夢
海と氷に囲まれた島に、シロクマの親子が住んでいました。
ある日、男の子が母親と氷の上を歩いていると、男の子の足元でびちゃっという水の音がしました。
男の子が気が付いて下を見ると、氷が溶けているのか水でびちゃびちゃになっていました。
男の子の手足は水ですっかり濡れてしまいました。
「ねえ、お母さん。どうしてここだけ氷がびちゃびちゃなの?」
男の子は後ろにいる母親の方を振り返って聞きました。
「もしかしたら、氷が溶けているのかもしれないわね」
母親は男の子の足元を見て、自分の両手を男の子の方に伸ばしました。
そして男の子がいる氷の状態を確かめるように、両手で氷を触ったりたたいたりしました。
氷を触るたびにびちゃびちゃという音がしています。
「もしかしたら氷が割れるかもしれないわ。ここから離れましょう」
母親が男の子にそう言うと、親子はその場を離れて再び歩き始めました。
その日の夜、父親が住みかに戻ってくると、母親は昼間あった出来事を話しました。
母親の話を聞いた父親はつぶやきました。
「最近、氷が溶け始めているところが多くなっているな・・・・」
「そうね、数年前までは氷が溶けるなんてことはなかったのに」
「そうだな。夏でも氷が溶けてびちゃびちゃになってるところはなかった。
このままここにいると氷が溶けて、海になって住めなくなってしまう」
「それからだともう遅いわ。ここより寒いところに移動しないと」
「そうだな・・・・そろそろここを出て、別の場所に移ろうか」
すると両親の話を聞いていた男の子が割り込んできました。
「ねえ、そういえばおじさんは?まだ戻ってこないの?」
父親ははっと気が付いて
「おじさん・・・・そういえばまだ姿を見てないな」と母親の方を見ました。
母親はうなづいて
「そうね・・・・まだ寒いときに出て行ったきり、まだ戻ってきてないわ」
親子と一緒におじさんが同じ住みかに住んでいました。
おじさんは男の子と仲が良く、一緒に散歩をしたりしていました。
ところが、少し前に寒い所を探しに行くと言って、突然住みかを出ていってしまったのです。
今までは住みかを離れても、しばらくすると戻ってきたので
男の子はおじさんはすぐに戻ってくるだろうと思っていました。
ところがしばらく経っても、おじさんは戻ってきませんでした。
おじさんは道に迷って帰れなくなってしまったのではないか。
もしかしたら大きなクレバスに落ちて、死んでしまったのではないか。
そんな噂が近所で流れていました。
「もし僕たちがいない間に、おじさんが戻ってきたらどうするの?」
男の子が父親に聞くと、父親はしばらくしてからこう答えました。
「・・・もしかしたらおじさんは、ここより寒い場所を見つけたかもしれない。
ぼうやがいつ来てもいいように、準備をしているかもしれないよ」
「そうなの?」
「だから、そろそろここを出よう。おじさんが待っているかもしれないよ。
ここより寒くて、ずっと氷に囲まれた場所でね」
親子は今の住みかを出ていくことを決めました。
次の日、親子は住みかを出ると、北の方角へ歩き始めました。
他のシロクマ達も北の方へと移動しているのを知っていたからです。
男の子はおじさんが戻ってこないかと心配でしたが、歩いているうちにどこかで
会えるかもしれないと思い、とりあえず出発することにしました。
その日の夜、親子は山に登りました。
山の頂上まで登り切ったところで、男の子は足を止めました。
空を見上げると、真っ暗で無数の星が輝いていました。
大きな星や小さな星、明るく黄色に輝く星や、薄暗く小さく輝いている星まで
男の子にははっきりと見えました。
「星がとてもきれいだね」
男の子が声をかけると、母親も空を見上げました。
「そうね。きれいな星がいっぱいあるわね。」
「今日みたいなきれいな星を見るのは久しぶりだな」
父親も空を見上げたまま、続けてこう言いました。
「空がきれいだから、星もきれいに見えるんだよ・・・・昨日まではこんなにきれいな夜空は
見えなかった」
すると親子の目の前で、大きな流れ星が右から左へと流れていきました。
「あ、大きな流れ星だ!」
男の子が流れ星を見ていると、その流れ星に続くように、小さな流れ星が3つか4つ、続けて
右から左へと流れていきました。
「また流れ星だ、今度はたくさん流れてきたぞ」と父親
「うん、とてもきれいだね。また流れ星見えないかな」
男の子が夜空を眺めていると、上から空の色がうっすらと変わってきました。
真っ暗だった空がだんだんと緑に変わっていきます。
「オーロラだ・・・・オーロラが出てきたよ!!」
男の子はオーロラの出現に興奮しながら言いました。
両親は男の子の声に反応して、空を見上げると、空はすっかり緑色に覆われていました。
時間が経つにつれて、オーロラはだんだんと下の方へ広がっていきました。
緑色が明るい黄緑になり、大きな帯状となって夜空を包んでいます。
親子は黙ってオーロラを見ていると、上から色がだんだんと緑色に変わってきました。
形も帯状から光の波が現れ、カーテン状に変わってきました。
いつも見ているオーロラよりとてもきれいだ・・・・・・。
男の子はオーロラにすっかり見とれていました。
するとオーロラが男の子の目の前まで降りてきました。
緑色の光のカーテンが男の子の足元まで来ると、男の子はオーロラの上に乗るように
足を光の中に入れました。
オーロラに乗ったとたん、男の子の体がオーロラの緑の光に包まれました。
うわ、ま、まぶしい・・・・・。
光が黄緑に変わり、男の子は思わず目をつぶりました。
しばらくして目を開けると、男の子はさっきまでいた山の頂上から離れていました。
あ・・・・あれ?さっきまで僕、あそこにいたのに・・・・・。
男の子は辺りを見回しました。
男の子はオーロラに乗り、夜空を飛んでいるではありませんか。
オーロラは男の子を乗せたまま、だんだん上へと上がっていきます。
僕、どこに行っちゃうんだろう?
男の子は戸惑いながら、オーロラに乗っているしかありませんでした。
男の子はオーロラに乗ったまま、夜空の上へと上がって行きました。
どうしよう、僕このまま空の上にいるのかな。
男の子がそう思っていると、突然オーロラの光が青白く光りました。
辺りが急に明るくなり、男の子は思わず目をつぶりました。
しばらくして男の子が目を開けると、一面真っ白な世界が広がっていました。
氷に包まれた山々、氷に包まれた地面。
男の子は一瞬、両親のいるところに戻ってきたんだと思いました。
でも、辺りを見回すと、両親の姿はありません。
男の子が振り向くと、オーロラは青白く光りながら、空へと去って行きました。
オーロラが消えてしまうと、男の子はもう一度、辺りを見回しました。
氷に包まれている山々、海の上に高くそびえたつ氷河。
男の子は夜空を見上げると、無数の星が様々な色を出しながら輝いています。
ここは僕の知ってるところじゃない、全然知らないところだ。
男の子はそう思いました。
どうしよう、お父さんもお母さんもいない。
僕一人だ。
どうすればいいんだろう。
どこに行けばいいんだろう・・・・・・。
そう思うと、男の子はとても寂しくなりました。
寂しくて、涙が出そうになりました。
すると夜空の星のひとつが黄色に強く輝きました。
そして右から左へと大きく、ゆっくりと流れていきました。
それはまるで男の子に行き先を教えているかのようでした。
男の子はその星を見て、つられるように左側を向きました。
そこには大きな道が先の方へと続いています。
ここでじっとしているより、向こう側に行ってみよう。
男の子はゆっくりと歩き始めました。
男の子はただひたすら歩き続けました。
辺りは氷の大地と高い山が延々と続いています。
時々強い風が吹いて、地面から細かい氷の粒が男の子の体に当たりましたが
男の子は気にせず、歩き続けました。
しばらく歩いていると、遠くから波の音が聞こえてきました。
風はすっかり止んで、辺りは静かになっていました。
波の音がする・・・・海が近くにあるんだ。
男の子は小走りで走り始めました。
波の音がする場所にたどり着くと、両側は大きな氷河がそびえ立っていました。
氷河の間から海水が入り込んで、波が押したり引いたりを繰り返しています。
男の子は波を見ているうちに、海の中に入りたくなりました。
長い間氷の上を歩いていたので、海に入って体を濡らしたいと思ったのです。
穏やかな波の音を聴いているうちに、男の子は海水の手前まで来ていました。
男の子は氷河の間にある海を、覗き込むように見つめました。
氷河の先には何もなく、海だけが広がっています。
それを見た男の子は、海水に入るのを止めました。
もし海に入って、遠くまで流されてしまったらどうしよう。
一人だから、きっと誰も助けてくれないかもしれない。
そう思うと、恐くなって足が動かなかったのです。
男の子は海から離れました。
男の子はまたしばらく歩いていると、今度は中央に穴がぽっかり開いている山を見つけました。
穴は男の子1人は入れるくらいの小さい穴でした。
どうして山に穴が開いているんだろう?
男の子は穴の中を覗き込みました。
中は真っ暗ですが、少し先の方に小さい光が見えました。
男の子は何の光なのか、確かめようと穴に入りました。
中に入って歩いていくと、先の方にある光がだんだんと大きくなっていきました。
男の子が穴から出ると、目の前には大きな湖が広がっていました。
湖は氷が張っていて、辺りは氷で囲まれた山々が湖を囲むように立っています。
こんなところに湖があるなんて・・・・・。
男の子は湖の氷の上に乗ってみました。
湖の氷は厚いのか、男の子が乗ってもびくともしません。
氷を見ていると、氷の下から魚達が泳いでいるのが見えます。
ここにいれば、お腹が空いたら氷を割って、魚を取ればいいんだ。
海まで行かなくてもいいし、しばらくここにいようかな。
男の子はそう思うと、安心したのか、湖の上を滑り始めました。
これからはここで生きていくんだ。
一人だから湖の上で滑っても、誰にも怒られない。
魚も好きな時に、何匹でも食べられるんだ。
一人だから何をしてもいいんだ。
そう思いながら湖の上を楽しく滑っていると、突然どこかから誰かの声が聞こえてきました。
・・・・ぼうや。ぼうや!
誰だろう?どこからなのか分からないけど、僕を呼んでる・・・・・。
男の子は滑るのを止めて、辺りを見回しました。
「ぼうや、ぼうや!」
母親の声に反応するかのように、男の子は目を覚ましました。
目が覚めると、目の前には母親の姿がありました。
「おはよう、ぼうや・・・・もう朝よ。起きなさい」
母親は優しく男の子に声をかけました。
男の子はいつの間にか夢を見ていたのです。
どうやら昨日の夜、オーロラを見ながら眠ってしまったようでした。
お母さんがいる!さっきのは夢だったんだ・・・・・・。
男の子は眠そうに眼をこすりながら、起き上がりました。
男の子は空を見上げると、まだ空は薄暗く、これから朝になろうとしているところでした。
父親は起きている男の子の姿を見ると声をかけました。
「おはよう、朝早いけどこれからしばらく歩くよ」
「どうして?」
「朝早いうちに出発すれば、遠くまで行けるからね・・・・早く次の住みかを見つけたいだろう?」
「う、うん・・・・」
「じゃ、今から出発しよう」
親子は歩き始めました。
男の子は両親より先に歩いていましたが、眠くてどうしようもありませんでした。
歩いているうちに目が重たくなり、目のまぶたが閉じそうになります。
「この辺りはクレバスがありそうだから、落ちないように気を付けるんだよ」
後ろから父親の声が聞こえてきました。
男の子は父親の方を振り返ろうとして後ろを向きました。
後ろを向いたとたん、男の子の右足が雪に取られ、男の子はバランスを崩しました。
その時、男の子の足元に突然大きな穴が開きました。
男の子の体は大きな穴に一瞬にして飲み込まれました。
雪の下に大きなクレバスが隠れていたのです。
両親はあわててクレバスの中を覗き込みました。
クレバスの穴は大きくて、男の子の姿は全く分からなくなっていました。
「ぼうや!どこにいるの、ぼうや!!」
母親はクレバスに向かって叫びますが、男の子の返事はありません。
一方、空では一羽のカモメがゆっくりと地上を見ていました。
すると、雪の中から突然、何かが滑るように出てきました。
カモメは何だろうと思いながら確認しようと地上に向かって行きました。
近づいてみると白い動物のようなものが、滑りながら、山の中に入っていきました。
さらに地上に近づこうとすると、後ろから何か泣いている声が聞こえてきました。
何だろう・・・・誰かを呼んでいるような泣き声だ。
これは何かあったに違いない。
カモメは泣き声の聞こえる方へ方向を変えて、飛んで行きました。
カモメが声のするところに行ってみると、山の中に大きな穴が開いていました。
大きなクレバスの側で、シロクマの両親がクレバスの中を覗き込みながらオロオロしていました。
何度もクレバスの中を端から端まで見ましたが、男の子の姿はどこを見てもありません。
「何があったんですか?」
カモメは両親の側に近づいて声をかけました。
「ああ、カモメさん」カモメに気が付くと、父親は悲しそうな顔で言いました。
「子供がさっきこのクレバスに落ちたんです。どこにいるか分からなくて・・・・・」
母親は泣きながらこう言いました。
「こんな大きな穴に落ちて・・・・・もうダメかもしれないわ、どうしよう・・・・」
「何だって、それは大変だ」
カモメはそれを聞いて驚きました。
もしかしたら、さっき見たのは子供のシロクマかもしれない。
そう思ったカモメは、少し前に男の子らしきシロクマを見かけた方向を向いて言いました。
「なら、僕がお子さんを探してきます」
「そう言って、何か心当たりでもあるんですか?」と父親
「さっき、お子さんらしき姿を見たんです。あなたたちのお子さんかどうかは分かりませんが。
とりあえず見てきます」
「あ、ありがとうございます・・・・・よろしくお願いします」と母親
「見つかったらまた戻ってきますので、ここで待っていてください」
カモメは両親の元を飛び立つと、さっき白い動物を見たところへ向かっていきました。
しばらくして、男の子は目を覚ましました。
目の前には空が広がっています。
僕は・・・・一体どうしたんだろう?
男の子は何があったのか記憶があいまいのまま、ゆっくりと起き上がりました。
辺りは雪と氷に囲まれた山がありました。
男の子は立ち上がろうと下を向くと、分厚い氷が見えました。
氷を見ていくと、男の子の辺り一面に大きく広がっています。
男の子は湖の上にいるのです。
まるで、夢で見た湖とそっくりの場所でした。
男の子は起き上がろうとすると、後ろから声が聞こえてきました。
「おーい!そこにいるのは誰だ?」
男の子は声のする方を向くと、一匹のシロクマが近づいてきました。
男の子は誰か分かると、思わず大声で言いました。
「おじさん!」
男の子が見たのは、しばらく行方が分からなくなっていたおじさんの姿でした。
男の子は嬉しくて思わず立ち上がり、おじさんの方へ走ろうとしました。
右足を前に出したとたん、激痛が男の子を襲いました。
「い、痛い!・・・・・痛いよ」
男の子が右足を見ると、ひざのあたりの毛が赤い色でうっすらと染まっていました。
それは、クレバスに落ちた時にできた傷でした。
「ぼうや!ぼうやじゃないか!」
男の子が右足を両手で押さえていると、おじさんの声が聞こえてきました。
「おじさん!」
男の子は痛みを我慢して、おじさんのところへ走っていきました。
男の子とおじさんは湖の真ん中で抱き合いました。
「おじさん、どうしてここにいるの?」
おじさんと離れたとたん、男の子は聞きました。
おじさんは男の子を見ながら
「寒いところを探していたら、大きなクレバスに落ちてね・・・・気が付いたらここにいたんだ」
「おじさんもクレバスに落ちたの?」
「うん、・・・・・どうしたんだ、足をケガしてるじゃないか!」
おじさんは男の子の右足から出ている血を見て、驚きました。
「さっき山を歩いていたら、急に穴が開いて落ちたんだ・・・」
「クレバスに落ちたのか!立っているのはつらいだろう、座りなさい・・・・ケガの手当てをしよう」
おじさんはあわてて男の子をその場に座らせました。
おじさんが男の子の傷を見ていると、男の子は聞きました。
「どうしてすぐに帰ってこなかったの?」
「ぼうやと同じで、クレバスに落ちて、足をケガしてしまったんだ・・・・治るまで時間がかかってしまってね。
それに、ここにいると前にいたところよりも氷が溶ける心配はないし、魚を獲ろうと思えばすぐに獲れるし、
居心地がよくなってしまってね。ここから離れたくなくなってしまったんだよ」
「でも、ここっておじさん一人で住んでるの?寂しくないの?」
「最初は一人でもいいやって思ってた。一人の方が誰にも気を使わなくていいし、自分の好きな時に
好きなことができるしね。でも時間が経つにつれてだんだん寂しくなってきたんだ・・・・
ぼうやのところに帰ろうかとも思っていたんだよ」
男の子が黙って話を聞いていると、おじさんは続けて言いました。
「それにここにいても、一人じゃ何もできないって分かったんだよ。
ケガをしてここに来た時に、たまたまここに来た鳥やペンギン達が教えてくれたんだ。
魚が獲れる場所やお医者さんがいる場所とかをね・・・・・
おかげで今とても元気になって、こうしてまたぼうやに会えたんだ。
私たちは一人じゃ生きられない。いつも周りの誰かに支えられて生きているんだよ。」
すると一羽のカモメが湖に入ってきました。
カモメは男の子の姿を見ると、男の子に声をかけました。
「無事だったんだね、君の両親がとても心配しているよ」
「君は誰なの?どうしてお父さんとお母さんを知ってるの?」
カモメの姿を見て、男の子は聞きました。
「君が大きなクレバスに落ちた場所を心配そうに見ているところを、偶然通りかかったんだ。無事でよかった」
「なら、ここにいることを知らせてくれないか」
おじさんはカモメにお願いすると、カモメはうなづいて
「分かりました。僕もご両親にお願いされて、ここに探しに来たんです。」
「それから、この子は足をケガしてるんだ。ここから少し離れたところにお医者さんがいる。連れてきてくれないか」
「分かりました。先にご両親をここに連れてきてからにしましょう」
カモメはそう言って、湖を去って行きました。
しばらくすると、カモメが両親を連れて戻ってきました。
「ぼうや!無事だったのね・・・・・よかった」
母親は男の子の姿をみたとたん、男の子のところに走ってきて抱きつきました。
「うん、僕は大丈夫だよ・・・・・ごめんねお母さん。心配かけてごめんなさい」
男の子は母親に抱かれたとたん、ほっとしたのと同時に泣き出してしまいました。
「よかった・・・・本当によかった」
母親も安心したのか、目から涙がこぼれだしました。
おじさんがそんな2人を横で見ていると、父親がおじさんの姿を見るなり声をかけました。
「おじさん・・・・どうしてこんなところに?帰ってこないので心配していましたよ」
「ああ、心配をかけてすまなかった」
おじさんは父親の方を向くと、頭を下げて謝りました。
「でも、よかった。おじさんもお元気そうで・・・・ここに住んでいるんですか?」
「色々とあって、ここに住んでいるんだが」おじさんは辺りの山を見渡しながら、父親に聞き返しました。
「ところで、どうしてこんなところへ?今まで住んでいたところは・・・・」
「離れました。氷がだんだんと溶けてきているので、寒いところを探しているんです」
「そうか。ならちょうどいい・・・・もしよかったら一緒にここに住まないか?
前いたところよりは寒いし、魚がよく獲れる場所も知ってる」
「いいんですか?」
「いいとも」おじさんは深くうなづきました。
「一人で寂しいと思ってたところだ。一緒に住んでくれた方がありがたい」
親子はおじさんとまた一緒に暮らすことになりました。
泣いていた男の子がようやく泣き止むと、男の子は空を見上げました。
男の子の真上の空に雲がかかり、雲の一部が太陽の光で虹色に輝いていました。
これからはここで暮らせるんだ。大好きなお父さんとお母さん、おじさんと一緒に。
男の子の目は、虹色に輝いていました。