炎の花

 




像の前に置いてある花束から、黄色い炎が静かについた。
小さな炎がひとつついた後、後に続くように次々と小さな炎がついていく。
茎の部分は燃えておらず、花の部分だけが静かに燃えている。



炎が次々とつくと、前で眠っているアルマスの姿をだんだん明るくうつし出していった。
その炎は、アルマスの冷えた身体を暖めようとしているようだった。



アルマスとホーパスは疲れ切っているのか、そんな事が起こっているとは気づかず眠り続けた。



それから数時間後。
外では空がすっかり明るくなり、朝になっていた。



一方、眠っているアルマスに誰かが声をかけてきた。
「おい、起きろ」
「・・・・・・・?」
アルマスが声に気がついて目を開けると、そこには1人の見知らぬ男性がいた。
アルマスが目覚めると男性は続けてこう聞いてきた。
「おい、お前か?像の前にある花に火をつけたのは」
「え・・・・・?像の花?」
アルマスは眠そうな表情のまま、男性が何を言っているのか分からず聞き返した。



すると男性は気に障ったのか不機嫌になった。
「そこの前に像があるだろう。その前にある花に火をつけたか聞いてるんだ。つけたんだろう?」
アルマスは何を言っているのか分からないまま起き上がって、後ろにある像を見た。
像の前には花束のような植物があり、花らしき部分は全て火がついている。



花に火がついてる・・・・・こんな花、昨日の夜あったなんて気がつかなかった。



「僕は知らない」アルマスは首を横に振った。
「何だって?」
「僕は昨日の夜、ここに来ました。でもすぐ眠ってしまって・・・・何もしていません」
「そうだよ」ホーパスがいつの間に起きていたのか、アルマスの側に来て男性に言った。
「僕らは昨日ここに来て、すぐ横になったんだ。だから何もしてないんだ」
「じゃ、一体誰が火をつけたんだ?ここにはオレとお前しかいないんだぞ」
男性はホーパスに気づいていないのか、アルマスに疑いの目を向けながら、続けてこう言った。
「それに黙ってこの家に入ってきたんだ。この花を盗もうとしていたんだろう」
「黙って入ったのは謝ります。でも本当に何もしていません」
アルマスが再び否定していると、後ろから誰かが来る気配を感じた。



アルマスが後ろを振り返ると、そこには1人の白髪の老人がいた。
「朝から何事じゃ、騒がしいと思って来てみたら・・・・・・」
「あ、おじいさん」男性は老人に気がつくと、老人に近づいた。
「来てみたらこの子供が寝ていたんです。花に火がついていて・・・・・」
老人はアルマスを見ると、すぐ男性の方を向いて首を振った。
「この子は違う。悪いことをするような子供には見えん。それにこの村の子供ではない。その花のことなぞ何も知らないだろう」 
「そ、それは・・・・・・・」
「お前さんはこの村の外から来た。そうじゃろう?どこから来たんだ?」
老人は再びアルマスの方を向いた。



アルマスは老人の顔を見ると頭を下げた。
「黙って家に入ってごめんなさい。昨日の夜雨が降っていて、泊めてもらおうと思って・・・・・」
するとグルルルルという大きな音がアルマスのお腹から聞こえてきた。
それを聞いた老人は顔をほころばせながら
「おやおや・・・お腹が空いているんじゃろう。もしかして昨日から何も食べていないのかな?」
「は・・・・・・はい」
恥ずかしそうに小声でアルマスが答えると、老人は優しく微笑みを見せた。
「それは大変じゃ。今朝ご飯の準備をするから、食べていきなさい。話はそれからにしよう」
「あ・・・・ありがとうございます」
アルマスがお礼を言うと、老人は隣にいるホーパスを見た。
「それからお前さんの隣にいる動物のような・・・・・子猫に見えるが、水かミルクでもいいかな?」
「え・・・・・?僕が見えるの?」
ホーパスが驚いていると、老人は微笑みながら
「おやおや、言葉を話せるのか。これは驚いた・・・・・子猫の霊のようじゃな。お腹は空いてるかな?」
「あまりお腹は空いてないけど・・・・・」
「一応、水か・・・・ミルクがあれば準備させよう。ゆっくりしていってください」
老人がゆっくりとその場を離れると、男性も後に続いた。



しばらくしてアルマスとホーパスは別の部屋に通された。
部屋には数人がおり、部屋の中央を囲むようにして座っている。
アルマスは老人に案内された場所に座ると、目の前には長方形のトレイの上に食べ物が入っている食器が並んでいる。
アルマスの左側に老人がゆっくりと腰を下ろすと、ゆっくりと辺りを見回した。
そして軽くうなづくと、みんながいっせいに食事を始めた。



老人はアルマスの方を向いた。
「さあ、遠慮しないで。食べてください」
「あ、ありがとうございます・・・・・いただきます」
アルマスは戸惑いながらも食事を始めた。
アルマスの隣ではミルクが入ったボウルにホーパスが口をつけている。



しばらくすると再び老人が話しかけてきた。
「今朝は家の者がとても失礼な事をした。花泥棒だと疑ってすまなかったね」
「い、いえ」アルマスは少し戸惑いながら答えた。
「ところでお前さんはどこから来たのかな?」
「僕は・・・モーネダールという村から来ました」
「モーネダール?聞いたことのない村だ・・・・かなり遠くから来たんじゃな」
老人が首を傾げていると、アルマスが今度は老人に聞いた。
「ところでさっき見た、炎の花って・・・・初めて見たんですけど」
「それはそうじゃろう。あの花はこの国の中でもこの村しか咲かない花じゃ。それに・・・・」
「それに?」
「あの花は洞察力があって、人を見るんじゃ」
老人は床に置いてある湯飲み茶わんを右手に取ると、中に入っているお茶をすすった。
そして湯飲み茶わんを再び床に置き
「昨日の夜、雨に濡れたのじゃろう?それにあの像のお供え物には一切手をつけずに眠ってしまった・・・・・
 だからお前さんを悪い人ではないと判断したのじゃろう。お前さんの冷えた身体を暖めようとしていたのかもしれない」
「・・・・・・」



そういえば、最初あの部屋に入った時は寒かったけど、朝起きた時はとても暖かかった。
それに服もすっかり乾いていたし。
炎の花がずっと僕を暖めてくれていたのかもしれない。



アルマスが黙っていると、老人が再び話しかけてきた。
「ところで、この後予定はあるのかな?」
「いいえ。ありませんけど・・・・・」
「せっかく来たのだから、食事が終わったらこの村を案内しましょう。後で別の者に案内させます」
「あ、はい・・・・ありがとうございます」
アルマスはうなづくと、再び食事に手をつけるのだった。



しばらくしてアルマスとホーパスは小屋の外を歩いていた。
村を案内するため来たのは今朝アルマスを泥棒と疑った男性だった。



最初は気まずそうな雰囲気で小屋を出たが、しばらくすると前を歩いていた男性がアルマスの方を向いた。
「・・・・・今朝は疑って悪かった。泥棒だと勘違いしてしまって」
男性が頭を下げると、アルマも戸惑いながらも頭を下げた。
「い、いいえ。こちらこそ・・・・黙って家に入り込んでしまって」
「いや、もういいんだ・・・・ところで名前は?」
「僕はアルマス。隣にいるのは・・・・・・」
「僕はホーパスだよ」
アルマスが右隣でフワフワ浮いているホーパスを見た途端、ホーパスは男性に向かって挨拶をした。
「アルマスとホーパスか。オレの名前はリクだ」
「リク・・・・よろしくお願いします」
リクが右手をアルマスに差し出すと、アルマスはリクと握手を交わした。



その後、3人は村の中を歩いていた。
村といっても、あるのは小屋らしき建物がポツポツと建っているだけで、あとは大木と山々の緑に囲まれている。



アルマスはふと、炎の花がないか辺りを見回した。
しかしそれらしき植物は見当たらない。



アルマスは前を歩いているリクに聞いた。
「ところで、炎の花って・・・・村にしか咲かないってあのおじいさんが言っていたけど」
「ああ、村長が言っていた通り、あの花はこの村にしかないものだ」リクはうなづいた。「それがどうかしたのか?」
「この辺りに咲いているのかなと思ったけど、それらしい花がなくて。どこに咲いているのかなと思って」
「近いうちにこの村の祭りがあって、炎の花を集めているんだ。祭りの日に炎の花がいっせいに咲き誇るから」
「お祭りがあるの?炎の花を使った祭り?」とホーパス
「ああ、そうだ」リクは深くうなづいた「祭りの当日に炎の花が咲いて、この村の発展を祝うんだ。かつては多くの花が咲いて
とても盛り上がっていたんだが・・・・・・」
「どうかしたの?」
「ここ数年、炎の花が少なくなってるんだ。炎の花を外に持ち出す者がいて困ってる」



それを聞いたアルマスはピンときた。
「だから今朝、僕があの部屋にいた時に泥棒だと疑ったんですね」
「ああ、すまなかった」リクはうなづいた「どうして炎の花を盗むのか分かってる。全ての原因はあの村だ」
「あの村?」とホーパス
「ここから少し離れたところに別の村がある。その村にここの炎の花が持ち込まれてるんじゃないかっていう噂があるんだ」
「どうして炎の花を・・・・?」とアルマス
「最近になって急に村が栄えてきたんだ。先日遠くの村に出かける用事があって、その村を通ったんだが・・・・・・。
 いつの間にか大きな建物や工場が増えて、昔とはすっかり変わってしまった。ついこの間まではここと同じで静かな、
 のんびりとした村だったんだが」
「それと、炎の花とどうつながってるの?」とホーパス
「その村の工場の中をたまたま覗いたら、多くの火が使われていた。なかには炎の花じゃないかと思うようなものも見えた。
 それにその村が栄えてきた時期と、うちの村の炎の花が減り始めた時期と同じなんだ」
「それで、炎の花が盗まれてると思ってるんですね。誰かが盗んだところを見たことはあるんですか?」とアルマス
するとリクは首を横に振りながら
「オレは直接見たことはないが、他の者が炎の花を持ち出して逃げて行くのを見たことがあるって・・・・・それにあの村には
 近いうちに大きなタワーができるという噂だ。炎の力を使ったタワーだという噂だ」
「それって村長さんは知ってるの?炎の花が盗まれてるかもしれないって」とホーパス
「ああ」リクはうなづいた「だから炎の花をどうやって守るか考えているところだ。このままだと祭りに使う花もなくなってしまう」



リクの話を聞きながら、アルマスは考えていた。



この村にしか咲かない炎の花を、この村ではどう扱っているんだろう。
あの部屋に飾ってあったけど、飾るだけで他には使っていないのかな・・・・・。



アルマスはリクに聞いた。
「この村では炎の花は部屋に飾ったり、祭りに使うだけなんですか?」
「炎の花はこの村では神聖な花なんだ」リクはとんでもないというような口調でアルマスに言った。
「それに今は決まったところにしか咲いていない、貴重な花なんだ・・・・・それを大量に盗んで、自分達の私欲のために使うなんて」
「す、すみません。何も分かってなくて」
「いや、いいんだ」アルマスが誤るとリクは首を横に振った「村に来たばかりで何も知らないんじゃ無理もない・・・・そろそろ戻ろうか」
アルマスはうなづくと、3人は帰ろうと再び歩き出した。



小屋に戻り、像のある部屋に行くと村長の姿があった。
「もう戻ってきたのか。村の奥の方まで案内したのか?」
村長がリクに聞くと、リクはうなづきながら
「ある程度まわってきました。私はこの後仕事があるので・・・・・」
「おお、そうか。仕事の前に面倒かけてすまなかったね」
村長がそう言っているうちにリクは部屋を出て行ってしまった。



アルマスとホーパスがそのやり取りを見ていると、村長がアルマスの方を向いた。
「どうじゃったかな?村をまわってみた感想は」
「あ、はい・・・・とても緑が多くて、自然が多くていい村ですね」とアルマス
「おお、そうか」村長は微笑みながらうなづいた「この村は昔から緑が多いのがいいところじゃ」
「ところでさっきリクさんから聞いたのですが、炎の花が盗まれてるって・・・・・」
「ああ、その話か。確かにこの村では炎の花が最近誰かに盗まれててな。このままだと祭りに使うどころか、村から花がなくなってしまう。
 これ以上盗られないようにいろいろとやってるんじゃがな」
「リクさんの話だと、この先の村の人が花を盗っているって。それで村が栄えているって話を聞きました」
「この花はこの村ではとても神聖な花じゃ」
村長は後ろにある像を振り返り、像の前にある炎の花を見た。
花の炎はついておらず、葉と茎だけがある状態になっている。



炎がついていないと、花がついてないように見えるんだ・・・・・。
だから昨日の夜、ここに来た時に気がつかなかったのかもしれない。



アルマスが炎の花を見ていると、村長が続けた。
「この花には炎の神が宿っていると、昔からこの村では言い伝えられておるんじゃ。それを盗んで商売のために使うなど、神に対する冒涜じゃ。
 そのような者にはいつか炎の神の罰が下るだろう」
「村長さんはこの先の村には行ったことはあるんですか?」
「ああ、あるとも」村長はうなづいた「あの村も少し前まではここと同じで、のんびりとした村じゃった。それが急に栄えてしまって・・・・
この村の炎の花のおかげで栄えたっていう噂じゃ。無断で花を持ち出して、増やそうと育てているという話もある」
「勝手に盗んだ花を使って儲けるなんて許せないよ。泥棒じゃないか。なんとかその泥棒を捕まえられないの?」
話を聞いていたホーパスが村長に近づくと、村長はホーパスを見て
「泥棒を捕まえたところで解決すればいいんじゃが・・・・泥棒は次々と出てきている。だから今は花がこれ以上なくならないように
 みんなで守っているんじゃ」



「炎の花はどこに咲いているんですか?」
アルマスが花が咲いている場所を尋ねると、村長は少し戸惑ったような表情を見せた。
「なんだ。さっき案内してもらったんじゃないのか?」
「炎の花が咲いているところまでは案内してもらえませんでした」
「そうか・・・・・リクは疑い深いからな。お前さんの事をまだ信用していないのじゃろう」
「・・・・・・」
「炎の花が咲いている場所を見たいのか?」
「できたら見てみたいです」アルマスはうなづいた「花を盗ることはしません。ただ見てみたいだけなんです」
「分かった。リクに話してみよう」
「ありがとうございます」アルマスはお礼を言うと、続けてこう言った。
「あ、あと・・・・何か僕にできることはありませんか?泊めてもらったお礼がしたいんです」



それを聞いた村長は首を振りながら
「いいえ、そんなことをしてもらう必要はないですよ。私の方からは何もありません」
「で、でも・・・・・・・」
「・・・・そういえばお前さん、この後どこかに行くのかな?」
「この後は・・・・特に決まった場所はありませんけど」
「あ、そうだ」村長は何かを思いついたように続けてこう言った「もし何も予定がなければ、祭りの手伝いをしてもらえないかな?
 祭りの日まで近いし、当日は何かと忙しくなるから。それでどうじゃろう?」



アルマスは深くうなづいた。
「あ、はい。僕にできることがあれば何でもやります」
「決まった。私からリクや他の者にも話をしておこう。何かと忙しくなると思うがよろしくお願いしますよ」
「は、はい・・・・・よろしくお願いします」



その夜、アルマスとホーパスはリクに連れられて、池のほとりにやってきた。
辺りは暗く、リクが持っている提灯の灯りが近くにある池を照らしている。
ホーパスは辺りを見回しながら
「ここに炎の花が咲いてるの?暗くてよく分からないけど」
「ここには炎の花がないからだ。もう少し奥の方にある」
リクは右手に持っている提灯をゆっくり左右に振りながら答えた。
するとそれに答えるかのように、数メートル先から小さな灯りが左右に揺れているのが見える。
リクは灯りを確認すると後ろにいるアルマスの方を振り返った。
「池の奥の方に仲間がいる。夜はみんなで炎の花が盗まれないように見張ってるんだ。行こう」
アルマスが黙ってうなづくと、3人は移動を始めた。



しばらく歩いていくと小さな小屋が見えた。
小屋に着いて中に入ると、そこには数人の男性と子供達がいた。
みんな右側にある大きな窓から外を見ているようだった。



「様子はどうだ?」
リクが近くにいる男性に聞くと、男性は振り返って答えた。
「今のところ何もない。その子供を連れてきたのか?」
「ああ、炎の花が見たいって言うから見せに来た。外に行っても大丈夫か?」
「大丈夫だ。今は池には誰もいない」
「分かった」
リクが話を終えると、アルマスの方を向いてこう言った。
「炎の花はここから少し行った池の側に咲いてる。一緒に行こう」



小屋を出ると3人は池へと歩き出した。
すると池に沿ってオレンジ色の炎がだんだんと見えてきた。
その炎は池に近づくにつれてだんだんと大きくなっていく。



これは炎の花の炎なのかな・・・・あの部屋で見たものよりすごい。
炎の花がまとまって咲いてるのかな。



アルマスが燃えている炎を見ていると、前を歩いているリクが立ち止まった。
「この辺りが炎の花が咲いてる場所だ。熱いからあまり側に行くんじゃないぞ」



アルマスが立ち止まって池を見ると、オレンジ色の炎が池の手前で燃え盛っていた。
場所によってまとまって咲いているのか、大きな長方形の炎のものもあれば、ぽつぽつと小さな炎もある。
地面を見ると茎や葉のようなものがあるのも見える。



なんだか炎を見てるとほっとする。それに暖かい。
こんな花があるなんて信じられない。



「あちこち炎がついてないところがあるけど、それは炎の花がないからなの?」
アルマスが炎の花を見ていると、すぐ側でホーパスがリクに聞いた。
「今は暗いからよく分からないが、炎の花がないか、枯れているか、炎がついていないかのどちらかだ」とリク
「炎がついてないのって、炎の花がつけないって決めてるの?」
「そこはよく分からないが、炎の花には意思があるらしい・・・・」
「じゃついてないところは、今日はつけたくないんだね」
ホーパスが炎の花を見ていると、アルマスがリクの方を向いた。
「炎の花の炎は夜にしかつかないんですか?」
「基本的には夜にしかつかない。でも暗いところがあれば炎をつけたりする時もある・・・でもみんなそうするとは限らない」とリク
「今日の朝、村長さんが言ってました。炎の花は人を見るって」
「ああ・・・・・そういうところはあるかもしれないな」
「なんだかすごいね。花なのに意思があるなんて」とホーパス
「意思があるのは人だけじゃない。花や植物も、周りにある木々や山も・・・・それにこの池も、それぞれに意思というか、命が宿ってるんだ。
 この村に住んでいる人達はみんなそう思って、自然と接しているんだ」



それぞれに命が宿っている・・・・・・。
人だけじゃなく、この炎の花も、他のものも。
みんな命が宿ってるんだ。



アルマスがそう思いながら炎の花を見ていると、リクが再び話出した。
「それをあの村の奴等が黙ってこの炎の花を持っていくのは許せない。だからこれ以上なくならないように守ってるんだ」
「僕もそう思います」アルマスは再びリクの方を向いた「僕もこの花を守りたいです。この花を守る手伝いをさせてもらってもいいですか?」
「ああ、村長から話は聞いた。祭りが終わるまでの間、手伝ってもらおう」
リクはうなづくと、後ろにある小屋の方を見た。
「そろそろ戻ろう。さっそく手伝ってもらいたいことがある」



3人は小屋に戻ると、リクは男達全員を集めた。
リクは全員の顔を見ながら
「今日、この村に来たアルマスとホーパスだ。村長から話があった通り、祭りが終わるまでの間、手伝いに入ってもらう」
「よろしくお願いします」
アルマスとホーパスが挨拶をすると、男達の1人がリクに聞いた。
「分かった。人が増えるのはいいが、炎の花の見張りをさせるわけにはいかないだろう?」
「ああ」リクはうなづくと、アルマスとホーパスの方を向いた。
「2人にはここにいる子供達を見てくれないか。オレ達は見張りをしていて、子供を相手にしている時間がない。一緒に遊んでくれてもいい。
 子供達が外に出ないように見ていて欲しいんだ」
「どうしてここに子供がいるんですか?お母さんと一緒に家にいるんじゃ・・・・」とアルマス
「家にいる子供もいるが、炎の花を見たいって言う子供が多いんだ。一度連れてきたらまた見たいって言ってくる子供もいる。
 それに祭りで子供達も炎の花を使うから、炎の花に慣れさせるために連れて来ているんだ」
「そうなんですか、分かりました」
「祭りで子供達が炎の花を使うって、どう使うの?」とホーパス
「祭りの当日は衣装を着て、炎の花を両手で持って村中を練り歩くんだ」とリク
「炎の花を両手で持つの?それは熱そうだね。それにヤケドしそうで怖いよ」
「だから今のうちに慣れさせておくんだ。祭りの当日にケガをしないようにね」



2人が話をしているのを聞きながら、アルマスは辺りを見回した。
最初来た時に小屋には子供の姿があったが、今は1人も見当たらない。



アルマスはリクの方を向いた。
「子供達は今どこにいるんですか?」
「あ・・・・1人もいなくなったか」リクは辺りを見回し、子供の姿がないと分かると続いてこう言った。
「奥にもう1つ部屋がある。そこが子供達が遊んでいる部屋だ。行こう」



3人が奥の部屋に入ると、部屋の中央に数人の子供の姿があった。
アルマスより小さい子供が多いが、なかには同じくらいの子供もいる。
「おい、お前達。新しい友達を連れてきたぞ」
リクが子供達に声をかけると、子供達がいっせいにリクの方を向いた。



アルマスは子供達を見ながら、軽く頭を下げた。
「よ・・・・よろしくお願いします」
「じゃ、あとはよろしく。何かあったら隣の部屋にいるから呼んでくれ」
リクはアルマスにそう言うと、部屋を出ていってしまった。



アルマスがどうすればいいのか迷っていると、子供の1人が声をかけてきた。
「お兄ちゃん、どこから来たの?」
「ど、どこから?」
アルマスが戸惑っていると、他の子供達からもアルマスに向かって次々と聞いてきた。
「この村の人じゃないでしょ?どこから来たの?」
「隣の村から来たの?」
「いや、違うよ。とても遠いところから来たんだよきっと」
「こっちに来て話しようよ」
アルマスは戸惑いながら、子供達がいるところへと歩き始めた。



しばらくするとアルマスとホーパスはすっかり子供達と打ち解けて仲良くなっていた。
話をしていると、アルマスは1人だけ子供達の輪に入っていない男の子の姿に気がついた。
その男の子は床に座り、じっと下を見つめている。



さっきからあの子だけ、ずっと1人でいるような気がする。
誰からも話かけてこないし、ずっと下を向いたままだ。



気になったアルマスは隣にいる男の子に聞いた。
「向こうに1人で座ってる男の子がいるんだけど・・・・・・」
「ああ、カイのこと?」男の子は1人で座っているカイの姿を見た「止めた方がいいよ。カイは嘘つきだから」
「嘘つき?」
すると他の男の子が割り込んできた。
「そうだよ。カイは嘘つきなんだ。嘘ばかり言うから誰も相手にしない」
「カイは1人でいるのが好きなんだよ。だから相手にしてないんだ」
「嘘つきだからみんなに嫌われてるんだよ」



アルマスは1人でいるカイの事が気になった。



とてもそんな感じには見えないけど・・・・・・。
本当はどうなんだろう。



アルマスはカイと話をしてみようと、ゆっくりとカイに近づいていった。



カイが人の気配に気がついて顔を上げると、目の前にアルマスがいた。
「こんにちは」
「・・・・・」
アルマスが挨拶をするが、カイは黙ったまま再び下を向いてしまった。
カイの様子にアルマスは少し戸惑いながら聞いた。
「隣に座ってもいいかな?」
カイはしばらく黙っていたが、小さな声で答えた。
「・・・・・いいよ」
アルマスはカイの左隣に座ると、下を向いているカイの姿を見た。



なんだろう、とても寂しそうに見える。
本当はみんなと遊びたいんじゃないのかな・・・・・。
遊ぶのが嫌だったら、ここには来ないと思うけど。



「僕はアルマス。君の名前は?」
アルマスが再びカイに話しかけてみると、カイは小声で答えた。
「・・・・カイ」
「カイっていうんだ。よろしくね。ところで他のみんなとは遊ばないの?」
カイは黙ったままうなづいた。



すると2人のやりとりを見ていたホーパスがカイに近づいてきた。
「どうして一緒に遊ばないの?」
「・・・・みんな僕を嘘つきだって言うんだ。誰も相手にしてくれない」
カイがうつむいたまま話し出すと、アルマスはさらに聞いた。
「どうして?どうしてみんなカイが嘘つきだって言うの?」
「分からない」カイは大きく首を振った「僕は・・・・僕は本当の事を言ってるのに、誰も信じてくれないんだ」
「何があったの?よかったら話を聞かせてよ」
「そうだよ。黙ってたら分からないよ。僕等でよかったら話を聞かせて」とホーパス
「僕等は村に来たばかりで何も知らないんだ。話をしないと僕等も分からないよ。何があったの?」



しばらく黙っていたカイだったが、ゆっくりと顔を上げた。
そしてアルマスを見ると、小声で聞いた。
「・・・・・僕のこと信じてくれる?」
「話を聞いてみないと分からないけど、信じるよ」
アルマスが深くうなづくと、カイは辺りを見回した。



辺りは3人以外、誰もいなくなっていた。
カイは誰もいないと分かると、再びアルマスの方を向いた。
「は・・・話してくれるの?」
カイと目が合ったアルマスが少し戸惑いながら聞くと、カイはうなづいた。



カイは再び辺りを見回した。
3人以外誰もいないことを確認すると、カイはゆっくりと話し始めた。
「僕、見たんだ・・・・ここに置いてあった炎の花を持っていくところを」
「炎の花を持っていくのを見たの?誰が持って行ったの?」とアルマス
「アルフだよ」
「アルフ?」
「今回の祭りのリーダーだよ。君が最初、隣の部屋に入ってきた時、リクの隣にいた・・・・・・」



アルマスは小屋に入った時の事を思い出していた。



リクさんの隣にいたって・・・・もしかしてリクさんが最初に声をかけた人かな。
祭りのリーダーって・・・・・。



するとホーパスがカイに聞いた。
「祭りのリーダーって、もしかしてすごい人なの?」
「アルフは村の人からすごく慕われているんだ。誰にも優しいし、親切だし・・・・・とてもいい人だよ」
「そんな人がどうして炎の花を持って行くの?」
「分からない」カイは首を振った「何かあるのかもしれないけど、ここから炎の花を持っていくのを見たんだ」
「その持って行った炎の花をアルフさんはどこに持って行ったのか知ってるの?」
アルマスが聞くと、カイはうなづきながら
「・・・・・アルフの後をついて行ったんだ。そしたら村の外の道で誰かに炎の花を渡してた。その後一緒にどこかに行ったんだ」
「どこかにって・・・そこまではついていかなかったんだ」
カイがうなづくと、ホーパスがさらに聞いた。
「その話をリクさんには話したの?」
「すぐみんなに話をしたよ。すぐリクがアルフに確認したみたいだったけど・・・・アルフはオレじゃないって言ったって。
 みんな「アルフがそんなことをするはずない」って信じてくれないんだ」



話を聞いたアルマスとホーパスが顔を見合わせていると、カイはうつむきながら言った。
「誰も僕の言うことを信じてくれないんだ。僕はしっかりと見たのに・・・・アルフは嘘をついているのに。
 どうして僕が嘘つき呼ばわりされるんだよ」
ホーパスが黙ってカイを見ていると、アルマスが聞いた。
「アルフさんが炎の花を持っていった時って、君以外誰もいなかったの?」
「僕以外は誰もいなかった。みんな家に帰った後だったから。僕も家に帰ろうとしてたんだ」
「それは夜だったの?」
「ううん、昼間・・・・・炎の花の炎がついていない時だったから」
「その時以外にも、アルフさんは炎の花を持っていったことはあるの?」
「わからない」カイは首を振った「でも何度もやっていると思う。炎の花が減っていた時が何度もあったから・・・・」



アルマスはリクや村長の話を思い出していた。



もしアルフさんが炎の花を持ち出しているとしたら、リクさんや村長さんが言っていた村の人達に渡しているのかもしれない。
でもどうしてそんな事をしているんだろう。
この村の人なら、他の村の人に炎の花を渡すなんてできないはずなのに。



アルマスはカイに聞いた。
「アルフさんが炎の花を持ち出すとしたら昼間?」
「だと思う。夜だったら炎の花の炎がつくから持ち出せないし、夜はみんなここにいて炎の花を見張っているから」
「昼間って・・・・リクさんもそうだけど、みんなだいたい仕事をしているの?」
「うん」カイはうなづいた「アルフも仕事だけど、時々ここに来て炎の花の様子を見てるみたいなんだ。その時に持ち出ししてると思う」



アルマスが考えていると、ホーパスがこんなことを言った。
「なら、アルフさんが今度昼間、ここに来た時にどうするか見張っていようよ」
「それはいいけど、今度いつになるか分からないじゃないか。それにどこで見張るの?」
アルマスが辺りを見回していると、カイがあっという声をあげた。
「祭りの日が近いから、もしかしたら・・・・・・次の炎の花の収穫の時かもしれない」
「収穫?」
「祭りの日に炎の花を使うから、前もって収穫してここに集めて置いておくんだ。これまで何度か収穫して置いてあったけど、それを全部
 持っていかれたから・・・・・・」
「次の収穫っていつなの?」とホーパス
「祭りの前日だよ」



それを聞いたアルマスはホーパスの方を向いた。
「だったら・・・・・・・前日にまた持ち出しされるかもしれない」
「なら、その日に見張ろうよ。昼間に」とホーパス
「でも、どこで見張るの?ここだとあまり隠れるところがなさそうだけど」
アルマスが隠れられそうなところがないか辺りを見回している。
するとカイが
「小屋の裏側とか・・・・・そこの壁の裏側とか」
「それだとすぐ見つかるかもしれない。それに持ち出して、誰に渡しているのかも知りたいんだ」
アルマスはいい考えがないか考えていた。



しばらくしてアルマスはふとホーパスを見た。
「何?何か思いついたの?」
アルマスに見つめられたホーパスがアルマスの側に来ると、アルマスはホーパスの身体を見ながら
「ホーパスって、たまにどこにいるのか分からない時があるよね」
「それは・・・・・僕は幽霊だから。体も透けてるしね」
「体が透けてる・・・・・・?」
アルマスは何かを思いついたのか、あっという声をあげた。



「何?何かを思いついたの?」
「うん。これなら大丈夫かもしれない。いい考えを思いついたよ」
アルマスはホーパスを見ながら、何度もうなづくのだった。