舵をとれ

 


1人の男に声をかけられたアルマスは男を見た。
黒髪の短髪で背が高く、細い体だが上半身ががっちりしているように見える。
「ここで海を見ていただけです」
アルマスが淡々と答えると、男の後ろにいた2人の男のうちの1人がアルマスを見た。
「お前、この辺りでは見かけない顔だな。よそ者か?」
アルマスが答えようとすると、隣にいるレオンが言った。
「相手にしない方がいい、とりあえずここから・・・・・」
「さっきここに来たばかりなんです。旅をしているんです」
レオンの声に被せるかのようにアルマスが答えると、辺りは一瞬静かになった。



男の後ろにいる2人の男がいっせいに声を上げた。
「やっぱりそうか!よそ者か」
「よそ者は用はない、すぐに出ていけ!」
「うるさい!オレはここに用があるんだ」レオンが2人に向かって声を上げた。
「用が済んだらさっさと出ていくさ、それをお前達が邪魔してるじゃないか!」
「何だって・・・・・」
レオンと2人の男が言い合いをしていると、再びアルマスの前にいる男が口を開いた。
「旅をしているって・・・・もしかしてフラーマから来たのか?」



アルマスはうなづいた。
「そうです、フラーマから来ました。どうしてそんなことを・・・・・?」
「その右手にある指輪が見えたからだ」男はアルマスの右手にある指輪を見た「フラーマの人か?」
アルマスは右手にある指輪をちらっと見た後、首を横に振った。
男はアルマスを見ながら再び聞いた。
「フラーマの人じゃないのか?ならどうしてその指輪を持ってるんだ?」
「この指輪はフラーマの村長さんからもらったんだ」
「本当か?フラーマに行っただけで指輪がもらえるとは思えない。偽物じゃないのか?」
「偽物じゃないよ」そこにホーパスがふわふわと浮きながら男に近づいてきた。
男はアルマスを見ながら
「その指輪が本物なら火が出せるはずだ。今ここでオレと勝負をしろ」



それを聞いたアルマスは戸惑った。
「勝負?勝負って・・・・・」
「それは無茶だ。なんてことを言うんだ」レオンは思わずアルマスの方を見た「止めた方がいい」
「そうだよ、ケンカはよくないよ」
ホーパスも男とアルマスを見ながら戸惑っている。
「勝負って・・・・・一体どうやって?何で勝負するんですか?」
アルマスが戸惑いながら男に聞いた。



男はしばらく黙っていたが、アルマスの顔を再び見たかと思うと、男の右手からいきなり大量の水が放たれた。
「うわっ・・・・・!」
男から放たれた水を見た途端、アルマスは素早く左へと移動し辛うじて水を避けた。
「よく攻撃を避けたな。でもまだまだだ!」
男はアルマスに向けて右手を向けて再び水を放ってきた。
アルマスは再び移動し、水の攻撃を避け続けている。



「どうして?どうしてあの手から水が出せるの?」
ホーパスが男の攻撃を見ていると、レオンも男を見ながら考えていた。



あの男、どうして水が出せるのか・・・・・・。
もしかしたら・・・・・!



「どうした?かかってこい。どうして火を使わないんだ?」
攻撃を避け続け、攻撃をしてこないアルマスに男はいらつきながら聞いた。
アルマスは男の動きを見ながら
「火を人に向けるなんてできない。火はとても危険なものなんだ。それをケンカに使うなんて・・・・」
「そんなことを言って、本当は火を出せないんだろう?」
アルマスの言葉に男はさらにいらつきながらアルマスを睨みつけた。
「それなら無理矢理にでも出させてやる!」
男がアルマスに向けて右手を大きく上げると、右手からさらに多くの水が出てきた。



アルマスは左へと移動しようとしたが、左側にも男から放出された水の波が迫ってきていた。
慌てて右へ行こうとするが、右側も同じように波が迫ってきていた。



どうすればいいんだ、このままだと水に押し流される・・・・・。



アルマスがどうすればいいのか焦っていると、右手がだんだんと暖かくなっていくのを感じた。
右手を見ると、指輪が赤く光っている。
そして小さな炎が現れると、アルマスは咄嗟に右手を迫ってくる水の波に向かって向けた。



アルマスの右手から大きな炎が現れると、水の波へと向かって行った。
アルマスに迫っていた波は炎にかき消され、炎はだんだんと波を押し出していく。
「あの大きな火は・・・・・・アルマスが出してるのか?」
レオンが驚きの表情で見ているとホーパスもうなづきながら
「うん。でも・・・・・こんなにすごい火は見たことがないよ」
「アルマスは大丈夫なのか?」
レオンがそう言った途端、火と水が同時に消え去ってしまった。



男はアルマスを見ると、アルマスは疲れているのか息をハアハアとさせながらも息を整えようとしていた。
「ようやく火を出したな。でもその程度か・・・・・・」
「なんだって・・・・?」
男の言葉にアルマスが男の顔を見ると、男もアルマスを見ながら
「まだ子供だからその程度しか火が出せないのかって言ったんだ」
「まだだ。まださっきよりも大きな火は出せる」
「アルマス、もう止めろ!疲れているじゃないか」
レオンがアルマスを止めようと声を上げるが、男はさらにアルマスを挑発した。
「まだ大きな火が出せるのか?見せてもらおうじゃないか」



アルマスが右手の指輪を見ると、指輪はまだ赤く光っていた。
指輪を見ているうちに、指輪から再び真っ赤な炎が現れ、だんだんと大きくなっていく。



何だろう・・・・・この火を見ているとなんだかだんだん引き込まれそうだ。
何だか分からないけれど、とてつもなく大きなものに。



アルマスが炎を見ていると、男の声が聞こえてきた。
「どうした?もう終わりか?」
「いいや、まだだ」
アルマスは男の方を向くと、右手を男に向けて再び大きな炎を放った。



大きな炎は男に向かっていたが、突然海から強い風が吹いてきた。
「うっ・・・・・・・!?」
強風であおりを受けた炎は向きを変え、アルマスに向かって来るではないか。
「危ない!避けるんだ!アルマス」
それを見たレオンがアルマスに向かって叫んだ。
アルマスは動こうとするが、体が思ったよりも疲弊していて動けない。
「アルマス!」
レオンはアルマスに向かって走り出すと、向かって来る炎に向かって両腕を向けた。



アルマスの身体がもう少しで炎の先に触れようとしたところに再び後ろから強い風が吹いてきた。
強風は炎の先を吹き消し、だんだんと炎を消していく。
そして炎が完全に消えると、アルマスはほっとしたのかその場に座り込んでしまった。



「アルマス!大丈夫か?」
レオンがアルマスに声をかけると、アルマスはうなづいた。
「さっきの強い風・・・・レオンが出したの?」
「ああ、危なかった。もう少しで炎に焼かれるところだった・・・・間に合ってよかった」



「火と風を操る子供か。まさか2人もいるとは思わなかったな」
男の声にアルマスとレオンが男の方を向くと、男は右手から水を放出し始めた。
「お前、まだやるつもりなのか?アルマスがこんなに弱っているのに・・・・!」
レオンが男に向かって睨みつけていると、どこからか女性の声が聞こえてきた。
「お前達!一体何をやっとるんじゃ!」



アルマス達が声が聞こえてきた山側を見ると、そこには走ってくる数人の大人達の姿があった。
1人は白髪を後ろに束ねた年配の女性、もう1人は中年の体格のいい男性の姿だった。
「お前達、こんなところで何てことをしているんじゃ!今すぐやめるんじゃ!」
「まずい、山寺のばあばと村長だ!」
男の後ろにいた2人の男達は2人の姿を見ると声を上げてその場から走り去ってしまった。
男はその場を動かず、近づいて来る2人を見ていると、さらに女性の声が聞こえてきた。
「その2人は火と風の力を持つ子供じゃ!やりあってどうする?みっともないから今すぐ止めるんじゃ!」



「シーラおばさん!」
しばらくしてレオンが年配の女性が誰なのか分かると、女性の名前を呼んだ。
「え?レオン、あの人のことを知ってるの?」
ホーパスがレオンに聞くと、レオンはうなづいた。
「うん。あの人が山の寺に住んでるおばさんだよ。おばさんに届け物があって来たんだ」



男がその場を立ち去ろうとすると、後ろから村長の大声が聞こえてきた。
「おい、アレクシス!」
アレクシスが後ろを振り返ると、村長がアレクシスに駆け寄ってきた。
そしてアレクシスの前で立ち止まると、アレクシスの顔を見ながら話しだした。
「お前、子供を相手に何をしている。いい大人が子供を相手にみっともないぞ」
「・・・・・・」
「お前はこの村で唯一、水の力を持っているんだ。その力を小さな子供に使うとは・・・・力の使い方を間違えている」



村長の話が続く中、少し離れたところではシーラがアルマスとレオンに声をかけた。
「お前達、大丈夫か?ケガは・・・・・」
「オレは大丈夫」レオンはシーラに答えるとアルマスを見た「でもアルマスが・・・・・・・」
「大丈夫です。少し疲れているだけで・・・・・」
アルマスがゆっくり立ち上がろうとするが、かなり疲れているのか体がよろめき、再び座り込んでしまった。
「無理しちゃダメだよ、アルマス」
ホーパスが心配そうにアルマスを見ていると、シーラはアルマスを見ながら
「そうじゃ。しばらくここで休んだ方がいい・・・・・でも、どうしてこんなことになった?」
「寺に行こうとしたら、あいつらに捕まったんだ。それでアルマスに火を出せって・・・・・・」とレオン
「そうか。そうなる前に、お前は火の力を持つこの子に会ったわけじゃな」
レオンの話にシーラは何度もうなづいた。
そして海に視線を移すと、ポツリとこんなことを言った。
「これである程度の条件は整ったというわけじゃな・・・・・・」



それを聞いたレオンがシーラに聞いた。
「え?それってどういうこと?」
「ん?それはな・・・・・・」シーラはレオンをちらっと見た後、アルマスに視線を移した。
「それより、まずはこの子を寺に連れて行こう。かなり身体が弱っているようじゃ。すぐに休ませないといかん」
「そうだね。アルマス大丈夫?」
「大丈夫だと思うけど・・・・・・」
アルマスが再び立ち上がろうとすると、シーラがそれを止めた。
「無理をするんじゃない。そのまま座っているんじゃ・・・・・村長、話は終わったか?」



アレクシスと話を終えた村長が4人のところにやってきた。
「村長、申し訳ないが・・・・・この子を寺まで運んでもらえないか?かなり弱っているようじゃ」とシーラ。
「ああ・・・・・分かりました」
村長はアルマスに近づくと、アルマスを後ろに背負った。
そして5人はゆっくりと海岸を後にするのだった。



しばらくして5人は山の寺に着くと、アルマスはすぐに布団の上に横になった。
村長が寺を去ってしばらくすると、レオンはシーラに声をかけた。
「おばさん、話があるんだけど・・・・・・・」
「何じゃ?」
「おばさんに頼まれてたものなんだけど、今ここですぐに渡せなくて・・・・・」
「何かあったようじゃな。話してみなさい」
「実はここに来る途中、あの海岸で大きなタコの化け物が海から出てきて・・・・それで馬が逃げてしまったんだ。
 馬にほとんどの荷物を乗せていたから、馬を探さないといけなくて」
「その荷物の中に頼んでいたものがあるんじゃな」
レオンが黙ってうなづくと、シーラは微笑みながらこう言った。
「ならば心配ない。お前の馬はすぐに見つかる。この山の頂上に荷物を乗せた馬がいるのを見たんじゃ」



それを聞いたレオンは顔を上げた。
「え・・・・・本当?」
「本当じゃよ」シーラはうなづいた「あの海岸に行く前に、この山の頂上へ駆け上がって行く馬を見たんじゃ」
「なら今から頂上に行って確かめて来るよ」
「いいや」シーラは首を横に振った「今日一日、馬を休ませたほうがいい。行くのは明日の朝に行くんじゃ」
「で、でも・・・・・馬がどこかに行かないか心配で」
「馬だって疲れているじゃろう。それに頂上は草が生い茂っていて食べるものも困らない。すぐには動かないじゃろう」
「・・・・・・・」
「明日の朝に行きなさい、頼んだものはそれからでもいいよ」
「分かった。明日の朝に行くよ」



数時間後。
別室では眠っていたアルマスがゆっくりと目を開けた。
白くて高い天井が見えると、そこにホーパスの姿が見えてきた。
「アルマス、目が覚めたんだね。大丈夫?」
「ホーパス・・・・・・」
心配そうな顔で見ているホーパスに、アルマスはゆっくりと起き上がった。
「アルマス、もう起きていいの?」
「うん」アルマスは大きなあくびをしながら両腕を上に上げた「ゆっくり寝たせいか、もう大丈夫・・・どこも痛くはないよ」
「本当?無理してない?」
「大丈夫だよ。心配してくれたんだね・・・・ありがとうホーパス」
アルマスがホーパスの身体を撫でていると、そこにシーラとレオンが入ってきた。



シーラはアルマスに声をかけた。
「起きていたか・・・・・どうじゃ体調は?」
「もう大丈夫です」
アルマスが頭を下げると、シーラはうなづきながら
「そうか、よかった・・・・でも今日はもう少しゆっくりした方がいいぞ」
「ありがとうございます。すみません迷惑をかけてしまって」
「いいんじゃよ。どっちにしてもここに来るつもりだったんじゃろう?レオンからある程度話は聞いている」
シーラはアルマスの側に座ると、レオンも続いてシーラの隣に座った。
シーラはアルマスを見ながら
「海岸にいた時よりも回復したようじゃな。顔色もよくなっている・・・・どうにかなる前に止めに入ってよかった」
「え・・・・どうにかなるって・・・・?」
「お前の右手にあるその指輪じゃ」シーラはアルマスの右手の指輪を見た。
「その指輪はとてつもなく強い力を秘めている。お前には強すぎる力じゃ。このままだとお前はその指輪にとりこまれてしまうぞ」



シーラの言葉にアルマスは海岸での出来事を思い出した。



そういえば・・・・・あの時、何か強い力に引き込まれるような気がした。
とてつもなく大きな力・・・・・・。



「思い当たることがあるようじゃな」
アルマスの表情にシーラはさらにこう言った。
「このまま使い続けるとお前はその指輪に支配されるようになってしまう。その前に力を抑えないといけない」
「・・・・・」
「これはお前だけではない、レオンも、海岸で会ったアレクシスも・・・・力に頼りすぎると気がつかないうちにその力に支配されてしまう。
 支配されてしまってはもう遅いのじゃ。その前に力を抑えないといかん」
するとレオンが話に割り込んで来た。
「あの海岸で会った男、水の力を持っているんですか?」
「そうじゃ」シーラはうなづいて話を続けた
「あのアレクシスはこの村で唯一、水の力を持って生まれた男でな。先祖代々水の力を持つ家系に生まれた男じゃ」
「なら、どうしてオレ達に向かってあんな事を・・・・・・」
「アレクシスは子供の頃、両親を失ってな。それもまだ自分の力をどう使えばいいのか分からないうちに、教える人がいなくなってしまって。
 今は村長のところで一緒に暮らしているが、今持っている力をどう使えばいいのか分からなくなっているようなんじゃ」
「え・・・・でもせっかく力があるんだから、それを活かせるようなことに使えばいいんじゃ」
「私も時々会って、助言をしているんじゃがなかなかうまくはいかなくてな。そんな中、あのタコの化け物が出るようになった。
 あのタコが出るようになってから、この村の様子が一変した・・・・・海岸沿いに出るたびに建物を破壊し、村人達もどうすればいいのか
 分からなくなっている。漁師達が海に出て、タコをなんとかしようとしたが全くダメじゃった。それ以来、漁が出来なくなって漁師達も
 困り果て、私のところに相談しに来たんじゃ」
「タコの化け物・・・・・・かなり前から出てきていたんだ」
「そこで水の力を持つアレクシスに頼んで、あのタコを退治しようとした・・・・しかし、予想していたよりもあのタコの力が強すぎた。
 アレクシスの攻撃にも全く歯が立たなかったんじゃ。それで仕方なく逃げるように引き揚げてきた・・・・・それでアレクシスはすっかり
 自信を無くしてしまって、今はあの通りに荒んでしまったんじゃ」



シーラの話を聞いた3人はしばらく黙っていたが、レオンが口を開いた。
「それで、この村が変わってしまったんだね・・・・少し前までは賑やかで楽しかったのに」
「そうじゃ」シーラはうなづいた「あのタコのせいでこの村は荒んでしまった。なんとかしないと村から人がいなくなってしまう」
「おばさんはタコを見たことがあるの?」
「ああ、あるよ。寺から海が見えるじゃろう?ここからでも分かるくらい大きなタコじゃ・・・・あの大きさじゃアレクシス1人では
 とても厳しいと思っていたが、やっぱりダメじゃった」
「オレもタコを見た。あの大きさじゃ1人だとても無理がある。倒すなら数十人で行かないと」
「私もそう思っているんじゃが、村の人数がだんだん減ってきている。あのタコを倒そうと思っても、人数が足りないんじゃ。
 それにたとえ数十人であのタコに立ち向かったとしても、アレクシスのような特殊な力がない限り、とてもではないが無理じゃろう」
「・・・・・・なら、どうすれば」
「そこでじゃ」シーラはレオンとアルマスを見た。「特殊な力を持つお前達に、アレクシスと一緒にタコを退治に行って欲しいんじゃ」



シーラの提案に、3人は一瞬耳を疑った。
「え・・・・・?」
戸惑っているアルマスに、ホーパスがシーラに近づいた。
「3人だけで大きなタコをやっつけに行くの?そんなことできるの?」
「この子猫、言葉が喋れるのか」シーラがホーパスを見ると、ホーパスは驚いた。
「え、僕が見えるの?」
「ああ、見えているよ」シーラはうなづくと右手を伸ばし、ホーパスの頭を優しく撫でた。
そして2,3度撫でた後、レオンとアルマスの方を向いて
「お前達の特殊な力があれば、あのタコを倒せる可能性は十分ある。火と風と水・・・・3つの力が合わされば、とてつもなく大きな力が
 生まれるじゃろう」
「でも・・・・・あの男が一緒に行くかどうか」とレオン
「アレクシスは私が説得する。それに行くのは3人だけではない。私も一緒に行く」
「え・・・・・?おばさんも?」
「そうじゃ。さっきも話した通り、お前達の力をある程度抑えなくてはいかん。大きな力に取り込まれないようにな。それに・・・・」
「それに?」
「この村のことを調べてみたら、昔にも今と同じような状況があったようじゃ。その状況をどう乗り越えたのか調べてみたら、ある場所に
 たどり着いたんじゃよ」
「ある場所?」とホーパス
「そうじゃ。その場所は今は遺跡になっているところでな。昔の人々はその場所を神聖な場所として崇めていた。村の災難や苦悩もその場所に
 行って、お祈りすればいい方向へ導き、その場所にはとてつもなく大きな力が秘められているとされているのじゃ」
「それってどこにあるの?」
「海のある場所じゃ。正確な場所は行ってみないと分からんが・・・・・昔の地図があるから、それを見ればある程度は分かるかもしれん」
「昔の地図か・・・・・」
レオンがそう言った後、辺りは静かになってしまった。



僕達の力だけで、タコの化け物を倒せるんだろうか。
まだ見たことがないけど、とても大きいタコらしいし・・・・・。



アルマスがぼんやりと考えていると、レオンがアルマスの顔を見た。
「アルマスはどう思う?」
「え、ぼ、僕は・・・・・」アルマスはレオンに気がつくと思わずどもった「まだそのタコを見たことがないから。どのくらい大きいのか
よく分からなくて」
「そうか。でもとても大きいタコだよ。手足も長いし・・・とてもじゃないけど1人で倒すのは無理だ」
「だから皆で協力をするんじゃ」とシーラが割り込んで来た「海岸に向かっている時にお前達の力を見せてもらった。あの力があれば・・・
アレクシスの力と、これから行こうとしている遺跡の力を合わせればあのタコを倒す可能性は十分ある」
「レオンはどう思ってるの?」とホーパス
「オレは行こうと思ってる。それでこの村がまた前みたいに人が戻って賑やかな村になるんであれば」とレオン
「アルマスはどうするの?」
「僕は・・・・・」
アルマスが不安そうな表情で右手の指輪を見た。



するとシーラはアルマスの右手に触れ、手を取った。
そして指輪をちらっと見た後、アルマスを見た。
「大丈夫じゃ。お前の指輪の力は私が一時的じゃが制御できる・・・・それならどうじゃ?」
「力を抑えることができるんですか?」とアルマス
「一時的・・・・しばらくの間だけじゃ。それでも何もしないよりはマシじゃろう?それに私も一緒に行く。それでどうじゃ?」
「分かりました。一緒に行きます」
「よし、あとはアレクシスを説得するだけじゃな」
シーラは深くうなづくと、ゆっくりと立ち上がった。
そして軽く背伸びをすると、深いため息をついた。
「アレクシスを説得するのは明日にしよう。お前達は明日は山の頂上にでも行って、馬に会いに行くといい・・・・
 そろそろ晩御飯の準備でもしようかのう」
「おばさん、手伝おうか?何か手伝うことがあったら」
シーラがその場を立ち去ろうと歩き出すと、レオンが後ろから声をかけた。
シーラは首を振りながら
「いいや、いいよ。ありがとうレオン。お前達も疲れているだろうから、しばらくここでゆっくりしていきなさい」
と部屋を去って行った。



翌日の朝。
レオンとアルマス、ホーパスは寺を出て、山の頂上へと向かった。
レオンは辺りを見回し馬を探しながら先頭で登って行く。
「山の頂上に馬がいるの?今は何も見えないけど」
ホーパスがアルマスの隣でふわふわ浮きながら辺りを見ている。
「まだ頂上じゃないからだよ」とアルマス「でもこの登り坂はきついね」
「大丈夫?アルマス」
「まだ登り始めたばかりだから大丈夫だよ」
「2人とも、ゆっくりでいいよ」前からレオンの声が聞こえてきた。
「ありがとう。レオンはもう何回か登ってるの?」
アルマスがそう返すと、レオンは2人の方を振り向いて
「うん。ここにはしょっちゅう来てるんだ。もう登り慣れてるよ。初めて登るのはきついかもしれないね」
「そうなんだ。ずっとこのまま行けば頂上に行ける?」
「うん。もう少し行けば・・・・・・」
レオンがそう言いかけた途端、後ろから何かの鳴き声のような音が聞こえてきた。
「あれは・・・・・馬の鳴き声だ!」
レオンは前を向くと、そのまま駆け上がって行ってしまった。



しばらくしてアルマスとホーパスがようやく頂上に着くと、少し先にレオンと1頭の馬の姿が見えた。
大きくてこげ茶色の馬にレオンが寄り添い、両手で優しく身体を撫でている。
「その馬がレオンが探してた馬なの?」
ホーパスがレオンに向かって聞くと、レオンは2人の方を向いた。



アルマスとホーパスがレオンのいる場所に着くと、アルマスは馬を見た。
「この馬に乗ってきたの?とても大きいね」
「うん」レオンは右手で馬の身体を撫でながらうなづいた「小さい頃からずっと一緒にいるんだ。大事な馬なんだ」
「名前はつけてるの?」
「うん、エリアスっていうんだ」
「そうなんだ。とても大人しいね。僕達とは初めてなのに」
「生まれた時から一緒にいるから、人には慣れてるかもしれない」
レオンは馬の身体を撫でながら馬の身体をじっと見ている「よかった。ケガしてないみたいだ。目立つ傷もない」
「背中に荷物を乗せてるけど、乗せたままでいいの?」
ホーパスが馬の背中に移動し、背中にある荷物を見ている。
「そうだ。荷物が全部あるかどうか見なきゃ」
レオンは視線を馬の背中に乗っている荷物に向けると、両手を伸ばした。
「手伝おうか?」とアルマス
「ううん。大丈夫・・・・・まずはおばさんに渡すものがあるかどうか見ないと・・・・これだ」
レオンは背中の荷物の中から、細長く巻かれている赤い布のようなものをゆっくりと引き出した。



レオンは赤い布を地面に広げた。
大きくて長方形の赤い布地に、金の刺繍の模様が布全体にされていて、とても豪華な絨毯のようだった。
「きれいな絨毯だね。これを届けに来たの?」とアルマス
「うん」レオンは絨毯を見たままうなづいた「寺の床に敷く絨毯だよ。祈祷に使うんだって」
「そうなんだ」
「よかった。汚れてないし、破けてもないみたい」
レオンはその場にしゃがみこんで絨毯の生地を見ている。
「とてもきれいな模様だね。金色がとてもきれい」
ホーパスが絨毯の上をふわふわと浮きながら見ていると、レオンは生地を見ながら
「ありがとう。僕のおばあちゃんが作ったんだ」
「え、手作りなの?」とアルマス
「うん。おばあちゃんと寺のおばさんは姉妹なんだ。おばさんがおばあちゃんに絨毯を頼んだんだよ。それでできたから
 僕が届けに来たんだ」
「すごい・・・・・模様も細かいし、どこかのお店で買ったものだと思ってたよ」
「よかった。どこも破けてない」レオンは立ち上がると絨毯の両端を両手で持ち、絨毯を丸めだした。
そして細長く巻き終えると、再び馬の背中に戻した。
「他の荷物も全部あるみたい・・・・・そろそろ戻ろうか」
レオンが2人に言うと、レオンは馬を連れその場をゆっくりと歩き出した。



3人が馬を連れて寺に戻ると、寺の中には大勢の男達の姿があった。
男達の姿の中には昨日見た村長の姿も見える。
全員床に座り、前にはシーラが向かい合って座っているのが見えた。
「一体、どうしたんだろう。何かあったのかな」とホーパス
「さあ・・・・・・」
アルマスとレオンは互いを見合わせると、部屋にいる男達を見ている。
部屋の入口で3人が前に座っている男達を見ていると、シーラの声が聞こえてきた。
「今日は朝から何をしに来たんじゃ」



すると間を置いて、男達のうちの1人から声が上がった。
「今日まで待ってみたが、いつまで経っても状況が変わらない。一体いつになったら漁ができるのか・・・・」
「待つだけじゃ、今の状況は全く変わらない。こちらから動かないといつまでも解決しない」
シーラが答えると、男達がざわめき出した。
「そんな事はこっちだって分かっている」
「あのタコをなんとかしないと無理だ。あのタコが漁を出来なくしている」
「このまま漁ができないとオレ達はお終いだ」
「お前達、静かにしろ!」村長が大声を上げた「だからこうしてここに来ているんじゃないか」
部屋が静かになると、シーラは村長に聞いた。
「状況は私もよく分かっている。それで私に何をして欲しいんじゃ?」
「・・・・漁ができるように、再び祈祷をお願いしに来た。海が静かになり、再び漁ができるように」
「祈祷だけではあのタコを静かにすることは出来ん。そんなことはお前達だって分かっていることではないのか?
 あのタコを退治しなければ、海は平穏さを取り戻ることはできない」
シーラがきっぱりと言うと、男達は黙ってしまった。



しばらくして村長がシーラに聞いた。
「あのタコを退治しなければとは思っている。でもどうやって退治すればいいのか・・・・・」
「そうだ。どうやってやっつけるんだ?前回失敗してるんだぞ」
「またアレクシスに頼むのか?」
男達の中からそんな声が上がると、シーラは男達をくまなく眺めながら
「そういえばアレクシスは今日は来ていないのか?」
「今日は声をかけていない。たぶん家にいると思う」と村長
「なぜ連れて来ないのだ。連れてくればいいものを・・・・・・」
「アレクシスに用があるのですか?」
「ああ、あるとも」シーラは大きくうなづいた「今ここにいれば話が早かったのだが・・・・・」
「何か考えでもあるんですか?」
「昨日思いついた事があってな。今日アレクシスに話をしようと思っていたんじゃ。せっかくだから今話をしておこうか。
 どちらにしてもお前達の協力が必要になる」
シーラはそういった後、後ろにいるレオン達を見た。
「お前達、話を聞いていたようじゃな・・・・・こっちに来なさい」



レオン達3人がシーラの隣に来ると、シーラは3人を見た。
「あのタコを倒すには多くの人数と強力な力が必要じゃ。以前アレクシスが1人であのタコに向かって行ったが
 1人では無理じゃった・・・・そこでこの2人の子供の力を借りることにした。火と風の力を持っている子供じゃ。
 それにアレクシスの水の力を合わせれば、あのタコを退治できるかもしれん」
シーラが話を終えると、再び男達がざわめきだした。
村長は男達を眺めながら
「この2人の子供が持つ力を昨日偶然見た。とても強い力を秘めている。タコを倒せる可能性が十分ある」
「それともうひとつ。海のどこかにあるとされる遺跡を探しに行く。その遺跡を見つけ、遺跡の力を発揮できれば
 タコを倒せる可能性はとてつもなく上がるじゃろう」
「遺跡・・・・・遺跡って、昔からあるっていうあの遺跡の事か?」
「昔からあるっていう噂だが、本当にあるのか?」
男達の間からそんな声が上がると、シーラはきっぱりと答えた。
「昔の遺跡の場所を記した地図がある。それを見て行けば遺跡にたどり着けるじゃろう。そこでじゃ。遺跡に行くには
 船が必要じゃ。船を出してくれるか?」
「船だけじゃない。船を動かす人も何人か必要だ。ここにいる全員ではないにしても何人かは行くことになる」
村長は男達を眺めながら続けてこう聞いた。
「誰か一緒に行く人はいないか?」



しばらくして寺から男達が出て行った後、村長が1人だけ残った。
「何人か手を挙げてくれてよかった。ありがとう村長」
シーラが村長にお礼を言うと、村長はシーラに聞いた。
「でも、いつ船を出すんですか?近いうちにとはさっき言ってましたが・・・・・」
「そこなんじゃ。問題は。いつ船を出すかはアレクシスの答え次第なんじゃ」
シーラはそう言うと、深いため息をついた。
村長はシーラの顔を見ながら
「それじゃ、今すぐ戻ってアレクシスに伝えておきましょうか」
「いいや、いい」シーラは首を横に振った「後で私がそちらに行ってアレクシスに話をする」
「でも、もし行ってアレクシスがいなかったら。お手数をかけてしまいます」
「そうか、そうじゃな・・・・・・」
シーラは黙り込んでしまうと、村長は様子を伺うように
「なら、やっぱり今戻って、アレクシスがいたらすぐ連れて戻ってきましょうか」
「いや・・・・・連れて来なくてもよいかもしれん」
シーラは何か思いついたのかはっとした動作を見せた。
「と言うのは・・・・・?」
「アレクシスの行動で思い当たるところがあってな。ここに連れて来なくてもいい。私の方からアレクシスのところへ行く」
「で、でも・・・・」
「大丈夫じゃ。何も心配はいらん。今日はもう帰ってもいいぞ」
シーラの言葉に戸惑いながらも、村長はゆっくりと部屋を出て行くのだった。



村長が寺を出ると、レオンがシーラに近づいた。
「おばさん、アレクシスを説得しに行くって・・・・・」
「あの男を説得するのは毎回苦労するな」
シーラは寺を出ていく村長の姿を見送ると、レオンの方を向いた。
「おばさん、大丈夫なの?アレクシスの行動に思い当たるところがあるってさっき言ってたけど」
「ああ、大丈夫じゃよ」シーラは微笑みを見せた「アレクシスの行くところはなんとなく分かっているつもりじゃ」
「それと、さっき言ってたけど。いつ遺跡に行くかは今夜決めるって・・・・・」
「こういうのは早い方がいいと思ってな。面倒なことは先延ばしするべきではない。近いうちに答えが出て来るじゃろう・・・
 アレクシスのことは任せておきなさい」
「・・・・・・・」
レオンは何も言えずにいるとシーラは話を変えてきた。
「そういえば、頂上に行ってきたんじゃろう?馬は見つかったのか?」
「あ、そうだった」レオンははっとして絨毯のことを思い出した。
「馬は見つかったよ。おばあちゃんから頼まれてた絨毯もあった。今持ってくるよ」
レオンがその場を離れると、シーラはレオンの姿を見送るのだった。



その夜。
大きくて丸い満月が浮かんでいる雲ひとつない夜空。
海岸では波の音が小さく穏やかに聞こえている。
そんな静かな海岸に、アレクシスが1人海を眺めていた。
何をすることもなく、立ったままただ海を眺めている。



アレクシスが海を眺めていると、後ろから声が聞こえてきた。
「やはりここにいたのか、アレクシス」
アレクシスが後ろを振り返すと、シーラの姿があった。
シーラはアレクシスに近づきながら
「毎晩ここに来ているのは知っているぞ・・・・寺からここが見えるからな」
「・・・・・・」
アレクシスは何も言わず再び前を向き、再び海を見ていると再びシーラの声が聞こえてきた。
「ところで、村長から何か聞いているか?」
「・・・・・・」
アレクシスは表情を変えず、海を見ている。



シーラはアレクシスの隣に来ると、再び話を始めた。
「おそらく聞いているじゃろう。あの村長が黙っているわけがない・・・・大事な話はすぐに広める性格じゃ。長い付き合いだから
 村長の性格は十分分かっている」
「・・・・・・」
「アレクシス、また海に出てあのタコを倒さないか?今度は私も一緒に行く。お前達の手伝いをしたいんじゃ」
「・・・・・・」
「一度失敗しているのは分かっている。でもここで動き出さなくてはいつまで経っても自分を変えられない。いつまで経っても
 今のままじゃ。それでお前はいいのか?」
「・・・・・・」
「ずっと村長の世話になるつもりなのか?それに今の状況がずっと変わらないことはないぞ・・・・私を含めてみんな年を取る。
 お前もそうじゃ。いつまでも今の状況は続かない。突然村長や私がいなくなることだってあるかも分からん」
「・・・・・・」
「お前は水の能力を継ぐ家系に生まれた。せっかくの力をお前の代で途絶えさせてもいいのか?その力を皆のために使いたいと
 思わないのか?」
アレクシスは何も反応することなく、ただ海を見つめている。



何も答えないアレクシスにシーラは深いため息をついた。
「相変わらず何も答えてくれないんじゃな・・・・・」
「・・・・・・」
「まあ、無理に答えなくてもいい。お前が持っている力をどう使えばいいのか・・・・力を持て余していることは分かっている。
 前回の失敗で自分の力にすっかり失望していることも」
「・・・・・・」
「だから再度、お前にチャンスを与えているのじゃ。それに前回と違ってお前にしかできないことがある」
シーラの言葉にアレクシスは一瞬、シーラの方を向いたが、再び海の方を向いた。
アレクシスの反応に気付きながら、シーラは平然とした様子で
「お前にしかできないこと・・・・・それは海の遺跡への行き方じゃ。今回は遺跡の力を借りてあのタコを退治しようと思っている。
 遺跡の地図はあるが、あの遺跡は代々水の能力を持つお前の家系にまつわる遺跡じゃ。お前が行かないと、遺跡には辿り着けん。
 お前抜きで辿り着けたとしても遺跡は我々を受け入れないだろう」
「・・・・・・」
「前回の失敗を取り返す機会じゃ。このままお前の家系を途絶えさせるのか、それとも後世に語り継げるような活躍をするのか
 それはお前次第じゃ」
「・・・・・・」
「今夜は満月か・・・・・それに波が穏やかじゃ。海が穏やかなうちに遺跡に行った方がよいかもしれん。行く日は私が決める。
 決まったら村長に連絡する。それまでにどうするのか決めておくんじゃな」
シーラは満月を眺めると、アレクシスにそう言い残してゆっくりと去って行った。



シーラがいなくなり、アレクシスは黙ったまま海を眺めていたが、しばらくするとゆっくりと海岸を離れて行った。



それから数日後。
アルマス達は海の遺跡へと向かうことになった。
海岸には大きな船が一隻停まっている。
船には次々と漁師達が大きな荷物を背負って乗り込んでいる。



アルマス達も船に乗り込むと、船首の甲板に出ていた。
ホーパスは海を眺めながら
「これから海に出るんだね。なんだかワクワクしてきた」と落ち着かないのか、同じところを行ったり来たりしている。
「ホーパスは海は・・・・・初めてだったね」
そんなホーパスを見ながらアルマスが途中まで何かを言いかけたが、思い出したようにそう言いなおした。
「アルマスは海には来たことがあるの?」とレオン
「うん。小さい頃、海の側に住んでたことがあるんだ。なんとなくしか記憶にないけど・・・・」
「そうなんだ。僕も海にはあまり来たことがないな。普段は砂の多い平地にいるから」
レオンがそう言い終えると、甲板にシーラがゆっくりとした足取りでやってきた。



シーラはレオン達の姿を見るなり聞いた。
「ここにいたのか・・・・アレクシスはまだ来ていないのか?」
「ううん、まだ見てないよ」レオンは首を振った「僕らもさっきここに来たばかりなんだ」
「そうか・・・・」
するとシーラのところに1人の漁師がやってきた。
「そろそろ船を出そうと思っているのですが・・・漁師達も揃いましたし」
「そうか。村長はどうした?姿が見えないが」
「村長なら、さっき船を降りました。船の側にいるはずですが・・・・・」
「そうか。村長にはさっき船には乗らず、村に残れと言ったからな」
シーラはそう言いながらも誰かを探しているように辺りを見回している。
漁師はシーラを見ながら
「そろそろ出ないと、波が荒れたら出航できなくなってしまいます」
「・・・・分かった。仕方がない。船を出そう。出航するんじゃ」
シーラがうなづくと漁師は後ろを振り向いて大声を上げた。
「準備はいいか?出航するぞ!」



その声を聞いた、船の中央にいる漁師が手前にある舵を両手でつかんだ。
そして舵を動かそうとするが、舵が動かない。
両手で力いっぱい動かそうとしても、舵が重いのかびくとも動かない。
「おい、どうした?」
「舵が重すぎて・・・・・どう動かそうとしてもびくともしない」
「なんだって?」
2,3人の漁師達が舵の前で戸惑っていると、それを見ていたシーラが声をかけた。
「お前達、何をしているんじゃ?何か問題でも起こったのか?」
「そ、それが・・・・・舵が思うように動かなくて」
漁師の1人が再び舵を動かそうとすると、後ろから声が聞こえてきた。
「お前達じゃその舵は動かせない。そこから離れろ」



後ろを振り向いた漁師達はその声の主を見て驚いた。
「お、お前は・・・・・!」
「いいから、早くそこから離れろ。オレが舵をとる」
漁師達が舵から離れると、アレクシスが舵の前に姿を現した。



アレクシスの姿が見えるとアルマス達も驚きの表情を見せた。
「アレクシス、来ると思っていた」シーラはアレクシスを見ると続けて聞いた「どうしてここに来た?」
アレクシスは両手を舵にかけながらシーラを見た。
「言ってたじゃないか。オレじゃないと遺跡には辿り着けないって・・・それにオレにしか行き方は分からない」
「確かにその通りじゃ」シーラはうなづいた「でも、それだけか?」
「・・・・それだけじゃない。今度こそあのタコを倒す。先祖代々に伝わる遺跡の力を解放し、その力を借りて。
 オレの力だけじゃなく、皆の力を借りて・・・・今度こそあのタコを倒す」
「アレクシス・・・・・」



「よし、そうと決まったら出航だ!頼んだぞアレクシス!」
アレクシスの側にいる漁師がアレクシスの右肩をポンと叩いた。
「ああ、出航だ!」
アレクシスが舵を思いきり右へと動かした。
アルマス達を乗せた船はゆっくりと右へと動き、遺跡へと向かって行くのだった。