小島の教会
「ようやくあの子供の力が目覚めたようだな」
目の前にある画面を見つめながら、トールヴァルドがつぶやいた。
「そうね」
トールヴァルドの隣でティードが画面を見ながらうなづいた。
2人は画面に映っているアルマス達を見ている。
「でも、まだ完全に目覚めたわけじゃないわ」
「それはどういうことだ?ティード」
トールヴァルドがティードの方を見ると、ティードもトールヴァルドの方を向いた。
「アルマスはまだ子供だから、一度に炎の力を解放してしまうと、その力にアルマスの体が受け止め切れないと思うの。
だから少しづつ解放するようにしたのよ」
「そうか。少しづつ力に慣れさせるようにしたんだな。その方がいい」
トールヴァルドは納得したように深くうなづいたが、すぐに続けてこう言った。
「しかし、目覚めた力が少しでもかなり強いようだ。花を燃やした後、すぐに倒れてしまったじゃないか。大丈夫なのか?」
ティードは少し考えながら
「・・・・目覚めた時に最大限の力が一気に出てしまったようね。もしかしたら制御が効いていなかったのかもしれない」
「・・・・・」
「でも、制御の仕方はこれから行く場所で教えてもらえると思うわ」
「ああ。おそらくそうなるだろうな」
トールヴァルドはうなづいた後、再び画面を見た。
ティードも画面に映っているアルマスを見ていると、しばらくしてトールヴァルドが再びつぶやいた。
「しかし、目覚めた力を誰にも見られずに・・・・という訳にはいかなくなったようだ」
「え・・・・どういうこと?」
ティードが戸惑いながらトールヴァルドの方を見た。
「雷が落ちて花を燃やしたことにしたのに。アルマスが炎で花を燃やしたのを見た人がいるってこと?」
「そうしたが、もしかしたら1人見たかもしれない。あの子供と一緒にいるあの青年だ」
トールヴァルドが画面を見つめながら答えると、ティードは画面に映っているシーグフリードを見た。
「もしかしたら、シーグフリードが見たかもしれないってこと?」
「ああ」
トールヴァルドも画面に映っているシーグフリードを見ながらうなづいた。
トールヴァルドはしばらくシーグフリードの姿を見ると、こうつぶやいた。
「もしかしたら、あの青年・・・・・・」
「え?」
ティードがトールヴァルドの方を見ると、トールヴァルドは画面を見つめながらこう言った。
「いいや、なんでもない。このまましばらく様子を見よう」
しばらくして船は離れ小島の船着き場に到着した。
船を降りた人達は皆、同じ方向へ歩いて行く。
アルマス達も後を着いて行くと、小さな白い建物が見えた。
白い屋根の上には十字架がある。
アルマス達は中に入ると、奥には祭壇が中央に置かれている。
その奥の壁には大きな十字架が掲げられている。
人々が左右にある椅子に座り始めると、左側でシーグフリードの声がした。
「おい、こっちだ。ここに座ろう」
アルマスが左側を向くと、シーグフリードがアルマスを手招きしている。
アルマスがシーグフリードに近づき、椅子に座ると、周りに響いていた話声が一気に静まり返った。
アルマスが前を向き、祭壇を見ていると左端の方から足音が聞こえてきた。
出てきたのは全身黒い服に身を包み、短髪で銀色の髪をした背の高い細身の男性だった。
男性は右端にあるピアノまで来ると、ピアノの前にある椅子に座った。
続いて左端から出てきたのは、同じく黒い服に身を包んだ背の高い女性だった。
黒髪で腰まで伸びているストレートの髪に、凛とした顔だちのきれいな女性。
女性が祭壇まで来て止まると、椅子に座ってる人々を見渡した。
しばらくして女性が静かに話を始めた。
「・・・・今日はミサにようこそお越しくださいました。お話の前に、賛美歌を歌います。よろしかったらご一緒に歌ってください」
そしてピアノの音が聴こえてくると、女性は静かに歌い始めた。
女性の歌う声が聴こえてくると、アルマスはその声に驚いた。
「うわあ・・・・・・すごくきれいな声だね」
アルマスの隣で女性の声にうっとりしながらホーパスがつぶやいた。
アルマスもうなづきながら
「うん。こんなきれいな声聴いたことがないよ。それに心が洗われるみたいだ」
「心がきれいになっていくような気がする。ずっと聴いていたいな」
「・・・・・・」
2人が女性の声に聴き入っている隣で、シーグフリードは黙ったまま女性を見つめているのだった。
ミサが終わり、アルマス達3人以外の人達がいなくなると、シーグフリードはピアノの前にいる男性に声をかけた。
「ミサが終わったばかりですまないが、あなた達に頼みたいことがある」
シーグフリードはそう言うと、男性に向けて1枚の許可状を見せた。
男性は王のサインが入っているのを見ると深くうなづいた。
「ああ。あなたがそうでしたか」
「そうでしたかって・・・・・誰かから話を聞いているのか?」
「ええ、昨日聞いていますよ。王様の使者がこちらに来ましたから」
男性がシーグフリードの右手にある剣を見ていると、女性が2人に近づいてきた。
男性は女性を見るなり
「ヒルダ様、昨日の方がお見えになってます」
「こちらの方がそうなのか、イリス」
ヒルダはシーグフリードを一瞬見た後、イリスに確認するようにこう言った。
イリスはうなづくと、シーグフリードを見ながら
「確かお名前は・・・・・・」
「シーグフリードだ。聞いているなら話が早い。この剣の呪いが解けるかどうか見て欲しいんだ」
「これがその剣か」
ヒルダはシーグフリードの右手にある剣を見ている「まず、どんな剣なのかよく見せてもらいたい」
シーグフリードは少し戸惑いながら
「ただ、呪いが移るかもしれないから、触らない方が・・・・・・」
「大丈夫だ。少し触るくらいで呪いなど移りはしないだろう。いざとなったら呪いをすぐに解く」
ヒルダが剣に触れようと右手を伸ばした時だった。
剣から突然黒い煙のようなもやもやしたものが出てきたのだ。
「・・・・・!?」
煙を見た全員が驚いていると、そこにホーパスが現れてシーグフリードに聞いた。
「これがその呪いなの?」
「ああ・・・・その通りだ」
シーグフリードがホーパスを見ると、アルマスがこちらに近づいてきているのが見えた。
するとヒルダがホーパスに声をかけた。
「可愛い茶色の猫がいるな」
「え?僕が見えるの?僕ホーパスっていうんだ」
ホーパスが驚いていると、ヒルダは微笑みながら右手をホーパスに伸ばした。
「ああ、見えている。言葉が話せる猫は初めてだ・・・・・可愛い猫の幽霊だな」
ヒルダがホーパスの体を優しく撫でると、ホーパスは気持ちよさそうに微笑んでいる。
そこにアルマスがやってきた。
シーグフリードはアルマスが隣に来るとヒルダとイリスに紹介した。
「この子供はアルマスだ。一緒に旅をしている」
「アルマスです」
アルマスがヒルダとイリスに向かって挨拶をすると、ヒルダがアルマスの方を向いた。
すると何かを察知したのか、アルマスの姿や顔をじっと見つめている。
な、何だろう・・・・・僕のことをずっと見てる。
何かついてるのかな。
ヒルダに見つめられたアルマスは変な緊張感に襲われた。
ヒルダの様子に気がついたのはイリスだった。
「ヒルダ様、どうかなさいましたか・・・・・?」
皆の視線がいっせいにヒルダに向くと、ヒルダはアルマスを見つめながら平然とこう言った。
「・・・・・お前は炎の力を持った者だな」
「え・・・・・・!?」
ヒルダに言い当てられたアルマスが戸惑っていると、隣でシーグフリードがつぶやいた。
「やっぱりな・・・・・・・」
「な、何がやっぱりなの?」
ホーパスが戸惑いながらシーグフリードに聞くと、シーグフリードはアルマスを見ながら
「この間、あの花を一瞬にして炎で焼いたのはお前だな、アルマス」
「・・・・・・」
「炎で花に火がついた後、すぐに雷が落ちた・・・・はっきりとは見ていないが、それなら納得がいく。
雷であの花が一瞬にして燃え尽きたとは思えない」
シーグフリードの説明にアルマスは戸惑いながらも、静かにこう反論した。
「・・・・・そうかもしれない。でも、僕はどうやってあの花を燃やしたのか覚えていない」
「覚えていないのか?」とヒルダ
アルマスがうなづくと、ヒルダはアルマスに近づいた。
そして右手をそっとアルマスの左頬に触れると、アルマスは内心ドキッとした。
「そうか・・・・・まだ力が目覚めたばかりなのだな。炎の力が強すぎて、覚えていないのだろう」
「・・・・・・」
「しかし、力は使えるはずだ」
ヒルダは右手を放し、アルマスから離れると少し離れた場所にあるロウソクが多く置かれている方を見た。
そして再びアルマスを見るとこんな事を言った。
「試しに向こうにあるロウソクに火をつけてみよ」
「え・・・・・?」
アルマスは多くのロウソクが並んでいる場所を見た。
ロウソクは全て火がついていない。
ホーパスもロウソクがある場所を見ながら
「あのロウソクに火をつけるって・・・・・全部一度につけるの?」
「全部ではなく、1本だけだ。1本だけ火をつけてみよ」とヒルダ
「で、でも・・・・・・」
アルマスが戸惑っていると、ヒルダは微笑みながら
「大丈夫だ、何かあったら私がなんとかする。やってみるんだ」
「・・・・・・」
アルマスは戸惑いながらも、ゆっくりとロウソクのある場所へ歩き出した。
ロウソクの前でアルマスが止まると、手前にある1本が目についた。
そのロウソクに右手を伸ばすと、アルマスは決心したように深く深呼吸をした。
この間何度やっても火がつかなかった。
今度はつくのかな。大きな火が出なければいいけど・・・・・。
不安に思いながら、アルマスは火をつけようとロウソクのシンを見た。
小さな火がそっとつきますように・・・・・・。
アルマスがそう念じながらロウソクを見ていると、しばらくして静かにそっと小さな火がついた。
ロウソクの火は意思を持っているかのように、揺れることなく真っ直ぐ縦に燃えている。
「火がついた・・・・・・・」
アルマスが信じられないというような表情でロウソクの火を見ている。
「やればできるじゃないか」
後ろから聞こえてきたヒルダの声に、アルマスは後ろを振り返った。
そこには微笑んでいるヒルダの姿があった。
ヒルダの隣にはあとの3人が火がついているロウソクを見ている。
「まだ目覚めたばかりで上手く使いこなせないかもしれないが、今の調子でやれば大丈夫だ」とヒルダ
「は・・・・・はい」
アルマスは火のついたロウソクをしばらく見つめているのだった。
するとイリスがヒルダに声をかけた。
「ところでヒルダ様、剣はどうなさいますか?」
「そういえば・・・・・すっかり忘れていたな」
ヒルダはシーグフリードの右手にある剣を見た。
しばらく剣を眺めた後、再びイリスの方を見てこう言った。
「さっきの様子では一筋縄ではいかないようだ。除霊用だが・・・・あのガラスケースを持ってくるように」
しばらくするとイリスが細長い透明のガラスケースを持ってきた。
ケースの扉は両開きで、鍵がついている。
イリスがケースを床に置くと、ヒルダはシーグフリードの右手にある剣を見た。
「その剣をこのガラスケースに入れてください」
「分かった」とシーグフリード
イリスがガラスケースの扉を開け、シーグフリードが剣をケースの中に入れると、イリスが扉を閉めた。
さらにイリスが扉に鍵をかけると、ヒルダはイリスにこう指示した。
「そのケースをそこの壁にたてかけるように」
イリスがケースを壁に縦にたけかけると、ヒルダはイリスに呼びかけた。
「呪いを解く準備をするぞ」
イリスが黙ったままうなづくと、ヒルダはシーグフリードの方を向いた。
「これから呪いを解く準備をします。しばらくの間ここで待っていてください」
シーグフリードがうなづくと、ヒルダとイリスはその場を離れ、奥へと消えて行くのだった。
しばらくするとイリスが右腕に楽譜を抱えて戻ってきた。
ピアノの前で止まり、楽譜をそばにある椅子の上に置くと、鍵盤に目を移した。
鍵盤がある場所よりひとつ下、黒い布を両手で取るとその下には鍵盤が現れた。
さらにピアノの右横に被されている黒い布を取ると、そこには多くの丸いボタンやダイヤルのようなものが並んでいる。
それらの上には赤やブルーのランプがついたり消えたりしている。
イリスは楽譜を鍵盤の上にある譜面台に置くと、椅子に座った。
右手を伸ばし、ダイヤルやボタンをいじりながら、左手で鍵盤を叩いて電子音のような音を出している。
「あのピアノ、さっきの音と違う音も出るんだ」
ピアノから聞こえてくる音を聴いてホーパスがピアノを見ている。
「そうだね。それに鍵盤もさっきと違う・・・・・2段もあるんだ」
アルマスもイリスが弾いているのを見ている。
「あまり見た事がないピアノだ」
「うん・・・・珍しいね」
しばらくピアノを弾いていたが、準備ができたのかイリスは両手を鍵盤から放し演奏を止めた。
そして部屋の奥を見ると、そこにいるであろうヒルダに向かって声をかけた。
「ヒルダ様、準備ができました」
「分かった」
ヒルダの声が聞こえると、しばらくしてゆっくりとした足取りでヒルダがやってきた。
ヒルダはさっきと同じで、何も持たず、服も何も変わっていない。
ヒルダを見たシーグフリードはこれからどうするのか気になった。
「これから一体何をするつもりなんだ?」
「あの壁にある剣の呪いを解くのです」
ヒルダが平然とした様子で壁にたてかけている剣が入ったガラスケースを見た。
「ヒルダ様の声には呪いや悪霊を浄化させる力があります。今からヒルダ様が呪文を唱えます」
イリスがシーグフリードの方を見て説明をしていると、ヒルダもシーグフリードを見ながら
「その通りだ。呪いを解くにはしばらく時間がかかるかもしれないが、何もしないで黙って見ていてもらいたい」
「・・・・分かった」
シーグフリードがうなづくと、ヒルダは再びガラスケースの方を向いた。
ヒルダがイリスを見て軽くうなづくと、イリスが演奏を始めた。
聞こえてきた電子音に聴き入るように目を閉じるヒルダ。
そしてしばらくして目を開くと、いきなり高音で歌い始めた。
高くてきれいな歌声が部屋中に響き渡っている。
「・・・・さっきの歌もよかったけど、今の歌もいいな」
ヒルダの声に聴き入っているホーパス
その隣でアルマスも歌を聴きながら
「うん。さっきよりも声の強弱が強いというか・・・・・攻撃的だけど心がだんだん洗われていくような気がする」
とヒルダを見ている。
「呪文を歌にしてるのかな?」
「たぶん・・・・そうかもしれない」
「・・・・・・・」
2人の隣でシーグフリードは黙ったまま、ガラスケースに入っている剣を見つめている。
しばらくヒルダが歌い続けていると、突然ガラスケースの中に変化が現れた。
中の剣から再び黒い煙が出てきたのだ。
「さっきの黒い煙がまた出てきてる!」とホーパス
「だんだん煙で中が見えなくなっていく」
シーグフリードがガラスケースを見ていると、中はすっかり黒い煙で見えなくなっている。
「これからどうなるんだ?」
シーグフリードがヒルダを見ると、ヒルダの額には汗が滝のように流れている。
イリスが視線をピアノからヒルダに移すと、汗だくになりながらも歌い続けている様子に違和感を覚えた。
「ヒルダ様・・・・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」ヒルダはガラスケースの方を向いたまま答えた「そのまま続けるんだ」
「でも・・・・大丈夫ですか?このまま続けたら・・・・・・」
「私は大丈夫だ。いいから続けろ」
イリスの言葉を遮りヒルダが答えると、ヒルダは再び歌い始めた。
この黒い煙、思った以上に強い力を感じる。
今までにない強力な力だ。
このまま呪いを消せればいいが・・・・・・。
最大限の力を出していくしかない。
ヒルダは歌いながらも不安を感じ始めていた。
しばらくして曲が終わったのか、演奏が止まった。
音が止んだ途端、ガラスケースからピシっと割れるような音が聞こえてきた。
シーグフリードがガラスケースを見ると、右扉の中央部分に白いヒビが入っている。
「ヒビが入った・・・・・」
シーグフリードがその場から立ち上がってガラスケースを見ていると、イリスの叫び声が聞こえてきた。
「ヒルダ様!」
シーグフリードがその声に反応してヒルダを見ると、ヒルダの体がよろけ、今にも後ろに倒れそうになっていた。
「危ない!」
イリスがピアノから離れ、床に倒れそうになっているヒルダへ駆け出して行くと、そこにシーグフリードが来てヒルダの体を抱えた。
「ヒルダ様!大丈夫ですか」
イリスがヒルダに近寄り声をかけると、ヒルダはすっかり憔悴している表情を見せながら
「・・・・大丈夫だ。少し疲れただけだ」
「力を出し過ぎたのではないですか?かなり疲れているようですが」
「最大限の力を使ったが、思っていたよりも呪いの力が強い・・・・・このままだと呪いがかえって強まるだけだ」
「とにかくいったん休みましょう」
「休むって・・・・・ガラスケースのヒビは大丈夫なのか?」
シーグフリードがヒルダを抱えながら、ガラスケースを見た。
ガラスケースの中は暗いままだが、何も変化はない。
イリスもガラスケースを見ながら
「ヒビが入っても大丈夫です。あのケースは頑丈にできてますから。すぐには影響はないはずです」
「それならいいが・・・・・」
「とにかく今はヒルダ様を休ませることが優先です。奥の部屋へ行きましょう。ヒルダ様は私が部屋に連れて行きます」
イリスがシーグフリードと交代し、ヒルダの体を抱えると、そのまま奥の部屋へと移動するのだった。
奥の部屋に入り、しばらくするとヒルダが気がついたのかゆっくりと起き上がった。
「ヒルダ様、大丈夫ですか?」
ヒルダの側でイリスが声をかけると、ヒルダはうなづきながら
「・・・・・あの剣はどうなっている?」
「黒い煙がケースを覆ったままです。ケースの外に出ることはないかと」
「・・・・・・」
「どうするかはこれから考えましょう。水を持ってきます」
ヒルダは黙ったままうなづくと、イリスはその場を離れた。
イリスが水が入ったコップを持って戻ってくると、ヒルダの前にコップを出した。
ヒルダはそのコップを受け取ると、そのまま口元に持っていき、水をゆっくりと飲み始めた。
そのまま一気に水を飲み干してしまうと、ヒルダは落ち着いたようにゆっくりとため息をついた。
「・・・・・ありがとう、イリス」
「落ち着かれたようでよかったです」
イリスがヒルダから空になったコップを受け取ると、ヒルダはようやく後ろで座っている3人を見た。
「見苦しいところを見せてしまい申し訳ない」
ヒルダがシーグフリードを見て、申し訳なさそうに頭を下げた。
「大丈夫そうでよかった。こちらこそ申し訳ない。大変なことをお願いしてしまって」とシーグフリード
「それで考えたんだが、呪いを解くのではなく、封印する方向にしようと思っている」
「呪いを封印?」
「本当であれば呪いを解きたいところだが、私の力ではあの力は強すぎて無理だ・・・・手に負えないくらいの強さだ。
その代わり誰でも剣に触れられるように呪いを封印する」
「封印すれば、誰でもあの剣を持てるようになるの?」とホーパス
「ああ、その通りだ。それが今、私ができる最大限のことだ」
「仕方がないな・・・・・・」
シーグフリードがあきらめたようにつぶやくと、イリスがシーグフリードにこう言った。
「ここでは無理ですが・・・・呪いを解きたいのであれば、セントラルに行けばなんとかなるかもしれません」
それを聞いたシーグフリードはイリスを見た。
「セントラルだって・・・・・?」
「セントラルにいる呪術師のところに行けば、呪いを解いてくれるかもしれません」とヒルダ
「ヒルダ様の師匠となる方がセントラルにいらっしゃるのです。その方でしたら呪いを解いてくれるかもしれません」とイリス
「分かった。とりあえず・・・・あの剣の封印を頼む」
シーグフリードが2人に向かってそう頼むと、イリスはヒルダを見た。
「あの剣の呪いの力を封印しましょう。大丈夫ですか?体調の方は・・・・・」
「大丈夫だ、もうほぼ落ち着いた。あの剣があるところに戻ろう」
ヒルダがうなづくと、5人は再び剣がある場所へと移動するのだった。
剣が置いてある場所に戻ると、剣が入っているガラスケースに変化はなかった。
ケースの中は黒い煙に包まれたままで何も見えない。
ヒビが入っているのは1ヶ所のみで増えている様子もない。
「良かった。さっきと変わってないみたい」
ホーパスがガラスケースを見ていると、ヒルダもガラスケースを見ながら
「そのようだ・・・・・・今のうちに力を封印しよう」とピアノがある場所に目を移す。
イリスがちょうどピアノの前で立ち止まり、持っている楽譜を置くところだった。
「今から準備をするから、向こうで座って待っているように」
「うん、分かった」
ヒルダの言葉にホーパスがうなづくと、ホーパスは先に座っているアルマスとシーグフリードがいるところへ向かって行った。
イリスがピアノの前の椅子に座り、鍵盤に両手を置くと演奏を始めた。
ゆっくりとしたテンポの曲調が部屋中に聴こえている中、ヒルダの歌声が聴こえてきた。
前回と違い、ゆったりとしていて穏やかな伸びのある声。
「さっきとは違って、今度はゆっくりで静かな感じの歌だね」
ホーパスがヒルダを見ながら隣にいるアルマスに声をかけると、アルマスは黙ったままうなづいている。
シーグフリードはヒルダの姿をちらっと見ると、剣が入っているガラスケースに目を移した。
しばらくすると、ガラスケースの中に漂っている黒い煙がだんだんと薄れ出した。
剣の姿がだんだんと見えていくにつれ、煙がだんだんと消えていく。
最後は剣の姿がはっきりと見えるようになり、煙はすっかりと消えていた。
「煙が消えた・・・・・・・」
シーグフリードがそう言った途端、演奏が終わった。
イリスがガラスケースがある場所に移動し、ケースから剣を取り出した。
イリスが剣の至るところをくまなく見ている。
「・・・・・もうあの黒い煙は出てこないようです」
イリスが剣を見終わり、視線をヒルダに移すと、ヒルダはうなづいて答えた。
「封印は完了した。これでもう大丈夫だ」
しばらくしてイリスから剣を受け取り、シーグフリードが部屋を出ようと入口のドアを開けた。
「うわあ、もう日が暮れてる。もう少しで暗くなりそうだ」
外に出た途端、ホーパスが驚きながら夕焼けに染まっている空を見ている。
「それに誰もいない・・・・・船もなさそうだ」
シーグフリードが辺りを見回すが、人の影も船の形も見当たらない。
ホーパスはアルマスの方を向いて
「ミサが終わってみんな船で帰っちゃったから、もう船が戻ってこないのかな」
「そうかもしれない・・・・・」とアルマス
シーグフリードがどうすればいいのか考えていると後ろからイリスの声が聞こえてきた。
「今日はここに泊まっていきませんか?」
「え・・・・・?」
シーグフリードがイリスを見ると、イリスの隣でヒルダがこう言った。
「今日はもう船は来ない。今夜はここに泊まって明日戻ればいい」
「泊まるところはあるのか?」
「地下に行けば部屋はあります」イリスはうなづきながらさらにこう言った。
「それに今日はこれで終わりですから。夕方で教会を閉めるので今日はもう終わりです」
「地下があるのか?階段があるとは思えないが、どこから・・・・・・」
「ならば今から案内しよう」
ヒルダはそう言うと、後ろを向いて部屋の奥へと歩き出した。
「ヒルダ様の後をついて行ってください。私は教会を閉めますから」
イリスが3人にそう言うと、3人はヒルダの後を追った。
しばらくしてみんなはある店の中にいた。
教会の一室から地下に降りる階段があり、地下には小さな部屋や店が並んでいる。
小島に住んでいる人々なのか、多くの人々の姿があった。
「お待たせしました」
店員が両手に料理が乗った皿をテーブルに置くと、ホーパスが目の前に出された料理を見ている。
「おいしそう。それにすごくいいにおいがする・・・・・・」
ホーパスがにおいを嗅いでいると、隣にいるアルマスが聞いた。
「ホーパス、お腹空いてるの?」
「美味しそうだから食べたいな・・・・・」
「私が小皿に取り分けよう」
ホーパスを見たヒルダがすぐ側にある小皿を取ると、ホーパスの目の前にある料理に手を伸ばした。
そして小皿にある程度の量を取ると、ホーパスの前にその小皿を置いた。
「このくらいで大丈夫か?」
「うん、ありがとう!いただきます」
ホーパスが嬉しそうにヒルダにお礼を言うと、小皿に口をつけて食べ始めた。
ヒルダはホーパスの食べている姿を見ながら
「食べている姿もかわいいな。それにしてもこの猫、なんでも食べるのか?」
アルマスもホーパスを見ながら
「今のところ、嫌いなものはなさそうだけど・・・・・なんでも食べます」
「そうなのか?珍しいな。今食べているのはたまたま魚料理だが、肉も食べるのか?」
「少しくらいなら・・・・小さく分ければ食べるかもしれない」
「好き嫌いがないとは。ますますかわいい猫だな」
ヒルダがホーパスの背中を撫でていると、シーグフリードが割り込んできた。
「それにしても、地下にこんなに広い場所があるとは思わなかった。それにこんなに人がいるとは」
「ここにいる人達は皆、この小島に住んでいる人達です」
シーグフリードの向かいに座っているイリスが答えた。
「え、みんなここに住んでるのか?」
「はい。みんな教会の関係者です。教会の存続のためにここに住んで生活をしているのです」
「それにしても教会ではみかけなかったが、何をしてるんだ?」
「私達2人以外は昼間は外に出て畑を耕したり、食物を育て、収穫したものをこの店に集め、ここで食事をするんです。
自給自足の生活をしています」
「そうなのか・・・・・でも、お金が必要な時はどうするんだ?」
「教会を運営する資金は王室から出ているんです。その資金で必要なものを購入したりしています」
「王室から出てるのか・・・・・・」
「時々、王室から呼ばれて城に行くこともある」
2人の話を聞いていたヒルダが話に入ると、ホーパスが皿から顔を上げた。
「あのお城に行くの?船で行くの?」
「いいえ、船では行きません」イリスがヒルダの代わりに答えた「この近くにトンネルがあって、城に通じているのです」
「じゃ、呼ばれたらトンネルを通って城に行ってるんだ」
「そのトンネルを通って村に戻れないか?それなら船に乗らなくて済む」
シーグフリードがイリスに聞くと、イリスとヒルダは顔を見合わせた。
「・・・・城の手前で出られるかもしれないが、城以外の場所に出たことはないな」
ヒルダが複雑な表情を見せると、イリスも同じような表情を見せながら
「後で確認してみます。トンネルを管理している者がいますので」
「さあ、話は尽きないが・・・・料理が冷めてしまう前に食べよう」
ヒルダが側にある小皿を取り出すと、みんな食事を始めるのだった。
次の日。
シーグフリード達3人は船着き場にいた。
3人の後ろには昨日乗ってきたのと同じ船が停まっている。
3人の前には見送りに来たヒルダとイリスの姿があった。
「トンネルを通るのはダメだったのか?」
シーグフリードが2人に聞くと、イリスがすまなさそうな顔で頭を下げた。
「申し訳ありません。事前の許可が必要らしくて。急すぎて王室側の許可が出ませんでした」
それを聞いたヒルダがイリスにさらに聞いた。
「王様のサインが入った手紙でもダメだったのか?」
「はい、あれはあくまでも私達に向けたものなので・・・・・それとは別みたいです」
「そうか、なら仕方がない・・・・・・そういう訳だ」
ヒルダがシーグフリードの方を見ると、シーグフリードは黙ったままうなづいた。
「でも、すぐに船が手配できてよかったです」とイリス
「この後、村に戻ったらセントラルに向かうのか?」
ヒルダがシーグフリードの右手にある剣を見ると、シーグフリードはうなづいて
「ああ・・・・できればすぐセントラルに行こうと思っている」
「村からセントラルの行き方は知っているのか?」
「村に戻って、仲間から聞こうと思っているが・・・・・・」
「そろそろ船を出したいのだが、よろしいですか?」
シーグフリードが話をしている途中、後ろから船頭らしき男性が話しかけてきた。
シーグフリードが船に乗り、アルマスとホーパスが船に乗ろうとすると、ヒルダが声をかけてきた。
「渡したいものがある」
アルマスが立ち止まり、ヒルダが近づいてくると、アルマスの前に右手を出した。
そして手のひらを広げると、中にペンダントらしきものがあった。
「これは・・・・・・?」
「これをつけてセントラルの師匠のところに行って欲しい」
アルマスがペンダントを見ていると、ヒルダはペンダントの紐を両手で取った。
そしてアルマスの首にかけると、ペンダントトップを右手で取りながら
「セントラルのある集落に着いたら、これを見せるのだ。そうすればこの教会から来た者だとすぐに分かる。
師匠にも会えるだろう」
アルマスがペンダントトップを見ると、銀色の三日月と月桂樹のような葉っぱがクロスした形のものだった。
アルマスはヒルダを見て
「いいんですか?このままもらっても・・・・・・」
「ああ」ヒルダは微笑みながらうなづいた「それはお守りにもなっている。お前を守ってくれるだろう」
「ありがとうございます」
アルマスとホーパスが船に乗り込むと、船は船着き場を出発した。
「また来て下さいね」
イリスが船にいる3人に手を振ると、ホーパスとアルマスも手を振り返した。
しばらくして船の姿が小さくなると、ヒルダとイリスはゆっくりと教会へと入って行った。
それから数日後。
シーグフリード達は次の場所へ行くことになった。
「どうしても今日行くのか?もう少し考えてから決めた方がいいと思うが」
イェスタが馬に荷物を乗せているシーグフリードに声をかけた。
シーグフリードは馬の背中に荷物を乗せると、後ろを振り返った。
「ああ、早い方がいい。まさかここからセントラルに行けないとは思わなかったからな」
「オレも聞いて驚いたが、王室からの情報だから間違いない。ノールとヴェストの争いで治安が悪くなったからって
セントラルに行く道を封鎖するとは・・・・・・」
「え、セントラルには行けないの?」
それを聞いたホーパスが驚いていると、アルマスはうなづきながら
「うん。直接には行けないみたい。昨日イェスタさんから聞いてびっくりしたけど」
「昨日?僕聞いてたっけ」
「ホーパスは食事した後すぐ部屋に入ったから。その後聞いたんだ」
「じゃ、どうするの?どうやってセントラルに行くの?」
「昨日、イェスタと話をした・・・・・気が進まないが、ノールヨーデンからセントラルに行くしかない」とシーグフリード
「今、戦況がどうなっているのか分からないから気がかりだが、セントラルへ行くには今のところノールかヴェストからしか・・・・」
イェスタが気難しそうな表情を見せると、誰も何も言わず静かになった。
しばらくすると再びイェスタが口を開いた。
「ここでもうしばらく待って、セントラルに行く道の封鎖が解消されるのを待てないのか?」
「数日で解消されるのなら待つが、今のところすぐに解消されるのか分からない」
シーグフリードは首を横に振り、さらにこう言った。
「待っている間、剣の封印が破られるかもしれない。それに塔のこともある」
「ああ、塔か・・・・・・・それもあったな」
それを聞いたイェスタは深いため息をついた。
そしてアルマスとホーパスを見ながら
「行くのはいいが、この2人は大丈夫なのか?これから行くのは戦地だぞ」
「ああ、巻き込まれないようになるべく安全なところを選んで行くつもりだ」とシーグフリード
「分かった」イェスタはあきらめたようにうなづくと、続けてこう言った。
「ノールにオレの仲間がいる。ノールに入ったところの村に住んでるから着いたらまずそこに寄ってくれ。力になれるだろう」
「ああ・・・・・ありがとうイェスタ」
シーグフリードはイェスタに近づくと、2人は別れを惜しむかのように抱きしめるのだった。
3人はイェスタに別れを告げると、イェスタの家を出発した。
「気をつけて行くんだぞ。ノールに着いたら連絡してくれ」
イェスタが大声で3人に手を振ると、シーグフリードが振り返ってうなづき、手を振った。
イェスタは3人の姿が見えなくなるまで見送ると、ゆっくりと家の中に入って行った。