戦う理由
シーグフリード達はノールに入った。
両側が林になっている道を歩きながら、3人は村へと向かって歩いている。
空はうっすらと曇っているが、辺りは静かでシンとした空気が漂っている。
たまに風が吹くと、風で木々の葉がざわざわと揺れる音が聞こえてくる。
「戦地だと聞いてたから、騒がしいのかと思ったけど・・・・・静かだね」
ホーパスが辺りの木々を見渡している。
「この辺りはまだ戦いの場にはなっていないかもしれないな」
シーグフリードも周りを見回すと、後ろにいる2人の方を振り返った。
「でも、油断はするな。いつ何が起こるか分からない」
「うん。分かってるよ。だからこうして辺りを見ながら歩いてるんだ」とホーパス
「それならいいが・・・・・」
「村まであとどのくらいあるの?イェスタさんノールに入ったところにあるって言ってたけど」
「それは・・・・とにかく道はこの道しかなさそうだ。このまま行けば着くだろう」
シーグフリードが再び前を向くと、あとの2人は何も言わずに歩き続けるのだった。
しばらくすると村らしき場所に出た。
3人は止まって辺りを見てみるが、建物らしきものが見当たらない。
あるのは大きめのテントがあちこちにあるくらいだった。
「テントしかない・・・・・他の建物はないのか?」
シーグフリードが辺りを見回していると、ホーパスも辺りを見ながら
「それに人がいないね。誰もいないのかな?」
「もしかしたらテントの中にいるかもしれないが、もう少しこの辺りを見てみよう」
するとアルマスが何かを見つけたのか、2人から少し前で何かを見ている。
「向こうに何かあるみたい。奥に壁みたいなものが見える」
「壁だって?」
それを聞いたシーグフリードがアルマスのところに行くと、数メートル先に何かがあるのが見えている。
「・・・・もしかしたら建物があるかもしれない。行ってみよう」
シーグフリードが歩き出すと、後の2人も後を追った。
3人が歩いて行くと、目の前に屋根がなく、壁が途中まで壊れている建物が見えた。
シーグフリードが上を見上げながら
「上の方が黒くなってる・・・・戦いで壊されたのか、それとも燃やされたのか・・・・」
「じゃ、ここに敵が来たってこと?」とホーパス
「そうかもしれない。でもこの建物以外、壊されたようなものがないな」
「おい!そこで何をしている?」
シーグフリードが建物から目を移そうとした時、後ろから突然大声が聞こえてきた。
3人が後ろを振り向くと、そこに2人の男の姿があった。
「ここの住人か?」
シーグフリードが2人に声をかけると、1人の男がシーグフリードに近づいてきた。
「ここに何をしに来た?」
「オレ達は敵じゃない。エストから来た」
シーグフリードはそう言いながら2人を見るが、2人は疑いの目でシーグフリードを睨みつけている。
シーグフリードは2人を見ながら、さらにこう言った。
「エストのイェスタのところから来た。ここにイェスタの知り合いがいると聞いた。イェスタを知っている者はいないか?」
2人がお互い顔を見合わせていると、後ろからこんな声が聞こえてきた。
「何?イェスタだって?」
その声を聞いた全員が声がした方を見ると、1人の男が姿を現した。
その男はシーグフリードに近づくと、顔を見るなりこう言った。
「お前達、イェスタを知ってるのか?」
「ああ、エストのイェスタのところから来たんだ」
シーグフリードが男を見ながら答えると、男はシーグフリードの隣にいるアルマスとホーパスを見た。
「・・・・お前達がそうか。イェスタからさっき連絡を受けたところだ。今からアジトに案内する」
しばらくして3人は地下のアジトに案内された。
中では多くの男達があちこち動き回っている。
「ここがアジトか?ここに村のみんなが集まっているのか」
シーグフリードが辺りにいる男達を見ていると、前にいる男が後ろを振り返りながら答えた。
「ここはアジトのひとつだ。他にも同じようなアジトがある」
「さっきテントを見たが、テントに住んでる人もいるのか?」
「あれはカモフラージュだ。攻撃されてもいいようにわざとテントを張ってる。誰もいない」
「この辺りまで攻撃されたのか?」
「ここはまだ1度くらいしか攻撃を受けていない。マシな方だ。他はもっとひどい」
男が立ち止まり、他のみんなも立ち止まると、すぐ横に大きなテーブルがあった。
男はテーブルを見ながら
「エストから歩きで疲れただろう。座ってくれ。そういえば自己紹介がまだだった。私はフーゴ」
「シーグフリードです」
シーグフリードはフーゴと握手をすると、隣にいるアルマスとホーパスを見ながら続けた。
「隣にいるのがアルマス、それにホーパスです」
「よろしく」
フーゴがアルマスと握手をしていると、テーブルの上にある黒くて四角い形の機械から声が聞こえてきた。
「おい、イェスタだ。フーゴ、聞こえるか?」
「イェスタ!」
イェスタの声を聞いたシーグフリードが機械に向かって名前を呼んだ。
「その声は、シーグフリードか!」
イェスタが嬉しそうな声を上げた「もう着いたのか?そろそろ着く頃だとは思っていたが」
「さっき着いたばかりだ。近くにフーゴもいる。フーゴに何か用なのか?」
「ああ・・・・お前の声を聞いたからもう用済みだ。お前が無事に着いたかどうか確認したかったんだ」
「用済みだって?それはひどいな」
フーゴが割り込んでくると、イェスタの笑い声が聞こえてきた。
「まあ、無事に着いたのを確認できてよかった。あとは頼んだぞフーゴ」
「ああ。また何かあったら連絡してくれ。イェスタ」
機械からブツっという音が聞こえ、何もいわなくなると、ようやくみんながテーブルについた。
フーゴがシーグフリードの向かい側に座ると、シーグフリードが聞いた。
「いつもこの無線でやりとりしてるのか?」
「ああ、無線から情報を取ってる。敵の情報も含めて」とフーゴ
「それで、今どんな状況なんだ?」
「この村は1度攻撃を受けたが、ほとんど被害はない。他の村と比べたらマシな方だ」
「でもここには男しかいないようだが、子供や女性はどこにいるんだ?」
「ああ。しばらくどうしようか考えていたが、最近というか・・・・突然高い塔が現れた。とりあえずそこに避難させている」
「な、何だって?」
塔と聞いたシーグフリードは思わず戸惑った。
シーグフリードの反応にフーゴは平然と聞いた。
「塔の事を知っているのか?」
「塔を探しているんだ。その塔はどこにある?行ったことはあるのか?」
「オレは行った事はないが、村長が最近行ったと聞いている。塔に行った方が安全だと子供と妻を連れて行ったと」
「今ここに村長はいるのか?」
「別の部屋にいる。案内しよう」
フーゴはシーグフリード達をある部屋に連れて行った。
中に入ると奥に1人、机の側に座っている男の姿が見える。
「村長、あの塔について聞きたいことがあるというので連れてきました」
フーゴが男に声をかけると、男はフーゴを見た。
「ああ、分かった。あとは大丈夫だ。忙しいなら席を外してもいいよ」
「あ、はい・・・・・いえ、それほど忙しくはないので、このままいます」
「村長のヘルマンです」
ヘルマンがフーゴからシーグフリードに視線を移すと、挨拶をした。
「シーグフリードです」
シーグフリードが頭を下げると、ヘルマンは辺りを見回しながら
「とりあえず、そこにある椅子にかけてください。塔について聞きたいことがあると?」
「はい」シーグフリードが椅子に座ると、ヘルマンに聞いた。
「塔に行ったことがあると聞いたのですが、ここからどのくらいのところにあるんですか?」
「ここからはかなり離れているな。この先に大きな丘がある。その丘の中腹に塔がある」
「離れているって・・・・・ここからどのくらいでその塔に着く?」
「半日もかからないと思うが、かなり歩く。丘の中腹はほとんど敵はいない。今のところ安全だと思って村の子供達や女性を
塔に避難させている」
「塔に入った子供や女性を見に行ったことはあるのか?」
「塔を見たのはつい最近だ。自分の子供と妻を塔に連れて行ったのは2日前、それ以降は敵の動向もあって見に行っていない」
「・・・・・・」
「それに、塔に行けば安全だからと塔に行くように勧められたんだ」
「行くように勧められた・・・・・?誰にですか?」
「確か、塔から来た男だったな・・・・・名前は聞いたが、よく覚えていない」
ヘルマンはフーゴを見ると、フーゴは戸惑いながら答えた。
「私はその男の姿は見てないです。その時私は外にいた時間だったかもしれない」
「そうか・・・・・・」
塔から来た男。
もしかしたらシーグヴァルドが・・・・・・・?
いや、あいつはそんなことをする男じゃない。
でも、塔のためだったら・・・・・・。
シーグフリードは塔から来た男はシーグヴァルドではないかと疑い出した。
一方、森を抜けてきた数人もの子供や女性達がある場所に向かって歩いていた。
それらはひとつの列になり、それは数メートル先にある丘へと続いている。
丘の中腹には大きな塔があり、みんなそこへ向かって歩いている。
その塔の裏側で、1人の男が次々と塔に入って行く女性や子供達の姿を見ていた。
黙ったまま見つめていると、どこからか声が聞こえてきた。
「こんなところにいたのか、シーグヴァルド」
シーグヴァルドが声がした方を向くと、数メートル先の部屋に1人の大柄で太っている男性の姿があった。
「一体どういうつもりだ?いきなり大勢の女子供をこの塔に入れるなんて」
シーグヴァルドが男性に向かって聞いた。
すると男性は塔に入って来る人々を見ながら微笑んだ。
「次々と人が入ってきてる。なかなかいい感じだ」
「どういうつもりだ?と聞いてるんだ。質問に答えろ」
「まあ、そんなにカリカリするな」男性はシーグヴァルドを見ると、なだめるように何度もうなづいた。
「こんなに急に人を大勢入れて大丈夫なのかと聞いてるんだ」
「そんな事を心配しているのか。大丈夫。この塔は無限だ」
「何・・・・・?無限だって?」
「言葉の通りだ。この塔は無限だ。いくら人が入っても大丈夫。人が入る場所はいくらでもある」
男性は余裕の表情でシーグヴァルドに近づくと、シーグヴァルドは男性の言っている事が理解できないのか
男性を見ながらも何も言えず、黙っている。
シーグヴァルドが黙っていると男性はさらにこんな事を言った。
「それにこの人達は塔にとって大きな力にもなる。今のうちに大勢の人達を入れられるだけ入れておくんだ」
「・・・・・それは一体どういうことだ?」
シーグヴァルドが聞くが、男性は謎めいた微笑みを見せるだけだった。
ヘルマンとの話を終え、シーグフリード達は元の部屋に戻ってきた。
「ところで、あの塔にはやっぱり行くのか?」
シーグフリードが椅子に座ると、向かい側にいるフーゴが聞いた。
シーグフリードは椅子に座るフーゴを見ながら
「ああ。場所は離れているらしいが塔に行く」
「理由は?どうしてあの塔に行くんだ?ずっと探していたようだが」
「・・・ここでも理由を話さなきゃいけないのか。イェスタにも理由を話したが」
シーグフリードは面倒くさそうな口調で答えたが、軽いため息をついた後話を始めた。
シーグフリードがひと通り話し終えると、しばらくしてフーゴが静かにうなづいた。
「・・・・・弟があの塔にいる。その弟を村に連れ戻したいということか」
「そうだ」とシーグフリード
「話は分かったが・・・・・弟本人はどう思ってるんだ?本人から何か聞いてないのか」
それを聞いたシーグフリードは戸惑いながら
「本人から?つまり・・・・・シーグヴァルドがどうしたいのかってことを聞いているのかということか?」
「ああ。その通りだ」フーゴは深くうなづきながら続けてこう言った。
「いくら村に連れ戻すと言っても、本人が戻りたくないのなら、無理やり連れ戻すことになる」
「・・・・今、あの塔にいるのは見た目は弟だが、中身は全く別物だと思っている」
「それはどういう・・・・・・」
「つまり中身は強い権力に取りつかれた亡霊だ。弟じゃない。あの塔に行った弟は全く別人になってしまった。
でも、今のうちに連れ戻せば元に戻るかもしれない。オレのことを完全に忘れてしまわないうちに連れ戻したいんだ。
たとえ弟がオレを憎んでいたとしても、オレは弟は唯一の兄弟だと思っている」
フーゴはしばらく黙っていたが、静かに口を開いた。
「・・・・分かった。難しいだろうが、オレに出来る範囲であれば手伝う」
「ありがとう」とシーグフリード
「ねえ、ずっと話を聞いてて思ったんだけど」
そこにホーパスが2人の間に入ってきた「どうして戦争をしているの?何が原因でこうなってるの?」
「それは・・・・・」
シーグフリードがフーゴを見るが、フーゴも分からないのか戸惑いながらも黙っている。
誰も何も言わず、辺りは沈黙に包まれてしまった。
しばらくしてホーパスが再び口を開いた。
「フーゴさんでも分からないの?」
「・・・・正直、何が原因で戦っているのか、何のためにやっているのか分からない」
フーゴが重い口を開くと、それを聞いたホーパスは驚いた。
「え?本当に分からないの?」
「ここにいる我々はただ、上の指示に従って動いているだけだ。本当はここにいる全員、戦争は望んではいない」
「じゃ、どうして・・・・・」
「この村を守るためだ」
突然割り込んで来た声に、みんなが声がした方を見ると、そこにはヘルマンがいた。
「村長・・・・・」
フーゴがヘルマンを見ていると、ヘルマンはフーゴの隣に移動した。
「村の平和を守るのが村長としての仕事だ。村の平和を脅かす者にはすぐに出て行ってもらう」
「それはそうですが・・・村長、そもそもの原因はご存じなのですか?」
「それは分からない」ヘルマンは首を横に振るとこう続けた。
「我々にできることはこの村を守ることだ。できれば死人が1人も出ずにすぐにも終わって欲しい」
「そうですね・・・・」
「誰も戦争の原因を知らないのか」
シーグフリードがそう言った後、ため息をついて、さらにこんな事を言った。
「あくまでも噂で聞いた話だが、ヴェストで保有していたあるものがなくなった。何者かに盗まれたという噂だが・・・・・
その犯人をこのノールでかくまっているという噂が流れ、ノール側がそれに反発して戦争になっていると聞いている」
シーグフリードの話の後、しばらく沈黙が続いたが、ヘルマンが口を開いた。
「・・・・・そんな話は初めて聞いた。噂程度で聞いた話はいくつかあるが」
「私もです。そんな話があったとは」
フーゴがヘルマンからシーグフリードに視線を移した「その話はどこから聞いたんだ?」
「この旅に出る前から聞いていた。他にも違う話は聞いてはいるが」とシーグフリード
「旅に出る前から?」
「ああ、オレはセーデーから来た。あの塔を探しにまずエストに行き、次にここに来たんだ」
「ねえ、ヴェストで何がなくなったの?」
ホーパスがシーグフリードの前まで移動してくると、シーグフリードはホーパスを見ながら
「確か、ヴェストで出た宝石がなくなったと聞いた。月の光のようなきれいな光を放つ宝石だと・・・・」
「宝石か・・・・・そんな話聞いたことがないな」とフーゴ
「フーゴさんはどんな話を聞いてるんですか?」とアルマス
「これも噂話程度だが、ノールに移り住んでいるヴェストの住人が迫害を受けていると聞いた。この村にはヴェストからの移民はいないが
他の村にはヴェストからの移民はいる。でも実際に迫害を受けているなんて話は聞いたことがない」
「ああ、全くその話はデタラメだ。ヴェストや他からの移民に対して迫害なんてしていないと思うが、それを真に受けてノールに戦争を
仕掛けてきたのかもしれない」とヘルマン
「みんな噂話程度だ。どれが本当の話なのかは当事者じゃなければ分からない」
「みんな噂話に振り回されてるって訳か・・・・・」
シーグフリードはやれやれという感じでため息をついた。
フーゴが隣にいるヘルマンを見た。
「ところで村長、どうしてここに?」
「え、あ、ああ・・・・」ヘルマンは少し戸惑いながらもフーゴを見た「ちょっと外に出ようと思ったら話が聞こえてきてな」
「何か用があって来たのかと思ってました」
「ああ・・・そう言えば思い出した」ヘルマンはシーグフリードに視線を移した「さっき塔の事を聞いていたが、行くつもりなのか?」
「行くつもりです。場所が分かればすぐにでも」とシーグフリード
「そうか」
シーグフリードの答えにヘルマンは少し考えながらも次にこう言った。
「・・・それなら明日、塔の場所を知っている者と一緒に塔に行ってみるといい」
「あ・・・・・ありがとうございます」
シーグフリードがヘルマンに頭を下げて礼を言うと、フーゴがヘルマンに聞いた。
「村長、明日私もよければ一緒に塔に行きたいのですが」
「明日、予定が何もなければいいよ」とヘルマン
「ありがとうございます」
「さて・・・・少し外に出て一服してくる」
ヘルマンがその場を後にすると、フーゴはヘルマンを見送るようにヘルマンの後ろ姿を見ているのだった。
その夜。
地下からコツコツと何かが上がって来る音が聞こえてきた。
地下のアジトの入口からホーパスが出てくると、まず誰かいないかと辺りを見回している。
入口前周辺を軽くひと回りしてくると、入口の方を向いて声をかけた。
「出てきていいよ。誰もいないみたい」
再びコツコツという音がすると、アルマスが階段を上がって外に出た。
アルマスが空を見上げると、雲ひとつなく星空が無数に輝いているのが見える。
「今日は星がきれいだね」
ホーパスが空を見ているアルマスの隣に来ると、アルマスは星空を見ながらうなづいた。
「うん。こうして星を見るのはなんだか久しぶりのような気がする」
「そうか。エストにいた時はあまり星が出てなかったんだっけ」
「雲が出てて、星が雲に隠れてたから見えなかったんじゃないかな・・・・・・」
アルマスがそう言いながらふと右を向くと、遠くで動いている黒い影が見えた。
「どうしたの?アルマス」
ずっと右側を見ているアルマスにホーパスが気がついた。
「・・・・・向こうで何かが動いてる。何だろう」
アルマスの言葉にホーパスも右側を見ると、しばらくして何か分かったのかあっという声を上げた。
「あ、あれは・・・・シーグフリードさんだよ。何かやってるみたいだけど」
「こんな時間に?何をしてるんだろう」
「ここからだと遠くて分からないから、近くに行ってみようよ」
ホーパスが移動を始めると、アルマスも後をついて行った。
暗い林の中、シーグフリードは1人で剣を振り続けていた。
両手で剣を上に構え、静かに下に降ろした途端左右に振り回したりしている。
そんなシーグフリードの姿を数メートル先で2人は見ていた。
「いつもああやって剣の練習をしてるのかな」
ホーパスが小声で隣で見ているアルマスに言うと、アルマスはシーグフリードを見ながら
「・・・・分からない。でも明日塔に行くから、それに備えてやっているのかも」
「え?塔に行くだけなのに?」
「もしかしたら塔に行く途中で敵に遭うかもしれないだろう?それに備えてかもしれない」
「そうか。もしそうなったらアルマスはどうするの?」
ホーパスがアルマスの方を向くと、アルマスはふと自分両手を前に出し、手を見つめた。
もし敵が現れたら、僕は戦うことになるんだろうか。
でも僕は、自分の持っている力を人に向けて使いたくない。
でも、そうしないと自分の命が危ないとしたら・・・・・・。
「・・・・・もしそうなったら、自分も戦うかもしれない。なるべくならそうしたくはないけど」
数メートル先で剣を振っているシーグフリードを見ながら、アルマスは静かに答えるのだった。
次の日の朝。
雲ひとつない青空が広がる中、シーグフリード達3人が外に上がってきた。
その後を1人の男が追うように外に出ると、その後にヘルマンが続いて出てきた。
「あれ?フーゴさんは?」
ホーパスがフーゴの姿を探してキョロキョロしている。
「悪いが、フーゴは行けなくなった。敵に動きがあってな。敵の動向を探ることになった」とヘルマン
「そうなんだ。忙しくなったんだね」
「ここにいるエリオットが塔まで案内する。エリオットと一緒に行くといい」
「よろしくお願いします」
ヘルマンの隣にいるエリオットが3人に向かって挨拶すると、アルマスとホーパスは頭を下げた。
シーグフリードはエリオットを見て
「もしかしたら途中で敵に遭うかもしれないが、大丈夫なのか?」
「大丈夫です。一度塔には行ってますので・・・・・塔へ行く道は分かっています」とエリオット
「もしかしたら敵に遭うかもしれない。いざという時は大丈夫なのかと聞いているんだ」
「それは大丈夫だ」ヘルマンが話に入ってきた「その男はいつも小型の銃を持っている。いざという時のためにね」
「そうか・・・・・」
「ところで、塔に行ったら何をするつもりなんですか?」
「それは・・・・・塔に着いてから考える」
「そうですか・・・・・じゃ私はこれで。夜までには戻ってきてください。くれぐれも気をつけて」
ヘルマンはそう言うと、エリオットの方を向いた。
「それじゃ、あとは頼んだよ、エリオット」
エリオットを先頭に、4人はアジトを出発した。
林の中に入り、しばらく歩いていると風が吹いてきて周辺の木々の葉を揺らしざわざわと音を立てている。
「さっきまで吹いてなかったのに、風が出てきたね」
アルマスの隣でホーパスが風で揺れている木々の葉を見ている。
「うん。それにとても静かだ。なんだか薄気味が悪いくらい」
アルマスは前を向いたまま答えると、少し前を歩いているシーグフリードも感じているのか
「ああ、風の音以外はシンと静まっている。鳥の声もしない」
「そういえばそうだね。小鳥がいてもよさそうなのに」とホーパス
「エリオット、しばらく道はまっすぐなのか?」
シーグフリードが前を歩いているエリオットに聞くと、エリオットが後ろを振り返った。
「もう少しすれば林を抜けます。林を抜けるまではこのまままっすぐです」
しばらくして4人は林を抜けると、丘へと向かって歩いていた。
「丘はどこだ?このまままっすぐでいいのか?」
シーグフリードが辺りを見回しながら歩いていると、前を歩いているエリオットが答えた。
「もう少し行けば見えてきます」
「しかし、よくどんどんと前に移動していくな。こんな開けたところで」
「この辺りは視界が広くて、隠れるところがないので・・・・襲われたことはないです」
「それはそうだが、どこに隠れているのか分からない。気をつけた方がいいぞ」
「分かっています」
エリオットがそのまま前へと歩いて行くのを、あとの3人は辺りを見回しながら歩いていた。
4人の目の前に大きな丘が見えてきた。
「あれが塔のある丘です。まだ塔の姿が見えないですが、このまま行けば見えてきます」
「あれがそうなのか・・・・・」
エリオットの言葉を受け、シーグフリードが目の前にある丘を見ている。
「塔は丘の頂上付近にあるのか?」
シーグフリードがエリオットに聞くと、エリオットは首を振りながら
「頂上まではいかないです。中腹を過ぎた辺りだったと思います」
「そうなのか」
「あと少しです。行きましょうか」
エリオットがそう言って前に歩き出すと、あとの3人も後に続いた。
エリオットが登坂に差し掛かった時だった。
突然どこかから銃声が聞こえた途端、エリオットが撃たれ前に倒れ込んだのだ。
「エリオット!」
シーグフリードが倒れたエリオットに駆け寄り、エリオットの身体を見た。
あとの2人もエリオットのところに駆け込んで見ると、左肩を撃たれたのか服が赤い血で染まっている。
「誰だ!」
シーグフリードが辺りを見回しながら叫ぶと、ガサガサと木々の葉が揺れる音が聞こえてきた。
がっしりとした体格の数人の男達が銃や剣を持ち、4人の前に現れたのだ。
「お前達はヴェストの者か?」
シーグフリードが男達を見ながらゆっくりと右腰に右手を当てた。
しかし男達は何も答えず、シーグフリードの様子を伺っている。
シーグフリードはゆっくりと剣を抜き、男達に向けるともう一度聞いた。
「黙ってないで答えろ。もう一度聞く。お前達はヴェストの者か?」
「・・・・お前に答える必要はない。この後すぐお前を倒すからな」
1人の男が答えると、シーグフリードは剣を男達に向けたまま
「何だと?オレを誰だと知ってて言ってるのか?」
「誰かは知らないが、ここを通すわけにはいかん」
「何者かは知らないが、無理やりにでもここを通させてもらう」
「何だと・・・・・!」
「アルマス、ホーパスは逃げろ」
「で、でも・・・・・」
シーグフリードの後ろでアルマスが戸惑っていると、シーグフリードは大声を上げた。
「いいから逃げろ!早く!」
「・・・・・」
アルマスとホーパスが戸惑いながらも後ろを向いて逃げ出した。
シーグフリードは剣を構えながら、男達を1人1人見ていた。
中央の1人は銃を持ってる。いつ撃ってくるか厄介だな。
あとの2人は剣か・・・・・・・。
シーグフリードがどうするか考えていると、向かって右端の男が剣を上に上げながらシーグフリードに向かってきた。
それを見たシーグフリードが素早く左に避けると、続いて左端にいる男もシーグフリードに向かってきた。
シーグフリードはその男の攻撃を避けながら、剣を男に向けて攻撃を始めた。
何度か剣と剣がぶつかり、お互いの動きを見ようと距離を取ると、シーグフリードは剣を向けている男の背後で
銃をどこかに向けている男の姿を見た。
あれは・・・・・!
もしかしたらアルマスを狙っているのか?
それを見たシーグフリードは咄嗟に剣を左手に持ち替え、右手を右腰にやると、銃を構えている男に何かを投げた。
「うっ・・・・・・・!」
男の苦しそうな声と同時に、銃口が上に向き、空に向かって銃声が鳴り響いた。
男がそのままうつ伏せに倒れると、背中には細長いナイフが刺さっている。
一方、銃声が聞こえた途端、アルマスとホーパスの動きが止まった。
「今、銃の音が聞こえたような・・・・・・・」
アルマスがシーグフリード達がいる方を見ていると、ホーパスも同じ方向を見ている。
「シーグフリードさん、大丈夫かな」
「・・・・・」
アルマスが不安な表情で見ていると、ホーパスは様子を見ようと上へと移動していく。
そしてシーグフリードの姿を確認できたのか、すぐにアルマスのところに戻ってきた。
「大丈夫だよ。シーグフリードさんじゃなくて、敵が倒れたみたい」
「よかった・・・・・」
「でもここにいると危ないから、林まで逃げよう」
アルマスがうなづくと、2人は再び林に向かって走り出した。
一方、シーグフリードの前に男が倒れると、残った1人の男を見た。
「お前が最後か・・・・・どうした?かかってこないのか?」
シーグフリードが倒れている男の後ろで剣を向けている男に聞いた。
男は倒れている2人を見ながら
「く、くそ・・・・・・一気に2人も倒しやがって」と剣をシーグフリードに向けている。
「何だ?急に弱気になったな。さっきまでの勢いはどこにいったんだ?」
「大人しくしていればいい気になりやがって・・・・」
男はシーグフリードを睨みつけると、剣を高く振り上げた。
「お前はオレが倒してやる!2人の仇だ!」
大声を上げながら男がシーグフリードに向かってきた。
シーグフリードは向かってくる男の動きを読み、素早く右に動いた。
そして男に向かって大きく剣を振ると、剣を右腰に戻した。
男はゆっくりと倒れると、そのまま動かなくなった。
シーグフリードは倒れている3人の男を確認すると、アルマス達が逃げた方向へと歩き出した。
一方、アルマスとホーパスは再び林の中に入った。
「こ・・・・ここまで来れば大丈夫かな・・・・?」
ホーパスが止まって、息を整えながら後ろを振り返った。
アルマスも息を整えると、後ろを振り返り
「・・・・誰も追って来てない。たぶん大丈夫だと思う・・・・」
「でも、シーグフリードさん大丈夫かな。3人を相手に戦うなんて」
「1人は銃を持ってた。でも大丈夫だと思う」
「エリオットさん、もう助からないのかな・・・・・・」
「分からない。シーグフリードさんに言われたまま逃げて来ちゃったけど」
「ただ塔に行くだけなのに。それだけで殺されるなんてひどいよ」
「まだ死んだかどうかは分からないよ。シーグフリードさんが戻ってくるのを待つしか・・・・!」
アルマスがそう言い終えようとした時、突然目の前が真っ暗になった。
「アルマス!?」
ホーパスがアルマスの方を向くと、茶色い麻袋を被せられたアルマスの姿があった。
不意を突かれたアルマスは麻袋を取ろうと両手で麻袋を掴むが、突然わき腹に激痛が走った。
「うっ・・・・・」
アルマスの動きが止まり、その場にばったりと倒れると、ホーパスは麻袋の後ろに2人の男の姿を見た。
「誰だ!アルマスを後ろから襲うなんて」
ホーパスが2人の男に向かって叫ぶが、男達はホーパスの姿が見えないのか平然としている。
男達は黙ったままお互い顔を見合わせ、うなづくと1人の男が倒れているアルマスをそのまま麻袋に入れてしまった。
そしてその麻袋をひょいと肩にかつぐと、2人の男は足早にその場を離れて行った。
「アルマス!」
ホーパスがその後を追いかけようとすると、後ろから声が聞こえてきた。
「ホーパス!」
「あ、シーグフリードさん!」
ホーパスが走ってくるシーグフリードの姿を見た途端叫んだ「早く!早く来て!アルマスが大変なんだ!」
「アルマスが?どうかしたのか!」
シーグフリードがホーパスの元に走ってくると、ホーパスは遠ざかっていく2人の男の方を見ながら
「アルマスが男達にさらわれたんだ!」
「何だって・・・・・!それで、アルマスをさらった犯人はどこに行ったんだ?」
「もうかなり遠くに行っちゃったけど、向こうに行ってるのは分かってる」
「なんて事だ・・・・・!ホーパス、犯人の後を追えるか?」
「うん、後を追ってみるよ!奴ら、僕には気がついてなかったみたいだから」
「分かった。オレはエリオットを連れてアジトに戻る。場所が分かったらアジトに戻ってくるんだ」
「分かった!」
ホーパスはその場から姿を消した。
オレを襲ってきた奴らと、アルマスをさらった奴らはヴェストの者なのか?
それとも・・・・・・。
どちらにしてもこんな目に遭わせるとは・・・・・・!
シーグフリードはアルマスが連れ去られた方向を見ながら怒りで体を震わすのだった。