sadness3

 



外では相変わらず大雨と雷の音が鳴り響き、嵐が続いていた。
2階のある部屋では水が流れている音が聞こえている。
浴室の白いカーテンの奥で、ナツキがシャワーを浴びていた。



しばらくすると、部屋のドアがゆっくりと開かれた。
ナツキの部屋に誰かが入ってきたようだ。
その人物は誰かを探しているように部屋をゆっくりと見渡している。
奥の浴室からシャワーの音が聞こえているのに気がつくと、ゆっくりと浴室へと歩き始めた。
右手には先が血で真っ赤に染まった包丁が握られている。



浴室ではナツキがシャワーを浴び続けていた。
しばらくして何かに気がついたのか、ナツキは白いカーテンの方を向いた。
「誰?誰かいるの?」
ナツキが声をかけるが、何の応答もない。



ナツキは不審に思い、カーテンを開けようと右手をカーテンにやった時だった。
「うっ・・・・・・・!」
突然カーテン越しに包丁が出て来て、ナツキの体を刺したのだ。
白いカーテンは一瞬で返り血で真っ赤に染まった。



一方、ヒロトは1階の廊下をさまよっていた。
嵐で強い風が吹き、窓ガラスをガタガタと揺らしている。



今夜はひどい嵐だ。雨も風も止みそうにないな。



そんな窓からヒロトは外の嵐の様子を見ていると、急に灯りが消えた。



停電か・・・・?



辺りが真っ暗になり、ヒロトはズボンからスマホを出すと、スマホから光が漏れだした。



そういえば、この奥に管理室があるってユウスケが言ってたな。
管理室に行けば電気がつくかもしれない。



ヒロトは管理室に行こうと歩き始めた。



管理室の前まで来ると、ヒロトは入口のドアを開けた。
右手に持っているスマホの灯りを部屋の中に向けながら、ゆっくりと中へと入って行った。



しばらく歩いているとボタンがたくさん並んでいる場所に辿りついた。



どれが灯りがつくボタンなんだ?多すぎてさっぱり分からない。



ヒロトはスマホの灯りをボタンに向けながら、どれが部屋の灯りがつくボタンなのか探している。
ボタンをひとつずつ見ながら、だんだん左へと移動していくと、1台の四角いテレビモニタのようなものがあった。



「何だこれは・・・・・・」



ヒロトが灯りを照らしながらモニタを見ていると、突然モニタの画面が動き出した。
ヒロトは驚いたように体をびくっとさせながらもモニタを見ていると、画面に何かが映し出された。
最初暗くて何も見えなかったが、ある1人の人影が映し出されると、ヒロトは画面をじっと見つめている。
そしてその人影が1人の髪の長い女性だと分かると、ヒロトは何かに気がついたのかはっとしながらも画面を見ていた。



この女、どこかで見た事がある。
まさか・・・・・・・・。



すると画面が突然真っ暗になった。
そしてすぐ画面が再び映ったかと思うと、それを見たヒロトは驚いて声を上げた。
「うわっ!」



モニタにはヒロトの今の姿が映し出されていた。
ヒロトは突然映し出された自分の姿に、戸惑いながらも画面を見ていた。
ヒロトが試しに右手に持っているスマホをモニタに向けてみると、画面にはスマホが映し出されている。



これは・・・・・今のオレの姿だ。びっくりした。
でもどうしてオレの姿が・・・・・・?



ヒロトが疑問に思いながら画面を見ていると、ヒロトの後ろにさっき映った女性の姿がちらっと見えた。



さっきの女だ。
オレの後ろにいる・・・・・・まさか・・・・・・・。



ヒロトは後ろに誰かいるのか確かめようと、ゆっくりと後ろを振り返った。



「う・・・・うあああああ!!」
後ろにいる女性の姿を見た途端、ヒロトは叫び声を上げた。
大きく目を見開きながら後ろに下がろうとすると、足がもつれたのか床に倒れ込んだ。



黒髪の長髪で、白いワンピースを着ている女性は、転んだヒロトをただじっと見つめている。



ヒロトは上半身を起こすと、そのまま立ち上がれずに女性を見ながら後ろに下がり出した。
「お前はやっぱりあの時の・・・・・・・・」
ヒロトはこの女性に見覚えがあった。
13年前に自殺した女性だった。



女性が表情を変えず、冷たい目線でじっとヒロトを見ていると、ヒロトは後ろに下がりながら言った。
「お願いだ、ゆ、許してくれ・・・・・あの時は酒を飲んでて、そんな事をするつもりはなかったんだ」



それでも女性は表情を変えず、ヒロトをじっと見つめている。
そしてヒロトにゆっくりと近づいてくると、女性の右手にあるものが見えた。
それが何か分かると、ヒロトは大声を上げた。



ヒロトは後ろに下がりながら、だんだんと近づいてくる女性に懇願した。
「お、お願いだ、死にたくない・・・・・お願いだから助けてくれ!」



女性はそれでも表情を変えなかった。
後ろに下がり続けていたヒロトは壁にぶつかった。
動けなくなったヒロトは絶望の表情で女性の顔を見上げた。



女性に向かって何かを言おうと口を開いた途端、女性の右手にあるナイフがヒロトの体を刺した。
「うわあああああ!!」
ヒロトの断末魔の叫びが部屋中に響き渡った。
女性は刺さったナイフを抜くと、すかさず別の場所にナイフを刺した。
ヒロトが動けなくなるまで、女性はヒロトを刺し続けた。



しばらくすると部屋には女性の姿はなく、顔や体の至るところをめった刺しにされ、血まみれになって倒れている
ヒロトの死体だけが床に転がっていた。



一方、2階のある部屋からスマホの灯りを照らしながらアンナが廊下に出てきた。



誰もいないわ。みんな部屋にいるのかしら。



アンナが灯りを照らしながら辺りを見回すが、辺りには誰もいない。
外の雨の音が聞こえているだけだった。



何かあるとすぐ、ナツキさんが部屋に入ってくるのに・・・・・・。
もう寝てしまったのかしら。



ナツキのことが気になったアンナは、部屋に行こうと歩き始めた。



「ナツキさん、入るわよ」
アンナがナツキがいる部屋のドアを開けると、中は真っ暗だった。
アンナは部屋に入り、ドアを閉めてスマホの灯りを照らしながら辺りを見回すが、ナツキの姿は見当たらない。



いないわ。もしかしたら下にいるのかしら。



アンナがそう思っていると、奥の方から水が流れている音に気がついた。



水の音・・・・・シャワーを浴びてるのかしら。
こんな真っ暗なのに?



疑問に思いながら、アンナは奥の浴室へと向かった。



「ナツキさん」
浴室の前でアンナは立ち止まると、アンナは浴室の中にいるであろうナツキに声をかけた。
しかしナツキの返事はない。
聞こえているのはシャワーから流れる水の音だけだった。



「ナツキさん?そこにいるんでしょう?」
アンナは再びナツキに声をかけるが、ナツキからの返事はない。
「ナツキさん?」
不審に思ったアンナは、スマホを灯りを浴室に向け、中に入った。



中に入った途端、アンナは浴室の異変に驚いた。
スマホの灯りを向けると、白いカーテンが血で真っ赤に染まり、その奥で誰かが倒れているのが見えた。
「ナツキさん!」
アンナは白いカーテンを右へ移動させると、そこには裸で倒れているナツキがいた。
シャワーのお湯で流れているものの、ナツキの体からは血が出ている。



アンナはナツキの死体を見た途端、叫び声を上げた。
そして後ずさりをしながら浴室を出ると、浴室に背を向けて慌てて部屋を出て行った。



部屋を出たアンナはヒロトがいる部屋まで行くと、ドアをノックした。
「ヒロトさん、開けて!ヒロトさん!」
しかしヒロトはいないのか、ドアが開かれることはなかった。



いない・・・・・もしかしたら下にいるのかもしれない。



アンナはヒロトを探そうと、廊下を後にした。



スマホの灯りを照らしながら、アンナは1階の廊下を歩いていた。
廊下の奥へと歩いていくと、少し先にある部屋のドアが開いている。



ドアが開いてる、もしかしたらヒロトさんがいるかもしれない。



アンナはスマホを前に向けたまま、足早にその部屋へと向かった。



ドアが開いている部屋に入り、アンナがスマホの灯りをあちこちに向けながら歩いている時だった。
灯りを下に向けた時、床に何かが倒れているのを見つけたのだ。



何かしら、床に何かが倒れているみたいだわ・・・・・・。



アンナは数メートル先にある壁のところに、何があるのか確かめようと近づいていった。
壁までもう少しのところで、アンナは床にスマホの灯りをあてた時、アンナは驚いて声を上げた。
床にあったのは、血まみれになって倒れているヒロトの死体だったのだ。



叫びながら逃げるように部屋を出たアンナは、危うく廊下の窓ガラスにぶつかりそうになりながらも立ち止まった。



このままここにいると殺される・・・・・・ここから出なきゃ。



アンナはガラス越しに外を見るが、外は相変わらず大雨が降っていた。



外に出ても嵐だわ。しばらく止みそうにないし、どうすればいいの。



アンナがどうすればいいか戸惑っていると、電気が復旧したのか突然廊下が明るくなった。
辺りが明るくなり、アンナが辺りを見回していると、突然何かがアンナの側を通り過ぎた。



今のは何かしら・・・・・・・!



アンナが何かが通り過ぎていった方向を見た途端、アンナはぞっとした。
すぐ側の壁には1本の矢が刺さっていた。



アンナが矢が飛んで来た方を振り返ると、さっきまでいた部屋の奥に動く人影が見えた。



次は私が殺される、今すぐ逃げなきゃ・・・・・!



アンナは廊下を走り出し、その場から逃げ出した。



しばらくするとホテルの正面入口が見えた。
アンナは入口の自動ドアの前に行くが、ドアが開かない。



どうして、電気が復旧してるのに、どうして開かないの?
お願い、開いて!



アンナは何度もドア前で床を踏んだり、飛んだりするが、ドアは開かない。



このままだと追いつかれて殺される・・・・・!なんとか別のところから逃げないと。



アンナは誰かが近づいて来る気配を感じながら、ホールの方へと走り出した。



ホールの中に入ると、奥に別の部屋があるのか、灯りが点いているのが見える。
アンナは息を荒くしながら奥へと入って行くと、そこは調理場だった。
流し台にはまな板や包丁が置いてある。



誰もいないわ。
そういえばレンはどうしたのかしら?
調理場にいつもいるって言ってたのに・・・・・・。



アンナが流し台から大きな冷蔵庫のある場所へ移動した時だった。
冷蔵庫の前で、レンが腹部から血を流して倒れているのだ。
顔は真っ青で、死んでから時間が経っているようだった。



アンナは叫び声を上げながら、冷蔵庫の側にある出口から調理場を出て行った。



調理場から廊下に出て、辺りを見回していると、数メートル先に銀色のドアがあるのが見えた。



あそこから外に出れるかもしれない。



アンナは銀色のドアがある廊下へと走り出した。



しばらくして銀色のドアを開けると、強い風と大雨が中に入ってきた。
アンナが外に出ようと右足を前に出した途端、何かを踏んだような感覚を覚えた。
アンナは下を向いた途端、再び叫び声を上げた。
床には血まみれになったケンジの死体があったのだ。



アンナはドアを閉めると、後ろに伸びている廊下を再び走り出した。



しばらくしてアンナは息が絶え絶えになりながら、2階へ通じる階段を上り切った。
アンナはすっかり疲れ切りながらも、辺りに誰かいないか見回している。



みんな殺されたなんて・・・・・生きているのはもしかしたら私だけなのかもしれない。
一体誰が・・・・・・?
誰か、誰か助けて・・・・・・・。



アンナは自分の部屋の前まで来ると、部屋に入ろうとドアノブに右手をかけた。
ドアを開けようとした時、後ろから何か音がしたかと思うと、ドアに1本の矢が刺さっていた。
アンナは声を上げながら、再びどこかへと走り出した。



アンナは奥のスイートルームの前まで来て立ち止まった。
ドアに鍵がかかっているはずだと思いながら、アンナは思いきりドアを引こうとドアノブに両手をかけた。
そして両手で思いきりドアを引くと、意外にもあっさりとドアが開いた。
後ろに誰かが来ているかもしれないと後ろを振り返り、焦りながら、アンナは部屋の中に入って行った。



部屋に入り、ドアを閉めると鍵をかけようとしたが、鍵は壊れているのかかからない。
アンナは仕方なく部屋の奥へと歩き出した。



こうしているうちに誰かがここに入ってくるかもしれない。
どこかに隠れないと・・・・・!



焦りながらアンナは辺りを見回すと、奥にもうひとつドアがあるのを見つけた。



奥にもうひとつ部屋がある。
そこなら鍵がかけられるかもしれない。



アンナは奥の部屋へと走り出した。



アンナが奥の部屋のドアを開けると、目の前にある景色を見て愕然とした。
目の前には全裸のミカの死体が、ベッドには全裸でドリルに貫通されているシンゴの死体があったのだ。
「そ、そんな・・・・・・・・」
アンナが2人の死体を見ていると、後ろから再び1本の矢が飛んで来た。
飛んで来た矢は今度はどこにも刺さらず、ベッドの先の床に落ちた。
「・・・・・・!」
アンナが後ろを振り返ると、入口のドアの内側に、1人の黒い覆面姿の人物が立っていた。



アンナは覆面姿の人物を見ながら、どうするか考えていた。
覆面姿の人物は背中に抱えている数本の矢から1本を取り、弓に矢をやると、アンナにその矢を向けた。
アンナを見ながら、いつその矢を放つか様子を伺っているようだ。



一体どうすればいいの、出口はあの人がいるドアからしか出られない。
一体、どうすれば・・・・・・。



覆面の人物を見つめながら、アンナはどうすればここから逃げられるか焦りながら考えていた。



落ち着いて、落ち着くのよ。
距離は十分にあるわ。なんとか逃げられるかもしれない。
あの背中にある矢を全部使い切れば、それ以外に凶器は持っていないかも・・・・・。



その時、アンナに向かって1本の矢が放たれた。
アンナが左に避けると、ほどなくしてベッドルームのドアにその矢が刺さった。



覆面の人物を見ると、次の矢を射ろうと、背中にある矢の1本を取ろうとしているところだった。
アンナはそれを見た途端、左側へと走り出した。



走りながら辺りを見回していると、右端に階段があるのが見えた。
階段は上へと伸びており、屋上につながっているようだ。



屋上に出れば、そこから別の出口がもしかしたらあるかもしれない。行くしかないわ!



アンナは階段を行こうと階段へと向かって行った。



それを見た覆面の人物は、ゆっくりとアンナの後を追って歩き始めた。



アンナが屋上に出ると、大雨はまだ降り続いていた。
空はまだ暗く、強い風も吹き続いている。
アンナは歩きながら他の出口がないか辺りを見回していると、どこかから階段を上っている音が聞こえてきた。



誰か来る・・・・後ろからじゃない、前から聞こえてくるわ・・・・・・。



アンナがその場を立ち止まり、様子を伺っていると、数メートル先から1人の女性の姿が見えた。
髪が長く黒髪で、白いワンピースを着た女性だった。



あの女の人、どこかで見た事があるわ・・・・・・。
アンナが近づいて来る女性の姿を見ていると、突然何か気がついたのか驚いた表情を見せた。



そんな・・・・そんなはずないわ。あの人はもう亡くなっているはずだもの。
でも、一体どうして・・・・・・・?



白いワンピース姿の女性がアンナの数メートル手前で止まると、アンナがその女性に向かって声をかけた。
「あなたは13年前に死んだはずだわ。どうしてここにいるの?」



しばらくすると白いワンピース姿の女性はうつむきながらこう言った。
「・・・・・よく覚えていたわね」
そして右手を頭にやると、長い髪の毛を下に向かって引っ張った。



雨で濡れている床に、黒い長髪のウイッグが落ちた。
アンナは目の前にいる女性の顔を見た。
「!?・・・・・・そんな、どうして・・・・・・・?」
女性が誰なのか分かると、アンナは驚きの表情を隠せなかった。





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