新たな地へ
2人が村に入ると、空はすっかり日が暮れようとしていた。
空はオレンジ色に染まり、だんだんと暗くなってきている。
「空が暗くなってる。もう夕方なんだ・・・・・なんだか早いね」
ホーパスが空を見上げていると、アルマスも空を見ながら
「あの森にいた時は気がつかなかったけど、もう夕方なんだ・・・・今夜泊まるところを探さないと」
「そうだね」ホーパスはアルマスの方を向いた「早く決めてゆっくりしたいな。いろいろあったから」
「そうだね。僕も疲れたよ。行こう」
アルマスが歩き始めると、ホーパスも後をついて移動を始めた。
アルマスが近くにある家のドアを叩くと、中から中年の女性が出てきた。
「こんばんは」
女性がアルマスを見ると、アルマスは挨拶をした。
「何か用かい?見慣れない顔のようだけど・・・・・・・」
「僕はさっきここに来たばかりなんです。今夜泊まるところを探していて。よければ泊めてもらえませんか」
「今夜だって?一体どこから来たの?」
女性が戸惑いながら聞くと、アルマスは申し訳なさそうに
「すみません、いきなりこんな事を言って・・・・少し先にある森を抜けて来たんです」
「森だって?あの森の中を通ってきたのか?」
女性は驚いて声を上げると、続けてこんな事を言った。
「悪いけど、今夜は泊められない。どこか他のところをあたって」
「え、あ、ちょっと・・・・・・」
アルマスが何かを言おうとしたが、女性はドアを静かに閉めてしまった。
その後、2人は他の家に行って住人に泊まれないか話をしてみたが、泊めてくれるところはなかった。
住民からどこから来たのかを必ず聞かれ、森から来たと話した途端、急に態度が冷たくなりドアを閉めてしまうのだ。
そうしているうちに空はすっかり暗くなり、夜になってしまった。
空は雲が立ち込め、その間から満月が出ている。
「・・・・・すみません。ありがとうございました」
アルマスは住人に挨拶すると、家のドアがパタンと閉じられた。
「またダメだったの?」
アルマスの頭上でホーパスが聞くと、アルマスはホーパスを見た。
「家の中には入れてもらえなかったけど、1軒だけ宿があるのを教えてもらった」
「泊まるところがあるんだ。なら最初にその宿を教えてもらえばよかったのに」
「そうだね・・・・でも宿に行って、泊めてもらえるかどうか・・・・・・お金も持ってないし」
「じゃ、どうするの?」
「とりあえず宿に行こう。行って宿の人と話をするよ」
しばらくして2人が宿に向かって歩いていると、ホーパスがいきなり立ち止まった。
「どうしたの?」
ホーパスの動きに気がついたアルマスが声をかけると、ホーパスは左側を見ている。
「・・・・さっき、何かが光ったような気がするんだ」
「何か?」
「ちょっと待ってて。上に上がってみるから」
ホーパスがその場を上に上がっていくと、何かを見つけたのかあっという声を上げた。
「やっぱり向こうで何かやってる!」
「ホーパス、どこに行くの?ホーパス!」
ホーパスが左側へと移動するのを見たアルマスは、ホーパスの後を追おうと左側へと移動を始めた。
ホーパスの後を追いかけ、アルマスは深く生い茂った草むらの中を入って行く。
両手で辺りの草をかき分けながら前へと進んでいくと、少し先にフワフワと止まって浮いているホーパスの姿があった。
「ホーパス、何を見つけ・・・・・・」
アルマスがホーパスにようやく追いついて声をかけようとすると、ホーパスはアルマスを見た途端右前足を自分の口に当てた。
「しーっ。静かに。向こうで何かやってる」
「何を・・・・・・?」
ホーパスが前を向くと、アルマスもつられるように前を見た。
2人の数メートル先に数人の人々の姿があった。
皆黒い服やマントをまとい、中央にある大きな炎を見つめている。
炎の下側には大きく、細く切られた木や草が見えて、それらを燃やしているようだ。
一体、何をしているんだろう。
何かを燃やしているような・・・・・・・。
それにみんな黒い服を着てる。
アルマスは炎の周辺にいる人々に目を移した。
手前にいる人から次々に見て行くと、悲しそうな表情で炎を見つめている男性が目についた。
黒髪の短髪で黒服に身を包み、目の前にある炎を見つめている。
すると隣にいる背の低い白髪の老婆がその男性に声をかけてきた。
2人で炎を見ながら何かを話している。
しばらくして話を終えると、男性はその場を離れて行った。
老婆は燃え続けている炎の方を振り返ると、両手を合わせて何かを言いながら、祈りを捧げているようだ。
それを見ていたアルマスは、何をしているのかをなんとなく察した。
「行こう、ホーパス」
アルマスはホーパスに声をかけると、後ろを向いて来た道を戻り始めた。
「え、もう見ないの?まだ終わってないのに」
ホーパスが戻って行くアルマスに声をかけると、アルマスは黙ったまま道を戻って行く。
「ま、待ってよアルマス。置いて行かないで」
どんどん離れて行くアルマスに、ホーパスは戸惑いながらアルマスの後を追った。
2人が元の場所に戻り、再び宿に向かっていると、左側に1軒の家が見えてきた。
だんだんその家に近づくと、家の前に1人の男性の姿が見える。
玄関の隣には1頭の大きな馬がいて、その前にある横長の椅子に座って何かをしているようだ。
アルマスはその男性が誰か分かると少し戸惑った。
さっきまであの炎の前にいた男性だったからだった。
背が高くてがっしりした黒髪の、さっき見た黒い服の人・・・・・・!
どうしてここに?
「あっ、あの人さっきの・・・・・・!」
ホーパスも気がついたのか、小さな声を上げた。
その声にアルマスがホーパスを見ると、2人は顔を見合わせ立ち止まった。
ホーパスはアルマスの目の前まで近づいて
「僕達がさっき見てたってこと、気がついてないよね?」
「たぶん・・・・大丈夫だと思うけど」
「じゃ、このまま通り過ぎればいいよね」
「うん」
アルマスがうなづくと、2人は再び宿に向けて歩き出した。
しばらくして2人は男性のいる家の前を歩いていた。
2人は左側にいる男性を見ず、前を向いて歩いて行く。
そしてもう少しで家の玄関を過ぎようとした時、後ろから男性の声が聞こえてきた。
「お前、さっきの儀式を見ていただろう。どこから来たんだ?」
それを聞いたアルマスはびくっとして立ち止まった。
「・・・・・どうして分かったんですか?」
アルマスが後ろを振り返って男性に聞いた。
男性はアルマスを見ながら平然と答えた。
「誰かが来る気配を感じた。それにガサガサという草むらをかき分ける音が聞こえたからな」
「・・・・・・」
「それより、お前この村では見かけない顔だな。どこから来たんだ?」
「・・・・実は今夜泊まるところを探していて、宿に行くところなんです」
「泊まるところだって?旅をしているのか?どこに行くんだ?」
「それは・・・・・」
次々と来る質問にアルマスが戸惑っていると、男性は少し間を空けてからこう言った。
「・・・・答えによっては、今夜家に泊めてもいい。どこに行くんだ?」
それを聞いたアルマスは思わず反応した。
「特にどことは決まってないんです。ただ自分の居心地のいい場所を探しているんです」
「居心地のいい場所?」
「はい」アルマスはうなづいた「それと自分の願いが叶うっていう塔にも行きたいんです」
「自分の願いが叶う塔だって?」
それを聞いた男性は続けてこんな事を聞いた。
「それって塔の中に入れば、自分の理想の場所に辿り着くっていう噂の塔の事か?」
「そうだよ」
2人の間にホーパスが降りてきて、男性に向かって答えた。
「今答えたのは誰だ?」
男性はホーパスが見えないのか、辺りを見回した。
「見えないの?目の前にいるけど」
ホーパスはそう言いながら男性の顔に近づき、目の前で止まっている。
「もしかしたら暗くて見にくいかもしれない・・・・今目の前に茶色い猫の姿が見えませんか?」
ホーパスの後ろでアルマスが男性に聞いた。
「茶色の猫?」
男性は聞き返すと、目の前に何かいないか目を細めている。
しばらくすると目の前にうっすらと茶色い猫、ホーパスの姿が見えた。
「見えてきた・・・・・よく見えてないが、さっきしゃべったのはお前か?」
男性がホーパスに聞くと、ホーパスは大きくうなづいた。
「うん。さっき話したのは僕だよ」
「これは驚いた。言葉が話せる猫か・・・・それにしてもやたら見にくいが」
「うん。僕幽霊だから」
「幽霊だって?これはまた驚いた」
男性は半信半疑なのか、ホーパスの体をじっと見ている。
そして右手を前に出し、ホーパスの体に触れようとすると、ホーパスの透けている体が男性の右手をすり抜け、触れられない。
「本当だ。本物の幽霊だ・・・・言葉を話せる猫の幽霊なんて初めてだ」
男性は驚きながらホーパスを見ている。
「びっくりした?」とホーパス
「ああ・・・・・・名前は?」
「僕はホーパス。後ろにいるのはアルマス」
「アルマスです」
アルマスは男性に挨拶をすると、男性はアルマスを見た。
「オレはシーグフリードだ。ずっとそこで立っているのも疲れるだろう。こっちに来て座らないか」
「いいんですか?隣に座っても」
「ああ、いいよ」
シーグフリードがうなづくと、アルマスはシーグフリードの隣にゆっくりと近づいて座った。
「ところでお前はさっき言ってた塔に行きたいのか?」
シーグフリードはアルマスに聞き返すと、アルマスはうなづいた。
「塔がどこにあるか知ってるんですか?」
「知ってはいるが・・・・・」シーグフリードは顔を曇らせた。
「本当?どこにあるの?」とホーパス
「あの塔は実はオレも探してるんだが、移動していてなかなか見つからないんだ」
「え・・・・・・・?」
シーグフリードの言葉に、アルマスは何を言っているのか分からなかった。
ホーパスもシーグフリードの言ったことが理解できないのか、頭を傾げながら聞いた。
「塔が移動してるって?どこかに移ったってこと?」
「ああ、その通りだ」シーグフリードはうなづいた「少し前まではこの近くに塔があったんだが・・・・」
「どこに移ったのかが分からないってこと?」
「そうだ。しかも跡形もなく突然消えた・・・・・噂によると至る所に突然現れ、突然消えるらしい。
この国の中を移動しているらしいが、最近このあたりで見た者は誰もいない」
「動く塔なんだ・・・・・誰かが動かしてるってこと?」
「分からないが、謎の多い塔だ」
2人の話を聞いていたアルマスはシーグフリードに聞いた。
「ところで、シーグフリードさんも塔を探してるって言ってましたが、どうしてですか?」
「ああ・・・・」シーグフリードはアルマスを見た「あの塔に用があるからだ。だから探している」
「用があるって?何の用事?」とホーパス
「それは・・・・ここで話すような大した用じゃない」
シーグフリードは椅子から立ち上がると、夜空を見上げた。
空は雲がすっかりと切れ、大きな満月が姿を現している。
シーグフリードはしばらく満月を見た後、2人の方を振り返った。
「塔については今話したことが全てだ。塔が今、どこにあるのか分からない・・・・それでもお前達は塔に行くのか?」
「行きます」アルマスがすぐに答えた。
「この辺りはとても物騒だ。いつ何が起こるか分からない。危険だぞ」
「・・・・・」
「本当はもう1人連れて今日ここを出るつもりだったが、その1人が何者かに殺されてしまった。さっきお前達が見たのは
その1人を天に送る儀式だ。いつ誰かに殺されるかもしれない・・・・それでも塔に行くのか?」
「行きます。今まで危険を乗り越えてここまで来たんです。もう引き返せないんです」
「僕も行くよ。今までいろいろあったけど、ここまで来たんだ。今さら後戻りなんでできないよ」とホーパス
「・・・・・・」
シーグフリードは黙って2人を見ていたが、しばらくすると静かに口を開いた。
「2人とも、意思が固いな・・・・・・それなら一緒に行くか?」
シーグフリードの言葉にアルマスは一瞬戸惑った。
「え・・・・・いいんですか?」
「目的地が一緒なら、一緒の方がいいだろう」
シーグフリードは前にいる馬に近づくと、馬の背中を軽く撫でた。
そして2,3度撫でた後、後ろにいる2人の方を振り向いた。
「今夜は家に泊めてやる。明日の朝出発するがそれでいいか?」
「は・・・・・はい、ありがとうございます」
「それじゃ、家に入ろうか」
シーグフリードは玄関に向かうと、あとの2人も椅子から立ち上がりシーグフリードの後に続いた。
それから数時間後。
アルマスとホーパスは部屋の中で話をしていると、ドアが開き、シーグフリードが入ってきた。
アルマスとホーパスがベッドにいる姿を見つけると、2人が気がついてシーグフリードを見た。
「・・・・ゆっくりしているようだな。今夜は寝られそうか?」
「あ、はい」アルマスはうなづいた。
「それはよかった。明日の朝、またここに呼びに来る。それまでに出かける準備をしておいてくれ」
「分かりました」
アルマスが答えると、シーグフリードは後ろを振り返った。
そしてその場から歩き出すと、そのまま部屋を出て行った。
シーグフリードは廊下に出ると、そのまま奥へと歩き出した。
長くて細い廊下を歩き、家の奥の方へと移動して行く。
しばらくすると手前に大きなドアが見えてきた。
そしてドアの前で止まると、ゆっくりとドアを開けて中へと入った。
中に入ると、そこには数人の姿があった。
中央には大きくて縦長のテーブルがあり、その上には大きな紙が置かれている。
シーグフリードは部屋の一番奥まで行くと、全員がテーブルに集まってきた。
「遅くなってすまない。あの子供の様子を見に行っていた」
シーグフリードは全員を見ながらまずそう言った。
そしてテーブルの上にある大きな地図を見ながら聞いた。
「明日からその子供と一緒に、あの塔を探しに行く・・・・あの塔を見たという情報はあったか?」
すると右側にいる男性が答えた。
「エストヨーデンで塔を見たっていう話を聞いたが・・・・」
「それは昨日も聞いた。今日もその塔はそこにあるのか?」
「話を聞いたのは3日前だ。今日あるのかどうかまでは聞いてない」
「それ以降の話は聞いてないのか?」
「・・・・・」
「他には?誰かこの中で最近の情報を持っている奴はいないのか?」
シーグフリードが辺りを見回しながら聞くが、みんな黙っている。
しばらく沈黙が続くと、シーグフリードはため息をついた。
「・・・最近の話は入ってきてないんだな?分かった。明日エストヨーデンに向かう」
するとそこに1人の老婆がシーグフリードに声をかけてきた。
「エストヨーデンに行くなら、部族のアジトに行くんじゃろう?」
「ああ・・・・エストヨーデンに入ったら、まず行こうと思っている」
「ならばそこで塔の動きを封じるんじゃ。たとえ塔がそこになくても、動きを封じればいい」
「塔の動きを封じる・・・・・?」
「そうじゃ」老婆は深くうなづいた。
「さっきの儀式でも塔の動きを封じる処置をした。もうここには塔は移動できない。エストヨーデンでも動きを封じれば
残る場所はヴェストとノールだけじゃ。そうなれば塔の動きも限られてくる」
「そうすれば塔に出くわす可能性が大きくなるな」
「その通りじゃ。ただし・・・・・他の国に行かず、この国だけを移動していればの話になるが」
「分かった・・・・エストヨーデンに着いたらまず塔の動きを封じることにしよう。エストヨーデンのアジトにはそのように
伝えておいてくれるか?」
老婆はゆっくりとうなづくと、シーグフリードは再び辺りにいる人達を見た。
「明日の準備をする・・・・・今夜はこれで終わりだ」
シーグフリードが部屋を出ると、その後ろから老婆も出てきた。
シーグフリードが廊下を歩き出した途端、老婆が後ろから聞いてきた。
「あの部屋で休んでいるあの2人も連れて行くのか?」
シーグフリードは後ろを振り返ると、老婆を見た。
「ああ、一緒に連れて行く」
「ここに来たばかりなのに、もう連れて行くとは・・・・もう少しゆっくりさせればどうじゃ」
「あの2人も塔に行きたいと言っている。行きたいところが一緒なら、一緒に行った方がいい」
「しかしこの辺りはとても危険じゃ。あの2人だけもうしばらくここに置いた方が・・・・・」
「それも考えたが、子供だけで行かせる方が危険だ。それに一緒にいれば敵もそう簡単には手出しはできないだろう。
子連れだと向こうも攻撃はしてこないはずだ」
すると老婆は少し間を置いてこう答えた。
「・・・・分かった。でもくれぐれも気をつけるんじゃ。向こうにはシーグフリードが行くことを伝えておく」
シーグフリードは黙ってうなづくと、前を向いて廊下を歩き出した。
次の日の朝。
外は薄い雲が出ているが、青い空が一面に広がっている。
家のドアがゆっくりと開くと、アルマスとホーパスが外に出てきた。
その後にシーグフリードが続いて外に出ると、馬がいる場所へと歩き出そうとした。
「シーグフリード」
後ろから声をかけられ、シーグフリードが後ろを振り返ると、ドアを開けている老婆の姿があった。
シーグフリードが老婆を見ると、老婆はシーグフリードを見るなり
「ここを出る前に話がある。ちょっと来てくれないか」
「ああ・・・・」シーグフリードはそう言うと、後ろにいる2人の方を向いた。
「馬小屋の前で待っててくれ。話が終わったらすぐに行く」
老婆とシーグフリードが再び家の中に入ってしまうと、アルマスとホーパスは馬小屋に移動した。
2人は馬小屋の前にある長い椅子に座っていたが、ホーパスは座っているのに飽きたのか
後ろの馬がいるところへと移動した。
馬の背中の上まで移動すると、背中に積まれている荷物を見ている。
「荷物があまりなさそうだけど、これから行くところってここから近いのかな?」
馬の背中に乗っている中くらいの袋を見ているホーパス。
「勝手に荷物を触っちゃダメだよ」
アルマスがホーパスを見ながら注意をすると、ホーパスは馬の右前足近くに下がっている細長い革の袋を見ている。
「これは何だろう?何か入ってるみたい」
「それは・・・・・」アルマスがホーパスが見ているのを見ると、革の袋の中に太くて長い剣が入っている。
「ホーパス、それは触っちゃダメだよ。武器が入ってるから」
アルマスがさらに注意をすると、ホーパスはアルマスの言っていることが分からないのか
「え・・・・・?武器って何?」と聞き返した。
それを聞いたアルマスは一瞬戸惑ったが、すぐにこう言った。
「ホーパスに武器って言っても分からないか。その中には大きな剣が入ってるんだよ」
「え?剣?剣って何?」
「その中に入ってるものだよ」
アルマスは椅子から立ち上がり、馬の側まで移動すると、革の袋に入っている剣をホーパスに分かるように右の人差し指で示した。
ホーパスは剣を見ていると、アルマスがさらに剣について話をしている。
そんな2人の姿を遠くから見ている黒い影があった。
「・・・・そうなんだ。敵を倒すために使うんだね」
アルマスの話を聞いたホーパスは剣を見ながらうなづいた。
「僕にはまだその剣は大きすぎるし、重いからまだ持てないだろうけど。小さいのは持ったことはあるよ」とアルマス
「そうなんだ。アルマスは剣で敵を倒したことはあるの?」
「いや、それはまだないけど・・・・・・」
アルマスが途中まで言いかけた途端、急に何か嫌な胸騒ぎのようなものを感じた。
何だろう、何か嫌な感じがする・・・・・・。
後ろから何かが近づいてきているような気が・・・・・・。
アルマスがゆっくりと後ろを振り返ろうとした時だった。
「危ない!」
アルマスがその声に反応するかのように後ろを振り返ると、目の前にいきなりシーグフリードの後ろ姿があった。
シーグフリードは右手に大きな剣を持ち、何かを振り払ったような動きを見せた。
それと同時に何かが落ちたような音が聞こえてきた。
アルマスが地面に落ちたものを見ると、そこには1本の矢が落ちていた。
「誰だ!」
シーグフリードは辺りを見回しながら大声を上げるが、辺りは静かなままで何の反応も動きもない。
誰も出てこないと分かると、シーグフリードはアルマスの方を振り返った。
「危なかったな。大丈夫か?ケガはないか?」
アルマスは黙ったままうなづいた。
「よかった。もう少し遅かったらこの矢に刺されるところだった・・・・無事でよかった」
シーグフリードが安堵していると、家のドアから次々と数人の男達が外に出てきた。
そしてシーグフリードの前に集まると、シーグフリードは男達にこう言った。
「何者かがこの子供を背後から襲おうとしていた。既に逃げたかもしれないが、この辺りに誰かいないか見てきてくれ」
男達は黙ったままうなづくと、1人ずつあちこちに散らばって行った。
男達がいなくなると、老婆だけその場に残っていた。
「シーグフリード。すぐにここから出た方がいい。あの男達を待つ必要はないぞ」
「ああ・・・・・そうだな。今すぐに出発しよう」
シーグフリードはうなづくと、馬を出そうと馬小屋へと歩き出した。
シーグフリードが馬小屋から馬を連れだすと、馬を見ているアルマスに言った。
「馬には乗ったことはあるのか?」
アルマスが黙って首を振ると、老婆は辺りを見回しながら
「まだこの辺りにいるかもしれない・・・・ここを出るまでは馬には乗らず、歩いて行った方がいいかもしれん」
「そうか・・・・・そうだな。馬に乗るとかえって目立つかもしれない。それに荷物もある」
老婆の言葉にシーグフリードも辺りを見回しながら同意した。
そして再びアルマスを見ると
「悪いが、荷物を乗せているから馬に乗るのは無理だ。馬に乗るのは荷物が軽くなってからにしょう」
「大丈夫ですよ。今まで歩いて来ましたから気にしないでください」とアルマス
「大丈夫か?本当に疲れてないか?」
アルマスがうなづくと、隣にいるホーパスもうなづきながら言った。
「うん、大丈夫だよ」
「そうか・・・・・なら歩いて行くことにしよう」
シーグフリードはそう言った後、老婆の方を向いた。
「後は頼んだぞ。向こうに着いたらまた連絡する」
シーグフリードは辺りを見回し、注意をしながら馬を連れて歩き始めた。
シーグフリードの後を着いて行くように、アルマスとホーパスも歩き出すのだった。