石の庭

 


砂だらけの地面に風が吹いてきた。
砂ぼこりが一面に舞い、空が薄茶色に染まっていく。
その中を大きな白い羽が飛んでいた。
アルマスとホーパスを乗せて。



風が収まり、砂ぼこりが落ち着いた頃。
2人を乗せた白い羽が地面へと降りて行き、アルマスの足が地面に着くと、アルマスは座っていた椅子から降りた。
アルマスが降りた途端、白い羽はぱっと羽が散り去るように消え去ってしまった。
「消えた!」アルマスから離れ、地面に降りたホーパスがそれを見て声を上げた。
「本当だ」アルマスも後ろを振り返ると、辺りを見回している「何も残ってない・・・・本当に消えるんだ」
「マリアさんの言った通りだったね」ホーパスはその場からふわふわと浮き上がると、辺りを見回した。
「でもここがヴィンドなの?砂しか見えないね」
アルマスも辺りを見回しながら
「周りが砂だらけだね。レオンが言ってた通りだ・・・・砂漠なのかな」
「ヴィンドって砂漠なの?」
「さあ、僕にも分からないよ。レオンに聞いてみないと」
アルマスはホーパスにそう言いながら、何かを探しているように辺りを見回している。



ホーパスがアルマスの様子に気がついた。
「何を探してるの?アルマス」
「ヴィンドを入ったところに建物があるはずなんだ」
「建物?」
「うん。ヒメルにいた時に指輪の制御をしてもらった方がいいってサリーさんが言ってたから、制御できるようにして
 もらわないと」
「指輪の制御か・・・・でも制御しなくてもそのままでもいいんじゃないの?」
「うん。でももしも制御ができなくなったらって思うと・・・・・やっぱり制御はしておいた方がいいと思うんだ。
 それにあの大きいタコと戦った時も、シーラさんに前もって指輪に制御してもらってたし」
「それはそうだけど、レオンは待ってなくていいの?」
「レオンとはその建物の前で待ち合わせなんだ」
「そうなんだ。じゃこの辺りに建物がないか見てこようか?」
ホーパスがさらに上に上がろうとすると、アルマスがそれを止めた。
「この辺りには建物はなさそうだから、もう少し移動してみよう」



しばらく2人が歩いて行くと、遠くにうっすらと建物の形が見えてきた。
ヒメルで見たような城のような、クリーム色の壁が見えている。
「あれがそうなのかな?」
アルマスの右隣でふわふわと浮きながらホーパスが建物を見ている。
アルマスは辺りを見回しながら
「そうみたいだね。他に建物がないみたい」
「それにしても砂が風で舞ってて、ほこりっぽいね」
視界が見えにくいのかホーパスが前足で目の前の砂ぼこりを払っている。
「うん」アルマスはうなづくと、くしゃみをした。
「大丈夫?アルマス」
「くしゃみが出ただけだよ。とにかくあの建物に行こう」
2人は遠くに見えている建物に早く行こうと足を早めた。



2人が建物に着いて、中に入ろうとすると1人の女性の姿が目に入った。
金髪で髪が長く、白のワンピースを身に着けている。
「こんにちは」
女性がアルマスを見て挨拶すると、アルマスも頭を下げた。
「あ、こんにちは・・・・・」
「あなたはヴァッテンの方から来たの?」
「はい、そうですけど・・・・・ここって鍛冶屋はありますか?」
「お前達がそうか」
突然別の声が前の方から聞こえてきた。
アルマスは聞こえた方を見ると、ゆっくりと3人の方へ近づいて来る老婆の姿があった。



老婆が3人のところに来ると、アルマスとホーパスを見た。
「お前達、ヒメルから来たのか?」
「はい、そうですけど・・・・・」
アルマスが戸惑いながら答えると、老婆はうなづきながら
「やはりそうか。近いうちにここに来ると思っていた」
「え、どうして知ってるの?僕らがここに来るのって」とホーパス
「ヒメルのサリーから連絡があったんじゃ」
老婆はホーパスが見えるのか、ホーパスの方を向いた。
その後再びアルマスの方を向いて
「それにしては着くのが遅かったな・・・・ヴァッテンに寄っていたのか?」
「は、はい」とアルマス
「指輪の制御をしに来たんじゃな?指輪を見せてみなさい」



アルマスが指輪を外し、老婆に渡すと、老婆は指輪を高く上に上げた。
そして指輪の内側を見ている。
「これはかなり使っているな・・・・・それも最近」
「どうしてそんなことまで分かるの?」
ホーパスが驚きながら指輪に近づくと、老婆は指輪を見ながら
「内側が炎でかなり焦げている。炎に当たると焦げた色になるんじゃ。それに・・・・・」
「それに?」
「一時的に制御がされていたんじゃろう。今はもう消えているが」
「え、そんなことまで分かるんですか?」
今度はアルマスが驚いている。
老婆は深くうなづきながら
「指輪の制御ができる者は限られている。これはシーラが制御したものじゃろう?」
「そうです。どうしてシーラさんの名前を?」
「私とシーラは姉妹だからじゃ。それに制御できるのは私とシーラしかいないからのう」



それを聞いたホーパスはさらに驚いた。
「じゃ、レオンの事も知ってるの?」
「ああ、知っているよ。私の孫じゃ」
老婆は微笑みながら深くうなづいた。
そして隣にいる女性を見ながら
「隣にいるのも私の孫で、ルイースじゃ。私はマーヤ」
「ルイースです。おばさんの手伝いをしています」
隣の女性、ルイースが2人に頭を下げると、アルマスとホーパスも挨拶をした。
「アルマスです」
「僕はホーパスだよ」
「レオンとはヴァッテンで一緒でした。僕達が先に来たのでそろそろ・・・・・」
「レオンもそろそろ戻って来る頃じゃろう」
マーヤは指輪をアルマスに返すと、外を見ている。
「レオンとはここにある石の庭で待ち合わせしているんです。どこにありますか?」
「この建物の裏側にある。レオンが戻って来る前に、その指輪を制御できるようにしようか。
どのくらい時間がかかるかは分からないが、レオンが戻る頃にはできているじゃろう」
「は、はい」
「じゃ、中に入ろうか・・・・・」
マーヤが後ろを振り返り、建物の中へと歩き出すと、あとの3人もその後に続いて歩き出した。



中に入り、アルマスはマーヤに再び指輪を預けると、ルイースに部屋に案内された。
アルマスとホーパスが椅子に座ると、ルイースがお菓子や飲みものを次々と持って来る。
アルマスはしばらく食事をしていたが、退屈になってきたのか辺りを見回している。
「どうしたの?もう食べないの?」
テーブルの上でお菓子をほおばりながらホーパスが聞いてきた。
アルマスはホーパスを見て
「うん。あまりお腹空いてないんだ」
「指輪の制御、どのくらい時間かかるんだろうね・・・・ヒメルの時はどうやってるのかが見れたけど」
「うん。しばらくはかかるって言ってたけど。待っている間にレオンが来ないか気になるんだ」
「そうか、それを気にしてるんだ。待ち合わせ場所はどこだったっけ?」
「石の庭。マーヤさんはこの建物の裏って言ってたけど・・・・どこにあるんだろう」
アルマスがそう言い終わった時、部屋にルイースが入ってきた。
ルイースは両手にお盆を持ち、お盆の上には皿に乗ったお菓子が見える。



「ルイースさん」
アルマスが声をかけると、ルイースはテーブルに皿を置いた後でアルマスを見た。
「どうかしましたか?」
「あの、石の庭に案内していただけますか。そこでレオンと待ち合わせしているので」
「レオンはまだ来てないとは思うけど・・・・」
「場所を確認したいだけです。それにどんな場所なのか気になって」
「僕も行きたい。なんだか外に出たくなってきた」
ホーパスがテーブルからふわふわと飛んでルイースに近づくと、ルイースはうなづいた。
「分かりました。石の庭に案内しましょう」



3人は建物の裏側に出た。
目の前にはどころどころに石が置かれているのが見える。
縦に大きな白い石があれば、横長で黒い石、そして奥には白い石が高く何個も積まれているところもある。



「あれは何?石が何個も積んであるけど」
ホーパスが隣にいるルイースに聞いた。
「あれは祈祷に使う石の塔です」とルイース
「石の塔?」
「一番高いところに木や藁を置いて、炎を焚いて天に祈りを捧げる場所なの」
「そうなんだ」
「あの・・・・しばらく見てまわってもいいですか?」アルマスが割り込んできた「ここでレオンを待ってても・・・・」
「いいですよ」ルイースはうなづいて答えた「そろそろ私は中に戻ります。何かあったら呼んでください」



ルイースが建物の中に入ってしまうと、2人はそれぞれ庭にある石を見てまわった。
アルマスが最後に祈祷に使っている石のところに来ると、一番上に積まれている石を見上げた。
アルマスの背丈では一番上の石の表面が見えない。



ここからだと高すぎて見えない。一番上はどうなってるんだろう。



そう思っているとどこか遠くから馬の嘶く声が聞こえてきた。
声が聞こえてきたかと思えば、蹄の音がだんだんと大きく聞こえてきている。
「馬の声が聞こえてきたよ、レオンが来たのかな?」
ホーパスがアルマスのところに移動して来ると、アルマスは蹄の音を聴きながらホーパスを見た。
「蹄の音がだんだん大きくなってきてる・・・・レオンがそろそろ来るかもしれない」



しばらくすると建物の前で馬が止まった。
レオンが馬から降りると、ゆっくりと歩き出した。
建物の中には入らず、建物の外側を回り込むように裏側へと歩いて行く。
そして裏側に出ると、奥にアルマスとホーパスの姿が見えた。



「アルマス!ホーパス!」
レオンが2人の姿を見かけると、声をかけて走り出した。
「レオン!」
アルマスが後ろを振り返ると、レオンが走ってきているのが見える。
そして2人の前まで来て止まると、レオンはアルマスにこう言った。
「やっぱり先に来てたんだね、おばあちゃんにはもう会った?」
「おばあちゃん?マーヤさんのこと?」とホーパス
「マーヤさんだったら会ったよ。今指輪の制御をしてもらってるんだ」
アルマスがレオンにそう言うと、建物からルイースが出てきた。



ルイースが庭に出ると、3人の姿を見た。
「レオン、もう来ていたの?」
「あ、ルイース!」レオンはルイースの姿を見かけた途端、声を上げた「久しぶりだね」
「ええ、ヴァッテンのシーラおばさんのところに行ってたの?」
「うん」レオンはうなづいた後、再びアルマスの方を向いた。
「僕のいとこのルイース。おばあちゃんの弟子でおばあちゃんの手伝いをしてるんだ」
レオンがルイースを紹介しているとアルマスはうなづきながら
「うん。さっきマーヤさんから聞いたよ」
「そうか、おばあちゃんと一緒に会ったんだね」
「レオン、今回は帰ってくるのが遅かったわね。何かあったの?」とルイース
「うん、ちょっとした事があって・・・・・・」
レオンが話をしようとすると、庭にマーヤの姿があった。



「レオン、帰ってきたのか」
マーヤがレオンを見て声をかけると、4人はいっせいにマーヤを見た。
「今さっき戻ってきたところだよ」とレオン
「そうか」マーヤはゆっくりとアルマスに近づいた「指輪の制御が終わった。これで大丈夫じゃ」
「ありがとうございます」
アルマスはマーヤの右手の手のひらにある指輪を取ると、指輪を見た。
指輪の内側も見るが、特に何も変化はない。



指輪を渡した時と何も変わってないようにみえるけど・・・・。



アルマスがそう思っているとマーヤがアルマスを見ながら
「何か気になることでもあるのか?」
「え、い、いや・・・・」アルマスは少し戸惑いながら次にこう言った「何も変わった感じがないので・・・・」
「制御をしただけでは見た目は何も変わらん。シーラの時もそうだったんじゃないのか?」
「そういえば・・・・・・何も変わってなかったような」
アルマスが指輪の内側を見ていると、マーヤはうなづきながら
「そうじゃろう?だから何も気にすることはない。ちゃんと制御はできているから安心しておくれ」
「は、はい」
「ところでこの後、どこかに行く予定はあるのか?」
「予定ですか?・・・・・いいえ、ありませんが」
アルマスが右手に指輪をはめると、マーヤはそうかとばかりにこう言った。
「どこかに行く予定がないのなら、しばらくの間このヴィンドにいるのはどうじゃ?」



マーヤの提案にアルマスは戸惑った。
「ここにいるのはいいんですけど・・・・どこか泊まるところはありますか?」
「なら僕の家に来ればいいよ」とレオン
「え?いきなり行って大丈夫なの?」
レオンの言葉にアルマスがさらに戸惑っていると、マーヤが微笑みながら大きくうなづいた。
「私は構わないよ。しばらくこの村に留まればいい」
「え・・・・・?レオンとマーヤさんって同じところに住んでるの?」とホーパス
「部屋は別だけど、住んでる家は一緒だよ。それに家の中は広いし、お客さん用の部屋があるから、そこを使えばいいし」とレオン
「そうと決まったら、今から家に案内しよう」
マーヤはそう言った後、ルイースの方を向いた。
「私達はこの2人を家に連れて帰る。部屋の片づけと戸締りをお願いしていいかな」
「はい。分かりました」とルイース
「じゃ、家に案内しよう。出る準備をしてくるから、レオンと一緒にここで待っていてくれないか」
「あ、はい」
アルマスが答えると、マーヤはゆっくりとその場を後にするのだった。



4人が建物を出てしばらく歩いていると、目の前に大きなテントが見えてきた。
朱色で楕円形のテントをアルマスが見ていると、レオンが右側に馬を連れながらテントを見た。
「あれが僕の家だよ」
「テントに見えるけど、あのテントがレオンの家?」
ホーパスがレオンの方を向くと、レオンはうなづいて
「そうだよ。この村の家はみんなテントなんだ」
「どうしてテントなの?」
「この辺りは風が強くて、時期によっては移動しなくてはならなくなるほどなんじゃ」
マーヤがレオンの代わりに答えた。
ホーパスはマーヤの真上に移動しながら
「そんなに風が強いの?」
「今の時期はまだそんなに発生しないが、もう少しすると砂嵐が頻繁に発生するんじゃ。砂嵐に巻き込まれたらひとたまりもない。
 それに場所によって気温差がある。ここに暮らす人々は時期によって最適な場所に移動しながら生活をしているんじゃ」
「だから移動できるようにテントで暮らしてるんだ。テントなら持ち運びできるし、移動しやすいからね」とレオン
「さて、着いた」マーヤがテント前で立ち止まると、レオンにこう言った。
「2人を来客用の部屋に案内しなさい」



レオンに連れられてアルマスとホーパスはテントの中に入った。
中に入ると、中央には大きな赤い絨毯が敷かれており、クッションがところどころ丸く置かれている。
一番中央には食事を取る場所になっているのか大きな鍋やお皿がいくつも積まれている。
中央から外側を見ると、仕切りのある部屋が複数あり、入口から一番奥の部屋はドアが閉まっている。
「部屋は一番奥のドアが閉まってるところだよ」
レオンがドアが閉まっている部屋へ歩いて行くと、アルマスは辺りを見回しながら
「真ん中にコップやお皿が置いてあるけど、食事は真ん中でするの?」
「うん」レオンは部屋の前で止まると、アルマスの方を振り返った「いつも食事はみんなで集まってそこで食べてるんだ」
「この部屋だけドアがあるけど、他はどうしてドアがないの?」とホーパス
「ドアがついているのは来客用だけなんだ。他の部屋は寝るときに大きな布で部屋を閉めるんだよ」
「そうなんだ」
「ベッドしかないし、もしかしたら狭いかもしれないけど・・・とりあえず中に入って」
レオンがドアを開けると、3人は中に入った。



中に入ると、小さな長方形のテーブルとベッドが置かれているだけだった。
3人が部屋に入ると、ホーパスは2人の真上をふわふわと飛んでいる。
アルマスは部屋を見渡しながら
「狭くはないよ。寝れればそれで充分だし。それにきれいな部屋だね」
「よかった」レオンがほっとしているとホーパスも辺りを見回しながら
「うん、大丈夫だよ。僕は床で寝るけど・・・・床に絨毯が敷いてあるから暖かそう」
「レオンの部屋はどこにあるの?」とアルマス
「僕の部屋は斜め向かいにあるよ」とレオン
「でも、とても大きなテントだね。移動する時は大変じゃないの?」
「うん、それなりに大変だけど・・・・テントは簡単な作りになってるから。みんなでやればすぐ撤去できるし、荷物は数頭の馬で運ぶし
 それに移動するときはこの辺りに住んでる人も一緒に移動するからね」
「本当にみんなで移動するんだ」とホーパス
「うん。先祖は元々遊牧民で、昔から季節によって住むところを移動してたみたいなんだ。昔は広範囲で移動してたみたいだけど・・・
 今は周りの環境が悪くなってきてるから、移動も限られてるみたい」
レオンが話し終わった途端、外から女性の呼ぶ声が聞こえてきた。
「・・・・母さんが呼んでる。ここでしばらくゆっくりして。また何かあったら来るから」
レオンが2人にそう言うと、ドアを開けて部屋を出て行くのだった。



それから数時間後。
レオンに呼ばれた2人は食事をしていた。
2人の向かいにはマーヤとレオンの母親の姿があるが父親の姿が見当たらない。
アルマスの隣にはレオンがいる。
しばらく黙って食事をしていたが、マーヤが隣の母親に声をかけた。
「そういえば、エドヴァルドはまだ戻ってきてないのか?」
「まだです。今日は早く帰ってくるって言っていたのに・・・・」と母親
「また途中で誰かに捕まったのかね。せっかくお客が来ているというのに」
「あの人は人が良いですから。相談事でも聞いているんでしょう」
「この村の長だから、村人の相談を聞くのは仕事じゃ。でも人が良すぎるのもちょっと考え物じゃな」
「あ、あの・・・・・・」
「父さんはこの村のリーダーなんだ」
アルマスが途中まで言いかけた時、レオンがアルマスに話しかけてきた。
「村のみんなが何かあると、すぐ父さんに相談するんだ。もしかしたらそれで遅くなってるかもしれない」
「そうなんだ。とても頼りになる父親なんだね」とアルマス
「そうじゃ」マーヤがうなづいて話に割り込んできた
「皆父親を頼っていて、何かあれば相談しに来る。父親はそれをほとんど解決してきたんじゃ」



それを聞いたアルマスは自然と父親の事を思い出していた。



僕の父さんも、生きている時は僕にとても優しくしてくれた。
いろんなことを教えてくれたし、困った時も助けてくれた。
戦争さえなかったら、まだ父さんと一緒にいられたかもしれないのに・・・・・。



「そういえば、アルマスの父さんは?どんな人なの?」
レオンがアルマスの父親の事を聞いてきた。
アルマスはレオンに気がつくと、しばらくしてから静かに答えた。
「・・・・・僕の父親は亡くなったんだ。戦争で」
それを聞いたレオンは困惑した表情を見せた。
「・・・・・ごめん。嫌なことを思い出させてしまって」
「ううん、気にしなくていいよ」
アルマスが首を横に振っていると、マーヤが2人に声をかけた。
「2人とも、食事が終わってから外に出て星を見に行こうか・・・・もうほとんど終わっているようじゃが」
マーヤが2人の前にある空の皿を見ていると、レオンは席から立ちあがった。
「うん。その前に食器を片付けてくるよ」
「あ、手伝います」
アルマスがレオンに続いて立ち上がろうとすると、マーヤが首を振って止めた。
「気を使わなくていいんじゃよ。お客様なんだから。片付けが終わるまで部屋で待っていておくれ」
「で、でも・・・・・」
「いいから、部屋でゆっくりしておくれ。片付けが終わったらレオンが呼びに来るじゃろう」



しばらくして4人は外に出た。
外はすっかり暗くなり、空には無数の星が一面に広がって瞬いている。
「とてもきれいな星がいっぱいある!雲がひとつもないよ!」
ホーパスが夜空を見た途端、嬉しそうに夜空を飛び回っている。
「この辺りは高い建物がないから、星が一面に見渡せるんじゃ」
マーヤが夜空を見上げていると、隣にいるレオンも空の星を見ている。



アルマスも夜空を見上げていると、マーヤがアルマスに話しかけてきた。
「ところでアルマスは旅をしているのか?さっきレオンから少し話を聞いたのじゃが」
「あ、はい」アルマスがマーヤを見てうなづいた。
「旅の目的は何じゃ?何か目的があるのじゃろう」
「あ、はい・・・・自分が過ごしやすいところというか、住んでみて自分に合うところを探しているんです」
「そうか・・・・」
「それなら、しばらくここにいればいいよ」レオンが話を聞いていたのか割り込んできた。
アルマスはレオンの言葉を受けて戸惑いながら
「で、でもいいの?本当にしばらくここにいて」
「他に行くところがなければ、しばらくここにいればいい。それに自分に合うかどうかはしばらく住んでみないと分からんじゃろう」とマーヤ
「それはそうですけど・・・・・」
「あ、父さんが帰ってきた!」
アルマスが途中まで言いかけた時、レオンが突然右を向いて声を上げると大きく手を振り出した。
アルマスが右側を向くと、1人の背の高い男性の姿が近づいて来るのが見えた。



「お帰り、父さん」
エドヴァルドがレオンの前で止まるとレオンが声をかけた。
「ただいま、レオン。帰ってきていたのか」
エドヴァルドがレオンを見ていると、レオンは後ろにいるアルマスの方を向いた。
「アルマス、紹介するよ。僕の父さんだ」
「アルマスです」
アルマスがエドヴァルドの方を向いて挨拶をすると、エドヴァルドは右手を出しながら聞いた。
「レオンの父のエドヴァルドです。レオンとはヴァッテンで会ったんですか?」
アルマスはエドヴァルドと握手を交わしながらうなづくと、後ろからマーヤがこう言った。
「2人はヴァッテンで会ったようじゃ。シーラのところでお世話になったらしい」
「そうですか。今日はここに泊まるんですか?」
エドヴァルドがアルマスに聞くと代わりにシーラが答えた。
「今日からしばらくここにいることになったんじゃ。構わないじゃろう?」
「母さんがそう言うのなら、私は構いませんよ・・・・・何もないところですが、ゆっくりしていってください」
「ありがとうございます」
アルマスが礼を言うと、エドヴァルドは家の中に入ろうとその場から離れようとした。



2,3歩歩いたところで何かを思い出したのか、エドヴァルドが戻ってきた。
「レオン、シーラおばさんに荷物を届けたのか?」
「届けたよ」とレオン
「それにしては戻ってくるのが遅かったな。いつもだったらすぐ戻ってきていただろう?」
「それはちょっとした事があって・・・・・・」
レオンが途中まで言いかけた時、ホーパスがレオンの隣で答えた。
「ヴァッテンで大きなタコの化け物が出たから、みんなでやっつけてたんだ。それで遅くなったんだよ」



それを聞いたエドヴァルドとマーヤは驚いた。
「な、何だと?ヴァッテンでタコの化け物が出たのか?」とマーヤ
「うん」あっさりとホーパスがうなづいた「アルマスとアレクシスとレオンと僕で倒したんだよ」
「本当か?レオン」
エドヴァルドがレオンに聞くと、レオンはうなづきながら
「うん。シーラおばさんも協力してくれたよ。戦っている間、ずっと祈ってくれてたんだ」
「ヴァッテンでもそんな事があったのか・・・・・・」
エドヴァルドはそうつぶやくと、レオンにこう切り出した。
「その話をもっと詳しく聞きたい。とりあえず中に入ろう」



5人は家の中に入り、しばらくしてレオンの話が終わるとエドヴァルドが静かにレオンに言った。
「・・・・そんなことがあったのか。よく分かった」
レオンが黙ったまま床に座ると、エドヴァルドがさらにレオンに向かってこう付け加えた。
「でも、タコの化け物を倒したとは・・・・お前も成長したな。レオン」
「僕だけの力じゃないよ。アルマスとアレクシスもいたから倒せたんだ」
レオンが首を振りながら答えると、エドヴァルドはアルマスを見た。
「ところで君は炎の力が使えるそうだね」
「は、はい」
アルマスがうなづくとマーヤがエドヴァルドの隣で
「昼間にその炎の指輪を見せてもらったんじゃ。力の制御もその場で行った」
「力の制御・・・・?今まで制御ができてなかったのか?」とエドヴァルド
「ヴァッテンではシーラが一時的じゃが、制御をしていた。炎の力の制御は私しかできないからな」
「そういうことか・・・・・・」
エドヴァルドは何か考え事をしているのか、そう言った後黙り込んでしまった。



誰も何も言わず、沈黙が続いたが、エドヴァルドが再びアルマスの方を向いた。
「ところで、この後どこかに行く予定はあるんですか?」
「予定はありません」
アルマスが答えると、エドヴァルドは意を決したようにこう切り出した。
「そうであれば、しばらくの間ここにいてもらいたい」
「え・・・・ここにいていいんですか?」
「実は今、ここではいろいろと問題があってね・・・・人手が足りないんだ。だからできそうなことがあれば手伝ってもらいたい」
「ヴィンドは人が減っていてな。砂地ばかりでとても住みにくいところじゃから、みんな他のところに流れていってしまっているんじゃ」とマーヤ
「いろいろと頼むかもしれないけど、大丈夫であれば・・・・・」
「大丈夫です」アルマスはあっさりと答えた「今までもいろいろとやってきていますから」
「本当に?大変かもしれないけど・・・・なら、お願いしてもいいかな」
「はい。大丈夫です」
「じゃ、明日からお願いすることにしよう。今日はゆっくり休んでください」
エドヴァルドはそう言った後、立ち上がりその場を後にした。



アルマスとホーパスは部屋に戻ると、アルマスはベッドに入った。
ホーパスはベッドの側の絨毯が敷かれている床で体を丸めている。
辺りは静けさに包まれていた。



しばらくの間ここにいることになったけど、これからどうなっていくんだろう。
もしここに住むことになったら、ここで旅は終わってしまう。
ヴィンドから先はどうなっているんだろう。



アルマスがそう考えていると、下からホーパスの声が聞こえてきた。
「アルマス、もう寝た?」
「ホーパス・・・・眠れないの?」
アルマスがベッドから起き上がると、ホーパスがふわふわと上に上がってきた。
「まだ寝るのが早いような気がする。そんなに疲れてないのかな」
「ヴァッテンから移動してきたのに疲れてないの?幽霊だからかな」
「幽霊でも疲れるのは疲れるよ。でも今は・・・・なんだか興奮してて眠れないんだ」
「どうして?」
「レオンのお父さんは明日からいろいろ頼むかもしれないって言ってたけど、何を頼むのかなって思って」
「分からないけど、掃除とかかな・・・・あまり大したことじゃないと思うけど」
「そうなのかな。炎の指輪のことを聞いてたから、何か大きな事でもやるのかなって思ったんだけど」
「うん。でもタコの化け物とかをやっつけるとかじゃないと思うよ」
するとホーパスはつまらなさそうに尻尾をだらんと下げた。
「そうか。つまらないの」
「化け物でも出ると思ったの?」
「レオンのお父さん、何か悩んでるような顔してたから。もしかしたらって思って」
「そんなに立て続けに化け物なんて出てこないよ」
アルマスは右手を伸ばしホーパスの体に触れると2,3度撫でた。
ホーパスは気持ちよさそうな顔をしていると、アルマスはそっと手を放しながら
「明日は早いだろうから、もう寝よう。おやすみホーパス」
「うん。おやすみアルマス」
アルマスが再びベッドに横になるのを見届けると、ホーパスも下へと降りて行くのだった。