山賊のアジト


「何だって、アルマスが何者かに連れ去られたって?」
フーゴの声が部屋中に響き渡った。
「そうだ」シーグフリードがうなづくと、向かい側にいるヘルマンに聞いた。
「もう少しで塔に着くところで急に襲われた。ヴェストの者がこの辺りにまで来ているのか?」
「いいや、ヴェストの者がこの近くに来てるという情報はない」
フーゴが首を振ると、ヘルマンもそれを受けて
「今、敵はこの辺りにはいない。攻撃されたっていう情報も来てない」
「なら、一体誰に・・・・・・」とシーグフリード
「塔の近くであれば、もしかしたら山賊の仕業かもしれない。あの辺りは山賊が住んでいるエリアだ」
「山賊?山賊だって?」
シーグフリードが思わず聞き返すと、フーゴはヘルマンの代わりに答えた。
「山賊はよそ者が来ると、金品や食物を狙って襲ってくることがある。下手に抵抗すると殺される」
「でも、最近はそんなひどいことはしなくはなってきたがね」
ヘルマンはそう言った後、少し離れた場所でベッドで横になっているエリオットを見た。
エリオットは右肩を包帯で巻かれた状態で眠っている。



「・・・・しかし、どうしてエリオットが襲われたのか分からないな」
エリオットを見ながら頭を傾げるヘルマン
「オレ達が一緒にいたからか?」とシーグフリード
「いいや、そんなことはない」ヘルマンは首を振った「今までも同じようなことはあったが襲われたことはなかった」
「それはどういう・・・・・・」
「あの辺りを我々が歩く時は我々と一緒にいる者を襲わないように話をしてある。山賊とはそれで同意しているんだ」
「なら、一体どうしてアルマスは連れ去られたんだ?」
「何か理由があるんじゃないかとは思うが・・・・・・」
「でも、エリオットが無事でよかった」
ヘルマンが考えているとフーゴがエリオットを見ながら言った。
「ああ。しばらく動かなかったからもしかしたらと思ったが・・・・ここに戻ろうとしてエリオットの体を動かそうとしたら
 目が開いたんだ。右肩の負傷だけで済んだが・・・・・戻ってくる途中でフーゴが馬で来てくれて助かった」とシーグフリード
「右肩の負傷で済んだが、しばらくは安静が必要だな」とヘルマン



「ところで、その山賊は・・・・山賊がいる場所は分かるのか?」
シーグフリードが2人に聞くと、フーゴはなぜか複雑な表情を見せた。
「分からなくもないが・・・・・居場所というか、アジトがいくつもあって、その中を常に移動してるんだ」
「何だって・・・・・?」
「またそのエリアの範囲がとても広くてね。話をしに行く時は必ず向こうから場所を指定してくるんだ」とヘルマン
「エリア内のどこにいるのか、よく分からないってことか・・・・・」
シーグフリードは天井を見上げながらため息をついた。



なら、ホーパスが戻ってくるのを待つしかないな。
でも一体どうしてアルマスが・・・・・・。



シーグフリードはそう考えながらも、ホーパスが戻ってくるのを待つしかなかった。



一方、薄暗い部屋の奥でアルマスが目を覚ました。



ここは・・・・・?



アルマスは辺りを見回すが、部屋には誰もいない。
どこかに移動しようと体を動かそうとするが、体がロープで縛られていて動けない。
アルマスは椅子に座った状態で、体と椅子をロープで縛られている。



そういえば、後ろから袋を被せられて襲われたんだった。
逃げようとしたらそこから記憶がなくなって・・・・・・。
とにかくここから逃げないとまずい。



アルマスは後ろを向くと、自分の両腕が後ろでロープで拘束されているのを確認した。
前を向いて、下を見ると、両脚も椅子の両脚にロープで拘束されている。



両手のロープを炎で燃やせば、体と足のロープを手で解けば逃げられるかもしれない。
でも、逃げると言ってもどこへ逃げればいいんだろう?



アルマスがどうするか考えていると、目の前にホーパスが姿を現した。
「アルマス!」



「ホーパス!」
ホーパスの姿を見た途端、アルマスは思わず声を上げた。
「あっ・・・・・・・しまった」
大きな声を出し、まずいと思ったアルマスは誰か来ないか辺りを見回している。
ホーパスも辺りを見回しているが、誰かが来る気配はない。
「誰も来ないみたい・・・・・大丈夫?アルマス」
ホーパスが心配そうな表情でアルマスを見ている。
「大丈夫だよ。でも・・・・・ここはどこだろう?」
アルマスはホーパスを見ながらも、誰か来ないか辺りを見回している。
「よく分からないけど、林の奥の方だよ。アルマスの後をずっと追ってきたんだ」
「これからどうなるんだろう。早くここから逃げないとまずいかもしれない」
「僕、今からシーグフリードさんを呼んでくるよ」
「え・・・・シーグフリードさんを?」
「約束したんだ。場所が分かったらシーグフリードさんに教えるって」
「シーグフリードさんは今はどこにいるか分かるの?」
「たぶんあのアジトに戻ってると思う。アルマスはここにいて。すぐに連れて来るから」
「ホーパス、大丈夫?この場所がどこにあるのかって・・・・・・・」
「アルマスがさらわれたところからずっと後をついてきたから大丈夫だよ。すぐに戻ってくるから」
「ホーパス!待って・・・・・・」
アルマスが何かを言おうとしたが、ホーパスは姿を消してしまった後だった。



ホーパスが道を分かってるんだったら、今ロープを切って一緒に逃げれたかもしれない。
シーグフリードさんが来るまで待つと言っても、その間どうなるか分からない。
今逃げられたとしても、アジトまで戻る道が分からない。
どうすれば・・・・・・・・。



アルマスが考えを巡らせていると、遠くから足音が聞こえてきた。
だんだん大きくなってくる音に、アルマスはこれからどうなるんだろうという恐怖と不安でだんだん緊張してきた。
そして音が止まると、男の声が聞こえてきた。
「目が覚めたか?」



アルマスが顔を上げると、目の前に2人の男がいた。
アルマスが何も言わずにいると、1人の男がアルマスを見てこんな事を言った。
「お腹が空いてるだろう?食べ物でも持ってこようか」
「え・・・・・?」
思っていなかった言葉にアルマスが戸惑っていると、もう1人の男がアルマスに聞いた。
「そろそろ昼になる。食事の時間だ。嫌いな食べ物はあるか?」
「・・・・いいえ」
「そうか、ならそのまま待っていればいい。さっきの男が取りに行ったから」
「・・・・・・」
アルマスは男達の意外な対応に戸惑い、何も言えず黙ってしまった。



しばらくすると男が食事を持って戻ってきた。
「食事を持ってきたぞ。遠慮しないで食べるんだ」
男は食べ物が乗っているトレイをアルマスの膝の上に乗せた。
アルマスが食事を見ると、皿には丸いパンが2つほど乗っており、その隣にはスープと肉のようなものがある。
アルマスが黙ったまま食事を見ていると、側にいる男が気がついた。
「そういえば、手を後ろに縛られたままだったな。片方だけほどいてやろう」



男がロープをほどき、アルマスの右腕だけ動くようにした。
「これで食事がとれるだろう?冷めないうちに食べるんだ」
しかしアルマスは食事に手を伸ばさなかった。



ここでこの食べ物を食べたら、もしかしたら何か毒でも入っているかもしれない。
僕をさらっておいて、いきなり食事を出すなんて、何かあるはずだ。



男達の行動にアルマスは何かあるだろうと不安に思った。



黙ったまま何も動きを見せないアルマスに、男達は戸惑った。
「どうした?お腹空いてないのか?」
「・・・・・・」
黙っているアルマスに男達はお互い顔を見合わせたが、1人があっという声を上げた。
「あ、そうか・・・・お前、この食事に何か入ってるんじゃないかと思っているな?」
「・・・・・・」
「大丈夫だ、毒も何も入ってない。このパンにも何も入ってないぞ」
男が皿に乗っているパンを取り、アルマスの前でパンをちぎるとそのまま口に入れた。



しばらくして男がパンをひとつ食べてしまうとアルマスを見た。
「パンを1個食べてしまったな・・・・でも何も起こらなかっただろう?」
アルマスはそれでも疑いながら男を見た。
「どうして・・・・・僕をここにさらっておきながら、こんなことをするんですか」
「さらったのは別の男だ。オレ達は何も関係ない。ただ・・・・・」
「ただ?」
「まさかこんなところにあの教会の信者がいるとは思わなかった」
「え・・・・信者?」
「お前、エストの教会の信者なんだろう?そのペンダントがその証だ」
男達に言われたアルマスは思わず首にかけているペンダントを見た。



「このペンダントがエストの教会のってどうして・・・・・」とアルマス
「オレ達、過去にエストのあの教会の人達に助けられたことがあるんだ。ちょっとした不注意で持っていたものが全部盗まれた。
 全くお金がないオレ達を教会に入れて食事と泊まるところを提供してもらったんだ」
「だからその教会には感謝してるんだ。信者には何も危害を加えないことにしてる」
「お前をさらってきた男達にも話したら、お詫びに食事を出そうということになったんだ。だから冷めないうちに食べてくれ」
「それで足りなかったらまた持ってくるから、遠慮しないで食べてくれ」



2人の男の話を聞いたアルマスはほっとした。



どうしてここにさらわれたのかは分からないけど、このペンダントをつけておいてよかった・・・・。
つけてなかったらどうなっていたか分からない。



アルマスは食事に手をつけようと、皿の上にあるパンに右手を伸ばした。



一方、ホーパスがアジトに戻り、ホーパスから話を聞いたシーグフリードはフーゴと一緒に馬に乗ってアジトを出発した。
ホーパスが先頭になりアルマスがいるところへと向かっている。
「山賊のアジトはどのくらいで着くんだ?」とシーグフリード
「山賊のアジトはそんなにかからないが、場所が広い・・・・・アルマスを見つけるまで時間がかかるかもしれない」
前にいるホーパスを見ながらフーゴが答えると、シーグフリードはホーパスに目を移した。
「ホーパス、アルマスがいる場所は分かってるんだろうな」
「うん、大丈夫だよ!」
ホーパスはシーグフリードが乗っている馬の頭付近を動き回りながら答えた。
「それより早く行かないと、アルマスが山賊に殺されるかもしれない」
「分かってる。お前の道案内が頼りだ。頼むぞホーパス」
「うん!」
ホーパスは急ぐように前に出ると、2頭の馬はホーパスの後を追うのだった。



食事を終え、男達が部屋を出て行ってしまうと、アルマスはこれからどうするか考えていた。



逃げてすぐにシーグフリードさんに会えるといいけど、その前にあの男達に捕まるかもしれない。
それならホーパスが言った通り、ここでシーグフリードさんが来るのを待つしかない。
でも、その間にまたあの男達が来たら・・・・・・。



どうするか迷っていると、どこかから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ねえ、どうしてあの力を使わないの?」



その声を聞いた途端、アルマスは辺りを見回した。
エストでアルマスが球体に閉じ込められた時に聞いた女の子の声と同じ声だったからだった。
「君は・・・・・!?あの時の声と同じ声だ。どこにいるの?」
しかし辺りは誰の姿も見えず、聞こえてきたのは声だけだった。
「炎の力があるのに、どうしてここから逃げないの?」
「それは・・・・・僕もどうすればいいのか迷ってるんだ」
「どうして迷っているの?」
「それは・・・・・」
アルマスがそう言いかけると、誰かが来る気配を感じたのか、部屋の入口に視線を移した。
小さな足音が近づいてくるのが聞こえている。
「誰か来る・・・・・・」
アルマスが女の子に話しかけるが、女の子の声は聞こえてこなかった。



間もなく1人の体格のいい男が部屋に入ってきた。
さっきの男達とは全く違う男に、アルマスは急に緊張して思わず顔をこわばらせた。
男がアルマスを見た途端、アルマスは思わずこう訴えた。
「ど、どうして僕をここに連れてきたんだ。いきなり僕をさらってきて」
すると意外にも男はアルマスに向かって頭を下げた。
「・・・・いきなりこんなところに連れてきて申し訳なかった」
「え・・・・・・?」
男の様子にアルマスは戸惑った。
男は顔を上げるとさらにアルマスに言った。
「許してくれ。これには理由があるんだ」
「なら、僕をすぐにここから出してくれる?」
「それはできない」
「どうして・・・・・・?」
「事情があるんだ。どうしてもお前を連れて行かなきゃいけない」
「だからどうして?理由を知りたいんだ」
「それは・・・・・・話してもまだ子供だから分からないだろう。しばらくの間はここにいてもらうしかない」
「そんな・・・・・・」



理由を話さない男にアルマスは納得がいかなかった。
アルマスは後ろで両手を縛っているロープをちらっと見ると、男はアルマスにこう言った。
「大人しくしていれば悪いようにはしない。食事も用意する。だからしばらくはここにいてくれ」
「・・・・・・」



僕をどこに連れて行くって?
これ以上、ここにいたら何をされるのか分からない。
もうここから逃げるしかない。



アルマスが両手を縛っているロープを炎で燃やそうとした時だった。
部屋にいきなり数人の男達が慌てて入ってきたのだ。
アルマスを見ていた男は数人の男達を見た。
「どうした?」
「外に馬に乗った男2人が入ってきました。こっちに向かってきています」
「何だって・・・・・・?」
「いきなり剣をこっちに向けてきて、誰かを探している様子で・・・・・・」
「・・・・・・」
「どうしますか、応戦しますか」
「待て。外に出てどういう状況か確認を・・・・・・」
男がそう言っているうちに、突然部屋にシーグフリードとフーゴが入ってきた。



「アルマス!」
アルマスがシーグフリードとフーゴの姿を見たと同時に、目の前にホーパスが現れた。
「ホーパス!2人を連れてきてくれたんだね」
アルマスがホーパスを見た途端、声を上げると、前の方でシーグフリードがアルマスを呼んだ。
「アルマス!大丈夫か!」
「大丈夫です!」
アルマスが答えると、シーグフリードは剣を男達に向けた。
「おい、どういうつもりでアルマスをさらった?答えろ」
「うっ・・・・・・・・」
男達が黙っていると、シーグフリードの隣にいるフーゴがシーグフリードをなだめた。
「アルマスが無事でよかった。とりあえずその剣をしまうんだ。話をしようじゃないか」



アルマスがようやくロープを解かれ、自由の身になった。
シーグフリードがアルマスに近づくと、アルマスの体のあちこちを見ている。
「大丈夫か?ケガはないか?」
アルマスは黙ったままうなづくと、シーグフリードは男達の方を向いた。
「山賊の長はどこにいる?どうしてこんなことをしたのか聞きたい」
「それなら、もうここにいる」
フーゴはそう言った後、体格のいい男を見た。
それを聞いたシーグフリードとアルマスもその男を見た。



アルマスは驚いていた。
さっきまで話をしていた男が山賊の長だったのだ。



フーゴは山賊の長に向かって聞いた。
「どうしてアルマスをここに連れてきたんですか?村長がとても気にされています。何か理由でも」
「・・・・・仕方がなかったんだ」
山賊の長がポツリと口に出すと、シーグフリードは思わず反応した。
「仕方がなかった?仕方がなくアルマスをさらったというのか?」
「落ち着け、シーグフリード」とフーゴ
「こうなったのはあの塔だ。あの塔がいきなりあの場所に出てこなければこんな事にはならなかったんだ」
山賊の長が理由を話し始めた。
「あの塔・・・・・塔には行ったのか?」とシーグフリード
「行った」山賊の長はうなづいた「塔から来た男に誘われたんだ。塔に行ってみないかって」
「何だって、塔から来た男?」
「どうして塔から来たって分かるんですか?」とフーゴ
「男が自分で言ったんだ。塔から来たって」
山賊の長の言葉に、シーグフリードは戸惑った。



塔から来た男・・・・シーグヴァルドなのか?
いや、シーグヴァルドは自分からそんなことをする男じゃない。
塔にもう1人、別の男がいるのか?



山賊の長は話を続けた。
「その男に誘われて、最初は数人で塔に行った。塔の中は広くて安全な場所だった。これなら子供や女達が行っても
 大丈夫だろうと思ったんだ。そこで男に聞いたんだ。「子供や女達も今度連れてきていいか」って」
「それで、子供達も塔に連れて行ったんですか?」とフーゴ
「ああ、連れて行った。女や子供達は塔に入るととても喜んで楽しそうにしていた。その時は一緒に帰ろうと思っていたが
 いつまで経っても戻ってこない。どうしたのか男に聞いたら、あとで連れて帰るから先に帰るように言われたんだ」
「・・・・・それで、戻ってきたんですか?」
「しばらく待っても戻ってこなかった。それで塔に行って連れ戻そうとした。男に会って女子供達を返せと言ったんだ。
 そうしたら別の子供を連れてきたら返してやると言われたんだ」
「それで、アルマスをさらったということですか・・・・」
山賊の長がうなづくと、シーグフリードが聞いた。
「その塔にいる男、どんな男だったんだ?」



山賊の長はしばらく考えた後
「・・・・・確か、大柄で太っていた。お腹がかなり突き出ていて動くのもゆっくりだった」
「男の名前は聞かなかったんですか?」とフーゴ
「名前は聞かなかった。ただ塔を見に行くだけだったから・・・まさかこんな事になるとは思わなかったんだ。
 一体どうすれば・・・・・・」
頭を抱える山賊の長に、フーゴはシーグフリードと顔を見合わせた。



シーグフリードは塔の男がシーグヴァルドでないと分かると、胸を撫で下ろした。
フーゴと目が合うと、シーグフリードは戸惑いながら
「・・・・それならみんなで塔に行って、連れ戻すしかないだろう」
「そうだな」フーゴはうなづくと山賊の長の方を向いた「どうします、今から行きますか?」
「今からだと急すぎる。外に出ている奴らがまだ戻ってきていない。なるべくみんなが揃った時に行きたいんだ」
山賊の長が戸惑っていると、シーグフリードがフーゴに聞いた。
「なら、明日にしよう。こっちはどうする?敵の動向もあるだろう」
「こちら側はあまり人数はいなくてもいいような・・・・・戻って村長に相談してみる」とフーゴ



その夜。
アジトに戻ってきたアルマスは部屋の一室でホーパスと一緒にいた。
「大丈夫?ケガはないみたいだけど・・・・何かひどいことされなかったの?」
ホーパスが心配そうな顔でベッドに座っているアルマスを見ている。
アルマスはそんなホーパスの顔を右手で撫でながら
「大丈夫だったよ。何かされると思ってたけど。食事も出してくれたんだ」
「え、食事が出たの?」
「うん」アルマスは首にかかっているペンダントを見た「このペンダントをつけていたからだと思う」
するとホーパスがペンダントを見ながら
「そのペンダントがどうかしたの?」
「僕がエストの教会の信者だと思ったみたい。教会の人に助けられたから信者には手を出さないって言ってた」
「そうだったんだ。そのペンダントに助けられたんだね」
「うん」
「でも、明日はあの塔に行けるね。塔の中に入れるんだ」
「うん・・・・・」
アルマスは右手をホーパスから放すと、なぜかうかない顔をしている。



「どうしたの?明日塔に行けるんだよ。嬉しくないの?」
ホーパスがアルマスの顔を見ていると、アルマスはちらっとホーパスを見た。
そしてうつむき加減でこう答えた。
「あの塔、今までは行きたいって思ってたけど・・・・・今日の話を聞いて、なんだか気が進まないんだ」
「え・・・・どうして?」
ホーパスが首を傾げているとアルマスは再びホーパスを見た。
「あの塔に入った人の願いを叶えてくれるって聞いてたけど、あの山賊の話を聞いて、自分が思っていたよりも
 なんだか違うような気がするんだ」
「違うって、何が?」
「上手くは言えないけど、なんだか違うような気がするんだ。それに今日聞いた話だと塔に入った人達が戻ってこないのは
 どうしてなんだろう?」
「それは・・・・・塔の居心地がよくて外に出ようとは思わなくなるんじゃないの?」
「そうなのかな・・・・・・・」
2人の間は沈黙に包まれた。



しばらくして、先に口を開いたのはホーパスだった。
「明日塔に行くんだから、明日行けば分かるんじゃないかな」
「・・・・・そうだね」とアルマス
「そうだよ」ホーパスの口から大きなあくびが漏れた「そろそろ寝よう」
「うん」
アルマスはベッドに両脚を向けると、ホーパスもベッドの足元に移動するのだった。



それからしばらくして
アルマスが気がつくと、とても暗い場所にいた。
辺りは真っ暗で何も見えない。



ここは・・・・・・・?
真っ暗で何も見えない。



アルマスがどうすればいいのか迷っていると、どこかから声が聞こえてきた。



「アルマス・・・・」



聞き覚えのある声に、アルマスははっとして辺りを見回しながら聞いた。
「君は・・・・!昼間山賊のところにも・・・・・・・」
「どうして自分の力を使わないの?せっかく持っている力なのに」
「どこにいるの?一体君は誰なの?」
アルマスは姿を見せない声の主を探すが、どこを見渡しても姿は見えない。
「私はいつもあなたの側にいるわ、アルマス」
「側にいるって・・・・・・そう言って姿を見せないじゃないか」
「私の姿が見たいの?」
「うん」
アルマスがうなづきながら答えると、声がしなくなった。



アルマスは辺りを見回しながら聞いた。
「どうしたの?姿を見せたくないの?」
しばらく沈黙が続いた後、再び声が聞こえてきた。
「・・・・・その前に聞きたいことがあるの。どうして炎の力を使わないの?」
アルマスはしばらく考えてから、こう答えた。
「・・・・僕は、炎を人に向けたくないんだ。炎で人を殺すなんてできない」



するとしばらくして、こう返事が返ってきた。
「アルマスは優しいのね」
「・・・・・・・」
「でも、その優しさがアルマスにとって致命傷になることがあるわ。アルマスを殺そうと敵が襲ってきたらどうするの?」
「それは・・・・・・戦うしかないけど。正直言って、人を殺したくないんだ」
「でも、それだと自分を守ることはできないわ。自分を守るためには、相手を殺さなきゃいけないこともある」
「それはそうだけど・・・・・・・」
「人を殺すのが怖いのね。でも自分の身は自分で守らなきゃいけない時が来るわ。いつまでも誰かの助けを待っているわけにはいかない」
「・・・・・・・」



アルマスが何も言えず黙っていると、突然目の前で赤い炎のような光が一瞬見えた。



赤い光・・・・・・?



「さっき赤い光が見えたけど・・・・・・君なの?」
光が見えた場所に向かってアルマスが聞くと、ふふふと笑う声が聞こえてきた。
「さあ、どうかしら」
「意地悪しないで、姿を見せてよ」
「そのうち・・・・・近いうちに姿が見れると思うわ」
「そのうちって、いつなの?」
「あなたが次に炎の力を使う時・・・・・・・新たな力が出てくる時に姿を見せるわ。その新たな力と一緒にね」
「え・・・・・・?」
それを聞いたアルマスは戸惑った。



「新たな力って何?」
アルマスが聞くと、もう声の主はいなくなったのか沈黙だけが漂っていた。



そこでアルマスは目を覚ました。
ベッドから起き上がり辺りを見回すが、誰の姿も見当たらなかった。
ベッドの足元にはホーパスが体を丸くして眠っている。



あれは夢・・・・・・?



アルマスはぼんやりしながら考えていたが、しばらくすると再びベッドに入るのだった。



次の日。
アルマスとホーパスが外に出ると、空は薄暗い雲に覆われていた。
「空が暗い・・・・雨が降りそうだね」
ホーパスが空を見上げ、アルマスもつられて空を見ていると、後ろから階段を上がってくる音が聞こえてきた。
シーグフリードが階段を上がると、そのままどこかへと歩いて行く。



続いてヘルマンが外に出てきた。
「シーグフリード・・・・・・馬のところに行ったか」
その声に気がついたアルマスがヘルマンを見ると、ヘルマンはアルマスを見た。
「これから山賊のアジトに行くのか?」
「あ、はい。その後一緒に塔に行くって言ってました」とアルマス
「あれ?フーゴさんは?」
ホーパスがフーゴがいないことに気がつくと、ヘルマンはすまなそうに
「また敵の動向に変化があって、フーゴはしばらく敵の様子を見ることになった」
「えっ・・・・・じゃ行くのは僕達だけ?」
「申し訳ないがシーグフリードにはさっき話をした。フーゴは敵の動向が落ち着いてから後から行くと言っている」
「そうなんだ」



しばらくするとシーグフリードを乗せた馬が3人のところにやって来た。
シーグフリードがいったん馬を降り、前にアルマスを乗せると、再び馬に乗った。
ホーパスは馬の頭の周りをうろうろしている。



シーグフリードが馬の手綱を取ると、ヘルマンが声をかけた。
「気をつけて。フーゴは後から塔に直接行くと言っている」
「分かった」
シーグフリードは前を向いたまま答えると、手綱を引き出発するのだった。



シーグフリード達は山賊のアジトに着くと、山賊の長と数十人の男達と一緒に徒歩で塔へ歩き出した。
数十人の男達が先頭を歩き、その後を山賊の長とシーグフリード達がついて行く。
しばらく歩いて行くと、エリオットが襲われた丘に出た。
「塔はこの丘の上にあると聞いたが・・・・・」
シーグフリードが側にいる山賊の長に話しかけると、山賊の長はうなづいた。
「この丘の上というか、頂上ではないが、しばらく登って行けば塔が見える」
山賊の長が歩き出すと、シーグフリードも後を追うように歩き始めた。



シーグフリードの後をアルマスとホーパスが歩いていた。
「もうそろそろ塔に着くね」とホーパス
「うん」
アルマスは前を歩いているシーグフリードの姿を見ている。
「どんな塔なんだろう。楽しみだね」
「・・・・・・」
「もしかしてアルマス、緊張してるの?」
ホーパスがアルマスの固い表情を見て聞くと、アルマスは首を振りながら
「緊張はしてないけど・・・・・どうなるのかなって」
「え、どうなるって・・・・・どういうこと?」
「気のせいだと思うけど、なんだか嫌な感じというか・・・・・嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感?」
「どうしてかは分からないけど・・・・・」
アルマスが途中まで言いかけた時、前の方から男の大声が聞こえてきた。



前を歩いている山賊の長のところに、先を歩いていた数人の男達が走って戻ってきた。
「どうしたんだ?」
「塔から・・・・塔から女子供がこちらに向かってきてます」
「何だって?塔から戻ってきてるのか?それは良かった」
それを聞いた山賊の長は顔をほころばせた「なら、ここで来るのを待つことに・・・・・」
「いや、それが・・・・・違うんです」
男達は首を振りながら、明らかに戸惑っている様子を見せた。
山賊の長はそんな男達の様子に眉をひそめながら
「違う?何が違うんだ?別の村の女子供が来てるのか?」
「いえ、そうじゃなくて・・・・・・」
「とにかくいったん逃げましょう。ここから離れた方がいい」
別の男が逃げるように山賊の長に言うが、山賊の長は男達が何を言っているのか理解ができず
「一体何が起こってる?お前達の言っていることが全く分からない」
「と、とにかく逃げましょう、我々は先に戻ります!」
男達はそう言うと、素早くその場から離れて行ってしまった。
「あ、待て!お前達!」
山賊の長が男達を呼び止めようとするが、男達の足は止まらなかった。



「一体、何が起こってるんだ?」
逃げて行く男達をシーグフリードが見ていると、後ろから男の叫び声が聞こえてきた。
シーグフリードが後ろを振り返ると、ホーパスが何かを見て声を上げた。
「塔から大勢の人達が出てきてる!」
「さっきの声は何だ・・・・・・?叫び声のような声が聞こえたが」
「あれは・・・・・!」
シーグフリードが聞こえてきた声の主を探っていると、山賊の長が何かを見た途端、大きく目を見開いた。



数メートル先に見えている塔から、多くの人々が出てきて、シーグフリード達がいる方へ歩いている。
そのほとんどは女性と子供で、みんな手にこん棒やナイフ、剣を持っている。
山賊の男達の1人が近づいてきた途端、その子供や女性達がその男に襲い掛かってきたのだ。
襲われた男がその場に倒れると、それを見た他の男達は女子供の集団から離れるように逃げ出した。



「一体、どういうことだ?何が起こってるんだ・・・・うちのアジトの女子供が同じアジトの我々を襲うなんて」
山賊の長が戸惑っていると、シーグフリードも状況がつかめないのか
「塔から来てるのは同じアジトの者なんだな?」と山賊の長に念を押した。
「ああ、間違いない。数日前に塔に連れて行った者達だ。それがなぜ仲間同士で争っているんだ?」
「・・・・・・」
「どうするの?だんだんこっちに来てるよ」
ホーパスが近づいてくる女子供の集団を見ている。
「逃げるか・・・・・逃げると言ってもアジトまで追って来るかもしれない」と山賊の長
「でも、このままにしておく訳にもいかない」
シーグフリードが剣を取り出すと、山賊の長はそれを見てさらに戸惑いながら
「ま、まさか・・・・・あの子供達に手を出すつもりなのか?」
「殺すつもりはないが、自分の身を守るのが優先だ・・・・それにどうなっているのか状況を知りたい」
シーグフリードが集団に向かって歩き出そうとすると、後ろからアルマスの声がした。
「シーグフリードさん・・・・・」



シーグフリードは後ろを振り返り、アルマスを見た。
「・・・・大丈夫だ、殺すつもりはない。気を失わせる程度にするつもりだ」
「で、でも・・・・・・」
「アルマスとホーパスは山賊の長を連れて逃げろ。あの集団がここに来る前に」
「え、でもそれだとシーグフリードさん1人で戦うことになるんじゃないの?」
それを聞いたホーパスが心配そうにシーグフリードを見ると、シーグフリードは平然と答えた。
「今集団から離れている山賊達をなんとかしてまとめる。状況が分かればなんとかなるだろう」
「それなら私も一緒に行く」
山賊の長が声を上げると、3人はいっせいに山賊の長を見た。



「私を見れば誰だか分かるはずだ。アジトの長なのだから」
山賊の長がシーグフリードを見ると、シーグフリードはうなづいた。
「分かった・・・・・アルマスとホーパスはなるべく遠くに逃げるんだ。あの集団をなんとかしたら戻ってくる」



シーグフリードと山賊の長が集団に向かって歩き出して行くのを、アルマスとホーパスはその場で見送るしかなかった。