん、大丈夫ですか?」
しかし千尋の声は聞こえて来なかった。
「千尋さん?」
蒼太が後ろを振り返ると、いるはずの千尋の姿が見当たらない。
バイクを降りたんじゃないかと辺りを見回すが、千尋の姿は見つからなかった。
蒼太の脳裏に嫌な予感が走った。
千尋さん、バイクから手を放したのかもしれない。
もしかしたらあいつらに捕まったのかも・・・・・・・。
蒼太は再び運転席のボタンを押した。
時間警察の警官達に囲まれた場所に戻ってくると、蒼太は千尋がいないか探しまわった。
バイクを停めていた丘の高台や雅也がいた海岸まで来たが、千尋の姿は見当たらなかった。
ここまで探してもいない。
やっぱり時間警察に捕まったとしか・・・・・・・。
でも、あんなところにまともに行ったらオレまで捕まってしまう。
いったいどうしたらいいんだ。
蒼太が頭を抱えていると、後ろから声が聞こえてきた。
「どうしたんですか?かなりお困りのようですね」
蒼太は頭を上げると、声をした方を振り返った。
後ろにいる人物の姿を見た途端、蒼太は心の奥底から怒りの感情が沸き起こった。
その人物は街で出会った、黒服の白髪の男だった。
「お前はあの時の・・・・・・!」
右手を振りあげ、男を殴ろうとしたが、男は動きを読んでいたのか蒼太が拳を下ろす前に右手で蒼太の右腕の動きを封じた。
「一体どうしたんですか?会った途端殴ろうとするなんて」
「うるさい、テロリストめ」動きを封じられた蒼太は悔しそうに男に言い放った。「お前のせいで千尋さんが・・・・・」
「テロリスト?お嬢さんがどうかしたのですか?」
「お前はテロリストなんだろう?さっき時間警察が話していた。そのせいで千尋さんが時間警察に捕まったんだ」
蒼太は拳を下に降ろした。
それを聞いた男は驚きながら
「何ですって?・・・・・お嬢さんが時間警察に捕まった?」
「ああ」蒼太はうなづくと話を続けた。
「帰ろうとした時、警官達に声をかけられた。街でお前と会っていただろうって。仲間だろうって決めつけられて追いかけられたんだ」
「それはとんでもない言いがかりですね。それに私はテロリストではありませんよ」
「本当なのか?テロリストじゃないのか?」
「ええ、本当ですよ」男はうなづきながら蒼太の顔を見て、さらにこう言った。
「あなたは時間警察の言うことを信じるのですか?」
男の言葉に蒼太ははっと気が付いた。
そうだ。
オレが言うことを全く聞いてくれない時間警察の奴等の言うことを、どうして鵜呑みにしていたんだろう。
全く信用できない奴等が言った事を信じようとするなんて。
蒼太が黙っていると男が蒼太に聞いた。
「一体何があったのか、詳しい話を聞かせてもらえませんか?」
一方、千尋は鉄格子の牢屋の中にいた。
気が付いた途端、時間警察の警官に街で出会った男性について質問攻めに合い、何度知らないと説明しても
否定され、最後に牢屋に押し込められてしまったのだ。
蒼太さんの言う通り、ここの人達は誰も私の話なんて聞いてくれなかった。
これからどうなるんだろう。
ずっとこのまま家に帰れないのかな。
誰か助けて・・・・・・。
千尋は冷たい床に座り、後ろの壁に背中をもたれたまま、天井をぼんやりと見つめていた。
千尋が閉じ込められている時間警察の建物から少し離れた公園の茂みに蒼太の姿があった。
「どうですか?嘘ではなかったでしょう」
蒼太は建物を見ていると、後ろから男が話しかけてきた。
蒼太は後ろを振り返りながら
「ああ、あそこには昔来たことがある。あまり来たくはない場所だ」
「でしょうね。私も本当ならあまり来たくはないところです」
蒼太の言葉に、男はうなづいた。
蒼太は男を見ながら
「時間警察がテロリストだと言っていたが、お前は本当にテロリストじゃないのか?」
すると男はとんでもないという様子で
「もし私がテロリストだとしたら、わざわざこんなところまであなたを連れて来ると思いますか?
本物のテロリストだったらここにいることは不利な状況ですよ。見つかったらすぐ警官に捕まります」
「ならどうしてオレをここまで連れてきたんだ」
「それはあなたにお嬢さんを助けてもらいたいからです。あのお嬢さんには借りがありますからね。
今度は私が借りを返す番です」
男はそう答えると、茂みの向こう側にある建物を見た。
蒼太は男の後ろ姿を見ながら
「なら、あなたが千尋さんを助けに行けばいいじゃないか」
すると男は蒼太の方を振り返って
「そうしたいところですが、私は時間警察に顔を知られています。私が助けに行けば、お嬢さんがさらに疑われるでしょう。
私の仲間だとね」
「・・・・・・・・・」
それを聞いた蒼太が何も言えずにいると、男は蒼太の顔を見ながら
「だからあなたが行った方がいいんです。昔来たことがあるとさっき言ってましたが・・・・・・」
「違反で捕まったことがある。制限時間を2,3分過ぎたことがあった。それだけで長い期間拘束されたことがある」
「そうでしたか」
「それにさっき警官達から逃げてきたから、もしかしたらオレも顔を覚えられているかもしれない」
「なるほど。それで逃げている途中であのお嬢さんが警官達に捕まったのですね」
蒼太がうなづくと、男は何かを考えているのかしばらく黙り込んでしまった。
しばらくすると男が小声でぽつりとつぶやいた。
「今回も私が手助けしないといけないようだな・・・・・・・」
「え?」と蒼太
「あ、い、いや」蒼太に聞かれたと思った男は濁すように咳払いをした。
そして蒼太の顔を再び見ながら
「蒼太くんと言ったね。もし警官達に顔を知られてるのなら、ここは2人でお嬢さんを助けに行こうじゃないか」
「え・・・・・一緒に?」
「1人より2人で行った方が心強いだろう。それに1人だと何かとリスクが大きいからね」
「でも、大丈夫ですか?入口には警官がいるし、中に入れたとしても監視カメラとかあるだろうし・・・・・」
「その事なら心配はいらない」
男は左腕に嵌めている時計の画面に触れると、時計の上に大きな画面が現れた。
蒼太が出てきた画面を見ていると、何かの見取り図が現れた。
「今画面に映っているのは、あの建物の内部の見取り図だ」
「時間警察の建物の・・・・!?どうしてそんなの持ってるんですか?」
蒼太が驚いていると男は平然と画面を見ながら
「これはある特殊ルートで手に入れた。これを見ながらどうやってお嬢さんを助けるか考えよう」
「この見取り図だと牢屋があるのは1階の奥だ」
男が画面を見ながら牢屋がある場所を確認していると、蒼太はうなづきながらつぶやいた。
「昔から場所は変わってないのか・・・・・・あの牢屋」
「蒼太くんが入った牢屋も同じ場所だったんですか?」
「ええ」蒼太がうなづくとこう付け加えた「牢屋の前に鉄格子と鉄のドアがあって、数人の警官が見張ってるんです」
「あの建物には監視システムも入っているし、警官の許可がないと基本中には入れない」
「そんな中、どうやって牢屋の中に入るんですか?」
「警官か何かに変装して中に入るのも手だが、もし偽物だと分かった時のリスクがある・・・・・」
男は画面を見ながら途中まで言いかけたが、蒼太の方を向くとこう言った。
「でも心配はいらない。そんなことは最初から分かっているからね」
「え・・・・・?」
蒼太が男の言葉にどういうことか理解できないでいると、男はさらにこんなことを言った。
「私には特殊能力があってね。それを使えばお嬢さんを牢屋から救い出せるだろう」
「と、特殊能力?」
「とは言っても、君の助けは必要になるが・・・・・・」
「え?」
「私は時間をある程度止められる能力があってね。昔はかなりの時間を止められたんだが・・・・今はその力が衰えてしまって。
ほんの数分しか止められなくなってしまった」
「え・・・・時間を止められるんですか?」
「ああ」男はうなづいた「だから私が時間を止めている間、君にお嬢さんを救い出して欲しい」
「オレが千尋さんを・・・・止められる時間はどのくらいですか?」
「そうだな・・・・・」男は考えながらこう言った。
「長くて5分から10分の間くらいだ。時間を止めたら私が警官から牢屋の鍵を奪う。その鍵でお嬢さんがいる牢屋を見つけて、救い出して欲しい」
5分から10分・・・・・・・。
時間が短いな。
それまでに千尋さんを見つけて、連れて逃げられるだろうか?
時間を聞いて不安に思う蒼太だが、千尋を救い出せる方法はそれ以外考えられなかった。
「分かりました。その方法でやりましょう」
蒼太が男の提案に賛成すると、男は画面を消した。
「それじゃ今からお嬢さんを助けに行こうか・・・・・・」
「あ、でも」蒼太が何かに気が付いたのか男に聞いた「どうやってあの建物に入るんですか?このまま行くと捕まりますよ」
「あ・・・・・・そうだった。最初の段階を考えてなかったな。どうするか・・・・・・」
男は両腕を組むと、どうすればいいのか考え始めた。
建物の入口の門の前に警官が立っていると、紺色の制服姿の男2人が近づいてきた。
警官は帽子を深々と被っている2人をじろっと見ながら
「今日は何の用だ?」
すると1人の男がこう答えた。
「建物内の定期点検です。セキュリティシステムの」
「分かった」
警官が中に入るのを許可すると、2人は何も言わず中へと入って行った。
しばらくして建物の入口の手前まで来ると、後ろにいる蒼太から安堵のため息が漏れた。
「よかった・・・・・うまく入れましたね」
「ああ、うまくいった」前にいる男が蒼太の方を振り返った。
「でも、タイミングよく警備会社の人達が来ましたね」
「ああ、ちょうど都合よく来たおかげで制服を借りれた。少し手荒な方法だったが・・・・・・」
2人がどうやって中に入るか考えていると、建物の裏側に警備会社の車が止まったのを偶然見かけたのだ。
車から人が出てくるのを待ち構えた2人は、出てきたところを襲って彼らから制服を奪ったのである。
「でも大丈夫ですか?今は気絶してますけど、気が付いて中に入ってこられたら・・・・・・」
「それは心配いらない。襲った時に催眠スプレーをかけてあるから、数時間は車の中で眠っている」
不安そうな表情の蒼太に男はそう言いながら歩き始めた。
2人が建物の中に入ると、辺りには広い空間が広がっていた。
制服姿の警官達が至るところで歩き回っている。
前に来た時はこんなに広くはなかったと思うけど、こんなに広かったかな・・・・・。
蒼太が辺りを見回していると、少し前を歩いていた男は立ち止まり、蒼太に声をかけた。
「蒼太くん、こっちだ」
蒼太が気が付いて男のところに来ると、男は蒼太を見ながら小声で
「あまりキョロキョロしていると怪しまれるから気を付けて。我々は今警備会社として入ってるんだから」
「は、はいすみません・・・・・・牢屋の場所は?」
「この道を歩いていくと大きなドアがある。おそらく警官がいるはずだ。行こう」
蒼太がうなづくと2人は再び歩き出した。
しばらく歩いて行くと、数人の警官達の姿と大きなネズミ色のドアが見えてきた。
2人がドアの前まで来て止まると、警官達の1人が声をかけてきた。
「今日は一体何の御用でしょうか?」
「今日は定期点検で来ました」
男がすぐに答えると、それを聞いた別の警官が2人の姿を見ながら
「定期点検?それなら数日前にもここに来ていたが・・・・・」
「それは本当ですか?本部からの依頼でここに来ているのですが」
「履歴がある。3日前に定期点検で異常はないと聞いた」
別の警官がそう話すと、他の警官達は2人を怪しむようにじろっと見つめている。
それでも男は怯まず
「本部からは怪しいところが見つかったので再点検して欲しいと聞いているのですが」
「怪しいところ?それはどこの事を言っているんだ?」
「この中にあるセキュリティシステムです」
「セキュリティシステム・・・・・・?」
それを聞いた警官達は黙り込み、静かで重たい空気が漂った。
すると再び警官の1人が男に言った。
「それなら行くのはここじゃない。セキュリティシステムは別の場所だ」
「我々はこの中が怪しいと聞いて来ているのですが・・・・・・この中にはシステムはないのですか?」
「ああ、この中にはセキュリティシステムは入ってない。入っているのは別のところだ」
別の警官が2人を怪しみ出した。
「警備会社なのにセキュリティシステムの場所が分からないのか?」
「そうですか。ならば仕方がない」
男は深々と被っていた帽子を取った。
男の顔が分かった途端、警官達の1人があっと声をあげた。
「こいつは・・・・・探していたテロリストだ!」
それを聞いた他の警官達が男を捕まえようといっせいに男に近づいてきた。
も、もうダメだ・・・・・・!
男の後ろにいた蒼太は近づいて来る警官達から逃げようと背を向けた。
しかし警官達が近づいて来る気配がない。
それにさっきまで警官達の話し声や周りの雑音が聞こえていたのに突然聞こえなくなり、無音で静かな空気が流れている。
ど、どうなってるんだ・・・・・・?
蒼太が戸惑っていると、後ろから男の声が聞こえてきた。
「蒼太くん」
蒼太が後ろを振り返ると、奇妙な光景を目の当たりにした。
男の後ろには数人の警官達が男を捕まえようと両手を挙げたまま、動きが止まっている。
警官が動いてない。
ということは本当に時間が止まっているのか・・・・・?
蒼太がその場で戸惑っていると、男が蒼太の方を振り返った。
「蒼太くん、今のうちに牢屋の中に入るんだ」
「これは・・・・・・今時間が止まっているんですか?」
蒼太が男に近づきながら聞くと、男はうなづいて
「そうだ。今は私の力で時が止まっている。動けるのは私と蒼太くんとあのお嬢さんだけだ」
「でもどうやって中に入るんですか?」
「ちょっと待ってくれ。今鍵を渡すから」
男は警官達の方を向くと、近くにいる警官の腰に手をやった。
警官の腰のベルトに下がっている鍵の束を見つけると、男はそれをうまく外した。
「これが鍵だ。大きいのがそこのドアの鍵。中くらいのがその先にある鉄格子の鍵。小さいのが牢屋の鍵だ。
小さい鍵がたくさんあるがどれかがお嬢さんが入っている牢屋の鍵だろう」
蒼太は男から鍵の束を受け取りながら
「どうして鍵の種類まで知ってるんですか?」
「それは・・・・・今はそんなことを言っている場合じゃないだろう。時間が限られている。早くお嬢さんを助けに行きなさい」
「は、はい」
「私はここで待っている。早く行きなさい」
蒼太は動かない警官達を通り過ぎ、ドアの前まで来ると、大きい鍵をドアの鍵穴に刺した。
カチっという音が鳴り、ドアを開けると、蒼太は中へと入って行った。
千尋が牢屋の中で体を丸くしてしゃがみこんでいると、足音が聞こえてきた。
その音はだんだんと大きくなってきている。
誰かがこっちに来る・・・・・警官かしら。
千尋が顔を上げると、鉄格子の外側に走ってきた蒼太の姿が見えた。
「蒼太さん!」
千尋の声に気が付いた蒼太は千尋の姿を見つけると立ち止まった。
「千尋さん!大丈夫ですか?」
蒼太は千尋のいる牢屋に近づくと、千尋は立ち上がり、蒼太に近づいた。
「私なら大丈夫。蒼太さんどうしてここに?」
「話は後だ」蒼太は右手に鍵の束を持ったまま、辺りを見回した。「早くここから出よう。この牢屋の鍵は・・・・・・?」
「もう少し左に行ったところに入口があるわ」
「分かった」
蒼太は左側に歩き出すと、千尋も一緒に歩き出した。
牢屋の左端に着くと、蒼太は鉄格子の扉の鍵穴を見つけた。
「今鍵を開けます」
蒼太は持っている鍵の束から小さい鍵のひとつを鍵穴に刺した。
しかし鍵穴が合わず扉は開かない。
蒼太は別の小さい鍵で再び鍵穴に刺すが、これも合わない。
別の鍵で何度も繰り返してみるが、扉はなかなか開かない。
「くそっ・・・・・・一体どれがここの鍵なんだ?」
蒼太はだんだんと焦ってきた。
早く開けないと、止まっている時間が動き出してしまう。
失敗したら警官がやってきて全てが終わりだ。
「これも合わない、あと何本あるんだ・・・・・」
蒼太は焦りながら右手にある鍵の束を見た。
「蒼太さん・・・・・」
千尋が鉄格子の外の蒼太を見ていると、蒼太はまだ試していない鍵を右手の手のひらに乗せた。
そして鍵を数えるように見ていると
「あと7本か・・・・大丈夫だ。すぐ助けます」と再び鍵を扉の鍵穴に差し込んだ。
一方、大きな扉の前では動けなくなった警官達を白髪の男が見つめていた。
あの2人、まだ来る気配はないな。
牢屋の鍵が合わないのか時間がかかっているようだ。
まだ時間は十分にあるが・・・・・・。
男はそう思っていると、何かを思いついたように警官達に近づいた。
そして一番右端の警官のズボンに手をやると、手錠を取った。
お嬢さんを助けるのに時間がかかっているのであれば、こちらも最悪の場合を考えておく必要があるようだ。
私の力はまだ残っている。まず大丈夫だとは思うが・・・・・。
男は右手に手錠を持ちながら、別の警官へとさらに近づいて行った。
蒼太が最後の鍵で扉の鍵穴に差し込むと、カチッという音が聞こえた。
「鍵が開いた・・・・・!」
蒼太が鍵穴から鍵を外し、扉を開けた。
「ここから出よう。逃げるぞ、一緒に!」
蒼太が千尋に声をかけると、千尋はうなづいた。
蒼太が牢屋の中に入り、千尋の左手を右手で握ると、千尋を外へ連れ出した。
2人は外に出ると、手をつないだまま走り出した。
白髪の男が警官達を見ていると、警官達の後ろのドアがゆっくりと開かれた。
「ようやく来ましたか・・・・・お嬢さん、大丈夫でしたか?」
「あ、あの時の・・・・・」
男の姿を見た途端、千尋は思い出したようにはっと気が付いた。
「覚えていてくれたんですか。それは嬉しいですね」
男は微笑みながら千尋を見ていると、蒼太は男に鍵の束を渡しながら聞いた。
「まだ時間は止まってるんですか?」
「ああ、まだ大丈夫だ」男は鍵を受け取ると警官達を見た。「この通り。まだ警官達は動いていない」
「よかった・・・・・・」
「え・・・・・どういうこと?」千尋は動かない警官達の姿を見ながら戸惑っている。
すると蒼太が警官達を見ながら
「今時間が止まってるんだ。動けるのはオレ達3人だけ」
「え・・・・・?」
「さあ、これで完璧だ」男は鍵の束を警官のズボンに戻すと、2人のいるところへ歩き出した。
「あとはここから逃げるだけだ。なるべく急いだほうがいい・・・・もう少しで時間が戻る」
それを聞いた蒼太はうなづくと、3人はその場から走り出した。
3人がいなくなり、しばらくすると動かなかった警官達が突然動き出した。
「あ、あれ・・・・・・?い、いないぞ!!」
1人の警官が声を上げると、他の警官達も辺りを見回しながら戸惑っている。
「さっきまで目の前にいたのに、どうなってるんだ?」
「きっと逃げたに違いない、外に行くんだ!」
もう1人の警官が先に行こうと走ろうとするが、左足が何かに引っかかり前へと倒れ込んだ。
「おい、何してるんだ?誰だ、オレの足を引っかけた奴は!」
倒れた警官が起き上がって後ろにいる警官達に怒鳴りつけると、そのうちの1人が言った。
「お前の左足、隣の右足と手錠で嵌められてるぞ」
「何だって・・・・・?」
すると一番右端にいる警官が
「オレは左手を左足、両方を隣の奴と手錠で繋がれてる。動けない」
「オレもだ」今度は左端にいる警官が言った「こっちは右手と右足だ」
「おい、誰も動けないのか?誰だ、こんなことをした奴は!」
するとそこに通りかかった別の警官がやって来た。
「あ、おい!お願いだ。この手錠を外してくれ!」
3人が建物から出た途端、後ろから警告音のような音がけたたましく聞こえてきた。
「時間が戻ったようだ・・・・・さっそく気が付いたらしい」
男が建物の方を振りかえると、次に2人を見ながらこう言った。
「2人は早く逃げなさい。警官達は私がうまく引きつけておくから」
「ありがとうございます」
蒼太が男にお礼を言うと、千尋も頭を下げた。
「助けていただいてありがとうございました」
「無事でよかった・・・・さあ、警官達が出てくる前に早く逃げなさい」
蒼太と千尋はうなづくと、男と別れ右側へと走り出した。
男は2人の姿が見えなくなり、建物から数人の警官達が出て来たかと思うと左側へ走り出した。
2人は公園の奥まで入っていくと、停めてあったバイクに乗り込んだ。
「あのおじさん、大丈夫かしら・・・・・」
千尋がぽつりとつぶやくと、前で座っている蒼太が辺りを見回しながら
「たぶん大丈夫だと思う。警官達はまだこっちに来てないか・・・・?」
千尋も辺りを見回すが、辺りは誰もいない。
「まだ姿は見えないわ」
「なら大丈夫だ。今のうちに戻ろう・・・・しっかりと席に捕まっててください」
千尋が両手で前の運転席に捕まると蒼太は運転席のボタンを押した。
2人は元の時代に戻ってきた。
見慣れた海岸に着くと、蒼太は安心したのか自然とため息が漏れた。
「ようやく戻ってきた・・・・・・千尋さん、大丈夫でしたか?」
蒼太が後ろにいる千尋の方を振り返ると、千尋はバイクを降りながら
「大丈夫です。蒼太さんは・・・・・・?」
「オレは大丈夫です」蒼太もバイクを降りると、千尋にさらに聞いた。
「本当に大丈夫でしたか?警官に何か言われたとか、ひどい目に遭ったとか・・・・・」
「警察の人からは何もされてません、ただ話をなかなか聞いてくれなかったけど。それ以外は何も」
「そうですか・・・・・・!?」
蒼太が途中まで言いかけた時、突然地面が大きく揺れ始めた。
「危ない!」
千尋の体が大きくよろけそうになるのを見た蒼太は咄嗟に千尋の右手を掴んだ。
そして自分の方に寄せると千尋の体を包み込むように抱きしめるのだった。