出会い
ゆるやかな下り坂は延々と続いていた。
少年の視線の先には真っ暗な闇が続いている。
道幅は広いが、両端は壁になっていて、洞窟の中に入っているようだった。
視界の悪い状況の中、少年はゆっくりと歩いていたが、しばらくして足を止めた。
この道、どこまで続いてるんだろう?
真っ暗で何も見えない。
少年は辺りを見回してみるが、辺りは真っ暗で、自分がどこに行こうとしているのか
この先道があるのかさえ分からなくなっていた。
何か灯りがあればいいんだけど。
そういえばランプが・・・・・・。
少年は借りてきたランプを思い出し、腰に手をやるが
ランプを星の鏡のところに置いてきたことを思い出した。
こんなことになるんだったら、一緒に持ってくればよかったな。
そう後悔していると、背後に何かがいる気配を感じた。
少年は後ろを振り返ると、右側に見覚えのあるランプが置いてあった。
ランプの灯りはついていて、辺りを明るく照らしている。
あれ?こんなところにランプなんてあったっけ?
それに借りてきたランプにそっくりだ。
少年は戸惑いながら、ランプを持ち上げた。
そして真っ暗な道の先にランプを向けると、道が延々と続いているのが見えた。
まだこの洞窟、先があるんだ・・・・行けるところまで行ってみよう。
少年はランプを右手に持ち、道の先に灯りを向けながら、歩き始めた。
しばらく歩いていくと、かすかな水の音が聞こえてきた。
少年の視線の先に、弱い光が上の方から射し込んでいるのが見える。
もうそろそろ外に出れるのかな、水の音がする。
それになんだか喉が渇いた・・・・・。水が飲みたい。
歩き続けていくと、洞窟の天井がなくなり、外に出た。
外は少し曇っていたが、弱い日差しが差し込んでいる。
少年の左側は洞窟の岩の壁が先の方まで続いているが、天井はなく
洞窟の切れ間のような場所になっていた。
少年の右側には小さい川がゆっくりと流れている。
川の先には多くの木々が生い茂っている。
少年は川の近くまで歩いていった。
川の底の土や岩が見えるほど、川の水は透明で、数匹の小さな魚が泳いでいるのが見える。
少年は両手で水をすくうと、そのまま口へと運んだ。
冷たくておいしい!しばらくここで休んでから行こう。
少年は川に両手を入れて、再び水をすくうと、口に運んでがぼがぼと飲み始めた。
渇いた喉をすっかり潤した少年は、再び洞窟の中へと歩き始めた。
ランプの灯りで洞窟の先を照らしながら、ゆっくりと歩いていく。
もうかなり歩いたと思うんだけど、まだ外へは出られないのかな。
このまま洞窟から出られなかったらどうしよう。
少年は不安に思い、他に洞窟の外に行ける道はないかランプで辺りを照らしてみるが
両側は岩の壁で、少しの隙間も見当たらない。
道があるのは今少年が歩いている一本道だけだった。
このまま、まっすぐ行くしかないのか・・・・。
そう思っていると、今度はお腹からグルグルという音が聞こえてきた。
そういえば、朝から何も食べてないんだった。
お腹空いたな・・・・さっき水を飲んだばかりなのに、もうお腹空くなんて。
するとまたお腹の鳴る音が聞こえてきた。
早くこの洞窟から出て、町へ行かなきゃ。
でも、この先に町なんて本当にあるのかな・・・・・。
空腹で早く町へ行って、食べ物にありつきたいという焦りと
このまま洞窟の中から出られないんじゃないかという不安が入り混じりながら
少年はひたすら続いている道を歩き続けていた。
しばらく歩いていると、道の先にまたかすかな陽射しが現れ始めた。
その陽射しは歩いていくにつれ、だんだんと強くなっている。
今度のは、さっきより陽射しが明るい・・・・・。
もしかしたら出口かもしれない。
少年は足を速め、陽射しのある方へと歩いて行った。
しばらくして少年は広い場所に出た。
周りは高い岩の壁に囲まれており、中央は空洞になっている。
中央には大きくて高い木が数本あり、さらにその間には一軒の建物があった。
青い立派な屋根に白い壁で、中央の扉には赤いカーテンのような布を下げている。
その上空から陽射しが射し込んでいて、光に包まれているような建物は神秘的な雰囲気を作り上げていた。
すごい・・・・・こんなところに家があるなんて。
陽射しに照らされている建物の神々しさに、少年は惹きつけられるように建物に近づいた。
建物の前で立ち止まって、見とれるように見ていると、後ろから声が聞こえてきた。
「こんにちは。あなた・・・・どこから来たの?」
少年は後ろを振り返ると、そこには少女と一頭のシカらしき動物がいた。
少年より少し背が高く、長い黒髪ですらっとした体形の少女。
清楚だが、どこかあどけなさが残っているような感じの少女だった。
「あ、こ、こんにちは・・・・・この家に住んでるの?」
少年は少し戸惑いながら挨拶すると、少女は少年に近づいた。
「ええ、この寺院に何か用があるの?」
「あ、いや・・・・洞窟の中を歩いていたら、ここに出たから」
少年は戸惑いながら、今度はシカのような動物に目がいった。
その動物はシカよりも体形がひとまわり大きく、体は透き通るような白い毛並みに覆われている。
頭の両側には立派な角が生えている。
その角は途中で二つに枝分かれしていて、さらにその枝の途中でも枝分かれしている。
左右対称的にきれいに枝分かれしている角に、少年はしばらく魅入っていた。
「そう・・・・・もしかして、山神様を見るのは初めて?」
「山神様?」
「ええ、あなたが見ているのが山神様よ。この森の守り神なの」
「このシカが?」
「そうよ。あなたにはシカにしか見えないかもしれないけど・・・とても大切な神様なの。
この森で生きているシカはこの山神様だけなのよ」
「そうなんだ・・・・・とても立派な角だね。触ってもいい?」
「いいけど、触らせてくれるかどうかは分からないわ・・・・山神様は気難しいのよ。
私も初めて会った時、触ろうとしたけど、なかなか触らせてくれなかったわ」
少年は山神に近づき、まずは背中に触れようと手を伸ばした。
あと少しで毛並みに触れるところで、山神は小さな低い声を出しながら、身体をブルブルと動かした。
少年はびっくりして手を引っ込めたが、山神が動かなくなると、また背中に手を伸ばしてみた。
山神の背中に手を当てると、少年は優しくそっと撫でた。
温かい・・・・・それに触っていて気持ちいい毛並みだ。
山神がそのまま動かないので、少年はさらに毛並みをゆっくりと撫でた。
「珍しいわ・・・・山神様が初めて会った人に触れているなんて」
少女は少し驚いた顔つきで少年と山神を見ていると、後ろから扉の開く音がした。
「散歩から帰ってきてたのか・・・・・おや、珍しいお客さんだね」
「あ、和尚様・・・・」
少女の声に少年は反応して後ろを振り返ると、そこには白い服を着た老人がいた。
「それに山神様が身体を触れられるのを嫌がらないとは・・・・めったにないことだ」
「あ、こんにちは・・・・」
少年は老人に挨拶をすると、老人は少年を見るなり
「君はどこから来たのかね?うちの寺院に何か用があるのかい?」
「洞窟の中を歩いていたら、ここにたどり着いたんです」
「そうか・・・・この辺りでは見かけない顔だな。よかったらしばらく休んでいきなさい。
寺院の中を案内しよう」
「いいんですか?ありがとうございます」
「リンネア、山神様をいつもの場所に連れていきなさい」
「分かりました、和尚様」
黒髪の少女、リンネアは山神の側に近づくと、山神と一緒にゆっくりと歩き出した。
「ところで、名前を伺ってもよろしいかな?」
リンネアと山神を少年は見送っていると、和尚が声をかけてきた。
「あ、すみません・・・・僕の名前はトイヴォといいます」
「トイヴォ・・・・いい名前だ。私の名前はドゥルーヴ・ガンディー」
「よろしくお願いします。ドゥ・・・・」
トイヴォが和尚の聞きなれない名前に戸惑っていると、和尚は笑ってこう言った。
「名前が難しいのなら、和尚と呼んで構わないよ。それにさっきの女の子はリンネアだ。
この寺院のお手伝いをしてもらっている」
「そうなんですか・・・・よろしくお願いします和尚様」
2人は寺院の中に入った。
中に入ると、すぐに大きな広間が目に入った。
辺りは何もなく、吹き抜けになっており、部屋の向こう側には大きな木が数本立っているのが見える。
「ここは神に祈りを捧げる場所じゃ」
和尚がトイヴォに声をかけると、部屋の奥の大木の方へと歩き始めた。
トイヴォも和尚の後について行くと、大木の姿がさらに大きく見えてきた。
大木の真上からは陽射しが当たり、神々しく見える。
「あの大きな木は昔からあって、樹齢はもう数千年のご神木なのじゃ」
「す、数千年・・・・・和尚様はずっと前からこの寺院にいるのですか?」
「昔からここにいたわけじゃないが、気が付いたらここにいたと言ったほうがいいかな・・・
もうすっかり歳を取って、いつからここにいるか忘れてしまった」
トイヴォが大木を見ていると、和尚は続けてこう言った。
「ところでお腹は空いてないかな?もうそろそろお昼になる時間だが」
「は、はい・・・それは・・・・・」
トイヴォがそう言いかけたとたん、お腹からグルグルという音が聞こえてきた。
和尚はそれを聞いたとたん笑って
「かなりお腹が空いているようじゃな。向こうに食事を用意してあるから、よかったら
食べていきなさい」
トイヴォは別の部屋に案内された。
部屋に入ると、部屋の中央にテーブルとイスが並べられており、テーブルの上には
たくさんの食べ物や果物が置いてあった。
和尚が先に椅子に座り、向かい合わせにトイヴォが座ると、和尚はトイヴォに声をかけた
「さあ、遠慮なく食べなさい。」
「ありがとうございます。いただきます」
トイヴォは目の前にある丸いパンを手で取ると、半分にちぎって口に入れた。
しばらくして食事を終えると、和尚がトイヴォに話しかけた。
「ところで、これからどうするつもりかね?」
「これから・・・・町へ行ってみるつもりです」
トイヴォは少し考えて和尚にそう答えた。
「町へ行くのか、町へ行ってどうするつもりかね?」
「それはまだどうするか決めてないですけど・・・・・」
「そうか・・・・・」
すると部屋の扉が開き、リンネアが入ってきた。
2人のところに行き、お茶の入ったコップを2つ、2人の前に置いた。
「あ、すみません」と頭を下げるトイヴォ
「ああ・・ありがとう、リンネア」
和尚がリンネアに声をかけると、リンネアは自分のコップを和尚の隣に置き、自分は和尚の隣に座った。
和尚はトイヴォに
「ところで話は変わるが・・・・トイヴォはどこから来たのじゃ?この当たりでは見かけない顔じゃし
洞窟の中を歩いてきたと言うが、ここまで来るのにはとても時間がかかったはずじゃ」
「は、はい・・・・実は僕はさっき、ここには来たばかりで」
トイヴォは戸惑いながら、リンネアに出されたお茶を飲んだ。
「来たばかり?じゃここに来たのは初めてなの?」とリンネア
「うん。というか・・・・気が付いたら洞窟の先の大きな木の下に倒れていたんだ」
「この先の大きな木・・・というのはもう一つのご神木のところじゃな」と和尚
「もうひとつのご神木、というのは根本が大きな穴になっているところ?」
「そうじゃ」リンネアに和尚がそう答えると、ゆっくりとコップを持ち上げてお茶をすすった。
「それにしてもあそこまで行くには、かなりの時間と手間がかかる・・・・一体どうやって
そこまで辿り着いたんじゃ?」
「そ、それは・・・・・・」
トイヴォは話すかどうするか戸惑っていた。
星の鏡での出来事を話して、そのまま信じてもらえるかどうか、疑問に思ったからだ。
トイヴォが黙っていると、和尚はトイヴォの顔を見て
「正直に全てを話すのじゃ・・・私もリンネアも誰にも言わない。この寺院にはこの2人以外
誰もいないから、よければ話を聞かせてくれないか」
トイヴォはリンネアの顔をちらっと見ると、リンネアはゆっくりと優しくうなづいた。
「・・・・分かりました。信じられないかもしれませんが、今まで会ったことを話します」
トイヴォが星の鏡で起こったことの一部始終を話し終えると、和尚は静かに口を開いた。
「それで、気が付いたらあのご神木のところに倒れていたわけじゃな」
「は、はい・・・信じられないかもしれませんが、本当なんです」
「なるほど・・・よくわかった」
和尚はお茶をすすり、何かを考えているような表情を見せた。
リンネアは和尚の表情を見ながら、黙って様子を見ている。
「それにしても、村の外に出たいというだけで星の鏡のところに行ったとは思えないのじゃが。
本当はもっと別の目的があるんじゃないか?でなければ、星の鏡もここへは連れてこないじゃろう。
何か別の目的があるんじゃないのか?」
「・・・・・・」
トイヴォは黙ったまま、リンネアの顔をちらっと見た。
そんなトイヴォの様子を見て、和尚はリンネアに声をかけた。
「リンネア、もうひとつのご神木の様子を見てきてもらえないか?
あそこは山神様の散歩に使う道じゃから、人が入ったことで何か変わったところがないか見てきて欲しい。
山神様を連れて行くといい」
「分かりました」
リンネアが部屋を出て行ってしまうと、しばらくして和尚はトイヴォに話しかけた。
「リンネアに聞かれたくない話なのじゃろう。これで話してくれるな?」
「・・・・分かりました。和尚様には本当のことを話します」
トイヴォはしばらく間をおいてから、静かに話を始めた。
「僕は小さい頃、戦争で親を亡くしました。・・・・というか、僕は覚えてないので
おじいちゃんにそう聞かされました。お父さんが遺体で家に運ばれたのはなんとなく
覚えているんです。お葬式をやったのを覚えているから。
でも、お母さんはどうして亡くなったのか、今でも分からないんです」
「戦争で・・・・それは大変だったのう。それで?」
「それで、おじいちゃんに聞きました。お母さんは戦争で亡くなったのかと。
おじいちゃんは「遺体が出てこないから分からないが、戦争で亡くなったんだ」って言うばかりで
それを確かめたいんです」
「もしかしたら、どこかで母親が生きているかもしれないと・・・・それで探そうとしているんじゃな?」
トイヴォはうなづくと、和尚はお茶をすすりながらうなづいた。
「その母親の名前は?」
「エンマです。おじいちゃんの話では亡くなる前にお父さんのいる町へ行ったそうです」
「その町の名前は?」
「おじいちゃんに聞いたんですけど、名前は忘れてしまいました。とても大きい町だと聞いてます」
「そうか・・・・・・」
和尚は椅子からゆっくりと立ち上がった。
そして窓へ行き、窓の外から見えるご神木を見ながら話を続けた。
「大きい町といっても、この辺りにはいろんな町がある。
それに最近、またよくないことが起きているようじゃ・・・・。
この森の中の動物達もだんだんと減ってきている。何かを察知しているように」
「よくないこと?・・・また戦争が起きようとしているんですか?」
「それはまだ分からないが、何かよからぬことをしようとしている奴らがいることは確かじゃ。
まだこの辺りにまでは影響はないようじゃが」
和尚はトイヴォの方を向いて、続けてこう言った。
「これから近くの町に行くつもりなら、まだ大丈夫だとは思うが、気を付けて行くんじゃぞ」
「は、はい・・・・・ところで、ここから近い町はどこですか?」
「ここから近い町はポルトという港町じゃ」
和尚はゆっくりとテーブルの自分の席に戻った。
「ポルトはここから近いんですか?」
「ポルトはここからかなり距離はある。子供の足だと3日ぐらいはかかるかもしれんな」
3日、そんなにかかるんだ・・・・・。
トイヴォはそう思っていると、和尚はトイヴォの顔を見て
「大人の足でも2日はかかる。もちろん途中休みながらじゃが・・・・。
ポルトはなかなかいい町だと聞いておるよ。毎年クジラ祭りがあるようじゃし。
それに今、知り合いがポルトに行っている」
「クジラ?・・・・・クジラってあの、海に住んでいる大きな魚のこと?」
「大きな魚というか、動物じゃ。見たことがないのか?」
「本では見たことあるけど・・・本物は見たことはないんです」
「ならちょうどいい。クジラ祭りは今頃やっていると聞いているから、行って実際のクジラを見ていくといい。
そこで母親が見つかるとよいな」
「は、はい・・・ありがとうございます」
「今、知り合いがポルトに行っているから、母親のことを伝えておこう・・・・。
その知り合いも今、ポルトである女の子を探していてね。まだ連絡が来ていないんじゃが」
「え、和尚様の知り合いも、女の子を探しているんですか?」
「ああ、その女の子も両親がいなくてな。この寺院で引き取ろうと思って探させているのじゃが・・・」
「・・・もしよければその女の子、探す手伝いをさせてくれませんか?」
「よいのか?母親を探すだけで大変なのに」
「和尚様に助けていただいたお礼をしたいんです。お腹が空いているところを助けていただいて
もし和尚様に会わなかったら、今頃どうなっていたかわかりません」
和尚はどうするか考えていたが、しばらくしてトイヴォにこう言った。
「・・・分かった。大変じゃと思うが、お願いするとしよう」
「これがその女の子の写真じゃ」
和尚はテーブルの上に一枚の写真をトイヴォの前に置いた。
トイヴォは写真を見ると、そこには小さな女の子が一人で写っている。
赤いワンピースが色鮮やかで、白いブラウスに肩にかかるくらいの茶色の髪。
女の子の顔は何かを見つめている顔つきで可愛い感じの写真だった。
「これが探している女の子・・・・・名前は分かりますか?」
「名前は確か・・・・アウロラと言ったかな」
「アウロラ・・・・・ちなみに知り合いの人の名前は?」
「オリヴィアじゃ。最近までこの寺院にいた女性でな・・・・恵まれない子供たちのために
何かできないかといろいろと活動しているんじゃ」
「オリヴィアですね・・・・分かりました」
トイヴォは写真を和尚に返そうとすると、和尚はいいというように首を振った。
「それは持っていきなさい。でないと探せないじゃろうからな」
しばらくして、トイヴォは椅子から静かに立ち上がった。
和尚は部屋を出ていて、トイヴォは一人で部屋の中にいたのである。
そろそろ寺院を出ようか・・・・3日かかるのなら、今日中にはこの洞窟から出たいな。
そう思いながら部屋を出ようとすると、ちょうど和尚が部屋に入ってきた。
「そろそろここを出るのか?今日一日ここでゆっくりと休んだらどうじゃ」
「い、いいえ、そろそろここを出ないと・・・・ポルトまでかなりかかりますから」
トイヴォは首を振ると、和尚は少し残念そうな顔をして
「そうか・・・・・もう少しでリンネアも戻ってくるじゃろうし。リンネアが戻ってくるまで
待ってみたらどうじゃ」
「それは・・・・・・」
トイヴォがそう言いかけると、和尚はトイヴォの首にかかっている青い石に目が入った。
あの青い石は・・・・・・。
和尚ははっとして、トイヴォに話しかけた。
「・・・・その青い石、小さい頃から持っているのか?」
「え?・・・・この青いペンダントの石のこと?」
トイヴォはシャツに隠れていた青い石を持って、和尚に見せた。
「そうじゃ・・・・」
和尚は青い石を見つめている。
「これはお父さんが亡くなった時に、おじいちゃんからもらったんです。
お守りだから持っておけって・・・・何か知っているんですか?」
「昔からある伝説でな、確か・・・・「青い石を持つ者がこの世界に舞い降りる時、仲間とともに
この混沌とした世界を救うだろう」と書いた古文書があるのを思い出したんじゃ」
それを聞いたトイヴォは戸惑って
「じゃ・・・・僕が持っている青い石がそうだと言うんですか?」
「そうとは言えないが・・・・最近の町の様子から見て、もしかしたらと思ったんじゃ」
すると部屋の扉が開き、リンネアが姿を現した。
「和尚様、今帰りました」
「ああ、リンネアか・・・・・トイヴォがここを出る。途中まで見送ろう」
寺院を出て、洞窟の入口の手前まで来ると、トイヴォはここで2人と別れることにした。
「どうもありがとうございました・・・とても助かりました」
「もう少しゆっくりしていけばいいのに」
トイヴォがお礼を言うと、リンネアはトイヴォに声をかけた。
「でも、これから町までかなり遠いんで・・・」
「気を付けるんじゃぞ。オリヴィアには私の方からも連絡しておくからな」と和尚
「はい、2人ともお元気で」
トイヴォは2人に背を向けて、洞窟へ入ろうとすると、和尚の声が聞こえてきた。
「それにトイヴォ、お前は一人じゃないぞ・・・・・」
「え?」
和尚の言葉にトイヴォは振り返ると、和尚は背を向けて寺院に向かってゆっくりと歩いて行った。
寺院から再び洞窟に入り、しばらく歩いていたが、間もなく洞窟から緑の木々が生い茂った
森の中に出た。
道はまだ森の奥の方まで続いている。
寺院からここまであまり時間がかからなかったな・・・・。
やっぱり、寺院でもう少し休んでいればよかったかな?
トイヴォは寺院でもらった食べ物を食べようと、ズボンのポケットの中に手を入れた。
すると入れたはずの食べ物が入っていない。
おかしいな、寺院を出る前に、リンネアからたくさんお菓子をもらったはずなのに。
トイヴォはもう一度ポケットの中を手で探るが、何も入っていなかった。
すると、ズボンの辺りから、もらったお菓子の包み紙らしき紙が数枚、突然ポトリと落ちてきた。
「ああ、おいしかったあ」
トイヴォの近くで声が聞こえてくると、トイヴォはあわてて辺りを見回した。
しかし辺りはトイヴォ以外、誰もいない。
「い、いったい誰だ?僕のお菓子を食べたのは・・・出てこい!」
トイヴォが声をあげると、しばらくしてこんな声が聞こえてきた。
「分かったよ。でもちょっと待って・・・君にも姿が見えるようにするから」
トイヴォが辺りをキョロキョロしていると、突然目の前に声の主が姿を現した。
その姿を見て、トイヴォはうわっと声を上げた。
目の前に現れたのは、頭からお腹まで龍の姿をしているが、お腹から下の部分は魚になっている
動物ともいえない生き物だった。
「君はいったい何者なんだい?どうしてそんな姿をしているの?」
トイヴォは目の前で宙にフワフワ浮いている生き物に尋ねた。
「え?見て分からないの?」その生き物はトイヴォの反応に戸惑いを見せた。
「おかしいな、龍に変身したつもりなのに・・・・」
「それで龍だって?」トイヴォはあまりにもヘタな変身ぶりに思わず吹き出した。
「龍はそんな魚のしっぽはついてないよ。それにもっと体が長いんだ」
「お父さんの真似をしたつもりだったのに、うまくいかないや・・・やっぱり変身は苦手だな」
笑われてその生き物がしょぼんと落ち込んでいると、トイヴォはお父さんという言葉にはっと気が付いた。
「お父さん?・・・・もしかして君、あの星の鏡の守り神の子供なの?」
「そうだよ。君が星の鏡の中に入って、この世界に着いた時からずっとそばにいたんだ」
「どうして?」
「なんだか面白そうだったから。それに僕も星の鏡の外に出たかったんだ」
「そうなんだ・・・・・君、名前はあるの?」
「僕の名前はヴァロっていうんだ」
「ヴァロ・・・・僕はトイヴォ。よろしくね」
2人はいつの間にか打ち解けて、仲良くなっていた。
トイヴォは道の先を見つめていた。
「そろそろポルトに行かなくちゃ・・・・」
「さっき言っていた港町に行くの?」とヴァロ
「うん、そこに行けば何か見つかるかもしれない。和尚様に頼まれた女の子も探さなくちゃ。
ここから3日もかかるから、今夜の寝るところも探さないと」
「そんなことしなくてもすぐ行ける方法があるよ」
ヴァロがそう言うと、トイヴォはそれを聞いて戸惑った。
「え?そんな・・・・だって大人でも2日はかかるっていうんだよ。乗り物もないし」
「乗り物なんてなくたって平気だよ」
ヴァロは後ろの洞窟の入口の岩壁に近づくと、両手から光を放った。
光が当たっている場所に大きな穴が開くと、トイヴォはそれを見て驚いた。
「ヴァロ、これは・・・・・・・」
「この穴の中に入れば、すぐ目的地に行けるさ。さあ入って」
大きく開かれた真っ黒な穴の中に、トイヴォは戸惑いながらも中に入った。
ヴァロもトイヴォの後に続いて穴の中に入ると、穴が小さくなり、岩壁からは跡形もなく消え去ったのだった。