祭りの前日に
祭りの前日の朝。
食事を終えたアルマスとホーパスが部屋で話をしていると、村長とリクが入ってきた。
アルマスが2人を見ると、先に話を始めたのは村長だった。
「さっき話をすればよかったんじゃが、すっかり忘れてしまっていての・・・・頼みたいことがあるんじゃ」
「何でしょう・・・・・?」
アルマスが村長を見ていると、村長の右隣でリクが言った。
「明日祭りがある。本当は夜にしようと思ったんだが、早い方がいいと思って。祭りの準備の手伝いをお願いしたい」
「祭りの準備?」とホーパス
「祭りで子供達が着る衣装がある。その衣装が人数分あるかどうか見に行ってもらいたいんだ」
「衣装・・・・その衣装ってどこに置いてあるんですか?」とアルマス
「いつも夜に行っている池の側の小屋だ。子供達がいつも遊んでいる部屋にある」
「部屋の奥に大きなたんすがある。その中に衣装が入ってるから、全部揃っているか見てもらいたいんじゃ」と村長
「分かりました。今からでも行って見てきてもいいですか?」
アルマスがうなづきながら2人に聞くと、リクはうなづいて
「今からでもいいが、夕方には全部揃ってるかどうか知りたいから、夕方まででいい。もし足りなかったらその分を
どこからか持ってこなきゃいけないから」
「分かりました。夕方までには行って戻ってきます」
「ああ、じゃよろしく頼む」
リクが歩き始めると、村長もリクの後に続いて行ってしまった。
2人の姿がなくなると、ホーパスがフワフワ浮きながらアルマスの側に来た。
「ちょうどよかったね。あの小屋に行く理由ができて」
「うん」アルマスはうなづいた「昼にカイと待ち合わせしてるけど、どうやってここから出ようか考えてたから」
「黙って出て行ったら、僕達がまた花泥棒だって疑われるしね」
「そうだね。でも衣装って、どんな衣装なんだろう・・・・・・」
「村長さんに聞いてみたら?」
「うん、聞いてみるよ。ところで昨日言ってたのって、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ」
ホーパスがうなづくと、アルマスが見ている前で姿を消した。
しばらくするとホーパスが再び姿を現した。
「これなら大丈夫でしょ?」
「うん、大丈夫だと思う」
アルマスがうなづくとホーパスがさらにこんなことを言った。
「でも、このままでも見にくいだろうから、このままでもいいとは思うけど」
「でも、もし見つかったら困るだろう?姿は消してた方がいいと思うよ」
「幽霊だからまず気づかれないとは思うけど・・・・・リクだって最初は気づかなかったし」
「人によっては気がついてるかもしれないだろう?村長さんに衣装のこと聞いてくるよ」
アルマスは立ち上がり部屋を出ると、ホーパスも後を追った。
それから数時間後。
アルマスとホーパスは外に出て、途中でカイと一緒になり3人で池の側の小屋へと向かった。
小屋の中に入り、辺りを見回すが3人以外は誰もいない。
「まだ誰もいないみたいだね」
ホーパスが部屋の天井近くまでフワフワ飛びながら辺りを見回している。
「もしかしたら奥の部屋にいるかもしれない。炎の花が置いてあるから」とカイ
「炎の花って、いつも奥の部屋に置いてあるの?」
アルマスがカイの方を向くと、カイはうなづいて
「昨日の夕方に炎の花を収穫したって聞いたから・・・・もしかしたらもう来ているかもしれない」
「そうなんだ。祭りの衣装を確認するように村長さんに言われてるんだ。奥の部屋のたんすの中にあるって言ってたけど
たんすってどこにあるか知ってる?」
「うん、知ってるよ。奥の部屋の隅っこにあるんだ」
「じゃ、行こう」
3人は奥の部屋に入ると、そこには誰もいなかった。
「誰もいない・・・・・まだ来てないみたいだ」
カイが辺りを見回しながら誰もいないのを確認していると、アルマスは手前に置いてあるテーブルに気がついた。
テーブルの上には端から端まで、炎の花らしき植物が敷き詰められたように置かれている。
今は炎がついてないから、茎と葉だけが積んであるけど・・・・・・。
昨日の夕方に収穫したって言ってたけど、その間って炎はついてなかったのかな。
アルマスが考えていると、左隣にいるカイが話しかけてきた。
「どうしたの?」
「あ、い、いや」カイに気がついたアルマスは思わずどもった「テーブルにある炎の花って、今まで炎がついてないのかなって」
「ああ・・・・」
アルマスの言葉にカイはテーブルの上にある炎の花を見た。
そして再びアルマスを見て
「花の部分はテーブルについていないから、炎がついたとしても大丈夫だよ」
「え?」
アルマスは炎の花の花の部分に目を向けた。
炎の花の部分は全てテーブルの外側に向くように置かれている。
「そ、そうなんだ・・・・それなら炎がついても大丈夫だね」
アルマスはカイの方を見ながらうなづくと、カイもうなづいて
「それにこうして寝かせておくと、炎がつかないんだ。炎の花は縦に置かないと炎がつかないんだよ」
「そうなんだ」
「先に衣装を見に行こう。アルフが来ないうちに」
カイがその場を離れて部屋の奥へ歩き始めると、アルマスも後に続いた。
アルマスがカイの後を追って行くと、目の前にだんだんと茶色のたんすが見えてきた。
「衣装は・・・・・この辺りにあったかな」
カイがたんすの真ん中の引き出しを開けると、引き出しの中を覗き込んだ。
「あ、これだ」
カイが引き出しから白いシャツみたいな服を出すと、ホーパスはカイの後ろからそれを見て
「それが祭りに着る衣装なの?白いシャツみたいだけど」
「これは下に着るんだ。上に赤い着物を着るんだよ。白いズボンもあるんだ」
カイが白いシャツを床に置くと、アルマスは引き出しの中を見ながら
「あ、赤い着物もある。白いシャツと赤い着物、白いズボンで全部なの?」
「うん」カイが深くうなづいた。「それでワンセットだよ。この中に全部入ってると思うけど」
「あとは全部でいくつあるか数えないと。全部外に出した方がいいかな」
アルマスが引き出しにある赤い着物に手をかけようとすると、後ろの方から物音が聞こえてきた。
アルマスは音に気がついて後ろを振り向いた。
あとの2人も聞こえたのか、後ろを向いている。
足音のような物音はだんだんと3人がいる部屋に近づいてきているように大きく聞こえてきた。
「アルフが来たかもしれない。たんすの後ろに隠れるんだ」
カイは白いシャツを素早く引き出しの中に入れ、引き出しをたんすに戻すと、小声で2人に言った。
そして3人は慌ててたんすの後ろに身を潜めた。
足音はだんだんとはっきりと大きく聞こえてきた。
しばらくするとその足音はピタリと止んだ。
足音が止んだ・・・・誰かがこの部屋に入ってきてる?
アルマスは誰が来たのか確かめたかったが、たんすの裏から顔を出す勇気がなかった。
すると左隣にいるカイが、たんすの左端からそっと顔を出した。
前を見てみると、炎の花が置いてあるテーブルの前に、見覚えのある1人の男の後ろ姿があった。
やっぱりアルフだ・・・・炎の花を取りに来たんだ。
カイがそう思いながらアルフの後ろ姿を見ていると、アルフが突然右横を向いた。
まずいと思い、慌ててカイがたんすに隠れると、アルフは辺りを見回し始めた。
たんすに隠れたカイに、アルマスはカイの方を向いた。
カイは何も言わず、深くうなづきながら右手で部屋の入口の方を指差している。
やっぱり、誰かがいるんだ。
リクや村長さんだったらそのまま出て行けるけど、カイが出て行かないのはきっとアルフがいるからだ。
一体、何をしてるんだろう。
アルマスがそう思っていると、2人の間にフワフワとホーパスが降りてきた。
ホーパスは右の前足を部屋の入口の方に向けると、アルマスの顔を見ている。
そうだ、ホーパスなら気づかれずに誰がいるのか分かる。
何をしているのかも分かるかもしれない。
アルマスはホーパスを見てうなづくと、ホーパスもうなづいて上の方へと上がって行った。
ホーパスが天井近くまで上がって行くと、部屋の入口付近ではアルフが辺りを見回していた。
ホーパスがいる場所も見たが、アルフはホーパスに気がついていないのか平然とした様子だった。
しばらくして誰もいないことが分かると、アルフはテーブルの方を向いた。
そして炎の花に手を触れると、炎の花をかき集め始めた。
テーブルの右端にある炎の花の茎を持つと、テーブルの中央に寄せて集めている。
それを後ろで見たホーパスは思わず声を上げた。
「あっ」
その声を聞いたアルフは思わず動きを止めた。
後ろを振り返るが、誰もいない。
アルフは辺りを再び見回していると、ミイミイという声が聞こえてきた。
「なんだ、猫か・・・・・・・」
アルフは再び前を向くと、炎の花を再び集め始めた。
アルフの姿を上から見ながら、ホーパスはほっと胸を撫で下ろした。
ミイミイと泣いていたのはホーパスだったのだ。
アルフはテーブルにある炎の花を全部中央に集めると、右腕に全部抱えようとした。
「明日は祭りだったな・・・・・全部持っていくとまずいか。少しだけ残しておくか」
アルフはテーブルに炎の花を少しだけ置き直すと、再び辺りを見回した。
そして誰もいないことを確認すると、炎の花を持って部屋を出て行った。
アルフがいなくなると、ホーパスは2人のいるたんすの裏側に戻った。
「アルフが炎の花を持って出て行ったよ」
「やっぱり、アルフだったんだ」
カイがたんすから離れて出て行くと、アルマスはホーパスを見ながら
「じゃ、昨日話したことをやってみよう。ホーパスはアルフさんの後を追いかけるんだ」
「アルフが炎の花を誰に渡してるのか確認するんだね、分かった」
ホーパスがうなづくと、アルフの後を追いかけようと急いでその場を離れて行った。
アルマスがたんすから離れ、カイがいるテーブルに行くと、カイがテーブルにある数輪の炎の花を見つめている。
「ホーパスがアルフさんの後を追いかけてる。誰に渡してるのかが分かると思うよ」
「・・・・許せない。ほとんど全部持って行くなんて」
カイが炎の花を見つめたまま、怒りを抑えているような様子でうつ向いていると、アルマスがカイの顔を覗き込むように近づいた。
「今からならまだ追いつくと思う。一緒に行こう」
「・・・・うん」
カイが顔を上げてうなづくと、2人は一緒に部屋を出て行った。
小屋を先に出たホーパスはアルフの後を追いかけていた。
上空をフワフワと浮きながら移動し、道を歩いて行くアルフの後をついて行っている。
アルフが時々後ろを振り返るが、誰も追いかけて来ないと分かるとゆっくりと歩き出した。
ホーパスの姿には全く気がついていないようだ。
しばらく歩いていくと、少し先に大きな道が見えてきた。
大きな道と合流する場所に、1人の男の姿が見える。
その男がアルフの姿に気がつくと、右手を上げて軽く手を振った。
あの人、村じゃ見たことがない人だ。
もしかしたら村長さんが言っていた、あの村の人なのかな。
ホーパスがその男を見ていると、アルフがその男の前で止まった。
ホーパスがアルフの方を向いた途端、思わぬ出来事に思わず声を上げた。
「あっ・・・・・・・!?」
道ではアルフが男と挨拶を交わし、右腕に抱えている炎の花を男に渡そうとするところだった。
「アルフ!」
突然後ろから名前を呼ぶ大きなどなり声が聞こえてきた。
アルフが後ろを振り返ると、リクと村長がこちらに向かって走って来ていた。
リクがアルフの目の前まで来ると、立ち止まりリクの右腕にある炎の花を見た。
「その花はどうした?どこに持って行くつもりなんだ?アルフ」
「リク・・・・ど、どうしてここに・・・・?」
アルフが戸惑っていると、リクはアルフの顔を睨みつけながら
「おかしいと思って、お前の後をつけたんだ。ここ最近お前の様子がおかしかったからな」
「リクはお前さんの事を調べていたんじゃ」リクの後ろでようやく追いついた村長が立ち止まった。
「どうしてこんなことをするんじゃ?お前さんは今回祭りのリーダーじゃろう」
「村のみんなはお前の事を信頼していた。なのにどうしてこんなひどいことをするんだ?」
村長とリクが畳みかけるようにアルフに問いかけると、アルフは黙り込んでしまった。
しばらく4人の間に沈黙が続いたが、アルフがリクの顔を見ると沈黙を破った。
「・・・・どうしてこんなことをするんだって?」
「ああ、そうだ。どうして炎の花をそいつに渡すんだ?そいつはあの村の住人だろう?」
リクがアルフの後ろにいる男性を見ると、アルフは深くうなづきながら
「そうだ。お前達が嫌っている、あの村の住人だ。お前達は嫌っているが、オレはあの村が好きなんだ」
「な、何じゃと・・・・・」
聞いた村長が戸惑っていると、アルフはリクを見ながらさらに話を続けた。
「あの村にはいろんなものがある。食べものも美味しいし、楽しいものがたくさんある。それにこの村にはない
いろんなものが手に入るんだ。それに比べてこの村はどうだ?いつまでも古臭い伝統を守って暮らしていかなきゃいけない。
自然は多いのはいいが、それ以外は何もない、つまらないところだ」
「ならどうして今もこの村にいるんだ?気に入らなかったらさっさと出て行けばいいだろう?」とリク
「この村には炎の花がある」アルフは右腕に抱えている炎の花を見た。
「炎の花を持っていけばあの村では高く売れる。儲かれば好きなことが何でもできる。バレないと思っていたが
バレてしまったらもうこの村とはおさらばだな」
「アルフ・・・・・・!」
アルフの言葉に逆上したリクは、アルフをその場で突き飛ばした。
地面には倒れたアルフと炎の花が散らばっていた。
リクは地面に落ちている炎の花を拾い上げながら、アルフに言い放った。
「もうお前はこの村の住人じゃない、さっさと出て行くんだな」
「そうじゃ」村長も炎の花を拾いながら、続けてこう言った。
「アルフ、もうお前さんはこの村の人ではない、その男と一緒にここから出て行くんじゃ」
「・・・・・・」
アルフはゆっくりと起き上がると、何も言わず一緒にいた男とその場を後にするのだった。
「リクさん!」
リクと村長が炎の花を拾っていると、そこにアルマスとカイが走ってきた。
村長は腰を上げ、2人を見ながら
「お前さん達、どうしてここに来たんじゃ?」
「アルフが炎の花を持って行くのを見たよ。後を追って来たんだ」とカイ
「そうか・・・・・」
アルマスがホーパスを探していると、上空からホーパスが降りてきた。
今まで起こった出来事を上空から見ていたのである。
「ホーパス!」
アルマスの前まで降りて来たホーパスを見つけると、アルマスは声をあげた。
「アルフはもう1人の男の人と一緒に向こうへ行ったよ」
ホーパスがアルフ達が行った方向を右前足で示すと、アルマスはうなづきながら炎の花が落ちている道を見た。
「分かった。炎の花は・・・・・全部ここに置いて行ったの?」
「うん。全部道路に落として行ったみたい」
「じゃ、どこに行ったのかアルフさんの後を追って行ってもらってもいい?」
「うん、分かった」
ホーパスはうなづくと、アルフ達が行った方向へと移動を始めた。
アルマスが再び村長がいる方を向くと、村長がカイの手を取り話をしていた。
「ずっと疑っていて悪かったの・・・・・・最初からお前さんの話を聞いていれば、こんなことにはならなかったのに」
するとリクもカイに頭を下げた。
「オレも悪かった。もっと早く対応していれば炎の花もこんなに数が減ることはなかったのに」
「え、あ、いや・・・・・・・」
カイがどう答えればいいのか戸惑っていると、アルマスが落ちている炎の花を拾いながら言った。
「でも、この花は盗られずに済んでよかった。明日の祭りに使うんですよね?」
「ああ、そうだ。すぐ全部拾って元の場所に戻そう」
リクが再び道に落ちている炎の花を拾い出すと、あとの3人も炎の花を拾い始めた。
夜になり、炎の花が咲く池の側の小屋では相変わらずリク達が炎の花を見ていた。
リクは小屋に来ている全員を集めると、昼間の出来事について話をしている。
アルフが炎の花を盗んでいたことが分かると、驚きの声が上がった。
「アルフはもうこの村から出て行ったんだろう?炎の花を監視することはもういいんじゃないか?」
ある男の声にリクはうなづいた。
「オレも最初はそう思ったんだが、明日は祭りの当日だ。もしかしたらさらに炎の花を盗ろうと他の連中と一緒に
来るかもしれない。まだ当分の間は見張りは必要だろう」
「しかしアルフが祭りのリーダーだったんだろう?明日が祭りなのに・・・・リーダーは今回は決めないのか?」
他の男の声が聞こえて来ると、リクは聞こえてきた声の方を向いて
「ここに来る前に村長と話をした。今回はオレがリーダーになる。リーダーは前にやったことがあるから大丈夫だ」
リクが次々と飛んでくる質問に答えているのを、アルマスは集まっている男達の後ろの方で見ていた。
すると右隣にいるカイが辺りを見回しながら
「そういえば、ホーパスをずっと見てないような気がするけど・・・・・」
アルマスはカイを見て
「ホーパスはアルフさんの後を追いかけてもらってるんだ。どこに行って、誰に炎の花を渡してるのか・・・・」
「そうなんだ。でも、帰りが遅くない?あの村にいるとしてもここからそんなに遠くないけど」
「もうそろそろ戻ってくるとは思うけど・・・・・」
アルマスはそう言いながらも、ホーパスの帰りが遅いのが気になっていた。
一方、アルフ達を追いかけてきたホーパスはあの村へとやってきた。
上空から歩いているアルフともう1人の姿を見ていると、人が多く行き交っている場所へと入って行く。
急に人が多くなった。
アルフがどこにいるのかちゃんと見てないと見失う。
ホーパスは上空から降りて、アルフのすぐ後ろに移動した。
アルフともう1人の男は話もせず、黙ったまま横並びで人混みの中を歩いていく。
ホーパスはアルフのすぐ後ろで、多くの人々の身体をすり抜けながら辺りを見回した。
両側には店が立ち並び、多くの人が出入りしている。
またあちこちから人々が騒ぐ声や音楽が聞こえてきたり、笑い声や怒鳴り声が聞こえてきている。
リク達がいるあの村と違って、ここはとても騒がしいな。
楽しそうだけど、なんだかとても疲れそう。
それにごちゃごちゃしてるし、こうして見ていると目が回りそうだ。
ホーパスが前を向いた途端、アルフが左側に曲がった。
ホーパスも左に曲がり、アルフの後をついて行くと、目の前に大きな白いテントが見えた。
なんだろう、いきなり大きなテントが出てきた・・・・・。
ホーパスがテントを眺めていると、アルフともう1人の男がそのテントに入って行く。
ホーパスも2人の後に続いて入って行った。
中に入った途端、ホーパスは思わず声を上げそうになった。
「・・・・・・!?」
目の前に、大きなタワーのようなものがそびえ立っていたからだ。
それは緑色をしていて、全体が植物で覆われているようだ。
一番上は尖っていて、クリスマスツリーのような形をしている。
ビルの2階の高さくらいの大きさだった。
あれは一体なんだろう・・・・・・・。
側に行って見てみよう。
ホーパスはタワーを見てみようと移動しようとした時、アルフの側にいる男がアルフに話しかけてきた。
「この緑のタワー、すっかり出来上がってるじゃないか、アルフ」
男の声にホーパスの動きが止まった。
ホーパスはアルフを見ると、アルフはタワーを見上げながら
「ああ、もう少し炎の花を入れようと思ったんだが・・・・・これはこれでいいと思う」
「今日、あの村へ行くことはなかったんじゃないか?村長や他の村人にバレたじゃないか」
「ああ・・・・でももうあの村へ戻るつもりはない。それに炎の花をこの村で育てるつもりだ。炎の花を充分持ってきたしな」
「でも、この村で育つのか?この間いくつか植えたけど、全部ダメだったじゃないか」
「それより明日、このタワーに火をつけるつもりだ。明日あの村で祭りがある。それに合わせて火をつける」
2人の話を聞いたホーパスはタワーへと移動した。
タワーを見てみると、至るところに炎の花らしい植物が飾られている。
ほとんどが縦に置かれており、今のところ火はついていない。
夜なのに、炎の花は火がついてない。
ここが明るいからついてないのかな、それともつけたくないからなのかな・・・・・。
ホーパスがタワーにつけられている炎の花を見ていると、下から男の声が聞こえてきた。
「明日、タワーに火をつけるって・・・・今は夜なのに全く火はついてないじゃないか。どうやってつけるんだ?」
「それについては心配ない」アルフはそう言いながら、側にあるテーブルの上にある四角いものを取った。
四角い箱のようなものの中央に、丸くて赤いボタンがある。
アルフはこれを見せながら
「これは炎の花がつかなかった場合に使うボタンだ。これを押せばタワーに電流が流れるようになってる。
炎の花に刺激を与えれば火をつける。炎の花に強制的に火をつけるように仕向けるのさ」
「でも、電流を流すだけで火がつくのか?もし何かあったりしたら・・・・・・」
「大丈夫だ」心配そうな顔をしている男に、アルフは微笑んだ。
「それに明日はテントを外す。タワーに電流を流しても周りには影響はないだろう。それに電流を流すのは他の工場でも
やってるだろう?炎の花が火をつけなかった時に電流を流して火をつける。この村ではみんなやってることだ」
「それはそうだが、明日はここに人が来るだろう?大勢の人が来て、もしもの事があったら・・・・」
「おいおい、今さらそんな心配をしてどうするんだ?大丈夫だ。もしもの時はいっせいにここから逃げればいい話じゃないか。
それにタワーを建てる時、ここは他の建物から離れているから大丈夫だって言ったのはお前の方だぞ」
アルフはボタンをテーブルの上に戻すと、再びタワーを見上げた。
「明日はこのタワーで、あの村を見返してやる・・・・・」
しばらくして2人がテントから出て行ってしまうと、話を聞いていたホーパスはテーブルへと降りて来た。
電流を流して炎の花を傷つけるなんて、許せないぞ。
こんなボタン壊してやる。
ホーパスはボタンを壊そうと、四角い箱に近づいた。
そしてその箱を持ち上げ、下に落とそうとしたが、下は土の地面だと気がついた。
テントの中だから、固い床じゃないんだ。
地面に落とすだけじゃ壊れないかもしれない。
ホーパスはあきらめて四角い箱をテーブルに戻した。
どうすればこの箱、壊れるんだろう。
ホーパスが箱を見ながら考えていると、何かが動いた気配を感じた。
タワーの方を向くと、すぐ近くにある炎の花がひとつだけ火をつけていた。
あ、あれ・・・・・?
さっきまでひとつも火がついてなかったのにどうして?
ホーパスはそう思いながら、火がついている炎の花を見つめていた。