遺跡の力

 


海岸を出航した船は遺跡へと向かっていた。
出航して数時間が経った頃。
船首に出ているアルマスが海を眺めていると、遠くから何かが流れてくるのが見えた。
「あれは何だろう?何かが浮かんでるみたいだけど」
アルマスの右隣でホーパスが海面を見ていると、アルマスの左隣にいるレオンも海面を見ながら
「あれは・・・・細い板みたいだ」
「後からも同じようなものが流れてるみたい」
「本当だ。次々と流れてきてる・・・・・何かあったのかな」
「お前達、何を見ているんじゃ?」
3人が海面を見ていると、後ろからシーラが近づいてきた。



シーラがレオンの隣に来ると、レオンはシーラを見た。
「細い板みたいなのが流れて来てるんだ」
「どれ・・・・・これはひどい有様じゃな」
シーラが海面を見ると、海面には細い板やゴミのようなものが固まって浮かんでいる。
そしてじっくり見ながら
「これは・・・・船体の一部が流れてきているようじゃ」
「船の一部?もしかしたら・・・・・・」
「もしかしたらあのタコに襲われたかもしれん」
タコと聞いた途端、辺りは静まり返った。



「タコに襲われた・・・・・近くに船がいるかもしれないってこと?」
レオンがシーラに聞くと、シーラはうなづきながら
「もし近くに船がいて、タコに襲われたとしたら・・・・船の残骸がこっちに流れているのかもしれん」
「え、じゃこの近くにタコがいるかもしれないってこと?」
ホーパスが不安そうな表情で辺りを見回している。
「そうとは限らん。海面を見る限り、こんなにばらばらの状態で流れているのであれば襲われてからしばらく時間が
経っているのかもしれない」
「もしそうだとしたら、板だけじゃなくて他のものも流れてくると思うけど」とレオン
「他のものが流れて来るかどうか、しばらく見てみることにしよう」
シーラがそう言うと、4人は板以外のものが流れてこないか海面を見つめていた。



しばらく海面を見てみたが、細い板と細かいゴミみたいなもの以外は見つからなかった。
シーラは海面から3人に目を移すと
「どうやら襲われてから時間が経っているようじゃ。細い板と細かいもの以外見つからなかった」
「よかった。じゃタコはこの近くにはいないんだね」
ホーパスがほっとしていると、アルマスは逆に不安なのか
「そうとは限らないよ。もしかしたら近くにいるかもしれない・・・・もし今出てきたらどうするんですか?」
「そうか、遺跡に着く前にタコに遭う可能性もあるんだ」とレオン
「その場合はタコと戦うしかないじゃろうな。遺跡に着く前にタコと戦うことはなるべくなら避けたいが・・・・
 もしそうなった場合は仕方がない」
シーラがそう言うと、再び辺りが静まり返った。



今タコが出てきたら、どうすればいいんだろう。
どうやって戦えばいいのか分からない。
それに戦ったことがないから、どうすればいいのか・・・・・・。



アルマスが考えていると、レオンがシーラに聞いた。
「おばさんは遺跡に着く前にタコに遭うと思う?」
「たぶん今すぐに遭う可能性は低いじゃろうな。さっきの船の残骸を見る限りじゃが・・・・あのタコも同じところに
 動かずにずっといるとは考えにくい」とシーラ
「じゃ、しばらくはこの辺りにはタコは出ないってこと?」とホーパス
「そうとは限らんが・・・・・タコに遭う前に遺跡に着けば、とりあえずは大丈夫じゃ」
シーラは3人に背を向けると、ゆっくりとその場を後にするのだった。



それからさらに数時間後。
船は小さな島や岩の多い場所に辿り着いた。
その中にある島に船が停まると、アレクシスは舵から離れた。
「着いたぞ、ここが遺跡のある島だ」



アルマス達が船を降り、島に上陸した。
アルマスが辺りを見回すと、後ろに島の奥へとのびている道があるだけだった。
シーラはアレクシスが船から降り、こちらに向かって来るのが見えると声をかけた。
「アレクシス、遺跡への道は分かるのか?」
「ああ、道はひとつしかない。遺跡は奥の方にある。着いて来い」
アレクシスがシーラの前を通り過ぎて先頭になると、そのまま歩き出した。
アルマス達はアレクシスの後について歩き出した。



しばらく歩いて行くと、目の前に大きな岩山が見えてきた。
「あの大きな岩山の中に遺跡がある」とアレクシス
「あれがそうなのか・・・・・とても大きな山だね」
ホーパスがアルマスの隣でふわふわ浮きながら岩山を見ている。
「あの山の中に遺跡があるのか。どこから入るんだろう」とレオン
「さあ・・・・・あ、着いた」
ホーパスが停まって岩山を見ていると、シーラが岩山を見渡しながら
「ところで、どこから中に入るのか分かるのか?」とアレクシスに聞いた。
アレクシスは分からないのか、黙ったまま岩山を見渡している。
シーラは岩山を見渡しながらアルマス達に声をかけた。
「分からないのなら仕方がない。みんなで探すんじゃ」



アルマス達は岩山の入口がないか探していると、しばらくしてホーパスが左側から飛んできた。
「向こうに入口みたいな穴があるよ」
「え、向こうって・・・・・どこにあるの?」とアルマス
「ここをずっと左に行って、端っこに大きな穴があるのを見たんだ」
「じゃ、そこに行ってみよう」



アルマス達はホーパスが見つけた穴へと移動した。
目の前には大きな穴があり、中は真っ暗で何も見えない。
みんなが穴を見ていると、シーラが穴の前に出て中を見ている。
「真っ暗で何も見えないが、何かありそうじゃ」
シーラはそう言いながら、穴の中へと入って行く。
シーラの行動にアルマス達は一瞬どうするかと戸惑ったが、続いて穴の中へと入って行った。



穴の中は暗く、辺りは何があるのか分からないくらいだった。
「みんな、どこにいるの?暗くて分からないよ」
ホーパスの声が穴の中で響き渡っている。
するとその声に応えるかのように、突然辺りが明るくなった。
最後に入ってきた漁師の1人がランプを持ってきていたからだった。
「明るくなった・・・・ありがとう。これで先へと進める」
シーラが漁師にお礼を言うと、アレクシスはその漁師からランプを受け取った。
そしてランプをところどころに向けると、後ろに道がひとつだけ伸びているのが見える。
「後ろに奥へ行く道がある。そこしか道はなさそうだ」
アレクシスが奥へと歩き始めると、シーラは他の人達を見ながら言った。
「それじゃ先へと行こうか・・・・・アレクシスの後に続くんじゃ」
シーラがゆっくりと歩き出すと、他の人達も後に続いた。



奥へと歩いて行くと、突然開けた場所に出た。
「ここは・・・・・・・」
アレクシスがランプで辺りを照らすと、奥は行き止まりになっているのか岩壁が見える。
さらにランプを左右に照らしていくと、石像のようなものが左右両端に1体ずつ置かれているのが見える。
2体の石像の間には石のテーブルのようなものがあった。
テーブルの上には細かい石やすっかり枯れている花びらのようなものが散らばっている。



ここは・・・・・昔に見たことがある。
石像、それにこの花びら。どこかで見覚えがある花だ。
子供の頃、ここに来たのかもしれない。



アレクシスがテーブルの上にある花びらを見ていると、シーラが話しかけてきた。
「ここに来たことがあるのか?アレクシス」
アレクシスはしばらく黙っていたが、深くうなづいた。
「・・・・小さい頃、来た覚えがある。母親とよく来ていた」
「そうか。ここは何をするところか分かるか?」
「母親はここで祈りを捧げていた。持ってきた花をそこに置いて、座って祈りを・・・・・」
「そうか・・・・ここは礼拝堂のような場所じゃな」
アレクシスは黙ってうなづくと、シーラはテーブルへと歩き出した。



シーラはテーブルの前まで来ると、その場にゆっくりと座った。
そして両手を合わせ、目を閉じて祈りを捧げた後、後ろを振り返った。
「お前達、何をしている。みんなで祈りを捧げるんじゃ。村の平和のためにな」
「は・・・・・はい」
漁師達が戸惑いながらその場に座り始めると、アルマス達もそれにつられるようにその場に座った。
そして両手を合わせ祈り始めると、シーラは再び前を向いて再び祈りを始めるのだった。



シンと静まり返った雰囲気の中、しばらくするとどこかからゴゴゴという何かが動いたような音が聞こえてきた。
音に気がついたシーラは祈りを止め、目を開けた。
「・・・・どこからか音が聞こえたようじゃ」
「あ、右側から光が出ているぞ!」
漁師達から声が聞こえると、シーラはゆっくりと立ち上がった。
そして後ろにいるアルマス達の方を振り返り、左側を見た。
「何かが起こったようじゃな。確かに光が出ている・・・・向こう側に何かがあるようじゃ」
シーラがそう言うと、光が出ている左側へ移動を始めた。
シーラの後に続くように、アルマス達も立ち上がると移動を始めた。



アルマスが光が出ている左側へ行くと、そこには大きな扉のような石が行く手を阻んでいた。
石の向こう側から光が差し込み、石と石の壁の間から光が漏れ出ている。
「さっき音がしたのはこの石のようじゃな。光が向こう側からこっちに漏れてきている」
シーラが右手を伸ばし石に触れている。
「とても大きな石だね。この石動かせるのかな・・・・向こう側には何があるんだろう」とレオン
「ホーパス、石の向こう側に行ける?」とアルマス
「うん、行ってくるよ」
ホーパスはうなづいて、石の前に移動し、石の中に入ろうとした。
しかしどういうわけか、ホーパスの身体は石の中に入っていかず、ぶつかってしまう。
ホーパスが何度石の中に入ろうとしても、石はホーパスを受け付けない。
「あ、あれ?おかしいな・・・・・どうして?なんで中に入れないの?」
ホーパスが石を見つめながら戸惑っていると、シーラはそれを見て
「どうやら何か特殊な力がこの石には秘められているようじゃ」
「特殊な力?」
「そうじゃ。外部の者を寄せ付けない力がこの石にはあるのかもしれん」
「それなら、力ずくでこの石を動かすまでだ」
漁師達が数人、石の前に集まると力ずくと石を動かそうと右へと押し始めた。
しかしそれでも石はびくともしない。
しばらく押し続けていたが、やがて体力の限界がきたのか、へとへとになってあきらめてしまった。
「だ、だめだ・・・・・この石、重すぎて全く動きやしない」
「一体、どうすればこの先に行けるんだ?」
「しかし、さっき動いたような音がしたのは確かじゃ・・・・それにここに入った時、光は無かった」
シーラはどうすればいいのか考えていると、ランプを持っているアレクシスの姿が目に入った。
「そうじゃ・・・・アレクシスならこの石を動かせるかもしれん」



シーラの言葉にアルマス達がいっせいにアレクシスの方を向いた。
「水の力を持つアレクシスなら、この石を動かせるかもしれん。ここは水にまつわる遺跡じゃ・・・やってくれるな?」
シーラの言葉にアレクシスはうなづいた。
そして無言で石の前へと歩き出すと、石の前にいた漁師達はその場を離れた。



アレクシスは石の前まで来ると、右手を伸ばし石に触れた。
すると石がそれに反応するかのように一瞬光ったかと思うと、ゴゴゴという音をたてながら右へと動き出した。
石が右端まで動き、音が止まると、目の前には新たな部屋が見えた。



アルマス達は部屋に入ると、少し先に大きな石像があった。
天井に届きそうな大きさで、石像の顔は見ている者を睨みつけているような表情を見せている。
石像の前には無数の骨が無造作に置かれている。
アルマスが積まれている骨を見ていると、隣にシーラがやってきた。
「この骨は・・・・・・?」
「どうやら動物の骨のようじゃ」アルマスの問いにシーラは骨のひとつを取り出して見ている。
「動物の骨?一体何のために?」とレオン
「祈りのために捧げられた動物達じゃろう。生贄にするためにここで殺して神に捧げたんじゃな」
「じゃ、この石像は神様なの?」
レオンが石像を見上げると、シーラは骨を元の場所に置きながら
「そのようじゃな。大きな願いを叶えてもらうために、ここで生贄を捧げて神に祈ったんじゃ・・・」
「生贄にされた動物達はずっとここに置かれてたの?」
「そうじゃな・・・・・ここに骨があるということは」
シーラが骨を見ていると、そこにホーパスがやって来た。
「この先にも何かあるみたいだよ。みんな向こうに行ってる」
「向こう?」とアルマス
「うん。漁師さん達がみんな向こうに移動してるよ。光は向こうから来てるみたいだって」
「それじゃ、我々もそちらに行ってみよう」とシーラ
「ホーパス、どこなのか案内してくれる?」とアルマス
「うん」
ホーパスが移動を始めると、アルマス達も後に続いた。



ホーパスの案内でアルマス達は再び外に出た。
目の前には再び海が広がっているが、少し先に岩の塊が見える。
岩の塊は周りを取り囲んでおり、岩の内側はまるで大きな池のようになっている。
岩の外側は海が広がっている。



「ここは・・・・?一体何のために岩で囲っているんだろう」
レオンが岩の塊を見ながら違和感を感じている。
「気がついたようじゃな。あの岩・・・・・自然にできたとは考えにくい」
シーラも岩の塊を見ている。
レオンはシーラの方を向いた。
「おばさん、何のために岩で囲っているのか分かる?」
「きっと何かがあるのじゃろうが、今は全く分からん」
シーラは後ろにいるアレクシスの方を振り向いた。
「アレクシス、お前はここがどのような場所なのか知っているか?」
アレクシスは首を振りながら
「遺跡の中には来たことがあるが、ここに出たのは初めてだ・・・・どんなところなのかは分からない」
「そうか。お前でもここまでは来たことがなかったか」
「おばさん、昔の書物にもここのことは書いてなかったの?」とレオン
「さあ・・・・・どうじゃったかな。ひと通り昔のものを見たはずじゃったが・・・・・」
シーラが思い出そうと考えていると、ホーパスが近づいてきてシーラに聞いた。
「周りを見てきたけど、もうこの先はないみたい。ここで終わりなのかな?」
「先に何もないのであれば、そうかもしれん」シーラはうなづいた後、辺りをゆっくりと見回した。
そして再びアルマス達を見るとこう言った。
「そうであればさっきのところに戻って祈祷をしよう・・・・祈祷の準備をしなくてはならん」
「祈祷の準備?」とレオン
「そうじゃ。船に積んでいるものを持ってこなくては・・・・」
シーラは近くにいる漁師達を見ると、漁師達に向かって声を上げた。
「これから祈祷を行う。祈祷用のものを船から持ってくるんじゃ」



しばらくしてアルマス達はさっきの場所に戻ってきた。
漁師達が船から祈祷用のものを持って戻ってきている。
大きな花束を持ってくる人、大きな紙袋を持ってくる人もいれば、4人がかりで2本の丸太に縄で逆さに吊るされた豚や鳥を
運んで来る人達もいた。
ホーパスは吊るされている豚を見て
「あの豚って生きてるの?動かないように見えるけど」
「おそらく死んでいるじゃろう。生きたままだと船の中で暴れたら困るからな・・・それは向こうの石像の前に置くのじゃ」
シーラが豚を運んでいる漁師達に指示すると、漁師達は石の扉へと移動していく。
「じゃ、あれは生贄に使うの?」
「そうじゃ。本来であれば生きたままの方がよかったんじゃが・・・・」
シーラが途中まで言いかけると、漁師の1人がシーラに紙の束を渡してきた。
「ああ、ありがとう」
シーラは漁師にお礼を言うと、受け取った紙の束を見ている。
「おばさん、それは・・・・・遺跡の事が書かれてるの?」
レオンがシーラが持っている紙を見ると、シーラは紙を見ながら
「そうじゃ。この遺跡に関する昔の資料じゃ・・・・・ここで行われていた祈祷の詳細が書かれている」
「じゃ、その通りにやれば遺跡の力が解放されるってこと?」
「そうとはまだ分からないが、もしかしたら遺跡に秘められた力が解放されるかもしれん。準備ができたら始めよう」
シーラは紙に書かれている内容を見終えると、紙の束を石のテーブルの上に置いた。



祈祷の準備が終わると、シーラは石のテーブルの前に座った。
シーラの後ろには漁師達が座り、一番後ろにはアルマス、レオン、アレクシスが座っている。
石のテーブルには中央に食べ物らしきものが置かれ、その左右両側には花束が置かれている。
石の扉の先の石像のある場所では、生贄とされた豚や鳥が石像の前に置かれている。



シーラは後ろを振り返った。
「これから祈祷を始める。祈祷の間は何があっても静かにするんじゃ。祈りに集中するように」
漁師達が黙ってうなづくと、シーラは前を向いて両手を合わせた。
そして呪文のようなものを唱え始めると、漁師達も手を合わせて祈り始めた。
それを見たアルマス達も手を合わせ、祈り始めた。



しばらくすると突然、石の扉の向こう側から動物のような鳴き声が聞こえてきた。
「・・・・向こうから何か鳴き声が聞こえてきてる」
ホーパスがアルマスから離れ、ふわふわと浮きながら石の扉の方を見ている。
「鳥と豚の鳴き声・・・・・?」
レオンも石の扉の方を見ていると、前にいる漁師達もざわざわとし始めた。
「あれは豚と鳥の鳴き声だ」
「どうしてだ?船に乗せる前に処分したはずなのに」
「一体どういうことだ?」
「お前達、静かにするんじゃ!」
シーラが祈りを止め、後ろを振り返り漁師達を叱責した「祈りに集中するようにさっき注意したばかりじゃろう」
「で、でも・・・・・・・」
漁師達の1人がシーラにそう言いかけた時、後ろから動物達の断末魔のような恐ろしい声が聞こえてきた。



動物達の声が止むと、部屋は急に静まり返った。
「さっきの声は一体・・・・・・?」
アルマスが石の扉の方を見ていると、隣にいるアレクシスがゆっくりと立ち上がった。
そして石の扉に向かってゆっくりと歩き出している。
「アレクシス、どこへ行くんじゃ?」
シーラがアレクシスに聞くが、アレクシスは答えず、石の扉へと歩いて行く。
「アレクシス、どこへ行く?アレクシス!」
シーラが何度もアレクシスの名前を呼ぶが、アレクシスは反応しない。
「おばさん、僕が後を着いて行ってみるよ」
レオンが立ち上がると、隣にいるアルマスとホーパスも立ち上がり
「僕らも一緒に行きます」とシーラに言った。
シーラは3人を見ながら
「ああ。頼んだよレオン。私は祈りを続けているから、何かあったら戻ってきておくれ」
「うん。行こう。アルマス、ホーパス」
レオンの言葉にアルマスはうなづくと、3人はアレクシスの後を追った。



3人が石の扉を通り過ぎると、石像の前の動物達の異変に気がついた。
木の丸太に縄で縛られたままの豚や鳥達が血まみれの状態で惨殺されているように見える。
祈祷前は閉じられていた動物達の目はなぜかすべて大きく見開いていて、何か恐ろしいものを見たかのような驚愕の表情をしている。
「これは・・・・・・一体何があったんだろう」
レオンが動物達を見ていると、隣でホーパスがふわふわと浮きながら
「さっき声が聞こえてきたけど、この動物達の鳴き声だったのかな」
「たぶん・・・・・」
「でも、船に乗せる前に処分したって漁師さんが言ってたのにどうして・・・・・・?」
「アレクシスさん!」
2人の後ろでアルマスがアレクシスを呼ぶと、レオンは後ろを振り向いた。
「アルマス、アレクシスは?」
「さっきの海の岩場に出る場所に行くみたいだ」
「じゃ行こう」



3人がアレクシスの後を追って外に出た。
「こ、これは・・・・・・・!」
アレクシスが驚いた表情で目の前の光景を見ていると、3人もそれを見て驚いた。
岩の塊で囲まれた海の内側の水が目の前で異様なまでに盛り上がり、水の柱のようになっている。
その柱はだんだん高くなっており、4人はだんだんと顔を上げていくほどだった。
「これは何?下から水が上がってきてるの?」とホーパス
「そうだね・・・・一体何が起こってるんだろう」とアルマス
「アレクシス、この水柱みたいなものは・・・・・・」
「見たことがない」アレクシスはレオンの質問に首を振った。
そして水柱を見ながら
「さっきの場所で何かに呼ばれたような気がしてここに来たが・・・・・何かが起きようとしているのか」
「何かに呼ばれて?」
レオンがアレクシスに聞いた途端、突然目の前の水柱が破裂したように砕け散った。
「うわっ・・・・・・!?」
水しぶきが4人に容赦なくかかり、4人は思わず目を閉じた。



「一体、何が起こったんだ・・・・・・」
すっかりずぶ濡れになったアレクシスが目を開けると、ホーパスが声を上げた。
「あ、見て!水がぐるぐる回ってるよ!」
「え?」
アルマスがホーパスに言われて海を見ると、水柱がなくなり海面がぐるぐると時計回りに渦を巻いている。
速い速度が渦を巻き、中央はかなり大きく凹んでいる。



「一体、何が起こってるんだ・・・・・・」
アレクシスが大きな渦を見ながら戸惑っていると、その隣にいるレオンも何も言わずに渦を見ている。
アルマスも同じように渦を見ていると、隣でホーパスが話しかけてきた。
「アルマス、シーラさんをここに呼んでくるよ」
「え?シーラさんを?」
アルマスがホーパスの方を向くと、ホーパスはうなづいて
「うん。何かあったら呼んでって言ってたでしょ?呼んでくるよ」
「分かった。頼むよホーパス」
アルマスがうなづくと、ホーパスは後ろを向いてその場を離れて行った。



3人が海の渦を見ているうちに、空がいつの間にか真っ暗になっていた。
「空が・・・・・・!いつの間にこんなに暗くなってる」
レオンがふと空を見上げると空の変化に驚いている。
「本当だ」レオンの言葉につられてアルマスも空を見上げている「さっきまでは晴れていたのに」
そこにシーラを連れてきたホーパスが戻ってきた。
「シーラさんを連れてきたよ!・・・・どうしたのみんな上を見て」
「空が真っ暗じゃ」シーラは真っ先に空の異変に気がついた「さっきまでは青空が広がっていたのにそれが今は・・・・・」
「本当だ!さっきまで天気よかったのに!」
ホーパスが空を見上げていると、レオンがシーラに聞いた。
「空もそうだけど、海が大きな渦を巻いてるんだ。何が起きてるのかおばさんは分かる?」
「どれ・・・・・これはものすごい渦を巻いているな」
シーラは目の前にある海の渦を見ている。
「ずっと見ているけど、全く変わらないんだ。渦を巻いてるスピードも速いままだし」
「これは・・・・何が起こっているのかは分からんが、何かが起ころうとしているのは確かじゃ」
「何かって?」
「もしかしたら遺跡の力が解放されようとしているのかもしれん」
シーラがそう言った途端、空から雷鳴が鳴り響いてきた。



「かなり天候が荒れ始めてきたな・・・・・・」
シーラは空を見上げると、遠くに雷が落ちるのが見えた。
次々と空から雷鳴が聞こえ、雷が所々に落ち始めるとシーラは4人を見た。
「これはいったん中に入った方がいい。このままだと雨も降ってくるじゃろう。これ以上ここにいるのは危険じゃ」
「で、でも・・・・・」
レオンは海が気になるのか、渦を巻いている海を見ている。
「気になるのは分かるが、今は自分の身を案じるのが一番じゃ。雷が落ち着くまで中に入ろう」
「・・・・分かった」
「アレクシス、アルマスもじゃ。いったん中に入ろう」
シーラがそう言って遺跡の中へと移動を始めると、シーラの後にレオンが続いた。



アレクシスがレオンに続いて歩き出し、アルマスも中に戻ろうと後ろを振り向いた時だった。
いきなり大きな音がしたかと思うと、突然目の前が真っ白になった。
「!?」
アルマスの目の前に雷が落ちたのだ。
アルマスは雷を避けようと動いたが、足元がおぼつかず、身体が後ろへと倒れていく。
また雷が落ちた勢いで、アルマスの身体は飛ばされて渦を巻いている海へと吸い込まれていくかのように落ちて行った。
「アルマス!?」
渦の中へと吸い込まれたアルマスを見たホーパスが大声を上げた。



「アルマス?アルマス!」
ホーパスが叫びながら渦を巻いている海へと行こうとするが、後ろからシーラの声が聞こえてきた。
「行くな!無茶をするんじゃない!」
ホーパスの声を聞いたアレクシスとレオンが海に戻るが、渦を巻いた海はアルマスをすっかり飲み込んだ後だった。
「アルマスが・・・・・アルマスがあの海の中に・・・・どうしたら・・・・・」
ホーパスが困惑した顔で海を見ている。
レオンとアレクシスが黙ったまま海を見ていると、シーラも海を見ながら
「渦が落ち着くまでどうすることもできん・・・・このまま落ち着くのを待つしかない」
「そんな・・・・・・」
「とりあえず天候が落ち着くまで待つしかない。いったん中に入るんじゃ。さあ」
シーラが3人に遺跡の中に入るよう促すと、3人は仕方がなさそうにゆっくりと移動を始めるのだった。



「ねえ、起きて。起きてよ」
女の子の声が聞こえ、身体が揺れていると気がついたアルマスはゆっくりと目を覚ました。
目の前には髪の長い、金髪の女の子の姿が見える。



ここは・・・・・?
それにこの女の子、どこかで見た事あるような・・・・・?



アルマスは朦朧とした意識の中、女の子の顔を見ている。
「よかった。気がついたみたい」
女の子の声に、アルマスははっと思い出した。
「君は・・・・・!あの時の人魚!」
「そうだよ」アルマスの言葉に女の子は微笑みを見せた「覚えててくれたんだ!嬉しい」
アルマスはゆっくりと起き上がりながら辺りを見回している。
「ここはどこ?僕は確かあの渦の中に・・・・・・」
「ここは海の底のほこらだよ」
「海の底のほこら・・・・・?」



海の底と聞いたアルマスは不思議に思った。



どうして・・・・海の底なのに、どうして息をしているんだろう。
それに息苦しくない。
ここは一体・・・・・・?



アルマスが戸惑っていると、そこに以前会った女性の人魚がやってきた。
「目が覚めたようですね」
「あなたは・・・・・!」
アルマスが人魚を見て驚いていると、人魚は平然とした様子でアルマスを見つめながら
「ヴァッテンからすぐに出るように、あの時言ったはずなのに・・・・・悪い予感が当たってしまったようです」
「しょうがないよ。預言は当たるんだから」
そこに女の子が割り込んで来た「今までだって預言通りだったでしょ?外れたことなんてなかったんだから」
「預言?預言って・・・・・一体どういうこと?」
それを聞いたアルマスが戸惑っていると、女の子はアルマスを見て笑顔を見せた。
「でももう大丈夫だよ。今からだんだん良くなるから」



女の子の言葉にアルマスが理解できないでいると、人魚はアルマスに向かって話しかけた。
「ごめんなさい。私達は近い未来が見えるの・・・・・生まれた時から持っている力なのよ」
「え・・・・・?未来が見える?」
アルマスが女の子を見つめていると、人魚も女の子を見ながら
「ええ。今までこの海で起こった出来事を全て言い当てているの。外れた事は一度もないわ」
「・・・・・・」
「今この海で起こっていることも言い当てたの。大きな化け物がこの海を荒しに来るって」
「大きな化け物・・・・・みんなが言っているあのタコの事ですか」
「そうよ」人魚は大きくうなづいた「数年前に突然この海にやってきたの。あの化け物が来てからは魚達がこの海に寄り付かなくなってしまった」
「どうしてそのタコがここに・・・・?」
「それは分からないわ。でも・・・・何か得体の知れないものがこちらに近づいてきているのを感じる。あの化け物はその前触れみたいなもの
 だと思うわ」
「それで・・・・そのタコを倒そうとは思わなかったんですか?」
「私達だけではあの大きな化け物を倒すのは無理だわ・・・・・そこでヴァッテンにいる水の力を持つ者にあの化け物を倒してもらおうとした。
 水の力を持つ者であれば上にあるあの遺跡に来るはず。来たら遺跡の力を解放できるはずだと思っていた。でもなかなかその者は遺跡には
 現れなかった・・・・ずっと来るのを待っていたの」
「でも、僕はヴァッテンの者じゃないし、水の力を持ってない・・・・僕じゃなくてアレクシスだと思うんだけど」
「アレクシス・・・・あの男は以前、あの化け物と戦って負けているわ。それになかなか遺跡に来ようとしなかった」
「それはそうだけど・・・・・」
「以前の戦いで、1人だけではとてもあの化け物とは戦えないことは分かった。次に戦うのであれば複数人で戦わなければと思っていたの。
 そんな中、あのトンネルに2人の子供が来たわ・・・・レオン、そしてアルマス、あなたよ」



人魚に自分の名前を呼ばれたアルマスは驚いた。
「どうして僕の名前を?あの時、名前は言ってなかったと思うけど」
「あの時は確かに聞いてなかったわ。あの時はあなたをヴァッテンからすぐに出そうと思っていたから。でも気が変わったの・・・・・
 あなたのその指輪を見て、もしかしたらあの化け物を倒すことができるんじゃないかって」
人魚の話を聞いて、アルマスはトンネルで出会った時の人魚の言葉を思い出した。



そういえば、最初はヴァッテンに行くなって言われてたのに、急に短い間ならいいって・・・・・。
この指輪を見たから?



アルマスが右手の指輪をちらっと見た後、人魚を見た。
「この指輪を見てって・・・・この指輪の事を・・・・」
「あっ!」
アルマスが言いかけている途中で突然女の子が叫んだ。
「あのタコの化け物がこっちに近づいてきてる!」
「何だって・・・・・?」
アルマスと人魚が女の子の言葉に戸惑っていると、女の子は次にこう言った。
「大丈夫だよ!遺跡の力を解放して戦えば。あのタコを倒すんだったら今がチャンスだと思うよ」
「遺跡の力を解放できるようにするわ」人魚はアルマスを見た「あの化け物を倒してくれますよね?」
アルマスは大きくうなづいた。
「戦うのは僕だけじゃありません。アレクシスとレオンも一緒です」
「分かりました。それなら力を3つに分けましょう」人魚はうなづきながら続けてこう言った。
「それに今回はあなた達以外にも、他に力強い仲間がいます」
「他に・・・・?」
「この海に住むと言われている海神です。海神には会いたいとずっと祈り続け、やっと会うことができました。
 私の話を聞いてこの海の危機を感じていただけたようです。力を貸すと言っていました」



「もう行かないと、タコがこの海に来ちゃうよ」
女の子が人魚に急かすと、人魚はうなづいた。
「あなたを地上の遺跡まで送りましょう。遺跡に着いたら、力を受け取る準備をして欲しいのです」
「力を受け取る準備?」とアルマス
「ええ。準備ができたら海に向かって合図を送って欲しいのです」
「分かりました。合図というのはどんな・・・・・」
「それは送る準備ができたら話しましょう。それから遺跡の力について少し話をしなければなりません」
「え・・・・・?」
「今から地上に行く準備をするわ。ここで少しの間、待っていてください」
人魚はそう言ってしまうと、2人から離れて行ってしまった。



一方、遺跡の外ではレオンとホーパスが渦を巻いたままの海を見つめていた。
雷が止み、天気は落ち着いてきたが空は真っ暗のまま変わっていない。
ホーパスは渦を見つめながら今にも泣きだしそうな顔で
「アルマス・・・・・もう助からないのかな。なかなか上がってこない・・・・」と海の上をふわふわと浮きながら移動している。
レオンも渦を見ながら
「分からない。でもあれから時間がかなり経っているから・・・・・」
「じゃ、もう上がってこないってこと?」
「それは・・・・・・」
レオンが言葉を詰まらせると、そこにアレクシスがやってきた。
アレクシスも気になるのか、渦を巻いている海を見ている。



「アレクシスも気になるのか?」
黙って海を見ているアレクシスにレオンが声をかけた。
アレクシスは海を見つめたまま
「・・・・もう落ちてからだいぶ時間が経つ。生きて上がって来るのは厳しいだろう」
「・・・・・」
「中ではみんなが祈りを続けている。戻って遺跡の力を解放する方が先だ」
「そんな・・・・・このままあきらめるなんて」
ホーパスが2人を見ていると、レオンは暗い表情でうつむいた。
「そうだね・・・・・残念だけど、このまま上がってこないんじゃ。もう・・・・・・」
「そんな・・・・・」
「残念だけど、あきらめよう。中に戻ろう、ホーパス」
「アルマス・・・・・」
ホーパスが悲しそうな顔で再び海の渦を見た時、突然渦の中から強い光が放たれた。



突然目の前が青白くなり、その場にいた3人は思わず両手で目を覆った。
しばらくして光が消えると、ホーパスが海を見て声を上げた。
「渦の中から泡が出てきてる!」
「何だって・・・・・?」
ホーパスの声を聞いた2人は渦の中を見ると、渦の中から何かが上がってきているのか水がだんだんと盛り上がってきた。
3人が盛り上がっている水を見ていると、水が2つに割れ、中が見えた途端3人は驚きの声を上げた。
アルマスと人魚の女の子だった。



「アルマス!」
アルマスの姿が見えるとホーパスは真っ先にアルマスに近づいて行った。
「・・・・ホーパス?」
アルマスが目を開けると、ホーパスが目の前にいる。
「アルマス・・・・・よかった。生きててよかった!アルマス!」
「ホーパス・・・・・」
ホーパスが泣きながらアルマスに抱き着くと、アルマスはホーパスの身体を優しく撫でた。



しばらくしてアルマスが海から地上に上がると、人魚の女の子はアルマスにこう言った。
「じゃ、さっき話した通りに合図を送ってね」
「分かった」
アルマスが答えると、人魚の女の子はそのまま海の中へと去って行ってしまった。
レオンは人魚の女の子がいなくなった海を見つめながらアルマスに聞いた。
「あの子は?さっき言ってた合図って?」
「話すと長くなるから、後で話すよ。時間がないんだ」
「時間がないって?一体それは・・・・・」
「後で説明するよ。とりあえず合図を送らなきゃ」
アルマスは渦を巻いている海を見ると、渦に見えるようにゆっくりと右手を上げた。



するとその合図に応えるかのように、再び渦の中から強い光が放たれた。
「うわっ・・・・・・・!」
再び目の前が青白くなり、思わず目を閉じる4人。
アルマスも最初は目を閉じていたが、時間が経つに連れ目を開けると思わず目を見開いた。
目の前には海がすっかり青白い光に包まれ、光の海と変わっている。
渦を巻いている場所を見ると、光が渦を巻いているのが見えた。



海がすっかり光に包まれている・・・・・。
これが遺跡の力・・・・・?



アルマスが光の海を見ていると、後ろから声が聞こえてきた。
「こ、これは・・・・・・!」
アルマスが後ろを振り向くと、アレクシスとレオンが驚愕した表情で海を見ている。
「すごい、光の海だよ!すごくきれい!」
ホーパスは海の上をふわふわと浮きながら楽しそうに移動している。



一方、遺跡の中ではシーラ達が祈りを続けていた。
シーラが目を閉じ、呪文のようなものを唱えていると、後ろから漁師の声が聞こえてきた。
「おい、後ろから光が差し込んできてるぞ」
「さっきまで弱い光だったのに、いきなり強くなってるな」
「海からの光みたいだ」
「海から?青白い光が・・・・・・」
「お前達、静かにするんじゃ!」
漁師達がざわざわし始めているのを我慢できず、シーラは後ろをを向くと漁師達に向かって声を上げた。
漁師達はシーラの声にビクッとしながらも後ろから差し込んでいる光を見ている。
「あの後ろの光は・・・・・?だんだん光が強くなってきてるようですが」
シーラの近くにいる漁師の1人がシーラに聞いた。
シーラは光を見ながら
「・・・・・そういえば、さっきまでは弱い光だったような気が・・・・・」
「海で何か起こってるんですか?」
「・・・・もしかしたらそうかもしれん。遺跡の力が解放されようとしているかもしれない」
シーラがそう言った後、漁師達はますますざわつき始めた。
シーラは前を向くと
「遺跡の力が解放されようとしている。このまま祈り続けるんじゃ」と再び手を合わせて祈り始めた。
シーラの呪文のようなものが再び聞こえ始めると、漁師達も再び祈り出すのだった。



アルマス達4人は青白く光っている海を見つめていた。
アルマスが時計回りに動いている光の渦を見ていると、そこからひとつの光の輪が浮き上がってきた。
「あれは何だろう?光のわっかみたいなのが出てきてる」
ホーパスがさっそく気がつくと、アルマスは光の輪を見つめながら
「あれが海の光の輪・・・・・」と待っていたかのように海へと近づこうと歩き出した。



「アルマス?どこに行くの?」
それを見たレオンが戸惑いながら聞いた。
アルマスは浮かんでいる光の輪を見ながら
「あの光の輪を受け取るんだ」
「え・・・・?あの光の輪を?どうやって?」
「大丈夫だよ。今からやってみせるから」
アルマスは浮かんでいる光の輪に向かって右手を差し出した。



アルマスが右手を差し出した途端、海面の上に浮かんでいた光の輪がアルマスに向かって移動を始めた。
光の輪がアルマスの右手の前まで来ると、そのままスーッと手のひらを通過して行った。
そして肘の手前まで来ていったん止まると、手首のあたりまで移動してまた止まった。
光の輪がだんだん小さくなり、手首を覆う大きさまでになると光が消えた。
光の輪がアルマスの手首に収まり、銀色のブレスレットのようなものに変わった。



アルマスは手首にはまっているブレスレットを見ている。
「これが人魚が言っていた遺跡の力の証・・・・・・」
「何だって?」それを聞いたアレクシスは戸惑った「その腕にはめているものが遺跡の力なのか?」
アルマスはうなづきながら
「そう人魚が話してたんだ。あと2つ、光の輪が海から出てくる・・・・それを受け取ってほしい」
「あ、また海から光の輪が出てきた!」
後ろでホーパスの声が聞こえると、レオンはうなづきながら
「分かった、受け取るよ。右腕を差し出せばいいんだね?」
アルマスが黙ってうなづくと、レオンは光の輪を受け取ろうとその場を離れて行った。



レオンが右腕にブレスレットを受けとり、最後にアレクシスが受け取ると、海から青白い光が消え去った。
渦の動きもたちまち遅くなり、渦が消えてしまうと、すっかり穏やか海に戻った。



「一体、さっきまでのはなんだったんだろう・・・・・」
静かになった海の様子に、レオンは辺りを見回しながらつぶやいた。
「でも、こんなに静かだとなんだか気持ち悪いね」
ホーパスも辺りを見回している。



何だろう、気味が悪いくらいに静かだ。
なんだかすごく不気味なものを感じる。
得体の知れないものが近づいてきているような・・・・・。



アレクシスは何かに気がついたようにはっとして岩の向こう側の海を見た。



前にも感じたことのある不気味さだ。
まさかあいつが・・・・・・!



「どうしたの?」
ホーパスがアレクシスの様子に気がつくと、アレクシスは3人の方を向いた。
「何かが近づいてきてる・・・・前に感じたことのある不気味な気配だ」
「何だって?」とレオン
「そういえば、そろそろ来るって言ってた」アルマスは岩の向こう側の海を見た途端、アレクシスがいきなり叫んだ。
「来るぞ!」



アレクシスが叫んだ途端、岩の向こう側の海面が大きく上へと盛り上がった。
そして水の中から何かが出てくると、4人は思わず空を見上げた。
「あれは・・・・・・!?」
海の中から巨大なタコが4人の目の前に上がってきたのだった。