星の鏡シリーズ番外編  森のこもれび3

 



部屋の中に風が吹いてきた。
外の木々の葉を揺らし、ざわざわという音が聞こえている。
和尚が風が吹いてきた庭の方を見ると、トイヴォも庭を見ながら聞いた。
「ユリウスさんはカレヴィさんのことを・・・・カレヴィさんの正体を知っているんですか?」
「ああ、知っているとも」
和尚はトイヴォの方を見ると、続けて話を始めた。
「でもそれはかなり時間が経ってからだ。ユリウスが青年になり始めた頃までは分からなかったと思う」
「和尚様はすぐ分かったんですか?」
「ああ・・・いつもユリウスが先に寝ていたから。ユリウスが緑色の球体を抱いて眠っているのを何度も見ていたからな」



すると玄関の扉が開く音が聞こえてきた。
1人の黒髪の少女が入って来ると、和尚が声をかけた。
「リンネアか。山神様は特に変わりはなかったか?」
「はい」リンネアが答えると、トイヴォの姿が目に入った。「トイヴォ、来ていたの?」
「うん。山神様と散歩してたの?」とトイヴォ
「そうよ。トイヴォはここで何を話してたの?」
「昔話をしていたんじゃ」和尚が割り込むと、トイヴォがリンネアを誘った。
「和尚様の話を聞いていたんだ。リンネアも一緒に聞く?」
するとリンネアは首を振りながら
「ううん。これから山神様の食事の準備があるの。また今度聞くわ」
「そうなんだ・・・・」
「ごめんなさい。じゃ行くわね」
リンネアは廊下を歩き出すと、その場を後にした。



リンネアの姿がなくなると、トイヴォは和尚の方を向いた。
「それで森の主には会えたんですか?」
和尚は深くうなづくと、再び話を始めた。



3人は洞窟の中を歩いていた。
カレヴィが先頭を歩き、右手にはランプを持って暗闇を照らしている。
カレヴィのすぐ後ろには2人が横に並んで歩いていた。



若い僧侶は辺りを見回しながら考えていた。



こんなところに呼び出すなんて、本当に森の主がいるのだろうか。
森の奥深くなら分かるが、なぜ洞窟なのか・・・・・・。



すると先の方から水の落ちる音が聞こえてきた。



若い僧侶が前を向くと、カレヴィがランプを前に向けた。
「ここから先は鍾乳洞ですね。この先で森の主が待っているはずです」



しばらくして3人はある場所に着いた。
目の前は行き止まりで、少し先には水が溜まっており、小さな池のようになっている。
池の上には天井からつららのような岩がいくつも下がっている。
カレヴィのランプの灯りに照らされ、神秘的な雰囲気になっていた。



若い僧侶はカレヴィに聞いた。
「森の主はまだ来ていないみたいだが、本当にここに来るのか?」
「来ますよ」カレヴィはランプを下に置くと、辺りを見回した。「今はまだ来ていないみたいですけど」
「まだ来ていないのか。来るとしたらどこから来るんだ?」
「そんなに急かさないでください」カレヴィは辺りを見回していると、何かを感じたのか動きを止めた。
若い僧侶がカレヴィの様子を見ていると、カレヴィは何度もうなずきながら2人に言った。
「どうやら近くまで来ているようです。これから呼びますから2人とも目を閉じてくれませんか?」



それを聞いた若い僧侶は戸惑った。
「どうして目を閉じるんだ?」
「ここに入って来るところをあまり見られたくないようです。それに・・・・・」
「それに?」
「とても神々しい方ですので、光が強すぎて目が見えなくなってしまうかもしれません。光を加減するように
 伝えるので、最初は目を閉じていてもらえませんか?私がいいと言うまで」
「・・・・・分かった」
「ユリウスもいいですね?私が目を開けてもいいと言うまで、目を閉じているんですよ」
ユリウスは黙ってうなづいた。
「では今から呼びますから、目を閉じてください」
2人が目を閉じると、カレヴィは池の方を向いて天井を見上げた。



しばらくして若い僧侶は目を閉じていると、水の落ちる音が聞こえてきた。
それ以外は何の気配も感じられず、暗闇が広がっている。



あれからしばらく経つが、まだ何かが来ているという気配が感じられない。
本当に来るのだろうか。



若い僧侶が疑問に思い始めた時、側からユリウスの声が聞こえた。
「うわっ・・・・・・・・!」
カレヴィの言いつけを守らず、目を開けてしまったようだった。
驚いているような、叫び声にも聞こえるような声に、若い僧侶は何が起きたのか分からなかった。



それと同時に、何か大きなものが入って来た気配を感じた。
目の前の暗闇が明るくなり、何かが動いているような気配を感じた。



何かが来ているようだ。
何かとても大きなものを感じる。



するとカレヴィの声が聞こえてきた。
「もう目を開けてもいいですよ」



若い僧侶は目を開けると、眩しいくらいの光が目の前に飛び込んできた。



「うわっ・・・・・・!」



目がくらむような明るさに、若い僧侶は思わず光を遮るように両手を顔の前にやり、目を閉じた。
しかしゆっくりと目を開け、光の眩しさにだんだん慣れてくると両手を顔から下ろした。



目の前には様々な光が、辺り一面に広がっていた。
真っ白な光や黄金のような光があれば、淡いピンク色の光や燃えるような赤い光。
若草色のような緑色の光もあれば、空のような青い光。
さらにグレーのような暗い色や闇のような黒い光までもあった。



何が起こっているのか、若い僧侶は分からなかった。
カレヴィに何が起こっているのか聞こうと辺りを見回すが、カレヴィの姿が見当たらない。
若い僧侶の隣にはユリウスが、辺りに広がっている光を茫然と見つめているだけだった。



この目の前に広がっている光の集まりが、森の主なのか?
一体カレヴィはどこにいるんだ?



カレヴィの姿は見当たらず、若い僧侶は目の前に広がっている光を見ているしかなかった。



しばらくすると若い僧侶はある事に気が付いた。
様々な光が辺りを照らし、点滅したり動いたり止まったり、消えたかと思ったらまた別のところに現れたりしている。



この光、動いているのか。
それにそれぞれにまるで意思があるようだ。



するとカレヴィが以前言っていたことを思い出した。
「あなたが崖で見たドラゴンは私です。でもそれは仮の姿・・・・・今ここで話をしているこの姿もね」



あの崖で見た緑色のドラゴンが仮の姿だとすると、もしかしたら・・・・・。



若い僧侶は緑色の光を探し始めた。
辺りを見回していると、左端の奥の方で、緑色の光が現れるのを見つけた。
その光のすぐ左には、他の光とは違い、ひとまわりほど大きな白い光が点滅している。
緑色の光と白い光が点滅し合いながら、近づいたり離れたりを繰り返している。



緑色の光と白い光・・・・・・。
まるで何かを伝えているようだ。
緑色の光はもしかしたらカレヴィの本当の姿なのか?
そして白い光が森の主なのか?



若い僧侶が2つの光を見ながら考えていると、右足に何かが触れた。
右足に目をやると、ユリウスが地面に座ったまま若い僧侶の右足に寄りかかっている。
どうやら眠っているようだった。



若い僧侶は右手を伸ばし、ユリウスの体に触れようとした時、何かが動いている気配を感じた。
顔を上げると、光がいっせいに大きく動き始めたのである。
ゆっくり動き始めたかと思うと、だんだんスピードを上げて動きが早くなっていく。
若い僧侶とユリウスの周りをとり囲むかのように、鍾乳洞の岩壁をぐるぐると回っているようだった。



その時、つららのように天井から下がっている岩の先から水滴が落ちて行った。
下の池に水滴が落ち、同心円状に波紋が広がっていく。



若い僧侶は光の様子を戸惑いながら見ていた。



一体、急にどうしたんだ。
何をしようとしているんだ?



若い僧侶はなすすべもなく、ただ見ているしかなかった。



2人をとり囲んでいた光がすっかり白い光の色に変わると、光の先頭が天井へと向かって上がって行く。
光の固まりのようなものが続いて天井へと上がっていく。
そして光が天井へ上がり切ったかと思うと、そのままゆっくりと消えてしまった。



消えた・・・・・・・。



若い僧侶が天井を見上げたまま茫然としていると、再び水滴が池に落ちる音が聞こえてきた。



その音が聞こえたと同時に若い僧侶はひどい眠気に襲われた。



何だ・・・・・急に頭が重たくなってきた・・・・・・・。
それにとても眠い・・・・・・。



若い僧侶はその場に倒れこむと、そのまま眠り込んでしまった。



若い僧侶が目覚めると、辺りは真っ白な景色に変わっていた。
ゆっくりと起き上がり、辺りを見回すが、何もなく白い景色が広がっているだけである。



ここはどこなんだ・・・・・?
ユリウスは?カレヴィはどこにいるんだ?



若い僧侶は2人を探しながら辺りを見回していると、前方にうっすらと人影が見えた。
若い僧侶は誰なのか確かめようと、人影に向かって歩き始めた。



だんだんと人影に近づくにつれ、若い僧侶は見覚えのある姿に驚いた。
「御師匠様・・・・!」
するとその人影が後ろを振り返った。
そして若い僧侶の姿を見ると、平然とした様子で若い僧侶を見つめていた。



若い僧侶が戸惑っていると、老僧がゆっくりと話しかけてきた。
「外の世界はどうだ?」
「外の世界・・・・・・?寺院の外ということですか?」
「そうだ」老僧は戸惑っている若い僧侶の顔を見た。「どうやらまだ外に出たばかりで戸惑っているようだな」
「は、はい・・・・・・」
「お前の人生はまだ先は長い。良いこともあれば悪いことも起こる。この先いろんなことが起こるだろうが
 何が起ころうとも動じず、素直に受け止めることだ」
「・・・・・・・」
「自分がした行いは、全て自分に返ってくる。お前が小さい頃からずっと言ってきたことだが、日頃の行いが
 お前の人生を決めることもある。常日頃から自分の行動には心してかかるように」
「それは日頃から気をつけています。御師匠様がいつも言われていたことですから」
「そうか・・・・・」
老僧は若い僧侶から少し離れると、ゆっくりと辺りを見回した。



若い僧侶が老僧を見ていると、老僧が再び若い僧侶の方を振り返った。
「これからお前は安住の地を探しながら旅を続けるだろうが、もう誰かと会ったのか?」
「え・・・・・・?」
若い僧侶が戸惑っていると、老僧は若い僧侶の顔を見ながら
「もう誰かと出会っているのなら、大事にした方がいい。この先・・生涯を共に生きていくことになるかもしれないからな。
 それから・・・・・・」
「それから?」
若い僧侶が聞き返した途端、突然目の前が真っ暗になった。



「起きてください、大丈夫ですか?」
若い僧侶が目を開けると、目の前にはカレヴィの顔があった。
若い僧侶はカレヴィの顔を見た途端、驚いたように目を大きく見開いた。
それと同時に、さっきまで見ていた老僧は夢だと若い僧侶は気が付いた。



さっきまでのは夢だったのか・・・・・・・。
でもどうして御師匠様が夢に出てきたのだろうか・・・・・・。



若い僧侶は茫然と考えながら、辺りを見回した。



若い僧侶はゆっくりと起き上がりながら、カレヴィに聞いた。
「・・・・・ここは?」
「いつもの洞窟の中です。鍾乳洞の中でずっと眠っていたんですよ。ユリウスと一緒にね」とカレヴィ
「そうか・・・・・あの鍾乳洞からここへどうやって・・・・・?」
「あなたも何か食べますか?食事を持ってきますよ」
カレヴィがその場から離れようとすると、若い僧侶はさらにこう聞いた。
「ところでユリウスはどこにいる?」
「向こうで食事していますよ。一緒に来ますか?」
若い僧侶はうなづくと、立ち上がりユリウスのいる場所へ歩き始めた。



洞窟の外に出ると、ユリウスが何かを食べているところだった。
ユリウスの側には焚き木があり、火が燃えさかっている。



若い僧侶はユリウスを見ながら、少し離れた場所に座った。
岩壁を背にして座っていると、カレヴィが細い木の枝に刺してある焼いた魚を持ってきた。
「今日は川で魚が獲れたので、焼き魚にしました」
「ああ・・・・ありがとう」若い僧侶は魚が刺してある木の枝を取ると、ユリウスの姿をじっと見ている。
するとそれを見ていたカレヴィが隣に座りながら
「ユリウスが気になるのですか?」
「あ、いや・・・・」若い僧侶はカレヴィの方を向くと続けてこう言った「ユリウスは魚を食べたのかと思って」
「とてもお腹が空いていたみたいで、すぐ食べてしまいましたよ。どうやら好き嫌いはなさそうですね」
「そうか。ならよかった」
若い僧侶は木の枝を魚から抜くと、両手で魚を掴んでそのまま食べ始めた。



しばらくして食事を終えると、若い僧侶はカレヴィに聞いた。
「ところで、あの洞窟で見た光・・・・・あれが森の主なのか?」
「そうです」カレヴィはうなづいた「でもあの光全てが主ではありません」
「やっぱりそうか・・・・・だとすれば、主の他には何がいたんだ?」
「あの方の側にはいつも小さな光がついています。主から生まれた光です。いずれは離れてしまいますが」
「何だって・・・・・?じゃあの森の主は新たな光を生み出すこともできるのか?」
「そういうことです」
カレヴィは近くにいるユリウスの方を見ると、ユリウスはすっかり眠ってしまっていた。
それを見たカレヴィはユリウスのところに行こうとすると、若い僧侶が呼び止めた。
「それで、あの洞窟で森の主とどんな話をしたんだ?」



カレヴィは再び若い僧侶の方を向いた。
「これからどこに行けばいいか、話をしていました・・・・・ここから北に移動し、山の頂上を目指して行けば
 新たな生活ができると」
「北の山の頂上・・・・・・」
「明日から移動しますか?」
若い僧侶はうなづくと、カレヴィはユリウスのところへ行こうと、その場を離れた。



「・・・・・こうして我々は北の山頂に移動して、辿り着いてできたのが、あのタハティリンナじゃ」
和尚が話を終えると、お茶を一口すすった。
「タハティリンナは和尚様1人で建てたんですか?」とトイヴォ
「最初は1人だったが、すぐにカレヴィとユリウスが手伝ってくれた。それに通りがかった人達も見かねて手を貸してくれたり
 建物ができていくにつれて、手伝うから1日泊めて欲しいという人達もいたりしてな。数年かけてあの建物を作った。
 さらにその間、ユリウスの将来を考えて武術と学術を教えてたりもしたんじゃ」
「え、和尚様が武術をユリウスさんに教えてたんですか?」
「ああ。小さい頃、御師匠様に武術を教えてもらってな。御師匠様は厳しい方だったから、修行も武術もかなり厳しく
 鍛えられた。それでユリウスにも教えようと思ったんじゃ。今はすっかりユリウスの方が武術については詳しくなった」
「そうだったんですか・・・・・それからもうひとつ気になっていることがあるのですが」
「気になっていること?」
「寺院を出る時に、御師匠様から巻物をもらったんですよね。巻物には何が書いてあったんですか?」
「気になるのか?」
トイヴォはうなづくと、和尚はその場からゆっくりと立ち上がった。



しばらくして和尚が巻物を2本両手で抱えるように持って戻ってきた。
巻物を床に置くと、金色の巻物を手に取り、巻かれている金色の紐を解いた。
「さあ、何が書かれているか・・・・・見てみるとしようか」
和尚がそう言うと、巻物を床に向かって大きく広げた。



床に広げられた巻物の中身を見たトイヴォは、唖然とした。
巻物は真っ白で、何も書かれていなかったのである。
「・・・・・・・・?」
トイヴォは真っ白な紙を戸惑いながら見つめていると、和尚はそんなトイヴォを見ながら
「戸惑っているようじゃな。私も最初これを広げた時は驚いた。大事な経典が書かれていると思ったら真っ白だったからな」
「え・・・・・?本当に何も書かれてないんですか?」
「御師匠様がお前にはもう教えることはないと言っていたから、もう何も修行することはない。だから何も書かれていない
 巻物を渡されたと最初は思っていたんじゃ」
「え・・・・・・・・?」
「しばらくの間、この巻物を広げることはなかった・・・・でもある事がきっかけで、何が書かれているか知ることになった。
 偶然、ユリウスから教えてもらったんじゃが、何が書かれているか分かるかな?トイヴォ」



和尚に言われたトイヴォは、白い巻物を見つめながら考えていた。



見た感じだと、何も書かれていないように見えるけど・・・・・。



トイヴォは巻物を見ながら、床に置いてあるコップに手を伸ばした。
しかし、よく見ていなかったのか指先がコップに当たり、コップが小さく揺れてしまった。
「あっ・・・・・・・!」
気が付いたトイヴォは慌てて手でコップを抑えたが、中に入っているお茶が少し巻物にこぼれてしまった。



「ごめんなさい和尚様、今すぐ拭きますから」
トイヴォが慌てて濡れたところを見た。
すると濡れている部分から、何か黒い色がにじみ出ているように見える。
「和尚様、これは・・・・・・!?」
「気がついたようじゃな」トイヴォが和尚の顔を見ていると、和尚は微笑みながらこう答えた。
「その巻物は濡らせば文字や絵が出て来るようになっているんじゃ。ユリウスもさっきトイヴォがやったように、
 巻物の上に水をこぼしてしまった。洗い場に持って行って、濡らしてみよう」



2人は巻物を持って、外にある洗い場へと向かった。
洗い場に着き、トイヴォが細長い四角形の岩の中にある透明な水の中に巻物を広げて入れると
だんだんと絵のようなものが浮かび上がってきた。
和尚は覗き込むように巻物の絵を見ながら
「もうほとんどの絵が出てきただろう。水から上げようか」
「はい」
トイヴォは巻物を両手でゆっくりと持ち上げ、水から上げると、和尚が巻物の片端を持った。
トイヴォは巻物のもう片方を持ったまま、絵を眺めた。



その絵は縦に描かれており、上の方には青い空が描かれている。
青い空の中央には神様のような白い着物のような服を着た人物が描かれている。
その下には多くの人々や動物が描かれ、さらにその下にも人物が描かれているが
頭に角がある怪物に追いかけられたり、捕えられて縄で縛られたり、大勢の人々が倒れているのが描かれている。



トイヴォが黙って絵を見ていると、和尚がそれを見て話し始めた。
「この絵は輪廻転生が描かれている。輪廻転生は死んであの世に還った霊魂が何度も生まれ変わることを言うんじゃ。
 人間だけではなく動物も含まれておる、命あるものがたとえ何度死んでも、この世に生まれ変わるんじゃ」
「え・・・・・じゃ、死んだ父さんも生まれ変わっているってことですか?」
「そうじゃ」和尚はうなづきながら続けた「生まれ変わったとしても人間としてとは限らない。動物に生まれ変わっている
 かもしれんな。それは神様が決めることじゃ」
「・・・・・・」
「神様はこの世でどんな人生を送ったかで、来世を決める。普段の行いが良ければまた人間か、動物に生まれ変われる。
 しかし行いが悪ければ地獄に落ちる。そんなことがこの絵に描かれているんじゃ」



しばらくして2人は濡れた巻物を庭の縁側に置くと、部屋に戻った。
そして床に置いてあるもう1本の黒い巻物をトイヴォが広げると、トイヴォは中身を見てはっと気が付いた。



これは・・・・・あの時の文字とそっくりだ。



トイヴォが巻物を広げて見ていると、和尚がそれを見て声をかけた。
「トイヴォはその文字を見た事があったかな?」
「あ、はい」トイヴォは和尚の方を向いた「確か、旅をしていた時に和尚様からの手紙で・・・・・」
「覚えていたのか」和尚は巻物の中身を見ながら続けてこう言った。
「これは寺院にいた時に、御師匠様から教わった文字じゃ。この文字は寺院の中だけで使っていて、寺院の外の人達には分からない
 ように、暗号のような文字にしている。今は寺院がどうなっているのか分からないが、今はカレヴィとユリウスに連絡を
 取る時に使っている」
「そうだったんですか。どうりで見ただけじゃ何が書いてあるのか分からないはずです」
「トイヴォ、その文字に興味があるのか?」
「はい。何が書いてあるのか知りたくて」
「そうか・・・・・・」
和尚は何とも言えないような微妙な表情を見せたが、しばらくしてトイヴォに言った。
「この文字に興味があるのなら、少しずつだが教えていこう。でも最初は分かるまでは難しいぞ」
「本当ですか!ありがとうございます」
トイヴォが嬉しそうな顔でお礼を言うと、和尚は巻物を手に取った。



「今日はここまでにしておこうか」
和尚が巻物を丸め始めると、そこにヴァロが現れた。
「ヴァロ!」
ヴァロの姿を見た途端、トイヴォが嬉しそうに声を上げた。
「あ、トイヴォ!トイヴォだ」
ヴァロもトイヴォの姿を見ると、嬉しそうに空中をふわふわと飛びながら、笑顔でトイヴォに近づいた。
そして2人で再会を喜びながら抱き合っていた。



しばらくして2人は離れるとヴァロが聞いた。
「しばらく会ってなかったね!元気だった?」
「うん。ここにはいつも来てるの?」とトイヴォ
「うん。いつもこの時間に来てるよ。たまに遅くなることもあるけど」
するとそこにリンネアが部屋に入ってきた。
「和尚様、休憩の時間です・・・・・あら、ヴァロも来てたの?」
「うん、今日は時間に間に合うように来たよ!」
リンネアの姿を見ると、ヴァロは大きくうなづいた。
「そうね。昨日は来るのが遅かったから、お菓子がすっかりなくなった後だったわね」
「ヴァロ、お菓子目当てにここに来てるの?」
それを聞いたトイヴォが半ばあきれながら聞くと、巻物をすっかり丸めた和尚が割り込んできた。
「まあまあ。それじゃ台所に行こうか。2人とも久しぶりに会ったようだから、向こうでゆっくり話をしよう」
「あ、はい」



リンネアと和尚が先に部屋を出ると、その後でトイヴォとヴァロが楽しそうに話をしながら部屋を出て行くのだった。