sadness2

 



陽がすっかり落ちて暗くなった頃、2階の廊下ではレンが辺りを見回していた。
「レン、お前そこで何をしてるんだ?」
ドアの開く音が聞こえ、ヒロトが部屋から廊下に出ると、レンを見た途端聞いた。
レンはヒロトの姿を見るなり
「ヒロト、ケンジを見かけなかったか?」
「ケンジ?部屋にいるんじゃないのか?」
ヒロトが聞き返すと、レンは首を横に振りながら
「さっき部屋に入ったけど、いなかった」
「なら、どこかで一服でもしてるんじゃないか?ホテルの外とか」
するとそこに楽しそうに話をしながら、シンゴとミカが歩いてきた。
レンは2人の姿を見るなり
「シンゴ、ケンジを見なかったか?」
「ケンジ?いや、見てないよ」シンゴがあっさりと答えた。「ていうか、お前一緒にいたんじゃないの?」
「夕方まではいたけど、部屋に戻って休むって言ってたから」
「確かに部屋にはいないな」
ヒロトがケンジが使っている部屋から出てくると、レンはミカに聞いた。
「ミカさん、どこかでケンジを見かけなかった?」
「分からないわ」ミカも首を横に振った「今日はずっと海岸でシンゴと一緒だったから」
「外にいないなら、このホテルのどこかにいるかもしれないな。ホテルの中を探そう」
ヒロトがそう言うと、4人はケンジを探し始めた。



ヒロトがホテルの入口を歩いていると、外からユウスケが入ってきた。
「あ、ユウスケ。ケンジを見なかったか?」
ヒロトがユウスケの姿を見るなり聞くと、ユウスケは首を振った。
「いや・・・・今日は朝しか見てない。どうかしたのか?」
「ケンジがいなくなったらしいんだ。今みんなで探してる」
「え・・・・・」
「2階にはいないわ」そこにナツキが来て話に割り込んできた「奥の部屋にも行ってみたけど、鍵がかかってて入れない」
「奥の部屋?」とヒロト
「一番奥にある広そうなところよ。中は何なのか分からないけど」
「一番奥・・・・・スイートルームみたいなところか?」とユウスケ
「ケンジがそんなところに行くとは思えない。あとは1階だな・・・・・探すか」
ヒロトがその場を離れると、後の2人も別の方向へと散っていった。



「ケンジ、いるのか?」
レンが銀色の扉を開けて、外に出ると辺りを見回した。
辺りは木々や植物が一面に広がっており、ケンジの姿は見当たらない。
ケンジが倒れていた場所にはケンジの遺体はなく、血の跡もすっかりなくなっている。
レンはケンジの姿がないと分かると、諦めて再びホテルの中へと入って行った。



結局誰もケンジを見つける事ができなかった。
すっかり夜になり辺りが暗くなると、レン達はケンジを探すのを諦めるしかなかった。



数時間後。
2階のある一室では、アンナがベッドに座りスマホの画面を見ていた。
画面の右上を見ると、電波がまだ復旧していないのか「圏外」と表示されている。



電気はついているのに、電波がまだ通っていないのね。どうなっているのかしら。



アンナはケーブルをスマホにセットして、充電しようとすると、部屋のドアが開いた。
ドアの開く音を聞いたアンナがドアの方を向くと、ナツキが入ってきた。



「ナツキさん、どうしたの?」
「やっぱりいないわ」アンナを見た途端、ナツキは諦めたようにため息をついた。
「どうかしたの?誰がいないの?」
「ミカの事よ」ナツキは部屋の周りを見渡しながら言った「やっぱりあの2人、まだ一緒にいるんだわ」
「あの2人って、ミカさんとシンゴの事?」
「そうよ。あれほどシンゴには気をつけるように言ったのに」
「それは仕方がないわ。ミカさんがシンゴと一緒にいたいのなら、私達があれこれ言うべきじゃないもの」
「それはそうだけど・・・・・隣、座ってもいいかしら?」
「どうぞ」
アンナがうなづくと、ナツキはアンナの左隣に座った。



アンナがスマホ画面を見ていると、ナツキがそれを見ながら聞いた。
「もうスマホが使えるようになったの?」
「電波がまだみたい。電話もネットも使えないの」
アンナはスマホをひざの上に乗せると、ナツキを見ながら聞き返した。
「ナツキさんは携帯は持ってないの?」
「普段は持ってるんだけど、家から慌てて出て来て置いて来ちゃったの・・・こんな時に忘れてくるなんて」
「そうだったの」
「1階の入口あたりに公衆電話とかあったかしら?」
「さあ・・・・分からないわ。でも電波がまだだから、電話できないかも」



一方、ホテルの2階の一番奥の部屋。
アンナ達がいる部屋とは違って大きなソファや大型テレビが並べられている。
その奥の部屋、ベッドルームにシンゴとミカの姿があった。
「奥にこんなに広い部屋があったなんて」ミカはベッドに座ったまま辺りを見回していた。
その隣にいるシンゴはベッドに横たわりながら
「ああ、スイートルームかなとは思ってたけど、やっぱりだった」と天井を見ている。
「でもシンゴ、勝手に中に入っちゃっていいの?」
「ホテルの人がいないから、別にいいんじゃないの?」
シンゴは起き上がって、ミカの顔を見た「フロントに行ったら鍵が1本だけあって、持ってきただけだから。それに・・」
「それに?」
「ミカちゃんがスイートルームに入りたいって言ったから、鍵を持ってきただけで」
「それ、私のせいって言いたいの?」
「いや・・・・・オレも一度入ってみたかったの。今こうしてミカちゃんと一緒にいられて、とても幸せだよ」
「シンゴ・・・・・」
シンゴがゆっくりとミカに近づくと、2人はゆっくりと唇を合わせた。



2人は抱き合いながら何度か唇を合わせていると、シンゴの右手がミカの胸に触れてきた。
優しく撫でるようにさすり始めると、ミカは思わず唇を離した。
「待って・・・・・部屋に鍵はかけてあるの?」
「もちろん・・・・」シンゴはミカの服を脱がせようと、白いブラウスのボタンに手をかけた。
そしてボタンをひとつひとつ外しながら
「鍵は入ってきた時にかけてあるよ。邪魔が入らないようにね・・・・・」



シンゴがボタンを全て外し、ブラウスを脱がそうとすると、ミカがシンゴの手を取った。
シンゴが少し戸惑った様子でミカを見ると、ミカは自らブラウスを脱いだ。
そして下着も脱いで、上半身裸になると、その姿を見たシンゴも着ている服を脱ぎ始めた。



お互い裸になると、2人はベッドに倒れ込んだ。
再び唇を重ね、しばらくしてシンゴが唇を離すと、ミカの首筋を這うように愛撫し始めた。
ミカからは熱い喘ぎ声が漏れ始めた。



2人が体を重ねているベッドの真下、1階にある暗い部屋があった。
灯りもつけず、1台のモニタ画面の灯りだけがついている。
モニタには、スイートルームのベッドでの2人の行為が映し出されている。
それをある人物が見つめていた。



全身黒ずくめで、鼻の下まで隠れるほど深いフードで隠した人物は、黙ってモニタを見つめていた。
右手には四角いあるものを持っている。
四角い形に、赤くて大きな丸いボタンがあるだけのものだった。



しばらくモニタを見つめていたが、人物の左手がゆっくりと動き出した。
まるでその時を見計らうように、モニタを見ながら、人物の左手の指がゆっくりと、そして強く赤いボタンを押した。
下を向いてボタンが押されたのを確認すると、その人物は再びモニタに目を向けるのだった。



スイートルームの2人がいるベッドの下から、ゆっくりと何かが動き始めた。
それは細長く、円錐形で先が鋭く尖っている金属片のような、細いドリルのようなものだった。
音もせず、ゆっくりとベッドの真下を移動している。



しばらくしてそれは何か狙いを定めたようにゆっくりと止まった。
そして鋭く尖った先端が回り始めると、ベッドの上に向かってゆっくりと動き始めた。



ベッドの上ではシンゴがミカの上に乗り、激しく腰を動かしているところだった。
ミカが熱い声を上げ、シンゴも快感に酔いしれながら腰を動かしていると、突然シンゴの動きが止まった。
「・・・・どうしたの?」
シンゴの様子にミカがシンゴの顔を見上げると、シンゴは顔をうつむきながら黙っている。
「シンゴ、どうしたの?」
ミカがシンゴの様子に戸惑いながら聞き直すと、シンゴが苦しそうな声を上げ始めた。
「う・・・・・・ううっ・・・・・・・」
「ねえ、一体どうしたの?」
ミカがさらに聞き返すと、シンゴはとっさに右手を口元に持っていった。
それを同時にシンゴは大量の血を吐いた。



それを見たミカは悲鳴を上げた。
口元が血で染まったシンゴの顔を見た途端、突然シンゴの左肩から先端の尖った金属片が飛び出してきた。
ミカはさらに悲鳴を上げながら、急いでシンゴの体から離れ、ベッドから逃げ出した。
シンゴの体はベッドの上に倒れると、そのまま動くことはなかった。



ミカは服を着けず、そのまま部屋から逃げようと悲鳴を上げながらベッドルームのドアへと急いだ。
そしてドアノブに右手をかけようとした時、部屋の所々から複数の矢がミカに向かって飛んで来た。
「・・・・・・・・」
飛んで来た矢が全て、ミカの体を貫通すると、ミカは声を上げることなく、その場に倒れた。



1階の部屋のモニタで事の一部始終を見ていた人物は、無言のままゆっくりとその場を後にした。



次の日の朝。
レンが1階のホールで食事の準備をしていると、ヒロトが入ってきた。
「おはようヒロト・・・・・どうしたんだそんな顔して」
いつもと様子が違うヒロトにレンが聞くと、ヒロトは不安そうな様子で聞いた。
「おい、シンゴを見なかったか?今後はシンゴがいないんだ」
「シンゴ?外にいるんじゃないのか?海岸に行ってるとか」
「それならいいんだが・・・・・・ケンジもまだ見つからないし」
すると今度はナツキとアンナが入って来た。
「ここにもいないわ。一体どうしたのかしら」
ナツキが辺りを見回していると、ヒロトはアンナの方を向いて
「いないって、誰を探してるんだ?」
「ミカさんよ。昨日からずっといないの」とアンナ
「シンゴもいないんだ。海岸に行ってるのならいいけど・・・・・」
「さっき海岸に行ったけど、2人ともいなかったわ」
「何だって・・・・・じゃ一体どこにいるんだ」
すると話を聞いていたレンが割り込んで来た。
「2人ともいない・・・・・昨日、確か2人ずっと一緒にいたのを見たけど、どこか行きそうなところはないのか?」



少し間が空き、ナツキが思い出したように言った。
「・・・・そういえば昨日、スイートルームがあるみたいな事を言ってたような気がするわ」
「スイートルーム?」
レンが聞き返すと、そこにユウスケが入ってきた。
「あ、ユウスケ。お前シンゴとミカを知らないか?」とヒロト
「いいや、見てない。今度は2人がいなくなったのか?」
「スイートルームにいるような気がするわ」ユウスケが言い終わるのと同時に、ナツキがユウスケの方を向いた。
「ねえ、あの2人スイートルームにいるような気がしない?昨日少し話をしてたじゃない」
「確かにスイートルームの話はしてたけど、その時はあの2人はいなかったじゃないか」とヒロト
「でももしかしたら近くで聞いてたかもしれないわ。それで・・・・」
「スイートルームが気になるなら、今から行ってみればいいんじゃないか?」
ユウスケがそう提案すると、ヒロトはうなづいた。
「分かった。今からみんなで行ってみよう」



5人は2階のスイートルームの前まで来た。
ヒロトが部屋のドアを開けようとドアノブに手をかけるが、鍵がかかっていて開かない。
「ダメだ。鍵がかかってる」
「ミカ、いるなら返事して!」
ドアを叩きながらミカを呼ぶナツキ。
「ミカ、シンゴ!いるならこのドアを開けてくれ!」
しかし誰もいないのか、ドアが開く気配はない。



しばらく待っていると、レンがドア前にいるナツキとヒロトに声をかけた。
「もしかしたら、まだ寝てるんじゃないかな?起きたら食事しに降りてくると思うよ」
ヒロトが後ろにいるレンの方を振り返ると、レンの隣にいるユウスケも
「レンの言う通りだ。お腹が空いたら、1階に来ると思う」
「とにかくいったん食事にしよう。せっかく作った食事が冷めないうちに」
レンがその場を歩き出すと、ヒロトは半ば仕方なさそうにゆっくりとその場を後にした。



それからお昼近くになっても、シンゴとミカは現れなかった。
1階のホールでは、椅子に座りテーブルに両肘をつき、頭を抱えているヒロトの姿があった。
「あの2人、結局姿を見せなかったわね」
ヒロトの向かいに座っているナツキが話し出した。「一体、どうしたのかしら」
「分からないわ。部屋に荷物が残ったままだし。そのままここを出て行くなんて・・・・」
ナツキの隣でアンナがグラスに入っている水を飲んでいると、ヒロトが2人を見ながら
「きっと殺されたんだ。シンゴやミカだけじゃない。他の奴等も次々と殺されたんだ」
「殺されただなんて、物騒な事言わないでよ」ナツキがすかさず反応した「それに殺されたのなら、どこかに死体があるはずでしょう?」
「きっと見つからないようにどこかに隠してるんだ」
「どこかってどこよ?それにまだ殺されただなんて決まった訳じゃないでしょう?もしかしたらどこかでボートを見つけて、助けを
 呼んでるかもしれないわ」
「それにしては来るのが遅くないか?ここに来る時、どのくらいかかったんだ?1時間もかかってない」
「それは・・・・・警察を呼ぶのに時間がかかってるんじゃないかしら?」
「そうだとしても遅すぎる。それに警察が来るんだったら、とっくの昔に来ててもおかしくないはずだ」
「・・・・・」
ナツキが何も言えずに黙ってしまうと、ヒロトは再び頭を抱えた。
「次はオレの番だ・・・・・きっと次はオレが殺される・・・・・」



するとホールにレンとユウスケが入ってきた。
「何だ。みんなここにいたのか」
入ってくるなり、ユウスケがテーブルにいる3人の姿を見てこう言った。
それを聞いたアンナはユウスケの姿を見て
「私達の事を探してたの?」
「いや、そういう訳じゃないけど・・・・レンが海に行こうって言うから、みんなで行こうと思って」
「ここで暗くなっててもしょうがないから、気分転換に海に行かないか?」とレン
「そうね」ナツキがうなづいて椅子から立ち上がった。「気分転換にはいいかもしれないわ、出かける準備してくる」
ナツキがホールを出て行こうとその場から歩き出すと、アンナもナツキの後を追って席を立った。
「ヒロトはどうする?一緒に行かないか?」
頭を抱えたままのヒロトにレンが声をかけると、ヒロトはしばらくして静かに席を立った。
そしてレンの顔を見ると、静かにこう言った。
「・・・・・ああ、一緒に行くよ」



5人が海岸に着くと、薄いグレーの厚い雲が空を覆いつくしていた。
ヒロトが空を見上げていると、隣にいるアンナがポツリと言った。
「なんだか雨が降りそうね・・・・・」
「ああ、嫌な感じだ。せっかく気分転換しに来たっていうのに」とヒロト
「でも、せっかく来たんだから楽しみましょうよ」アンナの隣で水着姿のナツキが2人を見た「私は少し泳いでくるわね」
ナツキが海へ行ってしまうと、アンナは辺りを見回しながらヒロトに聞いた。
「そういえば、あとの2人はどこにいるの?」
「ああ、あの2人は・・・・魚釣りに岩場に行ってる」



一方、岩場ではレンとユウスケが食料を確保するため、岩場で釣りをしていた。
レンが大きな魚を釣り上げると、魚を側にあるバケツに入れた。
バケツには既に数匹の魚が入っている。



今日は天気が悪いのに、調子がいいな。魚が次から次へと釣れてる。



レンが針にエサを付け、海に投げようとしていた時、どこかからザバーンという大きな音が聞こえてきた。
レンが音のした方を向くと、そこはいるはずのユウスケの姿がない。
「ユウスケ!」
レンが大声で叫ぶと、釣り竿を置いて音がした場所へと走り出した。



ユウスケが釣りをしていた場所に着くと、海の方から声が聞こえてきた。
「た・・・・・助けてくれ!」
レンが海を見ると、そこには必死でもがいているユウスケの姿があった。
「ユウスケ!」レンはユウスケに呼びかけた「ここからじゃ岩だらけで引き揚げられない、向こうの砂浜まで泳ぐんだ!」
ユウスケは必死にもがきながら
「た・・・・ダメだ・・・・・助けてくれ・・・・・・」
「ダメだ、ここからだと辺りが岩だらけだ。砂浜まで行けないのか?」
レンが大声でユウスケに呼びかけるが、ユウスケの様子は変わらなかった。
レンはしばらくして気がついた。
「ユウスケ・・・・・・もしかしたら泳げないのか?」



レンは海の中でもがいているユウスケを見ながら、どうするか考えていた。



どうすればいいんだ、砂浜に行ってヒロト達を呼んでくるにしても時間がかかる。
ユウスケが自分で砂浜まで泳いでくれればいいけど、それもできない。
一体、どうしたら・・・・・・。



レンがどうすることもできず、動けずにいると、海面からユウスケの姿が見えなくなった。
「ユウスケ!上がってこい、ユウスケ!」
レンが海に向かって大声で叫ぶが、ユウスケが再び上がって来ることはなかった。



「ユウスケ・・・・・・」
レンはその場で力が抜けたように座り込んでしまった。
すると空から雨が降り出し、レンがいる岩場を濡らし始めた。
レンはしばらくすると立ち上がり、その場を後にせざるを得なかった。



数時間後。
夜になっても雨は降り続いていた。
ホテルに戻った4人は、1階のホールで食事をしている。
4人の間には会話はなく、外の雨の音だけが聞こえていた。



しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのはヒロトだった。
「ダメだ・・・・・オレ達はもうダメだ。このままだと全員殺される」
しばらく沈黙が続いたが、向かいに座っているナツキがそれを破った。
「そんな事ないわ。明日にはきっと助けが来るわよ」
「明日には助けに来るだと?」ヒロトはナツキに聞き返した「こんな天気なのに、明日助けに来れるのか?それに電波がまだダメだ」
「それはそうだけど、暗くなっててもしょうがないでしょう?どうしてそんなに悲観的なの?」
「人がだんだんいなくなってる。最初は9人だったのが今はどうだ?4人しかいないんだぞ」
「ユウスケは殺されたんじゃないわ。溺れたのよ。それにもしかしたらどこかで生きているかもしれないし」
「生きていたら今頃はここにいるだろう?いないじゃないか」
「止めよう、2人とも」ここでレンが割り込んだ「ここでこんな話をしてもしょうがないじゃないか、それに・・・・・」
レンの言葉にヒロトとナツキがいっせいにレンを見ると、レンはうつむきながらこう言った。
「それに、ユウスケの事はオレにも責任がある・・・・・泳げなかったユウスケを助ける事ができなかったから」



4人の間を再び沈黙が支配すると、今度はアンナがそれを破った。
「・・・・ユウスケの事は仕方がないわ。誰もユウスケが泳げなかったなんて知らなかったから」
そしてアンナはレンを見ると
「レンもあまり自分を責めないで。起こった事はもうどうすることもできないわ」
レンが黙ったままうなづくと、ヒロトは再び口を開いた。
「ユウスケの事は別にしても、もうダメだ・・・・・このまま全員殺されるんだ」
「だから、どうしてそう思うの?どうしてそんなに悲観的なの?」
ナツキが再びヒロトを責めると、レンは顔を上げた。
「オレもここに来た時から思ってた。ヒロト・・・・・どうしてそんな事を言うんだ?何を恐れてるんだ?」



ヒロトは3人の顔を見ながら
「オレ達がここに来た時、真っ暗な映像と、音声が流れただろう?「オレ達は全員悪いことをしている。だから1人ずつ罰する」って。
 だから次々と殺されてるんだ。そのうちオレ達も殺される・・・・・」
「だから恐れてるのか」それを聞いたレンは続けてこう提案した。
「なら、今ここで話したらいいんじゃないか?過去どんな悪い事をしたのかを」



レンの提案に真っ先に反応したのは、ナツキだった。
「冗談じゃないわ。私は悪いことなんかやってないわよ。心当たりもないし」
「いや、心当たりはあるぞ」ヒロトはナツキに向かって言った「ここに来た時、ミカと一緒にアヤと言い合いになってたじゃないか」
「それが心当たりだって言うの?ちょっと言い争いになっただけじゃないの」
ナツキがとんでもないと言うように反論した。「それにアヤだって悪い事をしてたから、すぐに殺されたんじゃないの」
「ああ・・・・・何をしたのかは分からないけどな」
「それじゃ、レンは一体、どんな悪いことをしたの?言い出しっぺから話しなさいよ」
ナツキが今度はレンに話を振ると、レンは思わず黙ってしまった。



再び沈黙が辺りを支配すると、ヒロトはあきらめたように席を立った。
「もういい・・・・・この話は止めよう。部屋に戻る」



数時間後。
夜はさらに更けていき、外の雨はさらにひどくなり、雷までも落ちて来た。
外が嵐になっているのを見ることもなく、台所ではレンが明日の準備をしていた。
台所の大きな冷蔵庫を開けると、大きな皿には釣って来た魚がたくさん入っている。
レンはその魚を見ながら、明日のメニューを考えている。



すると誰かが入ってきたのか、レンの後ろにあるまな板の上にある包丁を手に取った。
右手に包丁を持ったまま、冷蔵庫の中を見ているレンにゆっくりと近づいていく。



しばらくしてレンが何かに気づいたのか、後ろを振り返った。
「誰・・・・・・!?」
レンが後ろにいる人物を見た途端、包丁を持った人物はレンの左腹部に包丁を刺した。



腹部に痛みが走り、レンはその場にゆっくりと座るように倒れ込んだ。
レンは刺した人物を見つめながら、驚いた表情で大きく目を見開いた。
「お・・・・・お前は・・・・・・どうして・・・・・・・?」
するとその人物はレンの腹部から包丁を抜いたかと思うと、今度はその刃をレンの胸へと深く突き立てた。
「うっ・・・・・・」
レンは小さく苦しそうな声を上げると、仰向けに倒れ、動かなくなった。



レンの体からじわじわと赤い血が流れてくると、その人物はレンの胸に刺さっている包丁を抜いた。
右手に血のついた包丁を持つと、ゆっくりとその場を後にするのだった。





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