修正された過去

 



バイクがある場所に到着すると、蒼太は辺りを見回した。
駐車場なのか辺りには多くの車やバイクが置かれている。



ここはどこだろう・・・・黒い高級車みたいなものがある。
それに駐車場にしてはとても広い場所だ。



すると後ろに乗っている白髪の男性が声をかけた。
「蒼太くん」
蒼太が後ろを振り返ると、白髪の男性は既にバイクを降りていた。
さらに白髪の男性の服を見た途端、蒼太は戸惑った。
見慣れた黒い服から暗いモスグリーンの軍服のような制服に変わっていたからだ。



「え・・・・・?その服、どうして・・・・いつの間に着替えたんですか?」
「君も今すぐこれに着替えるんだ」
白髪の男性が自分が来ている服と同じ服を蒼太に差し出した。
「え・・・・・・どうしてですか?」
「いいから早く。今着ている服の上から着るんだ。誰かに見つからないうちに早く!」
「わ・・・・分かりました」
制服を押し付けられるように受け取ると、蒼太は仕方がなさなそうにバイクを降りた。



蒼太は制服を着終えると、再び白髪の男性に聞いた。
「着ましたけど、どうしてこれを着なきゃいけないんですか?それにここは・・・・」
白髪の男性は制服姿の蒼太を見ながら
「ここはならず者が支配している国家だ。いわゆるならず者国家・・・・今着ている服はその国家の軍服だ」
「軍服だって?どうして軍服なんて着なきゃいけないんですか」
「まあ聞きなさい」白髪の男性は誰かいないか辺りを見回した。
そして誰もいないと分かると話を始めた。
「この国では2年前、ある実験が行われるはずだったが中止になった」
「ある実験?」
「そうだ。この国が開発した最新兵器の実証実験だったがある人物のせいで中止になった」
「最新兵器って・・・・・もしかしたら爆弾みたいなものですか?」
「ああ。とても強烈な破壊力を持った爆弾だ。その実験を地下でやろうとしていた」
「え、でもそれが中止になったって・・・・中止になってよかったんじゃないんですか?」
「普通ならそう思うが、中止になったせいで蒼太くんやあのお嬢さんがいるあの街が大地震に見舞われた。
 だからこうして2年前に戻ってきた今、実験を予定通りに行われるようにしなければならない」



蒼太は白髪の男性の話している内容がよく分からなかった。
「え・・・・・実験が行われたらどうなるんですか?」
「実験が行われれば、我々が初めて会ったあの場所で地震が起こることになる。そうすれば2年後のあの大地震にはつながらない」
「ここでの実験がオレ達が住んでいる街に影響を与えているってことですか?」
「残念ながらそうだ」白髪の男性は地面を見ながらこう言った。
「ここで地下実験が行われれば地下プレートに大きな影響がある。それほどの威力がある兵器だ。地下で爆発すればその影響で
 プレートが動いたり、プレート同士が衝突したりする可能性がある」
「でも、こことオレ達のいる街はかなり離れてるんじゃないんですか?あまり影響がないような・・・・」
「ここで開発しているのは遠距離用だ。それにプレートがひとつ動けばどうなるか・・・」



どっちにしてもここでの実験があの街に地震をもたらしてるってことか。
でもどうして予定通りに実験をしなきゃいけないんだ?



蒼太が考えていると白髪の男性はそれを見抜いていたかのように
「もし今ここで実験が中止になったら、2年後にここで再び実験が行われることになる。その時は今よりも兵器が巨大化する。
 爆弾も倍の量になる。それがあの大惨事を引き起こすことになる」
「何だって・・・・・!」
「だから今ここで実験を成功させる必要がある。予定通りにね」
「そういうことか・・・・・・・それで、そのある人物っていうのは誰なんだ?」
すると白髪の男性は左腕の服の袖をまくり上げ、嵌めている時計を出した。



時計から大きな画面が現れると、白髪の男性は再び話を始めた。
「その人物の画像を今から出すが・・・・・時間警察の幹部の1人だ」
「じ、時間警察の幹部だって!?」蒼太は驚いて聞き返した「時間警察がどうしてここに?」
「詳しいことはまだ分からないが、軍の司令官とつながりがあるらしい」
白髪の男性は画面に1人の紺色の制服姿の男性が映ると、画面を止めた。
「この男が該当人物だ。今からこの男がこの国家の元首に会いに来る。我々がやることは元首とこの男が会わないようにすることだ」



蒼太は画面の男を見ながら、どうすればいいのか戸惑っていた。
「会わないようにって・・・・・・この男が元首に会いに来るっていうのはここの人達は知ってるんですよね?」
「ああ。と言っても1部の上層幹部だけだ」白髪の男性は視線を画面から蒼太に移した。
「会わないようにするのがベストだが、元首と話をさせないようにできればいい。元首との接触をさせないようにすることだ」
「でも、どうやって?それにオレ達は上層幹部じゃないし・・・・」
「それなら心配はいらない。この制服にたくさんの勲章やバッジをつけている。勲章とバッジの数で上層幹部なのかどうか分かる」
白髪の男性が胸についているたくさんの勲章やバッジを蒼太に見せていると、どこかから大きな声が聞こえてきた。
「間もなく元首様が来るぞ!それぞれ所定の場所に着け!」
「噂をすれば・・・・・・とにかくやるしかない。画面の男を見かけたら両側に着くように」
白髪の男性は画面を消すと、足早に歩き始めた。
「え、あ・・・・・・両側って・・・・・?待ってください!」
蒼太は慌てながら白髪の男性の後を追った。



しばらくして2人はある建物の広い一室の中にいた。
そこには2人と同じ軍服を着た大勢の軍隊が並び、元首が来るのを待っている。
その先頭の列に2人はいた。
2人の間には画面に映し出されていた紺色の制服を着た男がいる。



右側にいるのが例の男か。
うまく両側に並ぶことができたけど・・・・・・。
ここに来る前にどうするか聞いたけど、それでうまくいくのかどうか。



蒼太が不安に思っていると、遠くでドアが開かれる音が聞こえてきた。



しばらくして元首と思われる男性が入ってきた。
シルバーのジャケットに、黒のズボンを着た大柄で太目の姿。
軍服を着た男性2,3人を後ろに引き連れている。



元首とその取り巻きは蒼太の目の前を通りすぎ、しばらくして立ち止まった。
すると取り巻きの中の1人が元首に近づいて小声で何かを話している。



蒼太は元首と話をしている男の軍服を見た。
胸には大きな勲章みたいなものが数多く並んでいる。



あの男がもしかしたら司令官なのか?



蒼太が紺色の制服の向こう側にいる白髪の男性を見ると、白髪の男性はちらっと蒼太の顔を見て軽くうなづいた。
紺色の制服の男は元首をじっと見ている。



すると前方から怒鳴るような声が聞こえてきた。
蒼太が前を向くと、元首が不機嫌な様子で側にいる司令官に怒鳴りつけている。
「予定時間はとっくに過ぎているぞ!いつになったら始まるんだ!」
「も、申し訳ございません。準備に時間がかかっているようで。準備が整い次第実験を始めますのでお待ちを・・・」
「もう充分過ぎるほど待っている。これ以上待たせる気か?」
「準備ができましたらすぐに始めます。ですからもう少しお待ちを」



蒼太が目の前で行われているやり取りを見ていると、右側にいる紺色の制服の男が少し前に動いたのを感じた。
「元首様・・・・・」
紺色の制服の男が元首に呼びかけると、蒼太は紺色の制服の男の方を向いた。
その時、心の中で白髪の男性の声が聞こえてきた。
「今だ、なんとかその男を阻止するんだ」



今の声は・・・・・・・!



蒼太はその声に驚きながらも、反射的に右足を横に出した。
同時に紺色の制服の男の左側にいる白髪の男性も左足を横に出した。



前に出ようとした紺色の制服の男は2人の足に自分の足を引っかけた。
紺色の制服の男は元首と司令官の目の前で大きく倒れ込んでしまった。



それを見た司令官は紺色の制服の男に近寄った。
「だ・・・・大丈夫ですか?」
するとそれを見ていた元首はさらに不機嫌になったのか冷たい声で紺色の制服の男に言い放った。
「私の目の前で派手に転ぶとは、一体何のつもりだ?」
紺色の制服の男は顔を上げながら
「い、いえ・・・・・そんなつもりでは」
「こんな失礼な奴とはもう話をするつもりはない。早くここから出ていけ」
「そ、そんな・・・・・」
すると元首は側にいた2人に向かって命令した。
「目の前にいるこいつを今すぐ連れて行け」



紺色の制服の男はたちまち2人の男に拘束され、部屋の外へと連行されて行った。
それと入れ違いに別の軍服の男が部屋に入って来ると、司令官に何やら話をしている。
話を聞いた司令官は元首に近づいた。
「ただいま実験準備が整ったようです」
元首は黙ったまま深くうなづいた。



元首が後ろを振り返った途端、壁に大きな画面が現れた。
画面には実験場が映し出され、大きなミサイルのようなものが映っている。



あれが最新の兵器なのか?



ミサイルがゆっくりと前へ動いているのを蒼太はただ見ているしかなかった。
白髪の男性はもちろん、周りにいる軍服の男達も黙って画面を見つめている。
発射するのかカウントダウンする音声が聞こえてきた。



カウントダウンを終えると、ミサイルはオレンジ色の火を放ち、白い煙を出しながら地下の暗闇の中へと突き進んで行った。
しばらくすると別の画面に切り替わったのか、小さな光と共に爆発音が聞こえてきた。
「実験は成功しました」
画面から声が聞こえてきた途端、いっせいに歓声の声が上がった。



画面が消えると元首は部屋を出ようとドアの方を向いた。
元首の顔は満足したような笑みを浮かべている。
そして側にいる司令官と何やら話をしながらゆっくりと部屋を後にした。



元首が部屋から去り、辺りにいる男達も解散となったのか部屋を出ようと歩き出した。
「我々も部屋を出ようか」
白髪の男性が蒼太に声をかけると、蒼太は黙ってうなづいた。



部屋を出て、バイクが置いてある駐車場へと歩きながら蒼太は考えていた。



実験は成功した。
でもこれであの街に地震が起こることになる。
予定通りなんだろうけど、なんか納得がいかないな・・・・・・。



気難しい顔をしながら歩いている蒼太に白髪の男性が声をかけてきた。
「蒼太くん、どうしたんだ?」
「・・・・・・え?」
しばらく間が空き、白髪の男性が蒼太を見ているのに気が付くと、蒼太は小さい声を上げた。
「今誰もいないから、着ている服を脱いでも問題ない・・・・どうかしたのか?」
「え、あ、いや・・・・・さっきの実験、本当にあれでよかったのかなって思って」
「蒼太くんとしては、実験は失敗した方がよかったと思ってるのか?」
「いいえ、そういう訳じゃないですけど。なんか納得がいかないというか。もっと違うやり方があったんじゃないかって」
バイクが停めてある場所に着くと、蒼太は軍服の上着を脱ぎ始めた。



着替えている蒼太を見ながら白髪の男性は話し出した。
「確かに違うやり方はあるかもしれない。ここでの実験を中止して、君達が住む街で地震が起こらないようにする方法が。
 でもそれをやったとしても、必ずどこかで影響が出る。君達とは関係のないところで大きな被害が出るかもしれない」
「・・・・・・」
「だから起きてしまった過去は自分の都合で変えてはいけない。どこかでその影響が必ず出るからね」
蒼太が着替えを終えると、白髪の男性は蒼太が来ていた軍服を回収した。



白髪の男性の服が瞬間的に元の黒い服に変わると、両手に持っていた軍服も同時に消えていた。
「ここはもう用済みだ。誰も来ないうちにあのお嬢さんのいるところに戻ろう」
「え・・・・・い、いつの間に着替えたんですか?」
白髪の男性の服が変わっていることに驚いていると、白髪の男性はバイクの後ろの席に座りながら
「誰も来ないうちにこの場を離れるんだ。見つかったら元に戻れなくなるぞ、早く!」



一方、山の頂上では降り続いていた雨はすっかり止んでいた。
雲がなくなり青空が広がっている。
遠くで鳥達のさえずる声が聞こえる中、千尋は目を覚ました。



ここは・・・・・?



避難で疲れてしまい、いつの間にか眠ってしまっていたのだ。
千尋は目の前に青空が広がっているのを見ると、ゆっくりと起き上がった。
辺りを見回して見ると、千尋の他には誰もいない。



誰もいないわ。
確か、みんなここに避難してきて一緒にいたはずなのに。
どこかに行ってしまったのかしら?



状況の変化に千尋は戸惑いながら立ち上がった。
そしてどうなっているのか確かめようと、ゆっくりと前へと歩き始めた。



その山のふもとにバイクが現れた。
蒼太と白髪の男性がバイクを降りると、蒼太は辺りを見回した。
辺りは何もなかったかのように平穏な雰囲気に戻っている。



「どうやら本来の状況に戻ったようだ」
白髪の男性が辺りを見回していると、蒼太はうなづきながら
「よかった・・・・・・あの大地震が起こらなかったことになったんですね」
「過去を元通りにしたからね。本当によかった」
「千尋さんはどうなってるんですか?」
「もしかしたらまだこの状況が分かっていないかもしれない。山に避難しているのならまだ山にいるかもしれない。
 今すぐ会って状況が変わったと伝えないと」
「じゃ、今から山に向かいましょう。頂上から行った方がいいかもしれません」
蒼太が再びバイクに乗ると、白髪の男性はその場を動かず蒼太を見ている。



蒼太は白髪の男性の行動に戸惑いながら聞いた。
「・・・・乗らないんですか?」
「悪いが、そろそろ私は別のところに行かなくてはいけない。やる事があってね。君とはここでお別れだ」
「そうですか・・・・・」
蒼太が残念そうな表情を浮かべていると、白髪の男性が蒼太に近づいた。
「それから、私がさっき話した事は決して誰にも話さないように」



「さっきって・・・・あのビルの屋上で聞いた話ですか?」
「ああ」白髪の男性はうなづいた。「あのお嬢さんにもだ。どこかから話が漏れ出すとも限らないからね、それに・・・・・」
「それに?」
「早くあのお嬢さんと会った方がいい。さっきのあの場所で過去を元通りにした事で時間警察が動いているかもしれないからね」
白髪の男性の言葉に蒼太は地震と津波の中、ビルの屋上で聞いた話を思い出した。
蒼太はゆっくりとうなづくと、白髪の男性はその場で姿を消した。



千尋は遠くに見える街の様子を見ていた。
街の建物はひとつも壊れておらず、海岸では沖の方に大きな防波堤が建っているのが見える。
まるで何事も起こっていなかったように、街はすっかり平穏になっていた。



一体、どうしたのかしら。
何も起こってなかったことになってるなんて・・・・・・。
今まで悪い夢でも見ていたのかしら?



状況の変化に、千尋はどうなっているのか分からなかった。



でもずっと蒼太さんの姿が見えないわ。
どうしたのかしら。



千尋は蒼太がどうしているのか気になっていた。
蒼太に連絡をしてみようとカバンからスマホを取り出し画面を見るが
電源が切れているのか、どのボタンを押しても画面は暗いままだった。



電源が切れてる。
蒼太さんを探さないと。
でも一体どうすればいいの・・・・・・。



千尋はどうすればいいのか分からず途方に暮れていた。
ふと空を見上げると、千尋は思わず小さな声を上げた。



「あ・・・・・・・」



遠くに見える海岸の空に、大きな七色の虹が見えた。



蒼太はハンドルを握ると、バイクを発進させた。
バイクが空に向かって高く上がっていき、山の頂上を少し超えた高さまで上がると、遠くに大きな虹がかかっているのが見えた。



海に虹がかかってる。
こんなに大きな虹なんて、あまり見た事なかったな。
遠くにあるのに七色がこんなにはっきり見えるなんて。



蒼太はバイクを停めたまま虹を見ていると、千尋の事を思い出した。



もしかしたら千尋さんもこの虹を見てるかもしれない。
見ているとしたら山の頂上だ。
近くにいるかもしれない。



蒼太は再びバイクを走らせた。
山の頂上が見えてくると、バイクの速度を落とし蒼太は千尋がいないか辺りを見回し始めた。
そして開けた場所に出た時、そこに1人の見覚えのある女性の姿を見つけた。
「千尋さん!」



海岸の虹を見ていた千尋は何かに気が付いた。



何かしら・・・・・誰かに呼ばれたような気がする。



千尋は後ろを振り返ってみるが、そこには誰もいない。
さらに辺りを見回してみるが、誰の姿も見当たらない。



気のせいだったのかしら・・・・・?



千尋がそう思っていると、再び声が聞こえてきた。



「千尋さん!」



千尋は声が聞こえてきた空を見上げた。



見覚えのある1台のバイクがこちらに近づいて来るのが見えた。
バイクに乗っているのが誰だか分かると、千尋は思わず声を上げた。
「蒼太さん!」



しばらくして蒼太の乗ったバイクが頂上に着地すると、千尋はバイクに向かって走り出した。
「蒼太さん!」
それを見た蒼太もバイクから降りると、走って来ている千尋に向かって走り出した。
「千尋さん!」
そして2人は抱き合うと、しばらくその場を動かなかった。



しばらくすると千尋が抱き合ったまま蒼太に言った。
「よかった・・・・・蒼太さんが無事で。本当によかった」
すると蒼太も抱き合ったまま
「千尋さんが無事でよかった・・・・・どうなっているのか気になってたけど、無事でよかった」
「蒼太さん、今までどこに行ってたの?私ずっと蒼太さんの事が心配で・・・」
「ごめん・・・・オレの事心配してたんだ」
「う・・・・・うん。そうよ。ずっと心配してたんだから」
蒼太の言葉に千尋がドキッとしながら答えると、蒼太は千尋から離れた。
「心配かけてごめん。いろいろ大変だったんだ」



「大変だったって、一体何があったの?」
千尋が蒼太を見ていると、蒼太は辺りを見回しながら
「オレ達が戻ってきた時、地震があってここに避難して来ただろう?」
千尋はうなづきながら
「避難して来た人でいっぱいだったわ。でもいきなり元に戻ったみたいになって・・・・・・」
「地震が起こらないように過去に行ってたんだ。あのおじさんと一緒に」
「え、あのおじさんって・・・・・黒い服のあのおじさん?」
「うん。いきなり現れて、この地震は本来起きるはずじゃない地震だから、過去に戻って起こらないようにしようって」
「そうだったの・・・・・それでおじさんは?」
「山のふもとまで一緒だった。でも用があるってどこかに消えた」
「あのおじさん、一体何者なのかしら」
「さ・・・・・さあ。オレにも分からないけど」
蒼太が首を振りながらごまかすと、会話が途切れ静かな空気が流れていた。



「で、でも元に戻ってよかった。街が平和になって」
蒼太が遠くに見える街の景色を眺めていると、その隣で千尋が空を見上げながら
「蒼太さん、あの虹見た?」
「あ・・・・・あの虹、まだ残ってるんだ」蒼太も空の虹を見上げた。「戻ってきた時に見た。でも・・・・」
「でも?」
「千尋さんの事が気になってたから、その時はゆっくり見れなかった」
「蒼太さん・・・・・」
「オレも千尋さんの事心配だったんだ。こうして会えるまでずっと」
蒼太が千尋の方を向くと、千尋も蒼太の方を向いた。



2人はお互いの顔を見つめ合っていた。
「千尋さん、オレ・・・・・・」
蒼太が途中まで言いかけた時、突然横から男性の声が割り込んで来た。
「そこの2人、ちょっといいかな?」



2人が声がした方を向くと、紺色の制服姿の男性が3人いた。
「お前達は・・・・・・・!」
蒼太が制服を見た途端、男達が時間警察だと察した。
すると一番後ろにいた警官が千尋を見た途端、気が付いたように千尋を右手で指差した。
「あ、あの女、脱獄した・・・・・・」
「千尋さんを捕まえに来たのか?そうはさせない」
蒼太が千尋の前に来ると、前にいる警官は首を振りながらこう言った。
「いいや、今日は女性には用はない。君に用があるんだ」
「オレに?」
「ああ。あのテロリストと一緒に過去に戻ったっていう情報が入ってきている。その件について聞きたいんだ」



蒼太は警官の言葉に何も動じなかった。
白髪の男性から蒼太を捕まえに来るかもしれないと聞いていたからだ。



やっぱり来たか。
それにしても来るのが早すぎる。
あの男がわざと情報を流したのか・・・・・?
でもここは予定通りに動くしかない。



「分かりました」
蒼太が素直に応じると、千尋は驚いた。
「蒼太さん・・・・・・!」
蒼太は千尋の方を振り返り
「大丈夫ですよ。終わったらすぐ戻ってきますから」と微笑みを見せた。



蒼太は警官に近づくと、2人の警官が蒼太を取り囲んだ。
「詳しい話は向こうに行ってからにしましょう。では・・・・・」
警官は蒼太にそう言うと、千尋に頭を下げた。
そして3人の警官は蒼太を連れて歩き始めた。



「蒼太さん!」
だんだんと離れていく蒼太の後ろ姿を見ながら、千尋が声を上げた。
蒼太は一瞬立ち止まり、後ろを振り返ろうとしたが、警官に止められた。



蒼太さん・・・・・・・。
話が終わったら、すぐ戻ってくるって本当なの?
やっと会えたと思ったのに、どうしてこうなるの?
どうして・・・・・・・。



だんだんと小さくなっていく蒼太の姿を、千尋はただ見送るしかなかった。